色彩は澱み
色彩は澱み
──それがどこの街での出来事であったのか、場所は伏せることにしよう。
◼︎【1.根井食ダムの悲劇】
山間部に建つ、根井食(ねいはむ)ダムの傍らで、君たちはその日の昼下がりを過ごしていた。 根井食ダムは某県某市に存在する多目的ダムだ。都市部である平野を囲むようにして並ぶ丘陵と谷の間に作られたこじんまりとしたダムで、近隣の水源や治水の役割を担っている。 観光用に一般開放もされており、電力会社が主催する見学ツアーも存在している。そうでなくとも都心部から程よく近く程よく遠いその立地は、人混みに疲れた都会人が、人気を避け、自然を求めて、ふらりと足を運ぶにも適していた。 ダム湖を見下ろすオープンテラスで、見学ツアーの一人として、近隣に存在する公園で釣りをしながら、あるいはダム運営の従業員として、君たちはその日、根井食ダムの湖を目視していたのだ。■【2.目覚めと不穏】
目を覚ますまでの間、君たちの意識は断片的な光景を認識する。それは君たちの意識が目覚め、眠り、目覚めていく中で目にした光景であったのだろう。光の影響で目がイカれたのか、思い出せるそれらの光景は、どれもこれもあの光帯の色味がかった狂った色彩をしていた。 ダムの傍らで倒れている多くの人々……駆けつける救急隊員とパトカー……搬送中の車内……忙しなく行き来する看護師たち……。 そして君は目を覚ます。まず目に入ったのは白い病院の天井で、君たちは同じ大部屋のベッドに横たえられている。ナースコールを押せば、すぐに看護師が駆けつけ、簡単な問診や状況の説明を君たちに行う。探索者同士の合流や情報交換も、このタイミングで済ませておくことが望ましい。■【3.奇妙な調査員、異変、雷】
探索者たちは各々の自宅へと帰り、その後数日間は何の変哲もない日常を過ごす。 地元のテレビではダムの事故は大きく取り上げられ、運営会社の安全管理の不備を指摘したり、保護者に対する同情と嘲笑が混ざったような報道がバラエティを賑わせているだろう。 そんなある日のこと、君たちのもとに、一人の男がやってくる。男は根井食ダムの運営会社に雇われた調査員であると話し、当時現場にいた人々に、その後異常がないかを確認して回っているのだという。『水を飲むな!』
■宇宙からの色のデータ処理をこのタイミングで行う
〈能力値吸収(弱)〉探索者はPOW50とのPOW対抗ロールを行う。失敗で1d10ポイントのSTR、CON、POW、DEX、APPを永久的に失う。また、耐久力を1d6点失う。〈精神攻撃〉INT70とのINT対抗ロールを行う。失敗で1d6点のマジック・ポイントと1d6点の正気度を失う。これによって失われたマジック・ポイントはその地域を離れない限り回復することはない。 詳細は基本ルールブック279頁を参照すること。■名日ビル
探索者同士の合流がまだの場合、KPはここで探索者同士の合流と、自発的な調査に乗り出すことを促すと良いだろう。■根井食ダムのライブカメラ映像
探索者によっては、ニュースで放送されていた、根井食ダムのライブカメラ映像に着目するかもしれない。根井食ダムのライブカメラ映像は、普段からインターネット上でリアルタイムで公開されている。 アーカイブ等は存在しないため、即座に調査を開始しない限りは、飛鳥日と思しき人物のその後を目視できることはない。しかし翌日以降に調査を始めれば、ニュースの映像を見た好事家たちによって、当日のライブカメラログの一部切り抜きがSNS等を介して流布していることがわかる。 切り抜き映像には、ニュースでは放送されなかった箇所も残されている。バランスを崩しかけた飛鳥日は、あわやダムへと転落かと思われたが、寸でのところで踏みとどまる。しかし手にしていた看板を取り落としてしまい、看板はダムの下流へと放り出されていく。飛鳥日はしばし茫然としていたが、やがて暴風にもみくちゃにされながら、映像内からフレームアウトしていく。 映像内の様子から、飛鳥日は看板を探しに、下流の川へと向かったのではないかと君たちには感じられる。もちろん、台風のような大雨と暴風の最中で、川の様子を見に行くのは危険極まる行為だ。確認に向かうのは雨がやんでからの方がいいだろう。■飛鳥日阿見の死体
賀怒奈川(がどながわ)周辺を調査するのであれば、探索者には二通りの方法がある。一つは、時間をかけてしらみつぶしに川を調べる方法。この手法を取れば半日ほどで、以下の情報にたどり着くことになるだろう。 もう一つは〈ナビゲート〉か〈自然〉を使って、地図上の立地情報等から飛鳥日の看板が流れつく場所に目鼻をつけ、調査箇所を絞って調査を行うことだ。この手法であれば3時間もあれば、以下の情報にたどり着くことができる。■橋の下ホームレスの不審死
探索者は飛鳥日の死体について、警察へ通報を行うかもしれない。警察による数時間の事情聴取という名の拘束のあと、探索者たちは開放される。 探索者たちが類似の現象がこの町で発生していないかを調べるのであれば(あるいは単純にこの街の中で起きた奇妙な出来事を調べただけかもしれない)、警察関係者への〈言いくるめ〉〈信用〉による情報の引き出し、過去の地元新聞のバックナンバーに対する〈図書館〉の成功など、適切な手段で調査を行えば、以下の情報を入手できる。 一週間前、賀怒奈側流域の橋の下を拠点としている三人のホームレスが死体で発見されたという。ホームレスたちの死因は不明であり、死体は損傷が激しく、悪臭を気にした近隣住民の通報によって発見されたという。 また、この街では、橋の下をはじめとした河川敷周辺を生活拠点としているホームレスは少なく、山や都心部の公園などを拠点とする者が多いらしい。原因は定かではないが、彼らの中の不問律として、「川には近寄らない方が良い」という認識があるようだ。 探索者たちが川から離れた場所で生活を送るホームレスに詳細を聞こうとするのであれば、適切な技能に成功することで聴取が可能だ。 聞かれた一人はぼりぼりとできものまみれの皮膚を掻きながら、「この川の水はおかしな味がしてとても飲めない」だとか「川辺の虫はおかしい。大きいし凶暴で、見たこともない虫ばかり。特に夜は恐ろしい」だとか話す。それはずっと昔からそうだと彼らは言う。 ホームレスたちの体のできものは、探索者たちの体の腫瘍と同じだ。違いがあるとすれば、彼らの方が数が多く、大きさも大きいことである。「前からぽつぽつと出ていたが、今日起きたら一気に増えていた」「病院にかかる金などない」と彼らは話し、自分の生活へと戻っていくだろう。彼らはそれから数日も保たずに死亡する。 また、ホームレスたちの情報網を伝えば、根井食ダムの近隣の山中で生活を送る変わり者の老人・魚戸(うおど)の話を聞くことも出来るだろう。ダムが出来る以前からこの街に住む老人であり、ダム開発に強固に反対し続けた人物であり、かなりの変わり者(それはオブラートに包んだ表現だ)であるという。■忙しない病院と警察
探索者たちは折に触れて、病院と警察での情報収集を試みるかもしれない。警察と病院は、当初は探索者の申し出にも真摯に向き合い、原因の分からない不調に関して対策を考えてくれる。だが調査活動が本格化してくる頃には、彼らはそれどころではなくなっている。 病院には探索者たちと同様の身体的不調を訴える患者が矢継ぎ早に増えるし、倒れて動けなくなった者が搬送されてくることもあり、探索者一人一人の申し出に向き合っている時間がなくなっていく。 警察も同様に、街の中で多発する不審死や、精神的に不安定になった住人たちによる暴行事件の対処に追われていき、探索者の申し出に対応し切れるとは言い難い。 この街で起きている異常事態に関しては警察・病院ともに把握しており、その原因が例の根井食ダムで起きた事故に端を発しているのではと疑う者もいる。だが日々の業務に追われるだけで手一杯の彼らではそれを追うことは難しく、近日中に県に派遣されてくるという『都心からの調査団』を当てにする声が大きい。また、ダムそのものに対する調査計画も立てられてはいるが、利権や政治活動と深く結びついている特定多目的ダムを即座に運行停止するには至れていない。 警察・医療関係者に対する適切な技能に成功すれば、彼らは「ダム湖底に放射性物質が蓄積されており、それが事故によって水中から噴出したことで、急速に被害が拡大したのではないか」と疑っていることを明かす。パニック防止のために表沙汰にはなっていない情報だというが、探索者たちからすれば、それは現状の状況を既存の知識に無理やり当てはめて納得しようとしているだけの苦し紛れに思えるだろう。本当のことを言えば、警察関係者も、医療関係者も、探索者たち自身にすら、今起きている事象に納得いく説明をつけることができるものは一人もいない。 警察・医療関係者の中にも、同様の身体的・精神的不調は現れている。体に出来た腫瘍や、味覚や嗅覚の変化、精神的な動揺、それらは彼らの活動が円滑に進まない要因の一つにもなっている。■都心からの調査団
警察や医療機関が当てにしている、都心からの調査団は、いずれかのタイミングでダム湖や賀怒奈川の調査を行う。だがその調査は住人にとっては肩透かしなものだ。彼らは川の水や石をいくらか採取し、原生生物を幾匹か捕らえると、さっさと街を去ってしまう。 仮に原因が放射能であったとしても、結果は慎重に出さなければならないというのが彼らの主張であり、その結果が出るには時間がかかる。それを待っていては、とてもではないが探索者たちの身は持たないだろう。 調査団たちは住人の様子を困惑しながら見つめている。「街から離れた方が良いのでは?」そう警告する者もいるだろう。しかしその言葉に、納得と同意をしているはずなのに、君たちの体は積極的な脱出行動を起こしたがらない。それは君たち以外の、この街の在住者全てがそうだ。 街の外から来た彼らからすれば、おかしいのは街の住人たちの方である。彼らは「結果が出たらお伝えします」とだけ告げて、早々に街を去っていってしまう。□亡骸を発見する場合
玄関前に立った時、探索者たちは家の中からひどい悪臭がすることに気付く。探索者が既に飛鳥日の死体を発見している場合、その悪臭は飛鳥日の死体が発していた悪臭と同じ臭いであると感じる。玄関扉には鍵がかけられているが、〈鍵開け〉で開けることも出来るし、複数人の探索者が協力するのであれば力付くでこじ開けることも出来るだろう。〈目星〉に成功すればプランターの下に隠された鍵を発見することも出来る。あるいは警察へ通報し、その到着を待ってから中へと入ることも可能だ。 家の中に入れば悪臭はその強さを更に増し、吐き気を催すほどのものになっている。家の中には若い夫婦と幼い子供が幸せな生活を送っていたことを示す調度品が多くある。ペットとして犬を飼っていたらしく、犬用の器具がいくらか存在することもわかる。部屋はどこも埃っぽく、ダムの事故以降、人の手入れがなかったのだろうことが察せられる。 夫婦の死体は彼らの寝室にある。ベッドの上に横たわるようにして変質している亡骸と、その側で寄り添うように倒れている同様の亡骸だ。どちらも悪臭の源となっており、飛鳥日の亡骸と同様に、全身が灰色に変色し、乾涸びているはずなのに、溶け落ちたような皮膚に全身を包まれている。 ベッドの足元では、一匹の犬が、どちらかの亡骸から引き摺り出したのだろう肉を必死に貪っている。それはかつてはテリア種であったのだろう面影を残してはいたが、毛の大半が抜け落ち、異様に膨れ上がった右前肢と、萎びたように小さくなった左後肢とを持ち、白内障のように濁ったアンバランスに腫れ上がった目を持っていた。牙は異様に成長しているものもあれば、歯肉ごと抜け落ちているものもあり、膿のように濁った涎を閉じれなくなった口の端から溢れさせていた。犬は君たちが入ってきたことに気付くと、正気を失っていると分かる濁った目を君たちへと向け、唸り声をあげる。 これらの異様な光景を目撃した探索者は、正気度チェックを行う。(成功/失敗=1/1d8)□目の前で彼らが死亡する様を目にする場合
探索者たちが招かれ、彼らの家に向かうのであれば、探索者たちはより陰惨なものを目にすることになるだろう。彼らの家の描写は『亡骸を発見する場合』の通りであり、寝室にはまともに会話することもできなくなった夫婦のうちの片割れが横たわっている。その足元では変質した犬が、唸り声を上げながら丸くなっていた。話を聞けば、彼らはダムで起きた事故から徐々に衰弱していき、こうした状態になっているのだと分かる。探索者たちと同じ状況だ。違いがあるとすれば、彼らの方が症状の進行が早いということか。そしてそういった状況であっても、尚奇妙なことに、彼らと探索者の内には、この街を離れるという選択肢に対して強烈な忌避感がある。 KPが適切と思うタイミングで、探索者と話をしている夫妻の片割れが苦しみ始める。そして、寝室に横たえられた片割れと、話をしていた片割れが、奇妙な色彩を放ち始めるのを見るだろう。これまでに目にしてきたのと同じ、忌まわしきスペクトル光は家中を満たし、光の中で狂ったように犬が吠え声をあげる。さほどの時間をおかずして光は収まり、目の前には灰色に乾涸び、溶け落ちたような皮膚に全身を覆われた、二つの人であったものが横たわることになる。犬は完全に発狂し、探索者たちに対して錯乱したように牙を剥くだろう。 これらの異様な光景を目撃した探索者は、正気度チェックを行う。(成功/失敗=1/1d6+2)□発狂した犬
残された哀れな犬はいずれのパターンであっても完全に発狂しており、探索者に対して錯乱したように牙を剥く。犬のステータスは『犬(基本ルールブック336ページ)』に準じる。この犬は探索者に対してランダムに三度攻撃を仕掛けた後、それが成功しても失敗しても、窓を突き破って街の中に消えていく。 犬の攻撃を探索者が受けた場合、傷口から流れる血が例のスペクトル光を発したように見える。それは錯覚にも似た一時的なものであり、すぐに本来の色を取り戻す。だが、探索者に対し、不安を抱かせるには十分なものになるはずだ。 探索者が犬を殺すのであれば、犬は倒れ、夫妻と同じように奇妙な色を発したのち、灰色に変色して死んでいく。街の中に逃げていったのであれば、数日後、川べりで同様の形で死に絶えている様が発見されることになるだろう。【読み解ける内容(上に行くほど古く、下に行くほど新しい)】
□何故老人がこうした生活を送っているか
老人は1971年にダムの建設が開始される以前、今はダムの底に沈んだ根井食村に住んでいた。ダム建設が始まる以前、予備調査で行われた地質調査の最中のこと、村外れの雑木林の中に誰の家のものでもない古井戸が発見された。古井戸は既に枯れており、調査の必要無しとして放置された。当時子供であった魚戸老人はその井戸に興味を持ち、友人たちと共に枯れ井戸の底へと降りて探検を行った。 井戸の底の壁には五本に分岐した線状の星が刻まれていた。そして球体状の何かが埋まっていた。巨大な岩のようにも思えたが、触れてみると奇妙に柔らかく、熱を持っていた。砕けば破片を採取することができたが、数時間もすれば消えたという。 魚戸少年は村から立ち退くまでの一年間、この井戸を友人たちとの遊び場としていた。しかし少年と友人は日に日に体調を崩していった。納得済みであったはずの立ち退きに対しても強い抵抗感を抱くようになり、親と幾度も衝突した。けれど結局は小学生程度の子供の頃の出来事であるため、親に連れられて村を立ち退くことになった。 村から引っ越す数日前のこと、魚戸少年は夜になると、古井戸から奇妙な色彩が放たれていることに気付いた。少年は友人たちと共に、引っ越しの前夜、家を抜け出し井戸を覗きに行ったのだという。そこで何かを見たはずだが、何を見たのか、魚戸自身はどうしても思い出せなくなっていた。 引っ越しを終え、村がダムの底に沈んだ以後も、魚戸はかつての村と古井戸への執着を捨てられなかった。あの井戸の底には何かがあった。自分は確かにあの日、何かを見た。釈然としない気持ちを抱きながら大人になり、集められた同窓会で、かつて共に井戸の底を目にした友人たちが、奇妙な怪死を遂げているのを知った。魚戸は何の根拠もないままに、「次は自分の番だ」と感じ、以来少しずつこのダムの監視を始めるようになった。最初は生活の傍の行いであったそれは徐々に比率を変えていき、根井食ダムを監視できるこの土地を購入してからというもの、彼の人生を賭けたものとなっていった。□根井食ダムの開発経緯
昭和期のダム開発事業の一貫として、根井食村を中心とした幾らかの山間の村から、国が土地を購入する形で建設に至る。目的は大雨が降るたびに幾度も氾濫していた賀怒奈川の治水、水力発電、下流域の農業利水を目的としたものであったらしい。 軽度の反発はあったが、国がその後の住居の担保と相応の売却金を支払ったことで、大きな反対運動には繋がらなかったという。むしろ昔から賀怒奈川周辺は、大雨の度に起きる水害被害や、その都度発生する健康被害、そして豊富な水源に反した農作物の不出来などに悩まされた土地であったことから、村民たちの多くはこれを喜んで受け入れていたようだ。 水害が発生するたび、賀怒奈川流域では独自の風土病が発生していたらしく、魚戸老人も幼い頃はそういった症状に悩まされたという。反面、それがどういった症状であったのか、どう回復したのかといった記載は特に残されていない。□老人が観測したもの
四十年以上にわたる老人の観測内容は緻密だが、内容は老人自身の主観や思い込みも強く、学問上の証拠能力は乏しい印象を受ける。老人はダム湖に起きた些細な出来事であっても過敏に反応し、湖の中に『何か』がいると想定して記述を行なっている。老人はこの『何か』に対して、強い恐怖心と異常な執着心を抱いているように思われた。老人はこの『何か』を『色』と呼称していた。 また、ダムが建設された以後、賀怒奈川流域に生息する昆虫の肥大化が確認されていると老人は記載している。家の中を探せば、老人が残した昆虫の標本が残されている。十年単位で残されているそれを確認すれば、確かに近年の昆虫は徐々に大きくなっているように感じるが、それが水質に基づくものであるのかの証拠はない。老人はダムが建設される以前の記録を残しているわけではない。□魚戸老人と飛鳥日
魚戸老人と飛鳥日が接触していた記述も残されている。飛鳥日はもともとは、水力発電会社と行政の癒着について調査を行なっていた週刊誌の記者であったようだ。彼は調査の過程で根井食ダムの情報を求め魚戸老人に接触し、当初は偏屈な老人の警戒心を解くために話を合わせていただけであったのだが、徐々に魚戸老人の話す内容に興味を抱き始めた。飛鳥日自身は根井食ダムの湖底に水質汚染物質が存在するのではないか、という疑惑を抱いていたようだ。 ある日、飛鳥日は実際にダム湖に潜ってみたようだ。そこでダム湖の底から奇妙な鉱石を回収したと魚戸老人に報告し、実物を見せたらしい。魚戸老人はその石のことをこのように綴っている。□ダムで事故が発生した日のこと
ダムで転落事故が発生した日も、魚戸老人はこのダムの観察を続けていた。彼は転落した子供の様子と、転落後の子供の様子、そして探索者たちが意識を失った時の状況を詳細に書き記していた。□魚戸老人のその後
『飛鳥日は死んだようだ。私も遠からず同じ道を辿るだろう。色の影響は街に溢れだした。いずれこの街の全てが、分け隔てなく色に沈むだろう。 だが私は声を張り上げ、皆に警句を促す気はない。もう二十年も若ければあるいはそうしたのかもしれないが、今の私にはそれを成すだけの気力も、義理も、この街に抱けてはいない。我々は無力であり、何をしたところで何かが為せる訳ではないのだと、この生活の中で私はよくよく思い知った。 今の私にあるのは疑問だけだ。色とは何なのか、ダムの湖の底に何がいるのか、それはどうして今もあの場にとどまっているのか、私はかつて何を見たのか。残された短い時間の中で、全てを知ることが出来ないだろうことが、あまりにも口惜しい。 色は湖に澱んでいる。だがそれが望めば、川を伝い、海原へと広がっていくこともできるはずだ。海原へと至った色はどうなるのであろうか。この国のどこかへと流れ着くのか、異国の地へとたどり着くのか、海底の奥深くへと沈み行くのだろうか。私の知らぬどこか遠くへと流れて消えてしまうのだろうか。私はそれをひどく厭っている。あの色に恐怖しながら、あの色から目を離すことが、もう私には我慢ならない。 時間がない。私は他人へ警句を促す気はない。だが己の疑問には向き合っていたい。明日、ダムへ向かおう。欠けた星を満たせば、色はこれからも、この地に残ってくれるかもしれない。』【クライマックス】
【街を見捨て、探索者たちだけでも街の外へと逃げ出す】
【根井食ダムに強引に侵入し、ダムの水を全て抜く】
【衰弱した警察官たち】
(データの上では戦闘開始時点で3人として扱うが、実際にはそれ以上の人数がいるだろう)STR50 CON60 SIZ65 DEX65INT65 APP60 POW40 EDU70耐久力:12 正気度:30DB:+1d4 ビルド:0 移動:8近接戦闘(格闘):65%…ダメージ1d3+DB射撃(最後のラウンドにのみ発砲を行う)70%…38口径(9mm)リボルバー:ダメージ1d10(1R3回)(彼らの全ての判定にはペナルティダイスが「戦闘ラウンド数」個つく)【根井食ダムのダム湖に潜り、封印の旧き印を描き直す】
【イベント:湖底に沈む色】
ダム壁に近づく為にダム湖を泳いでいると、突如として探索者(誰か一人)は何者かに足を捕まれ、水中へと引きずり込まれる。水面下を確認すれば、自身の足に、灰色に変色し、ぶよぶよと腐ったような皮膚を持つ不気味な怪物がしがみついている様を見る。変わり果ててこそいたが、それは老いた男のようだった。魚戸老人だと探索者には目星がつく。 魚戸老人は変わり果てた肉体となりながらも未だ死亡していなかった。彼の灰色の肉体の内側から、あの色彩が時折放たれていた。生きながらに色彩を放ち、灰色の汚泥となりながら、このダム湖の中で蠢いている老人だったものの姿を目の当たりにした探索者は正気度ロール(1/1d8)を行う。 老人の下方には、湖底に沈んだ古い村が見える。その村の外れに、日記に記されていた古井戸があった。その古井戸の中からあの色が溢れ、オーロラのようにゆらゆらとダム湖にゆらめき溶け混んでいた。それは手招いているようにも見えた。奇妙に相容れぬ意志を有しているようにも思われた。君たちは今まさに、無防備な人の体そのままで、理解の及ばぬ彼の色の只中に包まれているのだ。追加で正気度ロールを行う(0/1d4)。 ここから戦闘ラウンドとして処理を行う。