狂言芝居人妖怪談



天狗。日本の民間信仰において伝承される神とも妖怪ともいわれる伝説上の存在。一般的に山伏の服装で赤ら顔で鼻が高く、翼があり空中を飛翔するとされる。元々、天狗という語は凶事を知らせる流星を意味するものだった。

1.エントリーとシナリオ概要

【シナリオ概要】


 修験の御六は行方を晦ませ、PCたちは爆炎と共に海へと呑まれた。 再び目を覚ました時、PC1とPC2の前には、それぞれに意外な人物が立っている。 御前試合の裏でひしめく、人と妖の陰謀劇。 英傑ならざる英傑よ、数多の呪いに終止符を打つ為に、全てを騙せ。

【事前情報】


 チャレンジ:3 クエリー:4 リトライ:3 初期グリット:4
 想定時間:4〜5時間 推奨経験点:39点

【GMに要するルールブック】


・基本ルールブック(R1)・ブラックジャケットRPG(BJR)

【エントリー】

【PC1:人の世に生きるもの】

 君が目を覚ました時、そこは暗い洞窟だった。 側にPC2や御六の姿は無く、全身が酷く痛む。 そんな君に声をかけるものがあった。「目を覚ましたようですね。くたばり損ないめ、忌々しい」 それはかつて敵対した陰陽師、般若の面であった!

【PC2:人ならざるもの】

 君が目を覚ました時、そこは豪華な檻の中だった。 側にPC1や御六の姿は無く、力が酷く制限されている。 そんな君に声をかけるものがあった。「おお、目を覚ましたぞ! 早く叫ぶ様を見たい。焼きごてを持て!」 それは北森藩藩主・北森景政その人であった!

2.導入フェイズ

【エントリー1:湿気た暗い洞窟にて】

登場:PC1舞台:湿気た暗い洞窟

【状況

 夢を見ていた。 満天の星空に太陽が浮かぶ夢。 太陽が海へと落ちていく夢を。 視線の先にPC2がいて、君の体からは血が溢れていた。 己はそれを見ていた。 そんな夢を見ていた。

【状況1】

 痛い。 寒い。 PC1は自分の身を包む寒気と痛みで、夢現の中から意識を取り戻す。 徐々に覚醒していく薄らぼんやりとした意識の中、己の体が揺られている事が分かる。 側に熱を感じる。誰かに運ばれているのだろうか。「目を覚ましたようですね。くたばり損ないめ、忌々しい」 嫌味ったらしいその声に、君の意識は一気に覚醒した。 聞き覚えのある声だった。君の目の前で、君の体を抱えて運んでいるのは、かつて敵対した陰陽師・般若の面であった!

【状況2】

 般若の面に連れられ、君が連れてこられたのは、湿気た薄暗い洞窟の奥だった。 焚き火の痕跡があるそこは、誰かが野宿の為に使っていた場所のようだ。 般若の面は君の体を放り投げると、焚き火に火を灯す。一体何が起きているのか。 般若の面は小さく舌打ちをした後、しかし事の顛末を君へと教えた。
「複数の事件が同時に起きていましてね」「一つは、北森景政による御前試合。通称、七人みさき。これについては、概要はあなたたちも知っての通り」「では何故、北森景政はそんな暴君へと至ったか? ただの気が触れた狂人だったら楽で良いんですけどね。奴の背後で、手を引く影法師がいるのですよ。我々の狙いはその化生でした。御前試合に出ていたカツコの婆様は我々の仲間です」「あなた達の邪魔が入ったのは予想外でしたが、目的が妨げられるほどの事ではありません。問題は、裏切り者が出たことです」「全く理解し難いですが、師匠はあなたに利用価値を見出したようでしてね。だからあなたを拾ってわざわざ介抱してるんですよ。でなけりゃ貴様の命なぞ誰が助けるものか」

【状況

「修験の御六は裏切り者が拐かしたようです。PC2は知りませんね。どこぞで海の藻屑にでもなったか、誰ぞに殺されてる頃合いじゃあないですか」「裏切り者の名は、火霞夜抄。本来ならば我々と共に、影法師討伐へ当たるはずだった陰陽師です」

【エンドチェック】

□般若の面に助けられた□状況を知った

【解説】

 PC1が目を覚まし状況を理解するシーン。 前編の最後、海へと落ちたPC1は盤外視座の陰陽師・般若の面によって救出・拉致された。般若の面は蛇腹太夫殺しの下手人と同一人物である。般若の面はPCたちのことを心底恨んでいるが、首座・鍾馗の命令に従ってPC1に接触した。 盤外視座としても、夜抄のこのタイミングでの裏切りは少し困ったものである。密命をこなし、北森景政の暗殺と影法師の討伐を行わなければならない以上、裏切り者の始末に手を回す余裕がないのだ。 状況0はPC1が見る夢である。後半のチャレンジイベントのフラグのようなものだ。

【エントリー2:絢爛な籠の中で】

登場:PC2舞台:豪華な檻の中

【状況

 夢を見ていた。 満天の星空に太陽が浮かぶ夢。 太陽が海へと落ちていく夢を。 視線の先にPC1の死体があった。君の手は赤い血に濡れていた。 己はそれを見ていた。 そんな夢を見ていた。

【状況1】

 甘い香り。 潮騒の音。 PC2は自分の身を包む奇妙な感覚で、夢現の中から意識を取り戻す。 徐々に覚醒していく薄らぼんやりとした意識の中、己の体がふわふわとした感覚に包まれていることが分かる。 地に足のつかないような、起きながらにして夢の中にいるような……。「おお、目を覚ましたぞ! 早く叫ぶ様を見たい。焼きごてを持て!」 子供のように浮かれた大人の声に、君の意識は一気に覚醒した。 聞き覚えのある声だった。眼前で手を打ちながら君を眺めているのは、北森藩藩主・北森景政その人だった!

【状況2】

 君は城の一室と思しき豪華な部屋の中にある、籠の中に囚われていた。 目の前には北森景政と、無表情の家臣たち、そして北森景政の側に侍る、顔を隠した僧侶の姿がある。「これは本物の妖なのであろう? 腕を落としたら生えてくるのか? 首を刎ねれば首だけで動くというのはまことか? 気になる! 見てみたい!」 北森景政は成人した体とは不似合いに、無垢な子供のように目を輝かせ、相反した残虐な言葉を口にする。やがて彼の元に、真っ赤に焼けた焼きごてが運ばれてくるにつれ、それが言葉だけの嗜好でないことは明らかであった。 無論、されるがままの君ではない。人間など君の力があれば容易く捻じ伏せられる。 そのはずだった。 力が出なかった。否、力を振るおうとする端から、檻にかけられた奇妙な術が、君の力を奪うのだ。 北森景政の後ろで、影法師のように控えた僧侶が低く笑う気配があった。あの男が奇妙な術をかけ、君の力を奪っているのだ。それは明らかに、人ならざるものの力だった。
 目を爛々と輝かせた北森景政が、焼きごてを手に近づいてくる…。

【エンドチェック】

□人間に捕まえられた□影法師に気づいた

【解説】

 PC2が目を覚まし、北森景政をはじめとした人間たちに捕まえられているシーン。 北森景政は妖怪・影法師(前編での願人坊主)によって残虐嗜好を植え付けられており、PC2が本物の妖怪であることを知って、妖怪を拷問するとどんな悲鳴をあげるのかが気になってしまった。そのため、PC2を捕らえ、嬲りものにする(あるいは影法師によって促された結果かもしれない)。 他の北森藩の侍たちは、本物の妖怪であるPC2を傷つけることで、恐ろしい災いが藩に降りかかるのではないかと怯えているが、藩主に逆らうほどの勇気も持てず、ただ怯えるばかりで役に立たない。 この導入シーンと、次のクエリー1の間で、PC2は北森景政から拷問を受けることになる。だが実際にどんな拷問を受けるのかはプレイヤーに考えてもらうと良いだろう。どこまでOKでどこまでNGなのかのラインは人によって異なるものだ。この拷問によってPC2がステータス上の不利を被ることはない。
■NPC:藩主・北森景政(きたもりかげまさ) 北森藩主。四国に生まれるが、後に北森藩の藩主へと任ぜられることになる。 詳細は不明ながら、将軍家の何某かの血を継いでおり、そのことを隠されている庶子のようなもの。その血筋故に勝手が許され、その血筋故に疎まれた。 孤独な幼少期に、妖怪・影法師と出会い、夜な夜な影法師が語る怪異譚・残酷物語に魅了されていく。少年は歪んだ大人へと育ち、権力を手に入れたことで、おぞましき暴君へと至った。 影法師のことは唯一無二の友と認識して慕っているが、第三者から見れば、その様は邪な妖怪に憑かれた狂人のそれである。

3.展開フェイズ

【クエリー1:影法師の手招き】

登場:PC2、影法師舞台:天守閣・檻の中

【状況1】

 君は北森景政にさんざ甚振られた。 彼は妖怪である君の身を傷つけることを悦び、愉しんでいた。 周囲の人間たちは痛ましげな顔はすれども、それを止めることをせず、ただ見ていただけだった。

【状況2】

 弄び疲れたのか、やがて北森景政は部屋から姿を消し、部屋から人は消えた。 君の目の前には、顔を隠した謎の僧侶が佇んでいる。「哀れなものですな」 僧侶が君へと言葉を向けた。それは君にも聞き覚えのある声だった。 江戸の町で、PC1と話をしていた、あの奇妙な願人坊主の声だ。

【状況3】

「人というものは、果たしてどこまで残酷になれるのか。時折興味深くなります」「幼少の頃より寝物語を囁き続けた結果、景政様は立派な人でなしに育ってくださった。火霞の当代も、僅かに情報を横流し、いくらかの言の葉を囁いてやれば、面白いほどあっさりと堕ちた」「人を狂わせるのは楽しゅうございますねえ、PC2様」 本心から愉快でたまらないと言いたげな声で、影法師はそんなことを言った。

【状況

「ああ、おいたわしや。我々は捕食者。……餌からそのような仕打ちを受けることは、耐え難い屈辱でございましょうに」「助けて差し上げましょうか」「当一座への感想でも聞かせてくだされば」「演目・七人みさき。ご堪能いただけましたか」 影法師は囁き、邪悪に嗤う。
「人ほど面白い娯楽はございません。 短い一生を様々に生き、あっという間に死んでいく、まるで芝居のよう。 私は人が大好きなのですよ。 あれほど良い餌も、娯楽も、そうはありますまい」「あなただって、同じでしょう?」
 さて、どう答えよう。 だが、どう答えようと──この影法師が、君を救うことなどありえまい。

【エンドチェック】

□影法師の言葉に答えた□グリットを獲得した

【解説】

 PC2が黒幕・影法師と檻越しに対峙し、その性質を知るシーン。 影法師は北森景政を幼少期から操り、立派な傀儡へと育てあげた。長きを生きる妖怪にとって、人の一生に付き合うことなど手遊びのようなものなのだ。 影法師と北森景政の関係は、PC2とPC1の関係と対立するようなものをイメージしている。お前も所詮同じだと嘯く邪悪な影に、PC2はなんと答えるだろうか?
■NPC:妖怪・影法師(かげぼうし) 影に潜み、人へと語りかけてくる怪異。僧侶のような姿をしているが、特定の形を持っているわけではなく、ある程度は自由に外見を変えられるようだ。 コトアゲセヌ国の重鎮・葬送法師の部下であり、幕末の動乱を見越した葬送法師の指示によって北森景政に取り入り、事実上北森藩を支配下に置いていた。反面、そのやり方は影法師自身の嗜好が色濃く反映されていたようだ。 人間を餌にして玩具と見下し、その命を弄ぶことを楽しむ邪悪な存在。人が好きと嘯くが、それは愛玩動物や道具に対する好意に過ぎず、飽きたり不要となればいつでも捨てられる類のもの。 北森景政のことは気に入りの玩具と認識しており、甘言を囁きながらどこまで壊れるのかを楽しんでいる。景政本人とは異なり、さして相手に情はない。

【クエリー2:行きずりの仲】

登場:PC1、般若の面舞台:洞窟

【状況1】

「師匠はあなたに利用価値があると考えているようです。裏切り者のせいで、我々も手が足りているわけではありませんし。使い走りにでもしたいのでしょうね」「裏切り者の始末を、あなたに」 般若の面はそう言うと、君の前に【任意の能面】を差し出す。
「良いように嵌められるのは腹が立つでしょう? 騙されるのは憎らしいでしょう? 修験の御六の身を助けたいのでしょう?」「それならば、我々はきっと『仲良く』できますよ。私だって大人です。蛇腹太夫の一件は、水に流して差し上げましょう」 いけしゃあしゃあとそんなことを言う般若の面。 君は気づいている。これは取引ではなく脅迫、盤外視座は君を利用しようとしているに過ぎない。少なくとも盤外視座は、PC2のことを助けるために動く気はあるまい。

【状況2】

 君がPC2のことを話題に上げれば、般若の面は面白くないといった声音で君へ尋ねる。「あんたにとってPC2ってなんなんです?」「ただの行きずり、その程度の仲なんじゃあないんですか」「修験の御六を助ける手助けをしてやる代わりにPC2を殺せと言ったら、どう答えるのか興味が沸いてきましたね」 般若の面は、嘲笑いながら吐き捨てた。

【エンドチェック】

□般若の面の問いに答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 般若の面からPC1へ向けられるクエリー。 作中での描写の通り、般若の面と盤外視座はPC1を利用して、裏切り者である火霞夜抄の処理を任せようとしている。任せるといっても、実質拒否権のない脅迫である。 PC1がこの場で逃げ出す・抵抗を示すのであれば、般若の面はPC1のことを殺さない程度に甚振り、強引に承諾させようとするだろう(もっとも、PC1が必ず同意しなければならないわけではない)。後に合流するカツコ様がいれば都合よく回復もできるので、盤外視座という組織が手段を選ばない恐ろしい存在であることを、改めてPC1が理解できるような目に合わせてしまうと良いだろう。PLと相談しながらシーンを作っていこう。
 また、必要だと判断するのであれば、ここで般若の面の口から火霞一族がどのような宿命を持った一族であるのかを説明しても良いだろう。詳細はBJR「火霞羅州」の項目に準じる。
「所詮は火霞、誰だって自分の命は惜しいものです。それが理不尽に押し付けられたものなら尚のこと、常人を妬ましく思うのは至極当然。そうでしょう?」
■NPC:復活の三下・般若の面 かつて蛇腹太夫を殺害した盤外視座の新人陰陽師。PCたちに敗北したが、かろうじて生き残っていた。 初陣の失態から、この北森に関する一連の任務でも独立した役目は与えられていない。このシナリオの盤外視座の人材不足の一因となっている理由でもあり、PCたちに夜抄討伐の話が行った理由でもある。 以前の敗北からPCたちのことを逆恨みし、優位な報復の機会を得れば意気揚々と言葉や行動でPCを甚振る性悪。 反面、経験不足は相変わらず。すぐに騙され、都合よく隙が生じ、地団駄を踏んで悔しがる、リアクション芸人。

【チャレンジ1:北森藩の妖怪騒動】

登場:PC1、PC2、般若の面、カツコ舞台:北森藩

【状況1:PC1】

「あんまりいじめてるんじゃあないよ」 洞窟の入り口から老婆の声がした。 振り返れば、そこには処刑されたはずの老女・カツコの姿がある。「あの程度でわしが死ぬと思うたかえ、心外な」
「その割には来るのが遅かったじゃないですか婆様。遂におっ死んだかと思いましたよ」「初仕事でボコボコにされて泣き喚いておった蛙が大口叩きおるわ」「はぁーーーー??? あなたも公衆の面前で盛大に負けてましたけどォーーーー????」「わしゃ本気出しとらんもん」 軽口を叩き合いながらも、出立の支度を整え始める陰陽師たち。 そこに君の意志が介入する余地は無さそうだ。 このまま二人と行動を共にしたとしても、良いように使われ、最後には殺されるのがオチ。 どうにか隙を見出し、逃げ出さなくては。

【状況1:PC2

 影法師は姿を消した。天守閣から見える満天の空には、尾を引く箒星が映る。 檻に貼られた結界は強固なものだ。 だが、ここで耐えていたところで、なぶりものにされ殺されるのがオチ。 何としてでも、この場から逃げ出さねばなるまい。
--------------------【チャレンジ判定】
PC1判定:陰陽師たちの隙をついて逃げ出す…<運動>-20% or 〈知覚〉-20% or 〈作戦〉-20%PC2判定:檻の結界を破壊し脱出する…【任意の技能】-20%
失敗:デスチャート4を振り、ライフを0にする--------------------

【状況2】

 PC1は陰陽師たちの隙をつき、PC2は檻の結界を強引に破壊して、その場を逃げ出した。 PC2が強引に檻と結界を破壊したことで、北森藩は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。何も知らぬ領民たちは、妖怪が現れたと恐れ慄き騒ぎ立てる。 その騒ぎは、陰陽師達のもとを逃げ出したPC1の元へも届くだろう。 君たちはどのように合流を果たすだろうか?
――(盤外視座側リアクション)「あ゛ーッ! あンのガキィ(アマ/野郎)…!」「捨て置きな。夜抄のことはもう話してあるんだろう? なら勝手に動いてくれるさ」 追手の式神を雑に飛ばしながら、しかしカツコは冷静だった。「殺すのはその後で十分だよ」――

【エンドチェック】

□チャレンジ判定を終えた□合流した

【解説】

 PC1とPC2が、それぞれの敵対者の手から逃れ、合流するシーン。 PC2の脱出シーンは、いかにも妖怪の怒りに触れたシーンのように派手に演出してもらうと整合性が取れる。反面、それが難しいキャラクターの場合は、PC2の脱出に気づいた北森藩の侍たちが、妖怪の報復を恐れて必要以上に騒ぎ立て、話を大きくしてしまうとすると良い。

【マスターシーン:火霞夜抄は考える】

登場:PCなし/火霞夜抄舞台:回想
──己というものは、何処に宿るものであろうか。 火霞夜抄は考える。 思考する頭であろうか。形成す肉であろうか。あるいは、持って生まれた才であろうか。 いずれにしても、『大したものではあるまい』。 夜抄はそう、考える。

 火霞の男児は短命だ。皆、三十を迎える前に死に至る。 それはかつて、この国の朝廷が生まれて間もない頃に、先祖が鬼と交わったからだという。 この国を護るため、私を滅してでも力を得たのだと、婆たちは誇らしげに語る。 当時は今ほど齢が長かった訳ではないから、天寿のつもりで対価としたのだろうと、口の悪い者は語る。 そう多くはない、けれど確かにいる、当時を知るものたちは──何も語らぬ。 どちらも違うのだろうと、夜抄は考える。
 火霞は『被せられた』のだ。 当時、この国を護るため、誰かが担わねばならなかった犠牲の役割を。 でなければ──でなければ、こうも長きに渡り、血が絶やされずに続くものか。 いつか、血を繋いだ先、数多の屍を超えたその先、未来で。 誰かがこの呪いを解いてくれる日が来ることを。 その日が来てようやく──ようやく、己たちの生は報われるのだと。 そう、夢を見ているのだ。

 皆が同じ思いとは言わぬ。 産まれて一、二度顔を合わせたきりの夜抄の弟たちなどは、一族のお役目に、随分と前向きな様子であった。 ただ──己がそう思えていないだけ。
 火霞夜抄は、火霞に、己に、胸を張れぬ男であった。 ただ長子であるというだけの、場繋ぎの当代である。それは、己が最も分かっていた。 己の持つ才は、乏しい。一、二度顔を合わせたきりの弟たちの方が、はるかに優秀であることは、上げられる報告の数々で知っている。三十迄という呪いを代償に得たはずの力にも、差は生じる。 長として鴉天狗の面を引き継ぎこそすれ、夜抄のそれは張りぼてだ。 分かっていた。 それでも。 それでも、子さえ生まれれば。 産まれた子に、己より強い力があれば。 未来へと、何かを託せるのであれば。 それで己の生は報われるだろうと。 そう、夢を見ていたのだ。

 ──『……大変、申し上げにくいのですが』 医者に言われるまでもなかった。 幾度営みを終えようと、幾度同衾相手を変えようと、一度も種が実らねば察しもつこう。 火霞の血は濃くなりすぎた。 珍しい話ではない。 その不運が見舞った相手が、たまさか己であった。 それだけのこと。 ……それでも。 夢すら見られなくなったのは、堪えた。

 南蛮より来たという、地獄夫人と名乗った女術師から、奇妙な術の存在を教えられたのはいつの事だったかは、もう覚えていない。 役目を捨てて失踪した先代が、野山に混じりて教えを授けたという者が、火霞の血を引かぬ余所者だと知ったのがいつであったのかも、定かではない。 その二つを結びつけたのがいつであったのかも、もう忘れた。 あるいは──忘我の中、己はやはり、夢を見ていたのかもしれぬ。 影の中より誰かが囁いていた。 己はそれを、ずっと聞いていただけだったのかも、しれぬ。

 もう──それでも、よいか。

 己というものは、何処に宿るものであろうか。 火霞夜抄は考える。 いずれにしても、『大したものではあるまい』。 夜抄はそう、考える 考える、けれど。 意識を失った修験の御六を、ただ一人で運びながら。
 己が、もう戻れぬ一歩を踏み出したのだということは、分かっていた。

エンドチェック

□御六は夜抄が誘拐している□夜抄の動機をPLが理解した

解説

 マスターシーンで、このシナリオのボスである火霞夜抄の動機が語られるシーン。目的としては、クライマックスまで出番のない火霞夜抄本人の人となりを説明しておくこと・作中で説明しきれないNPCの動機をPLに公開すること、にある。 描写が長いので、PLを退屈させないために、GMは見せ方を工夫する必要があるだろう。 必要無いと判断するのであれば、バッサリとこのシーンをカットし、最後のクエリーイベントで夜抄自身の口から一息に彼の動機を語らせるなどしても良い。それもよくあるシナリオの形だ。

■NPC:落ちこぼれの当主・火霞夜抄(ひがすみやしょう)立ち絵立ち絵2 三十歳までに死に至る呪いを受け継ぐ、火霞家の現当主。 当主として一族を束ねてこそいるが、陰陽師としての実力には乏しく、自身もそれを自覚している。傀儡の当主であることを受け入れ、せめて次代に未来を委ねることを希望として生きていたが、子を作れない体であることが発覚。自身の命の意味を見失い、火霞の使命を捨て、ただの人として生きたいと切望するようになる。そんな折に南蛮から渡ってきた腐肉宮廷の魔術師・地獄夫人(マダム・ヘル)と出会い、精神転移の術を授かるに至った。 実際のところ、夜抄が求めているのは延命そのものではない。彼が本当に求めていたのは自分の生に対する満足感、自らが生まれた意味そのものだ。 南雲夜抄の頃に演じていた、真面目で愚直な堅物というのは本来の性格である。

【チャレンジ2:霊峰のマヨヒガへと】

登場:PC1、PC2舞台:早池峰山(はやちねさん)の隠れ里

【状況1】

 合流を果たした君たちは、互いの情報を共有する。 そして、御六を連れ去ったのが火霞夜抄である以上、やはり彼を追う必要があるという結論に達する。 彼らはどこへ消えたのか? 僅かな痕跡から、君たちは足取りを辿る。
-------------------------【チャレンジ判定】 この判定は二人で挑むことが出来る。どちらかが判定に成功すれば成功として扱う。判定1:御六と夜抄の行方を探せ!…〈交渉〉 or 〈知覚〉失敗時:サニティを0にする-------------------------

【状況2】

 残された痕跡や目撃情報を辿り、推測を経て、君たちはついに夜抄が向かったと思しき場所を特定する。 それは修験者たちによる山岳信仰の霊峰とされる『早池峰山(はやちねさん)』。その山中に打ち捨てられた隠れ里の残骸であった。 かつてデンデラ野(姥捨の地)として使われていたその地は、常に色濃い霧と険しい山々に覆われ、百年以上の長きに渡り、隠れ里めいて放置され続けているという。 君たちはその隠れ里を目指し、遠野一の霊峰へと足を踏み入れることになる。

【状況

 深い深い山の奥深くにて。 君たちが隠れ里を探り当てれば、時刻はすっかり夕暮れを迎えていた。 勾配を利用して建てられた隠れ里の廃墟には、確かに人の気配がある。 君たちの襲来を予期してか、はたまた君たち以外の追跡者を危惧してか、落とし穴や吊天井、魔術的なトラップなど、隠れ里中に様々な罠がしかけられていた。 罠を躱し、夜抄のもとへ向かえ!
-------------------------【チャレンジ判定】 この判定は二人で挑むことが出来る。どちらかが判定に成功すれば成功として扱う。判定2:数多のトラップを回避して進め!…〈運動〉-20% or 〈霊能〉-20%失敗時:クレジットを0にする-------------------------

【状況

 君たちは仕掛けられた数々の罠を乗り越えながら、先へと進む。 人の気配は、隠れ里の頂、星見台めいた岩場へと続いていた。霧と雲に覆われたその先へと向かう道中、君たちは、葛に放り込まれて粗雑に捨てられたいくらかの死体群を見る。 腐敗が進むその亡骸は、衣服などを確認するに、陰陽師と思しき者と、野良百姓と思しき者の亡骸群であるらしかった。 比較的新しい遺体を検分すれば、どちらも頭を抑え、目を苦悶に見開いていることが分かる。陰陽師と思しき者の目鼻立ちには、どこか火霞夜抄と似た面立ちがあった。 夜抄はここで何をしていたのだろうか? 君たちは歩みを進める。

【エンドチェック】

□マヨヒガに辿り着いた□死体を目にした□先へ進んだ

【解説】

 PC1とPC2が霞夜抄の後を追うチャレンジイベント。 状況3の死体は、夜抄がこの隠れ里で行っていた、精神転移の術の実験の代償である。声聞師と野良百姓の精神を交換し、うまくいく場合・いかない場合を実験していた。その過程で、夜抄自身の弟を含む多くの人が命を落としている。 火霞夜抄は悲劇的な動機の持ち主であり、真面目な性格の人物ではあるが、すでに取り返しのつかない行為に手を染めている。

【クエリー3:星辰の下で】

登場:PC1、PC2、火霞夜抄舞台:隠れ里の星見台

【状況

 隠れ里の星見台は、自然の侵略と時の経過により崩落し、岩場の先に満天の星空を覗かせていた。 澄み渡った星空の先に、尾を引く箒星が見える。 その下に、鴉天狗の能面をかけた、一人の男が立っていた。 男──火霞夜抄の前では、目を布で覆われ、猿轡を噛まされ、磔にされた御六が呻き声を上げている。 駆け寄ろうとする君たちの前、ひとりでに炎が立ち登り、灼熱の壁となってそれを遮った。

【状況

 夜抄は振り返らぬままに、口を開いた。「南蛮から来たという、女術師から聞いた話だ」「星辰揃いし時のみに成せるという御業。人の体はそのままに、その意識と意識とを取り替える、西洋由来の禁呪法」「──己というものは、何処に宿るものであろうな」
 御六の呻き声が大きくなる。 夜抄はゆっくりと振り返った。
「火霞の男児は三十を迎える前に、呪いによって死に至る。 先祖より受け継がれし呪いよ。逃れた者は誰一人居らん。 己もそろそろ迎えを得よう」「人も妖もどうでもいい。俺の望みはただ一つ」
「おれの精神と適合出来る者は、この男だけであるという。 それが同じ男から薫陶を受けた縁故なのか、ただの偶然なのかは、おれは知らぬ。 あと半刻(一時間)も経たぬ内に、術式は完成しよう。 だがそれよりも先におれが倒れれば、術式は半ばで絶え、効果を失おう。 そして……この夜を逃せば、もうおれの生きる内に、星が揃うことはあるまい」「だから先ずは──伏して、願おう」
 夜抄は言葉通り、膝をつき、首を垂れた。
「……金が欲しいならば払おう。便宜が必要ならば図ろう。 この命が欲しいというならば──全てが終わった暁に、この首をくれてやろう」「半刻、待ってくれ。 その半刻で、おれはおれという悪夢から目覚めることができる。 ただひとときでもよい。 おれは──ただの、人になりたい」「この男の体一つあれば、それが叶うのだ」「この男をおれにくれ」
 君たちに、夜抄の心全てが分かる訳ではない。 だがそれでも、その声音に、全霊をかけた切なる響きが込められていることは、分かる。 それは面越しにも分かる、愚直で虚な情念であった。
 だが、それでも──それでも、それは、叶えられない望みなのだった。

【エンドチェック】

□火霞夜抄の願いを断った□グリットを1点獲得した

【解説】

 火霞夜抄の口から真っ直ぐに目的が告げられるクエリー。堂々とした命乞いである。 火霞夜抄の動機は、いわゆる「可哀想な殺戮者」「心優しいモンスター」などと言われる、古典的なTRPGで起きうる問題に抵触しやすい。GMは適宜「火霞夜抄は御六本人からの同意は得ていないこと」や「道中の死体は彼が作り出したものであること」などを伝え、必要以上に対決のハードルが上がり過ぎないようにしよう。 また、PCによっては、夜抄に改心を迫るよう交渉する者/妖怪としての能力で彼の問題を解決することを持ちかける者もいるかもしれない。それに対しては、GMは少なくともこの時点では、拒絶して決戦フェイズへなだれ込むべきである。「その都合のいい話を信じてやれるほど、おれはお前たちのことを知らんのだ」「もっと早くお前たちと出会えていれば、また違った結末もあったかもしれんな」 などの言い回しをするとヒロイックさが増すのでオススメ。

4.決戦フェイズ

【決戦:天狗の御燈】

登場:PC1、PC2、夜抄舞台:隠れ里の星見台

【状況1】

 君たちの言葉を聞き、夜抄がどんな顔をしたか──それは鴉天狗の能面に阻まれて分かることはなく。 ただ彼は、静かな声で、「そうか」と言って首を上げただけだった。「穏便に願うことが叶わぬのであれば、このあとおれが、何をするかもよく分かろう」
 君たちの背後から、足音が迫る。「反魂の秘術は、西行だけの特権ではあるまいよ」 君たちの背後からは、道中で打ち捨てられていた陰陽師たちの亡骸が一人でに立ち上がり、生ける屍となって迫り来るではないか!「試しもせずに手出しはせんとも。これまでにも幾度か、精神交換の術の試みはしておる。十分に成し遂げるに足ると確信を得た、故に動いた」「溝出(みぞいだし)もかくやたるそれらは、そうした試みの副産物」「……おれの弟たちだ。仲良くしてやってくれ」
 空では彗星が眩い輝きを放ち。 地上では焔の壁が彼我を阻む。 焔の壁の先、鴉天狗は目を背け。 磔にされた御六の絶叫が響いた。
 時間はない。 止めねば、なるまい。

【解説】

 溝出(みぞいだし)とは妖怪の一種。葛篭に死体を入れて粗末に捨てた死体が蘇ったというような怪異譚である。夜抄は自身が殺した百姓や声聞師たちの死体をそのように扱い、溝出へと転じるよう意図的に仕向けた。それは完全に盤外の陰陽師としては道を踏み外した行いであり、すでに取り返しがつかない領域に至っている証左である。
「骨も残さず燃え尽きて死ね! 貴様らを焼き滅ぼし! その屍を踏み越えて! 俺はこの先の未来を生きていく!!」

【戦闘情報】

【エネミー】

・火霞夜抄・声聞師ゾンビ×2・人魂×2

【エリア配置】

■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 エリア4:火霞夜抄 エリア3:声聞師ゾンビ×2 エリア2:人魂×2

【勝敗条件】

勝利条件:火霞夜抄の撃破敗北条件:PCの全滅

【備考】

・決戦終了後に発生するクエリーのグリットは、先行して獲得したことにしてもよい。・エリア3を「エリアタイプ:天火(ダメージゾーン2)」として扱う。・3ラウンド以内に決着がつかない場合、御六と夜抄の精神交換が完了する。・戦闘には一部BJRのルールを追加する(BS)

■ボス:火霞夜抄

【エナジー】ライフ:90 サニティ:70 クレジット:50

【能力値・技能値】

 【肉体】45 白兵85% 運動80% 【精神】35 霊能50% 意志65% 【環境】25 作戦70% 隠密50% 経済40%

【移動適正】地上


【パワー】

生を燃やし尽くせども属性:攻撃 判定:なし タイミング:行動射程:3 目標:2体 代償:ターン10 効果:目標は〈意志〉の判定を行う。この判定に失敗したキャラクターは1d6点のダメージ及び[延焼8]を受ける。──努力により培われた焔。けれどそれは完成には遠く及ばず。
呪毒符属性:攻撃・装備 判定:なし タイミング:行動射程:3 目標:2体 代償:ターン20効果:目標は〈生存〉の判定を行う。   この判定に失敗したキャラクターは1d6点のダメージおよび「毒2」を受ける。──体内の毒素を増幅させる呪符。
弱体符属性:攻撃・装備 判定:霊能50% タイミング:行動射程:2 目標:1体 代償:ターン6効果:目標は〈意志〉の判定を行う。    この判定に失敗したキャラクターは「BS:束縛」「BS:幻惑」「BS:大凶」を受ける。──精神を蝕む呪いの符。
強化符属性:攻撃・装備 判定:霊能50% タイミング:行動射程:なし 目標:自身 代償:ターン10効果:このイベントの間、   目標が与えるダメージ・ショック・スティグマに +4の修正を与える。──力を増幅する霊符。
野辺の送り火属性:攻撃 判定:なし タイミング:特殊射程:3 目標:1エリア 代償:なし効果:行動順ロール直後に使用できる。目標のエリアに「エリアタイプ:天火(ダメージゾーン2)」を追加する。    目標のエリアが既に「エリアタイプ:天火」である場合、そのダメージゾーンの値を+2する。    君は常にこのエリアタイプの影響を受けない。──天火を以て荼毘に伏す。
精神交換の術属性:攻撃 判定:なし タイミング:永続射程:なし 目標:修験の御六 代償:なし効果:ラウンド終了時に発動する。「精神交換ポイント」を1点追加する(初期0点)。   このポイントが3点に達した時、この術は完成する。──腐肉宮廷よりもたらされた西洋禁術。

ヘンチマン:声聞師ゾンビ

【エナジー】ライフ:5 サニティ:10 クレジット:5

【能力値・技能値】

 能力値・移動適正・エナジーはBJR『声聞師』参照。

【パワー】

呪詛属性:妨害 判定:霊能35% タイミング:行動射程:1 目標:1体 代償:ターン10 効果:このイベントの間、目標が行う全ての判定に-10%の修正を与える。    この効果は三回まで累積する。──敵に呪を投げかける。
溝出の無念属性:回復 判定:なし タイミング:特殊射程:なし 目標:自身 代償:サニティ6効果:ラウンドの開始時に使用できる。君の[戦闘不能]を回復する。この方法で[戦闘不能]を回復した場合、君のライフは最大値まで回復する。──粗末に扱われた遺体は怪異を引き起こす。
噛む属性:攻撃 判定:白兵50% タイミング:行動射程:1 目標:1体 代償:ターン6効果:目標は〈運動〉-30%で判定を行う。この判定に失敗したキャラクターは1d6点のダメージを受ける。──素早く何度も噛み続ける。

5.余韻フェイズ

【クエリー4:同じ船の上】

登場:PC1、PC2、御六舞台:隠れ里の星見台

【状況1】

 君たちは火霞夜抄を倒した。「……やはり……こんなもの、よ、な……」 夜抄は最後の一撃を受ける刹那、物寂しげな、どこか分かっていたと言いたげな言葉を漏らし──崖の下へと落ち、消えていった。
 炎が消える。 夜が来る。
 君たちが御六のもとへと向かい、その拘束を解けば、彼が何事かを呻き、呟いているのが耳に入る。 焦点の合わぬ瞳のまま、彼の意識は錯乱しているらしかった。「おなつ、すまねェ。おれがもっとうまくやれば、もっと意気地があれば」「助けたかったんだ、助けられると思ったんだよ、それなのに、ああ、おれは、結局…!」「……そうだ、だから、今度こそ、今度こそうまくやる、やってみせる。あの二人は、お前の分まで、今度こそ……」
「(各PCに向けた御六の本心を伝えよう)」「……どうりゃいい、どうすりゃ助けられる? どうすりゃあ、俺は……」
 おなつとは、蛇腹太夫の浮世での名であると、君たちは知っている。 錯乱し、現が見えていないらしい彼に、君たちは何をするだろうか。

【状況2】

 自意識を取り戻した御六は、ようやく周囲の状況を把握する。「あっしは確か、夜抄の旦那に……ああいや、あいつは……」「こりゃア、一体……何が……全部、お二人が?」 夜抄との戦いや、これまでのことを知れば、御六は顔色を青褪めさせる。「なんてことを…!」「何を敵に回したか、分かってるんですか!? 奴らは手段を選ばない。話し合いでどうにかなるような手合いじゃねえ! あんたも! あんたの家族も! 誰も彼もが危険に晒される! もう二度とお天道様の下歩めねえかもしれねえんだぞ!? 何でそんなことを!」 掴みかからんばかりの勢いで語気を荒げる御六。 しかし彼はすぐに、ハッとした様子で答えに辿り着き──項垂れた。「……ああ」「……俺の、せいか」

【エンドチェック】

□御六に喝を入れた□グリットを1点獲得した□使用済みのグリットを2点回復した

【解説】

 PCたちが御六と合流し、彼の本心を聞くシーン。転じて、うじうじしている御六に喝を入れるシーン。 御六は蛇腹太夫を助けられなかったことを悔い、恩人であるPCたちを同じ目に合わせてしまうのではないかということを恐れ、怯えている。「(各PCに向けた御六の本心を伝えよう)」のところでは、これまでの関係性をもとに、GMが考え御六のセリフを自由に考えてほしい。
 このクエリーは決戦後に発生するが、決戦時に先んじてこのクエリー分のグリットを獲得・使用しても構わないものとする。また、このクエリーを通過した場合、使用済みのグリットが2点回復する。チャレンジ3の保険とすると良い。

チャレンジ3狂言芝居人妖怪談

舞台:北森藩登場:全員

【状況1】

「一つ、確認させてくだせえ」「PC1は、陰陽師どもの仲間になる気はない。PC2は、あのクソ坊主に手を貸す気はない。二人とも、二人の儘、生きてここから脱したい。……そう考えてると思って、いいんですね?」 PCたちの意志を確認し、御六は言う。「あっしだって、むざむざ殺されるのは御免ですよ」「あっしら『三人』が、まるごと生きて帰る為、この八方塞がりの状態を如何にかする必要があります」「しくじりゃ諸共死ぬでしょう。ですが今は、誰かを差し出せば生きて帰れるような状態じゃあ、なくなっちまった」
「……正直なところ、ここからは賭けです。勝ったとしても、お二人、特にPC1さんは、行き交う人の中に、夜の闇の中に、やつらの影を見ることになる。いつ、どこで、どう嘘がバレるか分からねえ。芒の穂に幽霊を見、柳の下に女の影を見る、そうした恐怖を抱えてこの先一生を生きていくことになる」「一生を怯えながら過ごすのと、今ここで潔く散るの、どれがましかなんて、お天道様にだって分かりゃしません。ですがそれでも、あっしはあんたらに生きていてほしい」
「このペテン師と同じ船に乗り込んで、一緒に死んでくれますか」
―――――□自由に演出してもらう

【解説】

 このシナリオ最後のイベントとなるこのイベントでは、多数のマスターシーン、それもNPCたちの一人称視点でのマスターシーンが発生する。 これらの描写の意図としては、いわゆる「一人称の語り手は嘘をつかない 」ということにある。どんなに腹に一物を持った人物であっても、このマスターシーンの中で語られる一人称視点の描写は全て本心であり、嘘偽りのない感情となっている。PLがそれらを客観情報として認識できることで、PCたちによる『そのNPCを騙す』RPに説得力を持たせることを目的としている。 反面、これらの描写は、いわゆる「吟遊」と呼ばれる状況に陥りやすい手法でもある。GMはPLを退屈させないよう十二分に配慮した上で、このシーンを作り上げていくと良い。また、不要と判断するのであれば、各NPCの概要のみを情報としてPLに伝え、シーンを作ってもらうなどしても良いだろう。
 また、展開に関しても、シナリオ上は決め打ちのような形で描写を書いているが、PLが望むのであればその中のいくつかの展開を改変してしまってもいいだろう。たとえばシナリオ内では死んだことになっている火霞夜抄が何らかの方法で助かってもいいし、北森景政を殺した盤外視座の面々が公的に裁きを受けるような形になってもいい。重要なことはプレイヤーが展開に納得できるか/満足できるかであることを意識し、クライマックスを盛り上げてほしい。
【各NPC概要】■般若の面・カツコと共に北森景政を暗殺している・般若の面は人間・妖怪双方に対して嫌悪感を抱いており、誰でもいいから悲鳴を聞き、優越感を得たい。・そんな折にPC1が傷ついた様子で姿を現すので、虐めて楽しもうと声をかけてくる。うまく誘導されれば、PC1とPC2が殺し合う様を見たい一心で、PC1を自分達の味方として受け入れることになる。・最後は相打ちになるPC1とPC2の姿を目にし、二人は死んだと判断。他幾らかの要因も合わさり、盤外視座からPC二人への干渉は止まることになる。
■影法師・北森景政を見捨て、北森藩から逃げ出そうとしている。・影法師は葬送法師からの命令で北森藩を操っていた・そんな折にPC2が憤った様子で姿を現すので、悪い癖が表出し、遊び心が芽生えてしまう。うまく誘導されれば、PC1とPC2が殺し合う様を見たい一心で、PC2に力を貸し、北森藩に留まることになる。
■火霞夜抄・何故生きているのか分からないまま、自暴自棄になり北森藩へ戻ってくる。・そこで首座・鍾馗と遭遇。鍾馗によって殺されるが、末期に鍾馗の「勘違い」を目の当たりにし、自分より遥かに格上の相手を騙したことに溜飲が下がり、結果的に修験の御六の身代わりとなり満足して逝く。

【→チャレンジ3:狂言芝居人妖怪談】

【状況マスターシーン1:夜抄】

舞台:朽ちた星見台・隠れ里登場:火霞夜抄
 ──目を覚ました。 目を覚ましたということを、理解した。 どうやら自分は、死に損なったらしかった。 痛む体をひきずり、身を起こす。 崩れた星見台を降りていく。
 井戸の中を覗く。 月明かりに照らされた水鏡に、三十年連れ添った、つまらぬ顔が見えた。 しくじったらしい。ならばいっそ──ここで死ぬか。
 一歩を踏み出そうとして、腕に力を込めようとして、身を投げようとして──…。 ……できなかった。 できるはずがなかった。 そんな、『勿体ない』ことは。
 どうせ、死ぬのだ。 首座に殺されるか、野垂れ死ぬか、寿命で死ぬかは知らぬが。
 どこへとなく歩き出した。 行く宛など、あろうはずもなかった。

状況マスターシーン2:般若の面

舞台:北森城登場:般若の面
 北森景政は死んだ。 死に際に騒がれたせいか、城内はにわかに騒がしい。ここへもやがて、城の者が駆けつけてくるだろう。 面倒なことだ。仕事はまだ、終わっていないのに。 足元に転がった傀儡の亡骸を足蹴にし、般若の面は側の老女へ声をかける。「影法師を探さなければなりませんね。奴はいまどこに?」「うまいこと人を操ってるようだね。まだ近くにはいるだろうが……城の者に私が見られたら余計な幽霊扱いされちまう、あんたがお気張り」 舌打ちを零し不服を告げるが、老婆は肩をすくめて笑うばかりで仕様がない。 この老婆は実力を出し渋る癖があるのが厄介だ。
 人が何人死のうが知ったことではない。むしろ、小気味良いとすら思う。 妖がどれだけ苦しもうが知ったことではない。むしろ、ざまあみろと思う。 人の世を守る為と銘打たれてはいるが、般若の面は興味はない。 だからこの仕事が、誰の意図で以て、何の為に自分たちへと下されたのかも、知ったことではない。 心血注いで助けて守ったところで、人の世とやらが自分たちを助けてくれるわけでもあるまいに。 だが──目の前で上がる悲鳴、命乞い、怯えた声。 それを聞くのは、人相手でも、妖相手でも、気分がいい。
 今日の仕事も同じこと。 消えた黒幕の行方を辿らんとしたとき、般若の面はそれを見た。 PC1だった。ひどく傷ついていた。 一度は去ったはずの人物が、ふらりふらりと、力ない足取りで近寄ってくる様を見た。 目が合った。 ──むくりと欲が湧き上がるのを感じた。
 湧き上がる愉悦を堪え、込み上がる嘲笑を抑え。 優しく聞こえる声音を作り、穏やかに尋ねてやった。「……ああ、お可哀想に。随分とひどい怪我をしておいでだ。一体何が?」

【状況マスターシーン影法師

舞台:北森城の近く登場:影法師
 北森景政は死んだようだ。 もう少し遊べるかと思ったが、仕方がない。
 思えば、愉快な傀儡であった。 出生のしがらみで生まれ故郷たる四国から遠く離れた遠野へ飛ばされ、孤独に過ごす幼児は操り易い玩具であったものだ。 このまま長く生きるなら、遠からず来るだろう人の世の動乱に合わせて、身の丈に合わぬ神輿として担ぎ上げてやってもよかったが……死んでしまったのなら仕方ない。 己の役目は十分果たしただろう。 コトアゲセヌ国へと戻り、葬送法師様へとことの次第を報告するとしよう。
 騒がしい北森城内を抜け、影から影へと潜り、伝い。 姿を消そうと思ったその時に──影法師はそれを見た。 PC2だった。ひどく憤っているように見えた。 一度は去ったはずの人物が、ふらりふらりと、力ない足取りで近寄ってくる様を見た。 目が合った。 ──むくりと欲が湧き上がるのを感じた。
 湧き上がる愉悦を堪え、込み上がる嘲笑を抑え。 同情に聞こえる声音を作り、影から静かに尋ねてやった。「……PC2殿ではございませんか。一体、どうしてそれほどお怒りに?」

状況2:PC視点

舞台:回想シーン登場:PC1、PC2、御六
 時は少し遡る。 巻き込まれたこの陰謀と、この地から無事に逃れる為に、君たちは策を練った。 顔を突き合わせ、御六が言う。「都合がいいことに。奴らは今、どちらもが、自分たちこそが勝ち馬に乗っていると思っています。あっしらに対しては特に」「わざわざこんな手使ってまでお二人を巻き込んできたんだ、奴らがそれぞれお二人に、一目置いてるのは確かでしょう。 そのくせ、どいつもこいつもこう思っている。 『自分たちが最も優位に立っていて、それ以外はみな掌の上なのだ』、と」「だからこそ、騙せる」 君たちからもたらされたこれまでの状況をまとめ、御六は言った。
「まずは奴らの懐へ入り込みます。互いが互いを見限った、そう主張して相手の元へ向かってくだせえ」
「この二陣営の目的は対立してます。 ぶつかり合うのは時間の問題、そうでなくとも陰陽師どもは影法師を追い詰めるでしょう。 PC2さんは、影法師の奴が逃げ切らねえよう誘導を頼みます。 そう、それこそ──この手で殺さねば気が済まぬ相手がいるとでも」「PC1さんも同様に、陰陽師どもについてくだせえ。 忠誠の証と嘯いて、見限った相手を殺したいと訴えれば、奴らにとっちゃ渡りに船。 せいぜい都合よく使ってやろうと思われることでしょうぜ」
「双方の陣営へと入りこめりゃ、次は簡単です。双方出会った暁にゃあ──殺し合いを願います」
 余裕なく、しかし無理にひり出した笑みを浮かべ、ペテン師は啖呵を切った。
「土壇場・瀬戸際・大一番! ひっくり返し甲斐があるってもんです」「追い詰められた奴が一番強ェってことを、奴らへ思い知らせてやりましょう」
 だから、今。 君たちは。 各々の立場で、彼らのもとに現れた。 人を、妖を、全てを騙す『狂言芝居』を成すために!
―――――【チャレンジ判定1】
陰陽師たちを/影法師を騙そう…〈心理〉+20% or 〈交渉〉+20%(双方が判定に挑み、双方が成功する必要がある)
失敗時:くそッなかなか信じてもらえない。疑り深いやつらめ。    成功するまで判定を繰り返す。リトライを喪失する必要はない。    ただし、次の判定にマイナス「失敗した回数×10」%の修正を得る。―――――
□自由に演出してもらう

【状況

 陰陽師たちと影法師、人と妖が遂に衝突する。 カツコの妖術が、般若の面の毒が影法師へと放たれ、影法師は影へ闇へと逃れながらそれを翻弄する。 その中には君たちの姿もあった。人と妖に分かれて、絆は分かたれ、互いを憎み合うようになった、そう見えるPC1とPC2の姿が。 だが、実際はそうではない。そうではないのだと君たちは知っている。 目と目を交えれば、それだけで互いが同じ思いの上にあるのだと理解できる。 芝居は演じられる。ここが大一番、大見得を切る時は今だ!
―――――【チャレンジ判定2】
PC1と/PC2と殺し合いを演じよう…〈任意の戦闘技能〉+10%(双方が判定に挑み、双方が成功する必要がある)
失敗時:しまった本当に殺っちゃった!? 『相手』はライフのデスチャート4を振る。―――――
□自由に演出してもらう

【状況

 潜り込むまでの作戦を伝え、次に御六はその間の自分の動きと役割について君たちへ説明した。「あっしはその間、別行動を。細々とした仕込みをしてきます。 なあに、死ぬ気はありやせん。むしろ、仕上げはお二人にも手伝ってもらわにゃアならん」
「奴らは感情で動く三下じゃねえ、徒党を組んだ筋道通った悪党だ。 そういう悪党は、損得で動きます。 邪魔立てするなら殺すでしょうし、近く障害になると判断するなら追って殺すでしょう。 ですが、深追いすれば損が増すのだと判断すれば、手を引きます」「そう判断させられるだけの爆弾が必要だ」
「お忘れですかい? この藩にゃあ今、報酬と恩赦に釣られて全国津々浦々から集められた、胡散臭え霊能者どもがゴロゴロいる上に、都からきた陰陽師を暴君が処刑した盤に城の離れが崖崩れを起こした挙句、その城からおっかねえ妖怪が飛び出してひと暴れしたなんて噂まで知れ渡ってる」「何もせずとも、仕込みは十分。だからあとは、どデカいモノを一つ打ちあげられればそれでよし。何たって突貫です、ボロを誤魔化すには、派手に打ち上げて誤魔化すのが一番でさァ」
「問題は何をしたものか、ですが──」
 御六は空を見た。 そこに掛かる、箒星を見た。
「ちっとばかし、天狗星でも降らせてみましょうか」
———―――【チャレンジ判定3】
北森藩に天狗星を降らせよう!…〈霊能〉 or 〈科学〉(どちらかが判定に成功すればよい)
 もちろんそれは本物じゃあない。 だけど、本物じゃないなんて、仕掛け人以外に誰が断言できるんだ?
失敗時:本物の隕石が降ってくる。ライフのデスチャート9を振ること。北森藩は壊滅する。――――――
□自由に演出してもらう

状況マスターシーン4:夜抄

舞台:北森藩城下町登場:火霞夜抄
 気付けば、夜の北森城下町へとたどり着いていた。 夜も更けたか、周囲の家々の灯りも既に消え。 御行乞食の呼び声も、もう聞こえない。 北森城の方がどこか騒がしい。盤外の者たちが、本来の目的を果たしたのであろうか。
 空に掛かるは箒星。 足を止めた。
「よお」 知った顔があった。 その下の顔など、何一つ知りはしないのだけれど。 首座と仰いだ鬼の面を持つ男が、橋の上から己を見ていた。
「さっき、おかしな輩に会ったぜ。修験の御六よ。だがまるで、お前のような口ぶりで物を言い──最早不要とこいつを返して逃げていった」
 足元へと投げ込まれるものがあった。 鴉天狗の面。 目覚めて以来、己の顔にはついていないもの。「お前、いま『どっち』だ? まあ、どっちだっていいがよ」 どうでもよさそうな言葉と共に、鞘が鳴る。白刃が抜かれる。
 どっちなのだろう。 自分は。──己というものは、何処に宿るものであろうか。 抵抗の意志すら湧き上がってはこなかった。 もとより己では、到底敵う相手ではないのだ。
 眩い光。 凄まじい音。 それが。 空から、墜ちてくる。
 満天の星空に太陽が浮かぶ。 太陽が海へと落ちていく。
 轟音。 閃光。 その中で。 己が到底敵わぬ力を持った男が、困惑と、驚きと──小さな畏れを滲ませて。 言ったのだ。 他ならぬ。 この、己に。
「──お前」「何をしやがった」
 ……ああ。 十分だ、と思った。
 閃光の中、火霞夜抄は成し遂げたような笑みを浮かべた。 その笑みを見た首座・鐘馗の振るった刃が彼の首を刎ねたのと。 彼の内に流れる血の呪いが、彼の命を吸い尽くしたのと。 果たしてどちらが先であったのか。 それはもう、誰にも分からないこと。

状況マスターシーン5:最期

舞台:北森藩登場:般若の面
 突然の光と音に、影法師は驚き動きを止める。そこをカツコが仕留めた。 般若の面はそれに続こうとし、ふと見る。 PC1とPC2が互いに互いを殺し合う様を。 そうして最期、互いの放った一撃が、互いの急所を貫く様を。 ぐらりと傾いた体が、そのまま──遥か下方の海面へと、落ちていく様を。「……死んだか」 そうして、般若の面は興味を失った。

【エンドチェック】

□チャレンジを終えた□北森藩から逃げた

【余韻:疑いは暗中の人影】

舞台:東廻海運船上登場:PC1、PC2、御六

【状況1】

 北森藩の天狗星騒ぎは、ちょうどPCたちと共にきた江戸からの使者がいたことで、大きな騒動となった。 城下にて旅の修験者が声高に告げた。空から降りたった天狗星は天守を貫き、暴君・北森景政の心臓を貫いたと。それを聞き民たちは噂した。これは血に狂った暴君に天が裁きを下したのだとも、都から招いた霊験確かな陰陽師の呪いなのだとも。 土地へと降り注ぐ度重なる不幸に重ね、御前試合に招かれていた多くの霊能者たちが、口々に同じ見立てを成したことも、影響したのであろう。 無論、幕府がそれを正式なものとして記録したわけではない。ないが──。 藩主・北森景政の不審な死に伴って北森藩は改易され、盛岡藩預かりとなった。 そこに幾人の思惑が絡み合っていたかはさておき。 そういうことになるのだった。
 ──そうした顛末を迎えることになる北森藩は、当然、天狗星が降った夜明けは酷い混乱の最中で。 その北森藩の港から、一隻の廻船が逃げるように出港したことも、そこの積荷に紛れるようにして三人の人影があったことも──もはや誰も知らぬこと。

【状況2】

 東廻海運船にて、遠く離れていく北森藩を眺めながら、御六は君たちにこんなことを話した。「あっしは遠野の水呑百姓の倅でしてね」「物も分からねえ赤子の時に捨てりゃよかったものを、労力を惜しんだか、情でも沸いたかは知りませんが、ガキの時分に口減らしの為に山ン中に捨てられたんですよ。飢饉か、凶作か、貧乏人にゃ珍しいことじゃありません」「そのままくたばるはずだったんですが、鴉天狗に拾われた」「べらぼうに口が立ち、神通力を使いこなす、身の丈二尺はあるかと思われる大男でしたよ。その天狗は、くたばるはずだったガキに、生きる術を教えた。そのうちいくつかは、結局身につきゃしませんでしたが」「如何せんガキの頃の記憶ですから、実際はそう長い間のことじゃあなかったとは思いますがね。……そりゃあ、楽しかった」「天狗は名を名乗らず、素性を明かさず。そしてある日、そのままふっつりとどこかへ消えちまった。それっきりです」
「あっしにゃあ、その天狗が、人の皮を被った妖怪だったのか、妖怪の皮を被った人だったのか、終ぞ分からなかった」「あるいは、分かりたくねえと思ったのかもしれねえ」「そこに答えを出したくなくて、結局、こんな生き方を選びました」「それだけのことです」

【状況3】

「なあ、PC1さん。PC2さん。真面目に聞きたい。……あんたたちは江戸についたら、これからどうしたい?」「あっしはご覧の通りの風来坊です。好き好んで面倒ごとを背負って歩いてる。ろくな死に方しねえでしょう。だから、正直なことを言えば、他人に深入りしたくない。人が死ぬってことは悲しいことだ。苦しいことだ。辛いことだ。それを背負う勇気も、背負わせる意気地も、あっしにゃありません。……誤魔化すことしか、出来やしねえ」「(それぞれのPCに合わせた御六のコメントを向けよう)」「……だが──お二人といると、楽しくて、面白くって」
「いやまったく。どうしましょうね?」
 御六と手を切り、これで本当に最後とするか。 それとも…。 君たちが選ぶ顛末とその後を自由に語り、余韻としてほしい。
【狂言怪談・外伝/終】


【成長点】初期グリット:4点クエリーグリット:4点リマークグリット(想定):2点------------------------------------------------合計:10点




【解説】

 帰りの船の上で御六の過去を語られ、全ての謎が明らかとなるシーン。終わり方はPCたちと御六の関係性に合わせて適宜調節しよう(別れた方が綺麗に終わる場合もあるだろう)。 江戸に帰ってからなど、満足いくまで余韻を演出しよう。

■NPC:修験の御六 元は遠野の貧乏百姓の子。六番目に生まれた子供なので御六。 口減らしのために山野へと捨てられたが、そこを奇妙な鴉天狗に拾われ、その天狗の仕事を手伝うようになる。 そうした経験を得たことで、人・妖怪どっちつかずに手を貸す生き方を選ぶように。 鴉天狗は唐突に御六を残して姿を消した。その天狗が出奔したという火霞の先代であったのか、それとも本物の天狗であったのか、死んだのか、今もどこかで生きているのか、人の皮を被った妖怪だったのか、妖怪の皮を被った人だったのか──答えは語らぬ方が、夢がございます。