御前試合霊能合戦
御前試合霊能合戦
七人みさきは、高知県を初めとする四国地方や中国地方に伝わる集団亡霊。災害や事故、特に海で溺死した人間の死霊。その名の通り常に七人組で、主に海や川などの水辺に現れるとされる。
【PC1:人の世に生きるもの】
江戸の町に高札が掲げられる。 そこには「稀代の大悪党・ペテン師捕らるる」の文字があり、ペテン師・修験の御六の似姿が描かれていた。 確かに御六はペテン師で、詐欺詐称は大罪だ。裁かれても仕方のない身分の男ではある。 これは彼が仕組んだ仕掛けの一端か、それとも本当に年貢の納め時なのか。 君はこの件に首を突っ込むことにした。(中盤〜後半にかけて、素性を隠して動くことになる。偽名(ヒーローネーム)等を考えておくと良いだろう)【PC2:人ならざるもの】
人里離れた山の中、君は鴉に啄ばまれた人間の死体を見つけた。 亡骸を確認してみれば、男は『御前試合霊能合戦』なる催しへの出席者を探すための使者であったらしかった。しかしよくよく確認してみれば、それとは別に胸の内に密書が隠されていた。 密書にはこうあった。「七人みさきに終止符を打つ為、力を借りたい」と。【GM向け情報:事件の全貌(後編の情報を含む)】
【エントリー1:ペテン師捕らわる】
【状況1】
江戸時代に於いて、罪人の処刑は公開で行われた。それは庶民に対する見せしめであり、同時に、陰鬱な娯楽としての側面を有してもいた。 故に、江戸の町の高札に罪人逮捕と処刑予定の報が載るのも、そう珍しいものではなかった。そこに、君の知人の名が載ってさえいなければ。『修験者を装う稀代の大悪党・ペテン師捕らわる』 そこに記された名前は、紛れもなく君の知り合いである修験の御六のものだった!「まったくふてえやろうだ」「きっととんでもないろくでなしなんだわ!」「打首獄門待ったなしよな」【状況2】
詳しい話を聞こうと奉行所へ向かっても、すげなく君は追い返されてしまう。 御六は本当に処刑されてしまうのか? それともこれは彼の仕掛けの一端なのか? 帰路に着く最中。君の耳に小さな鈴の音が届く。 視線を向ければ、奉行所の塀を背にして、一人の願人坊主(大道芸人)が立っていた。 坊主は君を見て言う。「修験の御六と話をしたいのなら、丑三つにもう一度、ここへ来なされ。案内をして差し上げましょう」【エンドチェック】
□御六逮捕の報道を知った□奇妙な願人坊主と出会った【解説】
願人坊主は御六の知人であると名乗り、このままでは彼は死ぬでしょうとPC1をけしかける。自分の名を尋ねられれば「乞食の名など知っても役には立ちますまい」と名乗らない。 実際にはこの願人坊主は妖怪・影法師である。御六の知人というのは嘘だ。【エントリー2:行き倒れの侍】
【状況1】
人里離れた、薄暗い山の中にて。 君は偶然にも行き倒れの死体を見つける。 それは帯刀し、傘を差した、身なりの良い侍であった。旅の最中であったのだろう、袈裟がけに切り裂かれた傷が痛々しい。盗賊にでも襲われたのか、無惨な姿であった。【状況2】
侍の遺体を確認すれば、彼は懐に書簡を携えていた。それは、陸奥・遠野にあるという『北森藩』から、江戸へと届けられる筈だったものらしい。内容を纏めると、「北森藩にて『御前試合霊能合戦』なる催しを行う事が決まった。江戸の町から一人、霊験確かな霊能者を選出したい。身分は問わず、罪人であれば恩赦を与えたのちに出向させるべし」という文面であった。書簡には、領主のものと思しき、三つ葉葵の印が残されている。【状況3】
しかしよくよく調べてみれば、侍の懐、縫い合わせられた布地の下に、別の書簡が隠されていた。それは密書だった。 密書には、この侍の名が「南雲左近」という北森藩の侍であるということ、江戸勤めの同胞(それが何者であるかは分からなかった)に当てたものであるということが分かった。そこにはこうあった。「七人みさきを終える為、力を借りたい」と。 七人みさきといえば、妖怪の一種だ。これはどういう意味だろう? 興味を駆られた君は、PC1か、あるいは知り合いのペテン師の知識を尋ねてか、江戸の町へと向かってみることにした。【エンドチェック】
□侍の死体と密書を見つけた□江戸へ向かった【解説】
この時点ではPC2は御六が捕まったことは知らない。 侍への同情か、死体の処理についての相談か、ただの好奇心か、江戸に向かう理由は何でもいい。 七人みさきは、本来であれば高知をはじめとした四国・中国地方で語られる妖怪の名前だ。事情を知らぬ者から見れば、何から何まで奇妙な取り合わせである。 また、PC2が知っているかはさておき、書簡に記された『三つ葉葵の印』とは、将軍家にゆかりのある者のみが使うことを許された極めて身分の高い印である(水戸黄門などで有名なアレである)。北森景政と将軍家の繋がりを意味しているが、PC2が気付くかどうかは好きにしてほしい。【クエリー1:丑三刻・伝馬町牢屋敷】
【状況1】
丑三つ時。PC1が例の願人坊主が居た場所を再び訪れると、昼と同様、あの坊主はそこに居た。 坊主はPC1に気付くとニヤリと笑い、「さあこちらへ」と手を伸ばす。 その手を取れば、意識がゆらりと揺れる感覚を味わい、気付いた時にはどこかの屋敷の中にいた。 かたわらの坊主が言う。「修験の御六の牢はその先に。四半刻(30分)以内にお戻りくだされ」【状況2】
屋敷の中をこっそりと進めば、やがて牢が見えてきた。その中の一つに、御六の姿があった。 御六は檻越しにPC1に気付くと驚き狼狽える。「どうしてこんな所に!?」「ここは伝馬町の牢屋敷でございやす。まかり間違っても、PC1さんがこんな時間に来なさるような場所じゃねえ」【状況3】
PC1がここに来た理由や方法を聞くと、御六は顔をしかめ、思案した後に言う。「来て頂いて何ですがね。今回ばかりは諦めて頂くしかありません」「ご定法に背く生き方をしているのはあっし自身の判断。それがとっ捕まっちまった以上、年貢の納めどきというやつです。詐称は死罪と決まっています。お上に知られたらPC1さんも同罪ですぜ」「つまんねえ人生でしたが、最期にお会いできて嬉しゅうございました。お達者で」 そんなことを言う御六。 君は何と答えよう?【状況4】
(※反対意見を述べられた場合を想定) 君の言葉を聞き、御六は深く深くため息を吐く。しかしその様子は、どこか分かっていたような風情でもあった。 彼は声を潜めて君に耳打ちをする。「それじゃあ、本当のことをお話しましょう。こいつはあっしの仕掛けの一つ、おっ死ぬつもりはさらさらありやせん」「全てのコトが終わったら、ご説明致しやしょう。今は仔細を語れば仕掛けがどう綻んじまうか分からねえ、今日のところはお帰りを」 そこまで話した後、御六は険しい顔を浮かべ、尚も続ける。「それより……気になるのはPC1さんをここまで案内したっていう坊主のことです」「あっしの伝手(つて)で、そんな野郎は居ませんぜ」「ここを出なすったら、その坊主からは一目散に離れるべきだ。どこの馬の骨か知りませんが……ロクな手合いじゃねえことだけは確かですよ」【エンドチェック】
□御六の言葉に答えた□グリットを1点獲得した【解説】
伝馬町の牢屋敷とは、江戸・伝馬町にあった、江戸時代の拘置所のような場所だ。未決囚が収容されており、身分によって収容区域や待遇が異なった。滅茶苦茶治安が悪いことでも有名。御六の身分は無宿人と呼ばれる最下層のものである。 また、江戸時代の詐欺は重罪であり、死罪はもちろん、最悪の場合は関係者・親類・友人知人なども同罪として処罰されることもあった。御六の態度はそういった当時の常識に由来している。 『状況4』に於いて、御六は真実と嘘を入り交ぜて話をしている。死ぬつもりがないということや、願人坊主に関する話は真実だが、全てが終わったら説明するというのは嘘だ。彼はこれを機会に、PC1/PC2を守るため、縁を切るつもりでいる。わざわざ捕まり死罪を装うことにしたのは、PCたちはもちろん、盤外視座側にも「完全に縁が切れた」と認識させるためである。 御六にとって予想外であったのは、謎の願人坊主の介入と、それに伴いPC1がここまで行動を起こしてしまったことだ。【クエリー2:人質】
【状況1:PC1】
PC1が坊主と合流すれば、謎の坊主は行きと同様、あっと言う間に君を外へと連れ出してしまう。 そうしてPC1へと尋ねた。「修験の御六はあなたへ何かを話されたかな?」【状況1:PC2】
一方そのころ。 PC2が江戸の町にたどり着いた時、時刻はすっかり夜だった。 PC2がPC1を見つけた時、PC1は奇妙な願人坊主と共にいた。 願人坊主がPC1へ問いかける声が聞こえる。「修験の御六はあなたへ何かを話されたかな?」 君はPC1と坊主のやりとりに割って入ってもいいし、見守ってもいい。さて、どうしよう?【状況2】
「此度の修験の御六の仕掛けが何のためのものか、お分かりですか」「PC1殿、あなたを守るためですよ。此度の仕掛けの矛先は、あなたなのです」「おかしいとは思いませんでしたか。蛇腹太夫の一件で、裏社会の者を敵に回しておきながら、あなたにはその後、何の追手も向けられていない。山伏の民の時同様、一族郎党に類が及ぶが普通ではありませんか」「あの男はそれを己で担い、貴方へ類が及ばぬように尽くしていたのです。そうして己と貴方の縁が切れたと世へ示す為、『自らが死んだと』を貴方を化かそうとしているのですよ。仕掛けが成功して生き延びたとしても、失敗して死んだとしても、あの男は二度と貴方の前に姿を現すことは無くなるでしょう。貴方を守るために」【状況3】
PC1とPC2は合流し、互いに情報を共有し整理する。 そうすれば、あの謎の坊主が言っていたことが、PC2が持ってきた『御前試合霊能合戦』で与えられるという恩赦のことを指すことが分かるだろう。 御六を信じ、動かず待つべきか? ……しかしそれであの男が本当に死んだなら? 坊主を信じ、この話に乗るべきか? ……しかしこれが何かの罠だとしたら? どちらの選択にも危険は伴う。 だが…。【エンドチェック】
□御前試合霊能合戦へ挑むことにした□グリットを1点獲得した【解説】
御六の仕掛けの真相を、御六ではなく、願人坊主の口から告げられるシーン。このシーンの願人坊主の推察は全て真実だが、目的はPCたちと御六を北森藩へと招くための罠だ。南雲左近を殺したのもこの願人坊主(影法師)である。 御六に対する怒りか、正義感か、あるいはただ反骨心か、理由はなんでも構わないが、PC1とPC2は御六を救うために御前試合へ挑む決意をすることになる。御六を信じて待つという選択肢はシナリオでは想定していないので、その時はGMを交えてシーンを作っていくと良い(この時は信じることにしたが、何日経っても、刑当日を迎えても動きがなく、徐々に不安に駆られていくなど)。 GMはいかに御六が胡散臭く信じるに値しない男であるかを示し、うまいこと誘導していこう。【チャレンジ1:ペテン仕掛け】
【状況1】
君たちは御六を救うため、『御前試合霊能合戦』を利用することにした。 そのためにはまず、江戸の奉行所を騙さねばなるまい。 お上を敵に回す大ペテン、失敗すればタダでは済むまい。 だがこれまでに、さんざ人も妖怪も騙してきた君たちだ。 今更、表の人間相手の狂言芝居が何するものぞ!【状況2】
君たちの仕掛けは成功し、御六はこの御前試合への参加が認められる。 しかし恩赦は「その御前試合で勝利を収めた場合」にのみ与えられることとなった。 君たちは北森藩の侍に扮しながら、監視役の侍たちと共に、陸奥国・北森藩を目指すことになる。【エンドチェック】
□チャレンジを終えた□北森藩を目指した【解説】
PCたちがまず江戸の奉行所を騙し、御六をペテン師ではなく『本物の霊験あらたかな修験者である』と仕立て上げるシーン。シナリオの描写は少ない分、PCたちに好き勝手演出してもらうと良いだろう。 御六からしてみれば予想外も予想外、まさかこんなとんでもないことを仕出かすとは思わなかったと大慌てである。チャレンジ判定3で彼は抵抗を試みるが、君たちが判定に成功さえすれば、状況を覆すことができない。面白おかしく演出すると良いだろう。(例:PC2の能力で不可思議なことをおこし、それを御六が引き起こしたようにみせかけるなど)【クエリー3:東廻海運上にて】
【状況1】
青い空はどこまでも澄み渡り、地平線まで続く海は穏やかだ。 君たちは今、船の上にいる。 東廻海運(ひがしまわりかいうん)とは、東北地方と江戸とを結ぶ海上輸送路。 江戸と西国(京都・大阪)を結ぶ西廻海運の対となる航路であり、本来であれば日本海沿岸から津軽海峡を経て本州沿いを南下する航路を指したが、太平洋岸の東北諸藩と江戸とを結ぶ本州沿いの海運とを含めての総称ともされた。 罪人である修験の御六の輸送には海路が選ばれた。陸奥国にある小藩・北森藩は海に面した藩であり、小さいながらも港を有していた為である。 そうした船の中で、君たちはどのように過ごしているだろう?【状況2】
君は船底の牢に囚われている、御六のもとへと顔を出した。 格子越しに対面した御六は、江戸を出た時から変わらず、どこか恨めしそうに君を見やる。「大人しくしていろと言ったのに。どうしてまたこんなとんでもないことをしでかしたんで」「信じられねえお人らだ、これじゃあ仕掛けが丸潰れですぜ。また一から考え直さにゃあ」 悪態を吐く御六だが、その言葉の裏にはPC1やPC2への心配が透けて見えた。【状況3】
御六は船底にいるのがPC2一人であることを確認した後、PC2へと小声で耳打ちした。「お二方は知らねえでしょうがね、『北森藩』ってのは、あっちじゃあ随分と悪評高いんですぜ。あっしは遠野の生まれですんで、噂は度々耳にしてきた」【状況4】
御六は真面目な顔で、君をまっすぐに見ながら告げた。「だから頼みたい。他ならぬあんたに」「もし、この先何かが起きたとしたら。迷わずあっしを見捨てて、PC1さんを連れてお逃げくだせえ」「あんたの力がありゃあ、それぐらい出来るでしょう。……約束しちゃくれませんか」 さて、どう答えよう。【エンドチェック】
□御六の言葉に答えた□グリットを1点獲得した【解説】
PC2が御六から北森藩についての話を聞くシーン。また、『いざとなったら御六よりPC1を優先しろ』と告げられるシーン。 七人みさきという名称についてPCが知らない場合、ここで御六の口から解説を挟んでも良い。【チャレンジ2:船幽霊】
【状況1】
船は夜の海を進み、北森藩は近づいてくる。 近づいてくる陸地を前に、君たちは今後の動きについて相談をしていた。 遠く離れた江戸の地であれば、他人の名を騙ることは可能だ。 しかしそれがその人物が本来暮らしていたはずの地とくれば、そう都合良くは騙せまい。 次の動きについて君たちが思案していたその時、船頭が訝しげな声をあげた。「ん? なんだあの船?」 見れば、そこには黒塗りの一隻の船が浮いていた。 船の上に、ぽつりぽつりと人魂のような火が灯る──その狐火は、次の瞬間、PCたちの乗る船に向けて発射された!【状況2】
相手の一団は、覆面で顔を隠してはいたが、紛れもない武士だった。 多くはただの人間だ。しかしそのうちの一人は、人ならざる不可思議な力を使いこなす人物であった。 その人物はPCたちの妨害を受け、悔しげな声でうめく。「七人ミサキは、ここで終えねばならん。悪く思うな、ここで死ね」 それはPC2が密書で見た妖怪の名だ。 この人物は北森藩のことや、七人ミサキのことを知っているらしい。君たちは相手から詳しい話を聞き出すことにした。【エンドチェック】
□チャレンジ判定を終えた【解説】
北森藩の藩士たちからの襲撃を受けるシーン。 藩士たちは藩主・北森景政の暴政に耐えかね、人知れず行動を起こしている。それが実を結ぶことを望み、御前試合そのものをご破産にするため、PCたちへ襲い掛かる。江戸からきたPCたちとお付きの役人たちが不審死すれば、如何に幕府といえども本腰を入れて調査せざるを得なくなるはずだという思想である。 この襲撃者のリーダーとして、藩士・南雲夜抄(なぐもやしょう)が登場する。 南雲夜抄の正体は火霞夜抄という盤外視座の構成員だが、このシナリオでは余韻フェイズまで、彼はPCたちの協力者の北森藩士として行動を行う。以下のNPC情報は、火霞夜抄が南雲夜抄として北森藩に潜入するに当たり、周囲にかけていた暗示による設定である。このシナリオ内では以下のような設定でRPを行うと良いだろう。【クエリー4:七人みさきの真実】
【状況1】
君たちは襲撃者の一人から話を聞き出すことに成功した。 相手もまた、君たちが密書の件を知っていると知れば、驚きながらも刀を納める。 相手は南雲夜抄(なぐもやしょう)と名乗る。森で行き倒れていた、南雲左近は彼の弟であるとのことだった。 彼らは北森藩で行われる御前試合を止め、残酷物を愛する藩主・北森景政の暴政をどうにかする為に、江戸勤めの同藩の者らへと藩の現状を伝え、藩主の代替わりを目論んでいたのだという。 夜抄は語る。「こうした御前試合が開かれるのは、これが七度目でござる」「これまでのそれは、領内や陸奥国の中でのみ人が集められていた。 剣術、弓術……題目は都度異なったが、やることは同じよ。 恩赦や報酬を餌に、罪人や、腕に覚えのある者たちを召し上げて、目の前で戦わせる。技術を競わせているのではない。殺し合わせるのだ。 決着がつく頃にはどちらかは死に、生き残った方も無傷では済まぬ。 殿はその様子を眺めて楽しむ。御前試合とは、そうした悪辣な催しだ」「七人みさきとは、終わりの見えぬこの地獄を指し、我らの中でつけられた暗喩よ」【状況2】
夜抄の弟・左近は道半ばで追手により殺され、その代わりにPCたちが左近の名を騙って北森藩へとやってきた。これを怪しんだ夜抄は、江戸からの遣いを斬り捨てることで、北森藩へと疑惑の目を向けさせんとしたらしい。それをPCたちに阻まれたということだ。「素性は分からぬが、先の戦いぶりは実に見事なものでござった。武士のものではない、不可思議な力を感じた」「よもや、お主らは真実、霊験あらたかな術師なのか?」 夜抄はどこか期待するようにPCたちへ尋ねた。【状況3】
「もし主らに人の心があるならば、どうか手伝って頂けまいか。御前試合は最早止まらぬ。であればせめて、流れる血を少しでも減らしたい」「……此度の御前試合には、拙者も参列を求められている。生まれ持ってのこの力が憎らしいものよ。逆らえば家は取り潰され、一族みな切腹であろう。侍とはそういうものだ」「拙者の言葉は須く打算の上のもの。故に信頼に値すると自負しておる。斬りかかった身で不躾なのは重々承知の上。だが、互いにとって、悪い話ではあるまい」 南雲夜抄は君たちにそう申し出る。 さて、どう答えよう。【エンドチェック】
□南雲夜抄と知り合った□南雲夜抄の言葉に答えた□グリットを1点獲得した【解説】
南雲夜抄から七人みさきと御前試合の繋がりを語られるシーン。また、御前試合を生き抜くために協力しようと、PCたちが持ちかけられるシーンでもある。 PCたちがそれを受け入れるのであれば、南雲夜抄は以後、北森藩内での協力者となる。PCたちを屋敷へ招き、必要な口裏を合わせてくれるだろう。便利に使ってよい。 PCたちが申し出を拒絶するのであれば、「そうか。では、今宵は何も見なかった。せめて互いに生き残ることを祈ろう」と告げ、海に飛び込んで逃げ出してしまう。【チャレンジ3:七番勝負】
【状況1】
それから数日後。 御前試合当日は、雲ひとつない快晴となった。 北森藩・北森城の庭園には、各地から招かれた七人の術者たちが集められた。 その中には君たちによって着飾られた、修験の御六の姿もある。 手の届かぬ御殿の高みには紗がかけられている。その先に、暴君・北森景政その人がいるのであろう。【状況2】
君たちは順調に勝ち進んでいく。 君たちに敗れた南雲夜抄もまた、不要な刃傷沙汰に至ることなく、どこか安堵したように負けを認めた。 その様子を、面白くなさそうに見る者が一人。 御殿の先から、紗越しに試合を見る、藩主・北森景政その人であった。「あの修験のとかいうやつはつまらんのう。誰ぞの首でも飛ばせばまだ見応えがあるものを」「それに引き替え──ふむ、あの婆は存外、魅せてくれるではないか」 北森景政の視線の先、呑・法隆寺(ドン・ほうりゅうじ)が白目を向いて倒れた所だった。そのまま彼は痙攣し、己の舌を己で噛み切ってしまう。絶叫と鮮血が上がった。【エンドチェック】
□チャレンジ判定を終えた【解説】
三連戦を勝ち抜いたのちに待つのは真打・最強の霊能者カツコ。紛れもない『本物』である。 カツコ様の設定はブラックジャケットRPGに準じる。この時代、彼女は陰陽寮に属する正道の陰陽師、すなわち朝廷の側の存在であるが、盤外視座からの要請に応じて金銭で手を貸している。そのため、実力は文句なしだが、PCたちに対する敵意はドライでビジネスライク。【決戦:御前試合霊能合戦】
【状況1】
御六が三人、カツコが二人を下し、残るは勝者二人の決戦となった。 示された試合の内容は、『命をかけた妖術対決』。──すなわち、殺し合いだ。 老婆はニヤニヤと嗤いながら君たちと対峙する。「ここの殿様は呪われておる。鮮血をお望みじゃ」「我々が本物であろうと偽物であろうと、あの馬鹿殿にはどうでも良いことなのじゃろうて。ならばワシも何も言わぬよ、己の望みを果たすまで」「今宵天狗の星が降る。吉兆か、凶兆か……サテ、間に合えば良いがのう」「──手加減は出来ぬぞ。いざ、とくと味わえぃ!」 老女の口上と同時、よく晴れていた空が一点俄にかき曇る。おどろおどろしく雲が渦を巻き、雷渦巻くその中から、おぞましき化け物が姿を現した。 目が、口が、牙が、数多の人の肉で構成されていながら、決して人の形には至らぬ水飴状の怪物。妖怪と呼ぶことすら悍ましいそれは、声ならざる声で君たちへと咆哮した!【戦闘情報】
【エネミー】
・カツコさま(BJR)・ブ・ロ・ブ(R1・強化)・式神×3(BJR)【エリア配置】
■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 エリア4:カツコ様 エリア3:ブ・ロ・ブ・式神×3【勝敗条件】
勝利条件:エネミーの全滅敗北条件:PCの全滅【備考】
・カツコ様のパワーの効果は一部DLHの設定に置き換える(逆境→臨死など)・一部BSはBJRのルールを適用する。・ブ・ロ・ブのエナジーは二倍にする。・御六からの支援として、ラウンド終了時に以下のパワーが適応される。(要はラウンド終了時に1度だけPCは追加で行動できる)【余韻:落ち武者は薄の穂にも恐ず】
【状況1】
「そこまで!」 君たちは御前試合霊能合戦に勝利した。 御六は本物の霊験者と認められ、ペテン師としての罪状から釈放される。 しかし、北森景政は残酷な措置を下した。 決戦にて敗北したカツコを、偽りの霊験者と断じ、即座の処刑を敢行したのだ。【状況2】
夜。勝利を収めた君たちは、北森城の離れにて開かれた宴会の席へと招かれる。 海に面して立つ離れからは、美しい夜の北森湾が一望出来た。 そしてその日の夜、北森藩の上空には奇妙な星があった。 長く尾を引く白気の如きもの。 ──…箒星だ。【状況3】
「……さて」 ため息と共に、隣から聞こえてきたのは御六の声。 だがその声は、いつになく不機嫌なものであった。「おれァ、記憶が確かなら、アンタに『待て』と言ったはずですがね?」「ぽっと出の、素性のわからぬ坊主の言葉に劣るほど、あっしの言葉は信じられねえもんですかい」「……まァ、無理もねえか」 自嘲的にため息を吐くと、御六は空を見上げて話題を変えた。 視線の先には彗星があった。「あの婆が言ってた言葉を覚えてますか。天狗の星ってやつですよ」「天狗星とは、古くはあまきつねともいいます。落下に際し音を放ち、目が眩むほどの明るい光を放つ流星を指す」「精々、あれが降ってこねえことを祈りましょう」「長居は不要。明日の朝一番の船で江戸へ発ちます。支度をしておいてください」 有無を言わさぬ語調で御六は断言すると、「厠」とだけ告げて席を立つ。 その間、彼は一度も、君たちを振り返らなかった。【解説】
助けられておきながら御六が文句をつけてくるシーン。 御六の視点からすると、自分との繋がりを消して盤外視座を騙くらかすつもりが、全く逆の結果になってしまったことで、内心で追い詰められて頭を抱えている。PCたちに自分の言葉を信じて貰えなかったことに少しショックを受けてもいる。 だが、これらの関係の推移はシナリオ進行上、PCの意志が介入し難いものである。なのであまり強く非難するのはやめておこう。プレイヤーからしてみれば「シナリオがやれっていったじゃないか!」というフラストレーションになってしまうためだ。御六が空回っている・拗ねている、というように演出するのが良いだろう。 以下、マスターシーンという名の、実質の次回予告へ続く。PCたちに余韻で自由に動き回れるのはここまでであることを先に伝え、演出を促すと良い。【マスターシーン:あまきつね】