2010年 前半

新Googleサイトへの移行に伴いまとめたもの

文字より画像で検索 

今年3月まで,私立の新設薬学部に5年間勤務した際に経験した話である. 試験前になると大勢の学生が質問にやって来る.「熱心でいいじゃないか」と言う人もいるが,実際は問題の先送りに伴う一夜漬けの産物である.過去問の模範解答を訊きにくるケースがほとんどである.

講義の後,その度毎に尋ねてくれたら,こんなに集中することはないと文句を言いたいが,言ったら不親切な先生の烙印を押されるので,思っても言わないこ とにしている.最近はオフィスアワーなどなきに等しいといっても過言ではない.オフィスアワーなしで随時受け付けている教員が居るので,制限すると目立つ 風潮ができてきたということである.

私は,学生のすべての質問についての回答や追加説明をWEB上に公開し,疑問点,知識を皆で共有している.ある日,学生が質問にやって来た.その質問な ら,webに掲載しているよと言ったら,見ていないとのことであった.さっそく私のパソコンを使って見せてやったら,けげんな顔ををしている.いろいろ話 しをしているうちに原因がわかった.学生は文字検索をしないのである.

学生に実際に検索してもらった.その学生は教科ホームページに入らず,Googleの検索を始めた.それも文字検索ではなく,画像検索であった.いきな り,Diela-Alder反応を画像で検索するのである.びっくりしたが,今風と言ってしまえば,そうかもしれない.学生が帰った後,自分でやってみる と私が公開している教材の画像が次々に表示される.画像だけであるから断片的であるが,それを手がかりに前後の説明に行き着けるわけである.

最近,液相画面を指でなぞると本のページをめくるように読めるという機能を持った薄型端末が発売された.伝え聞くところでは結構人気があるようであるが,それで本を読むようになり,勉強するとは思えないが,情報に到達するきっかけにはなりそうである.

(平成22年7月13日)

直帰率について 

ホームページには,アクセスカウンターというものが付けられている.

一定の期間に訪問してくれるユーザーの数を手っ取り早くカウントするためのものである.単にカウントするものから,同一ユーザが短時間に重複してアクセスするのをチェックする機能の付いたものなど様々である.

アクセス数だけではなく,ユーザの滞在時間,リピート度,ページ数,地域,ブラウザの種類等を詳細に解析するために,アクセス解析ツールやサービスが開発,提供されている.

その中に直帰率という項目がある.用語解説では,次のように書かれている.

ホームページがウェブサイトに訪問した人が、入口となった最初の1ページ目だけを見て、サイト内の他のページに移動せずにサイトから離脱(ブラウザを閉じたり、他のサイトに移動してそのサイトを退出すること)してしまう割合。

崇城大学薬学部の場合,7月5日における過去1ヶ月間のアクセス数は4194件(新規セッションの割合 31.28% )であった.直帰率は 68.65%であり,2879件はトップページをちらっと見ただけで他のページを見ずに離脱していることになる.残りの1315件 がそれなりの閲覧をしていることになるが,ページビュー数(6765)から平均1.9ページを見ているということになる.1日に換算すると,約44名程度 が情報を求めてアクセスしていることになる.ところが,現在ペーパーレス情報処理実習が週2回行われているため月曜日,木曜日はアクセス数が通常より多い ことを考えると1日のアクセスは40名弱と見積もることができる.


[一言] 上記のようなことを気にしていたらホームページの制作,管理運営はやってられないというのが本音であるが,学部を運営している人達が何を情報発信すべきか真剣に考えることが肝要である.

(平成22年7月5日)

投稿論文の引用は適切か(Chem. Pharm. Bull.の場合) 

日本薬学会の欧文誌 Chem. Pharm. Bull.の電子版最新号を見ていたら,どこかで見たような気になる論文があった.

以前,論文で扱っている化合物と同じ化合物について構造活性発現機構について考察した論文がアメリカ化学会のJ. Org. Chem.に掲載されていたので,目に留まったわけである.ところが,Chem. Pharm. Bull.の論文では,まったく触れておらず引用すらされていない.引用論文を見ると,他の研究者の論文は1報もなく自分たちの論文だけである.査読の 際,その領域に通じた審査員ではなかったのであろう.それにしても投稿者のみならず審査員にも問題がありそうである.

今回の著者等が記載している研究内容(キーワード等)で化学系データベースを検索したら,一発で関連研究がリストアップされる時代である.今回は,自宅 からGoogleで検索してみたが,関連論文のJ. Org. Chem.や Tetrahedron のAbstract(図入り)が見つかった.

以前,Diels-Alder付加体がclathrate(結晶包接体)形成能を有することをTetrahedron Lettersに速報として最初に投稿した際,レフェリーから関連研究の引用論文の不備を指摘されたことがある.新規性の裏付けとして,総説等の引用が必 要であるということであった.このような指摘が可能なのは,Tetrahedron Letters等は学会誌とは異なるため学部の垣根を越えた広領域の専門家が審査員として確保できているためである.

このようなことでは Chem. Pharm. Bull.の質的向上は期待できそうにない.外国の大学図書館ではますます読まれなくなってしまうだろう.


[一言] 投稿者は新規性を前面に打ち出して投稿するわけであるから,その妥当性を判断するのがレフェリーや編集員の役割と思うが,データベースで調べることもせず 手を抜いているようである.ある編集員によると,最近は明らかに英文チェックを受けていないと考えられる論文もあるとのことである.

(平成22年6月26日) 

九大薬友会からの同窓会費免除通知 

九州大学薬学部同窓会(薬友会)からの連絡によれば, 70歳を越えた同窓会員の会費を免除にするとのことである.

粋な計らいと言いたいが, 40数年前に終身会費制度を作り, その利子で運用できると見込んだ良き時代があったことを思い出した. 当然のことながらその後経験したオイルショック, バブル崩壊等の経済状態の激変がそれを許すことはなかった. 積立金を取り崩しながら同窓会の運営や会報の発行などが続けられた. 九州大学薬学部に限ったことではない. 今回の免除は,そのような背景を知る人の計らいかもしれないが,確証があるわけではない.

熊大薬同窓会の世話役の教員にこのことを話した. 熊大薬同窓会は高齢者に依存している割合が高いため, このような配慮は無理との個人的見解が返って来た. 裏返せば, 若い世代の関心が少ないことを意味している.

最近, 九州大学は100周年の記念事業, 熊本大学薬学部は125周年の記念事業が計画されている. 研究助成金集めを絡めているのも事実である. 法人化後, 研究費調達は各大学の自助努力が求められるようになったため, 寄付を募るなど運営が私立大学に近いものになってきていると指摘されている. 熊薬の場合は, 法人化前から「1年に1万円,十年間納める研究助成」が随時受付で実施されている (2回目を募集中). 同窓生に研究資金を求めることに反対するわけではないが,バブル時代とは異なる経済状況であることを考えるべきである. 本来は研究成果を利用促進することによる研究費の獲得が求められているのではないだろうか.

同窓生依存の研究費集めは国の文教行政の貧困の裏返しであることを物語っている.

[一言] 九大薬友会からのメールの返事は半年後にやってきた. 担当教員のメールによれば, 半年メールを見ていなかったとのことである. 大学のIT化はほど遠い.研究に専念していたらそんな暇はないという特有のムードが存在することは事実である.

(H22/6/20) 

続・クラス会ホームページの行方 (K大薬学部同窓会の場合) 

K大学薬学部在職中に,昭和38年卒のホームページを作った.6年以上前のことである.

同窓会の学内委員をしていたこともあり,同窓会が老人依存だけではなく若い人の関心を高めるにはウエブ版の充実が必要と考えたからである.それとは別に, K大学薬学部は独自の情報教育を他大学薬学部に先駆けて実施してきたこともあり,情報処理教育を受けた学年が”真似”をしてくれると思った.

同窓会のページは,最初は薬学部ホームページに間借りして試験運用していたが,同窓会報のPDF版を掲載することになり,専用サーバが必要になった.

大学事務組織とは関係のない団体(同窓会)のホームページは,教育研究目的の学部ホームページと同居すべきではないことを説明し,専用サーバを同窓会予算で購入してもらった.その際,設置場所,プロバイダ,LAN接続費用, 終夜運転の電気代等についても議論したが,そこまで厳格に考えることはないだろうということになった.

国立大学における会計監査への対応等を考えると,他学部と同様に学外に置くべきと主張した.しかし,同窓会事務室は学内の百周年記念館にあり,学外にあるわけではないので,サーバだけを分離し,サーバを終夜運転する経費問題などは先送りになった.平成17年,私は定年退職したが,同窓会ホームページの管理は業者に委託したという話を聞いた.

ところが,今回,2回目の定年を機に,昭和38年卒クラス会ホームページを同窓会ホームページサーバに移設したいと申し入れたら,学内LANに接続されているので,学外からのアクセスはまかりならぬということになった.大学センターに問い合わせたら,法人化後も同窓会サーバを学内LANに接続することは許可していない,薬学部だけが学内LANに接続されているという返事があった.

結論から言うと,業者に委託した後も,5年以上大学のLANや電気を使って運用していたということである.同窓会は,研究面で若手研究者等を金銭的に援助しているので,なぜ同窓会サーバを学外に設置しなければならないか理解できないだろう.

クラス会ホームページは行き場がない.そろそろページを閉じる時期かもしれない. 

(平成22年6月3日)

追記 

国立大学の法人化が進む中,同窓会ホームページサーバの設置場所について注視してきたが,大学のネットワークを管理,運営しているセンター教員の考えは私と同じであり,学外に設置すべきとの見解である.学会等における見解も複雑である.「当該機関から独立した存在」としながらも,黙認している機関もあることから,現状分析と問題提起に止めている.

高等教育機関におけるネットワーク運用ガイドライン 第一版キャンパスネットワークの運用ポリシーと実施要領 策定に関する指針 社団法人 電子情報通信学会 社団法人 情報処理学会 社団法人 電気学会 平成15年1月29日 

5.3 例外規定

各高等教育機関においては、同窓会や生協等に対して、当該機関のネットワーク設備に対する利用を許容しているところも多いと思われる。そのような団体等は、当該機関から独立した存在ともいえるが、そのような団体に対しても原則としてポリシー等の適用範囲にあることを明らかにしておく必要がある。

高等教育機関の情報セキュリティ対策のためのサンプル規程集

(2007 年度版) 2007 年10 月31 日 国立情報学研究所 ネットワーク運営・連携本部 国立大学法人等における情報セキュリティポリシー策定作業部会 電子情報通信学会 ネットワーク運用ガイドライン検討ワーキンググループ

九 教職員等

本学に勤務する常勤又は非常勤の教職員(派遣職員を含む)その他、部局総括責任者が認めた者をいう。

解説:同窓会、生協、TLO、インキュベーションセンター、地域交流センター、財団などの職員を含む考え方もある。また、受託業務従事者についても委託業務の内容に応じて教職員として扱う考え方もある。学内規定の体系の中で「教職員」「学生」が定義されているならば、九項と十項は省略可能であるが、定義に含む範囲に注意が必要である。

七 営業ないし商業を目的とした本学情報システムの利用 

解説:本サンプル規程集の「A1001 情報システム運用基本規程」第三条九号「教職員 等」の解説にあるように、大学の活動との関連で同窓会、生協、TLO、インキ ュベーションセンター、地域交流センター、財団などが利用することは想定される。ただし、その利用の目的を大学の教育・研究活動および運営を支援する業務に限定して、営利業務のネットワークを別に用意するとしている大学の例があり、A 大学もそのような運用をしている。 ただし、大学施設内の組織や関連事業の営利業務に利用できることを利用規程の定めあるいは全学総括責任者の判断によって認めるような方針もありえる。

学外設置を明記しているところの実例

同窓会 | 佐世保工業高等専門学校 www.sasebo.ac.jp/snct/graduate/association

同窓会ホームページについてのお知らせ. 同窓会の公式webサイトは、学外のサーバで運用されています。 

お年寄り同士でインターネットテレビ電話をする 

親戚の70歳をこえた老人間でインターネットを使ったテレビ電話を行うことにした. ことの始まりは,姪が外国に留学するにあたり, 父親がYahooメッセンジャーをテストしておきたいという話に気軽に承知したというのが真相である.

iMacなどには, 最初からそれを想定したテレビカメラやマイクが付いているので, 簡単にテストできると思ったが, 相手は, ヘッドセット後付けのWindows機, さらには, Macとはアプリケーション開発レベルが違い, メニュー画面, 設定, 操作等で微妙に異なるところがあり, 四苦八苦した. とりあえず, こちらもWindows機を使って, 通常の電話片手にインストールや設定を行ったが, 用語やその存在意義の説明に苦労した. インストールが終了しても用済みのwindowを閉じてないため, どのwindowを見てよいのか分からないという具合である, さらに, 画面を見る際の年寄り特有の見方が問題であるようだ. 車の運転の際に, バックミラーをまんべんなく見るように努めるのと同じであるが, それができないらしい. 全体をちょっと見て, いろいろなメッセージやボタンの中から必要なものを探すのにかなり時間がかかる. ちょっとでもよいから, ヘルプ,オンラインマニュアル, Q&A等を見てほしいが, 要求したらやる気がなくなるのは確実である. とにかくすべてを教える必要がある. 同じことを繰り返し繰り返し経験しながら憶えるしかない.

もっとも苦労したのは, 画像を見せるか否か, そのための可否の確認への対応である. その点ではSkypeは簡単であり,通話と映像が同期しているので,お年寄り向きかもしれない.

とりあえず, 4名のお年寄りがテレビ電話に対応できるようになった. 皆, 無料であることを喜んでいるようだ.

[一言] 薬剤師の卒後教育はこんなものになるだろうと思った.

実務実習の巡回指導に加えて, インターネットを使ったテレビ電話を利用することを6年制設置申請書に書いたのだが, どうなっているのだろう.

(平成22年5月30日) 

依存症だらけ 

韓国におけるコンピュータ依存症の現状について報じていた.

ネットゲームから抜けることができない若者が増え, 韓国政府も対策を講じるとのことである. ネット中毒対策のための授業を学校で始める傍ら, 深夜はゲームができないようにするシステムを導入するらしい. IT先進国を自認し,成長産業と位置付けているのに皮肉なものである.

コンピュータゲーム依存症の人は明らかに大脳に障害が認められ, 自制できなくなっているようである. コンピュータに限らず. 酒, タバコ, パチンコ等も同じようなものである. 最近, ウッズ(ゴルフ)の不倫も性依存症として話題になっている. 古来,”英雄色を好む”と云われるが, これも依存症の一つということになりそうである.

もっとも深刻なのは携帯電話かもしれない. 大学生を見ていると授業が終わると携帯, 部屋の外で話し声がするので, ドアの所に行ってみると廊下で携帯電話,質問に来た学生も途中で携帯電話の音で中断, ゼミが終わるのを待って携帯電話, 玄関を出ると携帯, そのうち携帯電話依存症を治療する専門医が登場するだろう.

携帯電話やテレビは, ゲーム依存症ほど病的ではないため,依存症とは言えないかもしれないが, 精神生活が確実にコントロールされていることは確実である. その典型的な例として,入学時に学生に交付した大学メールは使えないという事実がある. 一億総白痴化のため, 皆が病的に感じなくなっているだけではないだろうか.

私も年齢の割には, コンピュータを使用する方であるが, 書き物, 計算, 情報収集がほとんどである. もしコンピュータが使用できなくなると逆にストレスが増すことは確実である. 社会のネットワーク化により, 休日に大学へ行って, メールを読む, 計算処理をする, あるいはホームページの保守をする必要がなくなった. ストレス減少に大いに役に立っている.これも依存症の一つと言う人もいるかもしれない.

[一言] 教員の中には, ITに弱いため, 自宅と大学をVPNで繋いで作業することができず, 休日に大学に来て, パソコン作業を行っている人もいる. ”若い教員が土曜日に出て来てない”と言う人でもある.

(平成22年5月27日) 

アルコールの使用期限 

商品に◯◯期限というものが記載されるようになってかなりの時間が経過した.食品の場合,製造年月日の表示から賞味期限へ移行したのは1995年(平成7年)である.

食品の期限はそれなりに理解できるが,日本薬局方のエタノールに使用期限が3年と書いてあるのには疑問を感じる.一律ではなく用途に応じた使用期限が あってよいと思う.本来なら,街角の化学者である薬剤師に用途を言って相談すれば,用途に応じた正解が得られるはずである.しかし,それがかなわない時代 かもしれない.卒業実験などで,アルコールを扱っていれば,アルコールの物性から容易に解答が得られるはずである.何を基準に使用期限を設定したのか分か らないが,アルデヒドや酢酸に変化するというのだろうか? 化学者ならすぐに答えが出るはずである.

口に入れるアルコール,酒はビールを除き期限はないようである.数年寝かせるた方がうまい酒もある.マニュアル人間には理屈を言うより,廃棄させた方が よいということかもしれないが,もったいない.もともと飲用ではないのだから,それなりに流用すればよい.例えば,無水エタノールなら少し薄めて消毒用エ タノールにしてスプレーに入れて噴霧することにより,エアコン内部の消毒に使うことができる.そのままなら燃料にすることも可能である.水では落ち難い色 素なども落とすことことができる.

使用期限を記載することにより,用途に関係なく捨ててくれるのでメーカーには都合がよいかもしれない.調味料の穴の直径を大きくしたら消費拡大し,儲けたという発想に近いような気がする.

なお,クレゾール石鹸液の使用期限は5年である.アルコールと同様に,「使用期限を過ぎた製品は使用しないでください」と書いてある.

情報処理担当者の評価 

教員選考に関連して,私が推薦する人の競争相手は周辺の大学に居ないのか問い合わせがあった.有機化学と情報処理学を教えることのできる薬剤師教員がいれば,狭い薬学界のこと,常日頃知れ渡っているはずである.なぜこのような問い合わせがあるのか疑問に思った.

ところで,コンピュータが世の中に登場した頃は,コンピュータは計算機専門家しか理解できないものであった.コンピュータを使用するためには,それを設置している場所(計算機センター)に出向く必要があり,コンピュータを維持するために数十人の職員が雇用されていた.

ところが,パーソナルコンピュータが登場すると,「出向く」方式の計算は少なくなり,さらにネットワークが敷設されるとセンターへ出向くことはなくなっ てしまった.さらに,大型コンピュータは,ユーザの仕事を小刻みに同時進行で処理する方式から,専用のコンピュータで処理する方式に変化した.そのため, 最近は「専用サーバ」と呼ばれるパーソナルコンピュータが利用される.たとえば,メールの配信はメールサーバ,ホームページはホームページサーバが担当す る.

このような方式になると,数多くのサーバを保守するために,専門家を雇うわけにはいかず外注ということになる.ところが,在って当たり前の世界,緊急を要することが多く,近くにいるパーソナルコンピュータの取り扱いに詳しい人間が管理することになってしまう.

ほとんどの大学ではLANが敷設されているが,分離キャンパスに位置する学部,学科は,ネットワークやコンピュータの保守に一段と苦労するものである. 私の研究室は研究上,コンピュータを利用するため学部LANの保守を担当するのが当たり前ということになってしまった.正常に稼働しないと自分たちも困る ので迅速に対応,修理する努力が身に付き,センター職員と同程度の知識が付いてしまった.そうなると有難味も感じてもらえなくなるものである.そのこと は,教員の評価においても同じであり,有機化学+情報処理学の能力が有機化学だけで評価されてしまう傾向が見受けられる.情報処理学に詳しいと有機化学上 の問題解決に役に立つし,発想の転換をもたらすことが多い.1+1が2ではなく,3,4になってしまう典型的な例かもしれない.

教員選考委員は,情報処理学の神髄を知り,各専門領域の原点にもどり,情報処理学を絡めながら多角的に評価してほしいものである.


やはり,いい加減では? 

口蹄疫が予想を超えて広がり,宮崎県だけの問題ではなくなった.

5/18のネットニュースでは,「宮崎県が口蹄疫発生見逃し」という記事が流れている.同県家畜保健衛生所が,感染した水牛を診察しながら発生を見逃して いたことがわかったということである.当然,マニュアルに従い診断し結論を出したのであろう.今になって調べるみると,判断が甘かったようである.

「最近の若い者は」と誰かが言うと,「最近の若い者は,それなりにやっている」と反論する人がいる.その理由は,携帯電話やコンピュータ操作の対応能 力?を根拠にしている.果たしてそれは正解であろうか? 単に,マニュアル人間と指摘する人もいる.難しい原理が分かる必要はない.しかし,すこし理屈が 分かっていると無駄をしない.そういう意味では甚だ疑問である.

通勤電車がカーブを回りきれず,ビルに突っ込む,高速道路や国道で大型車が横転する,さらには工事現場でクレーン車がバランスを崩し隣家を直撃する,こ れらはマニュアルに書いてある通りにしたはずなのにということであろうが,基本的な物理の原理が分かっていれば防げたものが多い.若者が修得している知識 はマニュアルに書かれている手続であり,原理に裏打ちされたものではない.

難しいことを言っているのではない.簡単な原理を知った上で,マニュアルを読んでほしい.


[一言] 医師と看護士が不倫の後,栄養剤と称して子宮収縮剤を飲ませたというニュースが流れている.マニュアル上では問題ないと思ったのかもしれない.こんなことで薬を処方されたらたまったものではない.

(平成22年5月19日)

外国ではワカメは悪者扱い 

2010/5/17日朝のNHKで,所変われば,ワカメは悪者という話を報じていた.

ニュージーランドの養殖業者がワカメの繁殖で,漁獲が減り泣いているという.おまけに網を引き上げると重さで網が破れる等の被害も出ているようである.

その原因は,船のバラスト水のためというから,対策が大変である.船は荷物を下ろすと,浮き上がり不安定になるため,大量の海水を船底に注入する.荷物 を積むときは逆の操作をするわけだから,何万キロも離れた港間で海水のカクテルができるわけである.日本や韓国の港で注入した海水にワカメの胞子が混入 し,それがニュージーランドの海で放出され繁殖しているわけである.ニュージーランド人はワカメは食べないため,処理に困っているとのことである.

ニュージーランドの限らず,世界中で問題になっており,浄化することが義務付けされる動きがあると報じていた.設置には高額の経費が嵩みそれが商品に転嫁されたり,荷下ろしができない等の問題が生じる可能性があるようである.

日本は中東から大量の原油を運んでくる.その際,往路は屋久島の淡水を砂漠の国に運んでいるという記事を読んだことがある.この話,その後どうなったのだろうか.この報道を担当した記者が生まれる前の話である.調べてみる必要があるようである.

最近,東京湾で熱帯の海藻や魚が確認され,地球温暖化の影響と云う人がいるが,バラスト水に運ばれてくる可能性も否定できない.


[一言] ネットで調べると,タンカーによる淡水輸出のアイディアが提案されていた.タンカーによる淡水輸出はアイディアだけであった可能性がある.

(平成22年5月17日) 

三遊亭楽太郎改め六代目三遊亭円楽襲名披露 

子供がチケットを送ってくれたので,落語を聞きに行った.

他の出演者;小朝、夢之助、歌之介、兼好

5/11火18:30 崇城大学市民ホール(熊本市民会館)

三遊亭兼好が「蛇含草」,三遊亭歌之介は「龍馬伝」,さらに春風亭小朝が「蝙蝠」であった.中入り後,三笑亭夢之助が「お見立て」,最後に三遊亭円楽が登場し,「浜野矩随(はまののりゆき)」を演じた.

銀座落語まつり,天神落語祭り,テレビの笑点などで見ている楽太郎とはひと味違った演技?であったが,目線が向かって左側に集中していたのは気になっ た.右側の座席に座っていたため,そう感じたのかもしれない.昨年秋の福岡天神落語祭りを主宰していた時に師匠がなくなったので,半年後の襲名公演という ことになる.今後の成功を期待したい.共演者の鹿児島出身の歌之介の話(龍馬伝)は満場を笑いに誘った.社会風刺,政治問題を絡め時代を超えた軽快な語 り,鹿児島弁特有の抑揚は九州人受けしたようだ.久しぶりに笑い転げた.

これからの薬剤師は対話力が大切であると言われて久しい,コミュニケーション学の一環として落語を聴かせたらいかがだろうか.想像力を鍛えるのに役に立つ上,日本語,歴史,人情の勉強にもなる.

帰宅して大学からのメールを見たら,突発的学生問題(修学拒否)で走り回り,学生実習指導どころではなかったと書いてあった.

学生,教員,笑って語り合う日の来ることを期待したい

(平成22年5月11日) 

ホームページのアクセス数 

ホームページのアクセス数を知るためにアクセスカウンターが利用されている.

開設以来何万何千と称して喜んでいるが,精査すると手放しでは喜んでおれない.

崇城大学薬学部のホームページを調べた結果,”直帰率”が高く気になる結果である.

直帰率とは,ウェブサイトにアクセスした人が,入口となる最初の1ページだけを見てサイトから離脱してしまう割合である.

調査期間:今年度4月10日~5月10日

本学科トップページは,1日平均100人がアクセスしているが,そのうち64%はちょっと見て「新規な情報はない!」ということでそれ以上は閲覧せず,帰って行くようである.

研究室HPの閲覧に繋がるMapおよび教員一覧は,直帰率が高く80%に達し,たいへん気になる結果である.

検索サイトのロボットが更新の有無をチェックしにくること,ブラウザの起動時に薬学部ページを表示させるように設定している人がいることを考慮すると,アクセス数はかなり低い値になる.


原因は,更新されていないの一言に尽きると思う.


なお,各研究室への直接アクセスについては調査していない.

トップページ

セッション 3512

ページビュー 5893

平均ページビュー 1.68

直帰率 64.01% ←

新規セッション率 37.41%

Map式研究室案内

セッション 704

直帰率 86.65% ←

教員一覧

セッション 287

直帰率 74.22% ←

英語版トップページ

セッション 64

直帰率 81.25% ←

[一言] 薬学部開設時,個人的に立ち上げたホームページであるが,実質アクセス数が低いと気になる.

(平成22年5月10日) 

家電製品故障の原因 

時間がないので,後回しにしていた電気製品等の修理をしてみた感想である.

全体的な印象としては,新製品の開発に追われ,そんなに長くは使用しないだろうという前提で発売したと思われる故障が多かった.

・空気洗浄機 ナショナルイオンリッチ:使用できるがファンの回転時に音がする.何かに触れているような音である.分解してみると円筒形のファンとモータ 軸は繋がっているが,合成樹脂のファン中心部に差し込んである金属軸の締まりが悪く,マータは回転するがファンが付いていけない状況であった.

・エプソンデジタルカメラ:ニッケル水素電池が満杯に近い時だけ動作する.完全な設計ミスと思われる.現在,全面撤退.

・日立エアコンリモコン:押してもボタンが効かない.安い汎用もので代用することができた.電気洗濯機でも同様な症状が出たことがあり,その時はタッチパネルの交換をしてもらった.

・ソニーCDプレイヤー:回転の振動が金属製上蓋に伝わり,振動音がするため,重いものを乗せた状態である.

・ソニービデオカメラ:モータ,液晶画面の同期ズレ.修理に出した際,新製品のパンフレットが入っていた.現在再故障のため,キャノンに乗り換え.

・IOデータ液晶モニター:修理するより新品を購入した方がお得とのことで,割引購入の指示に従った.

・シャープエアコン:室外機モーター故障のため,室内,室外機交換.

・NEC蛍光灯;3管を電子制御する基盤が機能しなくなった.

・人感センサーライト:ウエブで人気の製品(Qライトマルチ)だが, 一年で利用不能.悪い製品に当たったのかもしれない.

・電球型蛍光ランプ:100W相当型は長持ちしたことはほとんどない.

・ナショナルCDラジカセ リモコン:ボタンを押しても効かない.本体で操作できるため,代用品はさがしていない. 

・浴室換気扇:サンヨー製シロッコファン,軸を手で回してもスムースに回転せず,油を注しても温度が低いと回転が止まる.インダクションモータの交換品がない.

[一言] 外国製が多いのも一因かもしれない.それにしても自家用車(トヨタ ビスタ)は13年間一度も故障しなかった.購入時に国内生産品か確かめる人が多くなったと聞くが正解かもしれない. 

医療費(調剤報酬) 

退職後, 医薬分業の存在意義について考えることが多くなった. これまで薬学部に籍を置いたとはいえ,ずっと基礎系であり,研究者養成に近い領域に居たため薬剤師養成教育を真剣に考えたのは,私立大学へ異動した後であ る.それでも実家が薬局であるため,他の教員よりは薬剤師に関わる問題を容易に理解できたのは事実である.逆に考えると,他学部出身者や研究のみをやって きた教員(ほとんど)にとっては,発想の大転換をしないと付いて行けないのではないかと思うことも多かった.規制緩和で全国に薬剤師養成学校が雨後の筍の ように誕生したが,薬剤師をつくればよいという問題ではないことを大学経営者は分かっているのだろうか.最近は,巨額な財政負担を必要とする医療費の削減 に医薬分業が役に立っているのか疑問と指摘する声も聞かれる.

我が国の医療制度, 医療費について具体的に料金で考えてみると, 医療従事者の存在性と責任が見えてくる.

平成22年4月より, 調剤報酬が改訂された. その内訳の概略は, 以下の通りである.

処方箋による調剤費用=薬剤料

+調剤技術料(調剤基本料+調剤料+各種加算料)

+薬学管理料(薬剤服用歴管理指導料+薬剤情報提供料+長期投薬情報提供料

+後発医薬品情報提供料+調剤情報提供料+服薬情報提供料+その他)

1点は10円となっており, 基本調材料 40点, 基本調剤加算 10点,調剤料 5点×日数, 薬剤服用歴管理料 30点, 薬剤料 薬価×薬剤個数である.

例えば, 典型的消炎鎮痛剤(ロキソプロフェン 60mg)1回1錠1日3回服用3日分で, 薬代は180円程度なのに, 約1100円の費用がかかる. 健康保険で3割負担の場合, 約330円を支払うことになるが, 各種加算を考慮すると実際に動く金額は医師の処方箋発行料を加えると2000円位になる. 当然のことながら, 薬剤師の居ない医院では動く金額は少なくなる.

このように見てくると, 調剤報酬が妥当なのか判然としないが, 大手チェーンが参入していることを考えると経済状況に左右されずビジネスとして成り立つのであろう. 薬剤師は, 各種加算に見合う責任を負っていることを自覚する必要がある. また, 薬系大学の教員もそのことを自覚し, 教育にあたる必要があることは言うまでもない.

[一言] 医薬分業は薬浸け医療を是正するために厚生省が推進してきた. ところが薬の使用量が減ったという情報ははっきりしていないようである. 「院内処方では院外処方に比べ“500円前後”薬剤料以外でお安くなります」と宣伝している病院も出始めている. 

単結晶の依頼解析をやって良かったこと, 悪かった?こと 

X線解析の専門家ではない有機化学者が解析できるようになっても, 計算機科学の敷居が高く, 解析を依頼されることが多くあった.

解析に先立って, 話を聞くと解析する必要があるものばかりであり, なるべく引き受けたかったが, 研究室分が多く最少に絞らざるを得なかった.

研究室分と書いたが, それにはそれなりの意味がある. 田口教授の後任として名古屋大学工学部から兼松教授が赴任したが, 解析待ちのサンプルを数多く持ち込んで来た.

サンプルの中には一流国際誌に報告済みのものもあった. 解析してみると, NMRスペクトルによる構造とは異なるものが多く, 解析結果を報告するのに苦労した.

典型的な例は J. Org. Chem. に報告された phencyclone と azepine の反応がある. 熱禁制の6π+2π反応が惹起したと報告されていたが, 実際は phencyclone が2π, azepine が4πで反応したものであった. その後, この反応は phencyclone が4π, azepine が2πで反応した後, Cope転位したものであることを明らかにすることができた. 同類の反応成績体で構造がはっきりしないものとして, diazacyclopentadienone と azepine の付加体があり, 生成経路も前者と同じと結論を出すことができた. 両方の付加体とも淡黄色の結晶であり, enone 構造が示唆されたが, それを無視して結論を出していた.

熊大への異動直前に解析した化合物は, 英国の化学者に構造の誤りを指摘されたものである.合成したグループはすでに他大学へ転出していたため,私のグループが 急遽解析した. 結果的には, これも化合物の色を無視した結果であった. 本化合物は, dialkylthiodiazathiophene を酸化して thiophene dioxide として, fulveneと反応させ, 世界で初めて diazaazulene を合成したとして Chem. Commun. に報告されたものであった. 4π+6π付加の後, 脱SO2反応が起り azulene を生成すると推論していたが, thiophene dioxide は生成しておらず, 当然アズレン骨格ではなかった.

そのほか, 他研究室の化合物をいくつか解析したが, X線解析を行うまでもない化合物が多く, いまだに報告にもなっていないものがある.

構造が間違っていると, 感謝されるどころか, 恨まれるような気分になることがあった.被害妄想だろうか.

[一言] 当時は測定料金, 計算費用とも高額であり. 現在のように気軽に測定できなかっただけに, 構造が違っていると解析結果の報告に気を遣ったものである. 関係者には,暴きに聞こえるかもしれないが,後学のためにご容赦願いたい. 

X線解析を始めた理由 

X線解析を始めた理由(”四軸回折計が設置されていなければ武田研究所に頼むんだが”の一言)

私が単結晶X線解析X線解析を始めた理由は恩師 田口胤三教授の一言に始まった.

1970代の初め, カナダの学者が, CMRを駆使して, 我々が速報したインドールダイマーの構造が間違っていることを指摘してきた.

当然, 単結晶X線解析で確認する必要がある.ところが, 九州大学薬学部に四軸回折計は導入されたもののまだ軌道に乗っていなかった. それまでX線回折はその道の専門家が実施するのが常識であり, 植物化学研究室(川崎,古森)を中心に勉強中であった.

田口教授は武田製薬の研究所に大きなコネを持っていたので, そこに解析を依頼することを考えたようである. しかし, 寸前になり断念したと話してくれた. 「九州大学薬学部に機器が設置されていなければすぐに依頼しただろう」とも言っていた.

実際に解析を初めて見ると, いろいろな問題があり, 本気で結晶学や計算機科学を勉強しなければならない事情に直面した.

設置されているX線回折計(四軸回折計)はSyntex社が経口避妊薬の構造決定に使用し, 結晶学の専門家でなくとも解析ができると考え, 解析システムを世界的に販売することになったということであった. 日本では日本分光が代理店を開設していた. ところが, その頃は今のようなパソコンはなく,四軸回折計を操作するには, 紙テープでプログラムをロードする必要があり, そのためにブートストラップローダをスイッチ(4個のスイッチの集合)の組み合わせで操作する必要があった. 

さらには, 米国の汎用計算機(IBM)は32ビット仕様であり, 我が国の大型計算機センターのメインフレーム(国策マシン)の36ビットマシンとは互換性がなく, 収集した磁気テープを計算機センターに持って行き読み込ませるには専門家にビット換算のサブルーチンを組み込む手法を教えてもらう必要があった. さらには, どんな空間群にも対応できる解析プログラムシステムはなく, 天然物でよくみられるP21P21P21専用と聞かされびっくり仰天した. ラセミ体である合成品が自由に解析できるには, 大阪大学蛋白質研究所の直接法プログラム(MULTAN)が九大計算機センターに移植されるのを待つ必要があった.

九大教養部の物理学研究室の上田, 河野の両先生を知ったのはそのような必然性によるものであった. その後, いろいろな問題に遭遇するが, 両先生に相談し, 簡単な会話のみで解決するには, かなりの勉強が必要であり, 結晶学, fortran言語, 計算機システムのハードウエア, ソフトウエアなど多岐に亘った.

そこまで勉強すれば, 分子計算やデータベース等に手を出すのにそんなに抵抗は感じなかった. フロンティア軌道論, 情報処理学等の授業なども原点はX線解析を始めたことにあることは否定できない.

何が幸いするは予測できない典型的な例である.

[一言] 何が幸いするかという見方とは逆に何が災いになるかは紙一重である.

ナトリウムは危険? 

高速増殖原型炉「もんじゅ」に関連して, 「ナトリウムは危険か?」という質問を受ける.

化学が専門でも扱ったことがない人は危険と答えるだろう. 高校の化学で, 化学の教師がまともであったなら, 小さいナトリウム片を水に落とし, 飛び回る実験を見せるはずである. 実験したことのない教師はビデオ程度は見せるはずと思いたい. イオン化傾向のところで教わるはずである.

私は有機化学が専門であるが, ナトリウムを使用する実験を頻繁に行っていた. アルコール ROHをアルコラート RONaにするには金属ナトリウムと反応させる必要があった. メタノールやエタノール等の分子量の小さいアルコール類は簡単に反応するが, 分子量の大きいアルコール類, 例えばコレステロールの水酸基をアルコラートにするには工夫が必要である.

ナトリウムは110℃で液状になる. これより沸点の高いキシレンにナトリウムを浮遊させ, 加熱すると水銀状の液状物質に変化する. その状態で加熱を止め, 密栓して容器全体を布でくるみ, 両手でシェーカーを振るように振動させると次第に温度が下がり, 小さな粒状のナトリウムが生成する. ナトリウムサンド "sodium sand" と呼ばれ, 表面積が広く, 表面がフレッシュ(苛性ソーダが付着していない)なため, 反応性に富む. これを使って反応し難いアルコール類のアルコラートを合成したものである. 何十回も作ったので, 危険とは思わなくなってしまったが, 今学生や院生にやらせるとしたら躊躇するだろう. 評判になり, 研究室の印象が悪くなること請け合いである. キサンテート類 RO(C=S)SR'はこの方法によって作られて来たが, 最近はNaの代わりに, NaHを使用することが多くなった.

ナトリウムは水がなければ危険な物ではない. 湿度の低いところでは, カリウムのように発火することはない.中途半端な知識で行う化学実験にはもっと危険なものはたくさん存在する.

[一言] allylic xanthate類の連続周辺反応に於ける反応基質の合成には, このような苦労があったが,dipolar aprotic solventの出現により, 苛性ソーダ, 二硫化炭素を用いて一挙に反応基質を合成できるようになり, 研究が進展した.桂皮アルコールはその典型的な例である.

(平成22年5月7日) 

高速増殖炉もんじゅ, 海水からウラン捕集その後? 

2010年5月6日, 1991年から試運転を開始し, 1995年末のナトリウム漏れ事故で停止していた高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が午前10時36分,運転を再開した.

何が危険なのかよく質問される.

電気事業連合会の広報に,次の記載がある.

高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、 発電しながら消費した以上の燃料を生成できる原子炉です。 高速増殖炉の炉心の周辺は劣化ウランなどで囲み、 この劣化ウラン中のウラン 238がプルトニウム239に変わり燃料となります。 高速増殖炉は、 高速中性子をそのまま利用するもので減速材は使用しません。 冷却材には中性子を減速・吸収しにくいナトリウムを使用し、 原子炉で発生した熱で水を蒸気に変えタービンを回します。

これだけ読めば, 悪いことは何もない.

しかし, これまでにかかった費用は莫大であり, 停止していても費用が嵩み建造費, 修理費を含めると1兆数千億円を越えているそうである. 当初の計画通りに実現していたら, かなり前に商業運転を始めているはずである.

もんじゅの前に常陽という実験炉(熱出力140MW)が1970年着工, 77年臨界になったが, 2007年6月に炉内の機器損傷を起こし, 現在停止中である. 科学評論家によれば, もんじゅの計画が今後順調に行っても, 2050年頃になるとのことである. 一方, インドは2010年に商業運転を開始すると報道されている.

”資源のない我が国には必須”と言われれば, 素人は何も言えない. そこで思い出すのは, かなり前の朝日新聞の報道である. ある化学者が海水からウランを取り出す画期的な方法を考案したと書いてあった. 全国紙一面であったと記憶している. クラウンエーテルの金属包接能を利用した方法であるが, その後実用化されたか研究結果を知りたいものである.


[一言] 研究費獲得のための”大”大学特有の事前広報だったと聞かされたことがある. 新聞社も報道記事のbefore-afterに心掛けてもたいたい. 

(平成22年5月6日) 

情報処理教育を開始した頃の苦労話 

熊本大学に赴任した頃は,全学的共用施設である計算機センターは存在せず, 黒髪キャンパスに電子計算機室が設置されていた. 実際は九州大学大型計算機センターの汎用計算機の端末室であり, そこへ行ってカードリーダーにプログラムやデータカードを読み込ませれば,専用回線を通して九大大計センターの汎用計算機が利用できた. 計算結果は15インチ幅のラインプリンターに出力,印字された. これでも無いよりはましで,九大に日帰り出張する必要がなく重宝したものである. 研究のスピードもその程度に同期していたといっても過言ではない.

その後, 熊大にも情報処理センター(後に総合情報処理センター)が開設され, 学生の情報教育も実施することになった. ところが, 当時, 情報処理教育を必要と考える学部は工学部のみ, 工学部といえども一部の学科のみで, 折角設置したパソコン端末も開店休業の有様であった. そのような状況であったため,薬学部が他学部に先んじて利用したいと申し入れところ, たいへんな歓迎を受けた. 全学施設とはいえ, 工学部の持ち物といった印象が強く, 教員のはけ口と思われていたことを考えると納得できる.

しかし, 薬学部が利用するまでには, いくつもの困難を克服する必要があった. 新規に開講するわけにはいかず, 既開講の医薬品情報学を情報処理学に変更してもらった. また, 過密カリキュラムの中で, 学生はキャンパス間を移動させねばならないため, その前後に講義を入れられず工夫が必要であった. 熊大では,1,2年次の教養教育は黒髪キャンパスで行われるため, 学生の多くは近くに宿所を構えているのを利用して, 午後の時間帯に開講し, そのまま帰宅できるようにしたが, 昼食後の眠くなる時間帯のプログラミング演習は一部の学生にとってはストレスだったようである.

このような形態での演習は, 医学部地区のパソコンを利用した期間も同じであり, 台数の関係で1日に同じ実習を二度行う必要があった. 薬学部に独自のパソコン室ができたのはそれから数年後の話であり, 富士通のネットワーク構築費用大幅値引きのお陰であることを記憶している人は少なくなっている(1億円以上の実質的な寄付であった).

崇城大学薬学部開設にあたり, 情報教育は総合教育の標準的な内容で予定されていた. そのため, 実習(演習)様式が本学パソコン室利用方式であると聞かされた時は驚いた. さっそく異議を唱え薬学部独自システムの導入を要請したが, それにはこれまでの経験がたいへん役に立った. 設計図が仕上がった時点で聞かされたため, 元々講義室が予定されているところをアクセスフロアに変更しパソコン室に変えてもらった. そのため, 入学定員の半数程度しかパソコンが設置できず, 2回開講方式を余儀なくされ今も続いている.共用試験のCBTも2回実施しなければならないが, それを改善するには建物の増築が必要であり, 情報教育担当教 員の苦労は当分続きそうである.

[一言] 情報処理教育に精通した教員が, 初めから薬学部校舎の設計に関与しない限り, 同じようなことが繰り返されることだろう. 家は二度建てないと満足しないと言うがまさにそのとおりである. 

テレビニュース番組について 

家に居る時間が多くなると,自然にテレビを見る時間も多くなる.

OTC薬の場合,薬の名前を忘れた客がテレビコマーシャルで指名することがあるので, テレビ視聴は必須とのことである.

ドラマや映画はほとんど見ないので, 見るのはニュース番組程度である. テレビ各社の報道番組を見て共通して気になることがある. 政権交代を機に, 「物から人へ」報道にも変化があるのかと期待したが, 旧態依然としている. 政治評論家は批判するだけで, 解決策を示すことはほとんどない.

米軍基地問題では, 「はじめから分かっていた. 公約違反, 結局, 沖縄の負担軽減は実現しないではないか」と言うだけで, どうすべきかの提案がない. 自分の選挙区で引き受けるという話も出てこない. 「選択肢として沖縄しかない」と思っているが言う人はほとんどいない. 全県移設受け入れ反対, 消去法でいくと, その選択肢しかないから言わないだけということかもしれない. 選挙公約違反と言うが, 国民の目を基地問題に向けさせた事実は否定できない. 安保反対時代に生きた人たちは今何を考えているか知りたい.

政治記者が首相, 閣僚, 政治家等に質問するが, 過去問の繰り返しである. 答えも予想がつくし, ニュースの割当時間を埋めるための取材ではないかと疑いたくなる. 記者が政治家の後追いをしながら大声で質問する場面をよく見かけるが, 芸能人対象のそれと何ら変わるところはない.

ニュース番組の話題も全国,地方を問わず, 昨年も, 一昨年も見た内容の繰り返しである. 数年前の映像を流されても判別できないのではないだろうか. こどもの日の前日, 夕方のNHKで「銭湯で”じょうぶ湯”」について触れていた. 明日はその映像が予定されているはずである. 放送局では年間取材計画が前年実績にそって作られており,余程のことがない限り変更はないのであろう.

スポーツ番組のインタビューも「・・したのはよかった」, 「明日に繋がる」等がほとんどである.

教養的な番組もクイズ形式で知識(正解)を得るまでに時間が必要であり, まどろこしい.

テレビは選択して見ればよいので, 何を報道しようが自由という見方もあるが, 省エネの観点からは問題がある. マスコミのありかたに関しては, 言論の自由問題が絡むので発言し難い問題である.

[一言] 大学の事務もまったく同じであり, 同じ時期に前年と同じ書類が来るし, 学内外で各種行事が実施される. 改革するということは新規に創造することであり, それなりに努力が要るのでやりたがらない傾向がある. いろいろと先送りされるのは, そのような理由によるものであり, やらないということである. 

計算化学に関する質問 

薬学6年制コアカリキュラムにおいては,有機化学の講義は1年次から4年次まで必修として開講される. ところが, 毎年教員の間で, 話題になるのは学生の知識集積度の低迷である. 各試験が終わるとリセットされてしまう現実をどうするかである.

前年度後期試験における芳香族性の問題は, ほとんど Huckel法で考えることができる化合物を出題したが, 理屈抜きで暗記しているため, 過去問以外の化合物は答えられない学生が見られた. 

しかし, このことは学生に限ったことではなさそうである. ある国立大学の有機化学の先生から問い合わせのメールが来た. 問い合わせの内容は, pyridine N-oxide (PyN+-O-) の取り扱い (電荷の指定) に関するものであった. 窒素はプラス, 酸素はマイナスに荷電している形で描かれる. 分子軌道計算する際は, 荷電状態に応じて, charge=1 とか charge=-1 のように指定する. 当然のことながら, charge=2 の場合もあり得る. 中性分子は, charge=0 であり, 指定する必要がない. 

質問者の先生は, charge=1 と charge=-1 を2個指定したということであった. 電荷の指定は要らないという返事をしたが, 計算結果については確認しなかった. 分子の取り扱いもさることながら,計算機処理の考え方にも問題がある. 計算プログラムの中味を理解する必要はないが, 同一の変数に2回数値を代入したら, 前のデータは上書きされることも理解していないということになる.

最近は、”素人でも簡単に分子軌道計算できます”と言って, 高価なGUI支援による分子軌道計算プログラムが数十万円で売られている. しかし, 購入したものの, 研究に活用し, その成果を投稿論文として公表している人は少ない. そのためには, 計算結果を第三者的に検証できる能力が必要であることは言うまでもない.


[一言] 計算化学を含む論文審査の場合, レフェリーの選択はきわめて重要である. 計算の経験はないが, 耳学で物知りの学者に審査されると先入観が優先し悲劇である. コストパフォーマンスを考えてくれない. HOMOエネルギーの概略値を知りたい程度なのに半経験的手法は当てにならないと高度の計算を要求する.また,かなり偉い先生が ab initioではある種の物性値が計算できないと言っていた。 実際は、 計算結果(リスト)上、 表示されていないだけであった。 

くすりは先生から貰った方がよか 

熊本市内で内科,小児科の医院をしている親戚の話である.

かなり前に, 医薬分業に踏み切ったが, 2年と続かなかった. 医薬分業を持ちかけた調剤薬局経営者はビジネスとして成り立つと思ったようであるが, 従来型医療に慣れた患者の心は読めなかったようである.

多くの患者さんが, それまで医院でもらっていた薬を, すこし離れたところに開局した調剤薬局へ行って薬剤師からもらうことになったのは, 健康保険システム上そのような手続になったと思ったようである.ところが,実際は不完全医薬分業であることに気付くと, そのデメリットばかりが目に付くようになったようである. 特に高齢者にとっては, 面倒な二度手間であり, 支払う薬代も高くなり,何もよいことはないと言っていることが間接的に伝わって来たとのことである.

服薬指導, 重複投与のチェック等を含めた医薬分業の必要性を熱っぽく説いても, 狭い地域社会で構築されてきた医者ー患者の信頼関係を解消してまで調剤薬局(薬剤師)が入り込む隙間はないようである.

我が国においては, 昔から医師が診断し, 薬を調合し, 患者に渡してきた. 患者は医師が危険なものをくれるとは思っていない.

医薬分業が叫ばれるようになって久しいが, 問題も多い. ある医薬分業先進県の薬剤師会は,この時とばかり張り切りすぎて, 副作用を懇切丁寧に説明し, 失敗した話は有名である. 患者は信頼している医師がそんなに危険なものを自分に飲ませていることを知らされ, 医師に文句を言ったそうである. 当然のことながら, 医師側からの抗議で, 服薬指導の難しさを自覚したようである.

処方箋から病名を推量することしかできない現状を改善するには, 医療従事者が共有できる電子カルテの普及が緊急の課題と思われるが, その前に, 真の薬の専門家として信頼される人間性と対応能力が必要である. 6年制教育はそのために敢行されたはずである.

[一言] 国民が,何がしかの金を払ってでも,服薬指導を受け,薬歴を管理してもらうことが当たり前のことであり,健康維持のために必須と思うようになるにはそれなりの教育と時間が必要である.しかし,一方では医薬分業や薬剤師不要論があるのも事実である.

薬剤師の髪色 

崇城大学在職中にいろいろなことがあったが, なかには「どうでもよい」と思うようなことがあった. そのひとつに髪の毛の色問題がある.

薬学部開設当時は, 高学年に実施される実務実習担当の実務家教員は少なく, 基礎系教員が中心であったが, 2年後には実務家教員が増え, 薬学教育全体の体制が整った. 第一回生は4年制であったため, 4年前期に, 学外の病院や薬局に短期間(6年制と較べれば)の実務実習を計画した. 3年次後半には実務家教員を中心に, 実習の準備教育が計画され, 実施された.

学生を送り出すために, 実務実習委員会がつくられ, いろいろなことが議論された. 基礎系の教員には考えつかないようなことが提起され,真剣に議論されたとのことである. その中で, 学生の髪色が問題になり, 学外実習の際は, 自然色?に統一することになった. 議論の過程で, 当研究室の助手の先生の髪色が問題になったようである. 会議に出席した委員にそのことを聞き, 本人の髪色を確認したが, 真っ黒ではないがあちこちで見かける”普通の髪色”であった.

さっそく, 知人の病院薬局薬剤師に尋ねたが, そんなことは気にしていられないという意見が大勢であった. 実際, 当研究室出身の有能な薬剤師も同じ見解であり, 周囲の医療従事者に信頼される薬剤師であることが先決と言っている.

ところで, 毎年, 入学式の後, 保護者に集まってもらって, 薬学教育の詳細について説明するが, 髪の色のことまでは話が及ばない. 保護者の髪色を見たら, 話を切り出せない状況であり, それなりに様になっており,世間一般に受け入れられているような気がする. そう思うのは私だけであろうか.

[一言] 薬剤師に限らず,現在でも他大学, 他学部学生の中には就職活動前に髪色を黒に染めるようである(薬局に相談に来る). 就職担当教員の指導と思うが, 学生にとっては単なる就活対策としての化粧のひとつのようである.