Research

アルギニンメチル化の脳における機能の解明

タンパク質の翻訳後修飾は、タンパク質の働きをダイナミックに変えることが知られています。なかでも私たちは、タンパク質のアルギニン残基が特異的にメチル化される「アルギニンメチル化」修飾に着目しています。

「アルギニンメチル化」は、私達の全身で起きる修飾で、マウスの実験からは様々な臓器の発達・機能に必須であることが報告されています。また最近の研究では、疾患との関連も見出されている非常に興味深い修飾です。


しかし、アルギニンメチル化の機能の正の側面と負の側面の両方がわからなければ、安易にそれをターゲットにした創薬につなげることはできません。その意味では、アルギニンメチル化の生理的意義を探る試みはもっと必要だと考えています。


私達は、このアルギニンメチル化の脳における機能の解明を目指して、代表的なアルギニンメチル化酵素 PRMT1 を欠損したマウスの脳やその脳から単離培養した細胞を詳細に解析するなどして、日々研究に取り組んでいます。


研究の方向性としては、

① アルギニンメチル化がどのような脳機能に重要なのか? ② そのメカニズムは?

の2点に主眼を置いて研究を進めています。

BBA Gen. Subj. 2021 (一部改変)

これまでの成果

(1)脳特異的PRMT1欠損マウスは、生後に髄鞘形成不全を示して2週間程度で致死となることを見つけました。PRMT1が脳の発達に必須であることを世界で初めて示しました

Hashimoto et al.J. Biol. Chem. 2016

(2)PRMT1欠損の小脳ではHNK-1という糖鎖が増加することを発見しました。HNK-1は脳に豊富に存在し、記憶や学習に重要であることがわかっています。本研究は、2つの翻訳後修飾(アルギニンメチル化と糖鎖修飾)のクロストークを示唆する初めての報告になりました。

岐阜大学 糖鎖生化学研究室 木塚康彦先生らとの共同研究

Hashimoto et al. BBA Gen. Subj. 2020

(3)脳特異的PRMT1欠損マウスは生後すぐに脳で炎症が誘導されており、免疫細胞が異常活性化している様子が観察されました。さらにこのことが脳の発達を妨げている可能性を示しました

筑波大学 深水昭吉先生らとの共同研究

Hashimoto et al. J.Neurochem. 2020

主な実験手法

  • PCR/realtime PCR

  • Western blot

  • 遺伝子クローニング〜プラスミド構築

  • 細胞培養

(株化細胞、初代神経幹細胞、初代オリゴデンドロサイト前駆細胞、初代グリア細胞、初代ニューロン)

  • CRISPR-Cas9システムを用いた遺伝子欠損細胞の作製

  • 遺伝子改変マウスの飼育・作製(交配)

  • 組織切片の作製

  • 免疫組織化学/免疫細胞化学

  • ゴルジ染色による脳ニューロンの形態解析

  • 蛍光顕微鏡観察(含 共焦点顕微鏡)

  • RNA-seq / 質量分析 (共同研究)

  • 大腸菌を用いた組み換えタンパクの作製


その他、必要に応じて新しい手法にチャレンジします。

マウス由来初代神経幹細胞を分化誘導した様子

photo by K.T.

©️ 2021 Misuzu Hashimoto