天秤は揺れる
天秤は揺れる
━━「剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力」(ルドルフ・フォン・イェーリンク)
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【PC1】
君は、君がかつて捕まえた大量殺人犯、ヴィラン『インペイン』が刑務所から脱獄したという報を聞く。 彼はかつてヒーローだったが、ある日を境に人々に絶望し、無辜の市民を殺戮。ヴィランへと変わってしまった。 かつて肩を並べた者として、これ以上彼に非道を働かせる訳にはいかない。君はインペインを追っている。【PC2】
市民として生活する君の自宅の隣に、テスター・スミスという男が引っ越してきた。 スミスは少し厳しい顔と雰囲気をした大柄な男だが、根は穏やかでやや小心者だ。君たちは良い隣人付き合いを続けてきた。 そんなある時、スミスがもじもじしながら君にこんなことを相談してきた。「なあ、えっと、笑わないでくれよ? あのさ、女の子って、何をもらったら喜ぶかな…?」 君は、スミスが先週から、表通りの花屋で働く少女のもとに足繁く通っていることを知っている。 君はこの微笑ましい相談に乗ってやることにした。【PC3】
夜道を歩いていた君は、いきなり背後から走ってきた少女に手を取られる。「やだ、ボブ! 久しぶり、元気だった? 私よ、覚えてる?」 君はそんな女の子に見覚えはない。しかし駆け寄ってきた彼女が一瞬、小さな声で口走った言葉を理解することはできた。「追われてるの、助けて…!」 視線だけを背後に向ければ、確かにフードを目深に被った不審な男が自分たちの後をつけている。 君は彼女を助けてやることにした。【イベント1:脱走】
【状況1】
夜の街を睥睨する高層ビルの屋上。 セカンド・カラミティ事件を経て、世界が危機に瀕していても、街を行き来する車とネオンの光は変わらない。無辜の旧人類は多くが無関係の日々を生きている。 その屋上にインペインの姿がある。PC1は彼を屋上に追い詰めたのだ。「……よォ、久しぶりだなPC1。 元気にしてたか? はは、見ろよ。平和なもんだ、誰もこれから悲劇が起きなんて思っちゃいない。 この平和を守るために誰が必死こいてるのか分かってるんだか。虚しくなることはないか?」(PC1にロールで反論させても良い)【状況2】
しばし君と会話したのち、インペインは街を見下ろしながらポツリと呟く。「……彼女はそういうやつらに殺された。俺がヒーローなんかやってたから、俺のせいで」 PC1は事前にインペインの過去を知っていてもいいし知らなくてもいい。 インペインは自分自身に言い聞かせるように話を続ける。「奴らは自分のために彼女を売った。なら俺は、俺のために奴らを売る。それだけだ!」 インペインが叫んだ瞬間、見下ろしていた道路が突然爆発する。行き来していた車が爆発に巻き込まれ、地上から人々の悲鳴が上がり始める。さらに続けざま、PC1たちが立っていたビルも爆発する。 君は追い詰めたインペインから目を離してなどいなかった。インペインは何もしていないし、そもそも脱獄して間がないインペインにこれほど大規模の爆薬を用意できるはずがない。 つまりこの爆発を引き起こしている、裏で手引きをしている別の輩がいると言うことだ。 インペインは爆煙に飲まれながら虚ろに告げる。「俺が選んだことなんだ」 そうして、ビルの屋上から地上へと落下していく。君が手を伸ばしていたとしても、その指先が触れるより先に彼の体は落下し、君の背後で一際大きな爆発が起きる…。【エンドチェック】
□インペインとPC1が会話をした。□PC1がインペインの背後に何者かが存在することを悟った。【解説】
堕ちたヒーローにしてこのシナリオのメインヴィラン・インペインと、PC1のはじまりのシーン。GMは事前にインペインとPC1がかつてどのような関係であったか希望を聞いた上でこのシーンを演出すると良いだろう。旧知の仲であればPC1はインペインの過去をしっているかもしれないし、あるいはインペインのことをヴィランとしてしか見ていない間柄かもしれない。 PC1が事前にインペインの過去の詳細を知らないという設定にした場合、PC1は『深夜の取引現場』で初めて彼の過去のことを知ることになるはずだ。堕ちたヒーローに如何に接するかという点も、このシナリオのテーマの一つである。【イベント2:隣人】
【状況1】
自宅でひとときの安らぎを甘受しているPC2の家のドアホンが鳴る。 出てみれば、贈答用の菓子袋を持った大柄な男がおどおどと立っていた。「あ、ああ、ええと、その、初めまして。 隣に引越してきた、テスター・スミスと言います。 よろしくお願いします」 引越しの挨拶として、スミスと名乗った男は君に袋を差し出した。【状況2】
あれから一ヶ月が経過し、PC2はスミスと良好な近所づきあいを続けている。 そんなある日、君は表通りの花屋で、従業員の若い少女とスミスが楽しそうにお喋りをしている姿を目撃する。何を話しているのかまでは分からなかったが、随分と楽しそうに見えた。 その翌日のことだ。PC2は自宅玄関の前で、菓子折りを抱え、迷うようにウロウロしているスミスを見つける。声をかければ、スミスは申し訳なさそうな顔をしながらこう切り出した。「すまない、その……相談に乗って欲しいことがあるんだ。 ええと、こういうことを訊ける人は、君しか思いつかなくて……」【エンドチェック】
□PC2がテスター・スミスと知り合いになった。□PC2がテスター・スミスの相談に応じ、贈り物を提案した。【解説】
PC2が隣人テスター・スミスと知り合い、彼の微笑ましい相談に乗るシーンとなる。 テスター・スミスの正体はフォーセイクン・ファクトリーの元構成員カプシドだが、この時点ではPC2がその真実を知る由はない。転じて、アリアとスミスの関係もここでは細かく伝える必要はない。尋ねられた場合、スミスに「大切な人なんだ」などと照れくさそうに笑わせてごまかしておけばいいだろう。 このイベントで、PC2に実際にスミスへ具体的な贈り物の提案をしてもらえば、このあとのシーンへつなげやすくなる。 贈り物はなんでもいいし、PC2が本気で親身になる必要も特にない。面倒な隣人を追い払うために適当に用意された答えでも、スミスは真剣に参考にし、勝手に納得して礼を言って去っていくからだ。 正体を明らかにしていないヒーローの場合は、この自宅とは数あるセーフハウスの中の一つに過ぎないかもしれない。【イベント3:救助】
【状況1】
PC3は人気のない夜道を進む。 パトロールの帰りだったのかもしれないし、個人的な用事を終えた帰り道かもしれない。 そんな君の背後から駆け寄る足音があった。振り返れば、君の手を誰かが掴んだ。「ボブじゃない! 久しぶり、元気だった?!」 手を掴んだのは赤毛の少女だった。少女は嬉しそうにPC3に語りかけてくる。 しかし君はボブではない(おそらく)し、彼女に見覚えもない。 困惑する君が何かを口にするよりも先に、少女は小声で囁いた。「お願い、話を合わせて。追われてるの、助けて…!」 少女の背後を見れば、少し離れた電柱の陰に隠れるように、フードを目深に被った男がこちらを伺っているのが目に入った。 君は彼女を助けてやることにした。さて、どう助けてあげるべきだろう?【状況2】
君はフードの男を追い払うことに(あるいはフードの男から逃げ切ることに)成功した。 君に助けられた少女は、キラキラと輝いた目で礼を言う。「ありがとう! まるでヒーローみたいだわ!」 PCはここで自らの正体を明かしてもいいし、明かさなくても良い。「私、アリア・ウィッチ。 最近夜道で視線を感じることが多かったんだけど、まさかストーカーだなんて……。 今でも信じられないわ。誰でも被害者になるって本当ね」「今日は助けてくれてありがとう。 そうだ、よければ今度お礼をさせて! 私、表通りの『フラワー・セントラル』って花屋で働いてるの。【エンドチェック】
□PC3がアリア・ウィッチを助けた。□PC3がアリア・ウィッチの礼を受けることにした。【解説】
アリア・ウィッチが偶然PC3へ助けを求め、PC3と知り合うイベント。シーンタイミングは人気のない夜中とするのが好ましい。 このシーンでアリアを追いかけているフードの男の正体はインペインだが、その素顔や正体を示す前に、「状況1」の適切なタイミングでフードの男はその場から逃げていくため、このシーンで正体は明らかにはならないことに注意。 アリアの質問に、実際にPC3に好きな花を答えてもらえれば、その後のイベントに繋げやすいだろう。 PC3がヒーローとしての姿をすでに見せている場合は、「まるでヒーローみたいだわ!」のセリフを「さすがヒーローだわ!」などに変更する。【チャレンジ1:贈り物の襲撃】
【状況1:PC2】
PC2はテスター・スミスの買い物に付き合い(あるいは付き合わされ、あるいは偶然出会い)彼と共に表通りの広場を歩いている。スミスはPC2に礼を言う。「本当にありがとう。この街のことは、まだ詳しく分からなくて、とにかく、すごく助かったよ」 話す最中も、スミスの視線はちらりと花屋『フラワー・セントラル』に向けられている。 彼はたっぷり悩むそぶりを見せた後、思い切ったようにPC2へ切り出す。「ええと、君には話しておいた方がいいかな。その、俺と彼女、つまりアリアは……」(このタイミングで「状況1:PC3」へ移る)【状況1:PC3】
PC3は花屋『フラワー・セントラル』を訪れている。 アリアからの礼を受け取るためでもいいし、近くを通りかかったからでもいい。 アリアはPC3を見ると大喜びで歓迎する。「ああ、良かった、来てくれた! ちゃんと(PC3の好きな花)を用意して待ってたのよ」 フラワー・セントラルは老齢の夫婦が営む花屋だ。アリア以外に他の従業員はいない。 二階は居住スペースになっているらしく、階段を降りてきた老婆がアリアへ声をかける。「アリアちゃん、他に荷物はあるかい?」「やだ、メイおばさん。自分でやるわ、休んでていいのよ」「やだねえ。ずっと待ってた日だろう? 私だって嬉しいのさ」 そう言って老婆は笑いながら別の部屋へと行ってしまう。アリアは照れ臭そうにPC3へ事情を説明する。「すみません、いきなり。えっと、私、ここに住み込みで働いてたんですけど、近々引越しが決まって…」(このタイミングで「状況1:PC1」へ移る)【状況1:PC1】
PC1はインペインの足取りを追い、目撃情報の通報があった表通りの広場へとやってきている。 様々な店が立ち並び、多くの人々で平和に賑わう広間で、君はインペインを探す。 そうして君は、人混みを裂くように進んでいくフードの男──インペインを見つける。 インペインを捕まえるため、君が彼の元へと進んだとき、君はインペインの耳にイヤホンが付いていること、そして彼が『誰かに伝えるように』こんな言葉を口にしたのを耳にした。「こちらインペイン。『カプシド』を発見した」(このタイミングで「状況2」へ移る)【状況2】
次の瞬間、広場の噴水に仕掛けられていた爆弾が爆発する。 突然の爆発に人々は悲鳴をあげて逃げ惑い、その先々で別の爆弾が爆発を始める。 PC1はインペインへ攻撃を仕掛けてもいいし、逃げ惑う市民たちを助けてもいい。 PC2はテスター・スミスを守ってもいいし、逃げ惑う市民たちを助けてもいい。 PC3はフラワー・セントラルの人々を守ってもいいし、逃げ惑う市民たちを助けてもいい。【解説】
PCたちが合流し、テスター・スミスの過去を知るシーン。これまで仲睦まじく過ごしていた相手がヴィランだった、しかしそのヴィランには彼を慕う一般人の少女がいて、そのヴィランに銃を突きつけるのは堕ちたヒーロー、というシナリオの全体構図を示すイベントでもある。 状況1では、スミスは自分とアリアの関係、転じて自分の過去をPC2へ切り出そうとしている。残念ながらそれよりも早くイベントはすすむ。 このイベントの最中か終わりで、PC同士の合流ロールや自己紹介のタイミングを挟むと良いだろう。 カプシドとアリアに詳しい事情を聞こうとする場合は、【クエリーイベント1『罪の秤』】へ移る。【クエリー1:罪の秤】
【状況1】
襲撃によって破壊された街は混乱しており、修復と救助活動が進められている。傷ついた花屋『フラワー・セントラル』を修復しながら、アリアとカプシドは自分たちのことをPCへ説明する。【状況2】
「カプシドはね、お父さんとお母さんを殺してくれたの。 それで……私を拾ってくれた。 短い間だったけど、楽しかった。生まれて初めて、『楽しい』って気持ちが分かった時だった。 私を拾ってから、彼は悩んでた。それで、ある日、私に言ったの。 『刑務所に行く』って。『人生をやり直したい』って。 だから私は彼が出てくるのをずっといい子で待ってたのよ。ようやく、また会えた……私の大切な人」【エンドチェック】
□PCがアリアとカプシドの過去を知った□グリットを1点獲得した【解説】
PCたちがカプシドとアリアの関係を具体的に知るシーンであり、『罪の償い』への考えを問われるシーンである。 カプシドがアリアを助けた最初の理由は気まぐれや同情だったかもしれない。しかしアリアが「助けられた」と感じたのは本当だし、現在のカプシドが人生を清算しようとしているのも本当だ。 反面、彼らの言葉はある種の『言い訳』でもある。法的には彼の罪は償われたとみなされているが、被害者が許せるかどうかは別問題だし、カプシド自身が過去に大勢の人々の人生を狂わせた事実も変わらない。しかし、法という明確な基準を十全に満たしたことも変わらない。 故に、ヒーローがカプシドを許す/許さない、どちらの選択をしてもそれは誤りではない。 ヒーローが許すと選択すれば、アリアは心底安堵し、涙を堪えながら何度も何度も礼を言うだろう。しかしカプシドの顔は晴れない。 ヒーローが許さないと選択すれば、アリアは反論しようとするが、カプシド自身がそれを遮り、どこか清々しい顔で「君は正しい」とPCを肯定し礼を言う。【クエリー2:深夜の取引現場】
【状況1】
PC1はインペインを追って郊外の廃病院へとやってくる。 インペインは何者かと取引をしているようだ。PC1は物陰に隠れてそのやりとりを伺う。 インペインの前に立っているのは、構成員を従えたファクトのボス、ザ・ティーチャーだった。【状況2】
「そうだ、俺の脱獄の手引きをしたのはファクトだ。 ……奴ら、『出してやる代わりに、カプシドという男を殺せ』ときた。 『やり方は好きにしろ』ともね。理由? 知るかよ」「だから俺は、とにかく大勢の人間を巻き込みながらカプシドを殺すことにした。 関係あろうがなかろうが関係ない。とにかく、誰も彼もを苦しめて殺す。 俺の目的はそっちだ。カプシド殺しはそのついでだよ」【エンドチェック】
□PCがインペインとファクトの繋がりを知った□グリットを1点獲得した【解説】
PCがインペインとファクトの関係、そしてインペインの過去を改めて知るシーンとなる。PC1が姿を現しても表さなくても、インペインは一方的に話と問いかけを行う。彼自身、答えを求めているからかもしれない。 イベントの後、インペインは演出としてPC1と戦うかもしれないが、最終的には再び姿を眩ましてしまう。【クエリー3:天秤の傾き】
【状況1】
PC2の家のドアをノックする者がいる。それは息を切らしたアリアだった。彼女は取り乱しながら縋る。「助けて、カプシドが連れて行かれちゃったの!」 アリアと共に自宅へ帰ろうとしてたカプシドの前に謎の車が止まり、瞬く間に彼を誘拐してしまったのだという。「お金が必要なら払います、出来ることなら何でもします! だからお願い、彼を助けて…!」 元ヴィランという経歴がある以上、その誘拐は彼の自業自得かもしれない。 君の出した答えは…。【状況2】
PC2はカプシドの足取りを追い、不審な車が港町の使われていないコンテナに向かったことを掴む。 ヒーローが現場に到着すると、そこにはコンテナを前にして立ち尽くすカプシドと、カプシドの傍に立つインペイン、そしてその前に『中の見えないコンテナ』が置かれている。「なんだ、来たのかヒーロー。おたくもしつこいね……まったく良いタイミングだ。ちょうど、取引を持ちかけていた所でね」 インペインはヒーローたちを制しながら、カプシドへ銃を突きつけながら告げる。カプシドの目の前には何かのスイッチが置かれている。「死にたくないなら簡単だ。そのスイッチを押せばいい。そうすれば顔も名前も知らない赤の他人約100人が詰まったコンテナの中に、お前が過去に作った薬が充満するが、お前は無傷で家に帰れる。 簡単だろ? お前だってよくやってたはずだ。 それが嫌なら、お前はここで死ぬ。俺が殺す。さあ、カウントダウンだ。5、4、3……」【状況3−1(カプシドを救出した場合)】
「状況2」でカプシドの救出を選択した場合、インペインは予想どおり予備のスイッチを押し、コンテナの中から人々の絶叫が聞こえ始める。インペインはヒーローとカプシドを見、嘲笑するように鼻で笑うとその場を去ってしまう。 100人の民間人達は、急ぎ救出を行えば、奇形と成り果てながらも命だけは永らえさせる。しかし彼らは皆、体の形がおぞましく変形し、エンハンスドとなってしまっている。それはカプシドの毒がもたらした副作用だった。【状況3−2(民間人を救出した場合)】
「状況2」で民間人の救出を選択した場合、インペインはつまらなさそうにカプシドへ引き金を引く。撃たれる刹那、カプシドはPC達へ感謝するように笑う。その次の瞬間、カプシドはインペインの凶弾に倒れる。 カプシドを殺したインペインは、カプシドの亡骸を回収し、その場を去っていく。 助けられた民間人はヒーローを讃え感謝する。【エンドチェック】
□PCがカプシドか民間人のどちらかを救出した□グリッドを1点獲得した【解説】
カプシドと民間人、どちらの救出を優先するかというクエリーイベントだ。どちらを選んでも誤りではなく、そこに正解は存在しない。 「状況3−1」に至った場合、カプシド自身が自分の能力を使って解毒剤を作り出そうと努めてもよい。だがその行動の提案はPC側からさせるべきであり、PC側からの提案がない限りはカプシドはひたすら謝罪と懺悔、動揺を繰り返す心の弱い存在であるべきだ。主人公はあくまでPC達である。この状況の民間人達は法治すれば全員死亡する。 「状況3−2」に至った場合、実際にはカプシドは死亡しておらず、虫の息だがギリギリで生きている。インペインがカプシドを回収したのはそのためだ。だが、プレイヤーたちにはこの時点でカプシドが死亡したように見せかけるとよい。 民間人100人の中に、【チャレンジイベント1『贈り物の襲撃』】で登場した『フラワーセントラル』の老夫婦などを交えてみてもよいだろう。この描写そのものではエンハンスド化を少々おぞましいものとして描写するといい。エンハンスド化への解釈も、PCの演出に利用しやすい要素だ。 「状況1」の時点でPC2が救出を断るのであれば、「状況2」以降はインペインを追ってきたPC1のシーンにするなどすれば都合がつけやすいだろう。【イベント:伸ばされた手】
【状況1】
PCは人気のない夜道を進んでいる。 君の進む道の反対車線側の歩道を、泣き晴らした目をしたアリアが歩いてくる。 アリアはPCの姿を見ると、目をこすり、礼儀正しく小さく会釈をして通り過ぎていく。【解説】
このシーンはクエリーでもチャレンジでもない、マスターシーンとPCの演出のみで構成されるイベントである。 PC同士が『天秤は揺れる』のイベントに居合わせる理由を補うためのイベントとなっている。演出はエントリー『救助』をなぞるような演出にすると良いだろう。また、『罪の秤』でのヒーローの返答次第で、アリアがどの程度ヒーロー達へ自発的に助けを求めるかを調整すると、この後のイベント『天秤は揺れる』に繋げやすくなるはずだ。 走り去ったバンは「フラワー・セントラル」の方角へ向かっていく。あとを追いかけるなどすれば、『天秤は揺れる』イベントへ至る。【チャレンジ2:天秤は揺れる】
【状況1】
PC達が花屋『フラワー・セントラル』へと戻ってくると広場には一切の人気がなくなっている。「良い答えだったよ、ヒーロー!」 空虚な拍手の音とともに、『フラワー・セントラル』から構成員を従えたザ・ティーチャーが出現する。 彼の目の前にはアリアが捕らえられており、また『天秤の傾き』でカプシドを救出していない場合は、その近くに瀕死のカプシドがいる。「手前勝手な正義とやらにふさわしい、美しい見殺しだった! お見事と言わざるをえない」 ティーチャーはそう告げ、手をパチンと鳴らす。 すると広場の空一面に、ホログラムによって映し出された現在の広場の中継映像が映し出される。 動画サイトの生放送画面であるそこには、偶然その放送を見たであろう、民間人たちの困惑のコメントが流れている。【状況2】
「だが私は貪欲でね。面白いショーはもっと見ていたくなるんだ。 どうせならよりセンセーショナルに、より派手に! なので、リテイクだ。是非もう一度同じことをやってくれたまえ」【解説】
ザ・ティーチャーの最終目的が明らかになり、ヒーローがより厳しい選択を迫られるシーンだ。 しかしザ・ティーチャーは一つ失敗をしている。ヒーローたちはすでに一度『天秤の傾き』イベントを経験しており、苦い思いを味わっている。同じ道を辿らせることが出来ると思っているのはティーチャーの慢心だ。そのため、こちらのイベントではチャレンジ判定を試み、成功すれば『双方の救出』という選択が可能になっている。もちろん、失敗すれば双方とも失うことになる危険な橋ではあるが。 ザ・ティーチャーの目的は、「カプシドの確保による『薬』の再生産」と「ヒーローの欺瞞を民衆に見せつけることによる嫌がらせ」だ。このどちらか一つでも達成できればそれで良いと考えている。そのため、双方の目論見が挫かれれば……すなわち、カプシドとアリアの二人が助かり、民間人たちがヒーローを信じたままであれば……激しい怒りを見せるだろう。【決戦:天秤の結末】
【状況】
※以下の描写は『天秤は揺れる』のチャレンジ判定を全て成功している前提での描写となる。 いずれかに失敗している場合は、ティーチャーのセリフ変更や、アリアやカプシドの変化シーン、 インペインが自身へ投薬を行うシーンを挟むなどして適宜調節すること。【戦闘情報】
【エネミー】
・インペイン×1・ヴィランメンバー×3【エリア配置】
エリア4:なしエリア3:ヴィランメンバー×2エリア2:インペインエリア1:ヴィランメンバー×1【勝敗条件】
勝利条件:敵の全滅敗北条件:味方の全滅【備考】
・チャレンジ2に失敗している場合、エリア3のヴィランメンバーを都度「アリア・ウィッチ」「カプシド」に変更する。・チャレンジ2に失敗している場合、インペインのステータスは「インペイン(エンハンスド)」を使用する。成功している場合、「インペイン(ジャスティカ)」を使用する。【エネミー一覧】
■インペイン(ジャスティカ)
【エナジー】ライフ70 サニティ50 クレジット50
【能力値】肉体:30 精神:20 環境:25【技能値】白兵80% 射撃80% 運動35%意志50% 知覚60%作戦40% 隠密60%■インペイン(エンハンスド)
【エナジー】ライフ70 サニティ70 クレジット50
【能力値】肉体:40 精神:35 環境:10【技能値】白兵70% 射撃70% 運動40%意志50% 知覚60%作戦40% 隠密40%■カプシド
【エナジー】ライフ20 サニティ15 クレジット10
【能力値】肉体:20 精神:20 環境:15【技能値】運動35% 生存40% 白兵50%霊能50% 科学60%■アリア・ウィッチ
【エナジー】ライフ20 サニティ20 クレジット20
【能力値】肉体:20 精神:40 環境:15【技能値】運動30% 生存40%霊能70% 心理60%科学50%【各PCの結末(一例)】
【PC1の結末】
戦いを終え、インペインは無力化される。 意志を挫かれた彼は、救出されたアリア、カプシドの姿を眺めながら、疲れ果てたように自分の口腔内に銃口を向け、引き金を引こうとする。 君は彼の行動を見届けてもいいし、それを止めてもいい。 止めるならば、インペインは力無く尋ねるだろう。【PC2の結末】
カプシド改めテスター・スミスが、PC2の家を訪れる。 手には以前、PC2が贈り物として勧めたものが持たれている。 カプシドはアリアと共に引っ越すことになったと伝える。 これまで罪悪感から関わることを避けていたG6に正式に相談し、自分の能力を医学的な見地で役立たせられないか考えていると明かす。「これ、世話になったから、贈り物にいいって言われたし……もしかして、おかしかったか?」 さあ、どうする?【PC3の結末】
戦いが終わってしばらくしたある日、ヒーローとして活動を続ける君に手紙が届く。 手紙にはアリアからの礼と近況が綴られている。G6スタッフとしての活動、カプシドとの生活、友人ができたこと、彼女がまた花屋で働き始めたことなどだ。 手紙には押し花が添えられている。PC3が好きだと答えた花だ。花にはメッセージカードが添えられている。『親愛なる私たちのヒーローへ、感謝を込めて』【NPC情報一覧】
■インペイン(スコット・キャッスル)
絶望した元ヒーロー。40歳程のジャスティカ。 数年前、セカンド・カラミティ事件の発生前。ヴィラン組織による病院襲撃事件が発生、出産間もなかったインペインの妻と娘が巻き込まれる。 人質の中にヒーローの妻子がいることを知ったヴィラン組織は、ヒーローの妻子をいたぶれば、いたぶった人間は助けてやろうと人質達へ提案。その結果、彼の妻子は無辜の人々によって暴行され、ヴィラン組織に誘拐された末、散々な乱暴を受けた末に惨たらしく死亡した。 インペインはヴィランを殺し、絶望の末に生還者や関係者を殺し尽くした末、PC1の手によって確保、投獄された。■ 立ち絵■カプシド(テスター・スミス)
フォーセイクン・ファクトリーの元構成員。30歳程度。 約13年前までヴィラン『カプシド』として活動していた生まれながらのサイオン。 その身体能力の影響で家族に愛されずに育ち、ティーチャーに拾われファクトへ所属する。その生活の中、虐待されていた少女・アリアと出会ったことで改心の道へ進む。自ら警察へ出頭し、刑に服し、模範囚として一月前に出所した。刑務所に服役していたため、セカンド・カラミティ事件のことを多くは知らない。 出所に伴い、以後は自身の改心のきっかけとなった少女、アリアと共に生活しようとしている。一般社会の常識に疎く、やや世間知らずで、自分の罪に負い目があることから臆病でおどおどした性格になっている。 サイオンとしての彼の姿は、任意の薬品を体内で製造し、無差別にまき散らす意志持つ煙状の怪物。普段はその姿を人間の形にとどめ、人に紛れて生活を送っている。イメージモチーフは中東の怪物『ジン』だ。■アリア・ウィッチ
5歳のころにカプシドに助けられた少女。現在18歳。 カプシドが刑に服し、出所してくるのを待っていた。現在は花屋に住み込みで勤めている。 しっかりした真面目な少女だが、内面では自分を助けてくれたカプシドへ強い恩と依存心を抱いている。カプシドが世間的にはたやすく受け入れられない過去の持ち主であることは理解しているが、彼女自身は彼を助け守る為ならば何でもする気持ちでいる。たとえ自分の命を捨てることになったとしても後悔はない。 カプシドとの関係は親子とも恋人とも取れる曖昧でプラトニックなもの。どちらかといえば、子供同士が傷を舐めあいながら支え合っているような関係だ。 GMは必ずしも彼女を可愛い少女として演じる必要はない。ヴィラン、ヒーロー、いずれの価値観に属してもおかしくはない、善良だが少し危うい人物として動かしてみると良いだろう。