我が国では急速な住宅需要に応えるため、成長型の都市戦略に基づき比較的緩やかな土地利用規制が行われてきました。しかし、2011年の人口減少が大きな変曲点となり、現行都市計画は時代に即したものは言い難い状況になっています。さらに、昨今のCOVID-19の影響から、都市のあり方を根本的に問われる事態に至っています。このような潮流は我が国だけでなく、世界でも観測できます。現代社会は、近年の高度情報化社会の形成やパンデミックの発生により、不可逆的な社会システムの変形が外生的に加わっていると考えられ、その変化に如何に柔軟に対応できるかが重要であると考えます。そのためには、都市・不動産に関する情報の統合とその利活用、変化に対応する社会システム自体の再構築が肝要であり、今後の重要課題となります。
研究の着地点としては、都市情報を駆使して住まい方(あるいは住宅・土地システムの制御)に対する社会経済比較と、住宅・土地を一体化したマネジメントのあり方について貢献ができればと思います。その実現のため、主に物的計画について研究、実践を続けており、博士課程では住宅・空間解析に関わる研究を行ってきました。博士課程修了後には都市・不動産に着目し、大規模データベース構築手法の確立や不動産取引と地域環境との相関などの分析を進めています。多層なスケール、最適性、計量的分析に基づく都市マネジメントをキーワードに、研究から実践まで行います。
研究では、主にGISやRなどを用いた定量分析を行い、都市・不動産を対象に研究しています。
我が国では過剰な住宅供給、人口減少に加え、様々な制度的インセンティブが関連し、結果として空き家が発生しています。これまでに、空き家の要因や地理的分布推定まで、様々な研究を行ってきました。
空き家化の要因に関して、
空き家の地域的要因の差異(全国)
Baba H, Asami Y. (2017). Regional Differences in the Socio-economic and Built-environment Factors of Vacant House Ratio as a Key Indicator for Spatial Urban Shrinkage. Urban and Regional Planning Review, 4, 251–267.管理不全になるような空き家の要因と傾向(川口市)
Baba H, Hino K. (2019). Factors and tendencies of housing abandonment: An analysis of a survey of vacant houses in Kawaguchi City, Saitama. Japan Architectural Review, 2(3), 367–375.空き家率の高い建物除却の計画・将来方針(ベルリン市)
馬場弘樹, 樋野公宏. (2019). 大規模住宅団地における建物除却後の跡地現況と建物除却計画・将来方針の対応関係―ベルリン市マルツァーン・ヘラーズドルフ団地を対象として. 日本都市計画学会学術論文集, 54(2), 163–170.加えて、空き地の実態及びその形成要因(福山市)
北川貴己, 馬場弘樹, 窪田亜矢. (2012). 歴史的な市街地における空地の実態及びその形成原理についての考察—広島県福山市鞆地区を事例として. 日本建築学会計画系論文集, 78(685), 615–624.について研究を進めてきました。
また、自治体データ(住基・建物台帳・水道)を統合したうえで機械学習的手法により空き家の推定を行っています。
Baba, H., Akiyama, Y., Tokudomi, T., Takahashi, Y. (2020). Learning Geographical Distribution of Vacant Houses Using Closed Municipal Data: A Case Study of Wakayama City, Japan. ISPRS Annals of Photogrammetry, Remote Sensing and Spatial Information Sciences, VI-4/W2-2020, 1–8.に成果の一部が公開されています。
他にも、電力スマートメータの情報を用いて空き家を特定し、空き家率の高い地域の特徴との関連について分析しています。
馬塲弘樹, 秋山祐樹, 清水千弘. (2022). スマートメータを利用した空き家期間と地域特性との関係分析―群馬県前橋市を対象として. GIS-理論と応用, 30(1), 掲載決定.がこれまでの成果です。
現在、様々な自治体との共同研究も進行しており、民間・自治体データを用いた空き家の地理的分布推定に限らず、その形成因果に踏み込んで分析を進めていきたいと思います。
不動産情報を収集し、重複のないかたちでデータベースとして蓄積することは、適切な定量分析を行う際に必要不可欠となります。また、このような不動産情報を重複なくデータベース化することは、広義のrecord linkageとも捉えることができ、情報科学の観点からも研究も進めています。
これまで、民間企業様との共同研究や研究会を通して、既存データの状況、データベース構築の際に鍵となる要素の選定、活用の可能性などを検討してきました。
近年の成果として、
大久保岳人, 馬場弘樹. (2020). 不動産パネルデータベースの構築に向けた検討と活用可能性. 土地総合研究 2020年春号. 68–77.を発表しました。
大量供給された共同住宅は、今後の人口減少に伴い老朽化、空室増加の懸念があります。建替えを行う際には法的制約が厳しいことに加え、潜在的市場価値の高い立地でしか実現可能性が低いと考えられます。そのような課題に直面した今、共同住宅データベースの構築、立地的特性の把握、外部性の検証、マンション管理不全の実態調査・分析などのステップを踏みながら研究を進めています。
これまでに、分譲マンションに着目して、
馬場弘樹, 仙石裕明, 清水千弘. (2020). 民間マイクロデータを用いた分譲マンションデータベースの構築とその立地的傾向. CSIS Discussion Paper Series, 161.を発表しました。
他にも、電力スマートメータから共同住宅空き家率を特定し、空き家率の多寡が家賃に対してどのような空間外部性を持つか分析しています。
Baba, H., Shimizu, C. (2022). The impact of apartment vacancies on nearby housing rents over multiple time periods: Application of smart meter data. International Journal of Housing Markets and Analysis, forthcoming.今後、海外物件についてもデータベースを構築し、包括的な分析を可能にする予定です。
近年、歩いて暮らせるまちづくりが健康、環境、ウェルビーイングなどの観点から世界的に重要視されています。我が国でも様々な施策を通して都市基盤の整備が進められていますが、そもそもミクロな空間単位での歩きやすさの測定が困難であったり、日本でのウォーカビリティと健康などとの関連に十分な研究成果の蓄積が無い状態でした。
我々の研究チームでは、
ミクロな空間単位(50mメッシュ)でのウォーカビリティ指標の開発
清水千弘, 馬場弘樹, 川除隆広, 松縄暢. (2020). Walkabilityと不動産価値: Walkability Indexの開発. CSIS Discussion Paper, 163.横浜市での歩きやすさと歩行量との関係
Hino, K., Baba, H., Kim, H., Shimizu, C. (2022). Validation of a Japanese walkability index using large-scale step count data of Yokohama citizens. Cities, 123, doi.org/10.1016/j.cities.2022.103614.などを通して歩きやすい都市の意義について議論しています。
人口減少を通して、物的空間だけでなく自治体財政も限界を迎えています。可能な限り事務処理を効率化するため、一部の公共サービスを連携して供給するという考え方があります。ここでは、自治体連携によって柔軟なサービス供給のあり方を模索しています。
これまでに、
自治体連携による歳出削減の因果関係
Baba H, Asami Y. (2020). Municipal Population Size and the Benefits of Intermunicipal Cooperation: Panel Data Evidence from Japan. Local Government Studies, 46(3), 371–393.ごみ処理に着目した効率的規模の算出
Baba H, Asami Y. (2019). Estimating the minimal efficient scale and the effect of intermunicipal cooperation on service provision areas for waste treatment in Japan. Asia-Pacific Journal of Regional Science, 4, 139–158.消防に着目した効率的規模の算出
馬場弘樹, 浅見泰司. (2019). 自治体連携を踏まえた消防サービスの効率的規模. 日本都市計画学会学術論文集, 54(3), 1541–1548.を進めてきました。
また、自治体歳出の人口規模との関係を分析したものには、
Baba H, Asami, Y. (2021). Cost-efficient factors in local public spending: Detecting relationships between local environments, population size, and urban area category. Environment and Planning B: Urban Analytics and City Science, doi.org/10.1177/23998083211003883.があります。
今後、公共サービス支出だけでなく、その水準についても十分考慮していきたいと思います。また、連携を行う際の地理的条件など、これまでに扱えなかった条件を加味してモデルを拡張していく予定です。
データには、数値、文字列、順序列など、様々な形式が存在します。数値データは連続であれば比較的容易に扱えるものの、文字列データは、そのデータが持つ潜在的な特性を把握したうえで利用する必要があります。人文社会科学で扱っているようなデータは、多くの場合文字列や写真など、取扱いが難しいものです。このようなデータをどのように処理し、人文社会科学と情報科学に存在するギャップを埋めるかは重要な課題であり、研究を進めています。
不動産取引データ(数値データ)を対象とした場合、
Hiroki Baba, Hayato Nishi, Ashoka Mahabala Seetharamapura, Chihiro Shimizu. (2020). Dynamic Hedonic Analysis Using Time-Varying Coefficients: Application to Dubai’s Housing Market. CSIS Discussion Paper Series, 170.が公開されており、現在ブラッシュアップを進めています。
2022年9月12日時点