オール・ハイル・パノプティコン!


━━50年後に後悔したくないだろ?
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1.エントリーとシナリオ概要

【シナリオ概要】


 機械の体を持つ恐るべき侵略者、『バイスデバイス』。 彼らの侵略──選ばれたのは、地球。 神秘の秘宝セイント・ジェムを巡り、今、人類の命運を握る戦いが幕を開ける。 ヒーローよ、地球(この星)を守れ!

【事前情報】


 クエリー:3 チャレンジ:2 初期グリット:4 リトライ:2
 想定時間:4時間 推奨経験点:10〜20点のPCを想定。 より経験豊富なPCがいる場合、エネミーを随時強化すること。

【GMに要するルールブック】


・基本ルールブック(R1)・パワー・トゥ・ザ・ピープル(D1) D1に記載されているヴィラン組織「バイスデバイス」をストーリーの要としたシナリオとなっている。GMのみならず、プレイヤーも同誌を参照できる環境であることが好ましい。

【エントリー】

【PC1:米軍基地からのSOS】

 君は米軍から救援依頼を受け、中東カタールのアメリカ空軍基地へと急行している。 本来であれば、ヒーローが軍の救援を行うのはおかしな話だが、君は『そういうことをする』タイプのヒーローということだ。 昨夜遅く、所属不明の兵器に急襲を受けたきり兵士たちとの連絡がつかなくなっているのだという。 現場へと到着した君が目にしたのは、応戦する兵士たちと……兵士たちに襲いかかる、巨大な機械の怪物の姿だった!

【PC2:爆走暴走上海街道】

 君は中国・上海の工業地帯で巨大なロボットが暴れているという通報を受け、 その鎮圧へ向かっている。 現場は既に破壊の限りを尽くされていた。その中央に、あまりにも巨大なロボットの姿があった。「俺がマッシャーだ! ダーッ!!」 巨大な怪物は自らをそう名乗ると、君へと襲いかかってきた!

【PC3:ネットオークションのご利用は計画的に】

 君はG6の依頼を受け、セカンド・カラミティで死亡したヒーローの遺品を整理する手伝いをしている。 遺品のいくらかは遺族の同意を得た上で、フリーマーケットやネットオークションで売買されることが決まっていた。 その日もその仕事を終えた帰り道、君の前に一台のパトカーが停まり、こんなことを尋ねてきた。「お前がユーザーネーム"プレイボーイ517”か?  e-Bay出品番号21153はどこだ?」 それは確かに、その商品の出品者のユーザーネームだ。

※エントリーに関する諸注意 このシナリオはヴィラン組織「バイスデバイス」との初遭遇ものとして作成されている。 そのため、事前にバイスデバイスに関する知識を持つPCは非推奨となる。適宜設定を調整するなどして対応してほしい。

2.導入フェイズ

【イベント1:米軍基地からのSOS】

登場:PC1舞台:中東カタール・アメリカ空軍基地

【状況1】

 ──中東カタール。アメリカ空軍基地。 一台のF-22戦闘機が上空を飛来していた。戦闘機は間も無く基地へと着陸するだろう。 管制塔の軍人が訝しげな声を上げた。「あの戦闘機の所属が分かりました。セカンド・カラミティで撃墜されたものです」「確かか?」「確かです。友人が乗ってました」「……迎撃用意!」 警戒態勢を示す米軍基地。その様子を見て、戦闘機のコックピットに乗った人間の姿にノイズが走る。「……ボクちゃん、いいこと思いついたヨォ!」 次の瞬間、上空で、突如として戦闘機が形を変える! 米軍による迎撃をものともせず、その機械の巨人は、基地へと着地すると、凄まじい電磁パルスを放つ。 基地が火の手に染まり、全システムがブラックアウトした…!

【状況2】

 君は米軍からの救援要請を受けて、中東カタールにあるアメリカ空軍基地へと向かっている。 本来であれば、ヒーローが軍の救援を行うのはおかしな話だが……君は『そういうことをする』タイプのヒーローということだ。 曰く、昨夜、所属不明の兵器に急襲を受けたきり兵士たちとの連絡がつかなくなっているのだという。最後の通信には「鉄の巨人」「化け物だ」といった叫びが残されていたという。 現地へ訪れた君が目にしたのは、完膚なきまでに破壊された米軍基地と、大量の死体だった。 しかしよくよく確認すれば、基地から砂漠へと逃げ出した者達がいるようだ。 まだ生きているかもしれない。彼らを保護し、話を聞かなくては。

【状況3】

 君は砂漠の遺跡の中で、何者かと交戦状態にある兵士たちを発見する。 彼らが戦っているのは……『米軍の兵器』だ! それらが小型の人型へと形を変えながら兵士たちに襲いかかっているのである。 兵士たちも応戦を続けているが、圧倒的に不利な状況が続いている。 ヒーローよ、君の力が必要だ!

【エンドチェック】

□兵士を助けた□機械の怪物たちを目撃した

【解説】

 このシナリオはヴィラン組織「バイスデバイス」との初遭遇モノとして執筆している。そのため、PCが事前にバイスデバイスのことを知っているのは好ましくない。 【状況3】で兵士たちを襲っているのはリトル・コアの群れだ。エアヘッドQはすでに米軍のデータを奪い、この場から離脱している。

【イベント2:爆走暴走上海街道】

登場:PC2舞台:中国・上海・工業地帯

【状況1】

 君は中国・上海の工業地帯で、巨大な怪物が暴れているという報告を受けて現地へと急行している。 君を運ぶ航空輸送機が現地上空へとたどり着くと、そこはもはや更地も同然の有り様になっていた。 スクラップの山の中で蠢くものがあった。それはあまりにも巨大なロボットに見える。「俺がマッシャーだ! ダーッ!」 怪物は空へと名乗りと思しき咆吼を上げる。あれが主犯であるのは間違いがなさそうだ。 輸送機のパイロットが通信で合図を送る。『ヒーロー、PC2。投下します。3、2、1…!』

【状況2】

 君はマッシャーと名乗った怪物と、熾烈な争いを繰り広げる。 そしてその戦いの末、見事その怪物を打ち倒すことに成功した!「く、くそう、この俺様が! 畜生、お前、何者だ!」「PC2! PC2だな! 覚えたぞ…!」「お前を殺すのはこの、バイスデバイス・ナンバー2、マッシャーV様だ。忘れるな!」 マッシャーVはそう叫ぶと……次の瞬間、自分の頭を自分で握り潰してしまった! マッシャーVの体がバラバラになり、周囲に静寂が訪れる。戦いは奇妙な形で収束を迎えた。

【状況3】

 君はその後、そのエリアの調査を行う。 その結果、そこには中国軍の極秘データベースがあったことが判明する。幸いに、データは君の活躍によって奪われることはなかった。しかし政府の介入により、そのデータに何が保管されていたのかが明かされることはなかった。 何より奇妙だったのは、マッシャーVの亡骸の調査を行なったところ、それが何の変哲もない土木車両であったことだ。超科学の痕跡も、遠隔操作された痕跡もないそれは、周囲に転がっているスクラップと何ら変わらない残骸でしかなかった……。

【エンドチェック】

□マッシャーVを撃退した□バイスデバイスという言葉を知った

【解説】

 マッシャーVとPC2の初遭遇シーンだ。 マッシャーVはセイント・ジェムの情報を求め、中国の秘密データベースを奪い取ろうとしたが、隠密行動に適さない彼はその任務を果たせなかった。以後、マッシャーVはPC2のことを勝手にライバル視しはじめる。

【イベント3:ネットオークションのご利用は計画的に】

登場:PC3舞台:日本・G6支部倉庫

【状況1】

 君はG6の依頼を受けて、セカンド・カラミティで死亡したヒーローの遺品を整理する手伝いをしている。 身よりの無かった者や、遺族の同意を得た品の中で、民間に渡っても問題のないものを中心に、フリーマーケットやネットオークションを使って売買を行うのだ。ファンの手によって買い上げられたそれらの売り上げは、G6の活動資金へと当てられることになっている。 その日も、君は遺品のオークション登録作業を行っていた。その日、遺族から出品依頼を受けたのは、あるヒーローが使っていたという古い眼鏡だった。遺族のユーザー名は『プレイボーイ517』だった。

【状況2】

 業務を終え、君はその日帰路についた。 セカンド・カラミティの死者は膨大だ。作業はまだまだ残っている。 人気のない夜道を歩いていると、路地裏から人の悲鳴と、サイレンの音が聞こえてくる! 君が路地裏に入ると、そこには一台のパトカーが止まっていた。 事情を聞くため、パトカーへと近づくと……。 次の瞬間、パトカーが巨大な人型へと変形し、君の体を掴み上げた!「お前がユーザーネーム"プレイボーイ517”か?  e-Bay出品番号21153はどこだ?」 それは確かに、あの商品の出品者のユーザーネームだ。

【状況3】

 そのロボットが、あの古い眼鏡を探しているのだということはすぐに分かった。 君はそのロボットに抵抗したかもしれないし、あるいは話を訊こうとしたかもしれない。 しかし、そんな時だ。表通りの方から、人の声がした。「やめなよケンちゃん、危ないよ!」「大丈夫だって! さっきヒーローがこの奥に入ってくの見たんだ、サインもらえるかも!」 それは塾帰りの小学生のようだった。このままでは彼らを巻き込んでしまう! しかし、その時、君は見る。君を掴む巨大なロボットが、君と全く同じような表情──すなわち、このままでは彼らを巻き込んでしまう! という焦り──を浮かべたということに。 君が追求するよりも早く、そのロボットはパトカーに変形すると、君を車内に放り込み、猛スピードで走り出す。 放り込まれた時に頭を強く叩きつけ、君は意識を失ってしまった。

【エンドチェック】

□誘拐された□巨大ロボットが小学生を巻き込まないようにしている様を見た□眼鏡が狙われていることを知った

【解説】

 スラローム8とPC3の遭遇シーン。 スラローム8はネット回線をハッキングすることで、過去にセイント・ジェムを発見した経歴のあるヒーローの遺物に辿り着いていた。ネット回線越しの接触だった為、遺族本人ではなく登録作業を代行していたPC3へと辿り着いてしまう。 ここでスラローム8はPC3を誘拐し、遺物のメガネも回収してしまう。だが、目撃者であるPC3のことをうまく処分できず、月面基地まで連れて帰ってしまう。彼は地球人への情ゆえに、とても詰めが甘い。

3.展開フェイズ

【クエリー1:未確認機械生命体】

登場:PC1・PC2舞台:アメリカ軍研究所

【状況1】

 米軍兵士を救出したPC1と、上海の騒動を収めたPC2は、その事件の類似性から情報を共有する為に合流する。 PC1は米軍兵士を本国まで護衛し、PC2はアメリカへと渡った。 かくして米軍基地のヘリポートで二人は合流することになる。

【状況2】

 研究所内では、カタールでの戦いの際に鹵獲された小型ロボットの解析が進められていた。 強化ガラスケースの中に閉じ込められた小型ロボットが、外に出ようとガラスに体当たりを繰り返している。しかし強力なガラスは破れない。 研究員が通信越しに君たちに声をかけてきた。『ヒーローさん、丁度良かった。こいつらについて色々と分かってきたところなんです、面白いものをお見せしましょう』 研究員の声と同時に、ガラス内にレーザーが照射される。小型ロボットは悲痛な悲鳴を上げると、バラバラに砕け散ってしまった。『面白いのはここからです。ここに、新しい機械を投下すると……』 ガラスケースの中に、慎重にラジカセが投下される。するとラジカセがガラスの中で変形し、小型ロボットとなった。『どうやら彼らの生命は、肉体に依存するものではないようです。機械に憑依する精神体のようなものだと思われます』『彼らが何者なのかはまだ分かりませんが、幸いサンプルは頑丈です。より詳しい解析を進めていけば、いずれ判明するでしょう』 研究員は意気揚々とそう言った。 ガラスケースの中、小型ロボットは、レーザー照射機を怯えたように見つめている。

【状況3】

 ガラスケースの中に、耳障りな機械音を放つ電動ノコギリが備えられたアームが伸びる。 それまで外へと逃げ出そうとしていた小型ロボットが、次の瞬間に悲鳴を上げて崩れ落ちた。 君たちがガラスケースを見ていることに気づいたらしく、小型ロボットはガラスケースの中から地球の言語で声を上げた。様々な国の言葉が述べられたのち、最後に彼は君たちでも理解できる国の言葉で、君たちに助けを求めてきた。『た、頼む、助けて、助けてくれェ! この音は嫌だァ!』『オラたち、上の命令でやっただけなんだ。どうせオラども、消耗品だからナ! 頼むヨ、知ってること全部話すからサ、この音を止めてくれェー!!』 さて、どうしよう?

【エンドチェック】

□合流した□リトル・コアの言葉に答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 PC1とPC2がバイスデバイスについて知るシーン。GMからPLへの説明シーンも兼ねている。 PCはリトル・コアに対して同情的でもいいし、あくまで敵対的な態度を貫いてもいい。小市民ぶっていても、彼らが侵略者であり、米軍基地で犠牲を出したことは変わらない。

【クエリー2:機械の体だ! バイスデバイス!】

登場:PC3舞台:バイスデバイスの秘密基地

【状況1】

 PC3は、誰かが話している声を聞き、目を覚ます。 君は、窓のない部屋の中に拘束され転がされていた。声は部屋の外から聞こえてくるようだ。 拘束は普通の地球人なら外せないものだろうが、ヒーローである君ならば、どうにか外すことが出来そうだ。君は聞き耳を立てながら、こっそりと拘束を外す。

【状況2】

 聞こえてきた会話はこんなものだった。『君たちねぇ、確かにやれって言ったのは吾輩だけど、ちょっとやりすぎなんじゃないのォ〜? 特にマッシャーくん! 何コレ、あれだけ暴れて成果ゼロ!? バカなのォ!? あのエアヘッドQですらデータ持ち帰ってきてるんだよ? 恥ずかしくないのォ?』「う、うるせえ! もうちょっとで手が届いたんだよ! あそこであいつが来なけりゃ……ぶつぶつ……」「あれ、今ボクちゃん遠回しに馬鹿にされた? まいっか! いえ〜いパノプティコン様に褒められちゃった〜!」『正直、君が考えたとは思えないぐらい上出来だよ、エアヘッドQ。やればできるじゃないか! で、誰の入れ知恵?』「えっへっへ、秘密だヨォー! 秘密の友達ィ!」『はいはい、じゃあそれは後で聞くね、まったく……だが、今回のMVPはお前じゃない。スラローム8、よくやった! これがセイント・ジェムの在り処を示す遺物なんだな?』「はい、その通りです。セイント・ジェムを発見したヒーローが、当時身につけていたものです。 残念ながら本人は先の大規模な地球人同士の内戦で死亡したようで。 地球人たちには分からなかったようですが、我々の技術であれば、このヒーローがセイント・ジェムをどこに運び出したのか、この遺物から読み取ることが出来る筈です」『すんばっらしい!』

【状況3】

 部屋の中を覗き込めば、そこには君を誘拐したあのロボットや、似たような雰囲気を持つロボットたちがいた。彼らの前にはモニターが置かれている。遠隔会議の最中のようだ。 マッシャーVと呼ばれたロボットが、君を誘拐したロボット、スラローム8と呼ばれたロボットへと声をかける。「ケッ! で? 優秀なスラローム8様は、ちゃーんと目撃者は消したんだよなあ?」「そ、それは……勿論だ。当たり前だろう!」「ハンッ、どうだかな!」『コラコラ君たち喧嘩しないのォ。で・も、こればかりはマッシャーVの言う通りだ。君は吾輩をガッカリさせないでくれよォ、スラローム8』「……はい、お任せを」 通信は途絶え、モニターの明かりが落ちる。スラローム8以外のロボットたちは各々が解散していく。 スラローム8は溜息を吐き、振り返り……PC3に気づき、悲鳴を上げた。「ああああああ!!!! お前、お前お前お前!!!! 何、なんで、縛っておいたのに、嘘だろ!?」

【状況4】

 スラローム8は、自分たちが惑星トレジアという場所から地球へときた器霊種(ディサイマルズ)と呼ばれる種族であると話す。彼らは地球へ、セイント・ジェムと呼ばれる神秘の石を探しにやってきたという。そしてあのヒーローの遺品が、セイント・ジェムの在り処をつかむ為のヒントであったのだと。 スラローム8は、君に銃を向け……迷うように言った。「……セイント・ジェムさえ手に入れれば、俺たちはこの星にもう用はない。パノプティコン様の指揮のもと、母星に帰ることになるはずだ。だから……ここでは何も聞かなかったことにして、全部忘れてくれないか」 どうやら、このスラローム8という兵士は、地球人に対して情を抱いているらしい。 君の答えは…。

【状況5】

 PC3がスラローム8の要求を拒否するのであれば、交戦の末に。 口だけでも受け入れるのであれば、スラローム8自身の導きによって。 PC3は基地内の脱出ポッドを使って、地球へと逃れることになる。 ここは月の裏側に作られた、彼らの宇宙基地だったのだ!

【エンドチェック】

□バイスデバイスのことを知った□月面基地を脱出した□グリットを1点獲得した

【解説】

 PC3がバイスデバイスのことを知るシーン。また、彼ら個人のキャラクターや関係性の説明や、行動の説明を兼ねる。マスターシーンのようなものとして、陽気に処理すると良いだろう。 当初はパトカーに扮していたスラローム8は、このシーンではいつも通りのスポーツカーに戻っている。 この時点では、バイスデバイスのボスであるパノプティコンAは通信機越しの登場となり、その全貌を明かさない。

【クエリー3:セクター7の取引】

登場:PC1・PC2舞台:米軍研究施設

【状況1】

 PC1とPC2もまた、小型ロボット──リトル・コアと呼ばれる労働者階級の末端兵士たち──から、バイスデバイスのこと、器霊種(ディサイマルズ)のこと、セイント・ジェムのことを聞かされる。 そして彼らは、セイント・ジェムを求め、ずっと昔からこの地球に潜伏していたということを明かす。

【状況2】

 そんな時だ、にわかに研究所が騒がしくなり、高級な黒スーツにサングラスをかけた集団が研究所へ訪れる。「これよりこの研究所は我々『セクター7』の指揮下に入る。職員たちは即刻その場を離れてもらおう」「君たちは……ああ、報告書にあった『民・間・協・力・者』か。君たちも退出を願おう、あとはワ・レ・ワ・レで処理させて頂く」「ここに大統領のサインもある。これは正式な決定だよ。それとも、アメリカに逆らうかね?」 君たちの視線の先で、部屋から退出していく職員が、ペンライト状の道具の光の照射を受けて意識を失っている様が目に入る。記憶処理を施しているのだ。「な、なあおい! オラ、あいつのこと知ってるぞ! ずっと昔、あいつに捕まって、ひでえ目にあったんだ!」 君の背後でリトル・コアが小声で君たちへ告げる。どうやらセクター7とやらは、器霊種(ディサイマルズ)のことを知っているらしい。 ここで彼らの条件を飲めば、記憶処理を施され、全てが無かったことになってしまう。抵抗をさせてもらおう!

【状況3】

 君たちの抵抗を受け、セクター7は慌てて降参した。「ああ、もう、分かった! わーかった!」「事情を説明する! だからそのスーパーパワーを仕舞ってくれ、全くスーパーマンどもめ……」 君たちは別室に通され、セクター7長官が持っていたケースの中から古い資料を示される。 そこには以前から、バイスデバイスおよび器霊種(ディサイマルズ)について秘密裏に調査が進められていたことが記されている。 何より、彼らが探していたセイント・ジェムと呼ばれる神秘の宝玉は、1990年代にアメリカ合衆国が秘密裏に確保し、調査と研究を行っていたということが分かる。セイント・ジェムのエネルギーは、現代の米軍の武器に流用されているということも判明する。 セクター7長官は言う。「セイント・ジェムは非常に危険な代物だ。奴らに渡してみろ、簡単にこの星が吹き飛ぶぞ」「セイント・ジェムに連なる情報は、どんな些細なものでも表に出すわけにはいかん。 全てを『最初から無かった』ことにする必要があるのだ。 そのようにして、我々人類が、適切、かつ、安全に、維持していく必要がある。 世界の平和の為に! ……君たちなら、当然分かってくれるね?」 欺瞞を帯びた言葉だ。さて、なんと答えよう?

【エンドチェック】

□セイント・ジェムの真実を知った□グリットを1点獲得した

【解説】

 地球側が昔から器霊種のこと、そしてセイント・ジェムのことを知っていたことが明らかとなるシーン(これはこのシナリオ独自の設定である)。「セクター7」は昔からその調査を行っていた米軍の極秘機関だ。 セクター7長官の言葉は、独善的で偉そうな態度にすると良い。立場としては悪人ではないのだが、人類側の政治的思惑なども多数絡み合う立場の上、人間的にムカつく奴なのだ。 セイント・ジェムの破壊を提案した場合、彼は目をひん剥いて反対する。「破壊だと! とんでもない! 貴様らはこれがどれだけ重要なものなのか分かっていない!」「ゆくゆくはこの地球が銀河連邦に名を連ねることもあるだろう。その時、このセイント・ジェムを有しているということが、どれだけの政治的アドバンテージを生むか分からんのかね?」

【チャレンジ1:バイスデバイス、アタック!】

登場:PC1・PC2・PC3舞台:フーバーダム

【状況1】

 PC1とPC2がセクター7長官と睨み合っている時、背後のセクター7職員が通信に応じる。職員は何事か小声で通信を行なっていたが、次の瞬間大声で悲鳴を上げた。「ええっ!? バイスデバイスがフーバーダムに急襲を!?」 セクター7長官が目を剥いた。「なんだと!?」「どういうことだ、どこから漏れた!?」「不明であります!」「ええい、もういい、今動ける人員をありったけ向けろ! 絶対にセイント・ジェムを奴らに奪わせるな! 最近隣のエージェントは……なに、セカンド・カラミティで死んだァ!?」 慌てて随所へ指示を出すセクター7長官と、君たちの視線とがかち合う。 セクター7長官は、しばしの逡巡の末、わかりやすい猫撫で声と胡散臭い笑顔で君たちに申し出た。「ところで、素晴らしき零等星級ヒーローのお二方。この後、お暇ですかな?」

【状況2】

 急ぎフーバーダムを訪れたPC1とPC2は、ダム内の秘密基地を、そしてその中にあるものを死守するために戦う米軍兵士達と、圧倒的巨体で彼らをなぎ払うマッシャーVとエアヘッドQの姿を目撃する!「ボクちゃん、いいこと思いついたヨォ!」「そりゃ本当にいいことなんだろうな……って、テメーッ! 俺ごと撃つんじゃねーッッ!!」 間の抜けた会話とは裏腹に、空からの無尽蔵な爆撃と、地上での無差別な暴虐は着実に基地を破壊していく。迎え撃たねばなるまい!
–––––––––––––––––【チャレンジ判定】※この判定はPC1・PC2が行える。PC3も支援は可能■判定1:エアヘッドQと戦う……操縦 or 霊能-10% or 作戦■判定2:マッシャーVと戦う……白兵 or 射撃 or 霊能
【失敗時(共通)】3d6点のダメージを受ける。–––––––––––––––––

【状況3】

 PC1とPC2の参戦により、ギリギリのところでマッシャーVとエアヘッドQとの戦いは持ち堪えられる。だが、それも時間の問題だ。相手に新手の増援が来れば、この均衡は崩れるだろう。 その時、空の彼方からきらりと輝くものが──フーバーダムを丸ごと飲み込むようなサテライト・ビームが、地上を貫いた! それは脆弱な有機生命体たちを殲滅し、戦況を一瞬にしてバイスデバイス有利へと傾けるに十分な支援攻撃であった。「マジ!? ボスが動いたの!? めっずらしー! 1万年ぶりぐらいじゃナイ!?」「うだうだぬかすな、さっさとやるぞ!」 マッシャーVの巨大な拳が、崩れかけていたフーバーダムをついに打ち砕き、ダムの水が激しい決壊を始める! その隙を突き、エアヘッドQとリトル・コアたちが、そのダムの最奥に隠されていた神秘的な宝玉──セイント・ジェムを奪取する!「あばよ、下等な有機生命体ども!」「ヒャッホーウ、ボクちゃん大勝利~!」 飛び去るマッシャーVとエアヘッドQ。人類の追撃はもはや届かず、ここまでかに思われた……その時だ! 轟音と共に、脱出ポッドがダムの水に着水した!

【状況4】

 PC3が脱出ポッドから這い出ると、そこは崩壊したフーバーダムだった。 PC1、PC2とも合流し、何があったのかを君たちが理解しあった時、生き残っていたセクター7長官がPC3の脱出ポッドを見て声を上げた。「そこの君! 君は一体どこからこれを使って落ちてきたっていうんだ!?」 PC3から月面基地のことを聞いたセクター7長官は、周囲の生き残りたちへ声をかけ、解析を急がせる。「何の為に我々が、馬鹿げた額の国家予算を費やして、あの宝石を守り続けてきたと思っているんだ! こう言う時に出し渋らないようにするためだ!」「奴らの手からセイント・ジェムを奪い返すぞ! 詳しい位置情報の解析に……こういうのが出来るミスティックやテクノマンサーの手配……ああパイロットも必要だな……! おい、ヒーロー! お前らも暇なら手伝え!! 細かいことはいいから地球を救うぞ! 責任は全て私が取る! なんでもやれ!」 悪い奴らではないらしい。少なくとも、この状況に於いては。
–––––––––––––––––【チャレンジ判定】※この判定には全員が参加できる。誰か一人が成功すれば成功とする。■判定3:バイスデバイスの後を追う……霊能-10% or 科学-10% or 操縦-10%
【成功時】決戦時に『米軍全面協力』の効果がPCたちにつく。–––––––––––––––––

【エンドチェック】

□バイスデバイスにセイント・ジェムを奪われた□バイスデバイスの後を追って宇宙に飛び出した

【解説】

 バイスデバイスにセイント・ジェムを奪われ、PCたちが合流し、最終決戦に向けてバラバラだった人類側の意思が一致するシーン。 パノプティコンAのサテライトビームは、恐ろしい一撃であるような迫力ある演出をしてしまおう。どれだけふざけた言動をしていても、恐ろしい実力を持つ異星人たちなのだ。 セクター7の長官は、1度目は打算的に、2度目はなりふりを構わず本気でヒーロー達へと協力を依頼する。そのために必要な情報開示を、もはや惜しむことはないだろう。

【チャレンジ2:ヒーロー、ロールアウト!】

登場:PC1・PC2・PC3舞台:宇宙

【状況1】

 バイスデバイス月面基地にて、スラローム8がパノプティコンAに対し報告を続けていた。「エアヘッドQとマッシャーVがセイント・ジェムの奪取に成功したようです。あと3サイクルで帰投予定。彼らが帰投次第、至急トレジアへの航行計画を……」 その言葉をパノプティコンAが遮った。『おーいおい、冗談はナシ子ちゃん。どれだけ長い間、我々がこの下等な有機生命体塗れの星に縛り付けられたと思っているんだい』「ぱ、パノプティコン様? それはどういう……」 その言葉と同時、通信の向こうでエアヘッドQとマッシャーVの声がした。『パノプティコン様! 無事セイント・ジェムを確保しました!』『プレゼントフォーーーユーーーー!』『……長らくの潜伏もついに終わりだ。早速、セイント・ジェムの試し打ちといこうではないか!』「ま、まさか…!? 悪いことはよしましょう、ボス!」 しかし、パノプティコンAがスラローム8の言葉に耳を傾けることはなかった。『吾輩は我慢の限界だよ、君ィ』
 歪な機械音を上げて、宇宙空間に浮かぶ、巨大な──…あまりにも巨大な人工衛星が形を変えていく。 バイスデバイス首領、パノプティコンAが遂にその身を現した。
 セイント・ジェムの力を得て、さらに強力になったサテライト・ビームが、地球めがけて照射される。その先にあるのは……日本だ! スラローム8が悲痛な悲鳴を上げた! しかし、攻撃は止まらない! 日本列島がたやすく消滅するだろうその一撃──…。 しかし、その射線上に立ち塞がる、三人のヒーローの姿があった!
–––––––––––––––––【チャレンジ判定】■判定:サテライト・ビームの軌道を逸らせ!■技能:任意の技能-20%■必要成功数:3回(各PCが1回ずつ成功する必要がある)
【失敗時】日本列島が消滅する。決戦でグリットを使用できなくなる。–––––––––––––––––

【状況2】

 パノプティコンAが無慈悲に放った一撃が、ヒーローたちの力によって軌道を変える。日本に直撃するはずだったそれは太平洋へと着弾し、ひとまずのことなきを得る。 現れたPCたちにパノプティコンAは怒りの声を上げ、部下へ迎撃を命じた。「PC2! 生きていたのか! それでこそ俺様の好敵手! このマッシャーV様が捻り潰してやるぞ、ダーッ!!」「ウワー、ここまできちゃったよ! これはちょっと不味いかな? ヤバイかな? どーしよっカナ〜!?」 鼻息荒くPC達を迎え撃たんとするマッシャーVに、この期に及んで身の振り方を考えるエアヘッドQ。 一連の様子を月面基地のモニター越しに眺めていたスラローム8へ、パノプティコンAが冷たく尋ねた。「──それで?」「君はどちらに着く気かね、スラローム8」
 スラローム8はPC達を見つめ、その背後の青い星を見つめ……最後には体から力を抜くと、自身も基地を飛び出した。 地球人類に仇為す、宇宙からの侵略者として、バイスデバイスの一兵士として、君たちの前に立ち塞がる為に。「パノプティコンに栄光を!(オール・ハイル・パノプティコン!)」 さあ、戦いだ!

【エンドチェック】

□バイスデバイスの前に立ちはだかった□さあ、戦いだ!

【解説】

 ヒーローvsバイスデバイスの構図が完成するシーンだ。ヒーロー登場シーンは、地球の守護者然として格好良く演出すると良いだろう。 スラローム8は地球人への情に悩むが、それでも結局、最後にはバイスデバイスの兵士としての立場を取る。それはパノプティコンAへの忠誠が故かもしれないし、恐怖が故かもしれない。卓ごとに好きに演出すればよいだろう。 スラローム8は月面基地から一連の出来事を遠隔で見ていたため、決戦時にかけつけるのに時間がかかる。

4.決戦フェイズ

【決戦:オール・ハイル・パノプティコン!…戦闘情報】

【エネミー】

・パノプティコンA・エアヘッドQ・マッシャーV・リトル・コア×2(1ラウンド終了時点:スラローム8)

【エリア配置】

■PC初期配置 エリア1・エリア2■NPC初期配置 エリア4:パノプティコンA、リトル・コア×1 エリア3:エアヘッドQ、マッシャーV、リトル・コア×1、(スラローム8)

【勝敗条件】

勝利条件:エネミーの全滅敗北条件:PCの全滅

【備考】

・全てのエリア(※)を『エリアタイプ:宇宙』とする。・1ラウンド終了時に、エリア3にスラローム8を追加する。・チャレンジ1に成功している場合、PCたちは『米軍全面協力』の効果を得る。※チャレンジ1に成功している場合、『エリアタイプ:宇宙』はエリア3と4のみとなる。
■【米軍全面協力】PCが与えるダメージに+1d6点の補正を与える。エリア1・2の『エリアタイプ:宇宙』を撤去する。──米軍が誇る科学と火薬が君をサポート!

5.余韻フェイズ

【シナリオの結末(一例)】

 ヒーローとバイスデバイスの激しい戦いの末、パノプティコンAが宿していたセイント・ジェムは弾け飛び、宇宙空間へと飛び出す。そこに、エアヘッドQが放った流れ弾が命中し…。 宇宙空間で凄まじい爆発を上げ、セイント・ジェムが砕け散った! 幾千万もの破片となったセイント・ジェムが、重力に従い地球の各地へと降り注いでいく。 パノプティコンAとセクター7長官の悲痛な悲鳴が重なった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーッッ、そんな! セイント・ジェムが! エアヘッドQ! この愚か者めがー!!!」「ゲェーッ! やっべ、逃〜げろ〜〜!」「な、何をしている! バイスデバイス、セイント・ジェムの破片を追え! 追えーッ!!」 バイスデバイス達は各々、大慌てで地球へと再降下していく。 かくして彼らの企みは振り出しに戻され、地球には再び平和が訪れたのであった。「「「「覚えてろー!!!!」」」」

【シナリオ経験点】

初期グリット:4点クエリーグリット:3点リマークグリット(想定):3点--------------------------------------------------=合計:10点