若芽と接ぎ木
若芽と接ぎ木
──超人大国『日本』は、今も年間■■■■人の超人種を受け入れている。
【共通エントリー】
君たちは日本在住のサイオンヒーローだ。 G6からの協力依頼を受けて、とある超人種難民キャンプへの潜入調査を行うことになる。 曰く、とある難民キャンプで奇妙な噂が流れているという──「超人種だけの独立国家を作ろう」と。【エントリーについて】
PCはファーストオリジンを必ず「サイオン」とすること。セカンドオリジンは付いていても良いが、自認は必ずサイオンであることが望ましい また、このシナリオはDLH世界の『超人大国』と呼ばれるほど超人種の受け入れを促進している日本と、世界的に見て行き場所に乏しいサイオンたち、という世界観を背景としている。GMとPLの双方がR1・221頁「日本」〜224頁「法律」の項目に目を通しておけば、より世界観を楽しむことができるだろう。【共通エントリー:G6からの…?】
【状況1】
君たちは日本在住のサイオンのヒーローだ。 「折入って頼みたいことがある、極秘で」とG6支部へと呼び出された君たち。 顔合わせと自己紹介を済ませた君たちは、しかしその場で説明を受けることなく、チェインに連れられ移動することになる。【状況2】
チェインに連れられ移動した先は、新橋にある大衆居酒屋だった。 そこではヒョットコのお面をつけた男が君たちを待っていた。「突然呼び出してすみません。ヒーローのPC1・2くん達だね。君たちのことは調べさせていただきました」「折入って頼みたいことがありましてね。ここでの話は内密に願います」 そういって、男はチラリと面をずらす……その下から覗いたのは、日本の内閣総理大臣・蔵前不二雄首相だった!【状況3】
「非常にセンシティブな問題が生じていまして。それを民間の力で、かつ秘密裏にどうにかできないかと思っているのです」 枝豆をつまみながら、蔵前は君たちに依頼内容を告げる。 曰く、東京湾のそばに作られている超人種移民の難民キャンプで『超人種だけの独立国家を作ろう』という噂が流れているという。噂だけならまだしも、キャンプにいる超人種の人数が不自然に減少傾向にあるようだ。「本来ならば、国として対応しなければならないことです。しかし迅速に動くには、まあなんというか……色々なしがらみが多くて、難しい」「そこで、君たちに現地の調査をお願いしたいのです。リアルな声を聞き、実際にどのような問題が起きているのかを調べて欲しい。可能であれば、解決も」 蔵前は深い溜息を吐きながら、枝豆をつまんだ。【エンドチェック】
□蔵前からの依頼を受けた□難民キャンプに潜入することになった【解説】
Q:なぜ困るの?A:超人種による大規模な革命とか起こされたら困っちゃう。そうでなくても日本は国防を超人種に依存してるし。【クエリー1:多数決の国】
【状況1】
PCたちは東京湾の片隅にある難民キャンプへと潜入する。 そこには日本へと渡ってきた、異国のサイオンたちの姿があった。交わされる言葉は様々な言語が入り乱れたものだ。自治区への入居待ちとしての生活を送る、キャンプに住む超人種の数は膨大である。 人々に紛れて潜入していると、複数人の騒ぎ声が聞こえてくる。騒動の気配だ。 声の元へ向かえば、炊き出しの行列の中で一人の少女と二人の男性が口論の最中にあった。 口論はヒートアップし、やがて少女は唸り声と共に(PCのどちらかと似た能力を発現)し、男たちは周囲に氷と炎を散らし始める。 さて、君たちはどうしよう?【状況2(止めた場合を想定)】
君たちに制止され、少女と男性たちは双方能力を収める。少女は「助けられなくても、一人で勝てた」と不貞腐れながらも、君たちへと礼を言う。「ま、ありがと」「テントの場所、まだ決まってないでしょ。どこもいっぱい。私の場所、分けてあげる」【状況3】
「あなたたち『も』国を追われたの?」」 焚き火を囲みながら、リュコスは世間話のように君たちに言った。「ニッポンにも、きっと私たちの居場所はないよ」「ニッポン、多数決の国。数で負けてる私たちは、良いように利用されるだけ。本当は新しいルールが必要。でも、この国じゃそれは作れない。……それでも、ここが一番マシだから、この国に来るしかない」「そんなのばっかり」 少女の言葉は、悲しみよりも諦めが強いドライなものだ。 なんと答えよう?【エンドチェック】
□リュコスと知り合った□リュコスの言葉に答えた□グリッド1点を得た【解説】
このシナリオのメインNPCである少女リュコスと出会い、縁を深めるシーン。 リュコスは学には乏しいが賢い少女で、当初はPCたちのことを値踏みするように扱うが、協力したほうが自分にとって得だと判断してPCたちと生活を共にするようになる。【チャレンジ1:夢の国へ】
【状況1】
数日間、君たちはリュコスのキャンプで生活を共にしながら、独立国家を作らんとするサイオンたちの動きや噂について秘密裏に調査を行う。 その結果、確かにキャンプ内にはそうした噂があり、一部の者たちはそれに乗ろうとしていることを知る。 遅々として進まない受け入れや、長い難民キャンプ生活から、日本への期待が薄れていることが原因のようだ。 それはリュコスも同じらしい。ある日、テントへ戻ってきた彼女が、興奮を隠しながら君たちへ耳打ちした。「三日後の新月の夜に、新興国建国のために人員を募る船が出るんだって! 私は行くけど、二人はどうする?」 渡りに船とはこのことだ。【状況2】
夜中遅く、君たちは船に乗り込んだ。他にも多くのサイオンたちが並び、列をなしている。 船は小さく、皆が窓のない小さな部屋で肩を寄せ合う。 船がゆっくりと出航した。【状況3】
君たちは部屋を部屋を抜け出す。リュコスも共についてきた。 部屋から離れると、遠目にガスマスクをつけた乗組員たちが室内を検めている光景が目に入る。 ここで見つかっては、逃げ出した意味がない。目的地に着くまで、どうにかこの船の中で隠れ過ごさなければ……。【エンドチェック】
□チャレンジを終えた【解説】
亡命船による出立と、船中で罠にかけられるシーン。 船に乗り込む前にPCたちが調査を行おうとしても、船員たちは多くを答えない。また乗り込みに時間をかけると他のサイオンたちの不興を招いたり、船員に疑われたりしてしまう。乗り込んでの調査が不可欠になるのだ。【クエリー2:不幸比べ】
【状況1】
君たちは物陰に身を潜める。幸い、君たちが逃げ出したことに乗組員たちは気づいていない。 夜の海を船が進む。このまま潜んでいれば、奴らの拠点に辿り着けるだろう。 身を寄せ合い、朝を待つ君たち。「また騙されたね」 リュコスがため息と共に囁いた。その声は落胆と諦観が入り混ざったものだ。「今、私すごく乱暴な気分。ね、不幸自慢しよ。慰めが欲しい。あなた達の悲劇を教えて」「自分よりも悲惨な人がいると分かれば優しくなれる気がする」 君は彼女の願いに応じて、君の話をしてもいい。違う言葉を向けてもいい。 何と答える?【エンドチェック】
□リュコスの言葉に答えた□グリッド1点を得た【解説】
PCたちはリュコスの求めに応じて、自分の体験した悲しい過去について打ち明けてもいいし、別の説得を試みても良い。 悲しい過去を打ち明けられれば、リュコスは「PC、かわいそう」とPCのことを憐れみながら穏やかな心を取り戻す。説得を試みられれば、時間をかけて徐々に落ち着きを取り戻していく。 彼女自身の悲しい過去について尋ねれば、言葉少なく「学校に行きたかった」「普通の子になりたかった」と溢し、静かに涙を流す。【チャレンジ2:夢の国など】
【状況1】
朝焼けの中、君たちを乗せた船はどこかの孤島にある、施設内部へと入港した。 乗組員たちは、意識を失ったサイオンたちを、何らかの基準で選別し左右の部屋へと分けて運んでいく。 選別には何らかの基準があるようだが、それが何なのかはよく分からない。 施設全体を見て回る必要があるのは確かだ。さて、左右どちらから見ていこう。【状況2:右】
右の部屋に運ばれたサイオンたちは、個別の檻に入れられ、見せ物のように並べられている。それぞれに値札がつけられていた。 来客用の椅子やテーブルが多く配置されたフロアはオークション会場を思わせた。開場前と見えて、スタッフと警備員たちだけが準備のために行き来している。 ここは人身売買の会場だ。運営と顧客は一体誰なのだろう。調べる必要があるだろう。そしてそれ以上に、囚われた者たちを救う必要があるはずだ。【状況2:左】
左の部屋に運ばれたサイオンたちは、あるものは大部屋へ放り込まれ、あるものは手術台のようなものに拘束される。実験台のような扱いだ。 室内は研究施設のようになっており、研究員と警備員たちだけが準備のために行き来している。 ここは人体実験の研究所だ。データが管理されているパソコンが目に入る。うまく調べれば、施設の運営母体がどこか調べることができるだろう。【状況3】
施設の状況は分かった。 囚われたサイオンたちの解放と、施設の運営母体や客層の調査。主に行うべきはこの二つだ。「研究所に捕まってるみんなは私が助ける。商品扱いされてるみんなと、施設のデータを、二人は調べて」「こんなの見せられて、黙ってなんかいられない。私たちが力を合わせれば、この施設の奴らぐらい、きっとやっつけられる」 リュコスの瞳は諦観を超え、怒りの炎が燃えている。【状況4】
研究所を破壊し、違法なオークション会場を壊滅させ、囚われていたサイオンたちを解放したヒーローたち。 調査の結果、これらの非道な研究やオークションの背後には、日本国内の反超人種派政治家たちの影があったことが判明する。 「増え続ける入国超人種を規制すべきだ」という主張は一部世論の支持を受けており、超人種に社会的地位や利権を脅かされることを恐れる旧世代の勢力も、こうした動きを陰で後押ししていたのだろう。 君たちは、これらの運営母体を告発するに足る決定的な証拠を掴み、囚われていた人々の自由を取り戻すことに成功した。 あとは、この島から無事に脱出するだけだ。【エンドチェック】
□島の真相を知った□囚われていた人々を解放し、摘発の証拠を得た【解説】
超人種を誘拐した先で行われていた非道な真実に、PCたちとリュコスが直面するシーン。 リュコスはこの頃には静かな怒りを露わとし、幼さに不似合いな有能なリーダー然として多くの超人種たちの指揮を取るようになる。PCの活躍の邪魔にならない範囲で、後に彼女の正体が発覚した際にプレイヤーが納得できるような片鱗を見せると良いだろう。【クエリー3:どこに行けば】
【状況1】
囚われたサイオンたち全てを解放し終えた頃には、空は白み始めていた。間も無く朝が来るのだ。 迎えの船を手配しようとする君たちのもとに、囚われていたサイオンの一人が歩み出て、その手配を静止する。「この島を出て、再び日本に戻って、そこに本当に私たちの居場所はありますか」「私たちにはとても、そうは思えません。あなたも見たはず、きっと同じ事が繰り返される……私たちはどこに行っても、根無草の余所者でしかない」 悲しげな面持ちでそう告げたサイオンは、やがて思い切ったように、しかし本気を滲ませた顔で君たちへと申し出た。「私たちの旗印になってはくれませんか。共に逃げてはくれませんか。その先で……私たちだけの国を、作りませんか」 子供の夢のような、荒唐無稽な願い。 しかしそれは帰る場所を求める者達の、切なる本気の願いだ。 その言葉に、君たちはなんと答えよう?【エンドチェック】
□申し出に答えた□グリットを1点得た【解説】
最後の寄る辺に裏切られたサイオンたちからもたらされるクエリー。 基本的にはPCたちがサイオンたちの申し出を断ったり、全ての政治家たちが超人種排斥主義というわけではないと希望を捨てないよう訴えるような回答を想定している。 しかしPCたちがサイオンたちの求めに応じて独立の旗印になろうとするならば、GM側がそれを静止する必要もないだろう。シナリオクリアとともに、PCたちは多くのサイオンたちを連れて新天地へと旅立っていけばいい。 その場合は、決戦フェイズで戦うザ・ティーチャーは「君たちには任せられない」などのような理由で立ちはだかってくると良いだろう。【決戦:若芽と接ぎ木】
【状況1】
「残念だ。なら私があなたたちを導く」 背後からリュコスの声がした。 その声音はこれまでと同じものながら、落ち着き払った雰囲気はまるで別人のように感じられる。 振り返れば、少女が懐から一枚のマスクを取り出した所だった。それは世界一有名な狼のマスク、フォーセイクン・ファクトリーの統括者、ザ・ティーチャーを意味するマスクだ。 リュコスは当然のようにそのマスクを被り、ザ・ティーチャーとして君たちの前に立ちはだかった。「十分に現状は観測した。君たちがこんな世界に浪費される理由はない。……ともに戦おう。私たちの居場所は、そうしなければ手に入らないのだから」 ザ・ティーチャーの背後に、光学迷彩システムが解除された巨大な飛行艇が姿を現す。それはフォーセイクン・ファクトリーが、彼らサイオンを迎えに来た船だ。 そこから大きな影が飛び出し、リュコスの傍へとはべる。ファクトの幹部、恐竜怪人コールドテイルだ。 彼女は本当に、ザ・ティーチャーなのだ。【状況2】
「私は、ティーチャー」 君たちを挟み、サイオンたちの間に動揺が走る。その大半は恐怖であったが、その中に一抹の別の感情が含まれていることを君たちは理解できる──困惑と期待。 間に立つ君たちへ、リュコスは静かに語りかける。「古木に接ぎ木を繰り返しても、ただ養分にされ枯れていくだけ。私たちは新たな芽、芽吹く場所は自分で決める」「あなたたちは結局、大衆の尖兵。私たちの救世主にはなり得ない。ねえ、ヒーロー。彼らをどこに導くつもりなの?」 狼マスク越しに向けられる声には、諦観も怒りも最早ない。そこにあるのはただ、君たちへの敵意だった。【解説】
リュコスの正体が、このシナリオのメインヴィランであるザ・ティーチャーだと判明するシーン。 リュコスあらためティーチャーもまた、難民キャンプの噂を聞きつけ、単独調査に乗り込んでいた。PCたちの正体にリュコスが気づいていたか否か、シナリオ内で彼女が君たちへ見せた感情がどこまで真実であったのかは、卓の展開・GM・PLの解釈に委ねる。【戦闘情報】
【エネミー】
・ザ・ティーチャー・コールドテイル(強化)・ヘンチマン×2【エリア配置】
■PC初期配置 エリア1・エリア2■NPC初期配置 エリア4:ザ・ティーチャー エリア3:コールドテイル、ヘンチマン×3【勝敗条件】
勝利条件:エネミーの全滅敗北条件:味方の全滅【備考】
コールドテイルの【爪で切り裂く】を以下のパワーに強化する。【シナリオの結末(一例)】