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〜USO! あなたの知らない隣の世界〜



──運命に逆らえってな!(あるディレクターの発言より)
▼シナリオPDF

1.シナリオ概要

【はじめに】

 このシナリオはテレビ番組の製作スタッフとなって、神話生物とその狂信者の企みを打倒するシナリオとなっている。 シナリオのテーマは「知るべきこと・知らずにいた方がいいこと」だ。シナリオの構造として、必要以上に踏み込み真実を明らかにしようとすれば、その探索者は真実を知る代償に取り返しのつかない顛末へと至るだろう。どこまで踏み込み、何を知り、何を知らずにいるべきかを、探索者たちは問われることになる。 想定プレイヤー数3〜4人。 想定プレイ時間は音声セッションで6時間ほど。

【舞台】


 探索者たちは「だごん情報局」という中小映像制作会社の制作スタッフである。技術スタッフ・制作班・ディレクター・プロデューサーなど、立場は自由に設定して構わないが、極力撮影現場に携わる人物とすることが望ましい。 シナリオの進行都合上、30年以上「だごん情報局」に勤めている、という設定は避けたほうが無難だろう。 職業技能は2010/2015の放送関係者に準じる。プレイヤー3〜4人推奨。

【推奨技能とか】


 探索者は全員【芸術:番組制作】という技能を職業技能として取得することが出来る。これはテレビ番組の制作を行うための技術を広く薄くカバーするものを意味する。 それ以外の推奨として、【目星】や【図書館】などの調査活動を行うのに向いている技能や、【言いくるめ】などの説得技能も役に立つだろう。

【推定難易度】


KP:★★★☆☆PL:★★☆☆☆

【スペシャルサンクス】

 シナリオ製作にあたり、クトゥルフ神話TRPGシナリオサークル「月刊だごん」様製作の「安楽椅子放送」(著者:卯龍氏)を非常に参考にさせていただきました。 許可して下さった卯龍様にはこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。(※このシナリオ内に「安楽椅子放送」のネタバレは含まれておりません)

【シナリオ背景(顛末まで)】

 探索者たちは零細番組製作会社「だごん情報局」の製作スタッフ。探索者たちは年末の大掃除の際、会社の備品倉庫の奥に眠っていた奇妙な「置物」を発見する。ただのゴミに思われたそれだったが、その日の晩からスタッフたちを様々な怪現象と不気味な夢が襲った。 怪現象の原因が「置物」にあるとみなし、スタッフたちは調査を始める。「置物」の正体は、30年前に「だごん情報局」が製作したオカルト番組「全部見せます! 〜USO! あなたの知らない隣の世界〜」という番組で取材した白金小峰という人物が所有していたものだった。白金小峰はイゴーロナクの狂信者(イゴーロナクの司祭)であり、取材を受けた当時はかつては一介の女子大生に過ぎなかったが、今では女性政治家として活躍し、政治活動の裏で信者を増やし続けていた。 情報局のスタッフたちは自分たちにかけられた呪いを解くため、彼女の政治家事務所へ取材を敢行し、相手を社会的に失墜させるための証拠をつかもうと挑む。狂信者よ、メディアの力を見せてやる!

【シナリオチャート】

1:「だごん情報局」の機材倉庫で奇妙な置物を発見する。置物を発見したスタッフたちは、その日から怪現象に巻き込まれていく。

2:怪現象の原因が「置物」にあるとみたスタッフたちは「置物」の調査を始める。「置物」は30年前のスタッフたちが担当していた番組「全部見せます!〜あなたの知らない隣の世界〜」のものだとわかる。当時のスタッフは全員「だごん情報局」を辞め、ほとんどが死亡していた。 そんな中、当時のAD「千駄ヶ谷雑司」だけが生き残っていると分かる。置物は当時取材を行った白金小峰という女大生から受け取ったものだった。元AD・千駄ヶ谷雑司はスタッフたちがたどり着く頃には奇妙な形で自殺しており、部屋に遺書と手がかりが残されている。

3:白金小峰についてより詳しい調査を行うことで、当時は学生でしかなかった白金小峰が、今では立派な政治家になっているということがわかる。スタッフたちが白金小峰の事務所へ取材を敢行し、その中でいかに相手の悪事を証明する映像を撮影できるかというのがこのシナリオにおけるクライマックスとなる。

4:イゴーロナクの司祭として姿を現した白金小峰は、スタッフたちの撮影した映像が決め手となり、警察の捜査が及び白金は逮捕される。 白金が司祭として有益な存在ではなくなったことから、イゴーロナクは白金を獄中にて自殺させ去る。「置物」はいつの間にかなくなり、スタッフたちの怪現象も消える。 スタッフたちが調査中に「知ってはいけないこと」を知らないままでいれたなら、シナリオクリアとなる。

2.シナリオ本編

【導入】

◼︎【導入】

 時は2016年年末。探索者たちは、自分の所属する「だごん情報局」の一員として、年末の倉庫掃除に駆り出されている。その日は大型収録が重なっていたためか、その倉庫を掃除しているのは探索者たちのみである。 倉庫には昔の番組で使用したらしい制作小道具や、いつのものかも分からぬ古いHDCAMテープやVHSテープがため込まれている。それを処分するべきものかどうかを調べて分類するのがこの日の探索者たちの仕事だった。【幸運】で判定に成功すれば、ゴミの隙間から古い1000円札を見つけたりする。 そうして掃除をしていると、倉庫の片隅に、ボロボロの養生テープでぐるぐるに梱包された、30cm程度の何かを発見する。GMは探索者がその包みの中身を調べるよう誘導する。(「処分していいものか、処分してはいけない重要な物かどうかを確認する必要がある」「燃えるごみか燃えないゴミか分からない」「1000円挟まってるかもしれない」「これを調べないとシナリオが始まらない」など、理由はいくらでもつけられるだろう) 探索者がその包みを剥がすと、中から出てくるのは「人の手のような形をした石像」である。手のひらに口のようなものが掘られ、鋭い乱杭歯と長い舌が生々しく彫り込まれている。 探索者たちがその像を発見して間もないタイミングで、探索者たちは任意の体の部位に突然鋭い痛みを覚える。痛みを感じた部位を確認すれば、そこに歯型のような傷口ができていることがわかる。傷口は小さいが、ひどくじくじくと痛み、集中力を阻害させる。耐久力をマイナス1する。 この時点ではこれ以上おかしなことは発生しない探索者たちが望むならば、この石像をこの時点で処分しても構わないだろう。 探索者たちはその日、仕事が終わった後、各々のタイミングで以下のイベントのいずれかに遭遇する。遭遇するイベントは1人1つのみである。内容は重複はさせない方が面白いだろう。KPはクローズドダイスで決定しても良いし、プレイヤー自身にダイスを振らせてイベントを決定しても良い。

■【不運表(1d6)】

① 職場からの帰り道。横断歩道の赤信号で止まっていた時、誰かに背中を突き飛ばされる。走ってきた車の急ブレーキが聞こえ、君は車にわずかに衝突する。幸いにブレーキが作用し、事故は軽微なもので済んだが、探索者は1点のダメージと1/1d3の正気度喪失が発生する。突き飛ばした「誰か」の正体は分からない。
② 職場からの帰り道。駅のホームで待っていた時、誰かに背中を突き飛ばされる。走ってくる電車の眼前へ君は突き飛ばされる。とっさにホーム下の退避スペースへ逃れる事が出来、難を逃れたが、すぐ目の前を通過していく鉄の塊に恐怖は否応無しにこみ上げる。2/1d6+1の正気度チェックを行う。突き飛ばした「誰か」の正体は分からない。
③ 職場。あるいは自宅にて。夕食を取ろうと台所へ立った君の眼の前で、コンロが一人でに点火する。突然強い地震が探索者の自宅を襲い、調理棚に置かれていたガスボンベがコンロの火口へ落下する。幸い、ボンベが爆発することはなかったが、突然の火災への危機感は君の肝を冷やす。1/1d6の正気度チェックを行う。コンロを調べても異常は確認できず、また、奇妙なことにその日地震が発生したという情報は確認できない(隣人などに尋ねても揺れていないと答えられるだろう)。
④ 自宅にて。湯を張った風呂に浸かろうとした君は、突然何者かに足をつかまれ転倒する。とっさに何かを掴もうとした君は(君がそこにそれを置いていた自覚があるなしに関わらず!)、洗面台に置かれていたドライヤーのコードを掴んでしまう。このままでは感電する! 瞬間的にそんな恐怖が君を襲ったが、幸いドライヤーはコンセントにつながっておらず、君は風呂で頭を打ち付けるだけで済んだ。しかし足を掴んだ者も、ドライヤーをそんなところに設置した者も、風呂場にいるはずがない。1/1d6の正気度チェックと、1点のダメージを受ける。
⑤ 自宅、あるいは職場の仮眠スペースにて。君は眠っている。夢うつつの君の意識が、ふと息苦しさと眩しさを感じる。薄眼を開けば、何故か布団を顔まで被っているようだ。布団越しに電気の明るさを感じる。次の瞬間、君の喉は何者かによって、布団越しにはっきりと締め付けられる。窒息ロールを1度だけ行う(CON×5)、失敗した場合は1点のダメージを受ける。君が無茶苦茶に抵抗したとしてもその拘束は緩まないが、ふとした瞬間にふっと消えてしまう。布団を剥がして犯人を探しても、そこには電気のついた自室(仮眠スペース)と自分しか存在しない。喉を確認するならば、誰かの手のひらの痕がくっきりと残されている。1/1d6の正気度チェックを行う。
⑥ 屋外。君は自宅への帰路の最中なのかもしれないし、あるいはコンビニへ少し買い物へ出たところなのかも知れない。道を歩いていると、君は何かに躓いて転んでしまう。その時、頭上から鉄骨が落下してくる。幸い、その鉄骨は君の体のすぐ隣に落下し、君の体にぶつかることはなかった。しかし目の前に落下した鉄骨が、もし体のどこかに命中していたならば、ひとたまりもなかっただろう…。2/1d6+1の正気度チェックを行う。奇妙なことに、付近には工事中の建物も破損した建物もない。その鉄骨がどこから落ちてきたのか、君には全くわからない。  それぞれの不運表の処理のあと、「奇妙な夢」の処理を発生させる。

■【奇妙な夢】

 そうした不運に見舞われた夜。眠りについた探索者たちは、一律で同じ夢を見る。背後から何かおぞましく邪悪なものが自分を追いかけてきて、それから必死に逃げている夢だ。夢の中、探索者たちは自分の手を見る。その手のひらがぱっくりと裂け、べろりと長い舌と鋭い牙を覗かせる。そしてその手は、夢の中の探索者を、ぱっくりと食べてしまった。 口のついた手のひら。それはまるで、倉庫整理で発見した、あの奇妙な石像のような…。 探索者は【POW15】とのPOW対抗ロールを行う。 失敗した場合、1d6の正気度を喪失するが、目覚めた時には、理由の分からぬ強い興奮と多幸感を覚えている。 成功した場合は、0/1d2の【正気度チェック】を行い、目覚めた時には、理由の分からぬ激しい恐怖を覚えている。  今後、探索者たちは夜毎にこの奇妙な夢を見続ける。探索者が「手」とのPOW対抗に1人成功するごとに、「手」のPOWは1下がる。反面、探索者が「手」とのPOW対抗に1人失敗するごとに、「手」のPOWが1上がる。 夢は日ごとにリアリティを増していき、POW対抗失敗ごとに見る夢が長くなっていく。POW対抗に失敗した探索者は、白金が過去に関わった犯罪行為の追体験をさせられる。それは岩淵常紋をはじめとした過去の番組スタッフたちを殺害する・自殺に追い込む夢がメインになるが、イゴーロナクらしい低俗な性犯罪を行っている夢を見ることもあるかもしれない。そしてPOW対抗に失敗した探索者は、目覚めるたびに、自分の抱いている多幸感と幸福が、夢の中の犯罪行為に対するものだと理解していくことになる。 これは、イゴーロナクの手を介して行われている、イゴーロナクの狂信者・白金 小峰の攻撃である。彼女はイゴーロナクの信者を増やすため、30年前に「だごん情報局」という会社へイゴーロナクの手の呪いをかけた。再び像が発見されたことで、その呪いが再開されたのだ。夢の中ではあくまで犯罪行為を追体験をするだけであり、白金小峰の姿が見えるわけではない。

【探索情報】

■翌朝 ─探索開始─

 翌朝、探索者たちは「だごん情報局」へ出社し、各々の不運について情報を擦り合わせた上で、奇妙な像についての調査を開始するべきである。さもなくば探索者たちは毎晩奇妙な夢とそれによる正気度喪失が発生することになるのだ。 昨日の時点で像を処分・破壊していたとしても、像はいつの間にか「だごん情報局」に戻っている。 探索者たちが取り得る可能性のある行動と、それによって分かるだろう情報を以下に記載する。

■像について調べる

 像は石を彫りあげたもので、指先から土台まで約35cmある。重さは5kgほどで、縦20cm×横20cm×高さ5cmほどの土台の上に掘り出されている。 像自体は年季の入ったものに見える。詳しいことは専門職の鑑定に出すなどしなければわからないが、少なくとも、ここ1年2年の間に作られたものでは無さそうだ。 探索者たちが時間経過を厭わず、その像を専門職の鑑定に出す、あるいは探索者本人が何らかの専門的知識を持ち合わせており、その技能を用いて調査を行うのであれば、「像が作られたのは少なくとも30年以上前であること」「像の中に5cm×9cmほどの薄い何かが埋め込まれているらしいこと」がわかる。探索者が像の内容物について調べたいと思うのであれば、何らかの方法で像を破壊する必要があるだろう。像を破壊した場合、探索者たちは像の中から「だごん情報局 番組ディレクター 岩淵常紋」という名前が書かれた色あせた名刺を発見する。名刺に書かれている会社の住所や連絡先は現在と同じだ。

■像が置かれていた倉庫周辺を調べる

 像が置かれていた周辺には、大量の古い番組完パケ(完成番組)VHSが残されている。探索者たちが時間をかけてそれらに目を通し、確認していくのであれば、【目星】成功で1時間、失敗で3時間後に「全部見せます!〜USO! あなたの知らない隣の世界〜 #24」という30年前のオカルト番組に、この像が登場していることがわかる。

■「全部見せます!〜USO! あなたの知らない隣の世界〜 #24」の内容

 1980年代に制作された番組。全25回放送。複数の番組制作会社が制作を担当しており、第24回の制作はだごん放送局が担っていたようだ。 当時ブームとなっていた新興宗教やオカルト団体を取材するという番組で、詐欺師まがいのカルト団体から学生のオカルトサークルまで、様々な対象を取材し、その神通力を紹介する30分シリーズ番組の第24回放送。 その番組の一つに、M大学の法学部に通うS少女という人物が登場する。顔はモザイクで隠され、音声は機械音に加工されている。 彼女は大学でオカルトサークルを作り、そこで彼女の信仰する神への信者を募っているという紹介が行われている。その中で登場する偶像崇拝対象の像は、探索者たちが倉庫で発見した石像によく似た手の像だ。 番組の中、彼女は石像に祈りを捧げ始める。すると、カメラの背後から「うわあ!?」という番組スタッフの悲鳴が聞こえてカメラがブレる。慌てたようにスタッフへとカメラが向けられると、AD、音声、ディレクターが、自分の手や足を確認している。そこには何かに噛みつかれたような歯型の傷跡が残されている。探索者たちが倉庫で遭遇した現象と全く同じように。 番組内ではその後のやり取りについては多くは触れられず、恐怖を煽るナレーションによって締めくくられている。何も知らない者が見ただけならば、いかにも当時の番組らしい、やや過剰な演出程度にしか捉えられないだろう。しかし、同じ現象を体験している探索者たちであれば…。 0/1の【正気度チェック】を行う。

■番組スタッフの連絡先を調べる

 番組のエンドロールには制作スタッフとして「ディレクター:岩淵 常紋」「カメラマン:吹上 旧」「音声:杉並 環七」の記載がある。 彼らについて調べようとするのであれば、だごん情報局の古い保険名簿を探したり、市役所などで調べる必要があるだろう。現代ではプライバシーに関わる情報は取り扱いが厳しいため、【信用】【言いくるめ】によって市役所職員や総務担当、当時のことを知る役員を丸め込んだり、【図書館】で会社の古い資料を勝手にあさったりする必要があるかもしれない。会社で情報を調べれば、番組が制作されてから彼らが退職するまでの短期間に、非常に多くの労災がおりている事がわかる。呪いを受けたスタッフたちは様々な不運な事故に襲われ続けていたのだ。 他には、【コンピューター】などを使って番組スタッフや番組そのものの噂を調べようとすれば、オカルト掲示板のオカルト番組語りスレなどで、当時のスタッフは全員死亡したらしいなどという情報や、「ディレクター・岩淵常紋」の妻子が強盗殺人事件などで死亡しているらしいという古いニュース記事を発見できるかもしれない。  市役所などでスタッフ三人の連絡先について調べた場合、彼らは三人とも約30年前に死亡していることがわかる。警察署や図書館などでより詳しく彼らの死について調べるならば、彼らの死は自殺や事故死であることがわかる。岩淵常紋の家族に関する情報もここで改めて判明するかもしれない。 だごん情報局内部で情報を調べるのであれば、過去の番組の保険記録を確認することで、上記の情報の他に、番組のスタッフクレジットには記載されていないが、当時「千駄ヶ谷雑司」という18歳の青年が、アルバイトのADとして現場に同行していたということがわかる。彼について調べれば、彼だけは今も生きているということや、連絡先なども分かるだろう。 探索者たちが三人の番組スタッフのことにのみ意識が向き、番組内に映っていたADについて気づいていないようならば、【アイデア】【知識】で、「現場にはADらしき青年も写っていたこと(音声、ディレクター、カメラマン、ADで、現場には最低でも4人の人間がいたこと)」「スタッフクレジットにはADの名前が記載されないことも多い」といった情報を思い出させ、「千駄ヶ谷 雑司」の情報へ誘導すると良いだろう。

■少女Sについて調べる

 千駄ヶ谷雑司に接触する前に少女Sについて調べようとするのであれば、方法は二つある。一つはだごん情報局内の古い記録を探り、取材対象であった少女Sの個人情報を調べること(これは手っ取り早いが、外部の人間且つ古い記録ということで、調査に用いる技能にマイナス補正をつけるなど、やや難易度が高くなる)。もう一つは番組内に映っているM大学の外観から、その大学がどこかを特定し、大学側から情報を探ることだ(これは遠回りだが、難易度自体は難しくはないだろう)。 それぞれの方法で調査を行えば、大学は美須賀大学(みすかだいがく)、少女Sの本名は白金小峰(しらがね・こみね)だということが分かる。名前が判明した時点で、【知識1/2】【法律】などの技能で、それが現在も国会議員として活躍する政治家の名前だと思い出すことができるだろう。思い出せずとも、名前さえわかれば、彼女が現在は政治家となっているということは調べればすぐに分かる。

■千駄ヶ谷 雑司に接触する

 千駄ヶ谷 雑司に接触する場合、彼は都内の高級マンションに住んでいる。セキュリティもしっかりしており、千駄ヶ谷雑司自身が自宅から滅多に出てこないこともあって、彼に会うには電話で連絡を取るほかない。 電話でアポイントメントをとるのなら、彼は「……何かおかしなことでもあったんですか?」と詳細を聞きたがるだろう。「面白半分の取材なら会いたくありません」とも。彼は探索者たちが会いたがる理由が、探索者たち自身がイゴーロナクの手の呪いに悩まされているからだと分からないかぎり、頑なに過去のことを話したがらず、取材にも応じたがらない。「みなさん亡くなりました。ひどい死に方をされました」「思い出したくありません。取材はお断りします」 探索者たち自身がイゴーロナクの呪いに悩まされているのだということを知ると、彼は露骨に狼狽した素振りを見せ、「そんな、捨てたのに、ちゃんと捨てたのに!!」などと錯乱したのち、呆然と「分かりました。……僕の知ることをお話しします。お手数ですが、家まで来ていただいてもいいですか? 入り口のロックの暗証番号は1969です。……足が不自由でして、あまり外出したくないんです」と、探索者たちを自宅へ招くだろう。千駄ヶ谷雑司の自宅へ向かった場合、イベント「千駄ヶ谷雑司の自殺」が発生する。 電話連絡を行わず、千駄ヶ谷雑司の自宅へ向かう場合、自宅前でこうした問答を行わせても良いだろう。

■白金 小峰に接触する

 白金小峰は政治事務所を運営している。適切な手段でアポイントメントを取るのであれば、事務所はそれを断らず、適当な時間に事務所で会う約束をスムーズに取り付ける事ができる。白金事務所は永田町の一等地にある。 KP情報としては、白金小峰の事務所はいわば狂信者の巣窟であり、このシナリオにおけるクライマックスの舞台である危険な場所だ。白金事務所へ向かう時点で、探索者たちはある程度の情報を集め終えていた方が良い。「千駄ヶ谷雑司の自殺」イベントを通過している事を推奨する。 「千駄ヶ谷雑司の自殺」イベントは、通過していれば探索者たちがイゴーロナクへの公的な対処方法(白金小峰の罪状を社会的に追求し、彼女を逮捕させることで、イゴーロナクが彼女を司祭としてはもう使えないと見限る)を思い至りやすくなり、警察との協力もしやすくなることから、非戦闘員ばかりであるスタッフたちがイゴーロナクと直接戦闘を行うのを避けやすくなる。自殺イベントを通過していない場合、これに直接思い至るか(CoCというゲームへの現在の一般的なイメージ上、これはやや難易度が高いだろう)、イゴーロナクや白金小峰を物理的に殺害しなければならなくなる為、社会的・物理的に難易度が高くなる、というものだ。 白金小峰を殺傷する場合、よほどうまくやらない限り、探索者たちよりも社会的地位を持った彼女を攻撃したことで、探索者たちは警察に逮捕されることになる。イゴーロナクの呪いからは解放されるかもしれないが、それが解決と言えるかは…。自殺イベントを通過させておいて損はしないはずだ。 白金事務所を訪問することで発生するイベントに関しては「白金事務所訪問」の項目に記載する。

【千駄ヶ谷 雑司の自殺】

■【千駄ヶ谷の自殺】

 千駄ヶ谷雑司の住居は一等地の高級マンション、その高層階だ。ワンフロア全てが個人の住居になっているような高級住宅である。セキュリティも厳重であり、中へ入るには暗証番号を入力する必要がある。 千駄ヶ谷雑司の自宅玄関は大きな磨りガラスがはめられている。探索者たちがエレベーターを降り、玄関の前へと立った時【目星】【聞き耳】を行う。
 【目星】に成功すると、磨りガラスの向こうに影が拡がり、頭の無い人物が動き回っているらしいシルエットを目撃する。 【聞き耳】に成功することで、玄関の中から「ずし…ずし…」と何かが這いずっているような音がすることが分かる。
 探索者たちが警戒し、すぐに玄関の中に入らないのであれば、やがて唐突にバァン! と銃声のような音が響き、それきり影も音も聞こえなくなる。探索者たちが目星・聞き耳に失敗する、あるいは成功した上ですぐに中へ入ろうとするのであれば、探索者たちは顕現したイゴーロナクに引きずられる千駄ヶ谷の姿と、イゴーロナクが千駄ヶ谷のしかけたトラップによって殺され、姿を消す様を目撃することになり、1/1d20の正気度チェックが発生する。 銃声が聞こえた以後に室内へ入るのであれば、イゴーロナクはすでに消滅しており、死亡した千駄ヶ谷雑司の遺体のみを発見することになるため、イゴーロナク目撃の正気度チェックは発生しない。千駄ヶ谷の死体を発見することによる正気度チェックは1/1d6+1である。  銃声が聞こえた後、探索者たちが室内へ足を踏み入れると、室内はひどく荒らされている。いかにも高級そうな家具はぐちゃぐちゃに荒らされ、本棚は倒されて中の本が散乱し、パソコンは壊され、壁という壁には奇妙な計算式や読み解けない架空の言語などが綴られている。そしてリビングへ向かう廊下に、胸を撃ち抜かれた千駄ヶ谷雑司が倒れている。千駄ヶ谷はすでに死亡している。 半開きになったリビングへつながる扉には細工がされており、扉を開くことで隠された拳銃が作動し、その扉の近くに立っていた人物を撃ち抜くという仕掛けになっていたことがわかる。千駄ヶ谷はその仕掛けで死亡したのだ。 探索者たちは警察が来る前に、部屋の中や千駄ヶ谷の死体を詳しく調べることができる。 【千駄ヶ谷の死体への医学/目星】 千駄ヶ谷の死体の胸には銃創が残り、鮮血が溢れ出している。死体はまだ温かく、素人目にも彼が死んで間もないことがわかる。扉の拳銃も熱を帯びており、銃が発射されたことは間違いないように思われる。 千駄ヶ谷には両足がなく、リビングには壊れた車椅子が転がっている。両足の傷は古いもののように感じる。医学でより詳細に調べたならば、それは少なくとも20年以上は昔の傷で、傷の原因は「何かに食いちぎられたから」のような印象を受ける。 また、仕掛けられた拳銃の銃口の位置は、通常通りに作動したのであれば「車椅子に座っている千駄ヶ谷の頭上を通過する」か、「頭部を撃ち抜く」にとどまるはずの角度である。しかし千駄ヶ谷は胸を撃ち抜かれて死亡しており、状況は明らかに矛盾している。まるで足のない千駄ヶ谷が、2本の足で立ち上がっていたかのように…。 千駄ヶ谷の死に顔は、何かから解放された後のように、穏やかなものだと感じるだろう。 【壊れたパソコン周辺への目星】 室内はひどく荒れているが、その中でもとりわけパソコンはひどい荒らされぶりを見せる。モニターは叩き割られ、コード類はことごとく引き千切られている。かろうじてハードディスクは無事だが、復元させるには専門の業者に出すなどしなければならず、骨が折れそうだ。 周囲にはプリントアウトされたらしき紙が散乱している。文字が記されていたようだが、その全てが病的なまでに執拗に塗りつぶされている。周囲には空になったマジックペンやボールペンが散乱し、千駄ヶ谷が全ての紙を塗りつぶしたのだろうということがわかる。用紙に触れれば手が汚れ、塗りつぶされてから間がないことがわかる。 プリントアウトされた紙は塗りつぶされている他にも、キッチンのコンロで執拗に焼き尽くされた痕跡なども見受けられ、とにかく不器用な破壊の限りを尽くされている。 【壁に描かれた文字を調べる目星】 壁に描かれた文字の多くは支離滅裂で、読み解くことが難しい。しかしそうした中に、正しく読み解ける文章があることがわかる。多数の文字に埋もれるようにして「ワックスフォードの186は見てもいい パソコンはダメ 見てはダメ 絶対にいけない」と走り書かれている。
【倒された本棚周辺への目星】 飛び散っている本の多くは法律関係の書籍や真面目な専門書であるが、そうした中に『ワックフォード・スクィーズの密かな生活』や『鞭打ちの達人』『アダムとエヴァン』といった過激なサドマゾ趣味のポルノ小説が奇妙に混在している。 壁文字の情報から、『ワックスフォード・スクィーズの密やかな生活』の186頁を調べるのであれば、ページとページが接着させられ、その中に汚い文字で「遺書」と書かれた封筒が挟まれていることが分かるだろう。

■ 【遺書の文面】


「懐かしい情報局の皆様へ 僕はうまく死ねているでしょうか。生き残ってなんていないことを祈ります。誰も僕が死ぬところを見た人がいないことも。この遺書は処分してください。 本当はもっと早くにこうするべきでした。岩淵さんや杉並さんや吹上さんと同じようにするべきだったんです。それでも僕は死ぬのが怖くて怖くて仕方ありませんでした。だから僕は生き残ってしまい今から死にます。 Sさんは恐ろしい人です。僕はもう彼女から逃げることが出来ません。捨てたはずなんです。でも残っていました。僕はやっぱり彼女から逃げることが出来ません。だから今日まで生き残っていました。 懐かしい情報局の皆様へ。Sさんは恐ろしい人です。彼女と戦ってはいけません。呪いを解くにはうまくやらなければならない。僕たちは失敗しました。岩淵さん杉並さん吹上さんは死んでしまい僕は怖くて生き残ってSと一緒になりました。うまくやれ。 クトゥルフの眷属さえも、あえて■■■■■■については語らない。いつの日か■■■■■■が永劫の孤独より歩み出る時が来るだろう。今一度人の世を歩むために(ボールペンの線が幾重にも重ねられている。その間からわずかに覗き見ることができた文面) 読んではいけません。知ってはいけません。戦ってはいけません。うまくやらなければいけません。あいつがくるから。出来るかよバーカ。みんな死んだ。俺も死ぬ。死にたくないけど死ぬ。死ななきゃいけない。あいつがくるから。もっと早くこうしなければいけなかった。何で生きてるんだ。死ねばよかった。馬鹿でごめんなさい。おまわりさん。 ■■■■■■は煉瓦の向こうから人の世界を歩きたがっている。だから人の世界を歩けなくなれば用はない。おてんとうさまの下を歩けなければ用はないんだ。■■■■■■はせっかちだ。ようがなくなれば捨てる。つまらないやつだ。でもこわい。怖いやつだ。Sはこわい。怖いことをしている。あいつがくる。 うまくやってください。 ぼくはできなかった。    千駄ヶ谷 雑司」
 遺書はかろうじて意味が読み取れる支離滅裂な文面をしており、乱れた文字と内容から、千駄ヶ谷が相当に追い詰められていたらしいことは容易に分かる。 千駄ヶ谷の自宅は、探索者たちが通報するか、銃声を聞いた近隣の住人が通報することで警察の捜査対象となる。探索者たちも話を聞かれるだろうが、情報や部屋の状態などが顧みられた結果、千駄ヶ谷雑司の死は「非常に不可解で、理解不能なほど手の込んだ自殺か事故」として処理されることになる。探索者たちがこの件で警察を追及するのであれば、警察は「はっきりとした他殺の証拠が見つからない以上、そうするしかない」としか答えられない。現場の捜査結果として、自殺を裏付ける状況証拠は見つかれども、他殺の証拠は一つも上がらなかったという。 この時の警察については、彼らが無能でやる気がないのではなく、彼らだけの力ではどうにもならないのだという方向で示すべきだろう。後に探索者たちが『うまくやる』には、警察の協力が必要不可欠だからだ。警察も警察で悔しい思いをしているのだということをほのめかせば、探索者たちが警察と提携を取るよう動きやすくなるかもしれない。 千駄ヶ谷雑司の遺書は、探索者たちに直接対決ではなく、社会戦を取るよう誘導するためのものである。  探索者たちが時間をかけてパソコンの中のハードディスクを復元し、中のデータを見ようとするのであれば、中には「12」と書かれたPDFファイルだけが存在する。探索者がそれを読んだ場合、「グラーキの黙示録12巻」を読破したことと同じことになり、イゴーロナクが探索者たちの前に出現する準備が整えられてしまう。読んでしまった場合、白金小峰を倒したとしても探索者はイゴーロナクの呪いから解放されることはなく、やがて司祭としてその体を乗っ取られてしまうだろう。 これは実質的なロストとなるデストラップのため、KPは処理に注意すること。

■【警察の情報】

 千駄ヶ谷は白金とつながりがあり、白金には婦女誘拐・殺人や不倫・姦通などの黒い噂がある。警察でも調査を行っていたが、千駄ヶ谷がこのような不審死をした。これは白金による口封じではないかと警察は睨んでいるが、明確な証拠が存在しない以上、事故か自殺として処理する以外にはない…。 よくよく耳を傾ければ、そんな話を警察官たちがしているのを聞こえるかもしれない。 探索者達が警察に協力を仰ぐ、あるいは警察へある程度情報をリークするのであれば、警察は「公的な証拠がない以上、自分たちから大々的に動く事はできない」という立場をとる。反面、「決定的な証拠があればすぐにでも捜査が可能だ」とも。 また、白金事務所訪問の意図などを伝えれば、「明確に手を貸す事は出来ないが、当日、事務所近くにいつもよりも多めの人員をパトロールへ回す事は出来る。近くで大きな音でも鳴れば、すぐにでも誰かが向かうだろう」というような返答となる。警察にも立場がある以上、はっきりとイエスと伝えることこそ出来ないが、これは言外に協力すると言っているのだ。

【白金事務所訪問】

 白金事務所は、赤煉瓦の飾り壁が可愛らしい雰囲気を持った建物だ。 2階建のテナントであり、一階と二階は事務所になっている。 調査を行うことで、地下へ続く階段があることも分かる。  最も理想的な展開は、「千駄ヶ谷雑司の自殺」イベントを発生させ、探索者たちがテレビ番組の「取材」という体で白金事務所へアポイントメントを取ることだ。白金は政治家という立場と、イゴーロナクの司祭としてイゴーロナクの依り代となりうる人材を増やしたいと思っているので、探索者たちの取材を拒むことはない。 「千駄ヶ谷雑司の自殺」イベントを経ていないなどの理由で、探索者たちが証拠確保の発想に至っていない場合は、探索者たちと白金を実際に出会わせ、その口ぶりや話す内容から彼女が極めて怪しい人物であることを示すべきだろう。地下へ続く階段などを示し、この事務所自体が怪しい場所だと分からせた後、一度探索者たちを返し、「千駄ヶ谷雑司の自殺」イベントを経過させるべきである。時間経過によるデメリットや、強引な調査による不利が、勝手に探索者を追い詰めるからだ。
 事務所に到着した探索者たちを白金は歓迎し、インタビューなどの取材はつつがなく終了する。そんな折、白金の秘書が白金に「先生、明日の件でお電話が…」などと急ぎの用事をもちかけ、白金がそちらへ対応するために一時離席する。その際、彼女は探索者たちに「事務所内は1階と2階でしたらご自由に撮影していただいて大丈夫ですので」と許可を出す。 この隙に、探索者たちは取材のふりをして、事務所の中を探索しながら、白金と白金の事務所の人々に気付かれないよう、手早く証拠品となりる得るものを撮影していく必要がある。この判定の詳細は以下に記載するが、基本的に【芸術:番組制作】を用いて行う。提案次第では他の技能で代用しても構わない。 事務所の各部屋には白金の黒い噂に関する証拠になりうるものが存在し、その撮影に成功することでスキャンダルポイントが溜まっていく。ポイントが合計5スキャンダルポイント以上になった場合、それは法的な影響力を持ったものとして成立する。更に高得点を得ていけば、番組はより評価の高いものになるだろう。どこまで深入りするか、どこで撤退するかは探索者たちの判断に委ねられる。

■【スキャンダルポイント目安】

3ポイント以下…都市伝説のダイイングメッセージ程度。5ポイント以上…法的な影響力を持った証拠品として成立する。8ポイント以上…全国ニュースレベルのトップ視聴率を取れる。15ポイント以上…歴史に残る世紀の映像だが、本当にこれを放送するのか?

■事務所内部(地図データ

◆一階玄関:気になるものはない
応接室:他の飾り物に混ざって、手の石像が置かれている。だごん情報局で発見されたものと同じものに見える。【写真術】【芸術:番組制作】成功でスキャンダルポイント+1
事務所:気になるものはないトイレ:気になるものはない
資料室:資料棚の中に職員名簿を見つける。そこに千駄ヶ谷雑司の名前が載っている。彼は立場上はここの職員で、在宅の仕事を任されていたようだ。【写真術】【芸術:番組制作】スキャンダルポイント+1
◆二階給湯室:気になるものはない。トイレ:気になるものはない。
休憩室:談笑している職員がいる。【言いくるめ】成功でインタビューに成功する、スキャンダルポイント+1。職員たちはにこやかに以下のような、一般人からすれば少し違和感のある発言をする。 職員たちの証言「神様は私たちのすぐ近くにおられるのです」「そうです。神様に会うのはとても簡単なのです」「ただお名前を心の中で唱えれば良い」「あなたは神を信じますか?」「人生に満ち足りていますか?」 これはイゴーロナクの名を見ただけで、イゴーロナクが探索者たちに接触しにくる可能性があるという事を示すヒントである。会議室:【目星】でゴミ箱の中に会議書類が捨てられていることがわかる。数字が記された表のようだ。【経理】でそれが何かの収支表のように思える。それは金銭ではないようだが、具体的になんの収支表なのかは分からない。スキャンダルポイント+1(KP向け補足:この収支表は地下の部屋に監禁された人々の人数表である)
???:小さな鳥居と神棚が置かれている。選挙報道で見られるような、一般的な神棚に見える。しかし神棚の中にはシンプルな鍵が供えられている。探索者たちが一度地下へ向かっているならば、これは地下にある奥の部屋へ行くための鍵ではないかと思うだろう。
◆地下警備室:雇われ新人警備員が1人いる。【言いくるめ】成功でインタビューに成功する、スキャンダルポイント+1。警備員は以下のようなことを話す。「不思議な仕事なんですよね。誰が通るわけでもないのに、ずっとここに居て誰も通すなって仕事で。夜は別の職員がくるんですけど。奥に何があるか? さあ? 機密とかじゃないですかね、政治家先生だし……ああ、でも、奥から変な音がたまに……気のせいだと思いますけどね。ああ、ダメダメ、ここは通っちゃダメですよ」 警備員が邪魔をするので、正攻法では奥の部屋を見ることはできない。【目星】で天井に隙間があることがわかる。【聞き耳】で風の音を聞く。おそらくはこのフロアは全体的にそうなっているのではないかと察する。
トイレ:天井に換気のための隙間がある。あの隙間から奥の部屋を撮影できるかもしれない。【跳躍】【登攀】【STR×3(合算)】に成功するとカメラを隙間まで持ち上げることができる。
奥の部屋:隙間から撮影した映像は暗くてよく見えない。撮影に成功したのち、【写真術】【芸術:番組制作】【機械修理】【電気修理】で映像のモニターを加工することで部屋の様子がわずかにわかる。……なんということだ、口や目を封じられた大勢の全裸の人間たちが、屠殺を待つ豚のように天井から縄で緊縛され吊り下げられ、苦悶の声を漏らしている! とてもではないが政治家事務所の在り方ではない。部屋の奥には手の像が大量に積み上げられているようだ。スキャンダルポイント+2。このような異様な光景を目撃したあなたは正気度チェック。1/1d3。 おや、今、部屋の隅で何か白いものが動いたような…? 【目星】部屋の中を闊歩するイゴーロナクの姿をわずかに目にしてしまう。正気度チェック1/1d10。  二階で鍵を入手しており、なんらかの方法で強引に警備室を突破するのであれば(推奨としては隠し撮りした奥の部屋の映像を見せて説得するなどだ)、奥の部屋へ入ることができる。部屋に入ると上記の状況を改めて目にし、拘束された人々のリアルな存在感を間近で感じることになる。正気度チェック1/1d6。 拘束された人々の口を解放すると、彼らは悲鳴をあげてしまうため、白金や信者たちに見つかってしまう危険性がある。信者たちの【聞き耳】を行う。 部屋の中では常にイゴーロナクが接触してくる可能性がある。【目星1/2】の判定を任意のタイミングで逐一行う。成功した場合、間近にイゴーロナクが出現し、それを目撃する・あるいは対面してしまう。1/1d20の正気度チェック。【聞き耳】などで危機感を演出してもよいだろう。スキャンダルポイント+1 【目星1/2】の判定に3回失敗すると、部屋の奥の大量の手の像が飾られた壁へとたどり着く。そこには一冊の古い本が置かれている。表題は「グラーキの黙示録第12巻」。探索者たちが千駄ヶ谷の遺書の忠告を忘れ、それを見てしまえばイゴーロナクの名を目にすることになり、その場合は探索者たちはクリア後にグラーキに襲われるというバッドエンドを迎えることになる。スキャンダルポイント+2 まして、それをカメラで撮影し、全国放送してしまったなら…。

【白金事務所からの脱出】

 探索者たちが情報を撮り終え、白金事務所を去ろうとすると、白金はにこやかな態度を保ったまま「撮影お疲れさまでした。念のため、どのような映像を撮られたのか、カメラの中身を拝見してもよろしいですか?」と申し出てくる。探索者たちがこっそりとカメラを持ってきているのであれば、身体検査をしたいと申し出てくるだろう。 各探索者ごとに脱出判定を行う。判定方法は【100-スキャンダルポイント×5】%となる(つまり、これまでにスキャンダルポイントを多く取得していればいるほど、脱出が困難になる)。 探索者は全員で判定を行い、成功した探索者は無事屋外へ出る事が出来るが、失敗した探索者は屋内に残されることになる。演出としては、成功探索者が屋内へ出て、失敗探索者が後に続こうとした時、白金と事務所職員によって玄関が閉められ分断されるようなイメージだ。 白金は美しく蠱惑的な笑みを浮かべながら「ああ、困りますわ。もう少し、ゆっくりしていって下さいね」と告げ、探索者へと迫る。白金小峰及び事務所職員たちと戦闘が発生する。戦闘の処理は以下に記載する。

■戦闘処理

 道中で警察に協力を仰いでいるのであれば、1d4+1ラウンド後に異常を察した警察が到着する。道中で警察の協力を仰いでいない場合、誰か一人が脱出してから1d4+1ラウンド後に警察が到着する(脱出した一人が助けを求めたというような形だ)。 戦闘の勝利条件は「探索者全員の事務所からの脱出」か「警察が到着するまで全滅しない」である。 戦闘ラウンド中、【100-スキャンダルポイント×10】%の判定に成功する事で、事務所の職員と白金の手をかいくぐり事務所を脱出する事が出来る。これは戦闘ラウンドの行動を消費したとみなされる。 また、戦闘ラウンド内で、この判定以外の能動的な技能に成功する度に、脱出成功率が10%ずつ上昇していく。探索者が一人脱出するたびに、警察が到着するまでのラウンドが1減少する。 脱出した探索者の行動はシナリオ内では指定しない。脱出成功した探索者はその場から逃げ出してもいいし、中に残された他の探索者を助ける為に動いても構わない。提案次第で様々な行動が取れるだろう。 また、この戦闘中の光景を【芸術:番組制作】などによって記録に残す・撮影するといった行動をとった場合、即座にスキャンダルポイントが+5される。映像としては素晴らしい出来になるが、中に残った探索者たちが脱出するのは更に難しくなるだろう。

■エネミーステータス

■「イゴーロナクの司祭」白金小峰STR10 CON10 SIZ10 DEX10POW13 INT8 EDU21 APP20 SAN0【隠蔽工作】…スキャンダルポイント×2% ……判定に成功することでスキャンダルポイントが1下がる。【<魅惑>の呪文】…POW対抗(詳細は基本ルールブック288頁参照) 探索者にPOW対抗をしかけ、成功した場合、探索者を即座に魅惑状態にすることが出来る。魅惑された探索者は彼女の命令に逆らえず、意志と裏腹に彼女の命令に従うようになってしまう。 魅惑状態になった探索者へ彼女が下す命令は「地下へ向かえ」である。探索者は2ラウンド後に地下へ到着し、そこでイゴーロナクの攻撃を受けることになる。 INTが8以上の探索者であれば、自分の手番でPOW対抗を挑むことができる。そのPOW対抗で勝利すれば、再度白金から魅惑の呪文をかけられるまで体の自由を取り戻すことになる。【設定と行動】 彼女は日常生活の中でこそ非常に知的な言動を見せるが、長年の信仰によりイゴーロナクに身も心も捧げ続けた事で、もともとは非常に高かったはずのINT(自発的に考える力)を著しく低下させている。彼女のINTが異様に低いのはその為だ。 彼女は探索者全員に【<魅惑>の呪文】をかけるよう動く。本来であれば一人にしか効果を及ぼさない呪文だが、イゴーロナクの司祭として長年を過ごしてきた彼女は、その呪文を複数人にかけることが可能になっている。残留探索者が全員魅惑された場合は、【隠蔽工作】の技能で判定を行い、探索者たちが貯めたスキャンダルポイントを下げようとするだろう。
■「イゴーロナクの信者」白金事務所 職員STR10 CON10 SIZ10 DEX10POW10 INT3 EDU15 APP18【隠蔽工作】…スキャンダルポイント×2%【組み付き】…30%【設定と行動】 立ちはだかる職員たちは演出上は大勢いて構わないが、実際のデータとしては白金を含めたエネミー人数が残留PCと同じ人数になるよう調整する。優先行動は【組み付き】で、探索者たちを外部へ逃がさないよう抑え込む。白金が全員を魅惑状態にした場合は【隠蔽工作】でスキャンダルポイントを下げようとするだろう。
■イゴーロナク ステータスは基本ルールブック207頁に準じる。 探索者が魅惑状態になり、2ラウンドの間POW対抗に成功しなければ、探索者たちは地下へと降りることになる。地下へ下りればすぐそばにイゴーロナクが待ち構えており、イゴーロナクは満足に身動きの取れないだろう探索者たちに攻撃を行う。
 探索者たちが警察到着までの耐久に成功する、全員が脱出する、いずれかに成功すればその時点でシナリオクリアとなる。最終的なスキャンダルポイントの換算と番組評価はこの時点のもので決定される

3.エンディングとクリア報酬

【エンディングとクリア報酬】

 探索者たちが脱出に成功すれば、すぐに警察がかけつけ、白金の事務所へ突入する。地下室の異様な光景が白日のもとにさらされ、白金小峰と職員たちは緊急逮捕となる。 その数日後、白金小峰は留置所で、自分の舌を自分で噛み千切り飲み込むという発狂自殺を遂げる。かけつけた係員は、彼女が何もいない壁の影に向かって「どうかお許しください、お許しを、必ず外に出ますから、どうか猶予を、嫌だ、死にたくない、嫌ァーーー!!」と錯乱した命乞いをしていたのを耳にしたという。 探索者たちはその後、撮影した映像や収集した情報をもとに番組を製作する。正月に公開されたその番組は、政治家の逮捕というセンセーショナルなニュースもあいまり、多くの人々の目に触れるだろう。製作に関わった探索者たちは業界の内外で評価を受けることになる。

■クリア報酬

・スキャンダルポイント点と同じだけのSAN回復・スキャンダルポイント点と同じだけの信用成長・イゴーロナクと遭遇して生還した 1d8のSAN回復

■想定されるバッドエンド

 このシナリオで想定されるバッドエンドは二つある。 一つは、探索者たちが白金事務所から脱出することが出来ず、全員がイゴーロナクの手にかかりHPが0になってしまった場合だ。この場合、探索者たちは全員死亡し、警察が到着する頃には全ての隠蔽工作が終わってしまっている事から、真実が公になることはない。白金はその後も暗躍を続けるというものだ。 もう一つは、千駄ヶ谷雑司のパソコンのハードディスクの復元データや、白金事務所の地下再奥にある古書「グラーキの黙示録第12巻」の中を目撃、あるいは撮影することを選び、「イゴーロナク」の名を目にしてしまった場合だ。この場合、白金の末路は変わらず、スタッフたちは一時白金の呪いから解放されるが、番組が完成し、公開されたあとで(場合によってはその番組にはイゴーロナクの名が映り込んでいるかもしれない)、探索者たちは再びイゴーロナクによる悪夢と恐怖に苛まれる。心身ともに衰弱しきった探索者たちは、やがて夢の中で怪物から二つの選択肢を迫られる。「この場で死ぬか、イゴーロナクの司祭となって永遠の従属を誓うか」だ。いずれの選択を選ぶかは探索者の自由だが、いずれの選択肢を選んだとしてもその探索者はロストとなる。また、事件後その映像を見てイゴーロナクの名を目にした者、例えば探索者たちに協力した警察官や、放送された番組を見た多くの人々、番組製作を手伝った他のスタッフたちも同様の被害にあい、多くの人間が犠牲になるだろう。最後に笑うのはイゴーロナクただ一人というわけである。

4.シナリオ情報

【各種用語・NPC設定】

【だごん情報局】

 創設40年を迎えた映像制作会社。オカルト系番組を主に制作している。20年ほど前まではオカルトブームに便乗し繁盛していたが、最近はネット上を主にマニア向けのコアな番組を細々と制作するにとどまる。

【全部見せます!〜USO! あなたの知らない隣の世界〜】

 30年前にだごん情報局が制作を担当したオカルト番組。 1980年代にブームとなっていた新興宗教やオカルト団体を取材するという番組で、詐欺師まがいのカルト団体から学生のオカルトサークルまで、様々な対象を取材したシリーズ。 白金 小峰は当時19歳の美須賀大学の法学部に通う大学生。オカルトサークルの主催を務め、テレビクルーの取材に応じていた。番組内では彼女の神通力として奇妙な現象が紹介されている。その中にはスタッフが突然怪我を負うというものもあった。 番組内では本名は伏せられ、M大学の少女Sとして紹介されている。

【「イゴーロナクの司祭」白金 小峰(しらがねこみね)】

 30年前、大学生時代にイゴーロナクの召喚に成功し、イゴーロナクの司祭となった女。 現在は49歳を迎えるが、とても実年齢通りとは思えないほど若々しく精力的で、魅力的な見目をした女性。本の虫で、大学時代にグラーキの黙示録12巻を古本屋で見つけてしまい、イゴーロナクの司祭となった。 現在は政治事務所を立ち上げ、国会議員の一人として、主に女性の社会進出や権利を取り扱った政治活動を行っている大御所政治家だ。その活動の中にイゴーロナクの司祭としての能力がどれだけ関わっているかは…。無関係ではない、という言葉で茶を濁しておこう。

【「元AD」千駄ヶ谷 雑司(せんだがやぞうじ)】

 30年前、18歳でADのアルバイトをしていた青年。現在48歳。イゴーロナクの呪いにより、両足が膝下からない。 「イゴーロナクの手」の呪いに耐え切り、イゴーロナクの勧誘に屈して司祭の一人となった、当時の番組スタッフ唯一の生き残り。それは狂信からではなく、イゴーロナクそのものに対する恐怖心からの恭順だった。白金小峰の事務所に所属し、彼女に連なるイゴーロナクの狂信者として多くの悪事に協力していたが、探索者たちの接触により正気をわずかに取り戻し、己のこれまでの行動を悔い、探索者たちへの遺書を残して自室で自殺する。

【「元ディレクター」岩淵 常紋(いわぶちじょうもん)】

 30年前、だごん情報局の番組ディレクターを務めていた男。当時48歳。享年49歳。シナリオ開始時点ですでに死亡している。 「全部見せます!〜USO! あなたの知らない隣の世界〜」の担当ディレクターであり、白金小峰の取材を行った人物であり、取材後イゴーロナクの手の呪いに耐え切れず、最初に発狂し自殺した人物。 妻帯者であり、娘もいたが、彼の妻と子供は彼の死の直前に、不幸でおぞましい事故・事件に巻き込まれ(それは暴行強盗や性犯罪であったかもしれない)、全員が無残な形で死亡している。事件の犯人は現在も特定されていない。

【「元カメラマン」吹上 旧(ふきあげきゅう)】

【「元音声エンジニア」杉並 環七(すぎなみかんしち)】

 30年前、だごん情報局の技術スタッフを務めていた人々。シナリオ開始時点ですでに死亡している人物。「全部見せます!〜あなたの知らない隣の世界〜」の担当だった。