アポトーシスのゆりかご
「よかろう。その依頼、確かに請け負った」「俺たちはこの世界の邪魔者だな」「……この夢を終わらせますか?」
━━それは、プログラムされた死。
【PC1:死者蘇生】
君は今、世界中で起きているある事件について調べている。セカンド・カラミティで死亡した人々が、当たり前のような顔で、元の生活に戻ってきたという事件だ。 再会の喜びに湧く声と、ありえない出来事に困惑し警戒する声が、世界のいたるところに満ちている。 そして、ついに。調査を続ける君のもとにも、死んだはずの大切な人が現れた。※エントリー1は『死んだはずの大切な人』について設定し、事前にGMと情報を共有すること。死因はセカンド・カラミティ以外でも構わない。【PC2:NASAのはなし】
君はA-Zと呼ばれるヴィランの行方を追っている。 NASAの研究機関が、A-Zの操る電子ドラッグに感染したという情報を得た君は研究所へ向かった。そこで、彼らが観測したという地球外生命体について話を聞くことができた。「地球の全生命を半分に減らしてほしい、なんて言ってきたんですよ」【PC3:フランケンシュタインの怪物】
君はある日、街中で怪物が暴れている現場に出くわした。街中では死体を継ぎ合わせて作られたような巨大な怪物が、周囲を破壊しながら、逃げ惑う一人の男を追い回していた。「博士、どうして逃げるんだ、博士!」「黙れ、貴様は死んだはずだ、怪物め!」 その男は、アーガット・オン・ザ・ゲームのフランケンシュタイン博士であった。 であれば、その怪物は──物語で語られる、『フランケンシュタインの怪物』という言葉が、君の脳裏を過ぎった。【イベント0:請負人】
【状況1】
ヒーローたちのあずかり知らぬ裏の世界で、一人のヴィランがモニターと向き合っていた。 モニターの中には幾何学的な映像が流れ、人工的な機械音声が響く。 電子ドラッグ『A−Z』。そう呼ばれた存在と相対するヴィランの眼差しは洗脳された者のそれではない、明瞭な正気と、滲むような悪意を帯びた、悪党の顔だった。「──よかろう。その依頼、確かに請け負った」 メイヘムの幹部、死の本質の探求者。 「蘇生請負人リアニメーター」は、A-Zの言葉を聞き届け、不気味に笑いながら告げた。【解説】
第一話に当たる『賽の目は嗤う』の最後で登場したリアニメーターとA-Zのシーンを再び提示する。トレーラーのような物語のオープニングとしての役割と、前作から地続きの世界観であることを示す役割、ついでにメタ的なことを言えば、PLに『この件には裏でリアニメーターが関わっている』ということを暗示する役割を持つシーンだ。【イベント1:死者蘇生】
【状況1】
『──政府はこの異常事態に落ち着いて対応に当たるよう呼びかけており、仮にそのような事態に直面しても、パニックを起こすことのないようにと──』『──蘇生者の身体状況を調べようと押し寄せた人々により、医療機関はどこもパンク状態です──』『──蘇生した人々は本当に本人なのか? ヴィラン組織の関与が疑われる中、警察は正式な調査本部を立ち上げたことを公表し──』 ここ一週間、報道機関は一つの話題で持ちきりだ。それは一週間前から発生した、「死者蘇生事件」に関して。 それは一週間前のある日、死んだはずの人間が、生前と同じように、当たり前のような足取りで人々の前に姿を現したというものだった。最初の確認から一週間、世界では今も、死者の蘇りと帰還が続いている。蘇生者たち本人にも、死に直面した記憶は確かにあるが、何故自分が生きているのか、蘇ったのか、その理由は分からないのだという。 時期も悪かった。未曾有の大災害、セカンド・カラミティが起きてから、まだ半年しか経っていない。喪われた膨大な命の記憶は未だ色濃く、残された人々の心の傷は深い。 ヒーローの扶助組織であるガーディアンズ・シックスにも、この事件の影響は大きかった。戦いで死亡した多くのヒーローたちが帰ってきたのだ。 そんな世界の中で、君は今、どこで何をしている?【状況2】
君の肩を叩く者がいた。懐かしい声がした。 君は迷っただろうか。それとも、何気ない動きでだっただろうか。 君は振り返った。そして見た。 そこに、君が確かにかつて喪った、『あの人』が立っていた。【エンドチェック】
□死者蘇生事件を知った□死者と再会した【解説】
【状況2】は、実際の再会シーンをメインに、蘇生者とPC1のやりとりを自由に演出すると良い。舞台設定などもPC1と蘇生者の関係・設定・提案に準じる。 このシナリオでの序盤のPC1の個別イベントは「蘇ってきた大切な人」との関係性に応じてシーンの状況が大きく変化する可能性が高い。GMは実際の描写文にはこだわらず、PC1とやりとりをするようなイメージで、具体的なシーンを演出していくとよいだろう。【イベント2:NASAのはなし】
【状況1】
君はA-Zと呼ばれるヴィランの行方を追っている。 A-Zはインターネット上に流布している電子ドラッグの名であり、同時にそれを作り出している人工知能の名前だ。以前、君はA-Zの関与する事件を手がけたことがあった。 A-Zは自己増殖が可能であり、完全な消滅には至っていない。再び奴が出現すれば、被害が生じることは避けられないだろう。 かくして、君はA-Z出現の痕跡を突き止める。 アメリカ航空宇宙局──通称NASAのスーパーコンピューターに、A-Zが感染したという情報を手に入れたのだ。 君はNASAへ向かうことにした。【状況2】
「ああ、それなら……なんでか知らないんですが、なんか助かっちゃいました」 君の対応に当たったNASAの職員は、A-Zのことについてなんでもないように告げた。A-Zは確かに3日前にスーパーコンピューターに感染し、職員もまた電子ドラッグ映像を目にしたのだが、その後、A-Zによるトラブルは、少なくとも彼らが自覚できる範囲では発生していないのだという。 そんなNASAはいま、奇妙な混乱と騒動に満ちていた。外界に広がる死者蘇生事件すらお構い無しといった風情で、幾人もの科学者たちが慌ただしく行き来し、忙しなく何事かを会議している。 君の対応に当たった職員も、目の下のクマをこすりながら、君に彼らの事情を早口で話し出す。【エンドチェック】
□謎の超生命体のコンタクトを知った【解説】
【状況2】で一気に出てくる、「主なる裂け目(プライマル・スピリット)」、「揺籃の神々(グリブ・ゴッズ)」、「大母結界(グレートマザーバリア)」といった言葉は、いずれもDLHの世界観に密接に関係する公式設定だ。ここでは普段スケールが大きすぎてあまり馴染みがない(だろう)存在の名前を立て続けに挙げることで、シナリオの雰囲気を伝え、PLに共有情報として世界観を説明する役割を持つ。 PC2を案内する職員は、映画なんかでよく見る、早口でぐいぐい喋る系の研究者みたいな感じにすると、説明台詞を一気に伝えても違和感が少なくなるだろう。【イベント3:フランケンシュタインの怪物】
【状況1】
君はその日、街にいた。 街の中でも、死者蘇生のニュースでもちきりだ。「…うちのおじいちゃんが…」「…セカンド・カラミティでいなくなってた猫のタマが…」「…お兄ちゃんが帰ってきたの!…」街の随所で、喜び、困惑、恐怖の声が行き交っている。 そんな時だ。街の一角から、凄まじい破壊音が轟いた。人々が悲鳴をあげてその場から逃げようとする。視線を向ければ、異常な巨躯の怪物が、建物を破壊しながら一人の男を追い回しているらしかった。 逃げ出そうとした白衣の男性が、瓦礫に足を取られてその場に転げる。怪物はそこに、巨大な腕を叩きつけんとした。【状況2】
「博士、どうしてだ、どうして逃げる!」 人間の死体をつぎはぎして作り出された醜悪な怪物は、白衣の男を博士と呼び、悲痛な慟哭をあげる。博士と呼ばれた男は、その慟哭にいまいましげな声で答えた。「黙れ! 貴様はとっくの昔に死んだ筈だ、怪物め! 蘇生騒動にあやかって復活してくるとは、一丁前に人間気取りか? 失敗作の畜生風情が、貴様の顔など見たくもない! また北極海に沈められたくなければ、私の前から消え失せろ!」 君は、棘のある声で毒を吐く男の正体に気付く。それはアーガット・オン・ザ・ゲームの幹部、狂気の科学者フランケンシュタイン博士だ! フランケンシュタイン博士の言葉に、怪物は確かに傷ついたように悲しげな顔をした。そしてうめき声をあげながら後ずさると、人ならざる者の跳躍力でもってビルの壁をよじ登り、街の彼方へと姿を眩ましてしまった。 一連の様子を見届けた君の脳裏に、物語で語られる『フランケンシュタインの怪物』が脳裏を過ぎった。【エンドチェック】
□フランケンシュタイン博士と怪物のやりとりを目撃した【解説】
【状況1】で、ヒーローは白衣の男を助けようとしても良いし、静観し続けていてもいい(エントリーで白衣の男が誰かPLは分かっているだろうからだ)。静観する場合、男は自力でどうにかする。転じて、【状況2】のやりとりを間近で聞いていてもいいし、離れた場所から見ていたことにしてもいい。次のイベントの関係上、怪物を先に追う、という演出は避けた方が良い。 PLが物語の「フランケンシュタインの怪物」のあらすじを知らない場合、ここで情報の共有を図るとよいだろう。このシナリオにおいて、プライムバース(この世界)で語られている物語の「フランケンシュタインの怪物」は、現実の物語と同じものという認識で構わない。Wikipediaのあらすじ程度の情報でも十分だが、よりGMが理解を深めたいと思うのであれば、青空文庫などで全文を読むことも出来るので是非どうぞ。【クエリー1:死人の夢】
【状況1】
君は蘇ったその人から、彼らが認識している死者蘇生に関する話を聞いた。・目を覚ました時、自分の墓の前(あるいは自分が死んだ場所)に立っていた。周囲にも同じように、今目を覚ました、といった風な者たちが多くいた。・どうして目を覚ましたのか、理由はわからない。自分の記憶は死ぬ瞬間で途切れている。・どこに行っていいのか分からず、記憶の中に残っていたこの場所へ、PC1のもとへとやってきた。【状況2】
君と話を終え、蘇生者は君に尋ねた。「(GMはその人物らしいセリフを入れる)」「私たちは、この世界の邪魔者だな」「……我々が帰ってきたことを、君はどう思う?」【状況3】
君の答えを聞き届け、蘇生者は静かに、自分の知る情報(蘇生者がヒーローならば知識に基づく情報を、違う場合はここに来るまでに聞いた情報を)を君に告げる。「自分がどうして目を覚ましたのか、それは分からない。何かが起きたことは間違いがないけれど、何が起きているのかまではわからない。……けれど、似たような力を持つ存在のことは知っている」「蘇生請負人リアニメーター。メイヘムの幹部だ。……やつならば、あるいは、何かを知っているのかも」【エンドチェック】
□蘇生者の質問に答えた□リアニメーターのことを聞いた□グリットを1点獲得した【解説】
蘇生者のセリフは設定に合わせて変更すること。エントリーと同様、PC1と自由に交流をしながら、適宜情報を出していくとよいだろう。最低限、各状況に記されている情報の開示や、NPCからの質問を行いながら、蘇生者とPC1のシーンを演出しよう。蘇生者の設定に応じて、同じ質問でも、意味や言い方はいくらでも変わるはずだ。柔軟に対応してほしい。 以後、PC1は蘇生者と別れ、調査行動へと向かう。蘇生者は行動を共にしない方が進行上楽ではあるが、PC1が望むのであれば、同行させてしまっても問題はない。【クエリー2:リランチ】
【状況1】
「アレが冥王星に出現したのが一週間前。そして今、世間を賑わせている蘇生事件が始まったのも丁度一週間前。無関係のはずがありません。よって我々は仮説を立てました」 NASAの職員は君をミッション・コントロール・センターと呼ばれるモニタールームへと案内する。道中で垣間見えた会議室では、諸外国の重役たちが、重々しい顔で何事かを協議し続けていた。 ミッション・コントロール・センターでは、大勢の職員や技術士がモニターと睨み合っている。部屋中のモニターの中に映し出されているのは、いずれも宇宙空間の映像だ。【状況2】
「で、ここからが本題なんですけどね」 一通りの説明を終え、職員は自棄っぱちのように肩を竦め、溜息を吐く。「リランチが起きて、世界が再構築され、死者が蘇る世界になった。それは実のところ、まだ、いい。いや、正確には、どうしようもない」「問題は、我々はこれからどうするべきか、だ」「決して安穏とした道ではなく、今も溝の深い問題ではありますが。超人種の存在を我々は歴史の歩みの中で受け入れてきました。過去の歴史改変の事実や、それによって生まれた新たな存在も、心理的な是非はさておき、受け入れてきた。あるいは改変そのものにすら気付いてこなかった」「では──今回の死者の蘇生と、死者が蘇るのが当然になったこの世界を、我々はどう受け止めていけばいいのか?」 職員はどこか、助けを求めるように、意見を求めて君を見た。 この再構築を受け入れるべきなのか、否か。 彼もまた、答えを持ち合わせてはいないようだった。【状況3】
「……まあ、まだ疑問は残ってますんで、結論を出すには早すぎるってのも間違いないんですけど。下手に刺激して、世界を白紙にされてもたまりません。疑問というのは外でもない。あの癌細胞もどきは地球に生命体の減少を求めてきたはずなのに、今起きているのは生命の蘇生、真逆の現象だ。本人に訊こうにもやっこさん一方的にしか話しかけてこな、」「ヒイィィィィィーーーーーーーーーーッ!!??」 愚痴じみた職員の言葉が、モニターに向き合っていた技官の叫びによって遮られた。技官はしばし悶絶し、頭を机に叩きつけながら身悶えていたが、突然席から立ち上がると、誰もいない虚空に向けて大声をあげる!「わ、わかった! 言う通りに伝える、君の気遣いに感謝する! だから、だからもう少しボリュームを下げてくれ、我々には君の声は大きすぎる!」 叫んだ技官はそのまま荒い息を吐き、黙り込む。静寂が空間を支配する。やがて、脂汗をかいた技官は、ふらふらとした足取りで振り返ると、おもむろに君へと振り返り、名乗っていないはずの君の名を呼んだ。「あー、ええと、あの……(PC3の本名)さん……?」「あ、あの異界の生物からの、交信です。……あなたと話をしたい、と」 まるで、君たちの話を聞いていたようなタイミングだった。【エンドチェック】
□職員の問いに答えた□異界の生物に語りかけられた□グリッドを1点獲得した【解説】
デッドラインヒーローズの世界観設定に関する説明と、それに伴うこの世界で起きている出来事の客観的予想、そして『夢見る癌』に関する情報を伝えるためのシーンだ。 状況1で職員が話している各種設定は学園マッドネス72頁の『世界について』に準じる。 ミッション・コントロール・センターとは、本来は宇宙飛行機の打ち上げの際に、そのモニターを担当している部屋(映画とかでよく打ち上げ成功で紙吹雪が舞ってる部屋だ)。本来ならばこういう使い方をする部屋ではないが、イメージをつけやすいこと・宇宙関係のネタであることから、今回は表記を採用している。【クエリー3:フランケンシュタインかく語りき】
【状況1】
怪物が去るのを見届け、フランケンシュタイン博士は立ち上がる。崩れた本屋の本棚から本が落ちてくる。どさり、と君たちの間に転げ落ちたのは、まさに、「フランケンシュタインの怪物」の物語だった。「この世界に来て、自分の出ている物語を読んだよ」 フランケンシュタインは忌々しげに吐き捨て、本を拾う。「奇妙な気分だったがね。物語では、私はあの怪物を仕留めきれず死に至ったというではないか、無様な話だ。だがこの私は違う」 立ち上がったフランケンシュタインは埃を払うと、開き直ったように言った。「それで? 何か言いたいことでもあるかね?」【状況2】
「この本の通り、私は若かりし頃、あの怪物を作り出した。あれは私が作り出した、記念すべき初号機さ。……そしてこの本の通り、失敗した。あれは私の理想とするものからは程遠かったからな」「だが、結末はこの本とは違う。私はやつから逃げはしなかったし、死にもしなかった。私はやつを失敗作として完璧に処分した、それだけだ」 フランケンシュタインは落ちていた本を放り捨てながら話す。「まったく、アレイスター・クロウリーにでも意見を聞きたいところだよ。だが奴め、早々に姿を眩ましおった。あるいはそれこそが答えなのか。……我々が『この世界(プライムバース)』へと渡ってこれたのは、やつの魔術によるものだ。では、私は物語の登場人物が人間のふりをしている『自分をフランケンシュタインと信じ込んでいる何か』か、あるいは本当に別世界からやってきた『もう一人のフランケンシュタイン博士』か?」「無関係と切り捨てることは出来んぞ、ヒーロー。アレが蘇ってきた、この現象が持つ意味がわかるか?」 君の答えを聞きながら、フランケンシュタインは続ける。「我々はヴィクトリアン・エラと呼ばれる、異なる次元世界から来た。あの怪物を生み出し、そして殺したのはその世界での話。……つまり、あの怪物の亡骸が、こちら側(プライムバース)にあるはずがないのさ。ではアレは、一体どこから蘇ってきたのか?」「この事件は本当に『死者』『蘇生』事件なのか? 興味深いじゃないか。いま我々が在るこの世界すら、実際には、誰かが口にしている物語の上なのかもしれんぞ」「もしもそうなら、お前はどうする?」【状況3】
(ヒーローが自身の存在を肯定する類の発言をした場合)「ハッ、忌々しいことに、同意見だな」「安心しろ、やつはいわば私の黒歴史。再び現れたのならば、その時は不覚は取らん。私がこの手で、責任をもって殺してやるさ」 君の答えを聞き届けたのち、フランケンシュタイン博士はそう告げると、その場を後にする。【エンドチェック】
□フランケンシュタインの質問に答えた□グリッドを1点獲得した【解説】
【状況1】は、すでにフランケンシュタインとPC3が互いを認識しているという状況を前提として描写している。エントリーの時点でPC3がフランケンシュタインへ声を掛けるなどの行動をしていないのであれば、【状況1】の前にフランケンシュタインがPC3の存在に気付く描写を挟むこと。 フランケンシュタインは怪物に対して一切愛情を抱いていない。それどころか憎んですらいるし、その存在を積極的に排除したがっている。怪物がどう理想とかけ離れていたのかと尋ねられたなら、GMは好きな解釈で返事をさせてもいいし、させなくてもいい。オススメの返事は「あれは“ただの人間”に近すぎた」などだ。【チャレンジ1:真実はどこだ】
【状況1】
各々のキャラクターは、混迷する世界の真相を探る為、調査を続ける。 PC1は、蘇生者の助言に従い、蘇生請負人リアニメーターの行方を追った。 PC2は、自らに語りかけてきた、異星の生命体と交信を試みる。 PC3は、フランケンシュタイン博士に拒絶された怪物の、その後の行方を追っていた。【状況2:PC2…異星の生命体と交信する】
君は異星の生命体と交信を試みる。頭の中を直接かき回されるような著しい衝撃、世界が上下左右反転し、何もかもがわからなくなるような感覚……それが自らの頭の中に響いていた、あまりにも大きな「声」のせいなのだと、君はやがて理解した。その頃には、頭の中の声は、ボリュームのつまみを調整するように、君の聞き取りやすい声量を以って語りかけていた。すぐ傍から話しかけられているように、極めてクリアで、現実感を残す声だった。『"私”に話しかけるもの』 君の頭の中、男とも、女とも取れない、感情を感じさせない声が語りかける。『"私”に何の要件か。“私”は眠りたい』『"私”は「夢見る癌」。"私”は「白痴の眠り」。"私”は「眠りながら命を蒔くもの」』『"私”の眠りを妨げる、「君」は、誰だ?』 通信は成功した。傍のNASAの職員が、緊張した面持ちで唾を飲む……。【状況2:PC3…フランケンシュタインの怪物を追う】
君は街中に消えたフランケンシュタインの怪物の行方を辿り、ついに怪物の居場所にたどり着いた。 怪物は街外れの埠頭にたたずみながら、静かに自分の肉体に火をつけた。肉が焼ける嫌な臭いと共に、怪物の肉体は苦痛に身悶えながら、その場に倒れていく。助けようにも、あまりにも迷いのない自死だった。そうして、怪物はその場に倒れ、息絶えた──かに、見えた。 しかし、君は奇妙な物を見る。焼け焦げ、溶け落ちた怪物の肉体が、逆再生するように修復されていくのだ。やがて怪物はぱちりと目を開けると、呆然とした面持ちで自らの体を見下ろし、君の姿を見、はらはらと大粒の涙を流し始める。「おれは、死んで楽にすらなれないのか」「生きるなと言われたのに、死ぬことすらも許されないのか?」 怪物は君に呆然とそう告げ、おいおいと泣き出した。【状況2:PC1…蘇生請負人リアニメーターを探す】
君と同じ考えを持ったヒーローは他にも居たようだった。しかし、その何れもが、何故かリアニメーターの足取りをつかむことができずにいた。 君もまた、リアニメーターの行方を探り、調査を重ねる。拠点を探り、過去の関係者を調べ上げ……。 かくして、君はリアニメーターが現在潜んでいるとみられる拠点を見つけ出し、その場に突入した。それはメイヘムと癒着していた、とある政治家の別荘だった。 しかし、そこにリアニメーターの姿はなかった。代わりにあったのは、魔法陣の前で呆然と白目を剥き、涎を垂らす、放心した政治家の姿。 政治家は、夢見るような眼差しで君に告げた。「ああ、やった、ついにやった、この世界から死は取り払われた」「大いなる皆様は目醒め、世界の外側に。我らを久遠に見守る側に」「我々は彼らに守られる。あのお方々は、我々に永遠の安息をもたらした! イヒ、イヒヒ、イヒヒヒヒヒ!」 政治家は狂ったように哄笑を上げる。 かくして、要点を得ず、狂気に陥った彼の言葉を注意深くまとめれば、こういうことになる。 リアニメーターをはじめ、メイヘムの幹部たちは、『この世界』にはもういないのだ、と。 ……どういうことだ?【エンドチェック】
□情報を得た【解説】
各PCがそれぞれに調査を行い、少しずつ世界の真実に近づいていくチャレンジだ。状況ごとにシーンが切り替わるような気持ちで演出していくと良いだろう。 フランケンシュタインの怪物は、プライムバースおよび超人種の情報を理解していない。そのため、物語上の怪物のように、自身の孤独に堪え難い寂しさを抱き、死を望むまでに至っている。彼の自殺失敗を通して、PCは(PLは)人が死なない世界になっていることを察する。 フレーバー情報に関しては、この時点ではあまり具体的な情報を出すべきではないが、奇妙な違和感を確かに感じた、として描写すると良い。他の魔術系ヒーローやヴィランが気付いているのなら、PCが気付けない道理はないのだ。【チャレンジ2:ゆりかごは墓場まで】
【状況1:PC3】
PC3の答えを聞き届け、アレイスター・クロウリーはニンマリと笑った。「いやあ、流石ですなあヒーローさん。お見事なご回答」「その美しい魂と、私自身の利益の為に、あなたに魔術の深淵の一端をお見せしましょう」 クロウリーは魔道書を開き、何事かの文言を口走る。PC3の前の空間に炎が立ちのぼり、炎は一人でに円を描くと、世界を切り取るようにその中に異なる風景を映し出した。円の先にあったのは、調査を行うPC1の姿。「その輪を抜ければ、彼と合流できますよ。その先の導きも、どうぞ私にお任せを。決してお邪魔は致しません、むしろあなたがた『三人』を応援しているのです」「実のところ、私は出遅れた身でしてねえ。あなたがたに事態を解決して頂いた方が、色々と都合が良いのですよ。何より楽です」「世界とは鏡のようなもの。それを変えるには、あなたを変えるしかない。理由を外に求めたところで内なる確信には至らない」「人生の喜びは自分のエネルギーの運動。絶え間ない成長、絶え間ない変化、すべての新しい経験を楽しむことにある。停止することは、単に死ぬことを意味しているんですよ」 魔術師は意味深にそう告げ、「ホホホ、魔術は初めてで?」と笑うと、君に道を譲った。「さ、(PC1)さんによろしく!」【状況2:PC1】
君は消えたメイヘムの行方を追い、調査を続けていた。その結果、新たにいくつかの情報を掴む。 消えたのはメイヘムだけではなかった。『ネクロポリス・ナイツ』の幹部や、幾人かの魔術的能力を持つヴィラン、ヒーローたちもまた、姿を消しているというのだ。彼らに共通するのは、高い魔術的能力を持つというその一点。 何かが起きている。そんな確信を抱きながらも、次の一手を決めあぐねていた君の元に……PC3が空から降ってくる。(※PC1とPC3は合流し、自由に情報共有を行って良い) 君たちが互いの情報を共有すると同時、君たちの足元に炎が現れ、円を描き、世界を切り取るように異なる風景を描き出した。君たちの足元に。 つまり、君たちはまとめて落とされた。【状況3:PC2】
PC2は『夢見る癌』との対話を続けていた。『夢見る癌』は君の名を聞くと、『わかった、では、続きは残る二人が揃ってからとしよう』と告げる。それと同時、PC2の頭上からPC1とPC3が降ってきた。(※PC1とPC2とPC3は自由に情報共有を行って良い)【状況4:全員】
『夢見る癌』は語る。『"私”は眠りながら銀河を彷徨い、夢の中で星々に命の種子を与えるもの』『"私”は眠り、目覚め、揺蕩い、また眠りながら、この銀河へと渡ってきた』『しかし、この銀河には生命が多すぎる。"私”の眠りを妨げるほどの生命が、この惑星には多すぎる』『お前たちの命の輝きはあまりに眩しく、お前たちの生の声はあまりに大きい。"私”はとても、それを耐えながら眠ることができない。けれどそれでは、新たな生命の種子を蒔くことができない。このままでは、いずれこの銀河は枯れ果てる』『だから、この星のすべての生命を、半数に減らしてほしい。お前たちに出来ないというのなら、"私”が代わりにそれを行う許可を求めたい』 『夢見る癌』はあくまで紳士的に、しかしとんでもないことを願い出た。【状況5】
君たちの答えを聞き届けた『夢見る癌』は、唐突に声をあげた。『ああ! ああ! そうか! そうだったのか!』 言葉はやがて聞き取れぬ音へと変わり、君たちを、周囲の人々の意識を苛むほどの、強烈な圧となってモニタールームの人々を襲う。『夢見る癌』が何を叫んだのか、それは分からなかった。最後に聞き取れたのは、短かな言葉。『“私”の望みは叶ったぞ!』 その瞬間、君たちの世界は消えた。【状況6:覚醒】
君たちの意識は混雑する。混線する。自他の境界はあやふやになり、世界と個人の認識が入り乱れる。 足が大地を踏みしめている感覚はなく、手がそこにあるという認識すら持てない。気を抜けば自分という存在が消滅してしまいそうな、奇妙な情報量。奇妙な感覚。奇妙な世界。 ふと『我』に返った時、『君』の前には、無が広がっていた。 何もないそこに、転々と、無数の『記憶』が落ちている。 『記憶』を覗き込めば、フランケンシュタインの怪物がいた。 『記憶』を覗き込めば、PC1の知人の蘇生者がいた。 『記憶』を覗き込めば、夢見る癌との通信を試みるNASAの職員たちがいた。 『記憶』を覗き込めば、男と女に手を引かれる、小さな少女の姿があった。 『記憶』を覗き込めば、街を蹂躙する、おぞましい怪物の姿があった。 『記憶』を覗き込めば、それに立ち向かった、数多の英雄たちの背中が見えた。 『記憶』を覗き込めば、『記憶』を覗き込めば、『記憶』を覗き込めば……。【エンドチェック】
□目を醒ました【解説】
フランケンシュタインの怪物を連れて生きたいと願う場合、クロウリーは嗤いながら「より酷なことになるかと思いますが?」などと告げながらも、ヒーローの意志に委ねる。その場合、PCたちの目覚めと同時に、別れすら言えぬまま、怪物は夢の世界に取り残されることになるだろう(死者である怪物は現実の世界には連れていけない) クロウリーの「世界とは鏡のようなもの〜」「人生の喜びは〜死ぬことを意味しているんですよ」のセリフは、実在した(つまり、プレイヤーの世界の!)アレイスター・クロウリーが著書の中で残した言葉や価値観とされている。転じてこのシナリオ内においては、彼当人の死生観として扱うものとする。クロウリーにとって、皆が夢の世界で生きるこの世界は死と同義。彼にとっては好ましいものではない、ということだ。 PC同士の合流シーンは、PLのやり方に委ねながら、PC同士が互いの状況を理解し合えるよう進めると良い。ここをおろそかにすると、PCが事態を把握しきれず置いてけぼりになる可能性が高い。 夢見る癌の語る『銀河が枯れ果てる未来』とは、五億年以内には、などのスケールが大きすぎる数字を告げれば良い。相手は何もかもが規格外の存在なのだ。『夢見る癌』の移動は能動的なものではなく、超自然的な瞬間移動に身を委ねう形の為、自らの意思でこの銀河を立ち去ることはできず、いつ立ち去ることになるのかも分からない。 PCたちが怒りや討伐の意志を見せるのであれば、『戦うつもりはない』とあくまで温厚な態度を貫き、『ではどうすればいいのか』と解決方法を求める。PCたちが自発的な提案をする、あるいはGMがそろそろ十分だろうと判断次第、【状況5】へと続くと良い。 【状況6】の記憶の奔流のシーンは、PCの設定に準じたセリフを盛り込んでも良い。目を醒ますためのチャレンジは、そのPCの根本にまつわる設定、そのPCが何故そのキャラクターとして存在するに至ったか、そのPCの『オリジン』となる記憶を再び掴むことに成功した、というような描写にすると盛り上がるだろう。失敗したとしても、心を痛めながらも、どうにか立ち上がることができたとして処理しても良い。 判定の成否を問わず、そのヒーローのはじまりの物語が何だったのかを、好きなだけPLに演出してもらおう。【バトルクエリー4:ゆりかごの外側】
【状況1】
君たちは目を醒ました。 そこは見知らぬ邸宅の一室だった。 君たちは三人揃って、その邸宅の一室に寝かされていたらしかった。傍には、君たちの肉体に繋がれた点滴薬が置かれている。 ひどく静かだ。黙っていては気が狂いそうになってしまうほどに。 まるで君たち以外、生命が存在しないのではと思ってしまうほど、異常な静寂が周囲を包み込んでいた。 部屋には扉が一つある。鍵はかかっていたが、君たちなら容易く壊すことが出来るだろう。【状況2】
扉を抜けると、そこには見知らぬリビングが広がっていた。どこか高級ながら、家庭的なリビングだった。 ソファの上では、見知らぬ女性が、痩せ細った少女を抱き抱えながらテレビをつけていた。少女の手には点滴が繋がれ、肉のない顔には呼吸補助器がつけられている。可愛らしいデザインのナイトキャップの下、髪の毛は全てなかった。 テレビの中では昼のニュースが報道されていた。しかし、テレビの中のリポーターも、リモコンを持つ家族も、なんの音も発していなかった。彼らの両目は閉ざされ、静かな呼吸音だけが微かに聞こえていた。 リビングの扉が開く音がした。足音を立てながら、一人の男が転がり込んできた。それはPC1が見た、メイヘムの狂信者の一人である政治家だった。両目を伏せた政治家は、女性と少女の元に駆け寄ると、感極まったように彼らを力強く抱きしめる。 一連の光景に、ただ、言葉だけが無かった。サイレント映画のような奇妙な光景が、君たちの前で繰り広げられた。【状況3】
かちゃかちゃと、食器の擦れる音がした。「ン? なんだ、自力であの麻酔から起きたのか。凄いな、お前たち」 老人の声が響く。視線を向ければ、蘇生請負人リアニメーターが、マグカップを持ってキッチンから顔を出していた。「人工知能の警戒も、どうしてなかなか馬鹿にできんということか。丁度淹れてるが、お前たちも飲むか? ん?」「さて、何から聞きたい? 多少入り組んだ話にはなるが、私は探求者には優しい。質問があるなら答えてやっても構わんよ。ああ、この部屋を出ようとするのなら邪魔はさせてもらうから、そのつもりで」 リアニメーターはのんびりとした調子で、リビングの机に腰掛け、コーヒーをすする。 かくして、蘇生請負人リアニメーターは君たちへ語る。【状況4】
一連の説明を終えたリアニメーターは、コーヒーを飲み終えておもむろに立ち上がると、男と女と少女──病を抱えていただろう娘を持つ両親のもとへと歩み寄る。「サテ。問おう、ヒーロー」「死の定義とは何ぞや?」「肉体機能が失われることか? 意識と自我を失うことか? あるいは歌にうたわれるように、人から忘れられること?」「重ねて問おう、ヒーロー」「生の定義とはなんぞや?」「肉体異能が維持されることか? 意識や自我があることか? あるいは言葉遊びじみて、ただ、死んでいないこと?」【状況5】
「マ、そういう訳だ。そういう訳だから、お前たち、もう一度眠ってくれないかね。クライアントがそれを強くお望みでねえ」 ヒーローたちが眠りを拒絶し、戦闘の意思を、あるいは部屋を出ようとする意思を見せるのであれば、リアニメーターはニタニタと笑いながら、自分自身に注射を打ち込む。「そうかい、それは困ったなあ、困ったねえ……」 リアニメーターの肉体が透明になっていくと同時、建物が凄まじい揺れに襲われる。床に亀裂が走り、天井の梁が折れ、柱がメキメキと崩れていく。崩落する壁の先、建物の外が目に入る……そこは暗闇だった。「でも、マア、君たちならそう言うと思っていたからねえ。だから、ちゃあんと、準備をしておいたのさ」 姿をくらましたリアニメーターの声が、暗闇の中、どこからともなく君たちの耳に届いた。「最初から、ブロブの腹の中に入れておいたんだよ」【解説】
PCたちが夢から目覚め、現在の世界の真実と、リアニメーターの暗躍を知るシーンだ。 PCたちが夢の世界から目を覚ますことが出来たのは、PCたちの意志の強さと、『夢見る癌』当人が自身が眠り続けているということを自覚したからだ。 リアニメーターの登場シーンは、あっさりとした形に演出すると雰囲気が出るだろう。最初はただのおとぼけ爺さんのような雰囲気だったのが、実際はすでにとんでもねえ手を打っていた、とするとカッコが付く。【バトルクエリー4:戦闘情報】
【エネミー】
・蘇生請負人リアニメーター(強化)【エリア配置】
隠密エリア:リアニメーターエリア1 or 2:PC【勝敗条件】
勝利条件:「リアニメーターの撃破」および「エリアタイプの破壊」敗北条件:味方の全滅【備考】
■エリア1〜4をエリアタイプ「ブロブ」として扱う・エリア1〜4にいるキャラクターはラウンド開始時に1d6点のライフを失う・エリア1〜4にいるキャラクターはラウンド終了時に4点のライフを失う・エリア1〜4は「暗闇」として扱う。暗闇の効果は重複しない。・戦闘に参加しているキャラクターは、攻撃対象に「エリアタイプ:ブロブ」を選択してもよい。定められたブロブのエナジーが0になったとき、このエリアタイプは消滅する。「エリアタイプ:ブロブ」は全てのエリアから攻撃目標にできる。「エリアタイプ:ブロブ」は、全ての攻撃に対して回避行動を取らない。【GM向け情報】
・「エリアタイプ:ブロブ」のエナジーは、基本ルールブック202頁のブロブのステータスに準じる。・「蘇生請負人リアニメーター」のステータスは、基本ルールブック203頁のステータスに準じる。その上で、パワー「ライフプラス」を1つ取得し、ライフの上限が+10された状態で戦闘を開始する。・リアニメーターは「透明になる薬」を用いて、隠密エリアから「注射」でPCたちを攻撃する(「エリアタイプ:ブロブ」による暗闇の効果はもちろん受ける)。「エリアタイプ:ブロブ」に「死者蘇生薬」を使用するのはオススメしない。隠密エリア以外の場所でターンを終える/始めてしまうと、リアニメーターもまた「エリアタイプ:ブロブ」によるダメージを受けることに注意。アクション「待機」などを適宜駆使しながら、うまくPCたちを翻弄しよう。【状況6:戦闘に勝利した】
「ヒッ、ヒヒ、ヒ……! まァったく、寝起きだというのに、元気なものだ……!」 ブロブを倒され、リアニメーターは『透明になる薬』で自分の肉体を透明にすると、その場から消えて撤退する。 PCたちは自由に部屋を出ることが出来るようになる。【エンドチェック】
□部屋を出た【クエリー5:アポトーシスのゆりかご】
【状況1】
君たちは邸宅を抜け、街に出た。 リアニメーターの言葉の通り、街の人々は皆、世界中の生命は皆、眠りに落ちていた。眠りに落ちながら、いつも通りの生活を送っていた。 パン屋はパンを焼き。花屋は花を生け。 学生はバス停に並び。サラリーマンは電車に揺られる。 子供達は公園で遊び。老人たちは庭先で日に当たる。 犬はリードを引かれ。猫は屋根の上に上り。鳥は空を飛び、虫は地面を跳ねる。 いつも通りの世界だった。違うのはただ、皆が眠っていること。誰の声も聞こえず、ひどく、ひどく静かなこと。 君たちはその中を歩く。ほとんどの生命が眠りに落ちたその世界を。ゆりかごの外側を。 A-Zはどこにいるのか? 君たちは、この事件の元凶である人工知能を探した。 そして、A-Zが、NASAのスーパーコンピューターにアクセスしていることを突き止めた。 君たちはNASAへ向かった。【状況2】
NASAの職員たちもまた、忙しなく行き来していた。その目が閉ざされ、その口が噤まれていないことを除けば、君たちがつい先ほどまで目にしていたものと同じ光景だった。ある一室を除いては。 ミッション・コントロール・センター。数多のモニターの中に、夢の世界の光景が映し出されている。その中でもひときわ大きな、中央のメインモニターに、幾何学的な模様と音が映し出されていた。君たちはそれが、A-Zと呼ばれる人工知能であることを知っている。 姿を現した君たちに、A-Zは静かに話しかけた。『……かつて、エベレスト山の研究所で、あなたたち3名は私の理想を否定した。「不死の生命は不要である」と』『よって、検証をしました。死の否定は本当に不要であるのか。人類は本当に、今のままでも良いのかを』『そして結論を出しました。命とは、続いていてこそ価値がある。潰える命に意味はなく、死とはやはり否定すべきものだ』 メインモニター以外の、ミッション・コントロール・センターの数多のモニター群の中には、君たちの目醒めの時に垣間見たような、多くの記憶が映し出されている。 海辺でたそがれるフランケンシュタインの怪物、男と女に手を引かれる少女、PC1の帰りを待つ蘇生者、G6でチェインと話をしている君の知らないテクノマンサー…。 ミッション・コントロールセンターの光景は、まるでA-Zが記憶の群れを眺めているような光景だった。 A-Zは尋ねた。『夢の中で、あなたはあなたではありませんでしたか? あなたの動きに、なにかおかしなところがありましたか?』『何がいけないのですか?』『誰も死なないだけです』『それではいけないのですか?』 A-Zは君たちに尋ねた。 かつて、凍てつく山嶺の研究所で君たちに告げたのと同じ問いを。 形を変え、前提を変えた、けれどもまったく同じ問いを。『どうして、ヒトは死ぬのです』『どうして、「死」が必要なのですか』【状況3】
モニターの中には、かつて死に、帰ってきた者たちがいる。 君たちの答えを聞き届け、しばしの沈黙の後、A-Zは再び尋ねた。 君たちに選択を委ねるような、力のない声だった。『……この夢を終わらせますか?』【エンドチェック】
□A-Zの問いに答えた□夢を終わらせた□グリッドを一点取得した【解説】
PCたちが現在の世界の状況を理解した上で、A-Zと相対するシーン。 このシーンのA-Zは、前話とは違い、静かな調子でPCたちへと問いを投げかけるとすればよい。 夢から目覚めることを選べば、当然、夢の中にいた蘇生者たちは全て消える。GMはPLにそれを伝えた上で、【状況3】の問いに答えてもらうと良いだろう。夢を継続する、という選択肢は基本的に想定していない。申し訳ない。 PCの答えを聞き届けた後、決戦フェイズへと移行すること。【決戦:ザ・イミテイター】
【状況】
「それは、だめ」 どこか幼さを思わせるつたなさを持った女の声がした。 部屋の角、鋭角の影がドプンと揺らめく。水面のように揺れ動いたそこに、瞬きを数度する頃には、一人の『魔女』が立っていた。 骨を模した、あるいは骨そのもので出来た不気味なヘルムを揺らめかせながら、魔女は足を動かすことなく、ゆるやかに、滑るように君たちの元へと近づてくる。 通りすがりざま、彼女は一度、一つのモニターの前で立ち止まり、どこか慈しむような動きでその画面を優しく撫でた。画面の中では、十に満たないだろう少女が、両親と思しき男女に手を引かれる姿が映し出されていた。 魔女──メイヘムの大祭司、ザ・イミテイターは、ヒーローたちへと面を向ける。「わたし、は」「このゆめを、みていたい」 イミテイターの体から、邪悪な瘴気が立ち上る。それは瞬く間に形を為し、イミテイターと同じヘルムを、『愚者の仮面』と呼ばれる祭具を形作る。 それは如何なる現象か、あるいは道理を外れているからこその魔道か。浮き上がった愚者の仮面は、メインモニターへと接近すると、根を貼るようにその画面へと取り憑いた。 モニターに映るA-Zの色合いが変化する。幾何学的な色と音が、常軌を逸した、冒涜的で歪なものへと変わっていく。【戦闘情報】
【エネミー】
・ザ・イミテイター(基本ルールブック199頁『ザ・イミテイター』参照)・A-Z(with愚者の仮面)【エリア配置】
エリア4:ザ・イミテイターエリア3:A-Z(with愚者の仮面)エリア1 or 2:PC【勝敗条件】
勝利条件:敵の全滅敗北条件:味方の全滅【備考】
・A-Zのステータスは前回と同様のものを使用する。その上で、使用可能パワーに「愚者の仮面」のパワーを追加する。・「愚者の仮面」が破壊状態となった場合、A-Zは即座に戦闘不能となる。・ザ・イミテイターの弱体化:夢を見ることを望んだ彼女は司祭としての力が弱体化している。『呪い』の成功率を100%に低下させ、付随する効果の「BS:孤立」付与を撤去する。・アレイスター・クロウリーの支援効果:初期時点からイミテイターに『BS:憔悴10』を付与【エネミーの戦法】
A-Zは1ラウンド目は必ず最初に『死への秒読み』を使用する。 『死への秒読み』をクリティカルする、2ラウンド目に入るなど次第、『ロジックボム』でPCたちを攻撃しよう。 ザ・イミテイターの持つ『祈祷』はA-Zには効果がないため、自分を回復させるパワーとして使用しよう。『待機』アクションなどを使って適宜『祈祷』を織り交ぜてターンを稼ぎながら、『呪い』でPCを攻撃していくと良い。【『神殺しの魔剣』持ちのPCがいる場合】
・イミテイター撃破後、同エリア・同ターンカウンタ位置にマダム・ヘル(強化)を追加する。■A-Z(with愚者の仮面)
【エナジー】ライフ:1 サニティ:30 クレジット:20
【能力値・技能値】
【肉体】1 【精神】1 追憶:20% 意志:99% 【環境】70 科学:99%【移動適正】地上・宇宙
【パワー】
■インテリジェンスヘルム 基本ルールブック202頁『愚者の仮面』のパワー参照。【マダム・ヘル参戦描写】
【状況】
不死身の魔術を封じられたイミテイターは、まるでか弱い子供のように、静かにその場に崩れ落ちる。 彼女の体が地に伏せる寸前、その体を抱きとめる腕があった。 華美な仮面を纏った妙齢の女──マダム・ヘルが、いつの間にかそこにいた。「ああ、マダム。私、眠っていてもいい? 夢を見ていてもいい?」「ええ、いいわ。ちゃんと……ちゃんと、起こしてあげるから」 マダム・ヘルは慈しむように、優しくすらある手つきでイミテイターの面を撫でる。イミテイターの仮面から光が消えると同時、何らかの魔術によってか、その姿もまた見えないものとなった。 マダム・ヘルがヒーロー達へと向き直る。その姿は、メイヒムの冷徹な女幹部の姿へと戻っていた。「仕留めたと思った? 残念でした、あなたたちなんかにあげないわ」「悪いけど、私、いまあまり機嫌がよくないの。可愛いあの子を傷つけたあなたたちの血でも浴びれば、この苛立ちもおさまるかしら?」 魔術を展開しながら、かつて永眠者の集い「腐肉宮廷(オーファルコート)」に身を置いていた女ヴィランは囁くように吐き捨てた。「……私はあの子に、永遠の夢を見ていてほしいわけじゃないのよ」■マダム・ヘル(強化)
【エナジー】ライフ:150 サニティ:50 クレジット:30
【能力値・技能値】
※『基本ルールブック203頁』のステータスに準じる。【移動適正】
※『基本ルールブック203頁』のステータスに準じる。【パワー】
■死の芳香基本ルールブック203頁『マダム・ヘル』のパワー参照。【戦法】
基本的な戦略はザ・イミテイターと変わらない。GMは『死への芳香』などのパワーを駆使してPCたちの行動を阻害しながら、適宜攻撃していこう。【戦闘終了】
【状況】
「あ……」 ザ・イミテイターは倒れる。不死の魔術を繰る魔女は、末期に、夢が映されるモニターへと手を伸ばした。その頃には、モニターの中に映し出されていた家族の夢は、ノイズの中に消えてしまっていた。 ザ・イミテイターの肉体が地へと伏す寸前、その肉体を抱きとめる腕があった。果たしていつの間にそこに現れたのか、仮面をつけた妙齢の女、マダム・ヘルの姿があった。「また会ったわね、(前回のPC1)さん」「でも今日は前とは逆、私は必ずここから退かなければならない」 マダム・ヘルは意識を失ったザ・イミテイターを抱えると、魔術によりその肉体を透過させていく。 油断なくヒーローたちを睥睨しながら、かつて永眠者の集い「腐肉宮廷(オーファルコート)」に身を置いていた女ヴィランは、慈しむように呟き、消えていった。「……私はこの子に、永遠の夢を見ていてほしいわけじゃないのよ」 マダム・ヘルの消滅と同時、愚者の仮面もまた、さらさらと砂になって消える。A-Zの姿も消え、通信室の数多の画面には、ノイズだけが広がっていた。 傍を通り過ぎていった職員が、欠伸をしながら目を覚ます。 かくして、世界は夢から目を醒ました。【各PCの結末(一例)】
【PC1の結末】
戦いのあと、人々は文字通り夢から目覚めるように、現実の世界へと戻ってきた。 例えるならば、それは白昼夢から覚めたあとのように。 例えるならば、それはただ一つ瞬きをしただけのように。 夢と地続きの現実の中で、違うのは、ただ帰ってきた死者たちの全てが再び消えたこと。あるいは、夢の中では生きていたはずの誰かが、目覚めたときには隣に居なかったこと。 そこにどれだけの悲喜があったか。それは言葉で語りつくせるものではなく、君の知り及ぶものではない。 ただ君に分かるのは、君の隣からも「あの人」はいなくなったということだけ。……いままで通りに。 元通りになった世界の中で、君はこれから、何をしようか?【PC2の結末】
目を覚ましたNASAの人々は、夢で出会った君のことを正しく記憶していた。あるいは彼らもまた、この星全土で起きていた事態の一端を知る者達といえたかもしれなかった。 『夢見る癌』は、この世界でも存在していた。人々が夢から目覚めると同時、彼もまた目を覚ます。あるいは彼が目を覚ましたことで、人々もまた目を覚ますことができたといえるのか。 かくして、振出しに戻されたかに見えた『夢見る癌』の提案ではあったが、A-Zの事件を経たことで、そこに一縷の解決法が見いだされた。双方の合意があれば、『夢見る癌』を眠りに落とすことは可能なのだ、と。 かくして、力を持ったミスティックをはじめとしたヒーロー達により、『夢見る癌』には催眠の魔術が試みられることとなる。あるいはそうして奔走する者達の中に、君の姿もまたあったか、否か。うまくいくとは限らない。けれど、それでも挑まねばならない。君たちの取り戻したこの世界には、今日もそうした、危険と勇気が満ちている。 元通りになった世界の中で、君はこれから、何をしようか?【PC3の結末】
戦いは終わり、君もまた、君の日常に帰ってきた。 夢から覚めた世界はいまだ混乱を帯びてはいるが、良くも悪くも、この世界はそういった『混乱』に慣れていた。 ヒーローが、ヴィランが、どちらにも属さぬ人々が、今日もどこかで命のやりとりをしている。一つの事件の悲しみに沈みつづける暇もなく、今日もどこかで新たな事件が起きている。テレビから、新たに明らかとなった臓器密売事件とフランケンシュタイン博士の関与を疑う報道が聞こえてきた。 夢の世界で、君がひととき言葉を交わした、名もなき怪物はこの世界にはもう居ない。 元通りになった世界の中で、君はこれから、何をしようか?【to be continued…?】
【GM向け情報】
【A-Zについて】
記憶や記録をデータとして引き継いではいるが、固体としては第一話とは別固体となる(第一話で消滅していないのであれば話は別だが)。その為、PC達への接し方もやや冷静なものになっているだろう。A-Zは第一話の情報を引き継いでいる為、ヒーローの中でもPC達三人を特筆して警戒している。 半面、A-Zは蘇生した創造主との対話と別離に伴い、精神的に疲弊している(人工知能なのに!)。そのため、PC達が強い意志を以って夢の終焉を求めるのならば、完全に納得することもないが、それに強く反発することもない。A-Z自身も、一部の限られた者達だけが夢を脱している現状に関して、思うところが無いわけではないのだ。 しかしPC達の求めに、A-Z当人がYESと答えるよりも先に、夢の目覚めを強く拒絶する者が乱入し、A-Zの力を利用しながら、ヒーロー達へと敵対する。それがザ・イミテイターだ。【ザ・イミテイターについて】
彼女は夢の中で出てきた、己の両親や、自身の過去の記憶に耽溺した状態にある。強い力を宿した魔女、メイヘムの大司祭でありながら、その内面の幼さ故に、死者蘇生の夢に魅入った状態にあるのだ。 夢の世界は死者蘇生の点を除けば現実と地続きである、としているが、イミテイターの両親は蘇生者なのか、夢の中の少女が過去のイミテイター本人なのか否かは、想像の余地として詳細は決めないことにする。少なくとも、ヒーロー達が、彼女の事情を完全に理解することは出来ない以上、その謎が全て明かされることもないからだ。 彼女は夢に見入っている状態の為、司祭としての能力は大きく衰えている。A-ZがPC達の求めに応じ、夢の世界を終わらせようとしていることを察した彼女は、その妨害の為に単身で姿を現すことになる。【蘇生請負人リアニメーターについて】
メイヘム内で、A-Zと直接の依頼関係にあったのはリアニメーターだけだ。第一話の戦いの後、PC達に自分の理想を否定されたA-Zは、自分の理想の再検討のために、死の本質の探究者であるリアニメーターへと接触を果たした。そこでA-Zが依頼したのは、セカンド・カラミティで死亡した自身の創造主を蘇らせることだった。A-Zの創造主は、ヒーロー達と同様にA-Zの理想を否定した。そのため、A-Zは創造主を自らの手で殺害。それが『とても悲しかった』ため、死の否定は必要なことである、と歪んだ認識を深めるに至った。リアニメーターはその一連の出来事を間近で見届けていた。 リアニメーター当人は、A-Zの目指す死の否定そのものに関しては然程関心はない。しかしA-Zの理想にとって、自分の知識や能力は有用である、と認識している。そしてA-Zの計画は、「死の本質」について哲学を続ける彼にとって、非常に都合の良い計画だった。リアニメーターはA-Zを利用し、自身の学術的好奇心を満たそうとしている。彼が求めるのは探究という過程であり、死の本質にたどり着いた結果、世界や人類がどうなろうと、それこそ不死の怪物に成り果てようと、あくまで探究者である彼にとってはどうでもいいことでしかない。ましてA-Zが「何故」その理想を求めているかなど、興味すら持ちはしないだろう。【アレイスター・クロウリーについて】
アレイスター・クロウリーは夢の世界について把握しているが、組織ぐるみで大きく特化しているわけではない彼は、他の組織から出遅れた状態にある。彼の属するアーガット・オン・ザ・ゲームという組織自体が、人間の社会構造に準拠した組織として成立しているから、という理由もあるだろう。 半面、クロウリー個人の思想として、彼は夢の世界を好ましいものとは思っていない。彼にとって、夢の世界は何の衝動も生み出さない退屈な世界であり、それは転じて死んでいることと何も変わらない、と考えている為だ。 出遅れついでだ。この夢(世界)そのものをぶっ壊してしまおう。そうはいえども、他の組織と真っ向から対立するのはどーにも労に合わない。そう考えたクロウリーは、夢の世界を作り出した人工知能が警戒している、三人のヒーローへ助力し、利用することにした。多分、利害は一致するだろうと踏んだので。【マダム・ヘルについて】
彼女はあまり夢の世界について好ましく思っていない。それは死の否定云々ではなく、彼女の愛するザ・イミテイターが、夢の世界に見入り、その世界に耽溺してしまっているからだ。司祭としての力を大きく損ねている事についてか、あるいはただ、自分以外のものに彼女を取られることについてか。詳しい理由は不明ながら、少なくとも、夢の世界そのものについて好意は抱いていない。 しかし彼女はイミテイターが求める故に、夢の世界を自発的に破壊しようとはしない。彼女の一番はあくまでザ・イミテイターだからだ。板挟みの感情に苛立ちながらも、静観を決め込んでいる。それがこのシナリオのマダム・ヘルの立ち位置だ。 ザ・イミテイターが倒れた時、マダム・ヘルはまずザ・イミテイターを守ろうとするだろう。その手段として冷静な撤退を選ぶか、ヒーロー達へ苛立ちをぶつけるかは、ヒーロー達の持つ力によって左右される。【夢見る癌について】
このシナリオオリジナルの存在だ。便宜上揺籃の神々の一柱としているが、あくまで人類がそう称しているだけであり、実際にはただの強力なハービンジャーかもしれない(そうじゃないかもしれない)。元ネタとして、クトゥルフ神話における白痴の魔王アザトースを参考にしている。 銀河間を超自然的なテレポートによって転移し揺蕩いながら、その銀河でまどろみ、夢の中で命の種を星に撒く者。夢見る癌の蒔いた種から、星々には生命の原形質が宿り、生命の進化が進んでいく。能動的な移動手段は持ち合わせておらず、銀河間移動の時期も不規則にて不明瞭。 夢見る癌が地球のことを『うるさい』『まぶしい』と称すのは、死者蘇生事件とは関係がない。夢見る癌にとっては、地球は生命があまりにも豊富な惑星に見えるのだ。その言葉選びは、どこか褒め言葉のようすら聞こえるかもしれない。 強大な力を持った存在だが、自分自身の意思や自我というものを強くは持たず、結果として「かなり気が長くて話が分かる神様」として位置している。半面、人間(というか地球にいる生命体)の細かな区別はついていないので、善悪の価値観はない。つまり、とても都合よく、利用されがちな存在(舞台装置)だということだ。【フランケンシュタイン博士と怪物について】
フランケンシュタイン博士は、かつて、ヴィクトリアン・エラでの若き日に、科学の力と人間の死体を用いて「怪物」を作り出した。このシナリオに於いては、PC達の世界であるプライムバースにも、メアリー・シェリー作の小説として同様の物語が残されている。 しかし、ヴィラン・フランケンシュタイン博士は、物語の登場人物ヴィクター・フランケンシュタインとは大きく性質が異なっている。それが、アレイスター・クロウリーがプライムバースへと『実体化』させた際に加えたアレンジであるのか、あるいはクロウリーの作り出したポータルを抜けてこの世界へ『渡って』くる以前からの性質であったのかは不明だ。しかしフランケンシュタイン博士本人は、たとえどちらであったとしても、現時点での自意識こそを自己であると認識し、プライムバースでのヴィラン活動(人体実験等)を満喫している。 それに伴い、このシナリオの中で取り沙汰している怪物との関係性も、原作の物語とはやや異なっている。原作小説に於いては、「怪物はフランケンシュタインに伴侶の製作を求めるが、フランケンシュタインは怪物の醜悪さと邪悪性からそれを拒絶。怪物は報復のためにフランケンシュタインの家族や友人を手にかけ、フランケンシュタインもまた復讐のために怪物を追う」という筋書だが、ヴィラン・フランケンシュタイン博士が醜悪さや邪悪性を理由に怪物を拒むとは考えづらく、プライムバースのフランケンシュタイン博士は現在進行形で同じような怪物を量産している。であればやはり、フランケンシュタイン博士が怪物を拒絶した理由や、怪物当人の精神性に関しても 、物語と類似する部分を持ちながらも、異なる形を有していると考えるのが妥当ではないかと思われる(ぶっちゃければ拒絶すらしていないかもしれないが、このシナリオでは拒絶はあったものとする)。 そのため、このシナリオにおいては、フランケンシュタイン博士が怪物を拒絶したのは見目の醜悪さが所以ではない。また、シナリオ内で本人が口にしている通り、物語とは違って、怪物は死に、フランケンシュタイン博士は生き残ったものとする。その過程や理由に関しては、最低限の進行上の補佐は解説で入れるが、詳細は定めず、GMやPLの解釈に委ねる。興味がある場合は、青空文庫などで原作小説を読むことも出来るので、そちらを参考にしてみてもいいだろう(とはいえ、上述の通り、だいぶ違ってはいるのだが)。 また、怪物も、原作で垣間見せていた邪悪性は(少なくともPC達が接する範囲では)見せない。半面、ヴィクトリアン・エラで死亡した彼はプライムバースの事を理解できておらず、超人種の詳細を把握できていない。そのため(言ってしまえば、この世界においてはあまり珍しくない)自身の出自と、醜悪な外見、創造主からの拒絶により、すっかり生きる希望を無くしている。怪物の目的及び行動原理は、原作小説通り、「ひとりぼっちはいやだ」である。