2026.05.26 プレスリリース
本研究室の秦和弘准教授らを中心とする研究チームは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所が運用する45m電波望遠鏡に新たな高性能ミリ波受信機を搭載するプロジェクトを開始しました.野辺山45m電波望遠鏡は世界最高級の性能を持つミリ波帯の望遠鏡であり、ブラックホールの正体、星の誕生、銀河の生い立ちなどを調べています.新たなミリ波帯受信機を搭載し、地球規模の国際観測ネットワークに参加することで、ブラックホールの動画やジェットの発生メカニズムといった天文学最大級の謎の解明を目指します.
本プロジェクトは秦准教授が研究代表者として今年度から採択された科研費 基盤研究(S)「次世代国際ミリ波干渉計ネットワークで挑む巨大ブラックホールのジェット駆動と多様性」の支援を受けて推進するものです.国内では大阪公立大学、公立諏訪東京理科大学、JAXA、国立天文台、新潟大学、工学院大学を中心に、アジア・欧米を含む国内外の研究者・研究機関とも協力しながら進めていきます.
詳しい解説は以下の公式プレスリリースもご覧ください.
2026.04.09 研究成果
巨大楕円銀河M87の中心には、太陽の約65億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在し、そこから細く長い電波ジェットが噴き出しています.本研究では、日本と韓国の計7台のアンテナからなる電波望遠鏡ネットワーク KaVA (KVN and VERA Array)を用いてM87ジェットを精密観測し、このジェットに見られる周期的な横揺れを詳しく調べました.その結果、この揺れが単なる局所的な変動ではなく、ジェット内部を下流へと伝わっていく「横波」として振る舞っていることを突き止めました.こうした波は、ブラックホール近傍の活動に起因する可能性に加え、ジェットの伝搬過程で生じる不安定性によって形成される可能性も考えられます.本成果は、ジェット内部で何が起きているのかを読み解く新たな手がかりを与えるものです.
秦准教授は国際研究チームのコアメンバーとして観測立案、望遠鏡運用、データ解析、考察に至る全過程で中心的な貢献をしました.詳しい解説は以下のウェブサイトもご覧ください.
論文情報 [ジャーナルサイト(英語)]
"Transverse Oscillations and Wave Propagation in the Magnetically Dominated M87 Jet"
Ro H., Kino M., Hada K., Mizuno Y., Cui Y., Yi K., Kawashima T., Park J., and Sohn B.W.
Astrophysical Journal, 999, 169 (2026)
画像クレジット:Ro, Kino, Hada et al. 2026
2025.12.16 研究成果
地球から約5500万光年離れたM87には、太陽質量の60億倍以上の巨大ブラックホールが存在します.地球サイズの電波望遠鏡の観測網であるEHTは、2019年にM87のブラックホール・シャドウの写真を初めて公開しましたが、このデータは2017年に観測されたものでした.その後EHTでは2018と2021年にもM87を繰り返し観測していました.本研究では、2017年、2018年、2021年に観測されたM87のブラックホール画像を比較し、年スケールで変動の有無を調査しました.その結果、ブラックホールの影の大きさは一定であるのに対し、リング構造に付随する偏光パターンに大きな変化が見られることが明らかになりました.本結果は、ブラックホールを周回するガスは強く磁化されているとともに、激しく時間変動する乱流状態となっていることを示しています.このような偏光パターンの著しい変化は従来の理論では予想されていなかった新しい現象であり、今後のさらなる観測継続の必要性が示されました.秦准教授は観測の立案とハワイJCMT局の観測運用に貢献しました.
詳しい解説は以下のウェブサイトもご覧ください.
論文情報 [ジャーナルサイト(英語)]
"Horizon-scale variability of M87* from 2017–2021 EHT observations"
EHT Collaboration
Astronomy and Astrophysics, A91, 37 (2025)
画像クレジット:EHT Collaboration
2025.10.16 研究成果
活動銀河中心核から観測される強力なジェットの発生・伝搬メカニズムは天文学の大きな謎の1つです.本研究ではおとめ座の方向にある楕円銀河M84の中心に存在する、活動性の極めて弱い巨大ブラックホールが噴出するジェットについて、米国の電波干渉計ネットワークVLBAを用いてその形状を詳しく観測しました.その結果、細く絞られたジェットの形状がブラックホールから噴出後、予想よりも遥かに早い段階で終焉し、円錐状に広がっていくことを発見しました.本結果は巨大ブラックホールの活動性と、ジェットの形状には密接な関係があることを示しており、未だ謎に包まれたジェットの発生機構に手がかりを与えるものです.秦准教授は責任著者として本研究を統括しました.
詳しい解説は以下のウェブサイトもご覧ください.
論文情報 [ジャーナルサイト(英語)]
"Jet Collimation Profile of the Low-luminosity Active Galactic Nucleus M84: Insight into the Jet Formation in the Low-accretion Regime"
Fariyanto E.P., Hada K., Cui Y., Honma M., Nakamura M., Asada K., Wang X., and Jiang W.
Astrophysical Journal, 911, 13 (2025)
画像クレジット:NASA/JPL-Caltech (イラスト); Fariyanto et al. 2025(電波画像)
2025.06.13 研究成果
楕円銀河M87の中心から噴き出すジェットには、約11年周期の歳差運動などの周期的な動きがあることVLBI観測から知られています.本研究では、これらの動きがM87中心の巨大ブラックホールのまわりを第2のブラックホールが公転していることに起因すると仮説を立て、その場合に想定される第2ブラックホールの質量を理論的に導き出しました.近年、NANOGrav(ナノグラブ)コラボレーションによる重力波観測により、巨大ブラックホール連星が放つ重力波が宇宙全体に広がる「背景重力波」として検出されている可能性が指摘されており、本研究チームはその理解を深めるためにM87に注目しています.今回の成果は、巨大ブラックホール連星の存在を直接検証するための今後の観測戦略にとって重要な指針となるものです.
詳しい解説は以下のサイトをご覧ください.
論文情報 [ジャーナルサイト(英語)]
"Constraining the Mass of a Hypothetical Secondary Black Hole in M87 with the NANOGrav 15 yr Data Set"
Kino M., Nagashima M., Ro H., Cui Y., Hada K. and Park J.
Astrophysical Journal, 986, 49 (2025)
画像クレジット:Kino et al. 2025
2024.12.13 プレスリリース
秦准教授が参加するイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)コラボレーションおよび多波長の観測グループからなる国際研究チームは、M87銀河の中心部を電波からガンマ線で一斉観測した新たな研究成果を発表しました.今回の観測は、EHTによるブラックホール初撮影から1年後の2018年に行われたものです.一斉観測の結果、M87中心部から強力なガンマ線フレアを捉えることに成功しました.本成果はM87の巨大ブラックホールが約10年ぶりの活動期を迎えたことを示すとともに、超高エネルギー電磁放射の発生メカニズム解明に手がかりを与えるものです.
秦准教授は本研究を主導するEHT多波長サイエンスワーキンググループの主要メンバーとして、中心的な役割を担いました.詳しい解説は以下の公式プレスリリースもご覧ください.
論文情報 [ジャーナルサイト(英語)]
"Broadband Multi-wavelength Properties of M87 During the 2018 Event Horizon Telescope Campaign including a Very-High-Energy Gamma-ray Episode"
EHT Multi-wavelength Science Working Group (秦), EHT Collaboration, Fermi-LAT Collaboration, H.E.S.S. Collaboration, MAGIC Collaboration, VERITAS Collaboration, EAVN Collaboration
Astronomy and Astrophysics, 692, 140 (2024)
画像クレジット:EHT Collaboration, Fermi-LAT Collaboration, H.E.S.S. Collaboration, MAGIC Collaboration, VERITAS Collaboration, EAVN Collaboration
2024.11.21 研究成果
銀河の中心に存在する巨大ブラックホールの活動メカニズムは天文学における大きな謎であり、半世紀以上に渡り天文学における中心的課題の1つとなっています.とりわけ、史上初めて巨大ブラックホールが撮影されたM87銀河は巨大ブラックホール研究のアイコンとして特に精力的に観測が行われ、その研究は近年目覚ましい進展を遂げています.秦准教授は今回、天文・宇宙物理学分野の世界的なレビュー専門誌であるThe Astronomy and Astrophysics Review からの招待を受け、M87の巨大ブラックホール研究に関する近年の進展を総まとめしたレビュー論文を筆頭・責任著者として執筆しました.現在までに分かったこと、まだ未解決のこと、今後の展望などについて俯瞰しています。
論文情報 [ジャーナルサイト(英語)]
"M87: a cosmic laboratory for deciphering black hole accretion and jet formation"
Hada K., Asada K., Nakamura M., Kino M.
The Astronomy and Astrophysics Review, 32, 5 (2024)
画像クレジット:EHT Multi-wavelength Sciene Working Group et al. 2021