研究内容

新奇な多元触媒の開発

これまで本研究グループでは、反応場に応じて金属間化合物がまるで生き物のようにナノ相分離状に変わって活性していく様子を観察してきました。そこから、「生命」に匹敵するほどの複雑性(エントロピー)を合金に与えるとiPS細胞のような「多能性(pluripotency)」が発現するのか、という素朴な疑問が生まれてきました。ハイエントロピー合金とは、5種類以上の構成元素がほぼ等しい量で均一に分布している固溶体合金のことを指し、触媒への応用は始まったばかりです。10元素以上で構成されたエントロピーを極限まで増加させたハイエントロピー合金は、反応場に応じて自らの形態を自在に変えて活性化する「多能性・万能性」を備えた触媒になる可能性があります。

ナノポーラス超多元触媒の模式図 

14元素触媒の作製

ナノポーラス金属の研究に長年取り組んできており、これらの経験から、有機化学合成・ガス反応・電極触媒用途に用いられるほぼすべての遷移金属(Cu、Co、Ni、Fe、Ti、Mo)と貴金属(Au、Ag、Ir、Pt、Pd、Ru、Rh)を含んだ構成元素10以上の超多元ナノポーラス合金ができるのではないかと考えました。そして、適切なアルミ前駆体合金の急冷リボン材を作製し、アルカリ溶液でアルミを脱合金化することで14元ナノポーラス超多元触媒を作ることに成功しました。コロンブスの卵のような簡便な方法で、超多元触媒を作製できたことは驚くべきことです。合金を溶かすだけなので大量生産が容易であり、多方面での応用が期待できるプラットフォーム材料になっています。

応用例の1つとして、水の電気分解用電極触媒として取り組みました。その結果、高性能な指標材料として知られる白金やイリジウム酸化物よりも優れた性能と使用耐久性を示しました。これは、多元素重畳効果(カクテル効果)によるものだと考えられます。


14元素ナノポーラス超多元触媒のX線マッピング像