研究テーマ
極限環境、特に日本に多く存在する高温環境である温泉に着目し、そこに生息する超好熱菌と呼ばれる微生物の単離を行っています。超好熱菌とは80℃以上に最適生育温度を持ち、90℃以上でも生育可能な微生物の総称です。超好熱菌の多くは真核生物とも細菌とも異なるアーキアと呼ばれる生物群に分類されています。このことから、これまで多く研究されてきた真核生物や細菌とは異なった新規な酵素や遺伝子資源の発見が期待されている生物です。我々は日本各地の秘境と呼ばれる温泉源泉に赴き、これまで見つかっていない未知の超好熱菌の探索を進めています。また、分離培養できない超好熱菌を温泉土壌から直接、ゲノムDNAを取り出すことにも成功しており、この高温環境のゲノムDNAを用いて、培養が難しい微生物の有用酵素遺伝子を検索し、新たな遺伝子資源の開拓も行っています。
これまで試料採取に赴いた日本の高温環境(温泉)
超好熱菌が生産する酵素は熱だけではなく有機溶媒や界面活性剤などの種々のタンパク質変製剤に対して高い耐性を持っています。超好熱菌タンパク質も我々と同じように20種類のアミノ酸から構成されています。なぜ、超好熱菌のタンパク質だけがこのように高い安定性を持つことができるのか?という疑問に答えるために超好熱菌タンパク質を超好熱菌から分離してタンパク質の立体構造解析などの実験手法を用いて明らかにしようとしています。また、超好熱菌タンパク質構造から明らかになった情報を元に新しい機能を付与した新しいタンパク質の創製も進めています。
超好熱菌から単離した新規酵素と構造情報を元に新たに創製した新規酵素の結晶構造
PDB: 3AXB PDB:6K3D
超好熱性アーキアを宿主とするウイルスはウイルス圏の中でも謎が多く解明されていないことが多いウイルスです。このウイルスの宿主である超好熱性アーキアは、進化の系統上、始原生物に最も近い生物群であると考えられています。したがって、この超好熱性アーキアに感染するウイルスも始原生命の生物進化に大きくかかわっていたと考えられます。
超好熱性アーキアを宿主とするウイルスの最も大きな特徴はそのウイルスの多様性と独自性です。よく研究されている細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージは6000種報告されていますが、形態は9種類しか確認されていません。一方、超好熱性アーキアウイルスは100種類ほどしか見つかっていませんが、16種類もの形態が報告されています。このように多様な形態を示す超好熱性アーキアウイルスは真核生物や細菌を宿主とするウイルスとは進化的に大きな違いがあると考えられます。さらに超好熱性アーキアウイルスは、現在のところ、すべての遺伝情報としてDNAを持つことが知られていますが約75%の遺伝子が既存のDNA情報と一致しない機能未知遺伝子です。よって、超好熱性アーキアウイルスは他のウイルス圏のウイルスとはほとんどの遺伝子は共有せず、超好熱性アーキアウイルスの遺伝子は固有のものであると考えられます。
私たちは、生化学的、遺伝子工学的な解析手法を用いて超好熱性アーキアウイルスの秘められた謎を解き明かしたいと考えています。また、この超好熱性アーキアウイルスの特徴を活かしてナノマテリアルへの応用を考えています。
超好熱性アーキアウイルスタンパク質から作り出したウイルス様粒子