神体山伏盗難事件
神体山伏盗難事件
山伏とは、山中で修行をする修験道の行者。 「修験者」とも言う。
【PC1:人の世に生きるもの】
ある夜のこと、いつも通りの日常を終え、床につく君の元に、 奇妙な虚無僧集団が姿を現した。 虚無僧たちは君に迫り言う。「修験の御六はどこにいる?」【PC2:人ならざるもの】
ある夜半、君の元に修験の御六が姿を現す。 御六は「すまねェ下手こいた。万事一切丸く納めてみせるから、三日間だけPC1を守ってやってくれ」と告げると、足早に立ち去るった。 彼からは濃い血の臭いがした。どうやら何か、不穏なことが起きているようだ。【GM向け情報:事件の全貌】
【エントリー1:夜半の来客】
【状況1】
それはある夜、草木も眠る丑三時のこと。 君が寝床としているその場所に、一人の男が姿を現した。「ごめんください、ごめんください」「PC2殿、お久しぶりでごぜえやす。その後お変わりありやせんかね」「いつぞやに雨宿りを共にしやした、修験のでございやす」 外から声をかける男。 それは一月前、雨宿りの際に遭遇した妖怪騒動で出くわした、修験の御六なる人物であった。【状況2】
外に出て様子を見てみれば、修験の御六は畏まったようにその場に膝をつき、首を垂れていた。腕には何か、風呂敷に包んだ何かを抱えている。「夜分遅くにすみません。ちっとばかし、ヘマをこいちまいましてね。ちょいとばっかしお願いが」「PC1さんをお守りいただけやせんか。あっしと関わっちまったばっかりに、あのお人にも累が及びそうでして」「あのお人は、まっとうな世に生きるただの人。巻き込んじまったのはあっしの落ち度というやつで。お前様を例外扱いする気はねえが、頼れるよすがの少ない身。どうぞ頼まれちゃくれませんか」「三日間。その間に万事一切丸く納めやす。どうかその間、あのお人を守ってやってください」 そう告げると、修験の御六は詳細を告げず、その場から姿を消してしまう。 表面上はなんともなさそうにしていた男だったが、その身からは血の臭いがしていた。自身が傷を負っていたか、あるいは…。 君は御六が不穏なことに巻き込まれたらしい気配を察しながらも、危険を予知された人間、PC1の元へと向かうことにした。【エンドチェック】
□御六の依頼を受けた□PC1のもとへ向かった【解説】
PC2が御六から依頼を受けるシーン。 この時点で御六は手傷を負っており、またカタギの知り合いを守るために各所へ依頼をして回っている最中であるため、表に出さないようにしてはいるものの実のところ余裕はない。PC2に依頼を任せたあとはあまり長く留まらず、足早にその場を去ってしまう。 舞台については、PC2が普段どんな場で生活をしているか・どこであればこうしたイベントが起きても違和感がないかを聴取しながら進めていくと良い。おすすめは夜の寺院や、人気のない山の中、荒れた社などだ。【エントリー2:夜半の来襲】
【状況1】
君が生きる江戸の街は今日も賑やかで平和だ。しかしその裏に、本物の妖怪や怪異が渦巻いているということを、君はほんの一月前に知った。 しかしあれ以来、特に変わったことが起きることはなく。君はこれまで通りの、平凡な日常を過ごしている。【状況2】
君はその日も、いつも通りに床についた。 疲れた体が柔らかな布団に包まれて、朝までぐっすり──そう思われた夜更のこと。 時刻は分からぬ真夜中に、君は奇妙な物音で目を覚ます。そう、それはか細く鳴る尺八の音のような……。 ぱちりと目を覚ました君は、君の布団の周りを、ぐるりと虚無僧の集団が囲い込んでいた! 代表者と思われる虚無僧が、君の前へと歩み出る。この世のものとは思えぬ恨めしい声が、天蓋の奥からこぼされた。「修験の御六はどこにいる」【状況3】
君が答えぬと見た虚無僧は続ける。「罪人を匿うは罪人の所業。罪には罰を下すべし」「然り!」「然り!」「然り!」「然り!」 虚無僧たちが唸るように声を上げ、錫杖を打ち鳴らす。 異様な空気の中、膨れ上がる殺意が、君へと向けられる。「知らぬというなら仕方なし。足の二本も手折って捨てれば、冒涜者を炙り出す為の餌にもなろう」 虚無僧の手が伸ばされる。絶体絶命だ!【エンドチェック】
□虚無僧たちに襲われた□絶体絶命だ!【解説】
江戸の町で平和に日常を過ごしていたはずのPC1が、再び非日常へと巻き込まれていくシーン。PC1に家族がいるのであれば、家族ごと巻き込んでしまうのが盛り上がるだろう。 虚無僧たちは(一応)人間であるが、このシーンでは人なのか妖怪なのか分からない、不気味で緊迫感のある集団として演出すると良い。【チャレンジ1:大立ち回り】
【状況1】
PC2がPC1の自宅へかけつければ、そこでは奇妙な虚無僧たちがPC1を取り囲み、何やら剣呑な雰囲気だった。 PC1もまた、PC2が駆けつけたことに気づく。虚無僧たちの言いなりになる訳にはいかない、ここは一つ、大立ち回りといこうじゃないか!【状況2】
君たちの反撃を受け、虚無僧達は撤退する。 その間際、PC1は彼らが口にしたこんな言葉を耳にした。「おのれ冒涜者め、御神体の目を盗み出しただけでは飽き足らず、これほどの狼藉を…!」 どうやら、修験の御六は彼らが大切にしている何かを盗み出したらしい。 かくして君たちは合流を果たした。【エンドチェック】
□虚無僧を撃退した□合流した【解説】
PC1とPC2の合流シーンを兼ねたチャレンジ。 御六が虚無僧たちから何かを盗んだらしいと、PC/PLが知ることになるシーンでもある。【クエリー1:裏を覗く一歩】
【状況1】
虚無僧集団は退散し、君たちは一月ぶりに再会を果たした。 PC1はPC2から、何故PC2がここを訪れたのか、その理由を聞くことになるだろう。【状況2】
PC1は、再び、自分の周りであの日のような奇妙な出来事が起きようとしているのだと感じる。 だがあの日と違い、今はまだ、完全に巻き込まれきっているわけではない。PC2に守ってもらいながら日を過ごせば、いずれこの非日常は収まり、いつも通りの日々が戻ってくるだろう。 君はそれをよしとするだろうか? よしとするのであれば、この物語はここで仕舞い。君は唯人として、これまで通りの平和な日常へと戻る。 けれどよしとせず、あえて危険へとその身を躍らせる選択をするのなら。好奇にせよ、勇気にせよ、その源がいずれのものであろうとも──それは、英傑としての一歩となるだろう。【エンドチェック】
□調査に乗り出す意志を固めた□グリットを1点獲得した【解説】
PC1がPC2から話を聞き出し、同時に自分から一歩を踏み出す決意をするシーン。 このキャンペーンのPC1は、全話を通して、発端は巻き込まれた形であれども、自らの意志で事件へと深入りしていく形をとっている(その選択がキャンペーン最終話のクエリーへとつながる形だ)。 理由が勇気からなのか、好奇心なのか、恐怖心からなのかはPCに応じて好きに決めて良いが、『自らの意志で足を踏み入れる事』、それが大事になるという事はGM側から強調しておくと良い。それはPC1が「ただの巻き込まれた一般人」ではなく、「無名の英傑」としての道を、一歩一歩歩んでいるということなのだ。【クエリー2:山伏の民】
【状況1】
かくして君たちは、今、この江戸の町で何が起きているのかを調べ出す。 あの虚無僧集団の狙いは、修験の御六であるようだ。PC2のもとに本人が現れたことからも、彼が今、江戸にいる可能性は高い。 君たちは調査を行い、ついに、御六の知り合いであるという人物を見つけ出す。 それは薬研堀の側に佇む庵に住む、とある老医師だった。 皆からは庵の名をとって、九十九老と呼ばれていた。【状況2】
君たちは九十九老のもとへと足を運び、彼に御六のことを尋ねる。「そうですか、御六殿のお知り合いで。あの小股潜りに、何か化かされた口ですかな」「御六殿とは以前に一度、孫が狐に憑かれた時にお世話になりましてな。もっとも、化かされたのが狐になのか彼になのか、今となってはとんと分からんのですが」 はっはっはと朗らかに笑う九十九老。「それにしても、一体、今度は何が起きたというのです?」 そう尋ねる老人の目は、老人らしからぬ輝きに満ちている。 怪奇話に目がない翁は、君たちの様子に興味を示したようだった。 情報通の彼なら何かを知ってるかもしれない。 君たちは九十九老に、虚無僧集団のことを尋ねてみることにした。【状況3】
「はて、虚無僧の集団。長く生きてはおりますが、そういった手合いの話はとんと聞き覚えがありません……いや、待てよ」「丁度良かった。私はそういうのは存じませんが、ちょうど、昨日、詳しそうなお人をお招きしていたところなのです。物書きの先生ということで、各地を巡って民話伝承妖怪奇談を蒐集して廻っていらっしゃるとのこと。古本屋で出会い、話があいましてなぁ。それがもう、若いというのに大変な博識で」 九十九老はそう言うと、庵の奥へと声をかける。「守屋先生、守屋先生、お知恵をお借りできませんかな」【状況4】
君たちのもとに現れたのは、歳若く見える細身の男だった。夏だというのに、きっちりと胸元まで着込んだ着物が印象的だ。 男は九十九老の紹介通り、諸国を漫遊して妖怪奇談を蒐集している物書きだという。元は上方にある蝋燭問屋の若隠居であるとのことで、上方から江戸まで旅をしてきたという。名を、守屋幾太郎といった。 君たちから虚無僧の話を聞いた守屋は、ああと思い当たる節があったらしく、口を開く。「そりゃあ、山伏(やまぶせ)の民だなぁ」「やまぶし、じゃないぞ。やまぶせ、だ」【エンドチェック】
□山伏の民について知った□グリットを1点獲得した【解説】
PCたちが襲撃者である山伏の民の情報を知るシーン。 山伏の民は、D2記載のヴィラン組織「山伏ドット虚無」を元に、設定を多少江戸時代相応に調整した存在である。シナリオとしては、後の世で「山伏ドット虚無」へと繋がっていく組織だ。PLに伝える必要はないが、GMは当該組織の情報を把握しておく事が好ましい。 山伏の民の構成員たちは、要は人と異なる容姿や能力ゆえに迫害され、人の世で生きる事が難しくなった超人種たちのことを指す。 解説担当として登場する物書きの守屋は、ブラックジャケットに登場する組織から設定を参照しているが、GMが未所持の場合は以下のNPC情報を踏まえた上で自由に演出して良い。PLに対しても、「人のふりをした人ではない存在」であることが何となく伝われば、シナリオ進行上は十分だろう。【クエリー3:人別】
【状況1】
九十九老は御六が今何をしているかは知らなかったが、君たちへ、御六が江戸で住処にしているという貧乏長屋の場所を伝える。 話を終え、庵を後にしようとする君たち。 その去り際、九十九老はPC1を呼び止め、こんなことを聞く。「ねえ、PC1さん。妖怪というものは、本当にいるのだと思いますか」「私はね、本物を見たことはないのです。ですが昔から、そういう話に目がなくって」「もしも会えたなら友になりたいものだと、そんな夢を見ながら爺になっております」「おかしな夢だと、お笑いになりますか」 PC1はそんな老人の言葉に何と答えよう?【状況2】
PC2は、九十九老とPC1のやりとりを、庵の入り口から眺めていた。 側でその様子を共に見ていた守屋が、ぽつりとPC2へと言う。「あまり深入りしない方がいい」「生きる世界が違う身だ」 それきり、守屋は口を閉ざした。 その言葉が意味することは…。 人ならざる君は彼の言葉に、何と答えよう?【エンドチェック】
□九十九老の庵を去った□グリットを1点獲得した【解説】
人であるPC1と、人ではないPC2、それぞれの立場を、離れた場から問うクエリーとなる。 守屋が人間ではないのだと、言葉なく分かると雰囲気が出るだろう。例えば着物で隠された間接の一部が、人形のような木の継ぎ目であることがわかるとか。【クエリー4:蛇腹の誘い】
【状況1】
九十九老に教えられた、御六の自宅である貧乏長屋へと向かう君たち。 しかし御六の自宅はすでに何者かに荒らされた跡だった。 近隣の住民に聞けば、虚無僧姿の男たちがやってきて、中を荒らして去っていったという。 この辺りの住民たちは皆、脛に傷を持つ者ばかり。深入りする者は誰もいなかった。【状況2】
長屋を後にするPC達の前に、尺八の音色が届く。 そこに六尺六寸(2m)はあろうかという巨大な体を持つ虚無僧が姿を現した。「修験の御六はどこにいる、御神体の目をどこへ消した!」 虚無僧は声を荒げながら君たちへと襲い掛かってくる。【状況3】
戦いの中、君たちの攻撃で虚無僧の天蓋がわずかに割れた。そこから覗いたのは、鬼のような角だった。 鬼のような男は怒りの目を君たちへ向けるが、その時、どこからともなく尺八の音色が響く。鬼男が困惑したように足を止めた。 その時、物陰から君たちへと女の声がかけられた。「今のうちサ、こちらへおいでなんし」 声の元へ向かえば、小さな蛇の姿があった。蛇は君たちを誘導するように暗闇へと消え、その先から声が続く。「ここを曲がって」「そのまままっすぐ」「怖い鬼さんが追いかけてきなんし、走って走って」 追えども追えども、小さな蛇には奇妙に追いつけず。 そうしてどれだけの道を走ったか、はたと我に返った時、君たちの前には華やかな建物が広がっていた。『ばけや』の看板を掲げるそこは──…遊郭だ。一体どうやってここまで来たというのだろう。 君たちを導く声が囁く。「怖いのかい、おぼこだねェ」「裏へお廻り、迎えを送ろう。蛇腹太夫の使いと言えば、誰も悪さはしやしないヨ」【状況4】
迎えの禿(かむろ)に連れられて、二人は遊郭の中へと足を踏み入れる。二階の奥の席へと通される君たち。 その部屋の中では、煙管を燻らせる美しい女が座っていた。女は蛇のように赤い舌をチラつかせ、目を細めながら、生きた小蛇をつるりと飲み込んでしまった。「御六の野郎、万事丸く治めるなんてェ大法螺吹きやがったんだろう」「無理サ、無理。今回ばかりは無理筋サ。わっちの占いでソウ出たんだから絶対サ、だから言ってやったのに」「わっちは薄雲でありんす。あの兵六玉周りからは、蛇腹太夫と呼ばれることがほとんど」「アンタら、あんな男に巻き込まれちまって、不憫だねェ。可哀想、カワイソウ」 その声は、暗闇から君たちへと囁きかけた声の主と同じだった。 蛇腹太夫・薄雲は、どうやら今回の件の詳細を知っているようだ。【状況5】
「教えてやっても良いけどねェ」 蛇腹太夫は煙管の煙をくゆらせながら怪しく囁く。「知っちまえば後戻りが出来ねェでありんす。これまでは尋ねられても知らねェ関係無ェで通せたそれが、言えねェ言わねェに変わっていく。嘘吐きの始まりだァね」「とっくに気付いてるだろィ。この一件は御六の野郎の大ポカでありんすよ。あのろくでなしが、ろくでもないことをしようとして、盛大にトチった、それだけのお噺。いざとなれば奴の命一つでカタがつく、そういう噺」「だがひとたび自分で踏み越えちまえば、アンタらの命も見世物小屋の演目サァ」【エンドチェック】
□蛇腹太夫の問いに答えた□グリットを1点獲得した【解説】
状況2で登場する虚無僧は、鬼のような特徴を持っているが、あくまでサイオンである。 状況3以降で登場する蛇腹太夫は御六の協力者の一人であり、第三話のメインNPCとなる人物だ。先んじて登場し、謎めいた美女として演出すると良いだろう。【クエリー5:世捨ての民】
【状況1】
「良い答えだ、気に入った」 蛇腹太夫は君たちの答えを聞き届け、ニタリと蛇のように口を歪ませて笑った。 そしてフゥと煙管の煙を吐きかける。細い白煙が、蛇のように君たちの周囲をたゆたい蜷局を巻いた。「その蛇が案内(あない)をするでありんす。あの人間もそろそろ、身の程を知るべき頃合いさァ」「ああ、それと……お清、出ておいでなんし」 蛇腹太夫の声と共に、障子が開く。禿の少女がそこに控えていた。「この方々に言伝たいことがあるんなら、今さね」「……」 禿の少女はその言葉に、目を涙で滲ませたらしかった。 そのまま少女はぺこりと二人に首を垂れ、言った。「どうか、修験者様にお伝えください。お清は、おとっつぁんのことは、もう諦めたって構いやしませんと」【状況2】
煙の蛇は君たちを導く。その導きに従えば、遊郭へ向かった時同様に、奇妙な空間を抜けることになった。PC2であれば、それが現世ではない、君たちの領分の通り道である事に気づくだろう。 そうして気付いた時、君たちは何処かの山の中に踏み入っていた。振り返れば、江戸の町の輝きがずいぶんと遠くに見える。 蛇はやがて、木々の間に隠れるように存在していた洞穴の前で消えた。その中では、誰かがひっそりと隠れているようだった。足を踏み入れれば…。「……誰だ」 御六の声だ。「PC1、PC2…!?」 目を丸くしてそこにいたのは、渦中の人物、修験の御六その人であった。 彼は負傷しており、この洞窟で自身の手当を行っていたようだ。【状況3】
君たちが何故ここにいるのか事情を知り、禿の少女の言伝を聞けば、御六は深く深く溜息を吐く。「……あの蛇女め……」「そこまで発破をかけられちゃあ仕方ねえ。あの蛇女(じゃじょ)の掌の上ってのは気に喰わねェが、ここまで来られた以上追い返す訳にもいかない。気持ちの良い話じゃあありませんが、お話いたしやしょう」 御六は彼が請け負っていたという『仕掛け』と、その失敗について話しだした。【状況4】
「そのお清って禿は、まだ禿じゃァない。今は蛇腹太夫に預けちゃいますが、さる村の水呑み百姓の娘です」【状況5】
「それで連れ戻すって話になったんですがね。 先にも言った通り、信心にゃ大抵、そこに至るまでの理由がありやす。 それを無視して体だけ引きずり戻したッて、元の木阿弥意味は無し。 憑物落として夢から醒ましてやらにゃアならんが、これが一等難しい」【状況6】
「あっしとしちゃあ、お二方までこれ以上、巻き込む心算は無かったんですけどねェ……ここまで来ちまったってことは、今更引き返す気は無いってことでしょう」「それとも以上が顛末だからあとは任せてお帰りを、と言って帰ってくれるんで?」 PCたちの答えを聞いて、修験の御六はニヤリと笑う。「毒を喰らわば皿まで。この鬼親父に仕掛けた仕掛けは、まだ全部が全部フイになった訳じゃあねえ」「この後、あっしは死にやす。そこで一つ、お二人にも仕掛けをお願いしたい」 修験の御六はそこまで話すと、仕掛けについて話し始めた。【エンドチェック】
□御六の話を聞いた□グリットを1点獲得した【解説】
PCたちが御六の事情と、事件の全貌を知るシーン。説明台詞が長いので、適宜PCのリアクションを促すなどしながら、ストレスの無いよう進めていこう。 御六は一人で三日の内に決着をつけるつもりでいたが、どうしても無理な場合は、最悪自分が死ぬことで知り合いたちへ犠牲が生じぬようにしようとしている。だがそれではお清の願いを叶えることはできない。どう動こうか、と悩んでいたところでPCたちがやってきた。【チャレンジ2:神化けの御演目】
【状況1】
それから数日後の早朝、神田川で一つの死体が上がった。 修験者姿の死体は損傷が激しく、何で死んだのかも定かではない、祟りにあったような恐ろしい相貌で死に至っていたという。 その修験者の亡骸は、どこかから姿を表した虚無僧集団が回収していったということだ。その腕に抱えられた、奇妙な包みと共に…。【状況2:回想】
君たちが御六と話をして、導いた『仕掛け』とはこういうことだった。「生憎と、山伏の本尊が偽物だってェ筋書きには傷がついちまいやした。 今や鬼親父は、山伏の教義にべったりだ。 だから今度は、その信心を利用する」【状況3】
山が揺れ。 木々が騒ぎ。 獣が逃げる。「何だあれは!?」 虚無僧の一人が空を指差して叫んだ。どこかで聞いたことのある男の声だった。だが、周囲の虚無僧たちがそれに気づくことはなかった。 その声につられ、他の虚無僧たちも空を見た。 巨体の虚無僧もまた、空を見た。天蓋の下、目を見開いた。【エンドチェック】
□偽・山伏が姿を現した【解説】
チャレンジ判定の内容が開示されるまで、実質PCの演出タイミングが存在しない、特殊なイベントとなっている。 状況1〜3は、マスターシーンのような感覚で、一気に開示してしまうのが良いだろう。その分、チャレンジ判定の判定後の演出は自由にたっぷり楽しく舞台裏の演出をしてしまおう。 PCたちは、人間としての技術や、妖怪としての妖術を駆使して、偽りの神を作り出す。それはハリボテかもしれないし、幻覚かもしれないが、何も知らない山伏の民にとっては(チャレンジ判定に成功しさえすれば)本物の神のように思えるのだ。 もしかしたらここでPCたちが作り出した偽・山伏の姿が、後の世に伝わって「山伏ドット虚無」のパンフレットに描かれた姿へと繋がっていくのかもしれない。 チャレンジ判定に失敗してしまった場合、ウッカリ本物の神体・山伏と偽物の神体・山伏がカチあってしまう。どちらが本物の神か、狼狽える山伏の民たちを納得させる為、決戦フェイズで本物の神体・山伏を打ち倒さねばならなくなるのだ。 状況3で「何だあれは!?」と叫んでいるのは虚無僧に扮して紛れた御六である。つまりサクラだ。状況1で死んでいる死体は、埋葬前の無縁仏に御六の変装をさせた偽物である(どこかの投げ込み寺から拝借してきたのだろう)。【決戦:神体山伏盗難事件】
【状況1】
「あ、あれは、あの神々しい姿は、まさに、まさに! 神体・山伏!」 虚無僧の一人が叫んだ。それに周囲の虚無僧たちがどよめく。「な、何故!? 狼藉者の手から、確かに目は取り返したはず…!」「分からん! だが山伏様はお怒りだ! 鎮まりたまえ! 何故そのように荒ぶるのか!」【状況2】
その言葉を聞き、巨体の虚無僧が、震えながら吠えた。【解説】
このシナリオの決戦フェイズは、PC二人に神体・山伏のふりをしてもらいながら、山伏の民たちに天罰を与えるという名目での決戦となる。PCが正体を露呈させることは好ましくないだろう(あるいはGMは山伏の民にPCのことを気付かせるべきではないだろう) 状況1で山伏側でぐいぐいと話を進めているのはサクラとして紛れた御六だ。PCの神体・山伏ロールをGMは好き勝手盛り上げてよい。【戦闘情報】
【エネミー】
・鬼の虚無僧(COM僧(リーダー))×1・山伏の民(COM僧(構成員))×4※データはD2「山伏ドット虚無」を参照【エリア配置】
■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 山伏の民(構成員):エリア3 鬼の虚無僧:エリア4【勝敗条件】
勝利条件:エネミーの全滅敗北条件:味方の全滅【備考】
・チャレンジ2に成功している場合、虚無僧(リーダー)のパワー「神体召喚」は使用しない。・チャレンジ2に失敗している場合、エネミーに「神体・山伏」を追加し、山伏の民(COM僧(構成員))を2体に減らす。・御六からの支援として、以下のパワーを使用できる。【余韻:疑えば目に鬼を見る】
【状況1】
一連の顛末で神体・山伏の神託と、その力を、鬼の虚無僧は思い知ったらしかった。 彼は神託通り山伏の民を辞め、娘と共に村へと戻っていった。幸いに、ひとまずは無事に村へと戻ることが出来たという。もっとも、彼らが完全に元の生活に戻れるかどうかは、彼らの今後の努力次第になるだろう。 山伏の民たちもまた、他ならぬ御神体の神託とあれば否定する理由もなく。ましてや初めて目にしたその威容に、より一層の信心に励む道を選び、山の中へと消えていった。「──と、いう顛末で」 後日、PCたちのもとに現れた修験の御六は、そう一連を締め括ったという。【状況2】
「マァ、これが本当にあの親子の幸せになるたァ、限りませんがね。 何を言っても元々貧しい身の上だ。 鬼親父は騙され夢を見ながら生きるし、お清は嘘の味を知ッちまった。 花街で綺麗なべべ着ながら体売るのと、山の中で獣同然に生きるのと、 集落の中で線引きされながら一生を終えるのと。 どれがましかなんて、お天道様にだって分かりゃしません」