The influence of food environment on the frequency of rough-and-tumble play in wild Japanese macaques (Macaca fuscata)
Masanori Nakatsuka (Lab. Human Evolution Studies, Kyoto Univesity)
ダンバーとダンバー(Dunbar and Dunbar, 1988)は、ゲラダヒヒのオトナメスの研究から食物環境が霊長類の親和的社会交渉(毛づくろい)に時間的制約を与えることを示した。遊び行動は多くの霊長類において未成熟期にのみみられ、また他個体とのあいだでおこなわれる社会的遊びは未成熟個体にとって主要な社会交渉のひとつである。代表的な社会的遊びである「わんぱく遊び」(rough-and-tumble play)は、エネルギーコストが非常に大きい点で毛づくろいとは異なるため、毛づくろいとは異なる制約を食物環境から受けている可能性が考えられる。本研究は、食物環境の季節変化が大きい温帯に生息する野生ニホンザル(Macaca fuscata)のコドモを対象に、彼らの社会交渉が食物環境からどのような制約を受けるのかを明らかにすることを目的とした。具体的には、わんぱく遊びと毛づくろい、「お母さんごっこ遊び」と位置付けられることもあるインファントハンドリングの頻度が食物環境の変化によって受ける影響を調べた。また、食物環境が異なる二つの群れについても、それぞれの社会交渉の生起頻度がどのように異なるかを比較した。分析の結果、食物環境が比較的良く、採食と移動に使う時間割合が低い季節については、採食・移動時間割合がその季節中でさらに減っても、毛づくろい・コドモどうしの毛づくろい・インファントハンドリングの生起頻度は増えなかった。一方、わんぱく遊びは生起頻度が有意に増加した。食物環境が比較的悪く、採食・移動時間割合が高い季節では、わんぱく遊びはそもそもほとんど起こらなかった。一方、毛づくろい・コドモどうしの毛づくろい・インファントハンドリングについては、個体ごとにみると、その季節の中でも採食・移動時間割合が高い期間のほうが、生起頻度が低い傾向にあった。また、調査年が異なる二つの時期で、同じダイアッドでのわんぱく遊び頻度の変化を比べたところ、採食・移動時間割合が低い年のほうがわんぱく遊び頻度が有意に高かった。以上の結果から、ニホンザルのコドモの毛づくろい・コドモどうしの毛づくろい・インファントハンドリングについては、ダンバーらがゲラダヒヒのオトナメスの毛づくろいで見い出したのと同様、採食・移動時間割合が増加しても最初は維持されるが、さらに採食・移動時間割合が増えると生起頻度が減ると考えられる。一方、わんぱく遊びは、採食・移動時間割合が大きく増加するような状況ではそもそもほとんど生起せず、採食・移動にかける時間が少なくてすむ時期には、採食・移動時間割合がさらに減ると生起頻度が増加した。このことから、次のような説明が考えられる。①わんぱく遊びは時間的制約というよりもむしろ、(採食・移動時間割合という時間的制約の指標によって表される)食物環境からエネルギー的制約を受けた。②わんぱく遊びは、最低限のエネルギーを得るための時間的制約は充分クリアーして、さらに余剰エネルギーがあるときにはじめて生起し、増加する。したがって、コドモのわんぱく遊び頻度は、その群れが生息する食物環境の良し悪しを即時的かつ明瞭に表す指標になると考えられる。二つの群れの比較においても、採食・移動時間割合が低い群れのほうがわんぱく遊び頻度が高かったため、群れ間のわんぱく遊び頻度の比較においても、少なくとも部分的には食物環境の違いが影響していると考えられる。本研究によって、コドモのわんぱく遊びは毛づくろいやインファントハンドリングとは、食物環境からの制約の受け方が異なることが示唆された。エネルギーを多く使うという点でコストが大きい分、他の行動に比べて発現のための条件が比較的厳しい「贅沢な」行動である、ということが、わんぱく遊びが「遊び」であるための重要な特徴なのかもしれない。
Of hot springs & holobionts: Linking hot spring bathing behavior and host-associated biota in Japanese macaques
Langgeng Abdullah (Wildlife Research Center, Kyoto Univesity)
The population of Japanese macaques at Jigokudani Snow Monkey Park, Nagano, display hot spring bathing behavior (HSBB) during the cold season. HSBB is known to benefit thermoregulation and reduce stress, but in several human cases it has also been shown to accommodate heat-resistant waterborne parasites and mediate changes in gut microbial community. To my knowledge, there are no studies about the impacts of HSBB on the holobionts (i.e. host-associated biota) in nonhuman primates. At the same time, ectoparasites such as lice appear to be sensitive to temperature change, and heat exposure is thought to reduce louse mobility. Thus, I tested for a relationship between HSBB and lice load, gastrointestinal (GI) helminth burden, and the gut microbiome in Japanese macaques. At the same time, I was also interested in the influence of seasonality on GI helminth burden in the Jigokudani monkeys. The study was conducted over two winter seasons and one summer between 2019 and 2021. I conducted continuous time focal sampling and opportunistically collected fecal samples from sixteen adult female macaques (9 bathers and 7 non-bathers) varying by age, reproductive status, and social rank. I found that nit-picking rates, a proxy used to estimate lice load whereby macaques remove louse eggs from the hair during grooming, in submerged versus non-submerged areas differed between bathers and non-bathers. I also detected four GI helminth species, only two of which were common enough to allow further investigation for hot spring bathing study. Of these, Trichuris trichiura was marginally more prevalent in bathers than non-bathers. The alpha diversity of the gut microbiome between bathers and non-bathers did not differ, neither did the beta diversity. In shorts, the results suggest that HSBB may influence relationships between hosts and associated (micro)organisms. My models also demonstrated that GI helminth burden varied seasonally. Greater effort is now needed to further test the relationship between HSBB and other potential negative and positive health outcomes. Moreover, complete seasonal investigations in the study site and other populations could provide additional information on the parasite infection patterns in Japanese macaques.
Dietary habits of Japanese macaques (Macaca fuscata) estimated by Dental Microwear Texture Analysis
Kazuha Hirata (The Kyoto University Museum)
動物の歯の咬合面には、食物を摂食した際に生じるマイクロウェア (微細摩滅痕) と呼ばれる微細な傷跡が残っており、その形状や深度等の特徴は採食物の物性に強く影響を受けることが指摘されてきた。近年、急激に進展しているマイクロウェアの解析手法の1つに、DMTA (Dental Microwear Texture Analysis)と呼ばれる手法がある。これは、マイクロウェア形状を工業用の表面粗さパラメータにより数値化し、客観的に解析する手法である。DMTAは比較的新しい手法であるため、マイクロウェアの特徴と実際の食性との相関性についての検討は霊長類においてほとんど行われていない。本研究では、日本列島に生息するニホンザルの大臼歯のマイクロウェアを、共焦点レーザー顕微鏡を用いて計測し、その3次元形状と食性の相関関係について解析した。解析には、現在提唱されている2種類の規格 (ISO-25178およびSSFA) による表面粗さパラメータを用いた。まずISO-25178によってニホンザルの8地域個体群(下北・金華山・房総・白山・神奈川・群馬・幸島・屋久島) と食性データを比較したところ、食性と各パラメータの値には強い相関性がみられ、葉や茎の消費割合が高い個体群では歯の咬合面が平坦な表面形状を示したのに対し、堅果や種子の消費割合が高い個体群では、マイクロウェアが起伏の激しい形状を示すことが明らかになった。一方でSSFAにおいては相関が弱く、食性推定法としてのSSFAは食性の推定法としてはISOの方が有効であることが示された。
An environmental sociological study on macaque management in Yakushima
Momoko Osaka (Graduate School of Asian and African Area Studies, Kyoto University)
日本の中山間地域では、ニホンザルによる農作物被害が大きな問題となっている。そのような被害に対し、 国家レベルでの対策が行なわれてきた。中でも電気柵を利用した被害対策については、実践的な研究に基 づいた方法論が確立されており、農家自身による取り組みによって、その被害量を確実に減らせるように なりつつある。一方で、実際の被害現場では、被害につながる不完全な被害対策が散見されることが指摘 されている。そこで本研究では、屋久島における電気柵の利用・管理に注目し、電気柵利用・管理の方法 論と現場の取り組みとのズレとその社会学的な背景を明らかにした。その結果、電気柵利用・管理を行な うのか/どの程度完全な形でそれを行なうのかといった電気柵利用・管理の“落としどころ”は、被害量の 減少という基準だけでなく、「(1)果樹園の特徴」「(2)柑橘類栽培の経済的意味づけ」「(3)農家の高齢化や後 継者不足」「(4)ニホンザルによる農作物被害以外の課題との調整」といった地域の営農状況・経済状況等に 関する幅広い文脈を反映した上で、総合的にある程度“最適な”ものになっていることがわかった。そこ から、農家による試行錯誤の現在の姿として表れている現場の被害対策を、被害量のものさしのみから否 定的に捉えることなく、まずは尊重し、社会学的な視点から理解しようとする必要性について指摘した。 一方で、屋久島の集落間にみられる多様な農作物被害状況を踏まえた上で、こうした電気柵の利用・管理 がある程度“最適化”されている側面からだけでは捉えきれない部分として、自家用の柑橘類栽培におい て負の被害認識が表出しやすい状況が生じていることが挙げられた。今後は、電気柵の利用・管理のみな らず、捕獲など別の被害対策にも視野を広げた上で、農作物被害問題の軽減に向けたより有効な解決策を 検討していく必要がある。
Quantitative measurement of infantile physical features using non-contact methods: Development and association with caretaking behaviors
Toshiki Minami (Graduate School of Education, Kyoto University)
ヒト以外の霊長類の養育行動に関する研究は、ヒトの養育行動の特異性や生物学的基盤の理解に大きく貢献できる。これまでに、アタッチメントや共同養育性など、ヒトの養育行動に関わる多くの特性が、ヒト以外の霊長類を対象とした研究から明らかとなってきた。ヒトの養育行動の生起には、音声や匂いなど、乳児が発する感覚情報が関与している。その中でも、ヒトを対象に、最も研究が蓄積されている感覚情報が、視覚情報、とりわけ乳児の身体的特徴である。大きな目や突き出た額、大きな頭など、ヒトの乳児が持つ乳児らしい身体的特徴は、周囲の人に「かわいい」という感覚を引き起こし、養育行動への動機づけを高める。これは、脆弱な乳児が、養育個体の関心を引き出し、養育行動を誘発することで、自身の生存可能性を高める適応的な現象である。ヒト以外の霊長類でも、体色や顔の形態から、乳児らしい身体的特徴が報告されている。そうした身体的特徴と、乳児が受ける養育行動との間の関連も、いくつかの研究で示唆されてきた。また、ヒト以外の霊長類が、同種の乳児に対して視覚的選好を示すことも知られる。これらの研究は、ヒト以外の霊長類でも、ヒトと同様に、乳児が持つ身体的特徴が、周囲の個体の注意と保護を引き出す適応的な機能を持つことを示唆している。一方で、ヒト以外の霊長類を対象とした先行研究には、いくつかの課題が挙げられる。第一に、乳児らしい身体的特徴として、体色を扱う研究がほとんどであり、正面顔、横顔、全身といった、他の身体的特徴における乳児らしさを定量的に検討した研究はほとんどない。特に、ヒトでの報告と比較可能な手法で、ヒト以外の霊長類の身体的特徴を測定した研究は皆無である。また、体色以外の乳児らしい身体的特徴の、発達変化を検討した研究も、まったくない。第二に、乳児らしい身体的特徴と、実際に乳児が受ける養育行動との関連を調べた研究は、ヒトを含む霊長類全体で、ひと握りしかない。乳児らしい身体的特徴が、乳児にとって真に適応的であるかを検討するためには、質問紙による評定や視覚的選好といった従来の指標を越えて、実際の養育行動に着目した研究が不可欠である。これらの課題を解決することで、ヒトにおけるベビースキーマという現象の、霊長類学的な背景と特異性を明らかにすることができる。こうした課題の背景には、ヒト以外の霊長類の身体的特徴を、非接触かつ定量的に測定する手法が開発されてこなかったことが考えられる。そこで、本研究では、餌付けされた野生ニホンザル集団を対象に、その身体的特徴を非接触的に測定する手法を提案する。この手法を活用して、ニホンザルにおける乳児らしい身体的特徴とその発達過程を明らかにし、実際に乳児が受ける養育行動との関連を検討することを目的とした。研究1では、野生ニホンザルの身体的特徴を非接触かつ定量的に測定する手法を提案し、ニホンザルにおける乳児らしい身体的特徴を特定した。写真測量法(photogrammetry)を用いて、対象集団全個体の正面顔、横顔、全身、体色の特徴を、定量的に測定した。その結果、ヒトとニホンザルの間で、多くの乳児らしい身体的特徴が共通することがわかった。これは、ニホンザルでも、ベビースキーマ仮説が支持されることを部分的に示唆している。一方で、ヒトとニホンザルの間で、異なる乳児らしさを示す身体的特徴も特定できた。これは、種の生態によって、近縁な霊長類間でも、その乳児らしさが異なる可能性を提示しており、ヒト以外の霊長類を対象に、ベビースキーマ仮説を検討するためには、それぞれの種ごとの乳児らしさを正確に特定する必要があることを示している。研究2では、ニホンザルの乳児らしさの発達変化を調べた。正面顔、横顔、全身、体色それぞれの乳児らしさをスコア化し、生後12週以内の発達過程を検討した。その結果、正面顔の乳児らしさは、移動能力が発達し始める生後3週齢に最も顕著となることがわかった。これは、移動能力が発達し始め、ケガや誤飲などのリスクが最も高まると考えられる時期に、最も乳児らしい顔を示すことで、養育個体の関心と保護を強く引き出す適応的な現象であるかもしれない。一方で、測定対象とした身体的特徴間では、その発達変化の傾向が異なった。これは、身体的特徴の組み合わせから、乳児の発達段階を示唆することで、周囲の個体から、その発達段階に適した関わりを引き出す機能を持つかもしれない。研究3では、ニホンザル乳児の乳児らしさと、実際に受ける養育行動との関連を検討した。正面顔における乳児らしさと、第一養育個体またはその他の個体から受けたグルーミングの時間との関連を調べた。その結果、正面顔の乳児らしさは、ニホンザル乳児が受けた養育行動と関連しなかった。ニホンザルと比べて、生後初期から、乳児が養育個体との身体接触から離れることが多いヒトでは、乳児に対する特異的な選好が進化した可能性が考えられる。一連の研究は、乳児らしい身体的特徴に関して、ヒトとニホンザルの共通点と差異を明らかにし、種の生態に応じて、乳児認知のプロセスが異なる可能性を示唆するものである。今後、野外観察、実験的手法、形態測定を組み合わせたアプローチから、ヒト以外の霊長類の乳児認知に関する知見を蓄積することで、ヒトにおけるベビースキーマという現象の進化的背景を、さらに明らかにすることができるであろう。
Repeated separation of an alpha male and its influence on the spatial cohesion of the troop in a wild troop of Japanese macaques on Kinkazan Island
Tsubasa Yamaguchi (Lab. Human Evolution Studies, Kyoto Univesity)
群れの空間的なまとまりは霊長類の社会システムを特徴づける重要な要素であるため、その変動に影響を与える要因を明らかにすることは霊長類社会の理解に不可欠である。本研究では、宮城県金華山島のニホンザルB1群で観察された第一位オス(TY)の群れへの頻繁な出入りと、同時期に生じた群れのまとまりの大きな変動の関連を調べることで、第一位オスの動きが群れのまとまりの変動に与える影響を検討した。調査は8つの期間(2018年交尾期、2019年非交尾期、2019年交尾期、2020年非交尾期、2020年交尾期、2021年非交尾期、2021年交尾期、2022年非交尾期)に計419日間行われた。2019年交尾期から2021年交尾期までの5つの期間中、TYが群れで確認された日数割合(57%)はそれ以外の期間(99%)に比べて著しく低く、彼は平均して10日に約1回の頻度で群れを出入りした。この期間中は群れで確認できないメスの割合も顕著に高くなり、その中でもメスが群れで確認できなくなる頻度は非交尾期よりも交尾期に上昇した。メスが交尾期に群れで確認できなくなる確率はTYが群れを離れた日にそうでない日よりも高くなった。この結果はTYが群れを離れる際にメスも一緒に行動することがあったことを示しており、実際に一部のメスがTYに追随してB1群の行動圏外に移動する様子が少なくとも2回確認された。この傾向は非交尾期にはなかったが、これは交尾期にはオスからの攻撃を回避するためにメスのTYへの依存度が上昇したためと考えられる。またTYの動向とは関係なく、メスが確認できなくなる確率はオスからの攻撃頻度が高い日の翌日ほど高くなった。この結果は、メスがオスの攻撃を避けるために群れを離れたことを示唆し、TYの動向が不安定な状況下では、群れに留まるよりも群れから離れてオスの攻撃をやり過ごす方がメスの利益になっていた可能性を示している。実際、群れで確認される割合が低かったメスほど調査期間を通して群れで攻撃を受ける頻度は低かった。
Fecal particle size of Japanese macaques in Yakushima
He Tianmeng (Ecological Research Center, Kyoto University)
Chewing is important for herbivore digestion. Measuring the results of chewing, fecal particle size (FPS) is a widely used measurement in understanding herbivore feeding, chewing, and digestion. Diet composition, dietary toughness, and age-related factors are important determinants of FPS. However, the role of these factors remains unclear in omnivorous primates. It requires further study on interpreting FPS results and understanding the role of chewing in these dietary generalists. This study aims to clarify the influence of diet and age-sex class on FPS in Japanese macaques and examine the effects of digesta particle size on digestion. We expected that their variable diet and differences among age-sex classes would cause variations in FPS. We documented the diet composition, dietary toughness, and FPS of Japanese macaques in Yakushima from March 2018 to April 2019. We also conducted in vitro digestibility assay on food samples with different particle sizes to estimate the influence of particle size on digestion. Unexpectedly, FPS showed limited variation among different months and no difference among age-sex classes. Dietary toughness did not influence FPS, while the consumption of fruits showed a marginally significant negative effect. Besides, particle size had a less obvious influence on the in vitro digestion of fruits than leaves and seeds, which helps us to understand the unexpected results. These results indicate that factors such as the physical structure of food and chewing behavior should be considered when measuring FPS in primate studies. Moreover, the difference in whether chewing a food improves digestion should not be neglected.
Social factors affecting self–other matching in Japanese macaques
Sakumi Iki (Center for the Evolutionary Origins of Human Behavior, Kyoto University)
動物が自身の状態と他個体の状態とを合致させる現象は“self–other matching”(SOM)と総称される。SOMには、無意識に他個体の行動をコピーする行動伝染や、他個体の情動が転移する情動伝染といった現象が含まれる。SOMには様々な社会的要因が作用する。行動伝染の社会的影響要因に関する先行研究は、主にあくびやプレイ・シグナルといった情動的にニュートラルあるいはポジティヴな行動を対象としてきた。しかし、情動的にネガティヴな行動の伝染に社会的要因がどのように作用するのかは不明な点が多い。また、実際の社会的相互作用の場面では、ある時点まで保たれていた個体間の状態一致が破綻し、失われることもある。例えば、社会的遊びの最中に、一方の個体が唐突に悲鳴を上げ、個体間で共有されていた親和的な雰囲気が失われてしまう場合などが状態一致の破綻の例として挙げられる。このような状態一致の失敗に対し、どのような社会的要因が影響しているのかは分かっていない。上記の点を踏まえ、地獄谷野猿公苑周辺に生息する餌付けされたニホンザルを対象に、以下の2つの研究を実施した。1つ目の研究では、情動的にネガティヴな行動であるビジランス(警戒行動)を対象に、ビジランスの伝染における社会的影響要因を検討した。行動実験によって取得したデータの分析の結果、ビジランスは絶対順位が高い個体よりも、絶対順位が低い個体に対して、より伝染しやすいことが明らかになった。また、あくびやプレイシグナルを対象とする研究によって報告されていた、社会的絆による行動伝染の促進効果は、ビジランスにおいては見られなかった。2つ目の研究では、闘争遊びが喧嘩へとエスカレートし、個体間の状態一致が失敗したケースにおける社会的影響要因を検討した。行動観察によって取得したデータの分析の結果、社会的順位や成長段階における個体間の差異が、状態マッチングが失敗する仕方に影響を及ぼす可能性が示唆された。
Comparative look at the transmission of parasites in macaque social and spatial networks
Xu Zhihong (Wildlife Research Center, Kyoto University)
Pathogen transmission is a key issue in both public health and wildlife conservation. Predicting pathogen transmission using social network analysis (SNA) has been trending upward following numerous studies of wildlife showing positive relationships between an individual’s social network centrality (a measurement of its importance in a network) and its probability or degree of infection; including in macaques. Based on this work, we aimed to test whether social network centrality can predict parasite infection in different macaque species and populations. We constructed 4 data sets based on behavioral observations and parasitological investigation using 2 groups each of rhesus macaques (Macaca Mulatta) and Japanese macaques (Macaca Fuscata). We modeled the relationship between social network centrality and intestinal parasite infection intensity in each group and compared the results among them. We also conducted simulations to control for the effect of sample size (i.e. number of fecal samples for parasitology) on the determined relationship. Generalized linear mixed models suggest a positive relationship between centrality and infection in only one macaque population (Japanese macaques of Koshima). Simulations show that small sample size was unlikely to have affected our results. Overall, our results suggest that social network centrality does not generally predict parasite infection across species and populations, which may relate more strongly to the various local ecologies of the studied groups. However, we cannot rule out the possible influence of seasonality in our study because our data were collected at each site in different seasonal conditions. Furthermore, human influences such as degree of provisioning and population management may also play a role. Ultimately, this work emphasizes the importance of understanding the mechanisms underlying transmission and how they might vary across populations and groups when attempting to relate social factors to infection.
A study on the inter-group variation in social tolerance among free-ranging Japanese macaques
Yu Kaigaishi (Institute for Advanced Study, Kyoto University)
ニホンザルは一般に、霊長類の中でも特に寛容性が低く、攻撃性の高い種として知られている。しかし淡路島に生息するニホンザル集団 (淡路島集団) は、採食場面において非常に高い寛容性を示し、順位の離れた個体同士が平和的に食物資源を共有する。本研究では、淡路島集団とその他のニホンザル集団との比較から、高い寛容性がニホンザルの社会にどのような影響を及ぼすかを検証した。まず、淡路島集団において、マカク属で寛容性に関わるとされる一連の行動指標を分析した。淡路島集団では、寛容型マカクと同じく非常に低い攻撃性が見られたものの、他方順位関係の厳格さについては専制型マカクと同じく非常に高い値が得られた。これらのこと、この集団に見られる採食場面での高い寛容性は、順位関係の曖昧さから生じるものではなく、優位個体による劣位個体の採食への許容によるものであると考えられた。さらに、高い寛容性と社会行動との関連を探るため、協力行動課題を用いた行動実験、および3頭以上が同時に参加する毛づくろい場面 (多頭毛づくろい) について分析を行った。協力行動課題については、淡路島集団では、他地域の餌付け集団と比べ非常に高い成功率が得られた。また一部の個体は、他個体との意図的な協調行動を獲得するに至った。また毛づくろい場面の観察から、淡路島集団では、他集団と比べ頻繁な多頭毛づくろいが生じることが示された。多重ネットワーク分析による解析の結果、多頭毛づくろいは特に親密な個体同士で多く行われており、この毛づくろい様式は、既存の社会的絆をさらに強めるような社会的場として機能していると考えられた。これらの研究は、個体間の高い寛容性が、食物や毛づくろいパートナーといった資源の共有を可能にすることを通じ、社会の中に新たな行動が生じる場を作り出すことを示唆している。
Individual differences in willingness and factors for participation in intergroup encounters of Japanese macaques
Maho Hanzawa (Lab. Human Evolution Studies, Kyoto Univesity)
群れを形成する多くの霊長類では、他群とのエンカウンターに参加する際、敵対的交渉に伴うケガや体力消耗などのコストと、食物や配偶相手の獲得といった利益が生じる。個体の参加はこれらのバランスが影響しているとされるが、得られた利益は群内で平等に分配される訳ではないため、エンカウンターへの参加の積極性や目的は個体ごとに異なることが指摘されている。本研究では、屋久島に生息するニホンザルにおいて、エンカウンター時の参加個体と、参加に影響している要因について個体レベルで明らかにすることを目的とした。調査は小さな群れであるUmiC群を対象とし、2018年・2019年の非交尾期・交尾期に176日間終日追跡を行い、計81回のエンカウンターを観察した。分析では、他群との最短距離が10m以下である時を「前線形成時間」とし、そのうち最前個体から後方5mの範囲(前線)にいた時間を前線への参加割合とした。結果、参加割合はワカオス、低順位オス、2位オス、1位オス、2位メスの順に高く、1位メスと低順位メスは同程度に低かった。また、参加割合が高くなる時の要因として、1位オスは、交尾期では自群のメスの参加が影響していることから、配偶相手であるメスを他群のオスから防御している可能性が考えられた。2位オスでは、1位オスが参加した際に参加割合が高くなり、低順位オスと若オスでは、自群のオトナオスの参加頭数の多さが影響していたことから、オス同士で連合することでリスク回避し、親密さを深めているのかも知れない。一方、メスは1位オスの参加が影響し、1位メスと低順位メスは血縁個体の参加が影響していたことから、参加割合は低いものの、1位オスや血縁個体が共に前線にいることが重要であることが分かった。さらに、1位オス、2位オス、低順位メスでは、前線頭数が他群より多い時に参加割合が高くなることから、他群の群れサイズより近距離にいる他群の頭数が重要であることが示された。
Exploring factors governing the gut microbiome of Japanese macaques
Lee Wanyi (Ecological Research Center, Kyoto University)
For nonhuman primates and other animals that depend on plant material as the main component of their diet, the gut microbiome and its digestive function play a vital role in their feeding ecology. Living at the northern limits of the primate global range, Japanese macaques inhabit the marginal habitat for the primates. Their diet includes a considerable proportion of fibrous foods, which would be indigestible without gut microbiome. Studies on Japanese macaques so far have revealed how macaques flexibly adapt to dietary variation across habitats and seasons via foraging behaviors. The gut microbiome of Japanese macaques has yet to be investigated in depth. The present thesis investigated the ecological factors shaping their gut microbiome at the individual and population level. At the individual level, I compared the stomach and colonic microbiome. At the population level, I compared the gut microbiome of macaques with different accessibility to anthropogenic foods – captive, provisioned, crop-raiding and wild. Taken together, this thesis concludes that primate gut microbiome is a dynamic community affected by (1) physiochemical environment in the gut and (2) the host foraging behavior. This thesis offers insights into the role of gut microbiome in the adaptive radiation of hindgut fermenting primates to the marginal habitats. Facilitating exploitation of low-quality foods, gut microbiome provide buffer against the dietary challenges encountered by its hosts. Examining the macaques’ gut microbiome, this thesis contributes to a better understanding over the feeding ecology of Japanese macaques and primates overall.
P-01
糞試料を用いたニホンザルの食性評価:行動観察との比較
辻大和(石巻専修大学)・原大暉(石巻市立山下中学校)
Information on the food habits of wild Japanese macaques (Macaca fuscata) is typically obtained from behavioral observation. Dietary information obtained from feces, for which few Japanese primatologists have paid attention, is also useful. Collecting information on dietary habits through both fecal analyses and behavioral observation enables us to understand the value of both methods in assessing their ability to obtain dietary information. If we apply this relational equation to unhabituated animals, such as crop feeding ones, we can estimate the feeding behavior of unhabituated animals through the fecal analyses. To test this idea, we analyzed fecal contents of well-habituated wild Japanese macaques from which we had also obtained behavioral data. We then preliminarily conducted statistical modeling for the consumption of target food categories from fecal contents. For most feeding parts, we found that presence of the target category in fecal samples positively affected % value of that food in the diet. Models obtained for bark and flowers were well-fitted, while models for other main items (leaves, berries, nuts, and herbs) were less well fitted. This is likely due to differences in the effectiveness of detecting different food contents with these two methods. In the case of nuts, their higher digestibility could affect detectability leading to a reduction in the models precision. Our study confirmed the effectiveness of fecal analyses as a tool for evaluating feeding behavior, but we need to consider other factors (such as digestibility and season) to improve the accuracy of this model.
P-02
ニホンザル下顎骨形態の個体発生パターンとその適応的意義
豊田直人(京都大学理学研究科・ヒト行動進化研究センター)
背景 ニホンザルは、マカク属の中でも葉や樹皮といった力学的負荷が強くかかる食性をもつため、下顎骨は頑丈な形態になるような適応進化を遂げたと考えられている。マカク類や、その姉妹群であるヒヒ類は、体が大きくなると吻が長くなるという成長変化(アロメトリー)を共有する。このアロメトリーは、種間の体サイズ変異を介して、顔の形状の種間差をもたらす主たる原因とされている。しかし、この傾向のみではニホンザルの頑丈な下顎骨形態は説明できない。本研究では、ニホンザルで頑丈な下顎骨形状を発達させる成長パターンを特定すること目的とする。
方法 ニホンザルと、果実食傾向がより強く系統的に近縁なカニクイザルとを比較する。両種の幼体から成獣に至るまで下顎骨標本上に計測点を設定し、その三次元座標値データを収集し、主成分分析を用いて、主たる成長パターン成分を抽出し、比較した。
結果 体が大きくなると吻が長くなるという主たるアロメトリーを抽出した。それ自体は発現し下顎骨の形態の成長変化に強く影響していたが、ニホンザルとカニクイザルの種間差には寄与しない。それらの種間差は、それより全体的な寄与が小さい成長パターン成分の種間差によっていた。一つは、下顎の頑丈さを生じる成長パターン成分で、離乳期前にニホンザルにおいて成長が加速されることで、ニホンザルらしい形態が発達していた。それとは異なり、犬歯の発達に関係する成長パターンにより、両種ともにオトナに近づくにつれ性差が顕著になった。
議論 マカク類とヒヒ類はそれらの共通祖先から由来するアロメトリーを共有しているものの、幅広い分布域をもつマカク類の近縁種間では、そのアロメトリーの変動に起因する種間差はみられなかった。それとは異なる、より小さな成長パターン成分の種間差によって適応進化を遂げていることが示された。それらの成長パターンは、離乳期や性成熟期などの様々な成長段階までに求められる機能に応じて、各々の種で淘汰をうける。ニホンザルにおいては、それは離乳期前までに必要とされる食性に関する淘汰であり、そこでの成長パターンの加速は、ニホンザルの適応進化の一部を担う個体発生上の基盤なのであろう。
P-03
[研究計画]地獄谷温泉におけるニホンザルの行動および菌界との関わり
松本卓也(信州大学・理学部)・早川卓志(北海道大学・地球環境科学研究院)・上野将敬(近畿大学・総合社会学部)・北山遼(北海道大学・地球環境科学研究院)・熊倉大騎(北海道大学・先端生命科学研究院、理化学研究所数理創造プログラム (iTHEMS)・寺森裕紀(信州大学大学・総合理工学研究科)・中岡至(信州大学・理学部)・根地嶋勇人(近畿大学・総合社会学部)・長谷川拓海(信州大学・理学部)・皆川香桜里(信州大学・理学部)・横山拓真(京都大学・野生動物研究センター)
2021年度より、長野県山ノ内町の渋温泉郷(地獄谷温泉)を拠点に、信州大学・北海道大学・近畿大学・京都大学の教員および学生が集い、行動観察・エクソーム解析・マイクロバイオーム解析・バイオセンシング等の手法を用いたニホンザル研究を開始している。本ポスターでは、我々共同研究グループの研究計画を発表するとともに、これまでに観察されているニホンザルの温泉利用行動について報告する。また、多機関での共同研究醸成の場としての活用をめざし、地元である山ノ内町に整備した調査拠点「地獄谷リサーチハウス」についても紹介する。
P-04
高知県室戸市佐喜浜町におけるニホンザルの行動圏と採食物
寺山佳奈(高知大学・理工学部)・加藤元海(高知大学・理工学部)
ニホンザルによる農作物被害は高知県を含め全国で深刻な問題となっており、農地を利用するニホンザルの生態学的な情報は農作物被害の対策を講じるうえでも重要な情報となる。高知県室戸市佐喜浜町におけるニホンザルの行動圏と利用食物との関係を明らかにすることを目的とした。調査地内で捕獲されたメスの成獣1頭に発信機を装着し、2018年9月から2019年8月の12か月間、各月1日以上、日の出から日の入りまで1時間間隔でニホンザルの位置情報を求め、最外郭法を用いて対象群の行動圏を推定した。調査地内に生息するニホンザルの採食物を調べるために、調査中に確認されたニホンザルの採食物を記録するとともに、調査地で捕殺された11個体の胃内容物を調べた。年間行動圏は10.2 km2であり、各月のニホンザルの利用場所は異なっていた。行動圏が大きくなる秋期には調査地の森林を多く利用し、行動圏の小さくなる夏期や冬期には調査地内の農地を含む集落周辺を多く利用していた。観察された採食物と胃内容物の結果から、秋期や春期は森林内に広く分布するハゼノキやヤマモモなどの果実を採食し、冬期や夏期は集落周辺に集中的に分布する柑橘やイネなどの農作物を採食することが示された。本調査地に生息するニホンザルは餌資源の分布に影響を受けて、分散的に餌資源が分布する秋期や春期には行動圏を大きくし、餌資源が農地周辺に集中的に分布する冬期や夏期には行動圏を小さくすることが示唆された。
P-05
Excessive handlings and infants’ negative responses during the first 12 weeks after birth: a kind of early asymmetric interactions
Lee Boyun(Graduate School of Science, Kyoto University)
Infant Japanese macaques living in Yakushima (Macaca fuscata yakui) are gently handled in many cases, and their mothers tend not to care when their infants are being handled if the handlers are not higher-ranking than them. In contrast to this general trend, some handlers make infant squirm and (attempt to) escape, squawk and cry. Except punishment behaviors by higher-ranking females (which also make infants feel panicky), over half of those excessive handlings tend not to be stopped even after the infants’ obvious negative responses. At those times, the mothers are easy to notice in what situation their infants are, which means that the handlers are likely to be interrupted to handle infants or be punished by the mothers. This study investigates why some of handlers excessively handle the infants despite its riskiness by analyzing the patterns of all cases of infant handling which were collected during the first 12 weeks after infants’ birth.
P-06
新たに見つかった小豆島の抱擁の紹介
石塚真太郎(東邦大学・理学部、日本学術振興会)
ニホンザルの抱擁行動は文化的変異の伴う社会行動として知られている。これまでの多くの調査地の研究により、抱擁の有無や型には地域間の変異が見られることや、その変異が気候や餌付けの有無では説明できないことがわかっている。本発表では香川県小豆島の餌付け群で見つかった抱擁を紹介するとともに、ニホンザルの抱擁の文化的変異についての理解を深めることを目的とする。対象は小豆島銚子渓周辺に生息し、約70頭で構成されるB群であった。2021年5月29日から2021年8月3日の期間にオトナメス14個体の個体追跡を行い(17.9時間/個体)、39回の抱擁を観察した。抱擁の直後には抱擁の参加間で毛づくろいやハドリングが行われることが多く、抱擁が緊張緩和の機能をもつことが支持された。抱擁の体位は、対面型、体側型のみが観察された。この二型のみが観察されている調査群は他に存在せず、体位レパートリーがこの群固有である可能性が示唆された。ただし個体追跡中に抱擁が観察されたのは4個体のみであり、文化的慣習になるには至っていないと考えられた。今後の継続観察は必要であるものの、これらの結果はニホンザルの抱擁の文化的変異を理解することに貢献する。
P-07
屋久島のニホンザルが選好する休息場所と気候との関連
田伏良幸(京都大学・人類進化論)
動物界では広く、体温調節をするために休息場所の選好性がみられることが知られている。たとえば霊⻑類でも、気候に応じて気温が低いときには⽇向で⽇光浴をしたり、暑いときには洞⽳で涼んだりする。このように、個体レベルで⾒ると気候に応じて霊⻑類は⾃⾝の体温が快適になるように休息場所を変えている。しかし、この選好性の要因は主に外気温と⽇向/⽇陰との関連に着⽬したものであり、同じ⽇向‧⽇陰でも休息場所の特徴(地⾯、岩、⽊の根、道路等)でも選好性がみられるのかはわかっていない。そこで本研究では、屋久島のニホンザルでの休息場所に着⽬し、サーモグラフィーカメラと気象データロガーを⽤いることで、外気温に応じて休息場所の表⾯温度と休息場所の選好性が関連しているのか、つまり外気温が⾼いときに相対的に冷たい場所を選好し、低いときには相対的に暖かい場所を選好しているのかを解明することを⽬的とした。⿅児島県屋久島の⻄部海岸域に⽣息するニホンザルであるUmi-A群を対象に、2021年6⽉の期間をデータ解析対象とした。選好する休息場所を判断するため、社会的要因が休息場所の選択に影響されないようにデータを統制した。その結果、外気温が⾼いときの休息場所として岩場や道路を、低いときの休息場所として地⾯を選好する傾向が確認された。このことから、おそらく屋久島のニホンザルは表⾯温度が快適に感じる場所を休息場所として選好しているのではないかと考えられ、今後更なるデータの積み上げを必要とする。
P-08
屋久島の野生ニホンザルにおける社会変動と行動圏の変化
西川真理(琉球大学・国際地域総合学部)
ニホンザルの群れの行動圏は、同じ場所で安定していると考えられてきた。しかし、鹿児島県屋久島の西部低地域に生息する複数の群れにおいて、行動圏の場所が徐々に変化することが観察されている。本発表では2011年~2016年にE群で観察された社会変動と行動圏の変化について報告する。調査は非交尾期に実施し、群れの構成メンバー、隣接群とのエンカウンターの勝敗を記録した。また、個体追跡によって個体の位置をGPS受信機で記録し、行動圏を算出してその経年変化を調べた。その結果、2015年~2016年の間に、メンバー構成および行動圏に大きな変化がみられた。2015年は21個体いたメンバーが、2016年には6個体に減少した。この間に行動圏は北に約1kmシフトし、これまでの行動圏とは重複していなかった。また、2015年は優劣が不明瞭なエンカウンターがあったが、2016年にはすべてのエンカウンターでE群が劣勢であった。2015年以前にE群が利用していた地域は、別の群れが利用していた。これらのことから、E群はメンバーの減少にともなって隣接群との競合で不利になり、それまでの行動圏から押し出されたと考えられた。