当研究室では、シルクフィブロインをはじめとした生き物が生み出す高分子(生物高分子)を対象に、分子レベルの構造解析と機能発現機構の解明を行っています。
カイコ(Bombyx mori)が吐く絹糸は、もともと「液状絹」と呼ばれる濃い水溶液として、体内の絹糸腺に蓄えられている。この液状絹は、カイコが糸を吐くときに、せん断応力や圧力を受けながら吐糸口を通り、規則正しい繊維の構造へと変化していく。
この液体から糸へ変わる仕組みについて、どのような順序で分子構造が変わっていくのかといった詳細までは、実験的に確認されていなかった。
本研究では、固体NMR法のMAS(Magic Angle Spinning)により試料に加わる圧力を精密に制御することで、構造転移の過程を原子レベルでリアルタイムに観察することに成功した。
主な発表論文: Suzuki, Y., Morie, S., Okamura, H., Asakura, T., Naito, A., Real-Time Monitoring of the Structural Transition of Bombyx mori Liquid Silk under Pressure by Solid-State NMR, J Am Chem Soc, 145, 22925-22933, 2023
クモの糸は強靭さと柔軟性を兼ね備えた天然高分子として知られており、その主成分を人工的に作製したクモ糸タンパク質を利用したハイドロゲルは、再生医療やバイオマテリアルへの応用が期待されている。これまで、ゲル化後の構造や物性は研究されてきたが、ゲル化前の分子構造(初期構造)が最終的な構造や強度に与える影響は十分に理解されていなかった。
本研究では、異なる初期構造(αヘリックス、βシート、ランダムコイル)をもつ人工クモ糸タンパク質をゲル化させたところ、初期構造の違いによってゲル内部の結晶構造や力学特性が大きく変化することを明らかにした。 。特にαヘリックスからゲル化した場合、特徴的な結晶構造ができ、他の条件に比べて高い強度と剛性を示した。初期構造のちがいが、材料の構造や性質を制御する有効な手段となることを示している 。
発表論文:Higashi, T., Okamura, H., Sato, T.K., Morinaga, T., Satoh, R., Suzuki, Y., Influence of Initial Secondary Structure on Conformation and Mechanical Properties of Spider Silk Protein Gels, , ACS Biomater. Sci. Eng. 10, 6135-6143, 2024
バイオマテリアルやナノデバイスの分野では、タンパク質やペプチドを金属酸化物表面に選択的に結合させる技術が注目されている。その中でも、チタン酸化物(TiO₂)に強く結合する6残基のペプチドは、機能性材料の設計に有用とされてきた。しかし、このようなペプチドがTiO₂表面でどのように構造をとり、どのように動いているかは、これまで詳しくわかっていなかった。
本研究では、溶液NMRのSTD法(Saturation Transfer Difference: 飽和移動差法)を用いて、TiO₂ナノ粒子に結合した状態のペプチド構造とダイナミクスを原子レベルで解析した。その結果、N末端のアルギニンとリシンがTiO₂に強く結合し、C末端は柔軟に動ける構造をとることが明らかとなった。また、SiO₂でも同様に評価したところ、SiO₂はN末端とC末端の両方がSiO₂表面と相互作用していることがわかった。このように、同じペプチドでも、無機材料表面の違いにより結合様式が異なることがわかった。
発表論文: Suzuki, Y., Shindo, H., and Asakura, T., Structure and dynamic properties of a Ti-binding peptide bound to TiO2 nanoparticles as accessed by 1H NMR spectroscopy, J. Phys. Chem. B, 120 (20) 4600-4607, 2016
Suzuki, Y. and Shindo, H., Solution NMR study of the interactions between a metal binding peptide and silica nanoparticles, Polymer J., 50, 989-996, 2018