蛇腹太夫殺人事件
蛇腹太夫殺人事件
花魁道中とは、花魁が禿や振袖新造などを引き連れて 揚屋や引手茶屋まで練り歩くこと。今日でも歌舞伎や各地の祭りの催し物として再現されることがある。
【PC1:人の世に生きるもの】
江戸の町に瓦版が舞う。 それは吉原遊廓『ばけや』の人気女郎、蛇腹太夫・薄雲が殺されたというものだった。 蛇腹太夫は君にとっても知った顔だ。共通の知人である修験の御六の元へ向かう君だったが、御六はいつになくそっけない態度で君を追い返した。「遊女が死ぬなんてのはよくある話です、さっさとお忘れなせえ」【PC2:人ならざるもの】
君のもとに、弱った蛇が現れた。 蛇は君に何かを告げようとしたらしかったが、何も告げられぬまま力尽きる。 君と共にそれを見届けた道祖神が、悲しげな面持ちで君にこんな頼み事をした。「人と妖の仲を取り持ってはくれないか。我らが完全な別離を迎えるには、まだ早い」【GM向け情報:事件の全貌】
【エントリー1:人妖の境】
【状況1】
君がとある山道を通りかかった時のことだ。 そんな君のもとに、一匹の小さな蛇が現れた。 それは弱ったアオダイショウだった。 蛇は弱々しく君の足元へと這い寄り、ちろちろと舌を出す。 何事かを告げようとして、しかし、弱る体に耐えられず、そのままくたりと倒れて動かなくなった。【状況2】
「……そうか、もう、それほどになるか」 どこからか声が聞こえた。声の元を探れば、雑草に覆われた道脇に、苔むした道祖神が祀られていた。 道祖神は蛇に見覚えがあるのか、「そうか、そうか」ともの悲しそうに言う。 そして、PC2へと告げた。「そこいくお方、お頼み申し上げます」「私はこの通り、満足に動けぬ身。しかし、ただ見ているだけというのは、あまりに忍びない」「全ては言えませぬ。人と我らが対等である為にも、我らは極力、共に歩み辿るべきだから」「これより先、あなたが知る人の子が、ある悲劇と対峙いたします。どうかその人の子の側で、その子の足取りを手助けし、見守ってやってはくれませんか」「どうか、人と妖の仲を取り持ってはくれないか。いずれ別れを迎える定めであろうとも、我らが完全な別離を迎えるには、まだ早い」【エンドチェック】
□道祖神の依頼を受け、PC1のもとへと向かった□蛇の最期を見届けた【解説】
PC2がPC1の元へと向かうことになるシーン。 道祖神(お地蔵様)のポジションは、PC2の設定に応じて任意のキャラクターに改変して見てもいいだろう。訳知り顔で、しかし詳細を語らず、人と妖怪の縁を取り持てと依頼できる存在であれば何でもいい。 PC2の設定によっては、第二話で登場した村娘・お清が、蛇腹太夫が殺された件を知って、悲しみながら依頼をしに来る/道祖神にお祈りしている所に出くわすなどとしても良い。【エントリー2:人人の境】
【状況1】
「てえへんだてえへんだ~!」 江戸の街に瓦版が舞う。どこかで事件が起きたらしかった。 君もまた、その瓦版を手に入れた一人だ。目を向ければ、そこには吉原遊郭『ばけや』の女郎、薄雲が殺されたと言うものだった。痴情の絡れか、情念の果てか、はたまた女の嫉妬かと、瓦版の文面には下世話な想像を煽るような文面が踊っている。 だが、『ばけや』の薄雲という遊女を君は知っている。以前の山伏の民を巡る事件で、君たちは蛇腹太夫と名乗る彼女の世話になったのだ。その時垣間見た彼女は、そんな存在には見えなかった。 これは一大事と、君は薄雲との共通の知人である修験の御六のもとへと向かった。【状況2】
御六の貧乏長屋を訪れた時だ。「出ていけ!」 君は御六の部屋からいつになく険しい声がすることに気付く。どうやら先人がいるようだ。「……今生会わぬと誓っての沙汰だった筈。違えられては困る」「お行きなせェ。ここはアンタのようなお人が来るべき場所じゃねェ」 いつになく険しい御六の言葉と共に、一人の男が長屋から出てきた。顔を隠した身なりの良い人物は、長屋に未練の残る眼差しを向けながら、しかし足早に歩み去って行った。「……ありゃ、PC1さんじゃねェですかい。こんな昼っから何か御用で?」 君に気付いたか、御六がひょいと顔を出した。その様子はいつもとなんら変わらぬものだった。【状況3】
「ああ、その瓦版ならあっしも聞き及んでますよ。ですがそいつが何か?」「残念じゃアありますがね、吉原での遊女が生きた死んだなんてのは珍しくともなんともねえ話ですぜ」 御六はひどくそっけなかった。「気になるってェなら、投げ込み寺に線香の一つでも供えておやりなせェ。それだって、あっしらみてえな身分のモンには過ぎたものですよ」 御六はそう告げ、終始いつも通りの態度だった。まるで何事もないように…。【状況4】
一抹の違和感を抱きながらも、江戸の街へ戻る君。 江戸の町はいつも通りだ。遊女が一人死んだ所で、何も変わらない。 本当に、それは何でもないことなのだろうか? 思いを馳せる君の元に、一陣の風が吹き込んだ。 PC1とPC2は、いまふたたび邂逅を果たすことになる。【エンドチェック】
□蛇腹太夫の死を知った□PC2と合流し、情報を共有した【解説】
PC1が蛇腹太夫の事件を知り、御六の様子に違和感を持つシーン。 御六の長屋を訪れていたのは、蛇腹太夫の両親の件に関わった人間の『誰か』だが、詳細は分からない。 状況3のPC1とPC2の合流シーンはPCの設定に合わせて自由に演出してもらおう。【チャレンジ1:『ばけや』にて】
【状況1】
再びの邂逅を果たした君たちは、協力して事件の調査に乗り出すことになる。【状況2】
調査の結果、分かったことは。 蛇腹太夫こと、薄雲の死を、店側もまた重要な事態とは捉えていないという事であった。 痴情の絡れや嫉妬の果ての、刃傷沙汰や無理心中。 金と欲の渦巻くこの場所では、そんなものは日常茶飯事であった。【状況3】
やがて君達の調査は行き詰まり始める。 手がかりが途切れ、人の口が重くなる。まるで誰かが先回りして邪魔をしているように。 君たちは現地での調査を一度諦め、薄雲の死体が運ばれたという『浄閑寺』という寺へ向かうことにした。【エンドチェック】
□チャレンジ判定を終えた【解説】
『ばけや』はかつて見たような不思議な雰囲気はすっかり消えており、普通の遊郭となっている。 また、店のものは蛇腹太夫のことを薄雲としか呼ばない。もともとごく一部の人間だけが『蛇腹太夫』と呼んでいたらしいと分かる。 彼女の死を店側は惜しんではいるが、よくあることだと処理しているとわかる。むしろ「面倒を増やしたくない」といわんばかりの態度を取るだろう。 先回りして情報を遮断しているのは、もちろん御六である。【クエリー1:生まれては苦界、死しては…】
【状況1】
投げ込み寺。それは、身よりのない遊女や、行き倒れの遺体が放り込まれることの多い寺についた俗称だ。 その中でも、吉原の遊女たちの投げ込み寺として知られる『浄閑寺』に君たちは足を向けた。 蛇腹太夫こと薄雲の話を聞けば、寺の和尚はすぐに合点が行ったようだった。「彼女の亡骸なら、今日埋める予定になっているよ」「見舞っていくかい。……この世のものとは思えない、綺麗な死に顔の仏さんだ」【状況2】
君たちは薄雲の遺体と面対する。 茣蓙(ござ)の上に横たえられた薄雲の遺体は、和尚の言う通り、死後時間が経過しているとは思えないほど整った死に顔であった。 腐臭もなく、虫が沸く様子も無く、死んでいると言われなければ眠っているかと錯覚しそうなほどだ。「長いことこの寺の和尚をしておりますが、こんな仏さんは初めて見たよ」「いいや、それより……まっとうな見舞いが来るのも、初めてかもしれないなあ」「華やかでも狭い籠の中で生きて、最後は寂しく一人で終わる。彼女たちは……そういう身のお人らだから」「もしもあなた達が、彼女のことを憎からず思っているのなら……忘れないでおいてあげるといい」「私は本堂へと戻ります。別れを終えられましたら、お声がけください」【状況3】
薄雲の胸には、鋭い刃物で貫かれたような大きく深い傷があった。傷口の周囲が僅かにかぶれ、青痣となり、膨らんでいる。毒でかぶれたような痕だ。しかしどのような毒が用いられたのかは分からない。 この亡骸を前にして、君たちはどんなやりとりをするだろう。【エンドチェック】
□薄雲の亡骸を確認した□グリットを1点獲得した【解説】
PCたちが薄雲の死体と対面し、各々の心情を語り合うシーン。 描写では「どのような毒が使われたか分からない」としているが、PCが科学的な解析力に長けているなどの場合は、その毒の反応が「蝦蟇の毒」に近いことに気付いても良い。だが、本来であればここまで強力な毒性は持たない筈だとも気付ける筈だ。 和尚は遊女の死を悲しむ善良な人物として描写すると、次のイベントのモチベーションに繋がりやすい。【チャレンジ2:妖の恨み】
【状況1】
薄雲への参礼を終え、浄閑寺を後にしようとする君たち。 本堂の和尚へと挨拶へ向かおうとした時、そこで驚くべき光景を目にする。 そこでは寺の僧たちが蜘蛛の巣にからめとられ、意識を失っていた!【状況2】
君たちは怒りと哀しみに荒ぶる蜘蛛の妖怪を鎮めた。 膝を付き、人の姿へと戻った蜘蛛の妖怪は、そのままくずおれると床に頭を付いて泣きじゃくりはじめる。「どうして? 何故、あの子が死ななければならなかった?」「ただ生きていただけだ、ただ生まれただけだ、それすら人は許さないのか」「恨んでやる、憎んでやる、祟ってやる、末代まで皆殺してくれる。うう、うううぅー…!」 蜘蛛の妖怪は蛇腹太夫の死について何かを知っているようだ。君たちは彼女から話を聞き出すことにした。【エンドチェック】
□チャレンジに成功した【解説】
この蜘蛛の妖怪とは憑キ蜘蛛である。 このキャンペーンは百寄夜會が生まれる前の物語として設定してある。その為、憑キ蜘蛛も百寄夜會の幹部ではなく、ただの強力な力を持っただけの一妖怪だ。 また、この時代はまだテレビが生まれる前の時代なので、いわば彼女は全盛期だ。千を超える姿を持ち、相手が最も恐れるものへと形を変える、恐ろしい大妖怪として扱う。 『判定1:恐怖に耐えろ』では、PCたちが恐るものは何か、それをどう乗り越えるか、などを演出してもらうと盛り上がるだろう。【クエリー2:境の子】
【状況1】
蜘蛛の妖怪は、自身の名を憑キ蜘蛛と名乗る。 憑キ蜘蛛が語ることによれば、こういうことだった。【状況2】
「その挙句の始末がこれさ! あの子は死んだ、殺された! どこの馬の骨とも知らない畜生に! 人の都合を押し付けられて!!」 再び怒りを擡げた憑キ蜘蛛は、蜘蛛の糸で君の首を締め上げ迫る。「あの子は何故死ななけりゃならなかった!?」「ただ生きてただけだ、ただ生まれてきただけだ!」「ヤイ人間、答えなよ! 手前ら一体何様の心算だ!? それでも手前は──…!!!」【状況3】
「……お前達が……そこまで言うのなら……」 泣き止んだ憑キ蜘蛛は、呻きながらPCたちを見る。恨めしい眼差しはそのままに、しかし、そこには確かな揺れる色があった。「ならば、私へ示してみせろ。お前たちの『精算』を」「それが叶わないのなら──」「私は、貴様ら人間を、今度こそ許しはしない」【エンドチェック】
□憑キ蜘蛛の問いに答えた□蛇腹太夫の生まれを知った□グリットを1点獲得した【解説】
憑キ蜘蛛から語られる蛇腹太夫の出生の背景。彼女は妖怪なので、妖怪視点の話しかできない。 この物語での憑キ蜘蛛は、人間を恨んでこそいるが、決定的な一歩を踏み出している訳ではない。ここでPCたちや和尚たちに対して行っている行動は、友人の子が理不尽に死んだことに対する八つ当たりだ。この物語でのPCたちの行動が、彼女が人間を恨む衝動に、待ったをかける形となるだろう。 蛇腹太夫の母親に関する設定は特に用意していない。「蛇女房」や「沼御前」をモチーフとしてはいるが、架空の妖怪だと思って欲しい。必要であれば、GMが自由に設定をつけて構わない。【バトル&クエリー3:天狗の験比べ→】
【状況1】
浄閑寺を去る段になれば、周囲はすっかり日が暮れていた。 君たちは夜の江戸を行く。 夜であっても、人の気配を感じる江戸の街。 その中を行く最中──りぃんと、鈴が鳴る音を聞いた。 耳に留まらぬのであれば、それで構わぬと言いたげな小さな鈴の音。 それは君たちを試すように、暗い、暗い、路地裏から聞こえたらしかった。【状況2】
路地裏へと足を踏み入れ、どこをどう曲がったかも定かではなくなり、今の位置がどこであるかも分からなくなった頃合いに。 りぃんと、背後から鈴の音がした。振り返れども、音の主はどこにもいない。 声だけが暗がりの中から聞こえてきた。「──試す真似をして申し訳のうございます。友の訃報を頼りに、鞍馬の山より江戸へと参った、しがない鼻高天狗でござい」 声は御六の声だった。 しかし声の主は自身を天狗と称し、線を引くような態度で接し続けた。「蛇腹太夫の一件から、どうぞ御手を引いて頂きたいのです」「元より人の世では、四十九日を過ぎる間もなく忘れられる巷説でございますれば」「どうか、全てをお忘れ頂きたい。何卒、何卒……」【状況3】
「……分かって下さらないお人だ」 天狗が暗闇の中で、苦々しげに呻いた。「言って話して聞いて下さらないのなら……致し方ありません」「然らば、これで仕舞いの覚悟。これにて全て、手切れとしましょう」「──お眠りなされ。お忘れなされ。全ては最初(はな)から、夢幻」 いかなる仕掛けを用いたか。はたまた真実、妖術か。 ゴウ、と風が天へと舞い上がり、江戸の喧騒が遠く消える。 月を背にしてそこに立つ、鼻高天狗の面を被った男が、りぃんと鈴を鳴らした。【道中戦:戦闘情報】
【エネミー】
・鼻高天狗【エリア配置】
■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 鼻高天狗:エリア3【勝敗条件】
勝利条件:鼻高天狗の撃破敗北条件:PCの全滅【備考】
PCがロストした場合、「戦闘不能」として扱い、戦闘終了後解除する。 PCが2人とも「戦闘不能」になった場合、シナリオは終了する。 任意のバッドエンドとして余韻フェイズへ移行する。 PCが勝利した場合、このイベント内で使用されたグリットは全て回復する。■鼻高天狗(修験の御六)
【エナジー】ライフ:40 サニティ:50 クレジット:16
【能力値・技能値】
【肉体】20 【精神】21 追憶75% 意志80% 【環境】17 交渉99%【移動適正】地上
【パワー】
■トラッシュトーク属性:攻撃 判定:交渉99% タイミング:行動射程:2 目標:1体 代償:ターン10 効果:目標は〈意志〉-20%で判定を行う。この判定に失敗したキャラクターは3d6点のショックを受ける。このパワーは臨死状態のキャラクターを目標にできない。──無を有へ、夢を現へ形作る、小股潜りの甘い舌。【→クエリー3戦闘後】
【状況4】
君たちは天狗との勝負に勝った。 パキン、と音を立てて鼻高天狗の面が割れる。その下から現れたのは、やはり修験の御六その人であった。「……知られちゃア仕方ありません。奉行所へ突き出すなり、なんなり、お好きにどうぞ」「おや? ご存知じゃありませんか? あっしはハナからペテン師ですぜ」 この期に及んでそんなことを言う御六。 君たちは御六から、知っていることを洗いざらい引き出すことにした。【状況5】
君たちの言葉を受け、御六はようやく、本当にようやく観念したといった様子で口を開いた。「憑キ蜘蛛の言う通り、薄雲の母親は妖怪ですよ。 お殿様と愛し合って、子を為したってのも本当で。 最期は藩に雇われた陰陽師の手で、塵も残さず逝ったってのも真実でさァ」「始末を担ったのは、正道を捨て、妖魔を狩る為に魔の道へと踏み入ることを選んだ者。 情けを捨て、言葉を捨て、外道盤外へと堕そうとも、ただ殺すことを以て人界を守ることを選んだ邪道の陰陽集団。 人なれど人でなく、妖でなくとも妖の力を振るう、人にも妖にもなれぬ者。 人別帳に名の載らぬ、裏の世界の人間でさァ。 今回の下手人も、その一端に連なる者でしょう」【状況6】
君たちの答えを聞き届けると、御六もまた、観念したようにそれ以上引き止めることはなかった。「ならば、これ以上は何も言いやせん。 ですが、お二人に手を貸すことも、守ることも……これより先は叶いません」「巻き込みながら身勝手なと、謗ってもらって構わねえ。 それでもあいつの最期の望みだけは、何が何でも叶えてやりてェ。 そのためには、ほんの僅かな綻びすらも許されねえんで」【エンドチェック】
□天狗との験比べに勝利した□蛇腹太夫殺しの犯人を知った□御六と別れた□グリットを1点獲得した【解説】
御六の話を簡単にまとめると、・御六は過去に蛇腹太夫の両親から、幼い彼女を逃すよう依頼を受けた。・しかし失敗し、追手から逃れる為、彼女を遊郭へと隠した。・成長した蛇腹太夫は、自分の術で自分の死期を悟り、死ぬ前に御六に何かを依頼した。・依頼された何かについて、御六は何が何でも叶えてやりたいと考えている。その為、PCたちにも今は話せず、PCたちに協力することも出来ない。 ということになる。 説明セリフが長いので、読み上げるのが大変そうだったら上記箇条書きで説明してもいいし、PCのリアクションを促しながら進めても良い。PLのストレスにならないよう気をつけながら進めよう。【チャレンジ3:花魁道中百鬼夜行】
【状況1】
憑キ蜘蛛の無念を晴らす為、御六の望みを叶える為、蛇腹太夫を殺した下手人への対応を考える君たち。 果たして、何を以って沙汰とすればよいのか。 そも、どうすれば蛇腹太夫を殺した下手人を見つけ出すことができるのだろうか?【状況2】
君たちは江戸の街に噂を作り出すことにした。夜な夜な、死んだ筈の遊女が、この世のものとは思えぬ伴を連れながら江戸の街を歩き回るという、そんな怪談話を。 これぞ名付けて、『花魁道中百鬼夜行』。【エンドチェック】
□花魁道中の噂を流すことに成功した【解説】
いかなる沙汰を下すかはPCの自由にして構わない。だが何をするにしても、まずは下手人を引きずり出さなければ始まらない。 PCがどちらも男で、花魁役が難しい場合は、憑キ蜘蛛に協力を依頼してもいいし、第二話で出てきたNPCたちの力を借りてもいいだろう。 御六抜きで行われる、PCたちの手による、PCたちの狂言芝居だ。【決戦:蛇腹太夫殺人事件】
【状況1】
人気のない夜の江戸に、お囃子が響く。 その音を聞けば、江戸の住人たちは震え上がり、硬く戸締りをし、布団を頭まで被って顔を伏せた。夜店の店主たちも震え、その囃子の聞こえない場所まで逃げ出した。 その行列が、この世ならざる者たちであるのだと、このところ、彼らはかたく信じて疑わなかった。 天狗、河童、ろくろ首、一つ目小僧……数多の妖怪たちが跳梁跋扈するその行列の中央に、傘を差した美しい女の姿。 江戸の人々は噂する。あれは殺された蛇腹太夫の祟りであるのだと。 夜な夜な江戸の街を歩みながら、己を殺した下手人を探しているのだと──…。【状況2】
生温い風が吹き、それきり止んだ。 生臭い臭いが漂った。 行列の行灯がふつりと消える。 いつしか、行列の周囲から、数多の蝦蟇の声がしはじめる。「おかしな噂が流れているから、ついにそちらに堕ちたかと様子を見にくれば……一体全体、如何したものやら」 人気のない江戸の街。その暗がりの先に。 般若の面をつけた、男とも女とも、大人とも子供とも取れる、奇妙な人影が立っていた。「……困りますねえ。きちんと死んでもらわないと、私が師匠に怒られちまう」「本人だか別人だか知りませんが、一人も二人も同じこと」「──もう一度、死んでもらうと致しましょう」 そう告げると、般若の面は君たちへと襲いかかってきた。【解説】
下手人・般若の面が誘き出され、ついに姿を現すシーン。 PCはどこで相対しても良いが、人間であるPC1は素顔を隠すなどして、人間であることを隠しながら戦うことが好ましい。 般若の面は蛇腹太夫が生きているのか死んでいるのか、確信が持てていない。殺した筈だと思っているが、怪談話の噂から、もしかして、を拭いきれずにいる。その不安を払拭する為にも、こんなふざけた仕掛けをしてくれた者は皆殺しにする気でいる。 般若の面は盤外視座(出典:BJR)の陰陽師だが、PLやGMがBJRを所持していない場合は、「能面をつけた、人ならざる力を使う、過激な陰陽師」と思っておけば十分である。【戦闘情報】
【エネミー】
・般若の面【エリア配置】
■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 般若の面:エリア3【勝敗条件】
勝利条件:般若の面の撃破敗北条件:PCの全滅【備考】
・決戦終了後に発生するクエリーのグリットは、先行して獲得したことにしてもよい。■般若の面
【エナジー】ライフ:90 サニティ:90 クレジット:30
【能力値・技能値】
【肉体】35 白兵80% 運動50% 生存99% 【精神】40 霊能90% 意志50% 【環境】20 隠密40% 交渉44%【移動適正】地上・水中
【パワー】
■般若の呪属性:攻撃 判定:なし タイミング:特殊射程:3 目標:2体 代償:ライフ2効果:行動順ロール直後に使用できる。このラウンドの間、目標は何らかの判定に失敗するたび、ライフを2点ずつ失う。──妬ましい、妬ましい、彼我の境を定める、全ての命が妬ましい。【クエリー4:いずれ来る未来で】
【状況1】
君たちの攻撃を受け、般若の面は倒れる。 倒れた陰陽師は忌々しげに、呪いの言葉を吐き捨てた。「……お世継ぎがね、生まれなかったそうですよ」「件の藩でございます。 妖怪狂いの殿様から終ぞ世継ぎが生まれず、次の主を誰にするかとお家騒動。 余計な漣を残すわけにはいかないと、落とし胤の始末を委ねられたのが当方というわけで。 まったく可哀想なお話! 浮世憂き世、実に理不尽に塗れてございます。これが恨まず、憎まずいられましょうや?」【状況2】
「人と妖は相容れないもの。 理解してしまえばもはや妖怪は妖怪では無く、ただの現象。それは妖怪にとっての死。 まして人は──…理解できぬものを、理解できぬもののまま、受け入れることは出来ない生き物だ。 それが好奇にせよ、恐怖にせよ……勇気にせよ」【エンドチェック】
□般若の面の言葉に答えた□グリットを1点獲得した【解説】
般若の面への報復の内容は好きにしてもよい。 時代物として仇討ちを完遂するもよし、殺人犯として奉行所へと届け出るもよし、妖怪たちに引き渡し後の事を任せるもよし、赤っ恥をかかせた後で逃がすもよし。 おすすめは「蛇腹太夫が本当に死んだのか生きているのか分からないまま放逐する」という顛末だ。答えが分からない事で、般若の面は憑き物のように、殺したはずの存在に脅かされ続け、矜持を傷つけられ続けることになるのだ。 状況1では蛇腹太夫の死の理由と瓦版が撒かれた理由、そして蛇腹太夫自身の考えが般若の面の口から語られるシーン。状況2は、般若の面がPCへと未来を思わせる問いを投げかけるシーンとなる。般若の面がPC1を人間だと気付いておらず、蛇腹太夫が生きてるのか死んでるのか分かっていない体で書かれているが、実際の反応は卓の流れに合わせて調整すること。 この問いに、人と妖の境界を渡り歩いてきたPCたちは、最後にどんな答えを返すのか。キャンペーンの最後に相応しい答えをびしっとキメてもらおう。【余韻:杯中の蛇影】
【状況1】
蛇腹太夫の死から一月が経った。 君たちは、修験の御六が為さんとした、『蛇腹太夫の最期の願い』の顛末を見届ける。【状況2】
PCたちの言葉を受け、御六も調子を取り戻したようだった。 すっきりとした様子で立ち上がったペテン師は、軽い調子で言う。「あっしも、しばらく江戸を離れやす。ちょいとやりすぎやした。 奴らとこれ以上やり合ったら、命がいくつあっても足りねえや」「それに……」 照れ臭そうに笑って、御六はPCへと言った。「笑わねえでくださいよ? ……お二人を見てたら、なんだか、夢以外も見たくなってきちまいましてね」【状況3】
ふと振り返れば、誰もいないはずの柳の木の下に、美しい女の影が見えた気がした。 女の影は、見届けるように静かに揺らめき……そうして、瞬きをするころには、姿を消してしまっていた。