小豆洗い誘拐事件



小豆洗いまたは小豆とぎは、ショキショキと音をたてて 川で小豆を洗うといわれる日本の妖怪である。

1.エントリーとシナリオ概要

【シナリオ概要】


 ある大雨の日のこと。 生きる世界を異とするはずのPC1とPC2は、雨宿りにと山中の荒屋へと足を踏み入れる。 足を踏み入れればそこには、先んじて雨宿りをしていた旅の者が幾人か。 更け行く夜半、一人の行者がひょんなことを口にした。 「怪談話をしませんか」 これは、人と妖の境が、未だ曖昧であった頃の物語。

【事前情報】


 チャレンジ:2 クエリー:3 初期グリット:4 リトライ:2
 想定時間:2〜3時間 推奨経験点:0点

【GMに要するルールブック】


・基本ルールブック(R1)

【エントリー】

【PC1:人の世に生きるもの】

 君は人間だ。 多少、不思議な力を持ち合わせてはいるかもしれないし、そうでないかもしれないが、紛れもなく人の世に根ざして生きてきた。これまで、おかしな出来事や、不可思議な現象は、全て物語の中のことだと思いながら。 そんな君の運命は、旅の最中、突然の大雨に見舞われ、雨宿りのためにとある荒屋へと足を踏み入れたことで変わっていく…。(町人や武士、農民など、カタギの身分であることが望ましい)

【PC2:人ならざるもの】

 君は人間ではない。 人の世に紛れて生きているかもしれないが、その力の所以は、紛れもなく人ならざる者としてのそれである。 今日も、これからも、人と交わることなく、人から隠れながら生きていく。そんな生活が続くと思っていた。 旅の最中か、あるいはただの散歩が故か、はたまた異なる理由でか。 そんな君の運命は、大雨の降りしきる中、とある荒屋へと足を踏み入れたことで変わっていく…。(妖怪や神霊など、明確に人間ではない存在が望ましい)

【GM向け情報:事件の全貌】

 堺の町で、子を拐かしては慰み者にして殺すという悪辣な男がいた。 その男は子の拐かしを「小豆洗いに拐われたのだ」と吹聴して回っていた。 男の悪行三昧は本物の妖怪たちの気を引いた。妖怪たちは、堕ちに堕ちた男の魂に囁きかけ、男を本物の妖怪・小豆洗いへと転じさせてしまう。そして男を操りながら、各地で悪事を重ねて回った。 ペテン師でありながら本物の妖怪を目利き出来る修験の御六は、人と妖怪双方から小豆洗いへの報復を依頼される。調査の中で真相を知った御六は、正しい報復を成すために一計を案じた。 そこにPCたちが巻き込まれることで物語は幕を開ける。それは偶然であったのか、或いはペテン師の計算の上であったのか、はてさて。

2.導入フェイズ

【共通エントリー:大雨の峠にて】

舞台:大雨の峠登場:PC1・PC2

【状況1】

 越後の国に、枝折峠(しおりとうげ)という難所がある。 一帯にぶなの巨木が生い茂り、昼尚暗い秘境である。 その昔、平清盛に都を追われた中納言が尾瀬へと向かうその途中、このぶなの森へと迷い込み、苦心難渋した際に突如不可思議なる童子が立ち現れ、枝を折り乍ら一行を山頂まで導いたという故事がある故、枝折峠の名があるのである。 その峠より更に奥──。 篠衝く雨に煙る山深い獣怪を只管進む、二人の姿があった。
 その者、名をPC1とPC2。 片や人、片や人ならざる者、されど地面を穿つ、霧のごとき豪雨の中では、そのような肩書きは何の意味も持たず。 本来清流であったはずの小川は、大雨によって竜の如き濁流となり、かけられていたはずの橋は流され跡形もない。 そうした川縁で、君たちは顔を合わせたのだ。

【状況2】

 袖振り合うも多生の縁。君たちは共に雨宿り出来る場所を探すことにした。 いくらかの捜索の末、近隣に打ち捨てられた荒屋があることに気付く。 君たちはその荒屋へと向かうことにした。
 ざあざあ、ざあざあと雨の音は耳鳴りのように鳴り響き。 どうどう、どうどうと川の音はいつまでも轟音としてついてくる。 薄暗い雨空には、けれど疑いようのない夜の気配がひしひしと近づいている。 しょき。 誰かが地面を踏みしめたような足音が、微かに耳へと残る。 そんな、ある逢魔時(おうまがどき)のことであった。

【エンドチェック】

□PC1とPC2が出会った□雨宿りの為、荒屋へと向かった

【解説】

 このキャンペーンの主役となる、PC1とPC2の登場・合流シーンである。 立場を異とする二人が、何故同行することになるのか、どんな出会いを果たすのかを、文面に囚われず自由に演出すると良いだろう。

3.展開フェイズ

【クエリー1:雨宿りを共に】

舞台:荒屋登場:全員

【状況1】

 PCたちが荒屋へと足を踏み入れると同時、薄暗い室内に、ぱっと暖色の光が灯った。 見れば、どうやら同様に雨宿りにこの荒屋を使う一団があったようで、朽ちかけた囲炉裏へと火が灯されたところらしい。ぼんやりとした暖色の光と、ほのかな熱気が、雨水で冷えた君たちの体へと伝わってきた。

【状況2】

 囲炉裏の光に照らされて、そこには旅装束の五人の姿があった。 白装束と行者包みと呼ばれる白頭巾に身を包んだ、修験者然とした若い男が一人。 幼い子供二人と、その父親と思しき、旅芸人風の三人組。 そして腰に一本の業物を携えた、浪人と思しき、厳つい顔の大男が一人。 訪れた君たち二人を合わせ、計七名。
 修験者風の男が、火打ち石を懐へと仕舞いながら顔を上げる。「ああ、この雨にやられましたか。これだけの大雨じゃあ、仕様のない事だ」「いま囲炉裏に火を灯した所です。冷えるでしょう。ささ、こちらへ」
 外の大雨はいよいよ強まり、荒屋の随所で雨漏りの音がする。 君たちは身を寄せ合い、囲炉裏を囲む。 誰にともなく、ぽつり、ぽつりと身の上を尋ね、口を開いた。

【状況3】

 修験者の男曰く。「諸国を巡る修行の旅の最中なのです。山は歩き慣れていた心算でしたが、天候を読み違えるとは不覚でしたな」 旅芸人と思しき三人組の、二人の幼児が口々に語る言葉曰く。「江戸に向かって、大きな一座に混ぜてもらうんだい」「そこでおっとうと一緒に一稼ぎするんだよ」 浪人と思しき武芸者曰く。「仕えたお家が取り潰しとなりましてな。幸いに次の仕え先が見つかりましたので、そこへと向かう道中でござる」
 白装束の修験者が、携行食の乾飯を差し出して尋ねる。「ここで会ったも何かのご縁。一つ、お二人の身の上話を聞かせていただいても?」 さて、何を語ろうか。

【エンドチェック】

□自己紹介をした□グリット1点を得た

【解説】

 荒屋の中にいる七人の紹介と、PC同士が互いのことを知ることを目的としたクエリー。 PC2は人間のふりをしてここに紛れるのかもしれないし、うまく言い逃れるのかもしれないし、姿を見せないのかもしれない。 NPC達から適宜リアクションを行いながら、PCのロールを促していくと良いだろう。
■NPC:朧傳々・セッコ このキャンペーンはカシャネコがコトアゲセヌ國でクーデターを起こす前の物語、転じて百寄夜會という組織が生まれる前の物語となっている。 そのため、このセッコと朧傳々は、いわば悪意を持った野良妖怪たちだ。 小豆洗いを利用する悪党の存在を知り、男に取り憑き妖怪へと姿を変えさせた後、男のやり口をそっくりそのまま真似て、小豆洗いに罪をなすりつけながら罪なき人々を喰らって回っていた、悪しき妖怪、立派な悪党である。 次の獲物を求めて旅をしていたところ、偶然(正確には御六によって導かれ)この荒屋へと足を踏み入れる。そこに現れたPC1とPC2を次の獲物と定め、隙をついて食い殺してやろうと思っている。

【クエリー2:小豆洗い】

舞台:荒屋登場:全員

【状況1】

 ざあざあと、ごうごうと、雨音と濁流の音は離れた荒屋の中にいても尚続く。 会話は途絶え、しかし眠りには遠い夜半。 君たちの耳には、雨音と轟音に紛れるようにして、小さな異音が耳に入って久しい。 ざあざあ、ごうごう。 ざあざあ、ごうごう。 しょき。
 しょき。
「小豆洗いが出ておりますなァ」 仄かな蝋燭の灯りに照らされながら、修験者が口を開いた。「こうした修行の旅をしておりますと、諸国で語られる物怪怪異の話に、どうしても詳しくなりまして。いわゆる、怪談というやつに」「小豆洗いという妖怪をご存知かな?」

【状況2】

(知っている場合は「おお、博識でいらっしゃる」などと添える) 武芸者が声をあげる。「ああ、小豆とぎの逸話なれば、拙者も幼少の折に聞いたことがござる」「川のほとりで、『小豆洗おか、人取って喰おか』と歌いながら小豆を研ぐのだ。その音に気を取られると、いつの間にやら川べりへと導かれ、川へと落ちてしまうのだとか。どうだ?」 怖い話が好きなのか、どこか楽しそうな様子で武芸者は語る。修験者はそれを聞き、「そうした逸話もありますな」と言った。「何分、多くの地にて語られる妖怪でございます。概ねは変わらねど、細部は変わる。拙僧の知る話には、こんな逸話もありましたな──小豆洗いは、人を攫うのだとか」
 その言葉を聞いて、ぴくりと、動くものがいた。 「……違う」と、低い声が唸る。 幼児二人に囲まれた、陰気な顔の父親が、初めて口を開いた。「小豆洗いは……小僧の霊だ。寺の和尚に可愛がられていた小僧が、それを妬んだ悪僧に殺された。その小僧が、男を恨んで立てる音だ」 男はそれきり口を黙み、何も言わなかった。
「……この通り、同じ怪異を語れども、その出所に応じて形と細部を変えるのが、怪談というものでして」 修験者が気を取り直すように言う。 修験者はPCたちへと視線を向け、柔和に問うた。「時に皆さま、妖怪とは何だと思われますか」「何故、同じ怪異を語りながら、こうも細部が変わるのでしょうな?」

【状況3】

「拙僧が思うに──多くの場合、怪談とは方便なのでございます」「たとえば、武芸者様が口にされたもの。 川べりへと導かれ、落ちて死んだはその身の不幸。 しかし遺される者はたまったものではありません。 不注意で足を滑らせて死んだのだと罵られるよりも、小豆洗いに誑かされたと憐れまれる方が、遺される者の心は幾分か救われるものでございます」「拙僧の話も同じく。 人攫いに子を奪われた親が、姿わからぬ誰かを憎む方便として使ったのが、小豆洗いというものなのでしょう。 ……あるいはただ、こんな大雨の日には、外へ出るなとややこへ教えるためのものかもしれません」「人は都合の良い夢を己にとっての誠と信じる。 浮世憂き世とはよく言ったもの、どうにもならぬ辛いことも多いのが人の世です。 ならば夢を夢と知らぬまま、信じて逝けるのであれば、そいつは正しく現と言えるのじゃあありませんか」
 部屋の片隅、子を連れた陰気な親が、独り言のように呟いた。「いいや、いいや……小豆洗いは、いるのだ」 しかし男はそれきり押し黙り、もう、うんともすんとも言わなかった。
 ざあざあと、ごうごうと、雨音と濁流の音は離れた荒屋の中にいても尚続く。 しょき。
「お二人はいかがでしょう?」「──小豆洗いは人の皮を被った妖怪だと思いますか、妖怪の皮を被った人だと思いますか」 修験者はそう、PCたちへと問う。

【エンドチェック】

□小豆洗いの話をした□グリットを1点獲得した

【解説】

 このキャンペーンのメインテーマとなる、怪談という方便と、夢と現実に対する問答。 留意すべき点としては、これはキャンペーンのメインNPCである修験の御六の考えであり、PCが必ずしもその考えに賛同する必要はないという点だ。 NPC同士のやりとりなどもある為、PLのストレスにならないような進行を努めよう。

【チャレンジ1:夜襲】

舞台:荒屋・各々の部屋登場:PC1、PC2

【状況1】

 夜も更け、各々は眠りへと落ちる。 幸いに、荒屋の中には、未だ使える小部屋も残っていた。 それぞれに分かれ、眠りへと落ちる。
 外ではざあざあと、止むことのない雨音が続いている。 間断なく続く雨音は、夢と現の境を曖昧なものとした。 眠っているのか。 起きているのか。 夢を見ているのか。 現を見ているのか……。
 暗闇の中で、何かが動いた。 それは暗闇の中、君たちへと襲いかかる!

--------------------【チャレンジ判定】 この判定はPC1・2の双方が挑み、双方が成功しなければならない。判定:襲撃者の攻撃に対応しろ!技能:〈白兵〉 or 〈運動〉 or 〈霊能〉成功数:2回補正:なし失敗時:2d6+6点のダメージを受ける。--------------------

【状況2】

 突然の襲撃者を退けた君たち。襲撃者は暗闇の中、音を立てて廊下へと飛び出していく。 暗闇に紛れ、その目鼻立ちは分からなかった。 その騒音を聞きつけ、他の者たちも目を覚ましたらしかった。「どうかしやしたか!」 修験者が顔を出す。

【状況3】

 幼児たちの泣き声がする。 廊下へ出てみれば、二人の子らが障子戸の先を指差して泣き喚き、その傍ら、腰を抜かした父親が、青ざめた顔で室内へと目を向けていた。 障子を開き、中を見やる。暗くて見えない。 稲光が走った。 雷により、室内が明るく照らし出される。 ──血が溢れていた。 武芸者が、恐怖に戦いた顔で、目を見開いて死んでいた。 腕には血に濡れた彼の業物が握られ。 その首は── 一刀のもとに斬り伏せられたように両断され、胴と泣き別れていた。

【エンドチェック】

□襲撃者を退けた□武芸者が死んだ

【解説】

 ここで襲ってきたのは、武芸者に化けていた朧傳々である。 朧傳々はPCたちを喰ってしまおうとしたが、思っていたよりも腕が立つ(チャレンジ成功)ことや、人でないもの(PC2)が混ざっていることに気付いた為、やり方を変えた。肉体ではなく、恐怖を以て魂を食らわんとすることにしたのだ。共犯者であるセッコもそれを見抜き、口裏を合わせている。

【クエリー3:夢か現か】

舞台:荒屋・囲炉裏の側登場:武芸者以外の全員

【状況1】

 ざあざあと降り続く雨は未だ深く、夜の帷は未だ降りたまま。 荒屋の中は、重苦しい疑心暗鬼に包まれていた。
 子らがわあわあと泣き、父親へとしがみつきながら訴える。「お手洗いに行こうとしたら、ばたばた音がしたんだよう。見に行こうとしたら、雷がなって、御武家さまが死んでたんだよう」 難しい顔をした修験者が口にする。「争うような物音を聞いたので、PC1・PC2の様子を見に行ったのですよ。後はお二人も知っての通りで」
 皆、言外に、自分の行いではないと主張する。 裏を返せば、そこにはこうした意図もある──この中の、誰かが殺した、と。 街からは遠く離れた山奥の荒屋、山賊の類すら出歩かぬであろう大雨の夜更け、互いをよく知らぬ行きずりの旅人たち。状況は整いすぎていた。 こうした環境の中、君たちは何を話すだろうか。

【状況2】

 君たちの言葉と、親子の様子を見て取って、やがて修験者が口を開いた。「……舞首という妖怪をご存知か」「相模国のあたりで話される伝承でしてな。 その昔、小三太、又重、悪五郎という三人の武士がいた。 ある日、酒の勢いで3人が口論となり、やがて刀の斬り合いとなった。 彼らは互いに互いを斬り合い、やがて、三人とも首を落とし死んだ。 海へと転がり落ちた亡骸は、首だけになりながらも争い続けていると、そうした話でございます」
 何故、今。 そんな話をするのかと。 訝しむ視線を受けながら、修験者は尚、言葉を続ける。
「この御仁は舞首に憑かれた。──そういうことに致しませんか」「ここにいるのは皆、明日をも知れぬ流れもの。ここで真実を詳らかとするよりも、見て見ぬふりをしこの地を去るのが、互いの為ではありませんか」「朝を待ち、手前勝手にこの地を去る。見たもの、聞いたもの、全ては夢と忘れて笑う。 残るは巷の怪しい噂。それで手打ちと致しましょう。 ……今ならまだ、それだけで済みますぜ」 君たちはその言葉に、何と答えよう?

【エンドチェック】

□修験者の問いに答えた□グリット1点を得た

【解説】

 「見なかったことにしよう」と持ちかけられたPCがどう返すかというクエリー。 チャレンジ1の結果を以て、御六は妖怪たちがPCたちの命も食おうとしていることを理解した。このクエリーはPCたちに線引きを求めると同時、これを聞いているセッコ(と朧傳々)に対する牽制の問いかけである。 また、シナリオとしては、PLたち(PCたち)が修験者を怪しみ、意識を向けることを目的としている。

【チャレンジ2:怪談噺】

舞台:荒屋・囲炉裏の側登場:PC1、PC2

【状況1】

 不信と疑心暗鬼を抱きながら、君たちは結局、分かれて夜を明かすこととした。 大部屋に留まるという案もあったが、やはり、人殺しかもしれぬものと共にはいられぬというのが、辿り着いた総意であった。 PC1とPC2は、燻る火を宿した、囲炉裏の側で夜を明かすことになる。 君たちは不寝番を望むだろうか。それとも、眠るだろうか。 この空間の中、君たちはどんな話をするだろう?

【状況2】

 ざあざあ。ごうごう。 ざあざあ。ごうごう。 夜は更けていく。 しょき。 しょき。 雨音と轟音に混ざって、異音も変わらず、かすかに響いている。
 外ではざあざあと、止むことのない雨音が続いている。 間断なく続く雨音は、夢と現の境を曖昧なものとした。 眠っているのか。 起きているのか。 夢を見ているのか。 現を見ているのか……。
 しょき。
 ……いや。 やはり、おかしい。 瞼が重い。耐えられない。意識が遠のく。夢へと誘われる。 これは──この眠気は、普通ではない。
 PC1は夢現の最中に、自身を異様な眠気が襲っていることに気づく。 PC2は、PC1が奇妙な眠りへ誘われていることと、いつの間にか室内を満たしている、甘い香りに気付くだろう。 何かが起きている。 何かが──仕掛けられている!
-------------------------【チャレンジ判定】 この判定は各々が用意された判定に成功する必要がある。【PC1判定】眠りを堪え、目を覚ませ!…〈意志〉-20%【PC2判定】香りの根源を探り、対抗せよ!…〈知覚〉-20%失敗時:決戦フェイズで敵の数が増える。-------------------------

【状況3】

 チャレンジ判定に成功することで、PC1は眠りに落ちることを堪え、PC2は香りの源を見つけることができる。 その香りは、囲炉裏の残火から漂っていた。よくよく見れば、灰の中に、丸薬のようなものが仕込まれていることが分かる。それは残火に炙られることで、この部屋を満たす睡眠薬だったのだ。人ならざる者であるPC2がともにいたからこそ、その眠気に耐えられたのだろう。
 PC1とPC2は、囲炉裏に火を灯したのが、あの修験者だということを覚えている。 改めて荒屋の内を探してみれば、いつの間にか、修験者の姿はない。 それどころか、旅芸人親子の姿も、死んだはずの浪人の亡骸も消えていた。
 ざあざあ。ごうごう。 ざあざあ。ごうごう。
 しょき。
 異音がした。その源へと目を向ければ──破れた障子に、小さな羽虫が集っていた。
 しょき。 しょき。 しょき。
 羽虫の羽が障子と擦れ、茶を立てるような、小豆を研ぐような音が、雨音に混ざる。 その羽虫は、明らかに自然に集ったものではなかった。何者かがそこに集めた、誰かの手による仕掛けだった。 落雷。稲光が障子戸の外を照らす。 大雨の中。東の空が僅かに白んでいる。 いつの間にやら、刻限は彼は誰刻(かわたれどき)を迎えていた。 稲光に照らされた地の先、川のほとりに──誰かが、立っているような気がする。
 今ならばまだ、目にしなければ、眠ってしまえば、見なかったことにしてしまえば──これはただの怪談噺。 だが一歩足を踏み出してしまえば、そこから先は区分が変わる。 その先にあるのは、大立ち回りの捕物帳か。快刀乱麻の英雄譚か。語るも哀れな無惨物か。
 ──君たちは、どうする? 選択の時は今だ。

【エンドチェック】

□障子戸の先へと踏み出した

【解説】

 御六の「仕掛け」にPC二人が気付き、怪談の舞台裏を覗くことを選択するイベント。 転じて、何も知らぬPC二人が互いに協力して、歩み出すシーンでもある。 この選択を以て、PCたちは本当に、狂言怪談の渡世の片棒を担ぐ第一歩となるのだ。 このキャンペーンは、全体的にPC1が主人公・PC2がその相棒といった雰囲気になりやすいよう作っているが、PCの設定によってはその限りではないこともあるだろう。GMはPLの設定に合わせ、クエリーの対象や問い方(何なら質問の内容も!)を変えていくと良いだろう。

4.決戦フェイズ

【決戦:小豆洗い誘拐事件】

舞台:大雨の川べり登場:全員

【状況1】

 外へと出た君たちが川べりへとたどり着けば、轟音響く川の側で、あの修験者が旅芸人の父親と組み合っている! 父親は血走った目で修験者を殺そうとしており、修験者は地面へと引き倒され、それに抗っているようだ。 PC達は介入してもいいし、しなくてもいい。さて、どうする?

【状況2】

「ああ、参った。起きちまったんですかい、何て御仁らだ!」「眠っていてくれりゃあ、おかしな夢を見ただけと、そういうことにしてあげられたのに!」 PC達の姿を見留めた修験者は、驚いたようにそう言う。
 修験者とPCたちの前で、血走った目を剥いた父親がぶつぶつと何かを呟いている──その口から、ぼろりと、黒い何かが落ちた。ショキ、と、擦れたような音を立てながら。ぽろり、ぽろりと口から際限なく溢れ、地面へと転がっていくのは、紛れもない大量の小豆だ! そんな父親の側に、二人の子供が寄り添った。子供らは父親の手を掴む。その無表情が歪み、二つの頭と体がぐにゃりと混ざり、一つ顔の中央に人ならざる巨大な一つ目を作りだした。そうして、小豆を吐き出す男の手を取りながら、じっと君たちを見つめてきた。 同時、ごうごうと流れ狂う川の濁流から、何かが飛び出した。それは三つの首だった。ざんばら髪にいかつい男の顔をしたそれは、首を落として死んだ武芸者の顔。それが地面へと落ちると同時、柱のように縦へと積まれ、憤怒と哄笑が入り乱れた、背筋の凍るような形相を浮かべるのだ!

【状況3】

 修験者は真相を斯く語る。「西国で、人攫いが続きやしてね。 河原者たちの子供を誑かしては、慰み者にして殺して捨てる、そりゃあひどい話でさァ。 奉行所へと申し出た所で、被害に遭ったは、人別帳に名前の乗らぬ無宿人の子らばかり。 ──…人別帳に名前がねえってことはね、人じゃねえってことなんですよ。だからお上にゃ取り合っちゃ貰えない」「そのせいか、いつしかこんな噂が流れた。子供らを攫い、殺したのは、小豆洗いの仕業だ。妖怪の仕業なのだから、仕方がないのだと」「ですがねえ……噂ってのは、火のない所に立ったりしません。まして、怪談話なんてのは尚の事」「その男は、自分で流してたんですよ。己で重ねた悪行を、妖怪変化になすりつけた。妖怪ってのはそういうもんです、そりゃ確かだ。──…だが、奴は筋を通し損なった」「誰だって、嫌でしょう。『身に覚えのないことを、自分のせいにされるのは』!」
 ケタケタと、一つ目の幼児がけたたましい笑い声をあげた。 ゲラゲラと、生首の柱がおぞましい笑い声をあげた。「応よ! 畏れられるが我らが本分。なれど都合良く、良いように名ばかり使われて、礼の一つも払われぬのでは腹にも据える!」「小豆洗いにしてやった! 小豆洗いにしてやった! ざまあみろ! こいつはこれから、ずーっとずっと、小豆洗い!」 生首が吠え、幼児が男の両腕を引っ張る。骨が砕ける音がして、裂けた肉から小豆がまろびでた。

【状況4】

「その男一人の命で片がつくってんなら、そりゃあ自業自得だ。ですがどうにも、そうはいかねえ理由(わけ)が生じた」「人も妖怪も、結局のところ大差なんて無いんでさァ。悪い奴が悪い、それだけで。 男が西国から姿を消したその後も、諸国を点々としながら同じ事件が相次いだ。 ……奴ら、取り憑くだけじゃ飽き足らず、味を占めやがった。 まさか行きずりのお二方まで食おうとするほど、業突張りとは思わなんだよ!」「「夢を現にしてやっただけさ!」」
 ごうごう。ざあざあ。 げらげら。けたけた。 しょきしょき。 現とは思えぬ光景が、君の目の前にあった。あるいはそれは、君がそうだと思い込めば、夢だとして流すこともできたのかもしれぬ。けれど、頬を打つ雨雫の冷たさが、耳鳴りのように鳴り続ける轟音が、身を裂くような冷たさが、それを夢だと終わらせてはくれない。 側で、修験者が君たちへと笑いかけた。「──で、ここまで長々と、種を明かした理由はもちろん一つ」「巻き込んだのがあっしなら、踏み込んだのはお二方。一夜の夢と諦めて、どうぞお楽しみを!」

【解説】

 舞台裏の種明かしと真相の説明。 NPCのセリフが長い為、PLのストレスにならないよう、適宜リアクションを促すなどして進めると良いだろう。
■NPC:小豆洗い もともとは西国・堺の町にて、我欲の為に人攫いと殺しを繰り返していた悪党。 社会的な立場の弱い河原者たちを被害者に犯罪行為を繰り返し、それを『小豆洗いのせい』と吹聴して回っていた。 しかしそうした行いをセッコと朧傳々に見咎められ、制裁ついでにその身を本物の妖怪へと転じさせられる。彼らに憑かれたことで正気を失い、夢現の苦痛の中で身勝手な欲望を撒き散らす化生となった。 自身の行いを顧みず、こうした目にあったことを理不尽と嘆いている、結局悪党だ。 PCたちがこの男をどうするかは自由にしてよい。妖怪として切り捨てるもよし、倒したことで人に戻り奉行所へ突き出すもよし、御六に後処理を一任するも良し。

【戦闘情報】

【エネミー】

・朧傳々×1・セッコ×1・小豆洗い(データ後述)

【エリア配置】

■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 エリア4:小豆洗い エリア3:セッコ エリア2:朧傳々

【勝敗条件】

勝利条件:エネミーの全滅敗北条件:味方の全滅

【備考】

・チャレンジ2に失敗している場合、セッコを2体に増やす。・修験者からの支援として、以下のパワーを適応する。
【破釜沈船】属性:強化 判定:なし タイミング:特殊射程:3 目標:PC1・PC2 代償:なし効果:イベント開始時に使用する。   目標に[束縛]を与える。   目標は[束縛]を受けている間、全ての判定に+30%の修正を得る。   この効果はイベントの終了時まで続く。──袖振り合うも多生の縁。生き残りたけりゃ諦めてくだせえ。
【盤上の支配者】属性:移動 判定:なし タイミング:行動射程:3 目標:1エリア 代償:ターン2効果:目標のエリアにいるキャラクター全員を、隣接するエリアに移動させる。   このパワーは1ラウンドに1度まで使用できる。──言の葉一つ。それだけでその胡散臭い男は盤上を操ってみせた。 「そおら、動け動け。死んじまうぜ」

■小豆洗い

【エナジー】ライフ:60 サニティ:60 クレジット:30

【能力値・技能値】

 【肉体】10 運動30% 【精神】10 霊能60% 【環境】10 交渉20%

【移動適正】地上、水中


【パワー】

■小豆を数える属性:妨害 判定:なし 射程:3目標:2体 タイミング:行動 代償:ターン6効果:目標は〈知覚〉-20%で判定を行う。失敗でターン・カウンタを+10する。このパワーは1ラウンドに1度まで使用できる。──ぶちまけられた小豆の数をどうしても数えたくなってしまう。
■小豆洗おか、人取って喰おか属性:攻撃 判定:なし 射程:3目標:2体 タイミング:行動 代償:ターン10効果:目標は〈運動〉で判定を行う。 この判定に失敗した目標は、 小豆洗いの指定する隣接エリアへ移動し、 1d6+2点のダメージを受ける。 その後、小豆洗いは「与えたダメージの合計/2」点 (端数切り捨て)のライフを回復する。──歌声で誘い、血肉を喰らう。
 ※破釜沈船による束縛の効果がある場合、実質〈運動〉-20%となる

5.余韻フェイズ

【余韻:幽霊の正体見たり枯れ尾花】

舞台:川べり登場:PC1・PC2・修験者

【状況1】

 戦いは終わり、妖怪達は退散していく。後に残るは、呆けて正気を失った男が一人。 いつしか雨はやみ、朝日に照らされた晴れ空が広がっていた。「サテ、これにて一件落着。巻き込んじまってすみませんね」 修験者とは思えぬ粗野な口ぶりで、男は一連の顛末の種を明かした。
 男は修験者を騙り、口先だけで諸国を渡り歩く渡世人──…すなわち、ペテン師であるという。 西国にて、小豆洗いの仕業とされた人攫い。子の親から、その報復を依頼された彼は、調査の果てに越後の国まで逃れた件の男を見つけ出した。この枝折峠(しおりとうげ)で片をつけるつもりでいたが、そこに偶然、PC1とPC2もまた足を踏み入れてしまった為、一計を案じたのだという。
「この虫はチャタテムシといいましてね。紙を食む虫ですが、その時に立てる羽と紙とが擦れる音が、しょりしょりと小豆を洗うように聞こえるなんてことから、小豆洗虫なんて呼ばれてたりもするんでさァ」「あとはちょいと眠り薬を囲炉裏に仕込んで、お二方にはぐっすり寝てもらい、明日になったら狸に化かされたように何も残っちゃいない。なあんだ、全部悪い夢だったか──…そんな顛末を描いてたんですが、まさか踏み出してこられるとは。命知らずなお二方だ」 ペテン師はそう言って呵々と笑った。

【状況2】

「人は皆夢ン中で生きてるんです。それなら悪い夢ばかり見るこたァねェと、あっしは思いやすね。凡て夢なら嘘も嘘と知るまでは真実なんで」 悪びれず、一連の顛末をそう締める男。 その手口は、あの小豆洗いを騙った、拐かし犯とどう違うのか。「……どうしてまた、ああも都合よく、雨が降ったと思います?」 言葉無き言及を悟ってか、ペテン師はニヤリと笑い、懐から取り出した鈴をリンと鳴らした。 川の中から、神々しい白い鱗を持つ龍──…蛟(みずち)が姿を現した。 その側に、小僧のような影が幾人か。その手には、小豆を洗う笊(ざる)を持っている。 それらは君たちの方を見やると、ぺこりと一礼し、朝日の中へと消えていく。「言ったでしょう。人も妖怪も、結局のところ大差なんて無いんでさァ。悪い奴が悪い、それだけで」「勝手に悪名流されて、迷惑してたらしいですよ。話が通じる奴らで助かりました」

【状況3】

「名乗り遅れやした。修験の御六と申しやす。ご覧の通りの騙しすかしの小悪党、まっとうな人間じゃあございやせん。もう二度とお会いすることもねえでしょう。今日晩見たことは、悪い夢と思って全てお忘れなせえ」「左様なら、どうぞお達者で」 そう言って、男……『修験の御六』と名乗ったペテン師は、君たちの前から姿を消した。 一夜限りの夢幻。 けれどそれは、君たちが人と妖の境を巡る騒動へと巻き込まれる、最初の物語であったのだ。
 時は江戸末期・天保年間。 幕末の動乱を間近に控えながらも、しかし文明開花の音は未だ遠く。 二百年に渡り続いた平穏な時代の中で、町人文化花盛り。そんな時代。 これは人と妖の境界が未だ曖昧であった時代。 双方の縁を人知れず取り保った、無名の英傑たちの怪談話だ。

【解説】 PCたちに、このシナリオの裏で何が起きていたのかを伝えるシーン。すっきり終わらせるためにも、ネタバラシは大切だ。PCのリアクションを適宜促しながら進行していこう。 シナリオ文面上では御六はもう二度と会わぬと言って去ってはいるが、PCのリアクションによっては再会を願って去るかもしれないし、江戸まで旅を共にするかもしれない。それぞれの卓に相応しい、物語の始まりを思わせる、気持ちの良いEDを迎えると良いだろう。

■成長点初期グリット:4点クエリーグリット:3点リマークグリット(想定):2点------------------------------------------------=合計:9点