招待講演


文化進化―文化心理学の現在、そして新たな展開からの考察

( 12月12日 13:20- 14:20 ディスカッション:14:30-15:00)

増田貴彦先生(アルバータ大学心理学部)

Cultural Evolution-Recent Empirical Findings
and New Directions in Cultural
Psychology.

Dr. Takahiko Masuda (Department of Psychology, University of Alberta)

過去30年、文化心理学は、心理学をベースとし、人類学・言語学といった周辺領域とともに学際的分野を発展させてきた。比較文化の研究手法も、サーベイを中心とした初期の調査から方法論を広げ、(1)研究神経科学との共同作業によって、ヒトの文化的多様性を脳の可塑性を問い、(2)発達科学との共同作業によって、ヒトの社会的学習の機序を問い、さらには、(3)遺伝子多型の研究によって、遺伝と文化のインタラクションを問うに至っている。こうした試みは、ヒトのデータサンプリングの代表性のバイアスを批判したWEIRD論争(Henrich, 2020)ともあいまって、その重要性は人間行動を対象とした研究領域においても認められることであろう。本トークでは、こうした文化心理学の現在と、新たな展開を紹介し、ヒト特有の社会的学習および過剰ともいえる模倣傾向に焦点を当てる「文化進化」研究との親和性について検討し、今後の共同研究の可能性を探る。

For the past 30 years, cultural psychology-an interdisciplinary field of research on anthropology, linguistics, and psychology—have developed their research field. Their methodology varies from survey studies common an in the early stages of the development of this field, to (1) neuroscientific studies to examine neural plasticity, (2) developmental studies to investigate human social learning processes, and (3) studies of gene polymorphism to study the interaction between genes and culture. These paradigms are inextricably tied to the WEIRD discourse (Henrich, 2020), which questions the representativeness of human samples in currently available data, and are acknowledged by scholars who specialize human behaviors and evolution. In this talk, I will introduce recent findings in cultural psychology, and discuss a possible collaboration with researchers who investigate cultural evolution, especially human’s excessive imitation tendency and complex social learning processes uniquely observable in human behaviors.


身体に根ざした社会的認知発達

( 12月13日 14:30- 15:30 ディスカッション:15:40-16:10)

平井真洋先生(名古屋大学大学院情報学研究科 心理・認知科学専攻)

 日常生活のコミュニケーションにおいて身体の果たす役割は大きい他人の何気ない所作から感情や意図を読み取り学びを得る一方例えば他者の心的状況を推測する際には自己の身体を利用することもあるこのように我々は自己・他者の身体を巧みに利用することで絶えず変化し続ける社会環境に適応する仕組みを備えているようであるしかしながら社会的認知における身体の役割の発達的側面については未だ明らかにされていないのが現状である本講演では社会的認知における身体の役割を身体の「外側」と「内側」の切り口からその発達メカニズムを検討してきた講演者の一連の研究を紹介する「身体の外側」に関する研究として十数個の光点運動のみから他者行為を知覚可能な「バイオロジカルモーション」に焦点を当てその知覚特性神経基盤定型・非定型発達変化発達理論モデルについて紹介する議論する「身体の内側」に関する研究の一例として他者視点取得課題を取り上げ自己の身体をどのように利用するかさらにはそれが発達・神経変性疾患によりどのように変化するかについて議論するこれらを踏まえ身体と社会的認知の関係について議論したい