植栽と天空率
(植栽の日当たりに関する一考察)
植栽するにあたり日当たりがよい、悪いなどの表現がよく使われます
日当たりがよいというと一般的には半日以上日光が当るとイメージされているようです。
日光が当るということはようするに直射日光が当るということですが
しかし「植物が必要な光=直射日光のみ」というわけではありません
明るさ(照度)が重要になります。
(植物を対象とした明るさの指標として光合成有効光量子束密度(PPF)を測定する方法がありますが
ここでは光源が自然光であり照度の方がより一般的なので照度luxで考察しています。)
下記の表は天候による屋外の照度(全天空照度)を表したものです。
[単位:lux]
薄曇 50,000
薄雲による散乱光で空全体が明るい状態。
明るい日 30,000
雲による散乱光で空全体が明るい状態。
普通の日 15,000
厚い雲による散乱光の状態。
暗い日 5,000
雨、雷など
日向 100,000
直射日光があたる場所
日影 10,000
全天空照度とは建築設計などで自然光による室内の照度などを検討する時に使用します
実際の天空の明るさ(天空の輝度分布)は一様ではなく太陽の位置等で大きく左右されるため非常に複雑なものになります
そこで晴天時、曇天時とも天空輝度分布を一様であると仮定し全天空照度という考え方を用いているようです。
直射日光があたる場所(快晴の日向)は100,000luxですが
薄曇の時は50,000luxとなり直射日光が当らなくても日向の半分の照度があります
これは空の明るさということです。
仮に一日中直射日光があたらない場所でも空の明るさが多く受けれる場所とそうでない場所では
植栽条件が違ってくるということです
空の明るさが多く受けれる場所というのは天空率が高い場所ともいえると思います
天空率とはそこから空がどれだけ見えるかということで
廻になにもない原っぱのような場所であれば天空率は100%となり
建物などで空が半分しか見えなければ50%となります。
そこで屋外の照度と植栽場所の天空率を利用すれば
植栽条件の一つの判断材料になると思います。
ここで晴天時に平均3時間ほど日当たりがあり(平均日照時間:3時間)
天空率50%の植栽場所(東京)にどれだけの照度があるか検討してみます
東京の年間可照時間(昼の時間)は約4430時間で
日照時間は1847時間(30年間平均値)です [気象庁HP参照]
日照時の照度を30,000lux(明るい日)以上とすれば
昼間の約40%(日照率)の全天空照度が30,000~50,000lux(平均40,000lux)あるということになります
ここで天空率と照度が比例関係であると仮定すると
検討地の日照時の照度は40,000lux × 50%(天空率) =20,000luxとなります →[照度と天空率についての簡易実験参照]
また「普通の日」の照度は15,000lux × 0.5=7,500lux、「暗い日」の照度は 5,000lux × 0.5=2,500luxとなります
つぎに日当たりが一日3時間ですので
年間で365*3h*0.4(日照率)=438時間直射日光があたることになります
仮に「普通の日」、「暗い日」が日照時間を除いた半分づつだとすると年間の積算照度は
直射日光:438h*100,000=43,800,000lux・h
日照時(薄曇~明るい日):(1847-438)h*20,000=28,180,000lux・h
普通の日:1,291h*7,500=9,682,500lux・h
暗い日:1,291h*2,500=3,227,500lux・h
合計:84,890,000lux・hとなります
平均照度は積算照度(84,890,000lux・h)÷ 可照時間(4430h) =約19,000luxとなります
(*この数値は対象地の実際の照度ではなく明るさの目安です
実際の照度は廻の構造物などの反射光などさまざまな要因が影響すると考えられます)
上記計算を簡略化すると下記のようになります
平均照度(lux):
3,300h+22,500S-1,320h*S
(日が当たらない場合:22,500S)
(地域は東京で「普通の日」「暗い日」が日照時間を除いた半分程度と仮定した場合)
h:平均日照時間
S:天空率
次に下図の条件の場合で検討してみます
地点A 平均日照時間2.5時間 天空率26%
地点B 平均日照時間2.0時間 天空率65%
上記式に当てはめると
地点A : 13,500lux
地点B : 19,700lux
となってAの方が日照時間が長いですが全体的な明かるさではBの方が明るいという結果になります。
天空図はフリーCADソフト(jwcad)で作図、計算しました。
植栽地の日照を判断するとき日照時間だけではなく天空率も重要なファクターになると思います。
下図は戸建住宅の植栽(落葉樹)を天空図により検討したものです。
図の赤矢印の地点での天空図を描いています。
この地点で寝転がり魚眼レンズで空を見上げたイメージです。
(正確には樹木の葉が茂る高さとを想定して2m高い地点からの図です)
これによるとこの地点の天空率は59%
また太陽の軌跡を黄色いラインで描いています(上から夏至、春秋分、冬至のライン)
通常日影の検証では条件のきびしい冬至を利用しますが
落葉樹が活動するのが3月から10月頃ですので日照もこの期間の状態を見てみます
この期間の可照時間は3210時間、日照時間は1234時間(東京)程度になります
また日照時間は春、秋分は2時間半程度、夏至は約7時間となるので活動期の平均日照時間を*4時間に想定しました。
これを上記スクリプトで計算すると約26,000luxとなり陽樹の植栽もできそうです。 ⇒造園設計マニュアル・[植物と照度]
[追記]
*平均日照時間は照度に大きく影響するので精度を高める算定方法を考察しました(天空図の面積から平均日照時間を求める)
天空図の面積から平均日照時間を求める
・常緑樹を対象とした平均日照時間を求める場合
天空図の冬至、春分秋分、夏至の太陽軌跡ラインで囲まれた面積をA
Aの範囲の建造物等を除いた面積をBとすれば
平均日照時間=8h×B/A
・落葉樹を対象とした平均日照時間を求める場合
落葉樹の活動期を春分から10月末と想定する
天空図の春分、夏至の太陽軌跡ラインで囲まれた面積をA1
夏至から秋分、10月末の太陽軌跡のラインで囲まれた面積をA2
A1,A2の範囲の建造物等を除いた面積をB1,B2とすれば
平均日照時間=8h×(B1+B2)/(A1+A2)
左)常緑樹の平均日照時間を天空図から求める
A:G8-S8-T8-T16-S16-G16で囲まれたエリア
B:黄色斜線エリア
右)落葉樹の平均日照時間を天空図から求める
A1:G8-S8-S16-G16で囲まれたエリア
A2:G8-S8-o8-T16-S16-o16で囲まれたエリア
B1:黄色斜線エリア
B2:紫色斜線エリア
jwcadで10月末の太陽軌跡を設定する方法:メニュー[その他]-[日影図]-[季節]で日赤緯に-14.13(東京)を入力後天空図作成で太陽軌跡on
照度と天空率についての簡易実験
上記考察は目安照度=全天空照度×天空率という仮定で計算してますので
実際の照度と天空率の関係を測定しました。
実験は超高層マンション(31F)のライトコート(吹き抜け部)の31,30,29,26,23,19,16,13,10,7階の計10個所で
各天空率を算出し、各地点での照度を計測しました。
計測地写真(31,30階を除く)
結果は下記の表のとおりです。
想定ラインは全天空照度が薄曇50,000lux、曇り15,000lux、雨日想定は5,000luxとした場合です
実測値は想定ラインより明るい傾向があるようです。
反射光など他の要素の影響が大きいためと考えられます
今後も観測を続けデータを更新していきたいと思います