ひらきがな

平面と立体の行き来で判読性が変化する立体文字の制作手法



文字表現の新たな可能性を“ひらく”。立体文字はデザインや出力の手法が特殊であるために一般の人々が制作して楽しむことが難しい点や、その判読性の変化をもたらす要因が専ら鑑賞者の視点変化に限定されている点において、表現の自由度を拡げる余地がある。“ひらきがな”は、平面と立体の2つの形態を行き来する中で判読性が変化する事を大きな特徴とする立体文字およびその制作手法であると同時に、人々にとって立体文字を「つくる」ことが文字を「書く」ことと同等に身近で自由な表現手法となる可能性を拓くための探求である。


平面である文字を立体として表現するだけでなく、それを再度平面に落とし込むことで歪みを生じさせ、見慣れた対象であるはずの文字に既知と未知との間にある違和感を与えることを試みている。また、本手法は一般家庭にある機材だけでも判読性が変わる立体文字を作れること、設計過程において制作者自身も予期しない制作物の変形に出会えること、折る・切る・曲げるといった再造形によって自由に判読性を変化させられること、などといった特徴と応用可能性も有する。


背景

 文字を立体的に設計した表現や作品は数多く存在するが、デザインや出力の手法が特殊で一般の人が再現することが難しい点や、判読性を変化させる要因が視点の変化のみである点は、立体文字の表現の可能性を広げる上での課題としてあげられる。

目的

 本研究では、次の3点を特徴とする文字のデザイン手法を実現することを目指す。

  1. 制作の容易さ:一般的な環境でも設計が容易で,出力・ 造形が手軽にできる

  2. 多様な判読性の変化:判読性が視点以外の要因によっ ても変化する

  3. 制作者の予期しない形状変化:制作物の形状変化が制作者にとっても予想しがたい

着眼点

 本研究では立体物を一般的な環境で容易に制作する方法のひとつとして、展開図を作成してからそれを組み立てる手法に着眼した。

 ただし、文字をそのまま鉛直方向に押し出し立体化すると展開図から元の文字の判別が容易にできてしまう。そこで私たちは文字を立方体に斜方から投影しその交差部分を切り出すことで、敢えて立体文字とその展開図の形状を歪ませる設計手法を考案した。


制作手法

ひらきがな設計_EC2021.mp4

設計

立方体に斜方から投影した文字の展開図をソフトウェア上で作成する。

本研究では、この過程において行う一連の操作を設計アルゴリズムとして確立し提案する。

出力

設計した“ひらきがな”の展開図を家庭用プリンタやカッティングマシンを用いて紙媒体で物理的に切り出す。

造形

出力した展開図を折り立体文字を造形する 。


応用例

視点による判読性の変化を利用した表現

従来の立体文字と比べて判読性の視点依存性が高く、複数の視点に向けた文字群を近くに配置しても互いに干渉しにくい。

造形を工夫した表現

紙による造形は自由度の高い後加工が容易で、判読性や形状を直感的に細かく再設計することができる。

文字以外の表現

“ひらきがな”の制作手法はロゴマークなど文字以外の平面デザインの再構成にも応用できる。


「あ」展開図画像

ダウンロード用