に、コロポックルの楽園がありました。
コロポックルとは、大きなフキの葉っぱの下で生まれる、小さな精霊のことです。
りんごにはりんごのコロポックルが
ぶどうにはぶどうのコロポックルが
野いちごには野いちごのコロポックルが
森のめぐみを分けてくれるのです。
荒らしてしまったので、いつしかコロポックルは森の奥へ隠れてしまいました。
だからコロポックルたちは、北のどこかで、ひっそりと暮らしているのです。
さいきん生まれたばかりです。
大好きなひととあじさい畑に囲まれて、幸せそうに笑っています。
生まれて数百年は経ちますが、コロポックルにしては若いほうです。ノイをあたたかく見守ってくれます。
あじさい色にキラキラ光るレインコートの下から、ノイを見つめる瞳が、ノイは大好きでした。
いた、紫陽のもとに、風に乗ってやってきました。
紫陽を大好きになったノイは、ずっとこの森で暮らしたいなと思いました。
すれ違うこともありましたが、ノイと紫陽は、そのたびに絆を深めていきました。
ひとりのコロポックルが築いたものです。
ヤマブドウの「ハツ」は、この森にコロポックルの村(コタン)をつくった最初のひとです。
森の動物たちから、たいそう慕われていました。
そんなハツには、やがてハツそっくりの幼い孫が生まれます。
と名付けられました。
カズラとは、ぶどうのツタのこと。じょうぶなツタのように、カズラは元気にすくすく育ちました。
できました。トリカブトの「スルク」です。
スルクはある日、この森にひとりぼっちでやってきました。トリカブトは猛毒ですから、みんな近付くのを嫌ったのです。
けれど、カズラはちっとも怖がりません。最初はかたくなに心を閉ざしていたスルクも、少しずつ笑うようになりました。
トリカブトの「スルク」は、森の誰も敵わないほど強く成長しました。
トリカブトの花と同じ、深い紫の髪を風に遊ばせて、スルクは多くの土地を旅しました。親友のカズラに土産を持ち帰るためです。
カズラはヤマブドウの樹木のコロポックルでしたから、自分の樹のそばから離れられないのです。
美しい琥珀は、スルクがたったひとりの親友に贈ったものでした 。
スルクは、疑っていませんでした。森が人食い熊に襲われるまでは。
カズラは帰らぬひととなりました。
スルクその先、百年、自分を責め続けました。
スルクの手には、親友に渡しそびれた琥珀だけが残りました。
甘やかな黄金に輝く琥珀は、親友の瞳と同じ色でした。
深く絶望したスルクは、命に関わる無茶を繰り返しました。
コロポックルは命を落とすと、霧の国を通って、雲の上の神々カムイの世界に登ります。
けれどその途中、霧の国の大きな河で、道に迷ってしまう者がたまにいます。
黄泉路で迷ったスルクを迎えたのは、ずっと昔に失った親友でした。
ここに来るにゃあ、ちと早いんじゃねえか?」
カズラは笑いました。暗闇にも負けない眩しさで。
「だからな、帰れ。お前はオレの夢だ」
夢から醒めたくないと、スルクは心から願いました。
「なあスルク。捻くれ者で優しい、オレのいちばんの親友」
ふわ、とヤマブドウの香りがスルクを包みました。
「オレはここでちゃあんと待ってっから」
お別れでした。カズラはスルクをドンッと押しのけました。
黄泉道を追い返される一瞬、カズラは優しく微笑みました。
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