石田 裕昭(大阪公立大学)
タイトル:Double-sided torus actions and complex geometry of SU(3)
概要:偶数次元コンパクトリー群には左不変な複素構造が存在することが1950年代にWang, Samelsonらによって独立に示されている. 一方で, 2007年にLoeb, Manjarin, Nicolauらによって, 可換でない偶数次元コンパクトリー群には左不変でない複素構造が存在することが示された. 本公演では, モーメント写像と葉層構造を用いて, SU(3)上に具体的に左不変でない複素構造の族が構成できることを述べる. 本講演は糟谷久矢氏との共同研究に基づく.
上野 龍(北海道大学)
タイトル:計量で割り切れる 3 次形式を持つ統計多様体と測地線
概要:計量で割り切れる3次形式を持つ統計多様体は,像が$2$次超曲面に含まれるアファインはめ込みによって誘導される統計多様体のクラスである.このクラスの統計多様体に対して明らかになったアファイン接続の大域的な性質を紹介する.特に,リーマン幾何学におけるホップ・リノウの定理の統計多様体版として,計量で割り切れる3次形式をもつ統計多様体において,アファイン接続の完備性から測地的連結性が導かれることを紹介する.
甲斐 涼哉(大阪公立大学)
タイトル:カンドルの距離について
概要:カンドルは群の共役演算の抽象化とみなされる代数系であり,結び目理論や対称空間論をはじめ,様々な分野で研究されている.
カンドル構造は,内部自己同型群とdisplacement群と呼ばれる群を定め,それらはカンドル自身に自然に作用する.
本講演では,そのような群の作用を用いて,カンドルの連結成分に距離を導入する.
特に,それらの群が有限生成であるとき,カンドル構造から距離の擬等長類が定まる.
さらに,Euclid空間や双曲平面など典型的な距離空間と擬等長な連結成分を持つカンドルの例をいくつか紹介する.
本講演は,岩本光平氏(立命館大学),児玉悠弥氏(鹿児島大学)との共同研究に基づく.
梶ヶ谷 徹(東京理科大学)
タイトル:コンパクト対称空間内の極小超曲面の第1ベッチ数によるモース指数評価
概要:コンパクト半単純対称空間内の不安定な極小超曲面のモース指数が超曲面の第1ベッチ数の定数倍により下から評価できることを示す(この定数は外の空間にしかよらない). より一般には, 正のリッチ曲率を持つ閉リーマン多様体内の閉極小超曲面に対して同様の評価が成り立つであろうというSchoen, Marques, Nevesらによる予想があり, 系としてこの予想に部分的な解答を与えることができる. 指数評価の証明は, Savo および Ambrozio-Carlotto-Sharpらの手法に触発されたもので, それはユークリッド空間への等長はめ込みを用いた一種の「平均化法」に基づく. 本講演では, この手法がコンパクト半単純リーマン対称空間への等長はめ込みを考えることで自然に拡張されると言うことを示し, それにより指数評価がどのように得られるかを説明する. 本講演の内容は國川慶太氏(徳島大学)との共同研究の内容に基づく.
久保 亮(広島工業大学)
タイトル:カンドルの s-可換集合について
概要:カンドルは Joyce によって導入された代数系であり, トポロジー (結び目理論) の分野で広く研究されている対象である. さらに, カンドル上の演算は対称空間の点対称の一般化と見なすことができるため, カンドルは微分幾何学 (対称空間論) の観点からも興味深い. 一方, 対称空間に関して Chen-Nagano によって導入された対蹠集合などの概念は, 対称空間のトポロジーとも深く関連し, さらに近年 Tanaka, Tasaki らによって深く研究されている. また対蹠集合の概念は点対称によって記述されるためカンドル上でも自然に定義される. 講演者らは対蹠集合の一般化として s-可換集合を導入し, それが対称空間やカンドルにおいてどのような性質を持つかについて興味を持っている. 講演では, s-可換集合に関するこれまでの結果について概説する.
酒井 高司(東京都立大学)
タイトル:対称空間とその一般化への入門 【学生向けの講演】
概要:リーマン対称空間は,各点において測地線の向きを入れ換える点対称が定まる空間であり,曲率やホロノミー群に関して顕著な特性を持つ空間としてリーマン幾何学において重要な対象となっている。また,リーマン対称空間の点対称はカンドルとしての代数構造を成すことが知られており,近年関連した研究に発展している。本講演では,まずリーマン対称空間の導入からはじめ,基本的な幾何理論を概説する。対称空間の幾何は,様々な観点からの拡張が与えられ,現在では多方面に研究が進展している。1960年代に,対合的とは限らない一般の位数の点対称を持つ空間として(正則)s多様体に関する研究がLedger-小畠らにより始められた。さらに1980年代にLutzは各点において有限アーベル群Γと同型な対称変換群を持つ多様体としてΓ対称空間を導入した。本講演の後半では,これらの一般化として,現在,大野晋司氏(日本大学)と共同で研究を進めている一般化されたs多様体を紹介し,その構成法といくつかの例を与える。
澤井 洋(沼津工業高等専門学校)
タイトル:局所共形ケーラー可解多様体の基本 2 次形式について
概要:可解リー群が推移的に作用するコンパクト多様体を可解多様体という.
可解多様体はほとんどケーラー構造をもたないものの,ケーラー構造をもつための必要な条件を満たす例は複数ある.
そこで, 可解多様体において, ケーラー構造を含む構造について考える.
エルミート多様体において,リーマン計量を局所的に共形変換するとケーラ構造となるとき,これを局所共形ケーラー多様体という.
非ケーラー多様体の例として,Kodaira-Thurston 多様体や井上曲面が知られている.
これらは局所共形ケーラー構造をもち, 可解多様体である.
本講演では, 局所共形ケーラー可解多様体の基本 2 次形式を決定し,局所共形ケーラー構造をもつ可解多様体の構造定理への見通しを与える.
庄田 敏宏(関西大学)
タイトル:三重周期的な極小曲面全体のモジュライ空間上の周期写像に対する横断性定理の適用
概要:三重周期的な極小曲面は界面活性剤の数学的モデルとして扱われている。
1990年代に物理学者たちによって多くの変形族が構成された。その中で、一つの変形族から他の変形族が枝分かれする、分岐現象がしばしば見られた。
一つの変形族のどの点から新しい変形族が枝分かれするかが問題としてあがるが、極小曲面の退化次数が4以上の地点がその候補となる。しかし、それですべてが記述されるわけではなく、退化次数が4以上でも、新しい変形族が枝分かれすることもあればしない場合も起こり得る。
本講演では、三重周期的な極小曲面全体のモジュライ空間上の周期写像に横断性定理を適用することにより、新しい変形族が枝分かれしない場合を分類できるという、最新の結果を紹介したい。本内容は江尻典雄氏との共同研究に基づくものである。
田中 真紀子(東京理科大学)
タイトル:コンパクトLie群の極地と対蹠集合
概要:連結コンパクト対称空間Mの極大対蹠集合の合同類を分類する際に、MをコンパクトLie群Gの極地として実現し、Gの極大対蹠部分群の共役類の分類結果を利用することが有効である。Mによっては、連結コンパクトLie群の極地としては実現できないが、非連結コンパクトLie群の極地として実現できるものがある。連結コンパクトLie群の極地についてはChen-NaganoやNaganoによる詳しい研究がある。非連結コンパクトLie群の極地について田崎博之氏との共著論文で調べたのでその内容について説明する。
橋堀 恭矢(釧路工業高等専門学校)
タイトル:境界付き特異曲面に対するGauss-Bonnet型定理について
概要:古典的なGauss-Bonnetの定理は,正則な閉曲面に対するGauss曲率の積分とEuler標数を結びつける等式であり,微分幾何学と位相幾何学をつなぐ重要な架け橋となる定理である.この定理を特異点を許容する曲面(特異曲面)へと一般化する試みとしては,閉波面に対するSaji–Umehara–Yamadaによる結果や,交叉帽子に対するKuiperによる結果などが知られている.本講演では,これらの研究を踏まえ,境界をもつ特異曲面に対して得られたGauss-Bonnet型の定理を紹介する.また,そこから導かれるいくつかの公式についても紹介したい.
藤井 忍(公立千歳科学技術大学)
タイトル:実Grassmann多様体のs-可換集合とClifford代数の表現について
概要:カンドルおよび対称空間内のs-可換集合とは, その任意の2点に対して, それぞれにおける点対称が可換である集合であり, 田丸博士氏らによって導入された. s-可換集合は対蹠集合の一般化になっており, カンドルや対称空間の幾何学的構造に関する情報を持っていると考えられている. しかし, 現時点ではいくつかの具体例が知られているが, 詳細の多くは明らかになっていない. 本講演ではClifford代数の表現から実Grassman多様体のs-可換集合を構成することができることを紹介する. 時間があれば, 講演者の結果と田中真紀子氏・田崎博之氏の実Grassmann多様体の極大対蹠集合の分類結果との関係にも触れたい.
溝口 史華(大阪公立大学)
タイトル:Quiverから得られるsolvable Lie代数と幾何構造
概要:与えられたLie群がどのような左不変幾何構造を許容するかどうかを調べることは重要な問題である. 特に, solvable Lie群やその特別な場合であるnilpotent Lie群は分類が難しく, これらの上の幾何構造についても一般的な議論が困難である. 本講演では, cycleを含まない有限quiverからnilpotent およびsolvable Lie代数を構成する方法を紹介する. さらに, この方法によって得られたLie群が, Ricci solitonなどの特別な左不変幾何構造を許容する条件についていくつかの結果を述べる.