ヒトは多様な対人距離での視線コミュニケーションが可能な,独自の目の形態をもつ.視線コミュニケーションは乳児の社会発達に寄与するにもかかわらず,日常生活で乳児が経験する親子の視線コミュニケーションに,対人距離が与える影響についての知見は少ない.本研究では,家庭環境での親子の対面コミュニケーションを,乳児が生後10-15か月の間,縦断的に記録した.養育者にウェアラブルアイトラッカーを装着してもらい,日常生活で乳児の2人称視点から記録した3138個のアイコンタクト場面の乳児の視覚経験を評価した.階層ベイズモデルを用いた分析により,スムーズなアイコンタクトのやりとりをアフォードするような,一定のレベルの対人距離が存在することが示された.親子が近すぎたり遠すぎたりすると,親子のアイコンタクトのやりとりはあまり続かない傾向があった.乳児のはたらきかけで生じたアイコンタクトであっても,養育者からのはたらきかけで生じたアイコンタクトであっても,アイコンタクトが続いて生じる個数は対人距離とともに逆U字型に変化した.しかし,乳児からのアイコンタクトが生じる対人距離は養育者からのアイコンタクトが生じる対人距離よりも大きく,対人距離が乳児と養育者の社会的注視に異なる影響を与えることが示された.本研究は,対人距離が親子の視線コミュニケーションを調節することを示す.
書誌情報
Yamamoto, H., Sato, A., & Itakura, S. (2019). Eye tracking in an everyday environment reveals the interpersonal distance that affords infant–parent gaze communication. Scientific Reports, 9, 10352. DOI: 10.1038/s41598-019-46650-6. [nature.com]
【プレスリリース】
親子の視線交渉が対人距離によって調節されることを解明 -親視点から探る、乳児と親の視線のやりとり- [kyoto-u.ac.jp]
雑記
七転八倒しながら書いた,初めての英語論文です.受理されたときの喜びはひとしおだったのですが,今読み返すと修正したほうが良い英語表現・論理構成が目につき,複雑な気持ちになったりします汗.それでも,当時の私の精一杯の論文でした.stanを用いた解析・LaTeXでの執筆・GitHubでのコード公開など,ストーリー以外の箇所でもいろいろ挑戦した論文でもあります.