ベイビー・アザー:M


━━これは、もうひとつの胎児の夢の物語。
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1.エントリーとシナリオ概要

【遊ぶ前に】


 このシナリオは、デッドラインヒーローズのキャンペーンシナリオ「天秤は揺れる」「疑似餌の矜持」「胎児は進化の夢を見る」三部作と関わるシナリオです。 三作全てのネタバレを多分に含む、いわばキャンペーンをクリアしたGM・PL向けのシナリオとなっています。 逆に当該シナリオを遊んだことのないプレイヤーにとっては、全く意味の分からない話でしょう。

【シナリオ概要】


 旧世代を超人種へと進化させる、非合法薬品ミュータジェン。 超人種の能力を抑制する、開発段階の試薬マトリクス。 進化か、抑制か。揺れる世論の中で、一つの疑惑が持ち上がる。 多くのヴィランが捕らえられる、ロックウェイブ島の超人収容所。 そこに、非合法薬品ミュータジェンが持ち込まれた、と。 ──これは、誰も知らない、もう一つの胎児の夢。

【用語解説】


【マトリクス】 齢百を超える人類学者、トニー・ピム博士が一ヶ月前に開発成功を発表した抑制剤。現在は市販化に向けて様々なテストが行われている最中。 製法はトニー・ピム博士が永代代表者を務める企業ピム・インダストリーズの企業秘密とされているが……。 超人種の様々な能力を旧世代と呼ばれる人々と同程度にまで抑制する効果を持つ。ジャスティカと呼ばれる旧世代が摂取しても同様の効果をもたらすと噂されており、そのことから大母結界との関係を噂されているものの、開発者が秘密主義なこともあり、真相は未だ明かされていない。 開発成功発表時のインタビューで、トニー・ピム博士がこぼした意味深な言葉から、ミュータジェンと比較され世間の注目を浴びている。 即ち、「進化か抑制か!」。
【ミュータジェン】 フォーセイクン・ファクトリーが開発した強化剤。進化剤とも。 もともとはとあるサイオンの作り出す毒による副作用だったはずの効果を、より強靭に、より悪辣に、より都合よく作り変えたもの。 旧世代が摂取すれば超人種へと進化させ、超人種が摂取すればより強力な超人種へと変わる。どのような超人種へと転じるかは、当人の資質が大きく影響するようだ。 現在はザ・ティーチャーの指示により、世界中に『製法』がばら撒かれたことで、様々な亜種が麻薬めいて流通している。

【遊ぶのに要するルールブック】


・基本ルールブック(R1)・学園マッドネス(R2)

【世界観】

 「天秤は揺れる」にて、大量殺人犯インペインがジャスティカとして戦いを終え、生きたまま捕らえられた世界線を前提としている。 舞台は「胎児は進化の夢を見る」と同時系列のロックウェイブ島、同シナリオの舞台裏で起きていた物語だ。よって、「胎児は進化の夢を見る」に参加していたPCで遊ぶよりは、別のキャラクターで遊ぶことをオススメする。 PL1名を想定したシナリオであり、「ひとりでデッドライン」のルールを利用したシナリオである。 基本的にはGM無し、PL1人の、ゲームブックのようなスタイルの進行を想定している。しかしGMとして細部を調整すれば、PL1人用のシナリオとしたり、複数人PLを相手にした通常シナリオとしても遊ぶことが出来るだろう。--------------------------------------------------●ひとりでデッドライン…詳細は学園マッドネス150頁参照

【遊び方】

1.DLHのキャラクター作成ルールで作成したキャラクターシートを用意します。このシナリオでは「パワー」は使用しません。継続キャラクターを使用しても良いでしょう。
2.集中は適応できるものとします。支援は一部状況下以外では適応されません。
3.初期時点で、PCは3点のグリットと、3点のリトライを所有しているものとします。グリットやリトライを使用して出来ることは基本ルールに準じます。
4.臨死状態のルール、デスチャート等は適応します。この際、臨死状態やデスチャートに関係するパワーは適応しないものとします。
5.【イベント1】からシナリオを順に読み進めていきます。途中で発生する判定の成否により、物語が分岐していきます。あなたのキャラクターならこんな状況でどんなことを言うか、何を選択するのか、想像力を膨らませながら楽しんでください。
6.このシナリオでPCがロストすることはありませんが、経験点を獲得することもありません。
--------------------------------------------------●パワーは使用しない…「ミリオンパワー」「粉骨砕身」「万能ベルト」「マインドレイディオ」などの展開フェイズで用いるパワーも使用できない。完全に技能値のみで遊ぶのだと思ってほしい。●デスチャート…本来のルール通り、展開フェイズ中にライフ・サニティがマイナスになった場合、イベント終了時に0まで回復し、臨死状態は解除される。シナリオ中で「気絶」「恐怖」「瀕死」等を引いた場合も、「死亡」「絶望」でないなら構わずシナリオを続けて構わない。
●事前情報 初期グリット:3 リトライ:3 クエリー:2〜3 チャレンジ:特殊
●ロストしない…誰も見てないところで死ぬのは寂しいが、かといってズルをして勝った人に経験点をあげたくはないという気持ちから、このような処理とする。ただの読み物の一つとして、気楽に遊んでほしい。

2.導入フェイズ

【イベント1:ロックウェイブの疑惑】

・舞台:ロックウェイブ島・登場キャラクター:あなた・判定回数:1〜2回

【状況1】

 ロックウェイブ島。それは、太平洋沖に作られた人工島。 ここは超人研究を専門とした研究を行うため、各国が資金を出し合って作られた、どこの国にも属さない島。地下深くには超人専用の刑務所があり、地上部には超人種の研究セクションが設けられている。隔離施設であり、研究機関でもある、ロックウェイブはそうした特異な空間だ。 君は今、その島を目指している最中。空を飛んでいるのかもしれない、海を渡っているのかもしれない、あるいは島から日に何度か出る定期船に乗り、島を目指しているのかもしれない。 君はあの島に、旧世代を超人種へと転じさせ、超人種の力をより強力なものに転じさせる力を持った違法薬物『ミュータジェン』が持ち込まれたという情報を得て、調査のために島へと向かっている。それは囚人の関係者が持ち込んだものか、あるいは……。

【状況2】

「そのような事実はありませんねえ」 君の言葉を受け、研究セクションの責任者の一人だという、チャールズ研究長は不思議そうに首を傾げた。「そんな噂自体、初めて知りましたよ。誰が流したのやら……。しかし、事実だとすれば恐ろしい話です。調べて頂いて構いませんよ。とはいえこちらも仕事がありますので、あまり派手に動かれては困りますがね」 そうした君たちのやりとりを、入り口に立つ一人の看守が複雑そうに眺めていた。チャールズ研究長がそれに気付き、尋ねる。「君、どうかしたかい?」「……いえ……なんでもありません。失礼しました」 看守はそう言うと、その場を後にしてしまう。彼は何かを言いたかったのだろうか? 君は調査へ向かうことにした。さて、まずは……。

→あの看守を追いかけよう【状況3ー1】→囚人に話を聞いてみよう【状況3ー2】

【イベント1:状況3ー1】

【状況3ー1】

 君は先ほどの看守を見つけた。彼は海の側で何かをしようとしていたらしかった。君が話しかけると、彼は驚き、口をつぐむ。うまく話を聞き出せると良いのだが。 …【交渉】+40%で判定を行う。


→判定に失敗した場合、看守は君に口を開くことなく去っていく。 【状況3ー2】へ進むこと。
→判定に成功した場合、【看守の話】へ進む。

【イベント1:状況3ー2】

【状況3ー2】

 君は調査を行いながら、収容セクションにたむろしている囚人へ話を聞いてみることにした。非合法なネットワークならば、彼らの方がよほど詳しい。 しかし、君はヒーロー、相手は囚人。うまく話を聞き出せると良いのだが…。 …【交渉】+20%で判定。

→判定に失敗した場合、話を聞ける囚人はいない。 【クエリー1:疑惑の正体】へ進むこと。
→判定に成功した場合、【囚人の話】へ進む。

【イベント1:看守の話】

「通信機をこっそり持ち出して、通信を試してたんです。外部と連絡が取れないかと思って。 ……ミュータジェン搬入の噂を流したのは自分です。観光客相手に、少しずつ、ありもしない噂を流しました。どうにかして話が大きくなって、抜き打ちの調査を入れられないかと思って。 最近、研究セクションの様子がおかしいんです。何ヶ月か前から、研究セクションの担当者に連れていかれたきり、戻ってこない囚人が何人もいます。調べようとしたら、上司から『深入りせず、見聞きしたものについては忘れろ』と厳命されました。そんなことを言う人じゃなかったのに! ロックウェイブ島は、どこの国家にも属さない、完全な中立地帯です。逆に言えば……どこの治法組織にも守られていないということだ。 ヒーローさん、あなたなら、信じてもいいかもしれない。調査を進めていただけないでしょうか」

【状況3ー2】へ進む
--------------------------------------------------●完全な中立地帯 ロックウェイブ島は、超人種出現から間も無くの頃、混乱する世界の中で各国が資金を出し合って作り出した研究機関という背景を発端としている。その為、特定の国家に属しているわけではないのだ。

【イベント1:囚人の話】

「ミュータジェンのことは知らないが、この島でおかしなことが起きてるのは分かるぜ。半年ぐらい前からかな。研究セクションの奴らが、ちょいちょいと囚人を連れ出していくんだ。戻ってきた奴は今までいないし、騒ぎにもなりゃしねえ」「ついさっきも3人連れてかれた。あんたが来るほんのちょっと前の話さ。研究チームの奴らはアンタにそのことを言ったか? 言わなかっただろ? そういうことさ」「収容所だなんだと言われちゃいるが、ここは姥捨山みてーなもんだよ。厄介者を放り込んでおくだけの、都合のいい隔離所さ。治安なんて、もともとあってないようなもんだ」「……連れてかれたうちの一人が、俺の元ボスでね。心配なんだ」「それに、連れてかれた奴らの名前を聞いたら、流石にアンタも驚くと思うぜ。 今日連れていかれたのは、サイレントサイエンスのドクター・ドミニオン、フォーセイクン・ファクトリーの殺芽。あと一人、なんとかって旧世代もいたっけな。どうだい、物騒に思えてきただろう?」

【クエリー1:疑惑の正体】へ進む

--------------------------------------------------●都合のいい隔離所 超人種を裁く為の正式な法律は、未だこの世界には存在しない。旧世代には実質的に超人種を裁くことは出来ないなどという論すらある。ロックウェイブに連れてこられた超人種犯罪者達の中には、体質に由来する同情に値する量刑を持つ者と、同情の余地のない凶悪犯罪者が同列に語られているのが現状だと、君は知っていてもいい。超人種を取り巻く社会の暗部の一つだ。 更に言うなら、超人収容所を謳いながら、時折、超人種ではない旧世代が収容されることもある。彼らは超人種と同じような力を持つと判断された者たちであり、通常の刑務所では収容困難と判断された者たちだ。それもまた、ロックウェイブ島の持つ欺瞞の一片であり、どうしようもない現実でもある。
●ドクター・ドミニオン 超巨大海中要塞デュカリオンそのものを国土とする、潜水艦国家『サイレントサイエンス』の元国家元首。鎧を身にまとった科学者。 過去に引き起こした事件によって逮捕され、ロックウェイブ島へ収監されていた。何故か部下からの信頼は厚い。この囚人もドミニオンの部下だ。

3.展開フェイズ

【クエリー1:疑惑の正体】

・舞台:ロックウェイブ島・地下セクション・登場PC:あなた・判定回数:2回

【状況1】

 調査の末、君は研究セクションの一部に、秘匿された施設があることを突き止める。 どうも、何らかの魔術的技術を用いて急造された、正式な書類には記載されていない空間のようだ。次元を歪めて作られたようなその空間は、本来のロックウェイブ島には不似合いな場所だ。 中へと向かった君は、その先で、チャールズ研究長の声を聞く。彼の前にあるのは、フォーセイクン・ファクトリーの幹部、ヴィラン・殺芽の姿! チャールズ研究長の姿が変わる。人間の皮がずるりと服を脱ぐように外れ、その中から全く違う人間が姿を現した。 姿を現した男は誇らしげに殺芽へ告げる。「どうです、素晴らしいでしょう? バスカ様の指導のもと、我がウィンターステイシスで開発した新技術です。いずれファクト全体で導入されるようになるでしょう」「悪趣味ですね」「そう仰らないでください。この計画を指示されたのはザ・ティーチャー様なのですよ? 長らく潜伏の時が続きましたが……ようやく次の動きに移れます」「あの方のご命令、ねえ……。まあ、よいでしょう。その言葉を盾にするというのであれば、致し方ありません。お前たちにも手を貸しましょう。……ですがそれは、先に鼠を仕留めてからです」 殺芽が君のいる場所へと振り返る。彼女は最初から、君の存在に気付いていたのだ。「さあ、出ておいでなさい。来る勇気がないのならば、こちらから行きましょう!」 君は殺芽の前に姿を現してもいいし、現さなくても良い。 しかし、逃げられはしなさそうだ。 さて、どうしよう?

【状況2】

 殺芽が哄笑を上げ、君へと襲い掛かる! 刃が振るわれる! うまく躱せ! …【運動】ー20%か【霊能】-20%で判定。
 成功した場合、どうにかその攻撃を躱すことが出来る。失敗した場合、3d6点のダメージを受ける。 君が「死亡」しさえしなければ、【状況3】へ進むこと。

【状況3】

「今の一撃で死ななかったことは褒めて差し上げましょう。肩慣らしには好都合」「ですが、次はどうでしょうね。その次は? さらにその次は?」「せいぜい足掻いてくださいよ、久々のヒーローとの戦いなのです。期待させてください」 刀を構えた殺芽が、君のもとへと歩み寄る。戦闘は避けられない……そう思われた次の瞬間、君の背後からパシュッという乾いた音が聞こえた。君の腕に小さな注射器が突き刺さり、薬液が君に注射される。君の体から驚くほど急激に、力が抜けていく。「なァにを遊んどるか殺芽! さっさと殺せ!」「貴様!」 霞む意識の中、君の視界に未来人バスカが映り込む。殺芽はバスカと何事か言い合っていたようだが、やがてつまらなさそうに君を見下ろし、刃を構え直した。「……はあ、なんとつまらない幕引き……残念です」 殺芽の刃が、君の首めがけて振り下ろされる…!

 ガギィン!


 鋭い音が響き、君と殺芽の間に人影が立ちはだかる。それは鉄パイプを手にした一人の男だった。右腕には、片腕分だけが外された手錠がぶらさがっている。つまり、ロックウェイブ島の囚人だ。 男は一度、二度、殺芽と打ち合うが、殺芽の放つ一撃が遂にその鉄パイプを弾き飛ばした。「インペイン! 先にそいつを回収しろ、貴様で勝てる相手ではない!」 背後から聞こえた何者かの言葉に舌打ちし、インペインと呼ばれた囚人は殺芽の追撃を躱し、君の体を拾い上げようとする。しかしその瞬間、激しい揺れがロックウェイブ島全体を襲った。インペインはバランスを崩しかけるが、辛うじて耐える。しかし、そこに……。「リセットォ!」 未来人バスカの言葉と同時、君の片腕から、ガチャリと嫌な音がした。視線を向ければ、バランスを崩したインペインが君と衝突し、君の片腕とインペインの片腕が手錠で繋がれてしまっていたのだ! そこに、殺芽の刃が再び迫る。躱さなくては! …【運動】か【霊能】か【作戦】で判定。
 成功した場合、君は力を振り絞り、その場を脱することができる。その後、君は意識を失う。 失敗した場合、君の意識はそこで途切れる。どうやってその場を脱したのかよくわからない。 処理を終え次第、【クエリー2:大脱走】へ進む。

【エンドチェック】

□意識を失った□グリットを1点獲得した

【解説】

●ウィンターステイシス 未来人バスカ率いる、フォーセイクン・ファクトリーの第二派閥。戦闘に秀でたホットステンチ、少年隊育成と膨大な規模が特徴のデラックスデザイアと違い、滅多に表に出てくることのない謎に包まれた組織だ。科学者然とした構成員が多いが、それもまた、彼らの一側面に過ぎず、別派閥の者達にすら不気味がられる、正体不明の集団だ。●新技術 『疑似餌の矜持』にて、バランサー・フォーのメンバーの一人、ブルーに対して用いられていた技術。生きていた人間の生皮を特殊加工し被り、指紋・声帯・生体反応の全てを当人のものとする。●死亡したら? 「死亡」した場合、君は意識を失い、全てが終わったあとで目を覚ます。余韻フェイズへ行くこと。→【余韻フェイズ2】●つまらなさそうに せっかく活きの良い現役ヒーローと再戦できると思ったのに、出来なかったので、がっかり。●リセット 未来人バスカのパワーの一つ。対象の判定を1度だけ振り直させる。多分インペインはここで100Fを出した。

【クエリー2:大脱走】

・舞台:どこかの倉庫・登場キャラクター:あなた/インペイン/ドクター・ドミニオン・判定回数:0回

【状況1】

 君が目をさますと、そこはどこかの薄暗い倉庫の中だった。腕を引っ張られる感覚に視線を向ければ、先ほどの囚人、インペインが自分の腕の手錠を針金で外そうとしているのが目に入る。しかし上手くいかないらしく、インペインは舌打ちをする。そこに、暗闇から声がかけられた。「やめておけ。それ以上鍵穴が歪めば腕を切り落とすしかなくなるぞ。……さて、目覚めたようだな、ヒーロー」 尊大な声のもとへと視線を向ければ、そこには埃っぽい倉庫には不似合いの黄金のテックアーマーを身につけた男がいた。君はその男が何者なのかを知っている。超人国家サイレントサイエンスの元・国家元首にして、現在はロックウェイブ島に投獄されている囚人、ドクター・ドミニオン!「目を覚まして早々だが、この島の状況を伝えてやる。心して聞くが良い」 ドクター・ドミニオンは尊大に、島の現状を話し始めた。

----------『ロックウェイブ島の現状』----------■未来人バスカ率いるウィンターステイシスが急襲し、ロックウェイブ島を監視下に置いている。■本土でフォーセイクン・ファクトリーが大きな動きを見せ、要人を人質に取ることで殺芽の釈放を要求。ロックウェイブ島上層部は要求に応じ、君が目を覚ます少し前に殺芽は釈放された。■現在、島は未来人バスカとウィンターステイシスの構成員達が支配しており、なにやら不審な動きをしている。殺芽解放後も撤収の動きは見られない。■看守や民間人は制圧され、人質に取られている。どこに隔離されているのかは不明。■ドクター・ドミニオン、インペイン、PCの3人は現在、「抑制剤マトリクス」を打たれた状態にあり、満足に力を発揮できずにいる。------------------------------------------------------------

【状況2】

「さて、ヒーロー。ここで一つ選択肢だ」 ドクター・ドミニオンは言う。「我々は自分の力を取り戻したい。だがそのためには、ウィンターステイシスが邪魔だ。貴様はこの島を救いたい。そのためには、ウィンターステイシスの排除が必要だ。……手を組む余地があるように、余には思えるがな。ん?」 ドクター・ドミニオンは尊大に踏ん反り返りながら、君とインペインが繋がれた手錠を指差して言った。「それとも文字通り、ここで『手を切る』かね、ヒーロー?」 じろり、とインペインが、君を睨みつける。用が無ければ、今すぐにでもその手を切り落としてやろうと考えていることが分かる視線だ。 ヴィランたちの視線を受け、君は……。
→誘いを断る。君の納得のいくエピローグを考え、本書を閉じること。→誘いを了承する。【チャレンジイベント1:激闘! ロックウェイブ島】へ進む

【エンドチェック】

□ドミニオンの誘いを了承した□グリットを1点獲得した

【解説】

●ドクター・ドミニオン 超巨大海中要塞デュカリオンそのものを国土とする、潜水艦国家『サイレントサイエンス』の元国家元首。鎧を身にまとった科学者。 過去に引き起こした事件によって逮捕され、ロックウェイブ島へ収監されていた。何故か部下からの信頼は厚い。 詳細は基本ルールブック217ページ『サイレントサイエンス』参照。あるいはDLH体験版シナリオ『強襲!ロックウェイブ島』を遊ぶのだ。●釈放された 殺芽はすでにロックウェイブ島にはいない。今の君では後を追うことは困難だろう。 時系列としては、ちょうど「胎児は進化の夢を見る」の最後のチャレンジイベント〜決戦フェイズの舞台裏に当たる。●力を発揮できない そのため、このシナリオではパワーを用いることができない。これはPCも、ドクター・ドミニオンも、インペインも同様だ(実際には一人でデッドラインシナリオだからという都合だが、作中ではそういう事情だ)。●マトリクスはジャスティカに効くのか? 結論から言えば効く。 原理は不明ながら、超人種と戦うために鍛え上げられた力が失われる、あるいは著しく減退すると考えると良い。一説によれば、大母結界は超人種にも旧世代にも等しく影響を及ぼしているという。それと関係があるのか否かは、やはり不明だ。先天的に存在した力が失われること、努力によって得た力が失われること、どちらが心理的焦燥を煽るかは個々人次第といえる。●「力を取り戻したい」ドミニオン(クックック、あわよくば脱獄を狙っているというのは今は黙っておくとしよう!)●「この島を救いたい」ドミニオン(と、思ってないタイプだったらどうしてくれようか。まあ余の交渉術があればどうにでもなるであろう)

【チャレンジ1:激闘! ロックウェイブ島】

・舞台:ロックウェイブ島・登場キャラクター:あなた/インペイン/ドクター・ドミニオン・判定回数:特殊

【状況1】

「良いぞ、よくぞ言った! 褒めてつかわす!」「…………」 君の選択を、ドクター・ドミニオンは膝を打って喜ぶ。そして懐から壊れかけの通信機を取り出すと、胸を張った。「まずは作戦を説明しよう」 ドミニオンの計画によれば、こうだ。
1.目標はロックウェイブ島からのウィンターステイシスの撤退。およびその為の外部との連絡手段の確保、あるいは未来人バスカの撃退(「トップが倒れれば部下というものは投降するか撤収するか玉砕するより他無いのだ! そして奴らは玉砕を選ぶタイプには見えん。全く見えん」)2.その為、まずは未来人バスカの居場所およびウィンターステイシスの目的を探る(「目的が分かれば策を練ることも出来る、当然の帰結よ」)3.PCとインペインはロックウェイブ島内を探索し情報収拾、ドミニオンは無線機により後方支援を行う。
「当然であろう、今の余に戦う力などあるものか! その点その男は旧世代、多少なりとマトリクスの影響はマシのはずだ。恨むならばそんなゴリラと腕を溶接された不運を恨むが良い!」 さも当然と言わんばかりに胸を張るドミニオン。その横で、無関心そうに作戦を聞いていたインペインと、ふと目が合う。連続殺人鬼は君へ無感情に告げた。「俺は誰かを殺せればそれでいい。相手が多ければ多いほど、苦しめば苦しむほどいい。だから異論はない。その方が殺せる」「……お前はどうしたい、ヒーロー?」 そう言って、彼はジャラリと、君と繋がる手錠を示した。
––––––––––【チャレンジルール説明】–––––––––– 1d6+「イベント数」(初回はイベント数1)でダイスを振り、出た目に応じたチャレンジイベントを行う。チャレンジイベントを終了次第、イベント数に+1し、再び1d6+「イベント数」を降る。 同じ出目が出た場合、重複はさせず、出目に+1して未だに挑んでいないイベントを行う。 出目9のチャレンジ判定を終え次第、次のイベントへ進んでよい。 このイベントの中に限り、インペインからの支援を3回まで適応できるものとする。
––––––––––【判定の成否について】–––––––––– 判定に失敗した場合、リトライを1点消費して再挑戦するか、リトライを消費せずにチャレンジに失敗したという扱いでチャレンジを終了する。リトライを消費せずチャレンジを失敗扱いで終了した場合、基本的には(一部のチャレンジを除き)成功時のメリットを得られないだけで、どうにかその局面自体は突破しているものとして扱う。 このチャレンジでリトライが0未満になった場合、そのままシナリオを終了する。 【余韻フェイズ2】へ移る。
●イベント数 一度目は1d6+1、二度目は1d6+2、三度目は1d6+3……ということ。挑んでいないイベントが存在しない場合、イベント数を+1してもう一度ダイスを振ること。––––––––––––––––––––––––––––––––––

【激闘! ロックウェイブ島/チャレンジリスト】


■【出目5以下:ドミニオンの策略】

 調査の支援を行なっているドクター・ドミニオンが、その裏で怪しい動きをしている。何を企んでいるのかは分かりきっているが、それで後手に回るのも面白くない。先んじて、釘を刺しておくとしよう。…【作戦】+20%で判定
【成功時】 やはり、ドクター・ドミニオンはこの混乱に乗じて、自分だけ脱獄しようとしていたらしい。君はサイレントサイエンスへ通信を試みようとしていたドミニオンの拘束に成功した。「余は慈悲深くも貴様を助けるよう、そこの復讐鬼に知恵を授けてやったのであるぞ。少しぐらい目こぼしせよ! 国で余の帰りを待つ娘がいるのだ!」 そういうわけにはいかない。 君に計画を看破され、ドミニオンはぐぬぬと呻きながら諦めた。「だが残念だったな、これは余の国とのみ繋がる専用回線! そこ以外との連絡は無理だぞ! どうだ凄かろう、わっはっは! ……はあ」 グリットを1点獲得する。

■【出目6:マトリクスの中和剤】

 人質として連行されていく科学者たちの姿が見える。どうやらウィンターステイシスに従わなかった者達らしい。「ぐぬぬ、どこかで見覚えのある光景ではないか。なんという人材の無駄遣い!」 ドミニオンが歯噛みする。その意味はさておき、彼らを救助すれば有益な情報を得ることもできるだろう。…【白兵】+10%か【心理】+10%で判定
【成功時】 君は研究員の救助に成功する。彼らは君に礼を言いながら、マトリクスの件について話した。「確か、何日か前に、事件に巻き込まれてマトリクスを投与されたヒーローに向けて、中和剤が作られたという話を聞いたことがある。この状況では難しいが、事態を解決できさえすれば、本土から取り寄せて君たちの力を取り戻すことも出来るはずだ」 幸い、この不自由な状況は永遠ではないらしい。 グリットを1点獲得する。

■【出目7:二人三脚】

『止まれ! 反応がある、何かが仕掛けられているぞ』 ある廊下に差し掛かった時、ドミニオンの鋭い一喝が無線から齎される。君の隣で、インペインが眉を潜め、落ちていた警棒を廊下へと放り込んだ。警棒が地面へ触れた直後、天井から床までを隙間なく覆う、細やかな格子状のレーザーが廊下の区間を挟み込むように往復していった。警棒はバラバラになった。
『赤外線トラップの改造か、全く良い趣味だな! 床面に触れるとセンサーが作動する古典的な仕掛けだ。ルートの変更は出来ん。こちらからの解除は……ま、無理だな。精々サイコロステーキにならんよう、手と手を取り合って乗り越えろ』 ドミニオンは他人事のように言い放った。…【運動】か【知覚】か【隠密】で判定「移動適正:飛行」を所有している場合、+20%の補正を得る
【成功時】 手錠で繋がった不自由な状態ながらも、君たちはどうにかその格子レーザー地帯の突破に成功した。『まさか本当に突破するとは。貴様ら何をしたんだ?』 ドクター・ドミニオンの驚きの声が通信機から聞こえ、傍でインペインが苛立たしげに溜息を吐いた。 グリットを1点獲得する。

■【出目8:インペインの暴走】

「見つけたぞ、例のヒーローだ!」「囲い込め! バスカ様の元へ行かせるな!」 ウィンターステイシスの構成員たちに発見され、交戦へと発展する。君はマトリクスにより著しく弱体化した状態での戦闘を余儀なくされる。それは、君と手錠で繋がれたインペインも同様だ。 構成員と戦う中、隣のインペインが、ぽつりと呟いた。「……邪魔だな」 次の瞬間、インペインが君めがけて襲いかかってきた!「お前から殺すか?」 インペインが君を見る眼差しには、ギラギラとした理不尽な憎悪が宿り始めている。インペインとウィンターステイシスの構成員の双方へうまく応戦しろ!…【白兵】-10%か【霊能】-10%で判定を行う。判定に失敗で1d6+2点のダメージを受ける。成功した場合、グリットを2点獲得する。
【成功時】 君はインペインの攻撃に耐えながら、ウィンターステイシスの構成員達との戦闘にどうにか勝利することが出来た。暴れていたインペインもまた、君によって抑え込まれることになるだろう。 彼は暴れることこそ止めたが、じとりと濁った目で君を見つめている。その眼差しには、変わらず、八つ当たりめいた憎悪の色があった。 君はそんな彼に、何か言葉を向けるだろうか? それともかまわず先へ進むだろうか?

【出目9:ウィンターステイシスの目的】

 未来人バスカ率いるフォーセイクン・ファクトリー第二派閥『ウィンターステイシス』。あまり前線に立たない彼らであるが、このロックウェイブ島の襲撃は彼らが主に行っているもののようだ。 島を制圧したウィンターステイシスは、研究セクションを主に牛耳っているらしい。つまり、そこに彼らの目的があるということだ。うまく隙をつき、研究内容を調べられれば良いのだが……。…【科学】+10%で判定を行う。

【成功時】 彼らは以前から、ロックウェイブ島の科学者達の『皮』を被り、違法薬物『ミュータジェン』の実験と改造を繰り返していたようだ。つまり、この島は襲撃が発生する以前から、少しずつ少しずつファクトに侵略されていたということになる。 『超人種の囚人』という、消えても大きな問題とならない『実験体』が豊富にいるこの島では、被験体に困らなかったに違いない。 彼らは時間をかけて島を掌中に収めた後、今日、ついに行動を起こした。その目的が、『殺芽の釈放』だけでないことは明らかだろう。 グリットを1点獲得する。

【エンドチェック】

□出目9のチャレンジ判定を終えた。

【解説】

●通信機 脱獄計画の為、ドミニオンがこっそりくすねていたもの。残念ながら脱獄計画を実行に移す前に、こんな形で出番が来てしまった。「脱獄は囚人の夢である」●ドミニオンは超人種? 詳しいオリジンは不明だが、そうだ。このシナリオにおいてはテクノマンサーとして扱う。●イベント数 一度目は1d6+1、二度目は1d6+2、三度目は1d6+3……ということ。挑んでいないイベントが存在しない場合、イベント数を+1してもう一度ダイスを振ること。●事件に巻き込まれて〜中和剤 これは『胎児は進化の夢をみる』のPC2のことを指している。マトリクスの中和剤は開発された後だが、開発されて間がない為、ロックウェイブ島には搬入されていない(表向きには、マトリクスは開発者のトニー・ピム博士しか製法を知らない薬品のはずだからだ)

【クエリー3:過去・未来・現在】

・舞台:ロックウェイブ島・登場キャラクター:あなた、インペイン、ドクター・ドミニオン、未来人バスカ・判定回数:0回

【状況1】

 君たちは調査を進め、遂に未来人バスカの居場所を特定することに成功した。 バスカはウィンターステイシスのメンバーと共に、島の最上階に位置する管制塔にいるらしい。周囲を海に囲まれたロックウェイブ島に於いて、船舶の管理を一手に担っていた施設だ。 君たちは管制塔を目指し、人気のない通路を進む。ウィンターステイシスの手によって電源が落とされたのか、廊下に明かりはなく、奇妙に薄暗い道が続いていた。 ……この通路はこんなにも長い通路だっただろうか? 君がふと、そんな疑問を抱いた瞬間だった。
 ドンッ!
 君は勢いよく前へと突き飛ばされた。繋がれた手錠がピンと張り、君とインペインの腕がまっすぐに伸ばされる。バシュン、と何かが作動するような音がし、負荷が消える。君はその方向へと視線を向け、それを見る。 インペインが、腕だけを残し、そこから消えてしまっていた。

【状況2】

『アーッハッハッハッハッハッハ!』 どこからともなく、高笑いが響き始める。それと同時に、通路の照明が次々に灯っていく。否、そこは既に通路ではなくなっていた。通路の天井と壁と床が雑巾を絞るようにねじれていき、だまし絵のように入り組んでいく。窓の外にはロックウェイブ島ではない、今ではない、どこかの光景が映し出されていた。 それは誰かの帰りを待つ花屋の少女、ヒーローグッズに目を輝かせる地味な少年、一心不乱に机へ向かう老いた研究者、軌道エレベーターの中で戦う誰か、セカンド・カラミティのあの日……窓の外に映し出される光景は、陽炎のように揺らめきながら、まばたきの間に形を変えていく。『勘の良い奴め、両方秤の皿に乗せてやろうと思ったのになァ。殊勝な心がけじゃあないか殺人鬼、一度脱獄して情でも湧いたか?』 どこかから、幾重にも重なるように、未来人バスカの声が聞こえてくる。その姿は見えない。バスカは嘲りながら何処かへ皮肉の言葉を送り、改めて君へと語りかける。『が、まァ、コレはコレで悪くない。むしろ、より愉快な皮肉になった』『「次元の狭間」へようこそ、ヒーロー。お前に“リセット”のチャンスをやろう』 窓の外に、やがて二つの光景が映し出される。バスカが言った。『お前の前にあるそれは、二つの「過去」だ』

→【ドミニオンの過去を見る→状況3ー1へ】→【インペインの過去を見る→状況3ー2へ】

【解説】

●腕だけを残し切断面から覗くぬらぬらとした肉質と、そこから溢れ出した真っ赤な血がグロテスクだ。

【クエリー3:状況3ー1…ドミニオンの過去】

 一つの窓の外。ロックウェイブ島に隣接する巨大潜水艦、その中から姿を現す武装集団。その指揮を執るのは、黄金の鎧に身を包んだ男──ドクター・ドミニオン。
 シーンが進む。イベントが進む。状況が進む。展開が進む。 ドミニオンは部下たちを指揮し、瞬く間に島を制圧する。超人種の囚人達を傘下に受け入れ、島で働く科学者達を、戦利品の如くに潜水艦へと連れて行く。 シーンが進む。イベントが進む。状況が進む。そして、物語の舞台裏へ。
 空の見えない部屋の中、中継されるドミニオンの勇姿を、固唾を飲んで見守る者達がいた。女が、子供が、男が、老人が、女子高生が……それこそは、超巨大海底要塞デュカリオン。すなわちそれは、潜水艦国家『サイレントサイエンス』の国土と民だ。 君は気付く。その多くが超人種だ。おそらくは、生まれながらにして、先天的に力を宿したサイオンだ。そして気付く。彼らがドミニオンへと向ける眼差しが、まるで英雄へ向けられるソレであるということを。
 シーンが進む。イベントが進む。状況が進む。決戦が進む。 彼女達の視線の先で、ドミニオンの前に三人のヒーローが姿を現す。ドミニオンはヒーロー達と相対し、戦い、そして──敗北した。
 物語の舞台裏。 国民達が息を呑む。悲痛な悲鳴をあげる。涙を流す者もいた。 血が滲むほど掌を強く握りしめ、目を背けることなく、じっと見届けた眼帯の女がいた。 中継の先、国家元首は倒れ、部下達諸共捕らえられる。それを以て、中継は終わる。 眼帯の女が、ひときわ大きな声を張り上げた。
「……ドクター・ドミニオンは倒れた! だが、国は人を以て盛んなり! 我が国の民は未だ健在、なれば『サイレントサイエンス』は未だ健在だ!」
「錨を上げよ! 潜行だ! 我らは海底にて再起の時を待つ! これより──我が父に代わり、このビアシャラが指揮を執る!」
 超巨大海中要塞デュカリオンが急発進し、海底深くへと潜行していく。戦利品の如くに収容されていた科学者達も、全員がその隙に逃げ出していた。
 画面にノイズが走る。
 一人だけ、デュカリオンに残った研究員がいた──チャールズ研究長。 チャールズは、否、チャールズ研究長の『皮』を被った『誰か』は、過去の光景であるはずのその画面の中で、『君を見た』。そして不気味な笑みを浮かべると、白衣を翻し、国の英雄を喪った『サイレントサイエンス』の奥へと消えていく。……その腕の中に、薬液に満たされた瓶が握られているのを君は見る。あの薬品は、見まごうはずもない。君に投与された、あの時代軸にはまだ存在していなかったはずの薬品、『抑制剤マトリクス』! 潜水艦国家『サイレントサイエンス』は、海の底へと潜行していく。 それは即ち、超人種を害する力を持った薬品が、超人種達の済む『国』へ……逃げ場のない『鉄の棺桶』へと運び込まれたことを意味していた。

→【インペインの過去を見る→状況3ー2へ】→【バスカの声に耳を傾ける→状況4へ】

--------------------------------------------------●残った科学者 チャールズ研究長(偽)はウィンターステイシスの構成員だ。彼はバスカの能力によってマトリクスが開発された現在から過去へタイムスリップし、その先でサイレントサイレンスを相手に大規模な実験を行うつもりでいる。過去と未来を自由に行き来する未来人バスカおよびその部下たちにとってだけは、時間軸は大きな障害とはならないのだ。

【クエリー3:状況3ー2:インペインの過去】

 一つの窓の外。インペインが暴れていた。銃を、ナイフを、爆弾を、その肉体の技術を使い、彼は数多の人間を手にかけていく。周囲には血が飛び散り、悲鳴が木霊する。全身を返り血で濡らしながら、しかし殺人鬼の目は満足することなく、次の獲物を探し続ける。殺しても、殺しても、その目が満ち足りることはない。 シーンが進む。イベントが進む。状況が進む。展開が進む。 どこかの花屋の前の広間、ホログラムの中継が浮き上がった空の下、スーツを着た狼マスクの男が両手を広げて叫ぶ。「つまらん! まったくもってつまらん! 最低最悪の三文芝居だ、こんな陳腐なシナリオで客が満足するものか! ええ、そうだろう、なあ、インペイン!」「お前だって腹に据えかねているはずだ、『どうして俺の時はこうならなかったのか』とね!」 その奥から、インペインが姿を現す。彼は憎悪にギラついた目を、その広間の人々へと向けた。
 彼の手には、一本の注射器が握られていた。その薬品の情報を、君は知っている。それは抑制剤マトリクス、ではない。それより以前に裏の世界で流布されていたという、進化剤ミュータジェン。インペインはわずかな逡巡の後、手にした注射器を投げ捨てた。そして彼は、自分自身の力だけで、三人のヒーローへと襲いかかった。
 シーンが進む。イベントが進む。状況が進む。決戦が進む。 インペインは敗北した。意志を挫かれた彼は、救出された男女の姿を眺めながら、疲れ果てたように自分の口腔内に銃口を向け、引き金を引こうとする。
 それを止めた手があった。 インペインが尋ねた。「……殺しても、殺しても、一時気が晴れることはあっても、満足する事はない。俺は誰も許せない。旧人類も、超人種も、ヒーローも、ヴィランも、民間人も、俺自身も」「刑に服したとしても、俺はきっと変わらない。俺は一生、俺が憎む相手を苦しめ続けるだろう。それなら、ここで処分した方が話が早い。──…違うのか?」 『違う』といった者がいた。 『生きて償え』と言った者がいた。 『死に甘えるな』と言った者がいた。 彼を生かして捕らえることを選んだ、君ではない誰か、ヒーロー達の姿があった。

→【ドミニオンの過去を見る→状況3ー1へ】→【バスカの声に耳を傾ける→状況4へ】

--------------------------------------------------●三人のヒーロー『天秤は揺れる』の決戦突入直前シーン〜PC1の余韻フェイズあたりの出来事だ。三人のヒーローにもしかしたら君は見覚えがあるかもしれないし、ないかもしれない。

【クエリー3:状況4】

『見たか? 見たな? 見ただろう? 見たまえ!』 君の意識に、未来人バスカが語りかける。『それは「過去」だ。この世界線で既に起きた過去、あるいは、「起きたということになった過去」だよ。「過去」は最早変えられん、そこに異論はあるまい?』『そして、ここからが──「未来」だ』

 どこかの海溝。巨大潜水艦の中、人が行き交う大通りめいたコミュニティの中央で、一人の研究者が瓶を地面へと叩きつけた。液体は即座に気体へと転じ、液体であった時の何倍、何千倍、何万倍、何億倍もの体積となって、瞬く間に潜水艦内部へと行き渡る。 煙を吸い込んだ国民達の形が変わっていく。兵士の、科学者の、商人の、主婦の、女子高生の、その国で暮らす全ての生き物たちの肉体が変形し、縮み、幼い子供へ、生まれたばかりの胎児へ──そして、胎児から更に退化していく。 時を巻き戻すように。胚へ、受精卵へ、精子と卵子へ、子宮 (マトリクス)の中に宿る更にその前へ……完全なる無へ。 残されるのは、もう何も残っていない、空っぽの潜水艦。

 どこかの密室。滅菌室めいた部屋の中、腕から血を流すインペインが崩れ落ちる。壁に生えたパイプから、ガス室めいて『何か』がその室内へと流されている。インペインが悶絶し、絶叫を上げる。彼の肉体が変形していく。傷が塞がり、形を変え、色を変え、細胞が増し、肉の塊へ──そして、肉塊から更に進化していく。時を早送りするように。骨が増える。筋肉が増える。腕が増える。足が増える。目が増える。ネアンデルタール人がホモ・サピエンスへと進化したように、単細胞生物がやがて人間へと至ったように、旧世代だった彼の肉体が瞬く間に変質(ミューテイト)していく。 残されたのは、もう元の面影を宿していない、血走った目をしたただの一匹の怪物。

『それは「未来」だ。この世界線でこれから起こる未来、或いは「起きる可能性の高い未来」だよ。「過去」は変えられんが、「未来」はまだ変えられる。お前達はよくそう言うよなァ?』 君の頭の中、過去と未来を自由に行き来する力を持った怪人が嗤う。 画面にノイズが走る。 「現在」の光景が映し出される。 ガス室めいた部屋で、腕を欠損し倒れるインペイン。彼彼女らにとっての日常を、当たり前に過ごすサイレントサイエンスの国民達。 悲劇は起きてはいない。「今」は、まだ。『「過去」に、あの殺人鬼と、統括者ザ・ティーチャーは、お前ではないヒーローに同様の選択を迫ったそうだ。結局どうなったんだったか……さて、忘れてしまったが……二番煎じ三番煎じと罵られるのは癪だからな。きちんと、私なりの要素を加えておいた』
『既に薬は投与した』
 画面にノイズが走る。 ガス室めいた部屋へ、既に、ミュータジェンの投入は始まっていた。 サイレントサイエンスの大通りの中で、既に、マトリクスの瓶は割れていた。 悲劇は起きてはいない。「今」はまだ。 だが──「今」ではもう、決して、回避出来ない。
『さあ』
『 やり直したい(リセットしたい)世界 は、どっちだ? ヒーロー? 』

【⇒サイレントサイエンスの国民達を助ける】【⇒インペインを助ける】

【エンドチェック】□助ける世界を決めた□グリットを1点獲得した

【チャレンジ2:リセット】

・舞台:次元の狭間→???・登場キャラクター:あなた、未来人バスカ、インペイン、ドクター・ドミニオン・判定回数:2回

【状況1】

『ハハハ! ハハハハ! アァーーーーーハァーーーーーーハッハッハッハッハッハ!
 よくぞ選んだヒーロー、よくぞ見捨てたヒーロー! そんな顔するな! 悲しかったか? 苦しかったか? 辛かったか? 気にするな! 安心しろ、貴様が選ばなかった世界も、別の世界線では別の誰かがどうせ救っているさ! ま、その世界線では貴様が選んだものが犠牲になっている訳だがな! それが世界線(マルチバース)の本質だよ。何かを選べば選ばれなかったものが犠牲になり、かくして世界は無限に分岐する! 進化? 退化? どォーーーーでも良いわ! そんなものはただの副産物! 誰が死のうと誰が生きようと誰が勝とうと誰が負けようと、無限の世界線の前ではそんなものは些事でしかない、貴様らの命は等しく無価値だ。
 ただ一つ、全てを観測するこの私を除いてな!』
 未来人バスカが狂ったような笑い声を上げる。理解しがたい口上と共に、次元の狭間が崩壊を始める。歪みながらも廊下の体を成していた空間が、端から崩壊を始める。 君の目の前にも、狂ったように様々な世界の映像が映し出されていく。インペインが自らに薬を打ち込みエンハンスドとなることを選んだ世界(バース)、ドクター・ドミニオンがロックウェイブ島を掌握した世界(バース)、老人が対抗薬の開発を止め自らの頭を銃で撃ち抜いた世界(バース)、ヒーローを夢見る若者が足からイモムシ状の怪物に貪り食われた世界(バース)、花屋の少女が愛する人を守るため正義を見限った世界(バース)……。
『そうとも、こんなものはただの戯れだ。それ以上でも以下でもあるものかよ。 素晴らしい実験(セッション)をありがとうヒーロー! その顔が見たかったのだ、もう終わっていいぞ!』
『ああ、これはほんの礼だ、きちんと巻き戻してやろうとも。 ……貴様が望んだ世界とは、「逆」の世界線へなァ!』
 崩壊は進み、遂に君の足元だけの足場が残るばかりとなる。その足場の先に、再び先ほどの光景が二つ現れた。マトリクスを投与されたサイレントサイエンス、ミュータジェンが投与されるガス室。 君の背中がドンと何かに突き飛ばされる。君が選んだ世界線とは逆の世界へと、君の体は落ちていく。かろうじて崖へと捕まれば、崖を掴む手を踏み躙る足があった。見上げれば、勝利を確信した未来人バスカが立っていた。 君の掌をギリギリと踏みつけ、バスカが嗤う。「見捨てたはずのものが生き、選んだはずのものが死んだ世界を、たっぷり堪能するといい。……『リセット』!」 抗え!
––––––––--【チャレンジ判定その1】––––––––--
■未来人バスカに抵抗する …【生存】か【霊能-10%】か【科学】で判定
【判定失敗】 バスカの言葉通り、君がクエリーで選んだ世界とは「逆」の世界線に飲み込まれる。【余韻フェイズ2】へ向かう。
––––––––--––––––––--––––––––--––––––––--

【判定成功】 君はがむしゃらに抵抗する。バスカへ攻撃したのか、己の体を動かしたのか、何かに手を伸ばしたのか、不思議な力が場を覆ったのか──その抵抗の一つが、実を結んだ。未来人バスカのパワーの行使を、ほんのわずかに妨害した。「何ッ!? まさか揺籃の神々が観測を!? バカ止めろ! 余計な抵抗をするな! お前だお前、読んでるだろう! ページを閉じろ! シナリオを終わらせろ! 私が完璧に計算して管理しているというのに、そんな勝手をしたらどこに落ちたものか──…!!」 バランスを崩した君の体は、バスカが狙った世界でも、君が選んだ世界でもない、別の次元へと落ちていく。「待っ! 待て待て待て! 貴様、ふざけるな、止めろ、その世界は─…!!」 バスカの声が遠ざかり、君の視界は真っ白に染まった。

【状況2】

 君が目をさますと、そこはどこかの薄暗い倉庫の中だった。腕を引っ張られる感覚に視線を向ければ、先ほどの囚人、インペインが自分の腕の手錠を針金で外そうとしているのが目に入る。しかし上手くいかないらしく、インペインは舌打ちをする。そこに、暗闇から声がかけられた。「やめておけ。それ以上鍵穴が歪めば腕を切り落とすしかなくなるぞ。……さて、目覚めたようだな、ヒーロー」 尊大な声のもとへと視線を向ければ、そこには埃っぽい倉庫には不似合いの黄金のテックアーマーを身につけた男がいた。君はその男が何者なのかを知っている。超人国家サイレントサイエンスの元・国家元首にして、現在はロックウェイブ島に投獄されている囚人、ドクター・ドミニオン!「目を覚まして早々だが、この島の状況を伝えてやる。心して聞くが良……な、なんだ、その顔は。まるでもう話が分かっているような顔ではないか」 「過去」は変えられない。変えられるのは「未来」だけ。……はたして本当にそうだろうか? 一人では抗えない。「あのタイミング」では無理だった。……では、「今」なら? これはチャンスだ、ヒーロー。 君の時間はやり直されている。

––––––––--【チャレンジ判定その2】––––––––--
■ドクター・ドミニオンに事情を打ち明け、説得する(サイレントサイエンスを助ける)…【交渉】か【科学】か【霊能】で判定
【判定失敗】 ドクター・ドミニオンは君の言葉を信じない。未来人バスカは二度目のやり直しを見逃しはしない。 潜水艦国家「サイレントサイエンス」はシナリオ通りに消滅する。決戦フェイズへ進む。––––––––--––––––––--––––––––--––––––––--
【判定成功】「…………」「些かならず、信じ難い。気狂いの狂言と切って捨てた方が、いくらか現実味があろうよ。……だが」「……そうか。余がおらずとも、『サイレントサイエンス』は健在、か」 ドクター・ドミニオンは小さくそう零すと、何事かを考えるように黙り込んだ。そうして、いくらかの沈黙の後、再び口を開いた。「よかろうヒーロー、貴様の言葉を信じてやろう」「我が国を救う手立て、確かに「今」ならば存在する」「我が『サイレントサイエンス』へ繋がる、緊急用の特殊回線が存在する。外部と繋がる通信機、或いは無線の類さえあれば、この地球上どこに居ようとも必ずサイレントサイエンスへと繋がるよう出来ている。……使えるのは一度きり、30秒間だけだ。一度使えば、回線の番号は変わり、二度と繋がらん。本当ならば余の脱獄に用いるつもりであったが……致し方あるまい」「ヒーローよ、余を共に連れていくことを許す。だが今の余はびっくりするほど弱いからな、精々守れよ!」
 チャレンジ判定2に成功している場合、【追加クエリー:ヒトは進化の夢を見た】が発生する。 失敗した場合、決戦フェイズへ。

【エンドチェック】

□チャレンジ判定を終えた。
→【追加クエリー『ヒトは進化の夢を見た』へ】→【決戦フェイズへ】

【解説】

●ドミニオンの無線 チャレンジイベント1『激闘! ロックウェイブ島』でドミニオンが使おうとしていたものと同一のもの。

【クエリー4:ヒトは進化の夢を見た】

・発生タイミング:チャレンジイベント2に成功している・舞台:ロックウェイブ島・登場キャラクター:あなた、ドクター・ドミニオン、インペイン、看守、ビアシャラ・判定回数:0回

【状況1】

 かくして、君はドクター・ドミニオンを守りながら、再びロックウェイブ島を攻略する。 マトリクスで著しく弱体化しているとはいえ、既に一度戦い抜いた島だ。どこで何が起きるのか理解している君がいれば、ウィンターステイシスの構成員たちの裏を掻くことは容易だった。 外部との通信に使える機材を探して戦う君たちは、その過程で囚われていた人質たちを解放することに成功する。その中には、君がこの島に来た時、物言いたげな顔をしていた看守の姿があった。彼は君の話を聞くと、覚悟を決めたように、懐から通信機を取り出す。「……通信機なら、持ってます。ウィンターステイシスに占拠される直前に、偶然、こっそり持ち出してたんです。俺がやった時は通じませんでしたが……でも、本当に出来るんですか? だって彼は今、マトリクスを打たれて……」「誰にものを言っている?」 ドクター・ドミニオンが看守の言葉を遮ると、彼の手から通信機をひったくり、尊大に告げる。「『一から何かを成せ』と言われたならば、確かに今の余はポンコツも良いところだろうよ。だがな、『もうあるものを使う』だけならば、話は変わる」「『凡人』にも『超人』にも等しく扱えてこそ『科学(サイエンス)』の真骨頂! そして余は偉大なりし『サイレントサイエンス』の国家元首、ドクター・ドミニオンなるぞ!」「当然! 出来るように! しているに! 決まっているだろうが、愚か者!」

【状況2】

『我が民よ、耳を傾けよ! これは『サイレントサイエンス』元・国家元首、ドクター・ドミニオンの勅令である!』 通信は繋がる。 超人科学国家『サイレントサイエンス』、その国そのものである超巨大海中要塞デュカリオン中に、ドクター・ドミニオンの声が響く。 失われて久しかった国家の英雄の声に、民たちは驚き、顔をあげ、一様に耳を傾けた。『サイレントサイエンスの国土に毒を撒き、土壌を汚染する鼠が紛れこんだ! 警戒態勢Sを命じる! これは訓練ではない  繰り返す、これは訓練ではない! ミセス・トキシックはスタデンジャーを用いて民の避難誘導を! ザ・スペキュラーは自慢の目で賊を探知、ネムロンは捕獲隊の指揮に当たれ!』 サイレントサイエンスの幹部たち──ミセス・トキシックが、ザ・スペキュラーが、ネムロンが、驚愕の表情でその声を聞いていた。しかし彼らは即座に行動へと移る。不信による初動の遅れはなかった。それこそが、先代となった男の、国内における影響力を物語っていた。 潜水艦の操舵室で、その声を聞く女がいた。眼帯の女は、ぎりりと歯を噛み締めると、先代国家元首の声が流れるスピーカーへ、何事か叫んだ。しかしそれは、一方的な通信を送るだけのドクター・ドミニオンに届きはしなかった。 厳重な探知妨害を施された、特殊回線の繋がる時間は短い。必要事項の伝達でその時間は全て費やされる。最後に、ドクター・ドミニオンは告げた。『ビアシャラ』 スピーカーへ声を荒げていた眼帯の女が、息を呑んだ。『後は任せた』 通信は途絶えた。

【状況3】

「何故、助けた」 視線の先、ドクター・ドミニオンがサイレントサイエンスとの通信を終える。その様子を眺めながら、君と手錠で繋がれたままのインペインは、唐突に問いかけた。「サイレントサイエンスは、お前たちにとってはヴィランのはずだ。ここで消せた方が効率が良いとは考えなかったのか」「奴らは変わらない。悪党を英雄と仰ぎ、盲目的に肯定してきた、自称無辜の市民様だ。少しも罪が無いとでも?」 問いかけるインペインの声は平易であり、彼の感情を読み取ることは出来ない。憎悪も殺意も、そこからは感じられない。けれど、彼の腕が答えを求めるように、君とつながる手錠を荒々しく引いた。ジャラリと金属の擦れる音が鳴った。──それなら、ここで処分した方が話が早い。──…違うのか? ふと、君の脳裏に、「過去」の世界でインペインが三人のヒーローへと告げた問いが呼び起こされる。 インペインが、小さな声で呟いた。問いというよりも、それは独白だった。「……生きている価値があるとでも?」

【エンドチェック】

□サイレントサイエンスを救った□インペインの問いに答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

●ミセス・トキシック/ザ・スペキュラー/ネムロン 『パワー・トゥ・ザ・ピープル(D1)』より。ドミニオン無き新生サイレントサイエンスを預かる幹部たちであり、ドミニオン統治下のサイレントサイエンスを知るものたちだ。スタデンジャーは彼らによって開発された生物兵器の名称。●ビアシャラ 『パワー・トゥ・ザ・ピープル(D1)』より。ドクター・ドミニオンの娘と目される人物。実際に血縁関係があるのか否かは不明。ドミニオンの跡を継ぎ、新生サイレントサイエンスのトップとなった女性。 ただ一人のカリスマによって国家運営の全てを賄っていたドミニオンの独裁法治に対し、ビアシャラは国民一人一人を重用するスタイルの法治をとった。それにより科学国家は海賊国家へと形を変えたが、それでも存続を可能とした。 ビアシャラはドミニオンに対し複雑な感情を抱いている。それは同属嫌悪であり、こじらせたファザーコンプレックスのようだ、とも称される。

4.決戦フェイズ

【決戦:ベイビー・アザー:M】

・舞台:ロックウェイブ島・ヘリポート・登場キャラクター:あなた、未来人バスカ、インペイン、殺芽・判定回数:特殊

【状況:決戦突入前】

『やあ殺芽、久しぶり。 我らがザ・ティーチャーから、遂に君に慈悲をかけてやれとお達しがきてね。 先ほどそちらに我々の友を一人派遣した。 小賢しく頭でっかちな男だが、君をそこから連れ出す役目ぐらいは果たせるだろう。 また君に会えたら、是非プレゼントしたいものがある。 これがあれば、君はもっともっと素敵になれるだろう……』
 殺芽は退屈していた。 モニターの先、社長室と思しき一室の、高級な椅子に腰を下ろしたデラックスマンが、長々とご高説を垂れている。それを殺芽は、ロックウェイブ島のヘリポートで、看守たちに囲まれ、欠伸を嚙み殺しながら聞き流していた。 ヘリポートにはヘリが待機している。ロックウェイブ収容所運営組織の決定が下され次第、殺芽は完全に公的な釈放が認められ、このヘリに乗ってピム・インダストリーズへと向かう手はずになっている。しかし、殺芽の周囲を囲う看守たちは、その実、既に看守の皮を被ったウィンターステイシスの構成員達だ。彼女を包んでいるいかにも厳重そうな拘束具だって、実際には、彼女が少しその気になれば簡単に破壊できるものでしかない。 当然、デラックスマンも、そのことを既に知っている。 では、この茶番は何のためにあるのか? 『パフォーマンス』のためだ。ロックウェイブからヴィランが脱獄することなど、さほど珍しい話ではない。だが『収容施設』が『脅迫に屈し』『自ら囚人を釈放した』のなら──それがもたらす意味は、あまりにも変わる。 殺芽釈放はただのショーだ。彼女が解放されるというパフォーマンスにこそ意味があり、彼女自身の力が求められているわけではない。それが殺芽には、心底退屈で仕方なかった。
『看守諸君、そういうことだ。 殺芽の引き渡しが完了次第、我々もピム・インダストリーズから撤退する。 よい取引が行えることを期待して……何?』 次の瞬間、殺芽の周囲を囲っていた看守達が一斉に倒れた。彼らは激しいショックを受けたかのように、鼻と目から血を流し、痙攣し動かなくなる。倒れた看守達──の、皮を被ったウィンターステイシスの構成員たちを見下ろして、殺芽はほお、と小さな声を漏らした。これは、なんだか、少し──面白いことになってきた。 ピム・インダストリーズの社長室でモニターを見ていたデラックスマンは首を傾げた。その画面の中に、彼らにも馴染みのある顔が割り込んだ。「悪いなァ、デラックスマン、取引は中止だ!」『……バスカ? 貴様、何をやっている?』「「この世界線の私」にはさっさと退場してもらった! 流石私だ、話が早い! 貴様の学芸会はここで終わりだ! どうせ殺芽が間に合うまで貴様らが粘れる世界線など殆ど無いのだからな、 オツムの足りん馬鹿恐竜を薬漬けにでもして適当に使い潰しておけ! 通信終了!」『待て! バスカ! なにを勝手な──…!』 機材が破壊され、デラックスマンの通信は途絶する。バスカは殺芽の拘束具を外しながら、一人で苛立たしげに喚き続ける。「ああ許せんッ! 許せんぞッ! よりにもよって時間遡行だと!? それは私の能力だ、そんな設定なんぞついてないキャラクターの癖にヒトの領分に土足で踏み込んで来やがって! なんという無作法者だ、礼儀知らずにも程があるッ! 許さんッ! 絶ッッッッ対に許さんッ! 『あの世界線』の『奴』だけは、必ず『この私』が殺してやらねば気が済まんッ!!」「あなたが何を言っているのかはさっぱり分かりませんが、デラックスマンの気色悪いおべっかを聞き流しているよりは耳触りが良いですね。それで? 私にどんな働きをお求めで?」「力を貸せ!」「見返りは?」「あのヒーローと戦わせてやる!」「実に結構」 拘束具を外され、殺芽は自由になる。 彼女はすらりと腕を刃へと変え、凶暴な笑みを浮かべた。 かつて折られた刃は、既に完全な修復を終えていた。「久々の戦いなのです、楽しませて下さいよ」
 君たちが姿を現すのは、そのヘリポートだ。 決戦フェイズへ突入する。

-------------------------------------------●デラックスマンの通信『胎児は進化の夢をみる』チャレンジイベント描写より。本来のシナリオではデラックスマンの思惑通り、殺芽は釈放されることになるのだが……この世界線は、ちょっとおかしなことになっている。●激しいショック 未来人バスカのパワー「精神爆弾」により、一斉に倒れた(殺芽には効かなかった)。彼らはバスカの部下だが、バスカにとってはとるに足らない有象無象でしかない。

【戦闘の処理】

 殺芽および未来人バスカとの戦闘となる。
 【任意の技能】ー30%で判定を行う。 何度でも判定をして良いが、一回失敗する度に、殺芽からの反撃として3d6点のダメージを受ける。 合計で5回判定に成功した時点で、殺芽との戦いに勝利する。
 また、この戦闘に於いて、未来人バスカおよびインペインの行動は以下の処理として扱う。

■未来人バスカ:「リセット!」

 君の攻撃判定が偶数の出目で成功していた場合、一度だけその判定を振り直させる。 この効果はグリットを使用して成功した判定には適応できない。

■インペイン:「援護支援」

 君の攻撃判定に対し、主要ルール「支援」の効果を適応する。この支援は何度でも使用出来る。 また君がダメージを受けた時、そのダメージを1d6点軽減する。

■未来人バスカ:「精神爆弾」

 攻撃判定に5回成功したタイミングで発生する。 君は【意志】で判定を行う。この判定に失敗した場合、1d6点(最低3点)のショックを受ける。
-------------------------------------------
 戦闘に勝利で、【余韻フェイズ1】へ。 「死亡」「絶望」などで敗北した場合、【余韻フェイズ2]】へ。

5.余韻フェイズ

【余韻フェイズ1:決戦フェイズに勝利した】

「成程、数が減ったものと侮っていましたが。随分と骨のある粒が出揃ってきたものだ。……私の負けです、お好きになさい」 殺芽は抵抗を止め、君たちへとそう告げる。その言葉に、インペインが迷わず、彼女の息の根を止めようと動く。 君はインペインの行動を止めても良いし、見届けても良い。あるいは、君の手で殺芽へ引導を渡してやってもいいだろう。 インペインを止めない/君の手で引導を渡す場合、殺芽は笑いながら死に至る。インペインを止めるのであれば、彼は不服げな表情を浮かべはするが、それ以上君に強く抵抗することもない。「く、くそ! なんということだ、あの役立たずめ! ここは一時撤退…!」 未来人バスカは、殺芽を見捨て、その隙に逃げ出そうとする。しかし、それを見逃す君たちではなかった。「で?」 インペインが君へ尋ねた。「奴はどうする」

「では、鍵を外します。しばらくじっとしていてくださいね」 君たちにそう告げながら、看守が君とインペインを繋ぐ手錠を解錠していく。 君たちには無事、マトリクスの中和剤が投与されていた。君は無事に本来の力を取り戻したのだ。 君の視線の先、ドクター・ドミニオンがギャアギャアと文句を喚き散らしながら連行されていく。インペインとドクター・ドミニオンは、引き続きロックウェイブでの収容が続けられるという。ロックウェイブ島にも改めて調査の手が入ることが決まった。 手錠の解鍵作業を無表情で眺めていたインペインが、ぽつりと君へ尋ねた。「(PC1名称)……何でヒーローやってんだ?」 彼が何故、その問いを君に向けたのか。それは君には分からない。──だが、問いに答えることは出来る。 何と答えよう、ヒーロー?

「そうか」 君の答えに、インペインはただ短く返すだけだった。 かしゃん、と音を立てて、君たちの間で手錠が外れる。「終わりました。PC1さんはこれで大丈夫です。お前は引き続き収容だ、本件に関する恩赦は──……ぐあァッ!?」 君の眼前で、インペインへ話かけていた看守が、首をねじりあげられる。一瞬の出来事だった。インペインはその一瞬で看守の首をへし折る、かに、思われた。 ──…それも、出来たはずなのだ。既に力を取り戻した彼であれば。当たり前のように、名も知らぬ一人の人間を縊り殺す程度の芸当は。 ──…そして、それこそが本質のはずなのだ。彼の目的は無差別な報復であり、標的へのこだわりなどという理性は、とうに壊れて久しかった筈なのだから。 ならば、その一連は果たして、何に由縁するものであったのか。
 インペインは抵抗する看守を放り捨てた。 殺さなかった。 彼が見ていたのは、君だった。

「俺はヒーローじゃない」「(PC1)。お前を殺す。苦しめて殺す。苦しめて、苦しめて、苦しめて、殺す」「俺はインペイン」「……俺は変わらない。生きている限り」「殺されたくなけりゃ、俺を──」 その先を、彼は何と言ったのか。 海上に吹き荒れた一陣の風が、その先を音にはしてくれなかった。 看守たちの声と、応援のヒーロー達の声が、随分と遠くから聞こえていた。「───────!!!」 インペインが、憎悪の雄叫びと共に、君へと襲いかかってくる。 君が無理に彼の相手をしなくとも、この局面であれば、最早インペインに逃げ場はない。遠からず押さえ込まれ、無力化される事だろう。 君はインペインを迎え撃っても良い。彼に構わず、ただ見届けてもよい。 君は──…。

-----------------→【見届ける→インペインの攻撃は君へ届くことはなく、彼は無力化され、再び収容される。自由に余韻の演出を続け、シナリオを終了させて構わない】→【迎え撃つ→追加戦闘イベント『I’m Inpain.』が発生する】

【余韻フェイズ2:
シナリオを完走できなかった or 決戦フェイズで敗北した】

 君はいつの間にか、意識を失っていたらしかった。 君が目を醒ますと、そこはどこかの清潔な病室だった。体には点滴が繋がれ、適切な手当が施されている。
 君の身じろぎの音を聞いてか、カーテンが開く。その先から、偏屈そうな老科学者──君もテレビでその顔は知っている。マトリクスの生みの親、トニー・ピム博士──が顔を覗かせた。
「目を覚ましたようだな。……マトリクスの中和剤は効いているはずだ。力は戻っているかね」
 君は君の力を取り戻す。そして、トニー・ピム博士から、あの後のロックウェイブ収容所について聞いた。 その後、G6のヒーロー達が現地へと駆けつけた時、未来人バスカの姿は何処にもなかった。ただ、大量の人間の生皮(それは施設で働いていた職員達とDNAが一致した)だけが、海風に弄ばれているばかりだったという。 殺芽はロックウェイブから一度は釈放されたものの、その後、無事に再確保されたという。ピム・インダストリーズでヒーローと戦ったデラックスマンとコールドテイルもまた、逮捕されたとのことだった。 未来人バスカだけが、何処かへ姿を消したのだという。 それは勝利だっただろうか? ……否。君は、君だけは、そうではないと知っている。
 インペインのことを、ドクター・ドミニオンのことを、サイレントサイエンスのことを、君はピム博士へ尋ねる。ピム博士はその問いを聞いて、怪訝な表情を浮かべ、逆に君へと尋ね返した。「……何の話だ? 夢でも見たのか?」「そんな囚人も、そんな国のことも、私は聞いたことがない」「君は、一人でロックウェイブ収容所で倒れている所を救助されたんだよ」
 ……その後。 君がどれだけ調査を重ねても、インペインという囚人のことも、ドクター・ドミニオンというヴィランのことも、サイレントサイエンスという国家のことも、何一つ情報を得ることはできない。まるで『最初からそんなものは存在しなかった』のだというかのように。 君はその後、無事に退院し、日常へと戻っていくだろう。 果たしてそこが、君にとって、本当にこれまで通りの日常であるのかは──…もう、誰にも分からないのだが。


【ベイビー・アザー:M/ED3:醒めない夢】------------------------------------------------------------クリア報酬経験点0点ロストなしキャラシへの記載は任意です。お疲れ様でした。

6.追加イベント

【戦闘イベント:I'm Inpain.】

・発生タイミング:余韻1でインペインを迎え撃った・舞台:余韻フェイズの続き(衆目の只中のロックウェイブ島)・登場キャラクター:あなた、インペイン・判定回数:特殊
------------------------------------------------------------▼戦闘の処理 インペインとの戦闘となる。【任意の技能】ー10%で判定を行う。 何度でも判定をして良いが、一回失敗する度に、インペインからの反撃として2d6点のダメージを受ける。 合計で3回判定に成功した時点で、インペインとの戦いに勝利したものとして扱う。
 また、この戦闘に於いて、インペインの行動として以下の特殊処理を適応する。
■インペイン:「粉骨砕身」 君の判定の出目が、成功率の前後10%以内だった場合に発生する。 その成功率を更にー10%する。(例1:白兵70%で判定→出目62で成功→【粉骨砕身】発動、成功率が白兵60%として扱われ、出目62として失敗扱いとなる。 例2:白兵70%で判定→出目76で失敗→【粉骨砕身】発動、成功率が白兵60%として扱われ、出目76として失敗扱いとなる)------------------------------------------------------------

→▼戦闘に勝利した→▼戦闘に敗北した(死亡/絶望した)

▼戦闘に勝利した

 衆目の只中での戦闘、それは裏を返せば、君の正当防衛を保証する者も多くいるということだ。 ここで彼に引導を渡したとしても、それは君の評判を著しく傷つけるものにはならないだろう。 君が最後の一撃を放つ刹那、インペインと視線が交錯する。 君はインペインを殺してもいいし、殺さず、ただ、無力化してもよい。

 それがいかなる形であったとしても、戦いは終わった。 ロックウェイブ島は悪夢から目を覚ます。 あるいは、誰かの悪夢はここで終わる。 君というヒーローの活躍によって。

 ──これは、誰も知らない、もう一つの胎児の夢の物語。


【ベイビー・アザー:M/ED1:目覚め】------------------------------------------------------------クリア報酬経験点0点ロストなしキャラシへの記載は任意です。お疲れ様でした

▼戦闘に敗北した(死亡/絶望した)

 インペインの攻撃が君を襲う。君めがけて致命傷を放つ刹那、インペインは憎悪に満ちた顔で、しかし笑っていた。 一発の銃声。 インペインの一撃は、君へは届かなかった。 胸を撃ち抜かれた旧世代は、当たり前の人間のように、その場に倒れて動かなくなった。 その背後で、震える手で、拳銃を握った看守が立っていた。 インペインは死亡する。 君は生還した。

 それがいかなる形であったとしても、戦いは終わった。 ロックウェイブ島は悪夢から目を覚ます。 あるいは、誰かの悪夢はここで終わる。 君というヒーローの活躍によって。

 ──これは、誰も知らない、もう一つの胎児の夢の物語。


【ベイビー・アザー:M/ED2:眠り】------------------------------------------------------------クリア報酬経験点0点ロストなしキャラシへの記載は任意です。お疲れ様でした