RESPONSE


ねえ、ねえ、ねえ。こたえて。ねえ、こたえて……。

1.シナリオ概要

【はじめに】


 CALLINGの続編にあたるシナリオ。単体でのプレイは非推奨となっている。 作中での時系列はCALLINGのED3のものである。(前作のラスボス、狂信者軍司直衛が廃人となりながら生存している時系列) CALLINGと併せ、キャンペーンとして回す事も出来るシナリオとなっている。本作はタイムリープ物の要素も併せ持っている為、最初からキャンペーンとする場合はKPは時系列や描写の整合性に留意する事を推奨する。
 舞台は現代日本と夢の中の1999年の日本を行き来する形となっている。 プレイヤーは4〜5人を想定しており、プレイ時間は音声セッションで6〜8時間程度のシナリオである。
 探索者はCALLINGの探索者を続投しても良いし、それ以外の探索者を何らかの形で関わらせても構わない。物語への説得力という面では、正気度他が保てば続投を推奨する。  CALLINGで何らかの経緯で魔導書を入手していた場合、神話技能はそのまま保有していても構わない。ただし前作から然程時間が経っていない関係上、魔術はまだ会得していないとするのが適切と思われる。(知識はあるためSANは減っているが、訓練他が足りない為に実践には至らない程度と解釈すると都合が良いだろう)
 推奨技能は<目星><聞き耳><図書館><対人技能><精神分析> 戦闘はあるが、戦闘技能が無くともクリア自体は可能だろう。

【舞台】


 時代はCALLINGの一年後、2014年の夏。 探索者達は最近奇妙な夢に苛まれている。真っ赤に染まった空と、見覚えのある(あるいは見知らぬ)電波塔、その傍らで見下ろす街の景色。夢の時間は少しずつ伸びており、それに伴う精神的苦痛を探索者達は味わっている(前作の探索者であれば、説得力が増すだろう)。そうして探索者達は再び事件を追い始める事になる。 主な舞台となるのは前作の舞台である山間の町、赤霧市。そしてもう一つ、赤霧市から電車で2時間ほどかかる、海に面した町、流累市(るるいし)である。 CALLINGで語られた15年前(1999年)の夏に発生した集団自殺事件と、現代で発生している奇妙な夢事件、双方を同時に追って行く形となる。

【推定難易度】


KP:★★★★☆(夢世界を中心とした情報管理とNPCのRPを要求される)PL:★★☆☆☆(CALLINGよりは楽になっている)

【シナリオ背景(顛末まで)】

 探索者達が見ている夢は1999年の赤霧市の「集団自殺事件」が発生するまでの出来事である。探索者達は望まぬままに軍司直衛の過去に関わる事になる。 この事件の背景には、CALLINGの一件にて廃人状態となった軍司直衛を引き取り治療を行う事になった精神科医、響恭という女性が関わっている。 彼女は『ヒプノーシス』という学問を専攻する研究者にして、同時に流塁市でサナトリウムを経営する優秀な精神科医である。前作にて正気を完全に失った軍司を重度の精神患者として引き取り、『ヒプノーシス』を用いた治療を行った結果、彼女は軍司の有する神話知識の一端に触れ、その狂気の世界に引き込まれる事になる。 狂信者じみて彼に魅了されていった響は、彼の過去をより深く知りたいと願う事になり、前作で彼と深く関わる事になった探索者達を利用する計画を思いつく。彼女は夢を見させる魔術によって探索者達の意識を軍司直衛の夢の世界へと送りこみ、自身はサナトリウムから監視者めいてその様子を垣間見ているのである。 彼女は軍司直衛に傾倒しているのであり、彼の持つ知識を正しく理解している訳ではない。故に彼女はその知識の危険性など何も知らず、無知のままに危険を犯している。彼女はやがてアザトースの招来を目指すだろう。自分の望み故ではなく、それを軍司直衛が望んでいた故に。 このシナリオのタイムリミットは、基本的にはシナリオ内時間において4日間となっている。
 前作に引き続き、このシナリオのコンセプトは「人間vs人間」「狂気と正気の境界線」となっている。また、前作以上に「既知を選ぶか、無知を選ぶか」といった問題へフォーカスがあたるようになっている。軍司直衛の末路は知りすぎた者の末路であり、響恭の末路は知らなさすぎた者の末路となっている。 その中で探索者達が自分自身をどう定義付けるのか、踏み込むのか、退くのか、最後に何を選ぶのか。そういった形で演出を行っていくと良いだろう。

2.シナリオ本編

【基本導入と特殊ルール】

【奇妙な夢】

+ + + 貴方達は気付くと奇妙に青みがかった景色の中に居た。 そこは夕陽に照らされた小高い丘の上。後ろを振り返れば山があり、森がある。 傍らには青白い夕陽に照らされた電波塔が、まるで貴方達を見下ろすかのように聳え立っていた。『ノストラダムスの…(ざざッ)い規模な混乱が予想——…(ざりッ)(ざッ)』 どこかからともなく、ノイズまじりのテレビの音声が聞こえる。 電波塔の名前が目に入る。第弐八電波塔。「そんな所で何してるの」 すぐ傍らから声が聞こえた。 振り返れば、制服を着た一人の少年が、不思議そうな顔をして貴方達を見詰めていた。
 視界にノイズが走る。+ + +
 と、いった夢を見て探索者達は目を覚ます。周囲を見れば見慣れた自宅が眼に入る筈だ。それは探索者達が一週間程前から見続けている奇妙な夢である。 最初の夢では空が。次に森が、街が、鉄塔が、そして音が加わっていった。 そしてついに今日の夢で、夢の中に人が現れ、あなた達へと話しかけてきたのである。 探索者達が前作を経験しているのならば、夢の場所も、夢の中の少年の正体も既に察しがついているだろう。それは1年前に探索者達が悪夢のような目にあった山間の街「赤霧市」であり、少年はその事件の首謀者だった軍司直衛という男の面影を色濃く残していた。 一年前の、山の中の小さな街で起きた悲劇は、まだ終わっていないとでもいうのだろうか? そんな疑念に駆られ、そしてもう一つの現実的な問題故に、探索者は再び立ち上がる事になる。
 現実的な問題とは、即ち不眠だ。 探索者達は夢の影響で、この一週間、どれだけ眠っても眠ったような気がしなくなっている。身体は疲れたままだし、ストレスで心がすり減っていくようだ。 こんなことが続けば、きっと自分は発狂してしまうだろう。 ……それとももう、狂っているとでもいうのだろうか? 自身の肉体と精神の限界を感じた探索者は、調査を開始する。
(探索者が前作未経験PCである場合は、後者の理由を大きな動機とすると良いだろう。その場合前作の事件に関する情報や軍司直衛に関する情報も、シナリオ内で順次明かしていく事になる) ここでこのシナリオ内のルール、【夢ルール】の説明を行う。また、前作の継続探索者である場合は、この時点で連絡を取らせる等して合流させる事を推奨する。

■シナリオ内特殊ルール

【夢ルール】

 導入以降、探索者達は1日経過するごとに【CON×4】の判定を行う。これによって成功で1、失敗で1d4の正気度喪失が発生する。【CON×4…正気度喪失1/1d4】 またシナリオ内では常に「狂人の洞察力」ルール(基本ルールブック91頁参照)を採用する。これは本作のテーマの一つである「狂気=既知」を示している。KPは周囲からヒントになるような情報を与えるなどし、進行に都合の良い情報を適宜示していくといいだろう。
 このシナリオは基本的に朝、昼、夜、夢の4ターン制で進行する。1ターンにつき一つの場所に移動し調査を行う事が出来る。(運転等で急いで移動するなどの申請があり、それが成功した場合に限りもう一回分行動ターンを増やしても構わない) 夜に眠る、或いは道中で1ターンを消費し眠るという選択をした場合、夢の世界で情報収集を行う事になる。KPは夢の世界での時間の流れに留意する事。 夢の世界、現実の世界で得られる情報は次頁以降を参照。
 シナリオ内の基本的なタイムリミットは4日間であり、それを経過すると夢の世界の出来事からアザトースの招来方法を知った響によってアザトースの招来が行われる。 その時点までに現実の世界での探索によって響にまで辿り着けていない場合はゲームオーバーとなる。

【各種情報−現実の世界】

 朝・昼・晩のターン内で、現実の世界で探索を行う事で得られる各種情報。 現実の世界で有すべき情報は、CALLINGでの事件がその後どう扱われたのかという事や、軍司直衛のその後についてなどが主となる。 また、前作では軍司を有能な医師だと歓迎していた街の人々が、掌を返したように腫れ物扱いしている描写を入れるなどし、街の住人達の無自覚な残酷さを演出すれば、夢の世界で探索者が軍司と交流を持ち易くなるだろう。 前作で登場させたNPCを再び利用するなどすれば、演出的な足がかりとなるだろうと思われる。ただし、あまりにも友好的すぎるNPCを出す事は、ゲーム的な観点から推奨されない。

■第弐八電波塔について

 探索の起点となる情報の為、これを知るのにダイスを振る必要は無い。 調べると赤霧市という山間の街に存在した電波塔の名称であることがわかる。老朽化等の問題により、一週間前に壊されている。1年前に奇妙な事件が起きたらしい。
 より詳しく調べる場合は【図書館】【コンピューター】などで調べる事が出来る。KPが適切だと判断する調査方法で情報を出して構わない。 基本的に技能が1つ成功するにつき、以下の中から適切と思われる情報を1つ提示する。基本的には非継続探索者向けの情報が中心である為、継続探索者相手に情報を出す際は、前作のおさらい程度に留める事を推奨する。(必要無いと判断した場合、これらの下調べは無視してそのまま赤霧市へ向かわせてしまっても構わない)
【1999年の電波塔・赤霧市について調べる】 今から16年前、即ち1999年に赤霧市に存在したカルト教団「宇宙星辰会」の煽動による集団自殺事件が電波塔で発生したという事が判る。
【1年前と16年前の事件の関連について調べる】 16年前の事件の遺族が1年前の事件に関わっているという事が分かる。軍司直衛という男だという事が判る。
【軍司直衛について簡単に調べる】 固有名詞を知った時点で、【コンピューター】【図書館】などで調べられる。 精神医学を専攻していた開業医であり、赤霧市に診療所を持っているという。インターネットで調べれば診療所のホームページが存在する。 ホームページの更新は1年前で止まっており、ネット上の掲示板では1年前に電波塔でカルトじみた事件を引き起こしているという事が判る。当事者でない限り、事件の詳細は分からない。

■赤霧市に移動する

 1ターン分消費して行動する事が出来る。経過時間は1d4+2時間程度。 街へ辿り着けば、街の人に話を聞いたり、電波塔について直接調べたりする事が可能である。以下に取れそうな行動を具体的に記す。 山に囲まれた都会とも田舎ともつかない閑静な街。1年前の事件や軍司直衛の事に関しては、住人達はあまり好んで口を開かないだろう。表立っては分からないが、田舎町特有の閉鎖的な空気も併せ持っているのだ。
【電波塔に行く】 「電通トンネル」というトンネルを通った先、小高い丘の上にある電波塔跡地。現在は電波塔はほぼ完全に崩され、鉄骨等の撤去工事が進められており、日中であれば工事現場の人と話をする事が出来る。 現場の人々は街の住人ではない為、1年前の事件に関して簡単に口を開いてくれるだろう。ただしその反面、知っている情報は表面的であり少ない。 1年前に住民達の一部が突然暴れ出すという事件が発生し、また電波塔から茫然自失状態の人間が大量に発見されるという事件があったという。電波塔の頂上からはカルト的な儀式の痕跡が発見され、警察は住人達の暴動の原因だったのではと推察しているが、明確な証拠は出なかったという話を聞ける。 電波塔撤去の工事が始まったのは一週間前からであり、作業はスムーズに進行しているとのこと。
【軍司直衛について詳しく調べる】 街の住人に対する【交渉技能】など、KPが適切と判断したロールに成功する事で話を聞く事が出来る。 かつてこの街の山の麓で軍司診療所を開いていた精神科医。1年前の事件で電波塔で茫然自失状態で発見されたという。 その後、警察で捜査が行われたが、重度の精神障害と判定され、責任能力が見受けられず、証拠も無かった事から結局この街の市民病院送りになったらしい。 診療所時代は街の人々に評判の良医だったという。現在は街の人々は彼のことを腫れ物を扱うように触れたがりはしない。 ロールの際に良い出目が出るなどすれば、彼の幼少期に関する話を聞くことが出来るかもしれない。その辺りの情報の匙加減はKPの自由だ。
【市民病院で話を聞く】 市民病院で軍司直衛のその後について話を聞きに行けば、半年前までは入院していたが、その後別所に引き取られたと教えられる。身寄りが無く、また私生活を行う事も難しいほどの重度の精神障害者をこの病院ではずっと世話をしている事は出来なかったというのが病院側の説明である。以前はそういった患者は軍司診療所へ回していたようだ。
 軍司が引き取られたのは流累市という街にある「サナトリウム流塁」という療養所であるとのこと。また、他の重度精神障害者(即ちCALLINGで電波塔での戦闘で敵対者として出来てた狂人NPC達を示す)達も同時期にその病院へ送られたが、彼らは半年で驚く程の回復を遂げ、現在は各々の形で日常へ復帰しているという。 医療関係者や元患者達は、サナトリウム流累の院長である響恭という女性の腕前を誉め称えるだろう。あたかも1年前まで軍司診療所に与えられていた評価そのままに。
 会話の中で【心理学】に成功することで、市民病院の関係者達は何らかの後ろ暗い所があるようだ、と察するだろう。この時点では如何にそれを問いつめようとも口を開く事は無い。 響に直接会ったり、サナトリウム流累について調べたりする事で、軍司他の患者の提供が一種の被験者提供、言い換えるならば体の良い厄介払いだったということがわかるだろう。 【診療所跡地に向かう】 山の麓に存在する診療所跡地。今もなお焼け跡が残され、不気味な雰囲気を残している。関係者の話によれば、撤去しようにも本来の所有者の権利が複雑な状態になっている事、また撤去しようとすると怪現象が多発するといった事から、今も放置されたままになっている。 跡地を詳しく調べる場合は【目星】で焼け跡の床部分に埃の切れ目がある事に気付く。近付けば、それは地下室の扉だという事が判る。STR12との対抗ロールで扉を開く事が可能である。 また、継続探索者の場合は【アイデア】で、その地下室の位置は前作で院長室の奥にあった厳重にロックのかけられた扉の部屋だと察する事が出来る。
 地下室へ降りる事は出来るが、そこには最早何も残されてはいない。しかし僅かに、床に何かを動かしたような痕跡がある事だけが分かる。(ここには前作時点で集団自殺事件及び現時点で響が使用している「夢見のテレビ」が存在していた。軍司はニャルラトホテプであった協力NPCの力によってこれを入手し、前作で街の人間に無差別に耳鳴りを発症させていた。今作では一週間以上前に響が跡地を訪れ、このアーティファクトを回収し再利用している)

■【流累市へ行く】

 1ターンかけて移動する事が可能である。具体的な時間としては1d4+1時間程度。 海に面したひっそりとした街。赤霧市とはまた違った閑静さを感じさせる。 この街の住人達は、赤霧市の住人とは異なりどこか朴訥とした真面目な雰囲気を演出すると良いだろう。 街外れにひっそりとサナトリウム流累が存在する。 街の住人への【交渉技能】など、適切なロールで下記情報を入手する事が出来る。
【流累市について】 最近、夜間に奇妙で不気味な生物の目撃情報が相次いでいる。化け物は夜に海辺、特にサナトリウム流累周辺で目撃されているようだ。 けれどあくまでただの目撃情報であり、それに襲われたといった被害情報は無い。また目撃されている怪物達に共通性は無いようだ。(ある時は魚のようであり、ある時は鳥のようなものがいた。ある時は不定形の怪物でありといった具合である)
【サナトリウム流累について】 海辺の街、流累市の外れに存在する小さな療養所。運営者は響恭という女性。 軍司直衛も現在そこに収容されている。 元々は結核患者の治療の為に作られた施設だったが、時代と共に変化していき、研究施設を求めていた響の手に療養所として渡る事になったと言う。 殊更長期の治療を必要とする患者を主に収容している。その特徴から基本収容患者数は少なめ。
【響について】 現役の精神科医にして催眠療法【ヒプノーシス】について研究している女学者。学会ではそこそこ名の通った若き有能女医だという。冷静で学者肌の正に才女といった雰囲気の女性だと言う。 街での【聞き耳】や適切な【交渉技能】などを行う事で、名の通った立派な医師であるといった事が判るだろう。 基本的に彼女に関する悪い噂は存在しない。クリティカル等よほど良い数値が出た場合は不気味な印象を持つなどと語る人間が居てもいいかもしれないが、この時点で響への不信感を探索者へ抱かせすぎる事は後述のイベントを発生させ辛くなる危険性がある為、推奨しない。

■【サナトリウムの訪問】

 直接施設を訪れるとまずは受付でナースが応対する。軍司の知人である等の何らかの理に適った説明を行えば、響や軍司と面会する事が可能だろう。働いているナースの数は非常に少ない事が判る。 サナトリウムに入ってすぐに【目星】を行わせる。成功で、待合室に非常口の扉がある事に気付くだろう。
 探索者達が軍司のもとを訪れれば、響は探索者達へ自ら面会を申し出る。響はそばかすの目立つ、キツい目鼻立ちをした、醜悪ではないが美人とも呼べない素朴な女性だ。 響はこの時点で探索者達の夢中での同行を観察している為、彼女は探索者達の事を一方的に知っている。それ故に探索者達へ会う事を拒まないだろうし、むしろ積極的に接して来ようとするかもしれない。
 軍司は力なく車椅子に座り、知性無き虚ろな目に半開きの口といった正に廃人と言った状態で探索者達と面会する事になる。軍司へは何を話しかけても明瞭な反応が返ってくる事は無いが、アザトースの名称を告げた時に限り、探索者達を真っ直ぐに見詰めてくる。 ここで彼が完全に正気を失っている事と併せ、瞳の丸さ等の描写をさりげなく入れておくと良いだろう。 サナトリウム内では、希望すれば下記のような行動をとれる。
【響の治療に同伴する】 響のヒプノーシスを用いた軍司の治療現場に同伴する事が出来る。 暗い部屋にノイズの走ったテレビ(これが夢見のテレビだが、探索者達はこの時点ではこの情報は知らない)が置かれ、その前に患者である軍司が置かれる。室内の灯りはテレビの放つ光のみであり、響は患者の後ろから患者にゆっくりと話しかける形で行われる。 基本的には響からの一方的な質問であり、軍司がそれに返答をする事は無い。響が幾つかの質問をしていく内に、やがて軍司は口を開くが、そこから返されるのは鼻歌のような奇妙なメロディのみである。それは夢の中で耳にしたメロディであり、同時に1年前の事件で例の電波塔で流れていた狂気の笛の音色であるという事を理解する。
 響は軍司のこの反応は初めてだと、どこか熱に浮かされた様子でカルテへと筆を走らせる。先程までの冷静な様子とは打って代わった、どこか狂的な熱中と執着を感じるだろう。不気味な音色に対する反応には似つかない、喜色を孕んだ熱中である。 この異様な雰囲気を感じ、怖気が走る不気味なメロディを聞いた探索者は正気度チェックを行う。【正気度チェック1/1d4】
【診察室内を探索する】 診察室の更に奥に催眠療養用の小部屋が存在し、治療に同伴する場合はそこに入る事になる。軍司の治療中、望めば途中で退出し捜索を行う事も出来るだろう。 それ意外の方法をとる場合は【忍び歩き】【隠れる】が必要。 響への【言いくるめ】【説得】で許可を得ても良い。 清潔でこざっぱりとした印象の普通の診察室。カルテ棚にはこれまでの患者のカルテが仕舞われている。【目星】【図書館】などでカルテ棚を調べる事が出来、軍司直衛のカルテを発見出来る。
「軍司直衛のカルテ」 入院した日や治療の進行状況、その際の響の所感などが書かれている。 この施設にやってきたのは半年前であり、赤霧市の市民病院に響が声をかけられたのが切欠であったという。【アイデア】で一種の被研体提供だと察するだろう。 以降、軍司はこの施設で治療を受けていたようだ。 ヒプノーシスを行う度に軍司はまるで物語のような荒唐無稽な話をや知識を呟いていったらしい。それは気の狂れた者の妄想の一種と思われたが、それにしては整合性と一貫性を持ち、いつしか響はそれを記録に残すようになっていった事が判る。 【アイデア1/2】で、記録する響の文面が徐々に熱を帯び始めているように感じるだろう。
* * *「外宇宙の彼方の王宮に棲むという白痴の王、海の底に封じられ今も夢を見続けているという邪神、精神生命体として時間を克服した偉大なる種族……彼の語る物語は荒唐無稽ではあったが、知性に溢れ、決して支離滅裂では無かった。 この人は一体どんな人間だったのだろう? ああ、彼と直接話をする事が出来たらどんなにか良かっただろう!」 * * *
 カルテを読む事で、その異様な文面に正気度チェック。【正気度チェック0/1d4】 また、1%のクトゥルフ神話技能を得る。
【病棟を見て回る】 まともに会話が出来ない状態の患者達が多く収容されている。 【幸運】に失敗した場合、気の狂れた人間に突然殴られ1d2ダメージを負う。  特に得られる情報は無い。

■【イベント:サナトリウムでお茶会を】

 最終決戦及び最終日の夢に繋がるイベント。4日目を迎える、或いは情報が十分集まったとKPが判断した段階でこのイベントを発生させる。このイベントで眠りに落ちる事で、夢の世界でも最終日を迎えるようになるよう、KPは情報の出し方を留意するように。
 適当にサナトリウム内を探索し終える/あるいは流累市に滞在する探索者達に、ナース、或いは響が探索者達へ接触してくる。「お茶にしましょう、あまりここには人が来ないから。あなたの話を聞かせてくれないかしら」 そう言って彼女は探索者達を茶会へと誘うだろう。 探索者達が断ろうとする場合は響がその場で何かを呟いたのが見える。 【聞き耳】でそれがまるで聞いた事の無い言語である事が判り、どこかゾッとする響きを帯びている事が判る。【正気度チェック0/1d2】 そしてその呟きが終わると同時に探索者達は眠りに落ちる事になる。
 お茶に応じた場合は応接室に通され響と会話を行う事が出来る。狂人の洞察力に関する彼女の見解について(彼女はそれを、嘗て軍司が学会に発表して避難を浴びた「重度精神障害患者に於ける共通点とそれに関する見解」という論文の証左ではないかといった見解を持っている)や、ヒプノーシスという学問に対する彼女の見解などを語らせ(彼女は非情に興味深い研究内容でありながら、一方的に呼びかけ続けているだけの虚しい行為であるようにも感じている)、彼女の人間性を演出して行くと良いだろう。「例えるなら、テレビのようなものよ。見ている事は出来る、情報も教えてくれる、けれど決して私に返事はしてくれない」
 ここで出される紅茶には睡眠薬が仕込まれている。 また紅茶を飲まなくとも、周囲に薫き込められた微かなお香や響の呪文によって探索者達は眠りにおちる事になる。抗おうとする探索者達を強制的に眠りに落とし、響の黒幕感を演出すると良いだろう。「おやすみなさい。……どうか、良い夢を見せて頂戴ね」
 このイベントを経て、「夢の世界:最終日」のイベントへと続く。

【各種情報−夢の世界】

 夢の世界では宇宙星辰会の陰謀を暴こうとする若き軍司直衛と接触しながら、1999年の赤霧市を探索する事になる。 眠りにおちる度に夢の世界に現れる事になり、また夢の世界で現れる度に夢の中の現地の時間は少しずつ進行している。突然探索者達が消えたりする事に関して、軍司少年を始め夢の中の住人達は違和感を持つ事は無く、自然に受け入れている。 以下の情報の中からKPは現実の世界での進行状況等と併せ、適宜適切な情報を出して行くといいだろう。 基本的に1エリアの探索を終えるごとにノイズと共に目を覚ます事になる。 最初に夢の中で探索を行う時点で、日付は7月3日。集団自殺事件が発生するのは7月7日であり、その直前に市役所で「夢の世界:最終日」のイベントが発生するのは7月6日である。
 夢の世界は全体的なカラーリングが青(導入)→赤→マゼンタ→緑→シアン→黄色→白の順に変化していく。これはテレビのカラーバーの色味を意味し、探索者達がこの事に気付いた場合、更に【アイデア】を振らせてまるで何者かに覗かれているようだと感じさせると良いだろう。 その演出に伴い、夢の終わりは必ず視界にノイズを生じさせて終了する事。
 軍司少年は探索者達が夢の世界で意識を取り戻すと、必ず近くに居て、基本的には探索者達へ最初に話しかけてくる。探索者達が望むのであれば協力者として同行するだろう。 反面、探索者が望まないのであれば、彼は単独で調査行動を行っていく。 以下は夢の世界で得られる各種情報である。

【基本背景情報】

 1999年7月の赤霧市では「宇宙星辰会」と呼ばれる哲学サークルが爆発的に流行していた。宇宙星辰会の教義は「宇宙進出を果たした人類は、これからは更にもう一段上のステップに立って物事を考えなければならない」というものであり、暗に外なる神々の存在をゆっくりと人々に植え付け信心を育て上げていた。尚、宇宙星辰会の正体は星の智恵派の分化組織であり、外なる神の招来と知識の授与を目的とし活動を続けるカルト団体である。 宇宙星辰会は赤霧市の経済活動に積極的に資金援助を行う事で、昨今のオカルトブームも相俟り、数年前から急速に赤霧市内で勢力を伸ばしていった。その動きを警戒する者も居るが、法に触れる事もしておらず、組織として行っている活動もただ月に数度のセミナーのみである為、表立って反対する者は少数派であった。 月に数度市民会館でセミナーを行っている。セミナーでは当たり障りの無い世間話やお茶会が行われているとされているが、このセミナーに参加した者は皆一様に宇宙星辰会に対して親和的になる。というのも、このセミナーで教祖である福良乙女は狂気の音色を用いて、参加者達を洗脳し、信者としているからである。(※洗脳方法は基本的にはクトゥルフカルトナウ 星の知恵派の項目に倣う) 代表者の名は福良乙女(ふくらおとめ)。美しい黒髪のスレンダーな女性、手に黒い扇を持っている。正体はニャルラトホテプの化身である。彼女はこの街の人々を生贄に、外なる神の何かしらを召喚してやろうと目論んでいる。 無論、そこには何の意味もありはしない。

■宇宙星辰会について調べる

【軍司少年が持っている情報】 宇宙星辰会は数年前から街に存在する哲学サークルである。月に数度市民会館でセミナーを開いている。代表者の名前は福良乙女。 地元民は警戒している者も居るには居るが、殆どが無関心、或いは好印象である。理由までは軍司には分からない。 1年前から両親が参加するようになった。その結果、家事を放棄する、仕事を不規則に休む等、急速に様子がおかしくなっている。真面目だった両親がああなった理由が分からない。恐らくは健全な理由ではないように思える。 教義内容については気持ち悪くて聞いていない。 彼は半年前から独力で調査を行っている。
【街で調べる】 市民への【対人技能】で上記基本情報を好ましい印象で市民達は伝える。技能の半分以下の数値が出た場合は悪感情を抱いている人間に出会え、地元への寄付金云々の話題を聞く事も出来る。 クリティカルが出た場合は組織の教義について信者から聞く事が出来るだろう。 街での【聞き耳】などで一週間後にセミナーが開かれる事が分かる。
 【コンピューター】は時代柄一般家庭には存在しない為、使用するには工夫が必要である。軍司の携帯電話を用いるのが一番手っ取り早いと思われるが、インターネットそのものがあまり普及していないこの時代ではネット上ではあまり情報を得る事が出来ない。 【図書館】などで宇宙星辰会について調べると、”星の知恵”というワードを拾うことが出来るが、それが何を意味するものなのかということはわからない。【オカルト】【クトゥルフ神話技能】でそういった名前のオカルト団体が歴史上多く存在することを思い出す。

■福良乙女について調べる

 数年前に街に突如現れ、宇宙星辰会を立ち上げた美女。具体的にいつ現れたのかは誰も知らない。富豪の娘にして事業家であり、暇を持て余しているという。 普段は市内にある邸宅で生活を送っている。探索者が望めば快く面会してくれるだろう。後述のイベントのタイミングでも構わないが、福良乙女と面会すれば、彼女は脈絡無くティンダロスの猟犬の事を意味深に話す。これは最終戦での戦闘へのヒントである。
「ねえ、角度から現れる犬から逃れるにはどうしたら良いと思う?」「正解はね、丸い部屋に住むのよ。角度が一つも存在しない、まあるいまあるいお部屋で、一生ね」「でもそんなお部屋で一生を過ごすことが本当に出来るのかしら」「不思議だわ、本当に不思議」「ねえ、どうしたら良いと思う?」
 彼女はニャルラトホテプの化身である為、夢の世界であっても現実の世界の情報や探索者達の情報を有しているかもしれない。次元と時間を超越した黒幕として不気味に演出すると良いだろう。
 彼女の邸宅にはロクに情報は無いが、忍び込むような不届きな探索者が居た場合、探索者らの正気度を削るようなおぞましい事象を引き起こすと良いかもしれない。(怪物に襲われる、幻覚を見る等) 或いは嘗て軍司診療所に潜入した時と同じような状況に持ち込むのも手だが、その辺りはKPの演出の好みだ。

■市民会館について

 山の麓にひっそりと存在する小さく古い市民会館。探索者達は【アイデア】で、それが現在の軍司診療所がある場所であると察していいだろう。 月に数度、そこで宇宙星辰会のセミナーが行われていると言う。最も直近のセミナーは7月6日の18時からだという。 事前に探索者達が中に入ろうとすると「使用には予約が必要だ」と言われる。次に予約を入れられるのは直近でも四日後だと言われるため、セミナー以前に探索者達が市民会館の内部を調べるには忍び込む以外に方法は無い。
 探索者達が忍び込もうとする場合は【忍び歩き】に成功する必要がある。或いは別行動で誰かが気を引くような行動をとれば潜入を認めても良いだろう。中に入ると至って平凡な小部屋が並んでいる。
 診療所跡地で地下室の入口を見つけた地点へ向かえば、同じ場所の部屋の中に同じく地下への入口がある事が判る。扉に近付こうとしたならPOW18との対抗ロールを行う。失敗時はSANを-2消失。成功時は地下から奇妙な音色を聞く事になる。探索者が継続探索者である場合、それが電波塔事件の際に流れ続けていた狂気の笛の音色だという事が判るだろう。 しかしここで警備員に発見され、探索者達は追い出される事になる。それ以上の捜索は不可能である。

■軍司少年について

【軍司少年が持っている情報】 宇宙星辰会への調査に協力すると伝え、自分たちが宇宙星辰会と関わりが無い事を証明すると、軍司は素直に自分の事を話すだろう。 軍司直衛。16歳。地元の進学校である赤霧高校1年生。塾通いをしており、帰りが遅くなることから両親に携帯電話を与えられている。 日常に退屈しており、何か自分でも熱中出来るものは無いだろうかと心の中で望んでいる。宇宙星辰会の案件に首を突っ込むのも、本人の好奇心に依るものが大きいと認識している。 父親は会社員。母親は専業主婦。平凡な一般家庭、の、筈だった。 最近、妙な耳鳴りが続いて困っている。
【街の人々に尋ねる】【対人技能】で聞き出す事が出来る、他人から見た軍司少年の印象を知る事が出来る。 成績優秀で運動神経も良い、何事もそつなくこなす物静かな少年。反面情熱に乏しい現代っ子で、何を考えているか分からない不思議な雰囲気を持った変わり者の子供。 対人技能時に【幸運】に重ねて成功する事で、両親が宇宙星辰会の熱心な学徒であり、子供ながらに心配しているらしいという話を聞く事が出来る。

【夢の世界:最終日】

 響によって強制的に眠らされた探索者達は、7月6日の17時頃、電波塔のすぐ傍で目を覚ます。 探索者達が携帯電話を持っており、それまでに軍司と接触があった場合は軍司から電話がかかってくる事になる。「何やってるの? 早く行かないともうすぐ始まっちゃうよ」 と言って、軍司は今日がセミナー当日であるという事を告げる。 接触が無かった場合は【アイデア】で今日が宇宙星辰会のセミナー当日である事を思い出すだろう。セミナーは18時スタートだ。 KPも市民会館へ行くよう促すと良いだろう。

■セミナー会場へ

 宇宙星辰会セミナーは来る人拒まず、探索者達が向かえば問題無く迎え入れられるだろう。【目星】で少し離れた場に両親と共に軍司が座っている事が判る。 セミナー自体は雑談会のような気安い雰囲気で進む。ティンダロスの猟犬の話題を出していなかった場合、ここで話題に上げてもいいだろう。 セミナー中、【POW×3】で判定を行う。失敗時には激しい頭痛を覚え、正気度を2減少させる。成功した場合、どこからともなく奇妙な音色を聞く。 【聞き耳】でそれが地下室から聞こえてくる事が判る。探索者によっては聞き覚えがある狂気の音色であるという事が分かる筈だ。 その頃にはセミナーは奇妙な熱を帯びており、参加者達は福良を讃え始め、福良の言う事に服従し始めるだろう。軍司と探索者達だけがそれを眺める事になる。「知りすぎる事、知らなすぎる事、どちらが悲劇を招くのかしら?」 福良はそう言って信者達を煽り、軍司と探索者達へ襲い掛からせ、自分は地下へと降りて行く。探索者には1人につき1d2人の信者が襲い掛かる。福良を追うには自分に襲い掛かってきた信者をかわす必要がある。
 方法としては、【DEX対抗】…信者達は一律でDEX10。【STR対抗】…信者達は一律でSTR9。【精神分析/説得】…人数分成功で移動可能。 などが挙げられる。KPは適切であると思ったロールで自由に信者をやりすごさせて良いだろう。 軍司はダイスを振らず、面識があっても無くても極力探索者を助けるよう動く。探索者達を助けた後は軍司は両親を止める為にその場に残るだろう。 その時の彼には熱の薄い変わり者の少年の面影は無く、ただおかしくなった両親に困惑する普通の少年の面影を強く残しているだろう。「父さん! 母さん! どうしたんだよ、しっかりしてってば! ねえ、返事してよ!」

■地下へ

 信者達を潜り抜けて地下へ向かうと、地下にはノイズを走らせたテレビが置かれている。 探索者達はそれが響が用いていたテレビだと気付くだろう。テレビからは狂気の笛のメロディが流れ続けており、画面の中にはこの部屋の中の様子が映されている。それは地下へ降りて来た探索者達の姿と、その前に立つ福良の姿もだ。
 テレビの中の部屋には現実には存在しない奇妙な魔法陣が描かれている。 すぐ側には鶏の死体が無造作に置かれ、鶏の血で描かれているらしい事が判る。「一体何が出てくるのかしら?」と福良は楽しそうに笑い、奇妙な呪文を唱える。 その呪文はまるで反響するかのように響き渡り、狂気の笛の音色と同様に、まるで耳鳴りのように探索者達の頭に残り続けるだろう。(これは後述する魔術呪文である。覚える事が出来る) するとテレビ画面がまるで水面のように波打ち、福良はその中へとずぶずぶと入っていく。 人間がテレビ画面の中に潜って行くという非現実的な光景を目撃した探索者は正気度チェックを行う。【正気度チェック1/1d6】
 仮に彼女を止めようと探索者達が途中で行動を起こそうとするならば、彼女はゲラゲラと笑いながら探索者達を制止する。「駄目よ。ようく覚えておかないと。あなたの為なのよ?」 彼女の体が巨大な脂肉の塊に見える幻覚を見る。【正気度チェック1d3/1d10】 そして探索者達が恐怖に竦んでいる間に福良はテレビの中へと消えて行く。 SAN消費が激しいため、KPは極力忠告を与えるようにするといい。
 次の瞬間、軍司が地下へと落ちてきて、1d2+1人の狂人が地下へと降りてくる。狂信者達は探索者達を止めようとするだろう。戦闘ターンに突入する。 ここでの最終的な目的はテレビを破壊し召喚を阻止する事である。 敵対する狂人のステータスはNPC一覧に記載する。
--------------------------------------------------<夢見のテレビ>耐久:5装甲:1ポイント(探索者の傾向に応じて割愛可) 6ターン以内に破壊出来ない場合、アザトースの招来が成功する。 が、事実とは異なる展開に世界が歪に歪み、電源を落とされるようにしてブツリと切れ、「現実の世界:最終決戦」へ続く。(この展開になった場合、味わった絶望故のSAN減少1d10/1d20)--------------------------------------------------
 テレビの破壊に成功する失敗する問わず、夢から覚める際に探索者達は画面の中の福良の哄笑を聞く事になる。
「見られているの? 見ているの? 一体どちらなのかしら? これから何が起きるのかしら? 私はそれを知っているのかしら? あなたはそれを知っているのかしら? あなたの後ろの人はどうなのかしら? あなたに返事をするのは一体誰なのかしら?」
 哄笑と共に壊れたテレビは激しくノイズを走らせ続け、そのノイズの狭間に、テレビの外から中を覗き込んでいるような響の姿が映り込むのを探索者達は見るだろう。 そうして福良の哄笑と共に夢の世界そのものに激しいノイズが走り、探索者達は夢の世界から放逐される事になる。 消え行く視界の中で軍司があなた達を見て、何かを言おうとしていたのが最後に見えるかもしれない。

【現実の世界:最終決戦】

 探索者達はサナトリウム流累で目を覚ます事になる。 SANの処理と同時に、ラストバトルの場に居た探索者達は、福良の唱えた呪文が耳鳴りのように頭に残り続けている。それにより「<吸引>の呪文」を覚える事になる。 それは福良がテレビの中に消えていった際に用いた魔術である。
----------------------------------------*<吸引>の呪文 魔力(MP)を帯びた物品の中に任意の対象を吸引する呪文。 魔力を帯びていないものに吸引する事は出来ない。呪文の使い手を中に封じる事も出来る。物品に込められたMP×5で成功値を判定する。 一回の使用につき1d5の正気度を喪失する。----------------------------------------
 探索者達が目を覚ましたのは診察室の奥の小部屋であり、テレビは夢の中で探索者達がそうしたように破壊されている。外は既に夜になっている。 サナトリウムの人々は患者、ナースの区別なく、皆深い眠りに落ちている。 軍司の姿は無く、響の姿も無い。
 サナトリウムをくまなく探せば、非常口の扉が開いている事に気付くだろう。ここでサナトリウム内を捜索する事で、響の軍司のカルテのより詳細を見る事が出来るかもしれない。
「今日の診察で、彼少し笑ったわ! きっと今日はいい日に違いないわね」「彼が呟いてた言葉を真似してみたら、なんだか不思議な事が起きたわ。正直まだ信じられないけれど……これもあの人の力なのかしら? 一体あの人何者なの?」「スゴイ! スゴイ! 彼の力は本物よ! ああ彼ともっと話をしてみたい!」
 といった文面から、響が軍司から聞き出した魔術を用いて様々な召喚等を試していた事が判る。 響は軍司を信仰するかのように軍司に入れこんでいる事が察せられるだろう。
 非常口を伝うと洞窟に続いており、やがて入り江に出る。周囲を岩で囲まれたその小さな入り江の頭上には三日月と夜空が輝いている。 そこには軍司を連れた響が居る。砂浜には夢で見た魔法陣が描かれているだろう。 響は【ヒプノーシス】を用いて軍司からアザトースの召喚呪文を聞き出そうとしている所である。軍司からの返事の無い一方的な問いかけは、探索者の目には虚しく奇妙なものに映るだろう。
「この子達を呼び出しても、この世のものとは思えないおかしな力を使えるようになっても、あなたは私に応えてはくれなかった」「きっと私の理解が足りなかったのね。でも大丈夫、私諦めないわ。貴方の為なら何でもする。本当よ」「白痴の魔王、貴方はそれを目指していたのね。その理由をさっき見て来たの。頑張ったのね、大丈夫。今度は私が力になるわ」「ねえ、それが現れれば、きっとあなたは私の言葉に応えてくれるんでしょう?」

■最終戦闘

 響は夜鬼を1体、ムーンビーストを1体召喚して探索者達を阻む。2匹を抜き去り、響の召喚を阻止する事が戦闘の目的である。 この時、召喚された神話生物を目撃して発狂した探索者が居た場合、必ず<狂人の洞察力>を発揮させる事。 これにより、召喚に際する魔力は軍司から供給されている事が判るだろう。
 響は神話知識が足りない故にアザトースの危険性など理解すべくもない。 響がヒプノーシスを1d3+1回数分成功する前に探索者は響と軍司を引き離す必要がある。それには二匹を抜き去り響の元へと辿り着き【武道】技能による力押し、【STR対抗】による引きはがし、などで響を引きはがす必要がある。
 夜鬼とムーンビーストは探索者達の他、互いも攻撃対象に含めて戦闘を行う。よって場合に寄っては夜鬼とムーンビーストの同士討ちが発生する事もある。探索者達にはその隙を突いて響の元へ向かわせるといいだろう。 これは、ニャルラトホテプを主とするムーンビーストと、ノーデンスを主とする夜鬼とではそもそも仕える主が異なり、また彼らの主が互いに対立関係にある事から従者である彼らの相性も良く無いという事を示す。狂人の洞察等でこれらの情報を示しても良いだろう。 彼らの世界の事を軍司を通してでしか知らず、また正しい知識を有さない響には、そのような事は判りようも無い。

■ティンダロスの猟犬を追い返せ

 彼女を軍司から引き離すと、響は爆発的な怒りを示し、召喚呪文を唱えティンダロスの猟犬の召喚を行う。しかし時空転移を許さない魔犬は、召喚と同時に召喚者である響に襲い掛かる。そして以降は探索者達にも平等に矛先を向けるようになるだろう。
「どうして! どうしてよ! 何がいけなかったのよ! 私たくさん練習したわ! あなたがやったみたいにたくさん! おんなじよ! この子達だって呼べるようになったわ! 言う事だって聞いてくれる! 不思議な事も出来るようになった! あなたの事だって調べたわ! あなたの事なら何でも知ってる! 頑張ってた事も素敵な人だった事も何でも! それなのにねえ! どうしてよ! 何でよ! どうして! どうしてなの! 何が駄目なの! 応えてよ! 話してよ! 返事してよ! ねえ、何が足りないの? 私はどうしたらいいの? お願いだから何か応えてよおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
 【アイデア】などで夢の中の福良の台詞を思い出させ、呪文の存在を思い出させる。MPを帯びた球体があれば封印出来るかもしれないことを示唆するといいだろう。 悩んでいるようなら【アイデア1/2】などで軍司の目に関するヒントを与えてもいいかもしれない。或いは軍司直衛が光の無い目でまっすぐに探索者達を見詰めているという事をそれとなく示すのも良いだろう。
 【医学】或いはそれに類する技能で適切な処置のもとで眼球の摘出が可能。或いは眼球を摘出する事無く、そのまま軍司の体内に封印するとしてもいいだろう。 込められているMP×5で判定を行う。 軍司の目を使用する場合は1d10+15で目のMP量を判定する。 また、プレイヤーの目を摘出して使用するという宣言があった場合、プレイヤーのMP×5で判定を行う。響の目を用いる場合も同様である。 判定に成功した場合、ティンダロスの猟犬は封印される。
 ティンダロスの猟犬封印時に響のHPが未だ残っていた場合、彼女は夜鬼に連れ去られる/ムーン=ビーストに惨たらしく殺害されるの何れかの結末を辿る事になる。  殆どあり得ないだろうが、探索者により神話生物が一掃された暁には、虫の息で命をつなぎ止めるかもしれない。その時は軍司ともども探索者に後の事は委ねれば良い。

■夢の波と終焉

 ティンダロスの猟犬の封印に成功すると、響の魔術の効能が解け、周囲の空間がぐにゃりと歪み始める。 探索者達は夜空に、そして海面に、電波塔と思しきものの根元が映り始めていることに気付く。それは夢で見た1999年の電波塔だと探索者達は本能的に気付くだろう。 やがて夢の光景は岩肌を、砂浜を浸食し、探索者達を追い始める。 徐々に全景が露わになっていく電波塔からは、苦悶の声と共に人々が飛び降りていく様が少しずつ映し出されて行く。映像の中の人々は、皆一様に夜空を見上げている。まるでその先に何かとてつもなく恐ろしいものが映っているとでもいうかのような顔で。 これは7月7日の集団自殺事件当日の映像であり、その視線の先には当時招来されたアザトースの姿が存在する。探索者達がその場に留まり続け、映像の末路を見届けようとするならば、探索者達はアザトースの姿を直視する事になるだろう。
 映像とともに周囲には地響きが響き、入り江は崩れ始め、洞窟では落石が発生している。探索者達にその場に留まる事は危険であるという事を伝え、その場からの脱出を誘導する。 単独で逃げようとする場合は問題無く安全地帯まで逃げる事が出来る。 軍司を連れて行こうとする場合は、STRとSIZの対抗に成功した上でDEX×3に成功する必要がある。
 その場から無事脱出すると、サナトリウムの扉を潜りぬけた途端、探索者達の意識はふつりと途切れてしまう。 そして目を覚ますと、あなた達は壊れたテレビの前で眠っている。響の後を追った直前のように。
 今まで見た光景は夢だったのだろうか? それとも、全て本当に起きた現実だったのだろうか?
 けれどそれに対する答えが出る事は、もう二度とありえないのだという事を理解しながら、探索者達は朝を迎える事になる。眠気は最早訪れない。 エンディングへ移行する。

3.ED分岐とクリア報酬

【ED分岐】

■基本エンディング

 響はその後発見される事は無く、行方不明として処理され、サナトリウム流累は閉鎖が決定する。収容患者達は各地の病院へ分散される事になるだろう。街の人々は彼女の失踪を惜しむだろう。 彼女が執着していた一人の狂人の事は、人々が知る由も無い。 他、エンディングに関する演出は探索者の自由に行わせると良い。

■エンディング分岐

【軍司を残し脱出する】 探索者達は夢の波に包まれていく男の姿を見る。 波に包まれる刹那、彼が顔を上げ、貴方達を見たような気がした。 その口が微かに動いたのが見えた。けれど何を言っていたのかを理解するよりも早く、軍司は夢の波に飲まれ消えてしまうのだった。 いつぞやに、夢で見た少年と同様に。 その後、彼の死体は響同様に発見される事はない。
【軍司を助ける】 探索者達は苦難の末に軍司を連れての脱出に成功する。 出入り口を潜る刹那、男が僅かに振り返ろうとしたような気がするが、それよりも早く皆の意識は落ちる。 目を覚ますと、小部屋の中に軍司も気を失った状態で残っている事になる。 しかし彼の白痴状態が回復する事は無く、彼はその後も狂人として施設を転々とし一生を終える事になるだろう。 彼を助けた事で、探索者もまた彼のその後の人生に何らかの介入を許されるかもしれない。 けれどそれがどんな意味を持つのかは、その探索者の中にしか答えは存在しないだろう。
【何れかの段階で軍司を自主的に殺す】 死の瞬間、彼は心から嬉しそうに笑い、探索者の攻撃を受け入れるだろう。

■響のアザトース招来阻止に失敗する(バッドエンド1)

 アザトースの招来に成功した響は喜びの声を上げ空を見上げるが、すぐにそれは絶望と恐怖に満ちた後悔の悲鳴へと変わる。 赤黒く染まった空で門が開く。そしてその中から、これまでに見た何よりも醜悪で、冒涜的な怪物が、こちらを濁った目で見下ろしている。
 どうして。何故。
 けれどあなた達の中に浮かぶ数多の疑問に何一つ結論が出る事は無く、あなたたちは無知のままに、いともたやすく世界の終焉を迎える事になるのだ。 所詮この世界は最初から、白痴の魔王の見る夢に過ぎないのだから。

■探索者が夢の波に飲み込まれる(バッドエンド2)

 夢の波に飲み込まれたあなたは、気付くと電波塔の頂上に立っている 周囲には泣き喚き、殺しあい、我先にと死を選ぼうとする人々で溢れ返っている。 その理由をあなたは察する事が出来るだろう。 頭上に、これまでに見た何よりも醜悪で、冒涜的な怪物が、こちらを濁った目で見下ろしているからだ。 信じられない、信じたくない光景に、けれどあなたの意志などお構いなしにありとあらゆる知識があなたの頭に注がれる。
 無知が罪だというのならば、知識は果たして恩恵か?
 けれど貴方に与えられた悪魔の知恵が、貴方にその回答を教えてくれる事は決して無い。 探索者は神話技能を99%入手し、正気度上限を変更した後に、以下の正気度チェックを行う。【正気度減少1d10/1d100】
 さて、ところで。 君はいま、高い塔の上に居るのだが……何をしようか?

■クリア報酬

シナリオクリア(アザトース召喚阻止)…1d20の正気度回復福良乙女の撃退に成功…1d5の正気度回復軍司直衛の生存…1d10の正気度回復

4.NPC情報

【NPC一覧】

【現実のNPC】

■響恭(ひびき・きょう)(27歳)

「私は何も知らない」「だから教えて欲しいの、この人に」「ねえ、お願い、返事をして?」
STR12 CON12 SIZ12 APP12POW11 DEX12 INT11 EDU20MP12 HP4 SAN15<技能>精神分析:81% 精神分析<ヒプノーシス>:75%医学:75% 心理学:75%薬学:75%神話技能:0%
<ヒプノーシス> 眠りに落ちている相手にこの技能を行使する事で、簡単な事柄を聞き出したり、簡単な命令を下したりする事が出来る。相手はその間の記憶を保持しない。 彼女はこの技能に虚しさを覚えている。 詳細は基本ルールブック150-151頁参照。<基本設定> 海に面した街、流累市でサナトリウムを経営する精神科医にして、催眠療法の研究を行う若き女学者。 各地の病院と連携をとっており、偶然赤霧市の市民病院からの依頼で軍司を引き取り収容する事になった 治療と研究の一環として彼女は軍司に催眠療法を行った結果、軍司の無意識下の心を垣間見る。それは彼がかつて蓄え続けていた神話知識の片鱗であった。 彼女はその知識に強い興味を抱き、どうにかして彼を癒し、彼からより詳しい話が聞けるだろうかという事を日に日に強く望むようになった。 軍司の論文や研究は「狂人の洞察力」を示すのではという見解を持つ。
 海外で博士号を取得した経験もある才女であり、平常時は学者然とした冷静で落ち着いた応対をみせる。しかし軍司直衛に纏わる事象には多いに平静を失い、ヒステリックな面を強く見せるようになる。 軍司直衛の狂信者であり継承者。或いは恋をした盲目の女。
 やがて彼女は一つの推論に至る。 彼の壊れた心を修復するには、彼の壊れた心を再び繋ぎ合わせなければならない。 その為には、彼の記憶を遡る必要がある筈だ。 自分は行けない。自分は観察しなければならない。彼の反応を。 使い捨てても良いような、他人が必要だ。

■夜鬼(ナイトゴーンド)

STR15 CON10 SIZ14 INT3POW14 DEX=(探索者の平均DEX-2)MP14HP12装甲:2ポイントの皮膚組み付き40%…STR対抗に成功しなければ離れる事が出来ない。くすぐり30%…1d3ターンの間行動不能(組み付き状態・恐怖の注入状態であれば100%)※組み付きを行っている間は夜鬼も行動する事が出来ない。消失SAN:1/1d8(多段SANチェック扱いとする)

■ムーン=ビースト

STR10 CON12 SIZ17 INT16POW16 DEX=(探索者の平均DEX-3)db…1d4MP16HP15装甲:なし(火器に対してのみ耐性あり)攻撃:槍25%…1d10+1d4+1呪文:・恐怖の注入……対象に恐怖を覚えさせSANチェックを発生させる。0/1d6。即時発生。  またそのラウンド内、或いは次の1ラウンド行動不能にさせる。・ヨグ=ソトースのこぶし……不過視の攻撃で相手を殴り飛ばす。2d6ダメージ。(夜鬼に組み付かれている人間を吹き飛ばすと夜鬼の影響下から逃れさせる事になる)消失SAN:1/1d6(多段SANチェック扱いとする)

■ティンダロスの猟犬

STR13 CON27 SIZ16 INT23POW33 DEX8 db…1d4MP33HP21装甲:2ポイントの皮膚1Rに4ポイントのHP再生物理武器無効、魔力武器・呪文有効攻撃:前脚90%…1d6+1d4+膿汁(POT6)舌90%…1d3POW吸収※ティンダロスの猟犬は真っ先に響を攻撃対象に選ぶ。彼女を殺害した以後、探索者達に襲い掛かる。撤退方法:魔力を帯びた球体を飛び込んでくる相手に向ける。勢い余ったティンダロスはその中に吸い込まれる事になるだろう。消失SAN:1d3/1d20

【夢の中のNPC】

■軍司直衛(ぐんじなおえ)(16歳)

「そんな所で何してるの」
STR13 CON12 SIZ11 APP16POW18 DEX12 INT17 EDU16MP18 HP13 SAN90<技能>アイデア85 幸運90 知識80回避40%隠れる50% 忍び歩き50%聞き耳50% 目星50% 図書館50%機械修理50% 電子工学51% コンピューター51%心理学55% 医学50% 精神分析56%信用50% 英語51%
<基本設定> 赤霧市在住の高校生。宇宙星辰会の陰謀を暴こうとしている16歳の少年。 父母との3人家族。突然豹変した両親が理解できず、何か犯罪に関わっているのではと怪しんでいる。 表情は硬く大人びているが好奇心旺盛。塾通いの為と親から与えられた携帯電話を所持している。 進学校の優等生。何でもそつなくこなすが熱は薄い現代っ子。家は中の上階級。 同時、日常に退屈しており、事件の気配を若干楽しんでいる気がある。

■福良乙女(ふくらおとめ)(31歳)

 ニャルラトホテプの化身。 黒い扇を所持したスレンダーな美女の姿をとる。

■宇宙星辰会狂信者

DEX:10 STR:9 攻撃:噛み付き40%…1d6こぶし50%…1d3耐久:10装甲:なし、気絶判定有り