セックスしないと出られない部屋
セックスしないと出られない部屋
「フィンガーフレアボムズ!」
ポップの手に五つの炎が宿り放たれる。
炎は巨大な渦となりすべて被弾した。だが壁は傷一つついていない。
「くそっ、やっぱりだめか!」
直後、心臓に強い痛みが走った。
「ぐっ」
胸を押さえてその場に蹲った。
眩暈が起こり息が荒くなる。
「ポップ!?」
ヒュンケルは側によると、その肩を抱いた。
「大丈夫か!?」
「べつになんでもねえよ」
ポップはその手を払いのけるとすぐさま距離を置いた。まだ心臓がぎりぎりと締め付けられるように痛む。額には脂汗が浮かんでいたが、幸いなコトにバンダナがすべて吸い取ってくれている。
「なんでもない、という顔ではないな」
そう言うと、ヒュンケルはポップを抱き上げた。
「えっ、ちょっ……!」
「しゃべるな」
そのまま、中央のベッドにそっと下ろすと、バンダナに触れた。
「湿っているな……外すぞ」
しゅるり、と衣擦れの音がして額があらわになる。
ヒュンケルはそれを道具袋にしまい、代わりに真っ白な手巾を取り出してポップの額を拭った。
「ひどい汗だ……」
「久々にでかい魔法使ったから、ちょっと疲れただけだって」
「だが、今までメドローアを連発してもしゃがみ込むことはなかっただろう」
「心配しすぎだって」
相変わらずの鋭さに辟易する気持ちと、心配してくれる優しさが嬉しい気持ちが混じり合う。
「心配してなにが悪い。おまえを失ったらオレは……」
ポップを見つめる真剣な眼差しに胸が跳ねた。
だめだ、期待をするな。
ヒュンケルは長兄としても責任感から言っているだけだ。
胸が苦しい。
ポップは思わず掌で胸を押さえた。
「辛いのか?」
ひゅんけるの手が重なり、ぐっと掴まれる。
その瞬間、壁一面が青白く輝いた。
「えっ……?」
「これは……?」
壁の文字が消えて扉が現れる。
まだセックスしてないのになぜだ……?
ポップは壁も文字を思い出した。
円環はこのベッドのことで間違いない。
二人の手が繋がっているから、ある意味で身を繋げているという解釈ができるのではないだろうか。
絆――少なくとも兄弟弟子の絆は示された。
神の選定、こんなのでいいのだろうか。
そう思ったが心が伴わないセックスするよりはいいだろうと思い直す。
「とりあえず無事に部屋から出れるみてぇだし良かったな!」
心のどこかで惜しいと思う自分を感じつつ、それを誤魔化すようにことさら明るい声を出して口唇を引き上げた。
「……そうだな」
ヒュンケルがなにか言いたげな顔で頷いた。
もしかして、ヒュンケルも同じように思っているのだろうか。
なんて、まさかな。
「さっそく部屋を出ようぜ」
ポップは身を起こすとベッドから降りようとした。だが、強い目眩が襲い体がぐらついた。
床に落ちそうになる前に、ヒュンケルの胸のなかで受け止められる。
「わ、わるい……」
「いや」
ヒュンケルは短く答えると、ポップを抱きかかえた。
「えっ、ちょっ!」
「危なっかしくて見ておれん。それに……」
「それに?」
「こうすれば逃げられんだろう?」
「はっ?」
「素直に吐くまでは離すつもりはないからな」
ヒュンケルは不機嫌な声音でポップを見下ろした。
「素直にって、べつに話すことなんてねぇけど!?」
「おまえになくてもオレにはある」
こうして二人は文句を言いあいながら無事に部屋を出るのだった。
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