燃えよヒーロー
燃えよヒーロー
~怒りの拳に火をつけろ~
~怒りの拳に火をつけろ~
━━戯言無用、武で語れ!
【PC1:行き倒れの修行僧】
ある日、パトロールをしていた君は、重傷を負って行き倒れている修行僧を拾った。 明らかにワケあり気なその男、しかしなかなか口を開かない。 どうにか男の事情を聞き出した君は、アングリーフィストと呼ばれる暗殺集団の話を耳にすることになる。【PC2:暗殺失敗、そして…】
君は青年大富豪タナシス・フェルミに雇われ、彼のボディガードの任務についていた。 フェルミの身を狙って現れた暗殺者たちを辛うじて退けることに成功した君だが、その際のフェルミの態度に、不穏なものを覚える。【PC3:ハッキング・ドット・虚無】
君はG6のチェインに依頼され、ゴッズ・4・ハイアのサイトへのハッキングを試みんとしているのだが……ゴッズ・4・ハイアのセキュリティは厳重だった。 苦戦する君のもとに、助っ人が現れる。それは『山伏ドット虚無』の虚無僧だった。【イベント1:行き倒れの修行僧】
【状況1】
パァン──… ある夜のこと、パトロールを行っていた君は、遠方から響いた一発の銃声を耳にする。 音の出所を調べていた君は、ある人気のない路地裏から血の臭いがすることに気づく。 臭いの元へと向かえば、そこでは一人の僧が、血塗れになりながら拳法の構えを取っていた。 すわヴィランかと身構えた君の前で、僧の体がぐらりと傾き、地へと倒れる。 その腹から、ぐうぅぅ、という盛大な空腹の音が鳴った……。【状況2】
君はその僧を介抱した。 目を覚ました男は、直後、反射のように君へと襲いかかる。「…………ここは……?」 だが、君が自分を介抱した主であると悟れば、即座に拳を収め、その場で深く頭を垂れて感謝の言葉を述べた。「この度はほんっっっっっとーーーーーーーーにかたじけない!!!!!!」「私の名はリー・イェン。自分にできる御礼があらば、一宿一飯の恩義、何でも言って頂きたい。薪割り釜炊き雑巾掛け、必要とあらば政敵の首級の一つや二つや三つや四つ、如何様にでも揃えさせて頂きましょう!!」「……え? 何故倒れていたかですか? そ、そればかりは口が裂けてもォ…!!!」 いやはや、都合がいい男だ。 明らかにただ事では無い。君はもう少し、イェンと名乗ったこの口の硬い男の様子を見ることにした。【エンドチェック】
□行き倒れの修行僧を拾った□リー・イェンと知り合った【解説】
イェンは主に空腹で倒れていた。救助されたらバクバクと沢山の食事を食べる。PCが彼に恩を着せるのには十分だ。 PCが望むのならば、実際にイェンに薪割り釜炊き雑巾掛けetc…の恩返しをさせるシーンを挟んでみてもいい。イェンは真面目によく働くが、思考回路がアングリーフィストなので、常識は無い。【イベント2:暗殺失敗、そして…】
【状況1】
君は今、敵に囲まれている。 橙色の僧服を身を纏った男が三人、拳法の構えを取り、君の周りをぐるりと囲む。彼らは顔を覆面で隠していたが、その立ち回りと腕前は並外れたものだった。 君は予想外の苦戦を強いられながらも、辛うじて男達を退けることに成功する。【状況2】
君に敵わぬと悟ったのか、男達は撤退する。そのうちの一人が、君の背後に立つ男──青年大富豪、タナシス・フェルミ氏に向けて、異国の言葉で何かを吐き捨てた。 襲撃者がいなくなり、フェルミはボディガードである君を労る。「ありがとう、君のおかげで助かったよ。立場上、どうしても敵が多いものだから」「君を雇って正解だった」 穏やかな好青年の顔で君へと礼を言うフェルミ。だが君は、先ほどの襲撃者の言葉を受けた際、フェルミが歪な笑みを浮かべていたことを見逃してはいなかった。【状況3】
あれから一週間。東京湾から二人の橙色の僧服を纏った男の死体が上がった。男たちは痛めつけられた後、薬を嗅がされ、生きたままドラム缶にコンクリートを流し込まれ、沈められたようだ。 遺体は見る影もなく痛んでいたが、君にはそれがあの時の襲撃者であることがわかる。 この一週間、君はあの時の襲撃者が何を言い放っていたのかを調べていた。それはこういう言葉だった。『天帝気取りめ! 貴様に我らの山の誇りを奪わせてなるものか!』 ……タナシス・フェルミの周りで、何かが起きている。君はそれを悟った。【エンドチェック】
□タナシス・フェルミを不審に思った□調査に乗り出した【解説】
遺体は本来ならば見つからないよう海に処分されたはずだったが、アングリーフィストの修行僧たちの並ならぬ力でドラム缶を内側から破壊され、彼らの死体が浮上するに至った。ドラム缶を破壊することはできたが、それ以上には繋げられなかったのだ。 バラクーダ・コーポレーションはゴッズ・4・ハイアのフロント企業だ。もちろん、その情報を知る者は少ない。このシナリオでは、PC2もまた、ヘリオス=タナシス・フェルミの情報は知らないものとして進行する。【イベント3:ハッキング・ドット・虚無】
【状況1】
BOMB!! 君の前で大きな音が鳴り、モニターがブラックアウトする。通算四台目のパソコンが、これでお釈迦になった。 君の横で、チェインががっくりと肩を落とす。「やっぱり、正面突破は難しい、かあ~…!!」 君はチェインに依頼され、ゴッズ・4・ハイアのサイトへのハッキングを試みていた。しかし堅牢なセキュリティを誇るゴッズ・4・ハイアは伊達ではなく、進捗は慮らない。「サイト内で、何か大きなデータの更新が起きてるのは確かなんだ。何かが起きてるはずなんだけどなあ……やっぱ無茶なのかなあ」 白煙をあげるパソコンを前に、チェインが悔しそうに呻く。【状況2】
そんな時、尺八の音色と共に君たちに声がかけられた。「お困りのようですな。拙僧で良ければ相談に乗って進ぜよう」 振り返れば、そこには虚無僧が立っていた。 虚無僧はPC3にスッと名刺を差し出してくる。そこには山伏ドット虚無と記載されていた。【状況3】
「提携、それすなわち人と人との助け合い。 いつの時代も人と人との繋がりは必須。時代の波に乗り切れねば修行僧といえども未来は無し。 という訳で人手不足のG6に売り込みに参った次第。 お気持ち次第で猫探しから悪党退治まで承りまして御座候」 虚無僧はそう名乗り、掌をくいっくいっと動かす。喜捨を求めるような動きだった。「えーと、お気持ちを渡せば、手伝ってくださると?」「然様。秘策がござる」「えー…」 チェインは訝しんだが、しぶしぶと財布から千円札を取り出して握らせる。虚無僧は露骨に『これっぽっちかあ…』みたいな雰囲気を出したが、尺八を吹いて誤魔化した。「では、いざ」 カタカタと手を動かし、サイトのパスワードを入力する虚無僧。するとゴッズ・4・ハイアのページが本当に開かれる。驚くチェインに対し、虚無僧は当たり前のように言い放った。「何を隠そう出家前は元会員で御座候。パスワードがまだ使えてラッキーでしたな」 そりゃズルい。【状況4】
情報を集めようとサイト内の記録を確認する君たち。 すると次の瞬間、画面がブルースクリーンに染まる。「しまった! ガラテイアの攻撃か! 南無三G6! バイバイ個人情報!」 通算五台目のパソコンがお釈迦になるかに思われた。だが、やられっぱなしで終わっていては、ヒーローが廃るというものだ!【エンドチェック】
□ゴッズ・4・ハイアのサイトにアクセスした□ガラテイアからのサイバー攻撃を受けた【解説】
山伏ドット虚無は正確にはヴィラン組織ではなく、独自の価値観に基づいて活動をする傭兵組織と表現するのが正しい。そのため、堂々とG6に出入りしていても、一応問題はない(白い目で見られはするだろうが、虚無僧たちは気にしない)。 ガラテイアのサイバー攻撃を受け、そのまま展開フェイズへ雪崩れ込んでいこう。【チャレンジ1:袖ラリアットも多生の縁】
【状況1】
謎のワケあり修行僧リー・イェンを拾ったPC1。 タナシス・フェルミに不審を抱き、襲撃者の調査を始めたPC2。 そしてゴッズ・4・ハイアのガラテイアによるサイバー攻撃を受けたPC3。 三者はそれぞれ行動を開始する。【状況2】
■PC1はイェンから事情を聞き出し、彼の正体を知ることができる。「私はヒマラヤ山脈の奥地にある寺院、アングリーフィストより参りました」「この手を血に染めたこともございます。地上ではそれが罪になるというならば、その罰は甘んじてお受けしましょう。ですが私にはまだやることがございます、それを為すまでは囚人となるわけには参りません」「このままでは、アングリーフィストは……あの山は、天帝気取りめの手に落ちてしまう……それだけは避けねばならんのです。それだけは……!」【エンドチェック】
□チャレンジ判定に成功した【解説】
PC達がそれぞれの立場から情報を得ていくシーンだ。 PC3の判定は、GMが認めるならば「D2:山伏ドット虚無/特別ルール『喜捨』」を適応し、このチャレンジ判定のデメリットそのものを肩代わりさせるなどしてもいいだろう。その際のクレジットの値については、PCのステータスを見ながら、GMが独自に設定すること。 このチャレンジイベント以降から、ガラテイアはPC達の干渉を悟り、舞台裏にて妨害を始める。彼女の所持パワー『情報操作』を、イベント終了時に、シーンに登場しているPC1名に対して使用する。複数のPCが同じシーンに登場している場合、GMは任意に目標を決定して良い。【クエリー1:逆エビ固めで鯛を釣る】
【状況1】
「いやはや、思っていたよりも大変なことになっておりましたなあ」 ゴッズ・4・ハイアのハッキングを終えた君たちは、G6支部中のパソコンが白煙を上げているのを眺めながら休憩していた。君の傍で勝手に緑茶を啜る虚無僧が他人事のように呟く。「G6のパソコンもそうですが。何よりアングリーフィストの件にござるよ」「ヒーロー殿は今後どのように動かれるおつもりで? お止めになるのかな?」【状況2】
「力とは、それそのものが罪にござる」「ただそこにあるだけで、数多の誘惑を誘い、人を罪過に導く」「故、力持つ者は善行に努めねばならない。それが責任である故に……拙僧らの教義にござ候」「力持つ者は皆須く罪人なれど、彼のアングリーフィストは、力持つ者の責務を放棄した阿呆どもというより他なし。紛れもなく悪の所業」「そうは思いませぬか、ヒーロー殿?」 軽快な調子で語る虚無僧。その口ぶりは軽やかだが、言っていることはなかなか過激だ。 彼らの教義に則るならば、超人種という存在はみな罪人ということになりはしないだろうか。 君はその言葉にどう答えただろうか?【エンドチェック】
□虚無僧の言葉に答えた□グリットを1点獲得した【解説】
山伏ドット虚無の教義と、それを適応されたアングリーフィストの解釈に、PCが自分の考えを示すシーン。 虚無僧はPCの話を聞いて考えを改めることはないが、ここで大きくコトを構えることもない。あくまでただの世間話だからだ。 シナリオ上は山伏ドット虚無の出番はここで終わるが、PCやPLが望むのであれば、以降のイベントで引き続き『喜捨ルール』を適応しても良い。その場合はGMが都度内容を設定すること。【クエリー2:アイアンクローは熱いうちに打て】
【状況1】
君は修行僧リー・イェンから、アングリーフィストの状況について知る。「我らアングリーフィストは、古来よりヒマラヤ山脈奥地に寺院を構え、過酷な環境の中で武の修練に励んできた者たちです。強靭な肉体と強靭な精神を手にし、人間的な欲から解き放たれ、いずれ悟りへと到るため……」「……ですがそれ故に、我々は時代の流れに取り残されました。超人種の出現以後、心身を鍛え悟りへ至るという考えは時代遅れの烙印を押され、ファースト・カラミティにより、その教義の出典も曖昧なものとなってしまった。そしてセカンド・カラミティの爪痕により、檀家の多くが消え、寺院存続の為の喜捨も絶えて久しい」「アングリーフィストを守るために、我々は変化を余儀なくされました。そんな時、我らを『雇いたい』と声をかけてくる者がありました。ゴッズ・4・ハイアと呼ばれる組織だと聞いております。……我々の指導者は、その提案に頷こうとしています。アングリーフィストを守るため、必要なことだと」「ですが、私はそれには納得できませんでした。いいえ、それは私だけではありません。私たちはその契約を反故にする為、秘密裏に山を降り、ゴッズ・4・ハイアの首魁、ロード・ヘリオスの首を獲らんとしました。だが……その目論見は叶わず、目的を同じくする同胞たちは、ゴッズ・4・ハイアの暗殺者の手により亡き者となりました」「今、アングリーフィストは混迷の中にあります。そして、確たる答えは未だ出せずにいる」 イェンはそう語りながら、悔しそうに拳を握り締めた。【状況2】
「私はあの山を救いたい。たとえ、この身がどうなったとしても。……あなたには救われた恩があります。けれどどうか、止めてくれるな」「……自分にはこれしか、出来る術がないのです」 イェンはそう言うと、「お世話になりました。早に支度を整え、この家を去りましょう」と首を垂れる。彼の事情を知った君は、この修行僧に何と言葉を向けるだろうか。【エンドチェック】
□イェンの言葉に答えた□グリットを1点獲得した【解説】
PC1がアングリーフィストの状況を知り、ゴッズ・4・ハイアの暗躍を知るシーン。 基本的にはPC1がリーを止め、共に調査に乗り出すことを期待したシーンとなっている。PC1が自発的にそれを行わないPCの場合、リーはこう言って家を出ていきはするものの、体の傷から再び倒れてしまうとすれば良いだろう。戦いどころではないのだ。 あるいはガラテイアの『情報操作』の演出などを使って、すでにPC1が戦いに巻き込まれていることを明らかとしてもよい。実際にゴッズのエージェントを派遣して攻撃を行われる、などしたっていい。とにかくPC1がノーと言えない状況を作り上げてしまおう。【クエリー3:蛇の道はコブラツイスト】
【状況1】
タナシス・フェルミとアングリーフィストの調査を進める君のもとに、一本の電話が入る。 電話に出れば、通話先はタナシス・フェルミそのひとであった。『やあ、久しぶり。先日は世話になったね』『部下から、私のことを調べてる人物がいると報告を受けてね。調べてみたら、君のことだったから驚いた。聞きたいことがあるなら、直接言ってくれればいいのに』『私に何か、尋ねたいことがあるんだろう?』 フェルミはクスクスと笑ってそう尋ねてくる。なんと言ってやろうか。【状況2】
『順当に考えれば、そのアングリーフィスト達は私の商売敵から私の身を狙うために雇われ、失敗したから雇い主に処分された……ということになると思うのだけれど、君はそれでは納得できないのだろうね』『一つ、君の意見を聞くとしよう。丁度、君を「勧誘」できないかと考えていたところだ』『誰のものでもない拳銃が一つ、路上に落ちている。君はそれをそのままにしておくことを良しとするかい?』 君の答えを聞き届け、フェルミは笑う。その笑い声は、快活な青年大富豪らしからぬ、空恐ろしさを感じさせるものだった。【状況3】
『武器というものは危険なものだ。誰かが適切に管理してやる必要がある。そうだろう?』『超人種とは武力。極めて優れた、恐るべき力を持ち、それでいてその力の使い方に無頓着な、路上に捨てられたピストルと同じ』『私はそんな彼らを導く太陽になりたいと思っている。君なら分かってくれるんじゃないかな』『君は私を助けてくれた。あまり、手酷いことはしたくない。だからわざわざこの電話をかけている。……単刀直入に言おう。この件は私に任せて、手を引いてくれないか? 悪いようにはしないさ』 紳士的な申し出ではあるが……不審は募る。さて、どう答えよう。【エンドチェック】
□フェルミの言葉に答えた□グリットを1点獲得した【解説】
フェルミが具体的にアングリーフィストのことをどうするつもりかはここでは明かさない。だからこそ不審なのだ。 通話が切れたあと、G6から調査協力として呼び出される or 調査の結果ヒーローPC3がアングリーフィスト絡みの案件に手を付け出したことを知り、G6へ向かうとすると良いだろう。クエリーの末尾で、PC3との合流シーンを作っても良い。 PC2のリアクションによって、フェルミの電話の主な目的は変わってくるだろう。概ね、勧誘か脅迫、そのどちらかが理由だ。【チャレンジ2:三人寄ればツープラトン】
【状況1】
PC1とPC2はG6がアングリーフィストに関する情報を掴んだという噂を聞き、情報収集の為に足を向ける。 PC1がイェンと共にG6へ足を踏み入れた時、PC2と顔を合わせる。PC2の姿を見たイェンは、サッと顔を青ざめさせて叫ぶ。「や、奴は…! 間違いない、あのとき、ロード・ヘリオスのかたわらにいた輩!」「ここで会ったが百年目! お覚悟!」 イェンは拳を固め、PC2へと襲い掛からんとする。PC1はそれを止めてもいいし、見届けてもいい。 PC2は自分に襲い掛かろうとしている人物が、以前フェルミの護衛をしていた際の襲撃者の一人であると気づく。生き残りがいたのだ。 PC3はG6での騒ぎを聞きつけ、現場へと向かう。そこではPC1とイェンとPC2が揉めていた。 PCたちは自由に合流シーンを演出し、情報を共有すること。【状況2】
情報を共有した君たちは、改めて互いの立場と、いま起きている事態の全貌について知ることになる。 アングリーフィストとゴッズ・4・ハイアの契約は、まだ完璧には為されていないという。彼らの契約を止めるのに、最も手っ取り早い方法は、アングリーフィスト側の考えを変えさせることだ。 普段であれば謎に包まれたアングリーフィストの位置を掴むのは難しい話だろうが、今はイェンという案内人がいる。 君たちはヒマラヤへ向かう覚悟を固めた。【状況3】
君たちは険しいヒマラヤ山脈を踏破し、自然の断崖絶壁に建つ寺院へと辿り着く。寺院は手入れが行き届いていないのか、いつ崩れてもおかしくないほどボロボロだった。 門の前には一人の僧が立っていた。彼はPC達がここを訪れるのが分かっていたと言いたげに、その正面に立ちはだかる。「これより先は部外者が立ち入ることを禁じられた領域。神聖な修行の場となります。お引き取りください」 丁寧な言葉とは裏腹に、この先には一歩も踏み入らせないという頑なな態度を感じる。そしてそれ以上に、この僧侶が恐ろしいほどの手練れであるということも君たちには分かるだろう。 それだけではない。そういった──零等星ヒーローにも等しい実力の持ち主たちが、この寺院には山のようにいるようだった。だが、彼らは外からの来訪者である君たちを拒み、自分たちが外の世界に干渉することを、無関心に避けようとしていた。「あなた達が目的としている交渉の担当者は、すでに山を発った後です。ここにはもう、何も残ってはおりません。我らの修行の場を、どうかいたずらに荒らすことはしないで頂きたい」 その言葉には、懇願じみた響きすら感じた。彼らを振り切り、この寺に踏み入るのは難しく、そして意味はないだろう。 だが、山を降りたという交渉担当者がどこに向かったのかを聞き出すことは不可能ではないはずだ。【状況4】
君たちの言葉に、門前の修行僧は静かに口を開いた。「……老師たちは、幾人かの弟子と共に、ニューヨーク・マンハッタンへと向かいました。そこで正式に、ゴッズ・4・ハイアとの契約を交わすことになるでしょう」「それが為された暁には、我らは修行の徒ではなく、一つの武器として扱われるようになる」「……あなた方がそれを止めんとするのならば、引き留めはしません。如何なる結果に終わったとしても、その天命を受け入れましょう」 目指す先はニューヨーク・マンハッタン!【エンドチェック】
□合流した□ヒマラヤへ向かった□交渉の席がNYにあることを知った【解説】
タナシス・フェルミをロード・ヘリオスとして糾弾するという選択は、フェルミの社会上の立場の盤石さ故に、即座には難しい。そんなことをしている間に、アングリーフィストはゴッズ・4・ハイアと契約を結んでしまうだろう。 このシナリオにおけるアングリーフィストを敢えて悪く表現するのなら、『自分たちの修行にしか興味がない、無関心で無責任な組織』だ。セカンド・カラミティによって多くのヒーローが失われたことは周知の事実でありながら、寺に閉じこもり、己の研鑽にしか関心を示さず、時代に取り残された末に、悪行に手を貸すことを良しとしつつある視野の狭い者たちである。しかし同時に、決定的に道を踏み外している訳でもない。今まさに堕落の最中にあり、変化を迎えんとしている組織、とすると良いだろう。 それを踏みとどまらせられるかどうかは、ヒーローたちの介入にかかっている。【クエリー4:怒りの拳に火をつけろ】
【状況1】
アメリカ合衆国ニューヨーク・マンハッタン。高層ビルが立ち並ぶ大都会の中心地にある、さるビルの一角で、今まさにその交渉は進められていた。「……本当に、継続的な支援をいただけると」 幾人かの弟子を連れた仙人じみた容貌の老人が、眼前に問う。その問いに、男の声が答えた。『勿論。君たちの実力を評価しているのは本当さ。だからこそM&Aを持ちかけている。実績に応じて、個人への賞与も用意できる』「これは寺院継続のための契約。過ぎる財は心を堕落させます、個別賞与は不要」『お硬いことだ』 嘲笑うような男の声に、老人は押し黙り、何も言わず俯いた。それだけだった。 老人の前に、男の姿はなかった。あるのは無人の席と、そこに置かれた一台のノートパソコン。ゴッズ・4・ハイアの主、ロード・ヘリオスは、交渉の席に姿すら現さなかった。それこそが、彼らの力関係を示していた。『ではこれ以上の質問もないようですし、契約書にサインをして頂きましょうか』 老人は目を伏せ、机上に置かれたペンを取る。 そのペン先が書面に触れる刹那──ピタリと止まった。 君たちが姿を現すのは、まさにこのタイミングだ。【状況2】
老人の姿を見て、イェンが声を荒げた。しかし老人は取り合わない。「老師! このようなことはお止めください、奴らに寺をみすみす売り渡してはなりません!」「イェンよ、何故わからぬ。これはアングリーフィストを守るため、必要なことなのだ」「分かりませぬ! そのように形だけを守った寺に、なんの意味があるというのですか!」「意味は与えられるものに非ず、見出すもの。場が守られることで続けられるものもある」【状況3】
ヘリオスの指示を受け、老人は静かに立ち上がりヒーロー達へと向き合う。「……そういうことになりましてな。恨みはございませぬが、理由は生じた」「理不尽をぶつけるせめてもの詫びとして、拳を交える相手のことを知っておきたい」「あなた方はなにゆえ、武へ生きる道を選ばれた」【エンドチェック】
□老師の問いに答えた□グリットを1点獲得した【解説】
武へ生きる道=ヒーロー活動と考えるのがよいだろう。 何故ヒーローとして戦う道を選んだのか、問いはそれだけだ。【決戦:燃えよヒーロー…戦闘情報】
【エネミー】
・ガラテイア×1・老師×1・アングリーフィスト修行僧×3【エリア配置】
■PC初期配置 エリア1・エリア2■NPC初期配置 エリア4:ガラテイア、老師 エリア3:アングリーフィスト修行僧×3【勝敗条件】
勝利条件:アングリーフィストの全滅敗北条件:PCの全滅【備考】
・アングリーフィスト所属のキャラクターが全滅した場合、ガラテイアは撤退する。■老師
【エナジー】ライフ60 サニティ60 クレジット12
【能力値・技能値】
【肉体】50 白兵200% 【精神】100 【環境】20【移動適正】地上
【パワー】
■極意・徒手式観音属性:強化 判定:意志100% タイミング:特殊射程:なし 目標:自身 代償:ライフ2効果:行動順ロールの直後に使用できる。このラウンドの間、『属性:装備』のパワーによって与えられるダメージを無効にする。──千の残像を残す拳、それは何物にも勝る武器(某女学院の生徒も使えるらしい)■アングリーフィスト修行僧
【エナジー】ライフ7 サニティ17 クレジット1
【能力値・技能値】
【肉体】30 白兵80% 【精神】50 【環境】1【移動適正】地上
【パワー】
■修練・対の先属性:強化 タイミング:特殊 判定:なし射程:なし 目標:自身 代償:サニティ4効果:行動順ロール直後に使用できる。君のターン・カウンタを-1d6する。──相手の動きを数百パターン予想し、その先を行く。【シナリオの結末(一例)】
【戦闘終了】
戦いの終焉と自分たちの敗北を見て取り、老師は静かに弟子へと告げる。「此度の交渉は決裂とする。皆、山へと戻り、修行を続けよ」 そして自分の身をヒーローへと差し出す。「もとより我が名はアングリーフィストの歴史の中、寺を金で売った愚者として刻まれる。ならば責任の所在として、儂の首を差し出しましょう」「落とすも、売るも、裁くも。如何様にも為されよ」【PC1の結末】
イェンはこの騒動の結果、アングリーフィストへ戻ることにしたという。「自分自身が納得いくまで、己の心と体を鍛えるつもりです」「……身勝手、無責任と、あなたは我らを叱るでしょうか」 アングリーフィストが今後、どう変わっていくかのかは、未だ分からない。 さて、どう答えよう?【PC2の結末】
戦いの結果、ゴッズ・4・ハイアはアングリーフィストから手を引いた。 一連の戦いの中、君はロード・ヘリオスとタナシス・フェルミの繋がりに気付いた。 しかしそれを表立って糾弾するには、タナシス・フェルミの立場は盤石がすぎる。 そして君が気づいたことを、向こうもまた気づいているだろう。 この戦い、長く厄介な戦いになりそうだ。【PC3の結末】(老師を生かして捕らえた場合を想定)
老師はロックウェイブ島にて囚人となるに至った。 君は彼の尋問を請負い、ゴッズ・4・ハイアのことや、彼自身がこれまでに関わってきた暗殺について知ることになる。 しかし、その多くの事件は、証言があってなお証拠が見つからないものばかり。 アングリーフィストという組織の真髄を確かに感じながら、君の脳裏に虚無僧の言葉が過ぎる。──力とは、それそのものが罪。──ただそこにあるだけで、数多の誘惑を誘い、人を罪過に導く。──故、力持つ者は善行に努めねばならない。それが責任である故に。 その言葉に、今の君なら、どんな答えを返すだろうか。【シナリオ経験点】
事前グリット…3点クエリーグリット…4点リマークグリット…3点(想定)--------------------------------------------------=合計:10点