図1.江戸切子グラス
江戸切子は,天保5年(1834)に,江戸大伝馬町のビードロ屋加賀屋久兵衛が金剛砂を用いてガラスの表面に彫刻したのが始まりと伝えられている.明治6年(1873)に品川興業社硝子製造所(現在の品川区北品川4丁目)が開設され,明治14年には切子(カット)指導者として英国人エマニュエル・ホープトマンを招き,十数名の日本人がその指導を受け,現代に伝わる江戸切子の伝統的ガラス工芸技法が確立された.そして,江戸切子は昭和60年(1985)に東京都の伝統工芸品産業に指定され,平成14年(2002)には国の伝統的工芸品にも指定された.
江戸切子の文様は,古くから伝わる伝統の文様だけでなく,現在活躍している職人達によって新しい文様も考案されている.また,彫られる場所によって呼び方が変わったり,二つの文様を重ね合わせて一つの文様を作ったりということもあり,代表的なものだけでも15種類以上ある.
本資料は,色は瑠璃色で模様は笹の葉文がグラスの側面に刻まれた基本的な文様のグラスである.笹の葉が放つ繊細な輝きと底部分の楕円のカットのきらめきの共演が,光をまとったような美しさを見せる.笹の葉の生命力あふれるデザインと美しい輝きが共存するグラスである.美しい輝きを目で楽しみ,そしてグラスの表面をさわり,カットの太さや角度の違いによって生まれる手触りの違いも楽しむことができる.
(馬籠 零士)