2025年、作曲の会「Shining」第18回作品展「Saxophonics」のために作曲しました。
演奏会当日のプログラムノートは以下の通りです。
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題名は「ラグタイム」と「タイムラグ」ということばの掛け合わせです。
「ラグタイム」は、主に作品の素材に関連しています。
サクソフォンという楽器に対して、他の楽器と比べて様式の横断が容易なような印象を抱いており、その中でもクラシックを中心に演奏する奏者でも比較的演奏しやすいジャンルとしてラグタイムを選択しました。今回作曲するに当たって主にS.ジョプリン作品のリサーチをし、その中で《グラジオラス・ラグ》は直接的な引用も行っています(ただし、基本的な素材はジョプリン作品に様式を寄せた自作のものです)。
「タイムラグ」は、主に作品の展開に関連しています。
とはいえ、実際にタイムラグが起こるということよりも、その「ずれ」の要素に多分に着目した展開が主たるものとなっています。変形された素材はその原形と重ねるとずれが生じることから、「ずれ」ということばだけで大体のモチーフ展開が(一応は)説明できてしまう……というずるさに気づけたのが本作作曲の最大の収穫かもしれません。
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それに加え、もう少し詳細な解説や補足を以下に記します。
●作曲のきっかけ(ジャンル横断考、楽曲コンセプト、ターゲットについて、など)
クラシック音楽を主に演奏する奏者がクラシックではないジャンルの演奏をするとき、そのジャンルへの不理解や普段用いている奏法の乖離から演奏のクオリティが著しく下がってしまう、ということが起こっているように思います(しばしば当人も気付かないうちに……もちろんそれは作曲家にもそのまま置き換えられます)。
しかし、その歴史やクラシックとの距離の近さからそういったことが起こりづらいジャンルがいくつかあると考え、そのひとつがラグタイムでした。
そして、ラグタイムと似たことば「タイムラグ」と掛け合わせることで、私がこれまで取り組んできた仕掛けの作り方とマッチするのではないかと思い、それらを組み合わせたタイトル・コンセプトとしました。
また、Shiningの演奏会には「必ずしも現代音楽を聴きたいわけではないが、新作は気になる」というお客様が大抵一定数おり、そのことから「現代音楽的な手法を用いつつ、ある種の『わかりやすさ』をもたせた楽曲にしよう」と考えたことも、ラグタイムを参照することに決めた理由のひとつです。タイムラグということばを軸にいくつかの仕掛けを施す際も、わかりやすさを保ち続けるよう意識しました。
●作品について
楽曲構造は、多くのラグタイム作品に採用されているような、新たなメロディがメドレーのように次々と続くものをベースとしています。最終盤になると再現的なセクションも挟まりますが、基本的にはそれぞれのメロディが出てくるたびに何らかの「ずれ」を施し、ひたすら次のセクションへと繋げています。
ラグタイムに特徴的なリズムで半音階下行するだけのイントロ(この素材は第2主題の後半と同じものです)に始まり、上下を行き来するグリッサンドが特徴的な第1主題が提示されます。ここでの「ずれ」は、1st群と2nd群が全く同じ音楽を奏するところから2nd群のみテンポ・音高を落としていくことでおこります。
次いで提示される第2主題は2回奏されますが、2度目には1小節ごとに違うキーへと飛ばされていきます(しかし、この調がずれた状態が後々用いられます)。
イントロ同様の半音階下行がずれ、濁り、低音域で滞留すると第3主題への導入にいつのまにか変化し、第3主題へと突入します。この主題はS.ジョプリンによる《グラジオラス・ラグ》を用いています。この作品自体彼の有名な《メイプルリーフ・ラグ》に似ており、そもそも既存曲のような素材が続いていたところに有名曲に似た既存曲の引用が挟まることで、これが果たして引用なのか、はたまたパロディなのか……? と困惑してしまうような効果を期待しています。そしてさらにメロディが減衰し伴奏として単純な8分音符が残ると、これらがバラバラになっていき次のセクションへとシームレスにつながっていきます。
次のセクションは極めて点描的で、あまりにもとっつきづらい、わかりやすさとは無縁のような音響が続きます。が、ここで用いられている音列は実は2度目の第2主題で現れた旋律です。この旋律は2つの十二音音列でできており、これらをいくつかの操作によってランダムな点描に聴こえる状態へと仕立てています(なお、このセクションではP.ブーレーズ《構造I》で実践されたトータルセリーを参照しました。まさか私がブーレーズを参照する日が来るとは…… )。このセクションは何回か繰り返され、その中で少しずつ変化していきます。Sop.1とTen.1にそれぞれあてがわれた2つの十二音音列の旋律が現れつつ、Alt.1&2とBar.1&2によってじわじわとラグタイムの伴奏型が復帰すると、第2主題が再現されます。
ここからは(ときどきこれまでに出てきていない「嘘の記憶」が交ざりつつ)すでに現れている素材を中心に入り乱れ、最後の主題が登場します。何の脈略もなく現れるため楽曲としてのバランスが悪いような気もしますが、これもまたラグタイム作品にはしばしば聴かれる特徴だと思い採用しました。そのまま楽しく楽曲が終わるかと思いきや、1st群と2nd群がずれ、そのまま終わります(そのため、ここでは1st群はあたかも2nd群がいないかのような振る舞いが求められます。楽譜に書いていないことをしてでも、「ずれた」状態で楽曲が終わったような演出を望みます)。
Soprano Saxophone 1
Alto Saxophone 1
Tenor Saxophone 1
Baritone Saxophone 1
Soprano Saxophone 2
Alto Saxophone 2
Tenor Saxophone 2
Baritone Saxophone 2