セックスしないと出られない部屋
セックスしないと出られない部屋
「おれは大丈夫だから謝んなよ」
笑え。虚勢を張って。
「でも、この通りはじめてで緊張してるみてえだからさ、まかせてもいいか?」
軽い口調で、こんなのなんでもないと装って。
「わかった」
ヒュンケルはポップを抱え上げると、ベッドの上に横たえた。
今のは少し恋人っぽい。
なんとなくキスする流れかなと思い、目を閉じる。
口唇になにかがあたった。固くて細長い。
目を開けて確認すると、それはヒュンケルの指だった。
「やめておけ」
「ヒュンケル?」
「ただでさえ、オレに処女を奪われるのだ。せめて口唇だけは大事に取っておけ」
あからさまな表現にカッと火がついた。
「わ、わかった」
つっかえながらも、なんとかうなずく。
おまえとしたい、なんて言えるわけがなかった。
ズボンの止め紐を解かれる。
「四つ這いになってくれ」
「お、おうっ……えっと、ズボン下ろさなくていいのか?」
「ああ。おまえもあまり見られたくないだろう?」
頭を優しく撫でられる。
気遣ってくれていることが分かる。
言われたとおりに四つ這いになると、下着ごとズボンを膝まで下ろされた。
外気が尻にふれて、ぞくっと寒気がする。
きゅっとガラスの擦れる音がして、尻にとろりとした粘液がかかった。
「指を入れるぞ」
「うん」
ポップが小さく頷くとともに、物凄い排泄感に襲われる。
「痛くはないか?」
「だ、いじょう、ぶ……だ」
痛くはないが、それ以上に気持ち悪い。今すぐ、追い出したくて無意識に力がこもる。
「力を抜け。傷が付く」
「んなこと言ったって……」
「息を大きく吐け」
「はぁー……はあー……」
「そうだ、上手だ」
気を逸らすためか、掌で背中をゆっくりと叩かれる。心臓の鼓動と同じリズムで叩かれてなんだか安心してきた。
どうにもならない違和感をやり過ごしていると、指が前立腺を掠めた。
その瞬間、身体に甘い痺れが走る。
「あっ……そこっ……」
「ここか?」
指先でぎゅうと押され、身体から力が抜ける。
口を開くと変な声が出そうになって、ポップは口を結んで必死にこくこくと頷いた。
「声は我慢するな」
いきなり、耳元で囁かれて脳が痺れる。
「気持ち良いなら、そう言ったほうが楽になれる」
「そこっ、きもちいいっ……」
言われた通り声に出すと、快感が身体中を駆け巡った。
「あっ……ああぁっ……」
くちっ、くちっ、と粘液の擦れる音がさらにポップを煽った。
何度も同じところを擦られて、気持ち良くてくらくらする。
気づけば縮こまっていたペニスが勃起し、先走りをとろとろ零し高そうなシーツに染みを作っていた。
かちゃり、と硬いものがぶつかる音がした。それがヒュンケルがベルトを外す音だと気づくのに、さして時間はかからなかった。
力の入らない身体を叱咤して振り向くと、ズボンから取り出されたばかりのペニスが目に入った。
大きい。
ポップより一回り以上はあるのではなかろうか。
知らず、ポップの喉がごくりと鳴った。
「あまり見られると、さすがのオレでも恥ずかしいんだが」
頬を僅かに染めて困ったように笑う姿に胸が高鳴った。
「わ、わるい……」
慌てて前に向き直る。
胸の鼓動が治まらない。
嬉しい。
こんな色気もなにもない身体でも、ちゃんと勃起してくれてた。
「入れるぞ。なるべく力を抜いてくれ」
「う、うん」
亀頭が後孔にぴとりと張り付く。
ああ、ついにあの男と一つになるのだ。
ポップの身体が期待と緊張と、そして不安で震える。
熱い塊がゆっくりとなかに入ってきた。
「アッ……アッ……ァアッ……」
指なんかと全然違う、圧倒的な質量。それがポップを浸蝕していく。
腰を強い力で掴まれ動きを封じられ、ひたすら前立腺を擦られる。
「あっ……そこっ……きもちいいっ……きもちいいっ……」
「ああ、気持ちよくなってくれ」
なかの動きがさらに激しくなって、頭がチカチカしてきた。
うねるような熱が身体中を駆け巡り、すべてが塗り替えられていくような感覚。それなのに熱は身体に満ちることはない。胸にぽっかりと空いた大きな穴からこぼれ落ちていくから。頼りになる兄弟子――それ以上でもそれ以下でもないポップの好きな人。
きっとヒュンケルはこの部屋に閉じ込められた相手がポップでなくても、それ以外に方法がなければ同じことする。
だから、この穴はもう塞がらない――
あの神殿の出来事が起きてから三日後、ヒュンケルが突然ポップのもとを訪れた。なんの用か分からなかったが、とりあえず部屋に通して茶を用意し、テーブルを挟んで向かい合わせに座った。
「責任は、取る」
「責任……?」
「どんな事情であれ、弟弟子に手を出したのは事実だ。兄弟子として仁義は通さねばならん」
「どうやって取るんだよ、そんなの」
「おまえが望むままに」
「望むまま……」
「おまえが、もうオレと関わりたくないと言うなら、おまえの前から姿を消す。側にいて支えろというのなら、支え続ける。それだけだ」
優しい男だ。
その優しさに涙が溢れる。
辛くてたまらない。
馬鹿なことを思いつかなければよかった。
だってポップが欲しいのは同情でも思いやりでもない。
ましてや、義務なんてそんなものくそくらえだ。
それでも、その身体だけでも手に入るなら。
醜い己が顔を覗かせる。
「じゃあさ、またしてくれよ」
「また……?」
「セックス。思ってたより気持ち良かったから、またしたい」
「それが、おまえの望みか?」
「おう」
違う。
でも、せめて夢が見たい。
おまえに愛されているって夢を――
「おまえが好きなヤツができるまででいいからさ」
胸の穴からまた大切なものが一つ、こぼれ落ちた。
Merry Bad End