激突!海底要塞デュカリオン


━━ヒーローよ、サイレントサイエンスを救え!

1.エントリーとシナリオ概要

【シナリオ概要】


 海底要塞デュカリオン──。 それこそは、原子力潜水艦国家『サイレントサイエンス』の国土そのもの。 Dr.ドミニオンがロックウェイブ収容所から姿を消した時、 そのデュカリオンから、傷ついた少年がヒーローへと助けを求め現れた。「帰ってきたドミニオン陛下がおかしいの」 骨肉の争いに至るビアシャラとドミニオン。 内戦の裏に巡らされた陰謀と巨悪。 逃げ場のない海の底、異国の民の嘆きを聞くものは誰か? 海底帝国はいま、存亡の危機に揺れる。 ヒーローよ、サイレントサイエンスを救え。

【事前情報】


 クエリー:4 チャレンジ:4 初期グリット:5 リトライ:5
 想定時間:7時間以上 推奨経験点:30~40点前後を想定。 より経験豊富なPCがいる場合、エネミーを随時強化すること。

【GMに要するルールブック】


・基本ルールブック(R1)・学園マッドネス(R2)・パワー・トゥ・ザ・ピープル(D1) サイレントサイエンスについてや、世界観の説明についてなどで、公式同人サプリ「パワー・トゥ・ザ・ピープル(以下D1と記載)」を大きく参考にしている。GMのみならず、プレイヤーも同誌を参照できる環境であることが好ましい。

【前提エントリー】


 PC1〜3は全員面識があるPCとし、Dr.ドミニオンおよび新生サイレントサイエンスのことを既に知っているPCであることが望ましい。 また、このシナリオは、本来ではヴィラン組織である「サイレントサイエンス」の救出戦が主なストーリーとなっている。その為、PCは(あるいはPLは)サイレントサイエンスと縁があったり、ヴィランを助けることに理由をつけられるキャラクターが動きやすいだろう。 オススメは公式体験版シナリオ「強襲!ロックウェイブ島」への参加経験のあるPCだ。 とはいえ、PLがうまく理由付けをして動かす自信があるならば、その限りではない。

【エントリー】

【PC1:Dr.ドミニオンの脱獄】

 君はDr.ドミニオンと縁のあるヒーローだ。 そんな君にDr.ドミニオンがロックウェイブ島から脱獄したという一報が届く。 しかし君は先日、ドミニオンと面会し、彼の様子がどこかおかしかったことを知っている。 彼は何故脱獄を? これは本当にただの脱獄なのだろうか? いぶかしみながら、ドミニオンの行方を追っていた君のもとに、PC3から連絡が入った。

【PC2:ヒトデが連れた少年】

 君は海浜付近で発生した不審な高波の調査を行っていた。 この不審な波には覚えがある。サイレントサイエンスの襲撃の際によく確認されるものだ。 訝しみながら現場へ向かった君が浜辺で目にしたものは、波に打ち上げられたスタデンジャーに守られた、瀕死の少年の姿だった。

【PC3:ネムロンからの願い】

 常通り、ヒーローとして活動する君のもとに、PC2から急患の連絡が入る。 PC2が救助したのは、虫の息の少年だった。 治療を受け、意識を取り戻した少年は自身をネムロンと名乗り、サイレントサイエンスから来たと告げる。そして少年は君たちへ助けを求めた。

【シナリオサーキット】

----------------【導入フェイズ】----------------

【エントリー1:Dr.ドミニオンの脱獄】PC1がDr.ドミニオンの脱獄が誘拐であることを知る。
【エントリー2:ヒトデが連れた少年】PC2が傷ついたネムロンを助け、PC3へ連絡を取る。
【エントリー3:ネムロンからの願い】PC3がネムロンからサイレントサイエンスの状況を聞き、PC1へ連絡を取る。

----------------【展開フェイズ】----------------

【クエリー1:分裂する海底帝国】 ミセス・トキシックを説得し、バッシュザールへ援軍を要請するため動き出す。

【チャレンジ1:ハービンジャー横丁にて】 バッシュザール構成員・ベムベーラと接触する。

【クエリー2:マリアナ海溝にて、バッシュザールと】【チャレンジ2:英雄が為の運試し】 ディノグリフとの勝負に勝ち、援軍を取り付ける。 翌日、バッシュザールと共にサイレントサイエンスへ出撃する。

【クエリー3:深海の夜】 ネムロンが思いを吐露する。
【チャレンジ3:激突!海底要塞デュカリオン】 潜水艦国家サイレントサイエンス国土「海底要塞デュカリオン」到着。 迎撃に出てきた兵士達を相手取りつつデュカリオン内へ侵入。

【チャレンジ4:ビアシャラ救出戦】 ミセス・トキシックと合流し、人格矯正解除プログラムを入手。 死にかけていたザ・スペキュラーを助けて、事件の裏でホットステンチが動いていることを知る。 処刑寸前のビアシャラを救出し、Dr.ドミニオンのもとへ向かう。

【クエリー4:眠る君主】 デュカリオン最深部にて、Dr.ドミニオンおよび黒幕であるザ・ティーチャーと対面。

----------------【決戦フェイズ】----------------

【決戦:方舟の心臓にて】 デュカリオンの最深部でフォーセイクン・ファクトリーと戦う。

【戦闘終了イベント:継承】 ザ・ティーチャーの最後の悪あがきに対処する。

----------------【余韻フェイズ】----------------

 自由に演出する(ドミニオンをこのあとどうするか、サイレントサイエンスとの関係をどうするか、地上に着くまでどのように過ごしたか、など)

2.導入フェイズ

【イベント1:Dr.ドミニオンの脱獄】

舞台:ロックウェイブ収容所登場キャラクター:PC1

【状況1】

 君は今、ロックウェイブ収容所最奥の、Dr.ドミニオンの特殊独房を訪れている。 そこにドミニオンの姿はない。独房はもぬけの殻だ。 Dr.ドミニオンが脱獄を図ったことが判明してから一週間、その足取りは杳として掴めずにいる。 サイレントサイエンスによる奪還作戦が行われたのではないか? という噂もあるが、君は一週間前の面会の様子から、その世論に対して違和感を抱いていた。

【状況2】

 今から一週間前のことだ。 君はロックウェイブ島を訪れ、Dr.ドミニオンと面会を行った。彼から話したいことがあると打ち明けられたからだ。それはDr.ドミニオンという人物を知っている君からすれば、あまりにも珍しい申し出だった。「……なあ、ヒーロー」 Dr.ドミニオンは、しばし考えこむように黙り込むと、おもむろに君の名をよんだ。 彼自身、その先を口にすべきか否かを、迷っているといった風情だった。

【コミュ・イベントを行う。コミュ判定を行う】

…指定技能:交渉・意志(参照:R2・58ページ) この判定はDr.ドミニオンがPCに対してどの程度良好な印象を抱いているかを定める判定となる。判定自体はPCが行うが、ドミニオン側からPCへの感情を決める為の判定と考えて良い。 この判定時点でのドミニオンからヒーローに対するエンパシーは「中立」となっている。 このコミュ判定に成功することで、ドミニオンからPCへのエンパシーは「友好」、クリティカルすれば「好意」へと変化する。「愛情」は発生しないと考えて構わない。 コミュ判定に成功した場合、ドミニオンは覚悟を決めたようにその先を口にする。君を信頼する覚悟を決め、君に頼みごとをするのだ。
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【コミュ判定失敗時】「……いいや。何でもない。何でもないのだ」「呼び出して悪かった。疾く去れ。今のサイレントサイエンスなど……最早、余の知らぬ話よ」 Dr.ドミニオンは、その時、確かに君へ何かを言おうとしていた。 しかし、彼は結局、それが何かを答えてはくれなかった。 君は奇妙な違和感を抱きながらも、ロックウェイブ島を後にすることになった。-------------------- ----------------------------------------
【コミュ判定成功時】「……なあ、ヒーロー」 Dr.ドミニオンは覚悟を決めたように口を開き──そして、面会室の窓越しに、君へ頭を下げた。「言えた義理ではない事は承知の上。だが、その恥を忍んで、頼む」「サイレントサイエンスを救ってくれ」「このままでは、あの国は……余は……余が、あの国を…!」 その時、Dr.ドミニオンは口を開こうとしたのだ。 何かを打ち明け、君へ、確かに「助け」を乞おうとしたのだ。 しかし、その言葉を聞き届ける前に、君の耳に奇妙な言葉が届く。『リセット』 次の瞬間、はたと気が付いたとき、君の身は君の自宅にあった。 さっきまでいたはずのロックウェイブ島の面会室はどこにもない。 時計を見れば、あの面会に行った日から、一週間が経過していた。 君は急ぎ、ロックウェイブへ問い合わせたかもしれない。自分の身に何が起きたかを調べたかもしれない。 そうして分かったことは君は確かにDr.ドミニオンと面会をしたということ。 そして、『何事もなく』面会を終え、『ロックウェイブ島を立ち去った』こと。 そして……Dr.ドミニオンが、一週間前に監獄を脱獄したということだ。
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【状況3】

 君のもとに、脱獄時に破壊されていた独房の監視カメラのデータが復旧したという連絡が入る。 ノイズの中、かろうじて修復された監視カメラのデータには、こんな映像が残されていた。
-------------------- ----------------------------------------■『誘拐の経緯』 ドミニオンの独房を映している定点カメラの映像。 食事を持って独房に入ってきたいつものスタッフ、食事を受け取るドミニオン。しかしドミニオンが背を向けた拍子、スタッフが隠し持っていた銃のようなものをドミニオンに向かって発砲。ドミニオンは血を出さぬままにその場に倒れ、彼の体を抱えたスタッフが部屋を出ていった。 これは脱獄ではない、計画的な誘拐だ。-------------------- ----------------------------------------
 ドミニオンの脱獄は、脱獄ではなく、何者かによる誘拐だった。 しかし誰が、何のために? 疑問を深める君のもとに、PC3から電話が入った。

【エンドチェック】

□ドミニオンの誘拐を悟った□PC3からの通話を受け取った

【解説】

 PC1がドミニオンの脱獄を知り、かつその脱獄に違和感を抱く形でのエントリーとなる。PC1はドミニオンと以前から面識ないしは因縁のあるPCを想定しているが、たまたまロックウェイブ島を訪れた見ず知らずのヒーローに対し、Dr.ドミニオンがこういった行動に出たということで違和感を抱いたとしてもいい。 誘拐をしたスタッフが何者であるのか、どこの組織のものであるのかは、この時点では映像だけでは見定められないものとすると良い。 とにかくドミニオンの脱獄に違和感を抱き、誘拐に気づいてくれればシーンは進められるだろう。

【イベント2:ヒトデが連れた少年】

舞台:街はずれの海辺登場キャラクター:PC2

【状況1】

 いつも通りヒーローとして活動していた君のもとに、テレビのニュースの音が届く。ニュース番組で取り沙汰されているのは、ロックウェイブ島からのDr.ドミニオン脱獄の報だ。 ニュースキャスターが重々しく告げる。「ベクター・ドミネ氏こと、通称Dr.ドミニオンの脱獄に際し、ミュザール公国国家元首シュザンヌ・ミュザール陛下は、国際社会の一層の団結と毅然とした対応が必要だとコメントしました」 シュザンヌ・ミュザールの中継コメント。『国際中立区域たるロックウェイブ島を襲撃したDr.ドミニオンの脱獄は、国際社会への挑戦に等しい。サイレントサイエンスの活動可能領域は海洋全域、優に地球上の七割を占める。湾岸部を持つ国々はもちろん、多くの国にとって他人事ではあるまい。 サイレントサイエンスが本件に関与し、再びDr.ドミニオンを擁するのであれば、我々は団結し、毅然とした、しかるべき行いを示す必要があるだろう』 ミュザール公国だけではない。アメリカやロシアといった大国もまた、ミュザール公国の論に同意する風潮が続いている。しかしこの一週間、サイレントサイエンス側からの正式な声明発表はなく、現在地点すら不明な潜水艦国家は未だ沈黙を保ったままだ。

【状況2】

 そんな時、ニュースの上部に緊急速報が流れる。高波警報だ。場所は君がいる場所から程近い。 それは奇妙な高波だった。天候は安定しているのに、ごく狭い範囲で、突然の強い高波が、短時間の間だけ発生したというのだ。 君はこれとよく似た奇妙な自然現象が、サイレントサイエンスが姿を現す場所に発生することがあると知っている。 念のためだ。君は様子を見に行くことにした。

【状況3】

 奇妙な高波の発生現場を訪れた君だったが、その近隣の街で不穏な出来事は起きていないし、サイレントサイエンスに関する噂もない。 ただ過敏になっただけだろうかと海辺を散策していた君は、波打ち際に倒れている奇妙なシルエットに気が付く。それは巨大なヒトデのような怪物だった。君はそれが、サイレントサイエンスが開発した生物兵器・スタデンジャーであるということを知っている。 そこには傷ついて息絶えたスタデンジャーが打ち上げられていた。そして、そのスタデンジャーに抱え込まれるようにして、青い髪の少年が意識を失っていた。 君が声をかけると、少年は呻きながら目を開け、「ひーろーに、ひーろーにあわないと」と呻き意識を失ってしまう 少年は瀕死の重傷を負っていた。このままでは彼の命が危険だ。

【エンドチェック】

□少年と出会った□PC3と連絡をとった

【解説】

 サイレントサイエンスを取り巻くこのシナリオ内の世界情勢の説明と、PC2が傷ついたネムロンを拾うシーン。 このあとPC3のもとにネムロンが運び込まれる、あるいは病院に搬送したネムロンのことをPC2がPC3へ伝える形でエントリー3へと繋がることを想定している。キャラクター設定次第で何故連絡を取るのか、どのような連携を取るのかは変わってくるだろう。理由に関してはPL間で好きに設定して構わない。

【イベント3:ネムロンからの願い】

場所:病院など登場キャラクター:PC3、PC2

【状況1】

 忙しい日々を送る君のもとに、知人であるPC2から連絡が入った。 急患として連れ込まれた少年は、まるで戦場から逃げてきたかのような風体で、今にも生命活動を止めてしまいそうだった。しかし、君たちの尽力によって少年は一命をとりとめ、その日の夜には目を覚ますほどになった。 目を覚ました少年は、PC2とPC3の姿を見て、怯えたように武器を構える。そして震える声で言った。「スタデンジャーはどこ? ここはどこ!? あなたたちはだれですか!?」 どうやら錯乱しているようだ。落ち着かせてやる必要があるだろう。

【状況2】

 少年は自らをネムロンと名乗り、自らの事情を話し出す。 彼はサイレントサイレンスから来たのだという。「スペキュラーが逃がしてくれたんです。ヒーローに会いなさいっていって」「ドミニオン陛下が帰ってきて、うれしかったのに、へんなんです。陛下がへんになっちゃった」 そこまで話すと、ネムロンはわんわんと泣き出してしまう。 サイレントサイエンスにDr.ドミニオンといえば、いままさにニュースで国際情勢を騒がしている当事者達だ。 どうやら何か厄介ごとに巻き込まれようとしているらしい。 続きを聞く必要があるのは明らかだが、その前に、君よりも遥かにこの件に詳しい男を、君はここへと呼び寄せることにした。

【エンドチェック】

□ネムロンを救った□PC1へ連絡をとり合流した

【解説】

 ネムロンと出会い、サイレントサイエンスの異変を知るシーン。 このあと、PC3はPC1へと連絡を取り、エントリー1の最後に繋がる形となる。PC1とPC3がどういった関係であるのか、何故ここで連絡を取り合う発想に至れたのかは自由に設定して良い。あるいはPC1側から、何らかの理由でPC3へと連絡を入れた時がちょうどこのタイミングだったのかもしれない。 情報を共有し、PC同士が合流した後、展開フェイズへと移っていく。

3.展開フェイズ

【クエリー1:分裂する海底帝国】

舞台:病院登場キャラクター:全員

【状況1】

 PCたちは合流し、目を覚ましたネムロンから話を聞いた。「サイレントサイエンスにドミニオン陛下が帰ってきたんです」「だけど……だけど、おかしいんです。前の陛下じゃないみたい。人が変わっちゃったんです」 曰く、一週間前、サイレントサイエンスにDr.ドミニオンが帰還した。 サイレントサイエンスはそれを歓迎したが、ビアシャラがそれに反発。 するとドミニオンはビアシャラを反逆者と断定、強硬な排除に出ようとした。 ビアシャラもまたそれに反抗、海底にてドミニオンvsビアシャラという図が生まれるに至った。「もともと、サイレントサイエンスの中でも、意見は割れてたんです。 ロックウェイブに再襲撃をかけて、ドミニオン様を救出するべきだってひとと、 ビアシャラ様の下で新しい道を探るべきだってひとで。そのせいで、余計に……」「……ビアシャラ様、言ってました。あれはドミニオン様じゃないって。 最初はどういう意味か分からなかったけど……今ならわかります。 前は少なくとも、理由なくあんなことする人じゃありませんでした」 ドミニオン側の強硬な排除姿勢に伴い、反発は武力衝突へと変わった。 サイレントサイエンスはいま、内戦状態にあるのだとネムロンは話す。

【状況2】

 ドミニオンに対して反旗を翻したビアシャラ軍は、自然、市街戦めいた戦闘を余儀なくされ、 ゲリラ戦めいた戦いが続く中で、ネムロンはスペキュラーという人物の独断により、 援軍を求めるために地上のヒーローのもとへと送り込まれたという。「スペキュラーが逃がしてくれたんです。ヒーローのところに行きなさいっていってました」「おねがいします、サイレントサイエンスまで来てください! きっと助けを呼んでこいってことだったんです! きっとそうです!」 ネムロンはそう言って、鼻息荒くPCたちに援軍を要請しようとする。しかし君たちは彼の話を聞く内に気づくはずだ。 そのスペキュラーという人物は、「助けを呼んでこい」とは一言も言っていない。 彼はただ、戦場から子供を一人、逃しただけにすぎないのかもしれない。 君たちはそのことをネムロンに告げるだろうか、それとも…。

【状況3】

「そうだ! 通信機をこっそり持ってきたんです、連絡しなきゃ!」 ネムロンがこっそり持ってきたという通信機(貝型。モニター付き)をつなぐと、モニターに一人の女が姿を現した。女性もまた負傷し、どこかのシェルターのような場所に隠れていることが分かった。「はい、こちらミセス・トキシック! 今忙しいから後にしてくれない!?」「あれっ、トキシック? どうして? スペキュラーは?」「ネムロン!? アンタいまどこにいるの!?」 女性はミセス・トキシックというらしい。彼女は部屋の様子に気付き、君たちの存在に気づくと、苦々しい表情を浮かべた。「アー、その子を拾ってくれたってワケ?  OK、ちょうどいいタイミングだわ。ちょっといま忙しくてね、全部終わったら迎えに行くから、しばらくその子そっちで預かっててくれない?」 それはネムロンを戦場から引き離しておくための嘘だと君たちにはすぐに分かる。 サイレントサイエンスは、それだけ追い詰められた状況になっているらしい。一体何が起きているというのだろう?

【状況4】

 ヒーロー達の言葉を受け、ミセス・トキシックは苦い顔をして状況を認める。「そう、うちはいま追い詰められてる。他ならぬDr.ドミニオン本人にね。……だけど、あなたたちの手を借りるわけにはいかないの」「この国をまとめるのに、ビアシャアがどんな手を使ったか、あなた達だって嫌ってほど知ってるでしょう?」「敵対感情をヒーローという唯一になすりつけ、報復という同じ目的を国民と共有することで、独裁者を失い混乱していた国を統一した。そこにはあの子個人の感情も大いに含まれていただろうけど、プロパガンダとしてそのやり方が大いに役立ったのも事実よ」「そこで、サイレントサイエンスそのものがその『ヒーロー』に救われたなら、『そのあと』どうなるかなんて……分かるでしょ?」「私たちにとって、正体不明のだれかに支配されるのも、ヒーローに救われるのも、大きな違いはないの。あなた達の正義は、私たちにとっての正義ではないから」「【どこかの誰か】に一方的に救われれば、その時点でサイレントサイエンスという国は終わるのよ」

【状況5】

(反論を聞く)「……そうね。今のネムロンの状況が、一縷の望みってのは……確かよ。あの人相手に私たちが勝てるとも思えないし」 トキシックは長い逡巡の後、よし、と覚悟を決めたようにネムロンを見る。「ネムロンを臨時特別外交官に任命しましょう」「内戦終息の為、外部戦力の介入を依頼してきて頂戴。 ただし、それはヒーローじゃあダメ。理由は最初に言った通りね。 頼るべき戦力は、ビジネスで動く傭兵よ」「バッシュザールへ救援要請を。 あそことうちはつながりがある、互いに不可侵たるべし、程度のものだけど。 ウチが落とされればあそこも……無関心ではいられないはずよ。 あっちも銀河連邦に気付かれたくはないだろうしね。細い線ではあるけど、そこを突く」「でも、あんな深くて広いところ、僕一人じゃ探せないです……。 ヒーローさんたちも、あそこまで深くは泳げないでしょうし、それにバッシュザールは戦艦ですから、いまどこにいるのか」「その通り。だから地上から彼らにアクセスする必要がある。これから指示する場所に向かって」

【エンドチェック】

□ネムロンに協力することにした□グリットを1点獲得した□次に行くべき場所を伝えられた

【解説】

 このシナリオに於ける『サイレントサイエンス』という一国家と、ヒーローの関係について説明するクエリーだ。 『サイレントサイエンス』はヴィランとして扱われてはいるが、組織ではなくれっきとした一国家。ドミニオン無き今は海賊国家としての道を歩んでいるが、いわばPC達にとっては『他所の国』にあたる。 『他国』の『内戦』に、『ヒーロー』が出向いても良いのか? このクエリーにはそうした側面も含まれていると思っていい。 半面、PC達が介入するに値する理由も存在する。例えば、あくまでドミニオンの脱獄を追ってとするのであれば、ヒーローの介入も筋の通らない話ではない。それにそもそも、この内戦の裏には、国でもなんでもないヴィラン組織フォーセイクン・ファクトリーが関与しているのだ。 サイレントサイエンス側が救援要請に乗り気でない以上、基本的にはPC達に自発的に介入の動機を抱いて貰う必要がある。GMはネムロンを利用するなどしてPC達が動きやすいようシーンを作っていこう。 スペキュラーについて質問された場合、ドミニオンとの戦いで倒れたと伝えられる。「……立派な最期だった、といえば満足?」(死んだようにみせかけよう!)

【チャレンジ1:ハービンジャー横丁にて】

舞台:ハービンジャー横丁登場キャラクター:全員

【状況1】

 ネムロンと共に、PCたちは所定の場所へやってくる。 裏路地にきて、ここがポイントだと確認すると、教えられた秘密の合言葉を口にした。「(合言葉は任意に設定して良い)」 合言葉に反応して道が開き、その先に、反銀河連邦派の宇宙人たちによって作られた横丁が姿を現した。

【状況2】

 そこはアウトローなハービンジャー達によって作られた横丁だった。治安は悪く、地球上の常識はここでは通用しない。 何を売っているのか、何を楽しむのかも分からない奇妙な店が、数多く軒を連ねている。 トキシックの話では、ここにバッシュザールの関係者が入り浸っているという話だ。しかし横丁には大勢のハービンジャーの姿がある。 さて、どうやって彼らを捜し出したものだろう。
--------------【チャレンジ判定について】 判定1を全員で行う。 判定1に成功したPCだけで判定2を行う。 判定2に成功したPCだけで判定3を行う。【失敗時】3d6点のダメージを受ける。--------------
【判定1:まずは情報を集めよう…交渉】

【状況3】

 バッシュザールの構成員・ベムベーラが入り浸っている酒場が分かった! 酒場に向かうが、ベムベーラは今はいないらしい。 調査を行う君たちへ、バッシュザールに恨みを持つゴロツキが因縁をふっかけてきた。 ここで派手に暴れれば、バッシュザールの構成員たちに噂が届くかもしれない。 できる限り派手に暴れてやれ!

【判定2:バッシュザールの名前を出して暴れろ! 誘き出せ!…白兵・射撃・霊能】※判定1に成功したPCのみが挑める

【状況4】

 君たちはハービンジャー横丁でド派手に暴れた。 横丁の者たちは、倫理観や常識が地球人とは異なるのか、君たちの大暴れぶりを(たとえ命に関わるものだったとしても)笑って囃し立てていた。 一人倒せば次の者が、その次の者を倒せば横で見ていた者が乱入し。 当初のバッシュザール絡みの因縁はやがて消え、今や「強い君たちに挑みたい」という理由での大乱闘になっていた。 かくして、暴れに暴れてすっかり日も暮れた頃。 一人の宇宙人が、バーカウンターから君たちに声をかけてきた。「良い暴れぶりだ、地球の戦士たちよ」「一部始終を見させてもらった。なかなかに胸が梳く戦いぶりだ。是非一杯奢らせてくれ」「……さて、初めまして。バッシュザールの構成員が一人、ベムベーラだ」「私を捜していたのだろう? その理由を聞かせてもらおうか」

【判定3:姿を現したベムベーラに目的を伝えろ…心理】※判定1・2に成功したPCのみが挑める

【状況5】

 君たちの言葉を聞き届け、ベムベーラはふむと腕を組み、ネムロンを見る。「なるほど。……滅びの後に身を寄せた船が、再び滅ばんとするのを見るのは、さぞ辛かろう」 ベムベーラはネムロンの頭を撫でると、PC達へ向き直る。「良いだろう。お前たちをバッシュザールの戦艦、『タイガーディッシュ』へ案内しよう」「……だが、その前に」「先の戦いぶりに、血が滾って仕方がない! 地球の強き兵士たちよ、私と一戦交えてもらおうか!」
(*任意:白兵/射撃/霊能/作戦…チャレンジ判定ではないので失敗してもデメリットなし)

【解説】

 バッシュザールへ救援を依頼する為、彼らと接触する為のチャレンジ判定だ。重苦しいクエリー1の雰囲気を吹き飛ばすように豪快にいこう。 ハービンジャー横丁についての設定は、DLHシナリオ『寄生体キャンペーン(作:まるさん)』に登場する同舞台の設定をお借りした。反銀河連邦派のハービンジャーたちが集まり作り出したたまり場だ。当然治安は悪いし、地球でありながらも、地球の常識が一切通用しない空間となっている。 ベムベーラは戦闘種族ヤッカムズールの唯一の生き残りであり、滅亡の悲しみと残された者の気持ちをよく知っている。その為、正直なところ彼はネムロンに同情しているし、彼個人としてはサイレントサイエンスへの援軍には乗り気でいるが、あくまで一兵士である彼に決定権はない。

【クエリー2:マリアナ海溝にて、バッシュザールと】

舞台:マリアナ海溝・バッシュザール戦艦『タイガーディッシュ』登場キャラクター:全員

【状況1】

 PC達はベムベーラに連れられ、マリアナ海溝深部にあるバッシュザールの戦艦へと訪れた。 バッシュザールの艦長、ディノグリフは、君たちへと相対する。「私がバッシュザールが艦長、ディノグリフだ」「事情はベムベーラより報告を受けている」「故に、問うのは一つ」「お前たちにしてみれば、この戦は悪党対悪党の縄張り争い。共倒れを狙いこそすれ、加担する意味はあるまい」「問おう。サイレントサイエンスを救わんとする理由は何だ、地球の英雄よ」

【推奨】

 クエリーの回答ついでにPL達にバッシュザールの設定(特にディノグリフ)を確認してもらう。 ビアシャラとドミニオンが陥っている、父と子による同族殺し(バリサイド)は、ディノグリフの過去と絡めて説得に利用しやすいはずだ。

【エンドチェック】

□ディノグリフの問いに答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 主にバッシュザールとディノグリフの立場をPLたちに理解してもらうことを目的としたクエリーだ。その為、PLによるバッシュザールの設定確認を「推奨」している。 バッシュザールとサイレントサイエンスは軽度の交流(国交というべきか)があった。マリアナ海溝に潜む彼らの存在をサイレントサイエンスは以前より感知していたのだ。対し、銀河連邦との再びの対決に備えて自分たちの居場所を公にしたくないバッシュザールは、サイレントサイエンスと友好関係を結ぶことで海底での生活を可能としていた。

【チャレンジ2:英雄が為の運試し】

舞台:タイガーディッシュ登場キャラクター:全員

【状況1】

「お前たちの言い分は理解した。……悪くない言葉だ」 ディノグリフはPC達の言葉を聞き届け、満足げに頷く。 そしてニヤリと笑うと、おもむろに懐へと手を差し入れた。「では次は、我々がお前たちに融資するだけの価値がそこにあるかどうか」「お前たちの資質を試そう」「英雄にとって一番大切な資質は何か、わかるか?」「強靭な体。高潔な意志。だがそれだけでは足りん。最後に求められるもの……」「運、だ」 ディノグリフは自身と君たちの前に3つのサイコロを置く。「賽を投げよ、英雄」
--------------【チャレンジ判定】 ディのグリフとの運対決。GMとPLで3d6を振り、PLの出目がGMより高ければチャレンジクリアとなる。 リトライを1つ使うことでGMの振り直しが行え、グリットを1つ使うごとに出目を1つ任意の値に変更することができる。 この判定に挑めるのは代表者一人だけ。
【失敗時】・決戦フェイズのPCの行動順ロールを全て10として扱う--------------

【状況2】

 見事資質を示した君たちに、ディノグリフは協力を約束。 船をまとめ、翌朝にも出撃すると告げる。「戦支度といこう。この船の品は好きに使え」

【エンドチェック】

□チャレンジ判定を終えた

【解説】

 ディノグリフはドミニオンのこともビアシャラの関係も知っており、自身の過去を彷彿とさせる同族殺しを、第三者の介入により引き起こさんとしているサイレントサイエンスの現状に思うところはある。だが堕ちた英雄にとって、己の過去と類似した状況に対峙することはひどく勇気が要ることだ。その為に、ディノグリフはヒーロー達を試し、運命に道行を委ねる。 バッシュザールの構成員たちは、ディノグリフがGOというならばそれに従うという者が殆どだ。クーニャやウーフ・アングーマ三世などの、英雄であったディノグリフを知る幹部達は、内心ではディノグリフが立ち上がることを望んでいるが、彼がNOというならばやはりそれに従うだろう。 全ての思惑を乗せ賽は投げられる。

【クエリー3:深海の夜】

舞台:タイガーディッシュ内登場キャラクター:ネムロン、任意のPC

【状況1】

 挙兵を控えた前夜、兵の多くが寝静まった頃。 PCは、与えられた寝床からネムロンが抜け出すのを目にする。 後を追えば、ネムロンはタイガーディッシュの中でも、外の景色が見える大きな窓の前に立っていた。 窓の外には夜も昼も分からない、深海の景色が広がっている。

【状況2】

「あ……PCさん」 自分を追ってきたPCに気づき、ネムロンは顔を上げる。 その目尻が泣き腫らしたように赤くなっていることにPCは気付ける。「ごめんなさい、明日が本番なのに。不安になっちゃって、みっともないな……」「明日になったら、元気になります。だから、今だけ……」 PC達が理由を問う、あるいはその場に留まるのであれば、ネムロンはぽつぽつと自分の不安を話し始める。「……ぼく、サイレントサイエンスで生まれたわけじゃないんです」「もともとは、グロンっていう国に生まれました。海底の国で……僕は王族でした」「だけど、ある日、蛸のような怪物に襲われて……グロンは無くなってしまいました。 僕だけ、生き残った……なんにもできなかった。 そんな僕を拾ってくれて、好きなだけここにいていいと言ってくれたのが、ドミニオン陛下でした」「……ねえ、PCさん」「ドミニオン陛下は僕たちのこと嫌いになっちゃったのかな」「ぼくたちが助けに行かなかったから」 PCの答えを聞き、ネムロンは堪えかねたように涙をこぼしてPCへと尋ねる。「ねえ、サイレントサイエンスは無くなっちゃうの?」「無くなっちゃったら、ぼくたち、そのあとどうなるの?」

【エンドチェック】

□ネムロンの問いに答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 ネムロンの過去と今の気持ちを改めてPC達が知り、相談に乗るクエリー。 転じれば、これはヒーロー達がいつかの未来で相対するだろう、ヴィラン国家「サイレントサイエンス」の終焉に対してどう考えるかという事でもある。 立場が違えば正義は代わり、ヒーローは侵略者となり得る。その可能性に君はどう向き合うだろうか?

【チャレンジ3:激突!海底要塞デュカリオン】

舞台:バッシュザール戦艦~サイレントサイエンス登場キャラクター:全員

【状況1】

 ディノグリフは約束を守り、翌朝には艦隊の準備は整っている。バッシュザールの隊員達もやる気に満ちた顔をしている。 ブリッジへ君たちを招き、ディノグリフが言う。「さて、出撃前の口上といきたいところだが……お前たちの旗印だけでは、少々迫力に欠けるな」「幼子に戦の責を背負わせる必要もあるまい。介添え人の役割の一つでもあろうよ、さあ、代表者を前へ」(出撃前の口上を格好良く決めてもらおう。無理そうならそのまま進めるかネムロンが頑張ってなんか言おう)

【状況2】

 かくしてバッシュザールの艦隊は出撃する。 宇宙間航行を本分とする船は瞬く間に海中を進み、やがて海底に作られた巨大な都市が見えてくる それはあたかも神話に語られるアトランティスか。1960年代の面影を残しながらも、しかし地上とは全く異なった発展の道を辿ったことが伺える海底都市。一目見ただけで超科学的な技術によって擁立していることが分かる都市、否、地球上の海を支配するに至った国家。国と称される巨大潜水艦デュカリオン、それこそがサイレントサイエンス! タイガーディッシュの到来を予期していたように、海の支配者たる国家から、隊列を組んだ数多の小型潜水艇が迎撃に躍り出る。
アッシュ「さーて! ディノグリフの命令で来たはいいが、こっからどーするよ? 水中じゃいくらなんでもヤッコさんらの方が上手だぜ!」クーニャ「不利な土地だというならば、戦場を変えるべきね。……時にヒーロー、いきなりなことを聞くけど、ドクター・ドミニオンやビアシャラは、生身で水中生活が送れるタイプの地球人?」(返事待ち)ウーフ「ふむ、一つ光明だな。さて少年よ、今の問答で、我々がとるべき次の有効な手が何かは分かったかな」ネムロン「え? えーと、ええーと……???」(ヒーローに提案してもらう:人気のない場所に突っ込んで上陸しよう!)「あっ、そうか!」「北の植物園ブロックなら人がいません、そこに突っ込んでください! 国の中に入ってしまえば地上と同じです!」
--------------【チャレンジ判定…複数人が同一の判定を行うことはできない】判定1:北の植物園ブロックへ突っ込め!…操縦 or 作戦判定2:上陸したな! 迫る兵士たちを倒しながら進め!…白兵・霊能・射撃判定3:隣接エリアへ繋がるハッチを封鎖された!解錠しろ!…科学
【失敗時:決戦2R目に未来人バスカが参加する】--------------

【解説】

 実際に海底要塞デュカリオンへと突入していくチャレンジだ。 突入前の口上や、チャレンジ判定時の演出と合わせて、大群同士のぶつかり合いを派手に楽しく演出していくとよい。

【チャレンジ4:ビアシャラ救出戦】

舞台:デュカリオン内部登場キャラクター:全員

【状況1】

 ハッチから街へとたどり着いた君たちが目にしたのは、炎上するサイレントサイエンス都市部の姿だった。 そんな君たちのもとに、ミセス・トキシックから通信が入る。その周囲では女子供老人の声がする。 モニターに映し出されたトキシックは、鋼鉄のアームは何本か折れ、本人もドーピングの注射痕が目立つ。たくさんの傷と色濃いクマを残した壮絶な姿だ。しかし彼女は未だ希望は捨ててはいないと言いたげに、爛々と目を輝かせていた。「ようやく繋がった! バッシュザール万々歳ね、今ならディノグリフにキスしてやってもいいわ。これより私たちは協力体制に入る。彼らに市街戦へ加わって貰えれば、私たちも大分動きやすくなる。ネムロン、お疲れ様。よくやったわね」「さて! 早速で悪いけど、良いニュースと、微妙なニュースと、悪いニュースの三つがある。どれから聞きたい?」「良いニュースは、人格矯正銃の解除プログラムがもう少しで完成しそうってコト。元はウチのだしね。ずいぶん弄ってくれてたみたいだけど、それももう少しで終わり。このプログラムが完成すれば操られてる国民たちは正気に戻るはずよ。……たぶん陛下も」「微妙なニュースは、死んだと思っていたスペキュラー隊の生存が確認されたこと。ただ、手酷くやられたみたいで、現在は孤立中。スペキュラー本人も意識不明の重体みたい。ま、ぶっちゃけ罠でしょうね」「悪いニュースは、それを助けに行こうとしたビアシャラがとっ捕まっちゃったってことかな!」

【状況2】

 そのタイミングで、都市中にアナウンスが響く。声はドクター・ドミニオンのものだ。『サイレントサイエンスの臣民よ、よく聞け。これはドクター・ドミニオンの詔である』『逆賊ビアシャラの捕獲に成功した。めでたいことだ』『これを祝し、逆賊ビアシャラの粛正を1時間後に中央広場にて行う。中継を楽しみにしているがよい』 それだけ告げ、通信は切れる。トキシックが溜息を吐いた。「……わはは。分かってても、あの人の声で言われるとキくわ~」「オーケー、つまりそういう状況。ちょっと前まではどれを切り捨てたもんかと悲壮な覚悟固めてたんだけど、アンタたちが来たなら話は別よ」「全部手伝って。出来るでしょ」
------------------------------------------------------------【チャレンジ判定】(PCたちは三手に分かれ、別々に行動を行う)判定1:人格矯正銃の解除プログラム作成の援助…作戦-10% or 科学-10%判定2:スペキュラーの救出…白兵-20% or 知覚 or 隠密判定3:ビアシャラ処刑の妨害…白兵-20% or 射撃-20% or 霊能-20%
【判定1に成功】 トキシックから完成したデータを受け取る。パワー『人格矯正解除プログラム』を入手【判定2に成功】 スペキュラーから敵の情報を入手。コールドテイル(強化)のパワーを全て公開する。決戦フェイズ「■コールドテイル(強化)」の項目を参照。【判定3に成功】 ビアシャラを救出。クエリー4『眠る君主』が発生、使用済みグリットを3点回復する------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------■パワー『人格矯正解除プログラム』属性:妨害 タイミング:行動 判定:作戦+20%目標:特殊 射程:3 代償:ターン5効果:人格矯正銃の影響下にあるキャラクター全員を即座に【戦闘不能】にする。…洗脳を解除し、本来の自我を取り戻させるプログラム。※このパワーは判定1を行ったPCが合流次第、誰が何度使用しても良い。------------------------------------------------------------

【描写:ビアシャラ救出】

 デュカリオン中央広場。 平素ならば美しく整えられ、民衆にとっての団欒の場となっているのだろうそこに、今は民の姿はない。 その代わりのように、家々を監視するように飛び回るのは無人航空機(ドローン)の群れだ。 広場の中央、ドローンに囲まれた断頭台に乗せられた女がいた。ビアシャラだ。猿轡を噛まされ、普段ならば結い上げている髪も、今はざんばらにほどけている。 時計の針が12時を示し、昼を告げる鐘が鳴った。本当に地上が昼であるのか否かは、この国から推し量ることは出来なかったが。『時間となった』 ビアシャラの前に進み出たドローンから、ドクター・ドミニオンの通信音がする。『これより逆賊ビアシャラの処刑を行う。……だが、余は寛大だ。最後の情けを貴様にやろう』『解除コードを答えよ』『それを以て、サイレントサイエンスは再び完全に余の支配下へと戻る。余の国を返してもらうぞ』 ビアシャラの猿轡が解かれる。同時、ビアシャラは迷うことなく、ドミニオンの通信を行うドローンへと唾を吐いた。「アンタの国はもう消えた。サイレントサイエンスはもう、アタシたちの国だよ」 ドローンはその言葉に冷笑を以て答えた。冷たい声が響く。『余に逆らったこと、あの世で後悔するが良い』『やれ』 機械仕掛けのギロチン台が動き、ビアシャラの首めがけて放たれる…!
(ここでPCに乱入してもらう)
「お前…ッ!?」「……礼は言わないよッ!」 現れた君にビアシャラは驚愕の表情を浮かべるが、すぐに状況を把握したのか、それ以上の詰問をすることなく、素早くドローンへの攻撃へと移る。 伏せた左目を開けば、赤く光る邪眼がドローンを仕留めて回った。「ドクター・ドミニオンはこの奥、原子炉の傍にいる。時間が無い、行け!」「奴の狙いは核の起動コードだ!」 ビアシャラ曰く、ドミニオンの目的はサイレントサイエンスの持つ核の起動コードを掌握することにある。かつてはドミニオンが握っていたそれは、今はビアシャラへと権限が移されたことにより、新たなものへと変わっている。 しかし、先ほどドミニオンがビアシャラにコードを聞いたのは効率の為ではなく民衆へのパフォーマンスの為。彼はすでに核コード特定の為のハッキングを開始している。 あの男の頭脳相手ではいつまで持ちこたえられるか分からない「他の奴らが合流次第ソッチへ向かわせる。今は急いで先に進みな!」 君は一人先行し、サイレントサイエンスの最奥部へと向かうことになった。

【解説】

 失敗でデメリットがあるのではなく、成功でメリットを得ていくタイプのチャレンジとなる。 このシーンでPCたちはあえて別々に行動することになる。それぞれのシーンでどのような活躍をするかを一人ずつ演出してもらうと良いだろう。 洗脳されたサイレントサイエンスの兵士たちの中に紛れる形で、正体を隠したホットステンチが潜んでいることに、徐々に気付いていくなどしてもいい。

【クエリー4:眠る君主】

登場PC:チャレンジ4で『判定3:ビアシャラ処刑の妨害』を行ったPC舞台:デュカリオン最深部

【状況1】

 君は他の二人に先んじて、ドクター・ドミニオンの待つデュカリオン最深部へ向かった。 最深部へ繋がる厳重なハッチを抜けると、その先には、まるで地上のような光景が広がっていた。 空には青空が広がり、足元には風にそよぐ穏やかな草原が広がる。 静かな風と鳥の鳴き声すら聞こえるそこは、まるで海底ではないかのようだ。外の争いの音もここまでは届かない。 しかしよくよく目を凝らせば、その青空は、草原は、精巧に再現されたホログラムだということがわかる。 その部屋の中央に、ドミニオンの姿があった。 ハッチに背を向け、椅子に腰を下ろす彼の前には、サロンめいた、コーヒーと茶菓子の置かれたテーブルがあった。 ドミニオンは振り返らない。君が近付くと、ドミニオンの影から、ひょいと顔を出す男の姿。「やあ!」 狼のマスクに、仕立ての良いスーツを着た男。即ち、フォーセイクン・ファクトリーの統括者、ザ・ティーチャー!
「いやあ、うまくやったね。見事な手腕だった。 なるほどバッシュザール! あそことはウチも時々ビジネスをする。金次第で何でもやる、気風のいい男たちだよ、今後とも是非仲良くやりたいところだ。 なんたって世はまさに宇宙世紀、スペースオペラに心躍らせた少年の日を思い出す」「でも、宇宙と同じぐらい、現在の人類にとって謎とロマンに満ちた場所は、まだこの星にも残っている。そうだろう? 地球上の七割を占める大海原だ」
「彼とは仲良くなることができた。ねえ、“ベクター”?」 その言葉に、ドミニオンは無言で立ち上がると、静かにザ・ティーチャーの足元へと傅いた。彼のテックアーマー内で、コード解読の為のハッキングが続けられている様が垣間見える。 部下のように傅くドミニオンを当然のもののように扱いながら、ザ・ティーチャーは言う。「座りなよ。サロンとはもともとそのための場所だ、識者同士が言葉を交わし、相互理解を深める為のね」「それとも他ならぬ君が、その機会を捨てるのかな? 『ヒーロー』」

【状況2】

(ヒーローが即座に戦闘突入を希望する場合は割愛しても構わない。あるいは戦闘の中で投げかけてもいいだろう)
「デラックス・デザイア、ウィンター・ステイシス、ホット・ステンチ。 そこにサイレントサイエンスを加えてみるのも面白いかなあと思って」「国という肩書があるのも都合がいいし、彼らが独自に積み上げてきた科学力は目を見張るものがある。いささか時代遅れの感はあるが、政治と商売に使える核なんてオマケまで! とっても魅力的な玩具箱だ」「別に、これは私だけじゃないと思うよ? ……だってここは『国』だ。私の言いたいことは分かるだろう?」「我々がやらなくても、いつかどこかの『国』がやったさ。世界に仇なす国際テロ組織、みたいなお題目をつけてね。ああ、可哀想に! 彼らの生活はいつだって綱渡り。ゆくゆくは超人種のことなんて何とも思ってない大国にタカられて、彼らは丁寧に切り分けられてしまう。テーブルの上のチェリーパイのようにね」
「ベクターはそれを憂いていた。 それなら私のような、超人種の未来を思う者の手に渡った方が、彼の建国の理想も報われるというものだ。 そう、だって──外ならぬ、己護路島を作り出した男なのだから!
「世界最大規模の超人種自治区、かの麻神学園を擁する島流しの地、華々しき超人種の楽園! その島を設計しながら、島の完成と同時に姿を消した男がいた。 男の名はベクター・ドミネ博士。彼のことさ!」「想像するだけで泣ける話じゃないか。 何故彼は己護路島を作り上げた? 何故その島を去った? 深い深い海の底に、新しい超人国家を作り上げたのはどうして?」
「最初はね? 我々も、ここまで酷い事をするつもりはなかったんだ。 強硬策を選ぶのなら、自分たちだけでさっさとやったさ。 周りに助けを求められない小国一つ。 どれだけ高度な科学力があろうと、我々の物量で押し潰すのは、とてもとても簡単なこと。 それを選ばなかっただけ、我々には慈悲の心があると思わないかい」
「ベクターを通して、この国をそっくりそのまま頂戴するつもりだったんだけど……。 ……親子の絆か、それとも超人種の力かな? ご息女が見抜いてしまったものだから、ここまで事態が拗れてしまった。 彼女が大人しくしててくれれば、傷つかずに済んだ国民も多いだろうにね。悲しいなあ!」
「起きてしまったことは、とても悲しく胸が痛むが、仕方ない。 今の私たちにできることは、速やかにこの内戦を終息させて、国民たちの生活を安定させ、彼らに安心を届けることだ」
「さて、ここまでが私のプランな訳だけど、君は?」「他所の国の内戦にわざわざ介入し、カッコよく戦争を終わらせて、そのあとは?」「正義の介入、綺麗な言葉だ! 綺麗な言葉すぎて、侵略者が使う言葉ナンバーワンでもあるね。 全てが終わった後のサイレントサイエンスを君はどうするつもりなんだい。 ビアシャラに恩をたっぷり売りつけて、海賊国家を見て見ぬふりして、未来の犠牲を無視して丸投げ? ビアシャラとドミニオンだけ捕まえて、指導者を失った国民をほったらかし? それとも返す刀で、君たちがこの国を侵略するのかな? ぜひ、君たちの活用プランを教えてほしいね。 まさか、何も考えてないなんてことはないだろう。 もしそうなら──君たちは私以上に性質が悪いぜ、ヒーロー」

【エンドチェック】

□ティーチャーの言葉に答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 PCが人格矯正銃によって操られたドクター・ドミニオンと、彼を操る黒幕ザ・ティーチャーと対峙するシーンとなる。ティーチャーのセリフがめちゃくちゃ長いので、一気に読むのではなく、適宜リアクションを促したり、あるいはGMが不要と思う箇所を削るなどしながら進行することを勧める。 ティーチャーの言葉は勿論大嘘だ。ファクトに慈悲の心などない。ドミニオンを使って内側から国を取り込もうとしたのは、「その方が楽だから」以外の何者でもない。 ザ・ティーチャーからの問いは、何をどう答えたとしても、100%綺麗な正解にはならないだろう、答えのない厭らしい問いだ。だからこそ求められるのは「正解」ではなく、そのPCの「信念」や「理想」こそが答えとなる。 ドミニオンが己護路島設計者という設定は、D1・サイレントサイエンスのページのドミニオンの本名および、R2・85ページの記載による。

4.決戦フェイズ

【決戦:方舟の心臓にて】

登場PC:チャレンジ4で『判定3:ビアシャラ処刑の妨害』を行ったPC舞台:デュカリオン最深部

【状況】

 ピー、という音と共に、ドミニオンのテックアーマー内で続いていたハッキングが止まる。 核の起動コードの特定が完了した合図だ。それを合図としたように、ザ・ティーチャーもまた席から立ち上がった。「残念、時間切れだ。もっとお喋りを楽しみたかったのだけど、次の予定が押している」 それを合図としたように、室内のホログラムが消える。科学によって再現された自然の光景は消滅し、代わりに姿を現したのは、超巨大な原子炉だった。君たちは原子炉のすぐ側で対話を行っていたのだ。「さあ、ベクター。君の国を侵す『侵略者』を、我々の手で排除しようじゃないか」 ザ・ティーチャーの言葉に従い、Dr.ドミニオンが武器を構える。物陰から、虚な目をしたスタデンジャーと、サイレントサイエンスの兵士たちが姿を現した。 君の仲間たちがかけつけてくるまで、あと僅か。 それまでどうにか、この場をしのぎきらなければなるまい…!

【戦闘情報】

【エネミー】

・ザ・ティーチャー・ドクター・ドミニオン(『人格矯正解除プログラム』対象)・スタデンジャー×1(D1より)(『人格矯正解除プログラム』対象)・強化サイレントサイエンス兵士×2(『人格矯正解除プログラム』対象)・コールドテイル(2R目から)・ホットステンチ×3(2R目から)

【エリア配置】

■PC初期配置 エリア1・エリア2■NPC初期配置 エリア4:ザ・ティーチャー、ドクター・ドミニオン エリア3:それ以外(コールドテイル、ホットステンチ含む)

【勝敗条件】

 勝利条件:ザ・ティーチャーおよびコールドテイルの戦闘不能 敗北条件:PCの全滅

【特殊事項】

 たくさん。以下に記載。
■【戦闘について】 1ラウンド目に戦闘に参加できるのは、クエリー4の対象となったPCのみです。残りの2人は2ラウンド目から戦闘に参加します。 また、2ラウンド目から、コールドテイルおよびホットステンチが戦闘に参加します。
■【エネミーデータについて】 スタデンジャーのステータスはD1・サイレントサイエンスの項目を参照。データに調整を入れる必要はない。 それ以外のエネミーのデータはこのシナリオオリジナルのもの、ないしは既存のデータの強化版となる。 次の項目よりそれぞれデータを記載する。
■【スペキュラーの介入】 2ラウンド目以降の任意のタイミングで、ザ・スペキュラーのパワー『スペキュラー光線』を任意のエリアへ使用可能となります。 この介入により、PCが代償を支払う必要はありません。 この介入は戦闘中に一度だけ行うことができます。
■【ビアシャラの介入】 4ラウンド目のターン10時点で、ビアシャラのパワー『一斉射撃命令』が行使されます。 この時、ビアシャラは『最もキャラクターの多いエリア』へ攻撃を行います(ヒーローがいるエリアでも構わず攻撃を行います) 同数の場合、GMはより面白いと思えるエリアへパワーを使用すると良いでしょう。 事実上のタイムリミットとなります。
■【【人格矯正解除プログラム】について】 2R目以降、このパワーが使用可能となります(所有PCが合流する為)。 このパワーが使用された時、ドクター・ドミニオン、スタデンジャー、強化サイレントサイエンス兵士は即座に戦闘不能となります。 このパワーを所有するPCが合流した以後、だれでもこのパワーは使用可能となります。
------------------------------------------------------------■パワー『人格矯正解除プログラム』属性:妨害 タイミング:行動 判定:作戦+20%目標:特殊 射程:3 代償:ターン5効果:人格矯正銃の影響下にあるキャラクター全員を即座に【戦闘不能】にする。…洗脳を解除し、本来の自我を取り戻させるプログラム。------------------------------------------------------------

■ドクター・ドミニオン(強化)

【エナジー】ライフ60 サニティ50 クレジット70

【能力値・技能値】

 【肉体】40 射撃80% 運動50% 【精神】50 霊能60% 【環境】60 科学120% 経済100%※「強襲!ロックウェイブ島」のステータスを参考

【移動適正】地上・飛行・水中・宇宙


【パワー】

■拡散レーザービーム属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:なし射程:3 目標:3体 代償:ターン6効果:目標は<運動>-20%で判定を行う。 この判定に失敗した時、目標は3d6点のダメージを受ける。 このパワーは2ラウンドに1度使用できる。──拡散し追尾する光線。チャージには時間がかかる。
■レーザービーム属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:なし射程:3 目標:1体 代償:ターン10効果:目標は<運動>で判定を行う。 この判定に失敗した時、目標は2d6点のダメージを受ける。──奇しくも、ザ・ティーチャーと同じ技。
■護衛部隊属性:強化・装備 タイミング:特殊 判定:なし射程:3 目標:2体 代償:クレジット4効果:行動順ロール直後に使用できる。 そのラウンド終了時まで、 目標の受けるダメージ・ショックに-3点の修正を与える。──玉座の王を守るのは、人ではなく無人機(ドローン)だ。
■ウェポンブレイカー属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:科学120%射程:3 目標:1体 代償:ターン6効果:目標は<科学>+10%で判定を行う。 この判定に失敗したキャラクターの「属性:攻撃」のパワー1つを未取得のものとして扱う。 複数所持している場合、受けた側が決定する。──作れるとは壊せること。超人国家の支配者ならば、装備品に限らない。
■アナライズ属性:妨害・装備 タイミング:行動 判定:科学120%射程:3 目標:3体 代償:ターン10効果:目標は「科学」-20%で判定を行う。 この判定に失敗したキャラクターは、「BS:朦朧」を受けるか、 「状態強化」を全て解除する(受けた側が決定する)。 重複する効果を選択することはできない。 このパワーは第2ラウンド以降に使用できる。 このパワーは1ラウンドに1度まで使用できる。──分析、解析、検証、実践。それが“科学”の基本。
※状態強化…ブラックジャケットRPGより出典。『判定の成功率上昇』『ダメージ、ショック、スティグマの威力強化』『ダメージやショック、スティグマの威力軽減』のことを指す。(臨死状態は含まない)。

■Dr.ドミニオンの戦法

 1ラウンド目のみのボスと割り切って、「ウェポンブレイカー」などで後々にも残るだろうバッドステータスを与える事を主な役割として動かすと良い。ライフで攻めるか、搦め手で攻めるかは、1ラウンド目に戦場にいるPCとの相性で考えると良い。 2ラウンド目で行動できる機会がある場合、「アナライズ」か「拡散レーザービーム」のどちらかを使うとよいだろう。 「護衛部隊」は、1ラウンド目は自分と任意のヘンチマンに、2ラウンド目はコールドテイルとザ・ティーチャーへ使用しよう。「護衛部隊」の効果はドミニオンが戦闘不能になった以後も、そのラウンド中は継続する。「巻き込み(尾)」が発動した時、コールドテイルについていた護衛部隊のおかげでPC達も致命傷を防げた、なんてことが起きるかもしれない。

■強化サイレントサイエンス兵士

【エナジー】ライフ:15 サニティ:15 クレジット:15

【能力値・技能値】

 【肉体】10 射撃65% 【精神】10 【環境】10 科学40%

【移動適正】地上、水中


【パワー】

■人格矯正銃属性:攻撃 タイミング:行動 判定:射撃65%射程:1 目標:1体 代償:ターン10効果:目標は<運動>で判定を行う。この判定に失敗したとき、1d6点のショックを受ける。──サイレントサイエンスが開発したものを、ウィンターステイシスが回収。解析後、改造を加えた。
■人格矯正属性:攻撃 タイミング:行動 判定:なし射程:1 目標:1体 代償:なし効果:【人格矯正銃】で1点以上ショックを与えたときに使用できる。  目標は<運動>+30%か<意志>+30%で判定を行う。  この判定に失敗したとき、【混乱ポイント1点】を受ける。──人格が乗っ取られる!
※混乱ポイント…本来は精神のデスチャートにより発生するポイント。効果は精神のデスチャートを参照。

■強化サイレントサイエンス兵士の戦法

 1ラウンド目のプレッシャー係が主な役割だ。ショック攻撃をばらまきながら適宜攻撃していこう。 混乱ポイントが発生した場合、GMはそのPCに「ターンカウンタ21まで待機」を指示すると良い。

■ザ・ティーチャー(強化)

【エナジー】基本ルールブックと同じものを使用する

【能力値・技能値】基本ルールブックと同じものを使用する

【移動適正】基本ルールブックと同じものを使用する


【パワー】

■私刑執行属性:攻撃 タイミング:行動 判定:なし目標:1体 射程:3 代償:ターン6効果:目標は<心理>で判定を行う。 この判定に失敗したとき、目標は即座にライフ-4の状態となる。(デスチャートを適応すること)。 このパワーは1ラウンドに1度まで使用できる。──人体発火。あるいは…。
■レーザービーム(強化)属性:攻撃 タイミング:行動 判定:なし目標:1体 射程:2 代償:ターン10効果:目標は<運動>で判定を行う。 この判定に失敗したとき、目標は3d6点のライフを失う。──それは魔術か、科学か、能力か。その男の最初の姿(オリジン)は誰も知らない。
■毒ガス(強化)属性:攻撃 タイミング:行動 判定:科学120%目標:1エリア 射程:1 代償:ターン10効果:目標は<生存>で判定を行う。この判定に失敗したとき、1d6+4点のダメージと毒4を受ける。──巻き添えになる奴が出るかもしれないが、まあ、それはそれで。
■ありがとう、友よ属性:妨害 タイミング:特殊 判定:なし目標:自身+1体 射程:2 代償:なし効果:君がダメージを受けた時に使用できる。 ダメージを目標(味方へ限る)へと肩代わりさせる。 その際、目標が君とは違うエリアにいた時、君は目標とエリアを交換しても良い。──スルリと位置を入れ替えて、獣は嗤う。「ありがとう、友よ」

■ザ・ティーチャーの戦法

 特に難しいことは考えず、シンプルに使うと良い。PCのライフに余裕があるときは1ラウンドに一度「私刑執行」を使用しつつ、適宜ビームや毒ガスを使用していこう。 毒ガスは味方を巻き込むパワーだが、コールドテイルのライフ次第では「俺がNo.1だ!」を意図的に誘発させる手段として使用することも出来る。「ありがとう、友よ」の効果と合わせて、積極的にコールドテイルにダメージを担わせていくと良い。位置関係次第ではそのまま「巻き込み(尾)」の発動も狙えるはずだ。 1ラウンド目に戦場にいるPCの相性次第では、1ラウンド目は敢えて攻撃には参加せず、余裕ぶってエリア4から様子を眺めているだけなどとしても良い。

■コールドテイル(強化)

【エナジー】基本ルールブックと同じものを使用する

【能力値・技能値】基本ルールブックと同じものを使用する

【移動適正】基本ルールブックと同じものを使用する


【パワー】

■噛み付き属性:攻撃 タイミング:行動 判定:白兵77%射程:0 目標:1体 代償:ターン6効果:目標は<運動>-20%で判定を行う。 この判定に失敗したとき、2d6点のダメージと「BS:束縛」を受ける。──強靭な咢から放たれる重い一撃
■爪で切り裂く属性:攻撃 タイミング:特殊 判定:なし射程:0 目標:1体 代償:なし効果:君が目標に1点でもダメージを与えた時に使用できる。 目標は<運動>で判定を行う。 この判定に失敗した時、目標は2d6点のダメージを受ける。──隙を逃さぬ致命の追撃
■トカゲ走り属性:移動 タイミング:行動 判定:なし射程:なし 目標:自身 代償:ターン2効果:君は隣接するエリアへ移動する。──恐竜なのに。でも早い。
■恐竜怪人属性:永続 タイミング:特殊 判定:なし射程:なし 目標:自身 代償:なし効果:自身が受けるダメージにマイナス3、与えるダメージにプラス3点の補正を与える。──硬い鱗、鋭い爪、驚異的な身体能力。人と恐竜の融合体、それがこの男だ。
■巻き込み(尾)属性:妨害 タイミング:特殊 判定:なし射程:0 目標:1エリア 代償:クレジット2効果:自分がダメージを受けた時に使用できる。 君が受けたダメージと同じ値のダメージを、 同じエリアにいるキャラクター全員に与える。 このパワーは1シナリオに1度使用できる。 このパワーは2ラウンド目の間でしか使用できない。──コールドテイル様! お待ち下さいまだ我々が!(あるホットステンチ隊員の叫び)
■ティラノレッグ属性:攻撃 タイミング:特殊 判定:なし射程:特殊 目標:1エリア 代償:クレジット2効果:君がエリアを移動した時に使用できる。   移動先のキャラクターは1d6点のライフを失う。──コールドテイル様! 来ないで下さいまだ我々が!(あるホットステンチ隊員の叫び)
■喰らう属性:強化 タイミング:特殊 判定:なし射程:なし 目標:自身 代償:サニティ3+特殊(効果参照)効果:君が誰かを【戦闘不能】【死亡】させた時に使用できる。 君のすべてのエナジーの現在値を+10する(最大値は超えない)。 さらに以後、君が与えるダメージに+1d6点の修正を得る。 このパワーによりダメージが強化される度、 君の『属性:攻撃』のパワーの代償に『ターン2』が追加される。 これらの効果はすべて累積する。──踏みにじり、薙ぎ倒し、喰い千切り、そして強くなる。
■俺がNo.1だ!属性:強化 タイミング:特殊 判定:なし射程:なし 目標:自身 代償:サニティ10効果:君のライフが半分以下になった時に使用できる。 君の全ての能力値を+20%し、 君の『属性:攻撃』のパワーで与えるダメージを+2d6する。──超人を超える為の超人。強化人間(エンハンスド)はその為に生まれた。

■コールドテイルの戦法

 本シナリオ1の難敵となるよう設計した、実質のボスキャラクターだ。 「ティラノレッグ」「巻き込み(尾)」でヒーローへ回避不可のエリアダメージを与えながら、同エリアにいる(来る)ホットステンチ部隊を積極的に巻き添えにすることを狙って動こう。「ティラノレッグ」や「巻き込み(尾)」でヘンチマンが倒れた場合、「喰らう」の効果が発動し、攻撃力が上昇していく。仮に全てのホットステンチ隊員をコールドテイルが倒した場合、「噛み付く」と「爪で切り裂く」の効果はそれぞれ、ダメージは5d6+3×2(「俺がNo.1だ!」の効果が乗っていれば更にそれぞれ+2d6)、代償は「噛み付く:ターン12」「爪で切り裂く:ターン6」となる計算だ。ファクト最強部隊・隊長の名は伊達ではないと示してやれ。 反面、コールドテイルのサニティとクレジットは極めて低い。考えなしに「ティラノレッグ」を連発すると、あっという間に自滅してしまうので、GMは管理に気を付けること。PCがショック攻撃やスティグマ攻撃パワーを所持している場合、あっという間にカタがつくかもしれない。その時は潔くあきらめよう。

■ホットステンチ部隊

【エナジー】ライフ:10 サニティ:5 クレジット:5

【能力値・技能値】

 【肉体】20 運動35% 射撃70% 白兵70% 生存35% 【精神】20 意志40% 【環境】25 隠密40%

【移動適正】地上


【パワー】

■ボスに続け!属性:移動 タイミング:特殊 判定:運動70%射程:なし 目標:自身 代償:ライフ1効果:コールドテイルがエリアを移動したときに使用できる。 判定成功で、君はコールドテイルと同じエリアに移動する。──恐れ知らずの戦闘狂集団!
■アサルトライフル属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:射撃70%射程:1 目標:1体 代償:ターン10効果:1d6+4点のダメージを与える。──普通よりちょっと腕が良い。
■徹甲弾属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:射撃65%射程:1 目標:1体 代償:ターン10効果:1d6+2点のダメージを与える。 このダメージはパワーによって軽減・回避することができない。──あまねく装甲を貫くための弾。
■ダムダム弾属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:射撃65%射程:1 目標:1体 代償:ターン10効果:目標は<運動>-10%で回避を行う。このパワーで1点でもダメージを受けたキャラクターは、このイベントの間、いかなるパワーによってもエナジーを回復することができない。──国際紛争での使用を禁じられている非人道兵器・対人用拡張弾頭。
■戦闘部隊ホットステンチ属性:永続 タイミング:永続 判定:なし射程:なし 目標:自身 代償:なし効果:コールドテイルと同じエリアにいるとき、 君の『属性:攻撃』のパワーの代償ターンが2ターン軽減される。──ファクト最強戦闘部隊。隊長との連携で真価を発揮する。

■ホットステンチ部隊の戦法

 概ねいつものヘンチマンだが、コールドテイルのブースターとしての役割と、それを明示することによるプレッシャー係が主な役割だ。高い防御力を持っていたり、厄介な回復力を持つヒーローがいる時のプレッシャー係としても使えるだろう。 「ボスに続け!」の効果のあとに「ティラノレッグ」が発動するか、「ティラノレッグ」のあとに「ボスに続け!」が発動するのかは、GMが自由に解釈してよい。どちらも一長一短だ。

5.余韻フェイズ

【戦闘終了イベント:継承】

【状況】

 ヒーロー達の攻撃を受け、ザ・ティーチャーの体がふらりと傾く。「うーん、残念だ。この体はもうダメらしい」「でも、一人で死ぬのは寂しいからさ」「……次の容れ物に、移ろうか」 そう言ったザ・ティーチャーの視線が向いた先にいたのは……人格矯正銃の支配下から逃れ、正気を取り戻し、膝を着くドクター・ドミニオン! ザ・ティーチャーはドミニオンへと【記憶の継承】を行おうとする。しかしそのパワーが発動する直前、ザ・ティーチャーの体を一陣の風が吹き飛ばした。 風と共に姿を現したのはビアシャラだ。彼女はテックソードを構えると、吹き飛ばされたザ・ティーチャーの首めがけて刃を振るう…! この一瞬。 君たちはどう動く、ヒーロー?

【解説】

 ティーチャーの最後の悪あがきだ。 ビアシャラと共にティーチャーを倒す(殺す)・あるいはビアシャラがティーチャーを仕留めるのを見届けるという選択をする場合、『記憶の継承』は発動しないままティーチャーは倒れるとしても良い。 あるいは逆に『記憶の継承』を理由にビアシャラの行為を止めても良い。勿論、ヒーローの正義として止めても良いだろう。 ティーチャーは自ら原子炉に落ちていくかもしれないし、あきらめて捕まるかもしれない。あるいはやはり、この場からうまく逃げおおせてしまうかもしれない。 卓を囲むGMとPLが一番格好いいと思える幕引きを選ぶと良いだろう。

【シナリオの結末(一例)】

舞台:サイレントサイエンス登場キャラクター:全員

【状況1】

 サイレントサイエンスから、フォーセイクン・ファクトリーの脅威は去った。 ビアシャラの後を追い、正気のサイレントサイエンスの構成員たちもまた現場へと合流する。構成員たちは現場のヒーローとドクター・ドミニオンの姿を見比べ、指示を求めるようにビアシャラを見る。 ビアシャラはヒーロー達とドミニオンの姿を複雑そうな表情で見比べた後、ドミニオンを示して部下へ指示を飛ばした。「罪人だ。追って沙汰を下す。連れていけ」 ドミニオンはその言葉に何も言わぬまま、兵たちに連れられ戦場を去る。
 次いで、ビアシャラはヒーロー達へ視線を向ける。一つ咳払いをし、姿勢と表情を正すと、彼女は『国家の代表として』君たちへと応じた。「遠路よりのご来賓、誠にお疲れ様でございました。 貴君らのご尽力は、我が国の臨時外交官より詳細を承っております。 援軍要請に応じて下さった事、国を代表し御礼申し上げます」「つきましては、皆様を地上へと責任を持って送迎致しましょう。 数日の日数を要しますので、しばしの間、 サイレントサイエンスでの逗留をお楽しみ下さい」

【状況2】

 傭兵として尽力したバッシュザール達は、ビアシャラとディノグリフの間で適切な取引が行われた末、報酬を受け取って帰還していく。「ディノグリフのああいう姿を久々に見れた、気持ちの良い戦いだったよ」と、ウーフ・アングーマ三世はヒーロー達へ感謝を述べながら去っていった。 かくして、君たちはしばしの間、復興作業が続けられるサイレントサイエンスに逗留する。異なる文化、異なる価値観の中に生きる海底都市、あるいは潜水艦国家で、君たちはどのような時を過ごしただろうか。 間もなく地上へ到着する。そうしたある日、ネムロンが君たちを訪れた。「ビアシャラ様の使いで参りました、りんじとくべつがいこーかんのネムロンです」「ビアシャラ様がお呼びです、こちらへどうぞ」
 ネムロンに連れられた先は、応接室のような部屋だった。 そこには既にビアシャラとドミニオンの姿がある。ドミニオンの両腕には手錠がかけられていた。 ネムロンが部屋を去るのを見届け、ビアシャラは口を開いた。「人払いは済ませた。この部屋での会話を知るのは、アタシとこの男、そしてアンタ達だけだ」「それで? 要求は何だい、ヒーロー」
(君たちはここで、サイレントサイエンスの今後について自由に提案をして良い。GMはそれを自由に採用して良い。サイレントサイエンスは海賊国家を辞めるかもしれないし、これまでと変わらぬ形を保ち続けるかもしれない)(話の落とし所について迷うのであれば、ドミニオンが自ら「ヒーローとサイレントサイエンスの共闘により脱獄犯ドクター・ドミニオンを捕らえたと発表し、余をロックウェイブ島へと送ればよい。元の鞘に収まるだけで国体が保たれるならば安いものよ」と提案するなどしてもよい)

【状況3】

 かくして君たちはサイレントサイエンスを救った。 救われたサイレントサイエンスと、救い出した君たちがどのような関係を迎えたのか。 それは君たちが描くこれからの物語だ。

■成長点

初期グリット:5点クエリーグリット:4点リマークグリット:3点--------------------------------------合計:12点

6.シナリオ情報

【参考資料:GM向けシナリオ補足】

 次ページより、GM向けのシナリオ補足情報を記す。 このシナリオはもともと、サイレントサイエンス絡みのキャンペーンの最終話として作成したものだ。そのため、キャラクター間の関係性や事前情報、世界観情報などが、各種ルールブックや「強襲!ロックウェイブ島」だけでは分かりにくい状態となっている。 極力シナリオを読み上げるだけでも十分なように作成したが、不明点などがある場合、GMはこの項目を参考にしてもいいし、自分で解釈し設定をつけても良い。 参考資料として、各組織・各NPCの思惑や考えについて記す。非常に長い為、あくまでGMが動かす際の参考、あるいは単なる読み物程度の認識で利用して貰えれば幸いだ。

■フォーセイクン・ファクトリーの目的

 ファクトはドクター・ドミニオンという国家の柱が消えたサイレントサイエンスを、混乱に乗じて乗っ取り、自分たちの勢力下へと置こうとしている。 サイレントサイエンスの最大の強みは、潜水艦そのものを国家とするが故の「国家規模の要塞そのものを、超長距離移動が可能な潜水母艦として運用可能」という点にある。即ち海洋上の戦力拠点として、この上ない優位性を持ち得るのだ。しかも超人科学国家の名が示す通り、兵士となり得る国民の多くは超人種であり、ドクター・ドミニオン治世の時代に築き上げた独自に発展した科学技術も有し、挙句国家間政争に利用できる核兵器も所持している。要は──実のところ、これはファクトに限った話ではないのだが──彼らは非常に魅力的な「餌」なのだ。 しかし、その戦力はファクトであっても侮り難い。何より驚異なのは、サイレントサイエンスが海を知り尽くしているという点にある。大戦力を投入してサイレントサイエンスを攻撃しようとも、国ごと(そう、彼らにはそれができる!)深海へと逃れられてしまえば、いかにファクトといえども追襲は困難だ。 そのため、ファクトはロックウェイブ島に収監されている、ドクター・ドミニオンへと目をつけた。かつては国家の英雄であった男を洗脳し、利用して、表向きは帰還したドクター・ドミニオンの治世として、その裏でドミニオンそのものを操ることで、サイレントサイエンスを内側から支配しようとしたのである(ゆくゆくはドミニオン自らの政策として、ファクトとの連携を進めさせ、支配権を得ていく計画であった)。 しかしそうしたファクトの企みを看破し、刃を向けた者がいた。それがビアシャラだ。

■このシナリオに於けるサイレントサイエンスの国内状況

 ファクトの襲撃が発生するより以前から、サイレントサイエンスの国内環境は円満とは言い難かった。 ドクター・ドミニオン治世下において、彼らの労働時間は一日16時間、国民平均日給は360円。卓越した科学技術と、多くの労働力(その多くが外部から拉致し洗脳した者たちだ)、そして何より国のカリスマたるドクター・ドミニオンの頭脳を以て、辛うじて国家運営が為されていた、いわば『貧しい国』だったからだ。基より国としての歴史が浅い彼らは常に自転車操業状態だったと言って良いだろう。だからこそ国家規模でのヴィラン行為に手を染めたともいえる。 そしてロックウェイブ強襲失敗事件により、ドクター・ドミニオンは捕らえられ、その治世は終わる。国家を支える屋台骨が一夜にして消滅したサイレントサイエンスを待っていたのは、逃げ場のない海底、潜水艦という閉鎖空間内での国家的混乱であった。 あわや国民諸共に国家消滅、そうした危機に終止符を打ったのがビアシャラだ。 彼女は(ここにもいくらかの混乱と政争があったことは想像に難くないが)二代目国家元首を襲名し、混乱する国内状況の改善に努めた。労働環境を整え、独裁者頼りと化していた経済状況を整え、多くの優秀な人材を登用した。それでも尚足りない財政を、海賊行為によって補った。結局のところ、ビアシャラもヴィラン行為から手を引きはしなかった(裏を返せば、ドミニオンの逮捕はサイレントサイエンスが正常な国家運営へと戻るチャンスでもあったのだが、結局のところ、ビアシャラはそれをしなかった。『出来なかった』からなのか、『選ばなかった』のかは定かではない)。 かくして、サイレントサイエンスは海賊国家へと形を変え、ビアシャラ統治のもとで新生した。 海賊行為を重ねながらも、徐々に安定していく国内。安定を見せゆく中で、やがて二つの意見がまことしやかに囁かれ始める。一つは「ロックウェイブ島へ再び強襲をかけ、獄中のドクター・ドミニオンを奪還せん」とする声。もう一つは「ドクター・ドミニオンには見切りをつけ、ビアシャラ治世のもとでこの国を維新すべし」という声だ。労働環境の改善をもたらしたビアシャラ統治下のサイレントサイエンスにおいて、苦しい生活であったドクター・ドミニオン治世下へと戻りたいと願う声は少なかったが、かつての国家の英雄の現状を惜しむ声は存外に根強かった。 それはゆくゆくは自然消滅していくだろう、小さな意見の相違だった。だがそうした二つの国民感情が水面下で騒めいていた頃、当のドクター・ドミニオンが自ら監獄を脱し、サイレントサイエンスへと英雄的帰還を果たしたのである。 そこから先は、このシナリオ内で語られる通りだ。

■人格矯正銃について

 「強襲! ロックウェイブ島」に於いて、サイレントサイエンスが所持し使用していた兵器。詳細は不明だが、撃たれた相手を洗脳し、特定人物にとって都合の良い精神状態へと変えてしまう強力な洗脳兵器だ。かつてのサイレントサイエンスは、これを用いて外部の科学者たちを洗脳・拉致し、国内の労働力としていた。 ドクター・ドミニオン逮捕と同時にこの兵器も鹵獲され、詳細が解明されるに至る。ロックウェイブ島にて適切に保管されていたはずのその兵器の情報を、いかような手段を用いてかフォーセイクン・ファクトリーが入手。ウィンターステイシスの手によって改造され、サイレントサイエンスの科学者たちにすら、解除困難な別システムへと変えられてしまった。 ファクトはこの銃を用いて、ドミニオンやサイレントサイエンスの兵士たちを洗脳し、内戦を引き起こした。

■サイレントサイエンスのキャラクターの立ち位置

□ビアシャラ

 ビアシャラは帰還したドクター・ドミニオンが正常な状態ではないということにいち早く気付いた。それが親子の絆が故であったのか、あるいは彼女の超人種としての力であったのかは不明だが、それ故に彼女は声を上げた。だが、こと頭脳戦・政治戦に於いては、ドクター・ドミニオンの方が遥かに上手であった。彼女は瞬く間に「権力惜しさに国家の英雄に盾突き、民衆に不要な混乱をもたらす逆賊」としての立場に追いやられてしまう。 あまりにも恐るべき速度で状況は整えられた。ビアシャラがドミニオンの背後にファクトが居ると確証を得た時には、すでに国内の対立構造は整えられてしまっていた。かくして彼女を仰ぐ新生派と、旧ドミニオン体制を支持する旧態派の内戦が、逃げ場のない潜水艦国家の中で幕を開けた。 ビアシャラの個人的な感情を言えば、父親であるドミニオンをロックウェイブから奪還したいという気持ちが無かった訳ではない。しかしサイレントサイエンスは、ドクター・ドミニオンというただ一人の存在を切り捨て、多くの民によって統治される国へと新しく生まれ変わらなければならない、この国の民ならばそれが可能である、ビアシャラはそう考えている。

□ミセス・トキシック

 旧ドミニオン体制下に於いて国家元首の秘書を務めていたトキシックは、ドミニオンの政治能力の高さを良く理解している。彼女はビアシャラによる新生サイレントサイエンスを肯定しているが、ビアシャラの若さを危惧してもいる。その為、彼女は当初、内心では「ドミニオン奪還派」であった。 だからこそ、トキシックはドミニオンが帰還した時、彼の自力での帰還に違和感を抱かなかったし、非常に喜んだ。その人としての感情が彼女の冷静な目を曇らせ、事態に気付くのに遅れる一因となった。ビアシャラによって真相を知った彼女はそのことを心底悔い、何があろうとビアシャラの味方で居続けることを決めた。ヒーローの介入に対し、内心ではヒーローを利用するのが最良の手だとは分かっているが、最も渋い顔をするのはその為だ。

□ザ・スペキュラー

 デュカリオン内にてビアシャラvsドミニオンの構図が出来上がり、更にその背後にファクトの影があることを理解した段階で、スペキュラーはこの件は自分たちだけでは手に余ると考えた。ビアシャラがドミニオン派閥を上手く打倒出来たとしても、内戦により疲弊したサイレントサイエンスにファクトの新戦力が投入されれば、あとは破滅を迎えるだけ。対立抗争の形に持ち込まれた時点で、既に詰みだと考えたのである。 その為、スペキュラーは外部戦力を頼るべきであると考えた。彼は独断でネムロンをデュカリオンから離脱させ、地上を目指すよう告げた。サイレントサイエンスの味方になってくれるかは怪しくとも、少なくともファクトと対立してくれるような勢力を求め、スペキュラーはネムロンへ「ヒーロー」を頼るよう告げて送り出した。よく言えば視野が広く、悪く言えば賭けに出たのだ。 国内に残ったスペキュラーはビアシャラ派閥につき、持前の高い戦闘力で以て対ドミニオン派との戦いで大いに活躍したが、彼の本質は兵士でも政治家でもなくあくまで学者。戦闘のプロであるホットステンチ隊及びコールドテイルが投入された以後は、為す術なく惨敗を喫し、瀕死の重傷を負い、通信は途絶した。

□ネムロン

 ネムロンは形は違えど国が滅ぶということがどういうことかを知っている。生まれ故郷のグロン滅亡の日の記憶は彼の中にトラウマとして未だ色濃く残っている。 ネムロンはサイレントサイエンスという第二の故郷が、グロンと同じ道を辿ることを恐れており、それを避ける為ならば何でもする覚悟でいる。 スペキュラーによって逃がされたネムロンは、トキシックが何を言ったとしても、ヒーローの力を借りるべきだという主張を曲げない。サイレントサイエンスという国にとってどういう功罪があろうとも、それが最も、ビアシャラとドミニオンが『二人とも』生きて助かる可能性の高い方法だと考えている為だ。 ドミニオンをロックウィブから奪還すべきか否かに関しては、ネムロンはビアシャラと概ね同じ意見だ。しかし幼い心の中で、助けに行かないせいでドミニオンに嫌われたら嫌だなと不安に思ってもいた。 PC達をサイレントサイエンスへと導くナビゲーターとしての役割を持ったNPCだ。

□スタデンジャー

 ヘアッ

□ドクター・ドミニオン

 本シナリオに於いては大半が洗脳状況下にある為、表出する機会は少ないだろうが、念のためにドクター・ドミニオン本人の考えの方向性を記す。 ドクター・ドミニオンは「ロックウェイブ強襲失敗」を受け、投獄された自身の現状に憤りを持ち、機会さえあれば脱獄してやろうと虎視眈々と狙ってはいる。 しかし彼の冷静な思考の内では、サイレントサイエンスの手によるロックウェイブ島再襲撃は行われるべきではないと考えている。仮にドミニオンとビアシャラの立ち位置が逆であったなら、ドミニオンはそれを選ばないだろう。 永世中立区域であるロックウェイブ島への襲撃と拉致・破壊活動が、国際法に於いて明確な罪に問われるものであることを、政治家としてのドミニオンは正しく理解している。それ故に、「サイレントサイエンスという国家が、ドクター・ドミニオンという罪人を肯定するべきではない」と考えている為だ。仮に再襲撃をかけ、再び失敗したのであれば、サイレントサイエンスという国家はドクター・ドミニオン無き状態で完全な国際社会での孤立を迎えることになるだろう。 彼は自身が国に於いてどれだけの役割を果たしていたかを理解しているし、自身無きサイレントサイエンスが最早大きく形を変えているだろうとも想像がついている。その上で、自身無きサイレントサイエンスが国際社会で完全に孤立し、戦争に至った場合、為す術なく大国に制圧されるだけだと考えているのだ。 実際のところ、その自認は誤りではないが、完全な正解とは言えない。独裁者であったドミニオン本人は、サイレントサイレンスには自分が面倒をみてやらなければならないのだと保護者や所有者めいた感情を抱いているが、別にドミニオンがいても100%うまく回るわけではないし、彼がいなくてもビアシャラが結構上手くやってるのは、我々が知る通り。 国には帰りたいが、迎えに来て欲しくはない。なので、ドミニオンはただ機を伺い、自力で脱獄し、ひっそりと国に帰ることを望んでいる。そんな折に、彼はフォーセイクン・ファクトリーの手によって「誘拐」された。 勘違いしないでほしいのは、それはドミニオンにとっても大いに嬉しくない出来事だったということだ。一度ヤクザの手を借りてしまえば骨まで搾り取られるものだと、賢い彼が知らない筈がないのだし、彼はそもそもフォーセイクン・ファクトリーが大嫌いらしいので。