— 拡張ダイヤモンド鎖におけるトポロジカル量子相と自発的対称性の破れ —
量子スピン系において、フラストレーション(幾何学的競合)をもつ三角形ユニットは、通常のスピン格子では実現できない量子状態を生み出す魅力的な要素です。特に一次元系では、量子ゆらぎが強く働くため、フラストレーションと低次元性の組み合わせは、トポロジーや対称性と深く結びついた新奇量子相の温床となります。本研究では、分子性錯体を用いて、三角ユニットが一次元的に連結した「拡張ダイヤモンド鎖」(Extended diamond chain)という新しいスピンモデルの構築に成功しました。
このスピン格子は、従来よく研究されてきたダイヤモンド鎖を拡張したもので、複数の相互作用によってフラストレーションが導入されている点に特徴があります。磁化測定および理論解析の結果、基底状態はスピンギャップを持つ非磁性状態であり、その低エネルギー有効模型は非線形シグマ模型(nonlinear sigma model)へとマッピングできることを示しました。この解析から、基底状態がハルデン相に等価な対称性に保護されたトポロジカル相(SPT相)であることが明らかになりました。これは、三角ユニットを含む一次元フラストレーション系において、トポロジカル量子相が実現することを実証する結果となります。さらに高磁場領域では、1/2磁化プラトーの上に、並進対称性が自発的に破れた(SSB)新奇な量子相の発現が観測されました。この相は、フラストレーションによって誘起された有効次近接相互作用により、スピンが自発的に二量体化することで安定化していると解釈できます。一次元量子系において、磁場によって誘起される対称性の自発的破れとスピンギャップの共存は稀であり、本系はその貴重な実現例となります。
一連の研究成果は、拡張ダイヤモンド鎖という新しい格子トポロジーを舞台に、トポロジカル秩序と対称性の自発的破れが交錯する未踏の量子多体現象を切り拓くものです。