土は、触れた時間を記憶する。
一層ずつ積み上げられた土は、目に見えない時間の痕跡を内に抱えながら、やがてひとつのかたちとして立ち上がります。私の手が新しい器の口をひらくとき、その内側には、言葉になる前の静けさがそっと息づき始めます。そこに生まれるのは、強い主張や華やかさではなく、日々の暮らしのそばに自然と居場所を見つける、穏やかな存在です。
制作の場は、福岡県大野城市の静かな住宅地にあります。
自宅の隣にある小さなアトリエで、私は土と向き合いながら日々を過ごしています。すぐ近くには小学校があり、時間帯によっては子どもたちの声が風に乗って届きます。少し足を伸ばせば、山や川があり、季節の移ろいが生活の輪郭をやさしく形づくっています。この土地の静かなリズムの中で暮らし、制作を続けています。
この場所は、太宰府にもほど近く、かつて九州の政治と文化の中心であった地に連なっています。古代には須恵器を焼いた窯跡が点在し、土と火に向き合ってきた人々の営みが、今も土地の奥深くに息づいています。土を練り、ろくろを回しながら、ときおり、遠い昔にこの地で同じように土に触れていた人々の存在を思います。自分の祖先もまた、陶工だったのではないか——そんな確かな根拠のない想像でさえ、制作の時間に静かな奥行きを与えてくれます。
私が主に用いているのは、「練上(ねりあげ)」と呼ばれる日本の伝統的な技法です。
色の異なる土を幾層にも重ね、それをろくろで挽きながら形をつくっていきます。あらかじめ完成の模様を完全に決めることはありません。土の重なりや動きに耳を澄ませ、手の中で自然に現れてくる流れを受け取りながら、形を整えていきます。その偶然性と必然性が交差する瞬間に、器の表情が生まれると感じています。
すべての工程は手仕事で行われ、一つの作品にかけられる時間は決して短くありません。そのため、多くの数を作ることはできませんが、一点一点に向き合い、丁寧に仕上げています。私は個展や常設の店舗での販売は行わず、オンラインショップを通して作品をお届けしています。それは、特定の場所や限られた人のためではなく、国や文化を越えて、できるだけ多くの方の暮らしの中へ静かに入り込んでいってほしいと願っているからです。
これらの器は、空間の主役になることを求めていません。
花を生けても、生けなくても、使われていても、ただそこに在るだけでも、周囲の気配と調和しながら静かに佇む存在でありたいと考えています。日々の生活の中でふと目に留まり、手に取ったときに、ほんの一瞬でも呼吸が深くなる——そんな時間を共有できたなら、これ以上の喜びはありません。
土と向き合い、時間に身を委ねながら、今日もまた静かに制作を続けています。
Profile
ハセムシ窯 主宰
田中 恒治
1971年生まれ
福岡大学・有田窯業大学 卒業
2004 陶源牛頸教室 開講
2009 ハセムシ窯 設立
2020 練上作品の制作・販売を開始
※ 掲載『練り込み:カラークレイアート』
(Thomas Hoadley, 2024)
田中の作品には、色土を使ったろくろ挽きの純粋な造形が見事に表現されている。彼は、無限にあるように見える花器の形に注目し、その制作スタイルに魅力的な表面のテクスチャリング技法も取り入れている。典型的な作品は、黒・灰に白、赤・茶に白の3種類の粘土を使った円盤を垂直に積み重ね、ろくろの上で中心を合わせて圧縮するところから始まる。出来上がった円筒形は、「サシボウ」と呼ばれる木製の道具で開かれる。最終的な形を作るには、伝統的なろくろ技法が用いられる。粘土が革のように硬くなったら、金属製のリブで削り、練り上げ特有の渦を巻くような複数の粘土の模様を浮き上がらせ、ろくろを回しながら金属製の道具「トビカンナ」でテクスチャーをつける。英語ではこのようなテクスチャーを「チャタリング」と呼ぶ。このテクスチャリングが田中の作品に新たな次元を与え、彼のシグネチャースタイルとなっている。
2020年、田中は教室の運営を休止し、自身の作陶活動を開始した。この比較的短い期間に、彼は競争の激しい日本の陶芸界でニッチを切り開いた。