ボーダー・ポーカー


──ポーカー(poker)は、トランプを使って行うゲームのジャンルである。心理戦を特徴とするゲームである。プレイヤー達は5枚の札でハンド(役、手役)を作って役の強さを競う──

1.エントリーとシナリオ概要

【シナリオ概要】


 君たちは盤外視座の陰陽師だ。 ある日、君たちの組織の長である鍾馗が指名手配を受ける。 姿を消す直前の鍾馗が最後に下した指示は「野に伏し、葬送法師を探れ」。 しかし潜伏する君達に、不気味な襲撃者が忍び寄る。

【事前情報】


 クエリー:3 チャレンジ:2 リトライ:2
 想定時間:3〜4時間

【GMに要するルールブック】


・基本ルールブック(BJR)(・デッドラインヒーローズ同人サプリメント「ファインド・ウィークネス」(D2))

【エントリー】

【共通エントリー】

 君たちは盤外視座の陰陽師だ。 ある日、君たちの組織の長である鍾馗が指名手配を受ける。 姿を消す直前の鍾馗が最後に下した指示は「野に伏し、葬送法師を探れ」。 しかし潜伏する君達に、不気味な襲撃者が忍び寄る。

【PC1:カツコの呟き】

 鍾馗の指示を受けた時、君はカツコ様とともにいた。 状況を知ったカツコ様は不気味な呟きを残す。「奴らめ、日の本をひっくり返すつもりか」

【PC2:夜襲】

 鍾馗の指示を受け、身分を隠して潜伏する君。 しかしある夜のこと、顔を隠した襲撃者が君の棲家を襲う。「PC2、お命頂戴!」 君の正体を知り、命を狙う襲撃者は、少女の声をしていた。

【PC3:逃避行】

 襲撃者たちは一人、また一人と盤外視座の陰陽師を襲っている。 追手を逃れる君を呼ぶ声があった。「PC3さん! 私です、真名鶴です! こちらへ!」

2.導入フェイズ

【シナリオトレーラー】

 カードは配られる。 選ばれる五枚。求められる役割。 されど盤上の遊戯の本質は盤外にこそ宿る。 秘められる顔(かんばせ)。面と表の境。見極める境界の先は…。
ブラックジャケットRPGキャンペーン『レイド・ゲーム・ジョーカー』第二話『ボーダー・ポーカー』
 ──正義が意味をなくした世界で、悪党たちの饗宴が始まる。

【エントリー1:カツコの呟き】

登場:PC1(PC2とPC3がいてもいい)舞台:荒夜髭神社

【状況1】

 ネバーモア交渉役・葬送法師の死と、それに伴う鍾馗の全国指名手配。 その情報を得た君は、何が起きたのかを確かめる為、一足早く盤外視座の拠点である荒夜髭神社へ足を踏み入れた。 しかしそこには鍾馗の姿は無く、カツコ様が能舞台から降りてくるところだった。「なんだ、来たのかい。鍾馗のやつならもうここには居ないよ」

【状況2】

「奴からの言伝だ。『野に伏せ、葬送法師を探れ』だとさ。ワシもしばらく身を隠す」「お前さんも、ここをすぐに離れた方がいい、やれやれ全く、骨が折れるね……」 文句を言いながら神社を去っていくカツコ様。 通りすがり様、君は彼女が口にした不気味な呟きを耳にする。「……奴らめ、日の本をひっくり返すつもりか」 それきり、カツコ様との連絡は途絶えることになる。

【エンドチェック】

□鍾馗の言伝を聞いた□カツコ様の呟きを聞いた

【解説】

 長らくを生きているカツコ様や鍾馗は、葬送法師の目的や正体に関して薄々と目星がついている。しかしそれをPCたちへ説明はしない(鍾馗はそれどころではないので/カツコ様は当人の性格的な問題で)。 カツコ様は以後、姿を隠してしまう。

【エントリー2:夜襲】

登場:PC2舞台:PC2の自宅

【状況1】

 鍾馗の指示を受け、身分を隠して潜伏すること数日。 テレビやネットではひっきりなしに葬送法師暗殺事件に関する話題が挙げられ、指名手配を受けた鍾馗の名も表社会でたびたび耳にするようになって久しい。 風の頼りに、火霞一族の屋敷にブラックジャケットが押し入ったという噂もある。 盤外視座は、表向きには存在しない組織だ。所属する者たちの多くが、表向きの顔と、盤外の者としての顔を使い分けながら生活を送っている。口を閉ざし、無縁を貫けば、君達の繋がりを示すものは何もない。 そうした状況の中、君はどのような生活を送っているだろうか?

【状況2】

 ある夜のことだ。 いつも通り『表向き』の日常生活を終えた君は、眠りに落ちんとする。 少し前であれば、こんな夜は妖魔との戦いに身を置いたものだが、今はそれも叶わない。 眠りに落ちんとした君の意識は──直前に感じた殺気と、眼前に迫った刃によって叩き起こされる!

【状況3】

 君がどうにか刃をかわせば、先ほどまで君が寝ていた布団の上に、深々とクナイが突き刺さっていた。 部屋をとりまく気配が増える。一つ、三つ、四つ……多くの数だ。それらが皆、君に殺気をむけている。「ハイはずれたーハイへたくそー」「うっさいなあ、まぢもーちょいだったし。実質当たりだし」 クナイを放ったと思しき人影が、軽い調子で仲間と言葉をかわす。覆面で顔を隠されていても分かる、若い少女の声だった。「さっさと終わらせちゃお」「よーし、PC2! お命頂戴!」 正体がバレている──それを悟り、君は即座にその場からの離脱を選択する!

【エンドチェック】

□襲撃者は少女□襲撃者から逃れた

【解説】

 盤外視座は闇の秘密結社。多くの構成員たちは表向きにはその正体を隠し、プライベートと陰陽師活動を切り分けている者が多い(もちろん、羅州のような例外はある)。 にも関わらず、プライベートのPCが、盤外視座の陰陽師として急襲を受ける。そうしたシーンだ。 相手が妖怪ではなく人間だと、この時点で気付けても良いだろう。 このシナリオで登場する敵は『虚構操連』。BJRにおいては、135ページ「その他の組織」に記載がある。GMがデッドラインヒーローズの同人サプリメント「ファインド・ウィークネス」を所有している場合は、より深く設定を把握できるだろう。

【エントリー3:逃避行】

舞台:高架下登場:PC3、襲撃者

【状況1】

 人気のない夜の高架下へと君は逃げてきた。君のもとにも、襲撃者は現れたのだ。 君を追う気配は──まだある。追手たちは見失った君の姿を探し、周囲の捜索を行っているようだ。 正体不明の襲撃者たちは、しかし君をPC3と呼んだ。それは盤外視座の陰陽師としての君の名前だ。 さて、ここからどう逃れたものか。君は思案を巡らせる。

【状況2】

 逃走経路を考える君のもとに、一枚の紙で作られた式神が忍び寄った。 それは盤外視座の陰陽師の一人、真名鶴からのものだった。「よかった、PC3さん。ご無事でしたか」「潜伏していた盤外視座の皆さんを、襲撃者が襲っているようです。いま、黒不浄さんを拾えました。合流できますか?」 緊張した彼女の声には、気遣うと同時に、助けを求めるような響きもあった。 君は真名鶴と合流することにした。

【状況3】

 君は真名鶴との合流ポイントに到着する。 人気のない荒れ寺には結界が張られ、同類の力を持たぬ者は無意識に立ち入ることを避けるようになっていた。 その奥で、真名鶴が待っていた。膝の上には風呂敷に包まれた何かを抱えている。「よかった、PC3さん!」「PC2さん、PC1さんとも連絡が取れました。これから皆さんと合流して、ひとまず安全な場所に身を潜めましょう」 そう言う真名鶴には、逃げ場のアテがあるようだった。「己護路島──麻神学園がある島へ。そこで潜伏し、今後の算段を練ります」 そのためにも、まずはPC1、PC2と合流を。 真名鶴はそう言って、腕の中の風呂敷を不安げに抱きしめた。

【状況4】

 かくしてPCたちは合流を果たし、船に乗り込む。 目指すは麻神学園を擁する、日本最大の超人種自治区、己護路島だ。

【エンドチェック】

□PCたちが合流した□己護路島へ向かった

【解説】

 PCたちが真名鶴に連れられて己護路島へと逃げるシーン。 状況3の後で、他のPCがどのように襲撃に対して対応しているのか・どう合流するのか・どう逃げるのかといったシーンを演出すると良いだろう。大抵のPLは自分のPCが安全にピンチに陥るシーンは好きだ。

3.展開フェイズ

【クエリー1:ボーダー・ポーカー】

舞台:麻神学園旧校舎登場:PC全員、真名鶴、黒不浄

【状況1】

 PCたちは合流し、真名鶴の助けのもと、己護路島へと渡った。 そうして現在は使われていないという、麻神学園の旧校舎の一角に身を潜める。 窓からは、本来、ネバーモアと日本政府が会合を行う予定だった本校舎の一角が目に入った。「本当は、火霞家を頼れれば一番よかったのですが……あそこは既に警察の手が回ってるようなので」 真名鶴は羅州から各員襲撃の連絡を受け、まだ死んでいない各地の陰陽師たちの救出と回収に向かったのだという。己護路島へ逃げるよう指示したのも羅州であったということだった。それきり、羅州とは連絡が取れなくなってしまったという。「というのも、学園の寮で生活していた私のところには、その襲撃者というのが来ていないんです。……おそらく、己護路島には手出しできない……あるいは、しにくい理由があるんだと思います」 真名鶴は不安げにそう口にし、周囲を見回す。彼女自身にも確信はないのだろう。 そう言いながら、真名鶴は抱えていた風呂敷包みを机の上で開く。 そこからごろりと転がり出てきたのは……黒不浄の首だ!「うわーっ、真名鶴! いきなり手を離さないでくれ! 落ちる、落ちるー!」「わ、わ、わ! す、すみません〜!!」

【状況2】

 君たちは状況をまとめた。 黒不浄は襲撃者に襲われ、首と胴を泣き別れにされたのだという。じっと動かずにいたことで、死んだと勘違いされ一命を取り留めたようだ。しかし胴体は襲撃者たちに回収されてしまい、今どこにあるのかは分からない。「襲撃者は、俺のことを、守屋ではなく黒不浄と呼んだ。つまりこっちの姿がバレてるってことだ。お前たちにも思い当たる節があるんじゃないか?」 生首だけの黒不浄がPCたちへ尋ねる。「どうも、面の外と内の境界が剥がされたらしいな」

【状況3】

「私はこれから、鍾馗様の命に従い、身を隠しながら葬送法師なるものについて探ります。皆様も……」「真名鶴、それは虫が良すぎる」 真名鶴の言葉を黒不浄が遮る。真名鶴は困惑したように言葉を止め、黒不浄は真面目な声でPCたちへ告げた。「俺たちの繋がりと信頼は、金だ。だが、今回、その報酬は出ないだろうし、それを賭けるだけの価値があるのかも分からん。 自分の命を守るだけなら、もっと分のいい賭けがある。例えば、カツコ様みたいに姿を晦ますとか……鍾馗様の情報を売るとかな」「黒不浄さん!」「事実だろうが。俺たちは仲間ではあれど友じゃない、そうだろ?」 押し黙る真名鶴。 黒不浄はPCたちへ視線を戻し、尋ねる。「今の俺は文字通り、手も足も出ない。だから『こっち側』に乗るしかない。 羅州と真名鶴は元々、鍾馗様に手を貸す理由がある。 カツコ様はさっさと消えた。 お前たちはどうする、PC1、PC2、PC3?」

【エンドチェック】

□黒不浄の質問に答え、覚悟を固めた□成長点ボーナス1点を得た

【解説】

 己護路島が襲撃を受けなかったのは、日本最大の超人種自治区という立場と、第一話のBJ捜査官たちの警護計画の影響である。もっともそれも時間の問題ではあるだろう。 黒不浄からのクエリーは、盤外視座としてのPCの考えを問うものだ。反面、シナリオ的には行かないという選択肢は用意していないので、PCがそういった回答をしたい場合は、相談しながら頑張ってほしい。

【チャレンジ1:そうだ 京都、行こう】

舞台:麻神学園旧校舎~京都登場:PC全員

【状況1】

 黒不浄の問いに答え、覚悟を固めた君たちはこれからの方針を相談した。「鍾馗様がああ命じた以上、調べるべきは葬送法師が『誰』なのかじゃない。葬送法師は『何』なのかだ」「ずっと疑問だったんだよ。なんでまた、『葬送法師』なんだ? ってな」「ネバーモアの交渉役の名前、それはその通り。 だがそれ以外でも、この名は、元々は日本の歴史の中で登場する役職名だ。 簡単に言えば、その名の通り、死体の葬送に関与する僧の名称だが……。 そこには、もっと深い意味と歴史がある」「古来より、死や病、それに連なるものが、 この国では『ケガレ』『不浄』として忌避されてきたことは知ってるな? 反面、それは身近なものでもあった。その辺で死体が転がってることは、珍しい話じゃなかった。少なくとも、この国の歴史にとっては、そういう時期の方が長い」 黒不浄は見てきたように語る。いや、平安の世から現代までの長きを生きる反魂人形は、事実それらの歴史を目にしてきたのだろう。「そうしたその辺に転がってる死体は、誰が片付けるのか? ましてや、神域や、お偉いさんの所有する土地の掃除は誰がする? それを片付ける役目を担っていたのが、葬送法師と呼ばれる存在だ。 簡単に言えば、境内の不浄を清める為の役割だな。 同様の役目に「清目(きよめ)」というものもある。清目はやがて「穢多(えた)」と呼ばれる被差別階級へと繋がっていくが、こっちの話をしだすと長くなるから今は止めておこう」「葬送法師は、僧と名はついてはいるが、現代の僧と同じものと考えるべきじゃない。 要は、誰もやりたくない役目を、僧の名を与えて押し付けられた『誰か』たちさ。 歴史に名を残されなかった誰か、人でありながら人ならざる者と定められた誰か、神人とされながら蔑まれた賎民の類。 葬送法師──代表的なものは祇園社の『犬神人(いぬじにん)』か」

【状況2】

「最も古い葬送法師に関する記述は、平安時代に残された日記、『小右記(おうき)』に登場する。曰く、『卜占によって宣旨を下し、祇園四至葬送法師を捕獲して神祇官(じんぎかん)が祓(はらえ)を科した』というようなものだ。 現代語に訳すなら、祇園社の中に死体を置いてた法師がいたからとっ捕まえて罰を与えた、みたいな刑事記録だな。 それを除いても、葬送法師並びに犬神人の存在は、当時の都にこそ存在し得たものといえる。穢れを祓う役目は、それを厭うものがいて初めて成り立つ訳だから、当然だ」
「俺はその繋がりを調べてる間に首を刎ねられたから、それ以上はまだ調べてない。 だが、調べてみる価値はあるんじゃないかとは思うね。 まっとうな表舞台のことなら、表の世界のやつらが調べるだろう。それこそ、ブラックジャケットとかがな。 鍾馗様は何も告げずに消えることだって出来たはずだ。にも関わらず、わざわざ『探れ』と、他ならぬ俺たちに言い残した。そこには意味があるはずだ」「そう言うわけで、一番大事なことはフィールドワーク。京都、行くかい?」 日本各地を渡り歩く、民俗学者の顔を持つ人形は、かくして推論を終える。 目指すは日本の古都、京都だ。
---------------■【チャレンジ判定】※同一のPCが複数の判定を行うことはできない。【判定1】 移動するための経路や方法を確保しよう!……〈操縦〉 or 〈心理〉 or 〈交渉〉【判定2】 移動中に襲撃だ! 追っ手を撒け!……〈白兵〉 or 〈射撃〉 or 〈霊能〉 or 〈作戦〉【判定3】 京都に到着だ! 潜伏できる土地を探せ!……〈生存〉 or 〈知覚〉 or 〈経済〉【失敗時】 襲撃者の襲撃を受け、なかなか移動がうまくいかない。 全てのエナジーを2d6点減らす。---------------

【状況3】

 京都へと足を踏み入れてみれば、その瞬間、君たちは異常を悟った。 言葉には出来ない、しかしはっきりと認識できる異常が、この都に渦巻いているのを感じる。「……こりゃ、当たりだな」 風呂敷の中、黒不浄の首が呻く。 街頭テレビでは、いつも通りのワイドショーが、葬送法師殺人事件を取り上げていた。この街に、君たちの身に起きている異常など、何一つとして素知らぬ顔で。 調査に備え、君たちは潜伏地を得る。 しばらくはここが、君たちの調査の拠点になるだろう。

【エンドチェック】

□京都へ向かった□京都で何かが起きていると悟った

【解説】

 生首状態・守屋先生の長々解説コーナー。台詞が長いがゆるしてほしい。PCのリアクションを促しながら、会話のように情報を出していくと良いだろう。 正体を隠し、市井に紛れて生きてきた黒不浄は、鍾馗やカツコ様と違って葬送法師の正体には気付いていない。戦後の暗躍に関しても同上である。 京都の拠点をどんな場所にするかはPLが自由に決めていい。特殊な異空間を作り出すのかもしれないし、心霊スポットの廃墟を除霊して陣取るのかもしれないし、ビジネスホテルの一室かもしれない。そのPCたちらしい秘密基地を作ろう。『参考資料』犬神人清目小右記(52ページ)

【クエリー2:誰が法師を殺したの】

舞台:京都の潜伏地登場:任意のPC(全員でもよい)、真名鶴

【状況1】

 京都の夜は更けていく。 本格的な調査に乗り出す前夜。君はマナーモードのスマートフォンの振動音を聞き、目を覚ます。 視線を向ければ、真名鶴がスマートフォンを手に、部屋を出ていく所だった。 君は彼女の後を追うだろうか?

【状況2】

 真名鶴は窓辺でスマートフォンを確認していた。 暗い室内に通信機の明かりが灯り、彼女の顔を幽鬼のように照らし出す。 真名鶴はしばしスマートフォンを確認した後、それを静かに消した。その時、彼女は君たちに気付いたようだった。「すみません、起こしてしまいましたか」「ニュースを見た島外の友人が心配してくれたみたいで。変わりないから安心して、って返してました。……本当は私、とっくに島になんていないのに」

【状況3】

「葬送法師は、鍾馗様が殺したんだと思いますか?」「私にも分かりません。首座なら、どちらでもおかしくはない」「だけど……もし本当にあの方がそれを行われたのなら、ちゃんと、理由があったはず」「……この前、見たんです。私たちが解散した後で、あの方は、自らが殺した方を弔っていらっしゃいました」「あのお方は、殺す為に殺しているのではないのです。ただ、自らのお役目に、非道なまでに忠実なだけ。私はそう思いたい」「……だから……本当に鍾馗様が犯人だとしても……私は地獄までお供する覚悟です」 月の光を受け、無表情でそう口にする真名鶴の顔(かんばせ)は、美しくもあり、空恐ろしくもあった。
 彼女は寂しげな苦笑いを浮かべ、不器用に相合を崩す。 その背後で、夜の京の町の光が瞬いていた。「おかしいですね。まだそうと決まった訳じゃないのに、あの人が殺したものだと思って話をしてる」「PCさんはどうして、盤外視座に?」

【エンドチェック】

□真名鶴の問いに答えた□成長点ボーナス1点を得た

【解説】

 このシナリオにおける真名鶴の気持ちと、PCの鍾馗に対する認識を問うシーン。ここで真名鶴がやりとりをしている相手は不知夜だが、彼女達はお互いの正体はお互いに知らず、ただの女子高生・鶴ヶ崎真奈と、女子高生・家歌本(やかもと)セイラとして連絡を取り合っている。

【チャレンジ2:異様の正体】

舞台:京都の街登場:PC全員

【状況1】

 京の都で、何かが起きている。 君たちに迫る、襲撃者たちの正体と、その目的は? 能面を携え、真相を追え!
---------------■【チャレンジ判定】※この判定は同一人物が複数の判定を行うことはできない。【判定1】 街に満ちている異常な気配の理由を探る……〈霊能〉【判定2】 襲撃者の正体を調べる……〈追憶-10%〉 or 〈作戦〉
【失敗時】メリットを得られない。【成功時】決戦時、エネミーの全てのエナジーを公開状態にして決戦を行う。---------------
【結果:判定1】 街に満ちている異常な気配は、街の地下から溢れる霊力のようなものが原因だ。それはあまりにも濃い力すぎて、霊力なのか、魔力なのか、妖力なのか、何を源とするものなのかが定かではなくなっていた。 短期間で作り出されたものではない。長い長い時間をかけて、入念に用意された『何か』。 地下から溢れ出したその片鱗は、街全土に満ちながら、京都をぐるりと囲うようにして張り巡らされた結界によって、外へと散る事なく充満している。 何かが地下にある。君はそれを確信する。
【結果:判定2】 襲撃者の正体、それは聖バルバラ女学院の女子高生たちだった。 又の名を虚構操連。日本政府お抱えのスパイの卵たち、忍びたちだ。 彼女たち自身は、自分たちが何を成しているのかなど然程知らないだろう。 授業の一環として、偉い人に命令されたから、その程度の認識で君たちの排除にあたっているのだ。 つまるところ、それを指示した者──日本政府こそが、君たち盤外視座を狙った主敵だ。
---------------■【チャレンジ判定】※この判定は同一人物が複数の判定を行うことはできない。【判定3】地下へ向かう……〈運動〉 or 〈知覚〉 or 〈隠密〉
【失敗時】PC全員に「BS:朦朧」が付与された状態で決戦フェイズを開始する。この朦朧は1ラウンド目終了時に回復する。---------------
【結果:判定3】 霊力を辿り、地下へと向かった君たち。 下水を超え、地下鉄を超え、更に奥へ、奥へ……。 秘された長い長い階段は、その先が闇に包まれた異様な一本道。さながらそれは、日本神話に語られる黄泉比良坂か。 秘匿された光のない道を君たちは進む。地下へと進めば進むほど、溢れる霊力は濃く、おぞましいものへと変わっていた。近づくにつれ、君たちはその力の源を悟るだろう。 これは呪詛だ。死だ。血だ。疫だ。病だ。悪だ。それら全てだ。 これは『穢れ』だ。 長いこの国の歴史の中で、確かに存在したはずなのに、見てみぬふりをされ続けられた『誰か』たちの、呪いだ。 吐き気を催すほどの陰鬱な穢れの中、君たちは最深部へと到達する。 そこに広がっていたのは──地下鉄の路線だった。

【エンドチェック】

□チャレンジ判定を終えた

【解説】

 PCたちを狙う敵、虚構操連と、その背後にいるだろう日本政府の思惑が明らかとなるシーン。そして京都の地下で起きている陰謀が明かされるシーンだ。

【クエリー3:人の世を救う】

舞台:京都秘密地下鉄道登場:PC全員

【状況1】

 京都の地下に広がっていたのは、場と状況にそぐわない広大な地下鉄道だった。 しかし、よくよく観察してみれば、それはただの地下鉄ではなかった。随所に注連縄や紙垂(しで)、御幣(ごへい)などの神道由来の痕跡が見て取れる。近代的な科学の中に、旧い宗教の跡が混ざり合った場所だった。 路線上に車体の姿はなかった。しかし、その道は、前後に長く、長く続いていた。どこまで続いているのか、ここからでは分かるはずもなかった。 声がかけられた。「その道は、この国の七つの主要地へと続いております」「結ぶは平泉、江戸、富士、京都、四国、出雲、高千穂。此れなるは戦後より長きに渡り、今日まで掘られ続けてきた、日本全土を繋ぐ列島地下秘密路線」 そこには、斎竹(いみだけ)と注連縄で区切られ、榊の枝と鏡で作られた神籬(ひもろぎ)があった。 その前に腰を下ろすのは、面布(めんぷ)で顔を隠し、浄衣(じょうえ)に身を包んだ一人の男。「その目的こそは、日の本の祓(はらえ)の大動脈」 男は振り返り、君たちを見やった。「お初お目にかかります。当代、葬送法師と申します」

【状況2】

「これより、この地にて『科祓(とがばらい)の儀』を行います」「皆々様もご存知の筈。昨今、人心は乱れ、悪が蔓延り、世は乱れてございます」「それを治めるべく行いますのが、この『科祓(とがばらい)の儀』。この日の本に満ちた穢れを祓うための大修祓(しゅばつ)。今再び太平の世へ導く為の一助と為す」「これ皆須く、人の世が為、国が為。……お分かりいただけますな」 葬送法師と名乗った男は、この地に満ちる穢れと、この空間を指し、全ては日本を救う儀式の為と口にする。だが、この地に満ちているおぞましい力で、それが叶うとは……君たちにはどうにも、思えない。

【状況3】

 君たちの答えを聞き届け、葬送法師は見下したように鼻を鳴らした。「あなた方の首座殿と、同じことを仰る。やはりお弟子という事か」「彼の御仁の力量を見込み、我らは協力を求めました。……しかし彼の御仁はこの儀を無意味と断じられ、のみならず、各地の祓の場を壊して回られている。既に平泉、江戸、富士の三つは落とされたと聞きます。何がしたいのやら──最早、鬼ですな」 どうやら鍾馗は事前にこの儀式への協力を求められたが、それを拒んでいたようだ。 それのみならず、儀式の邪魔をして回っているという。 一体何故、そう思われた時、眼前の葬送法師は奇妙なことを口にする。「のみならず、政の重役相手にあのような事件を起こし、人心を惑わされるとは。何を為されたいのやら」 ──彼は、鍾馗の件の真相を知らない。ただ、君たちと同じ、盤上の報を知るだけなのだ。 では、鍾馗の動きの理由は──果たして。
 葬送法師が鼻で笑う。 面布の下からでも最早誤魔化せぬ、侮蔑と嘲笑の色に満ちていた。「長らくのお勤め、ご苦労様でございました。しかし今や立場は変わった」「救世に手段を選ばぬと宣うならば、自ら素っ首跳ね飛ばして見せたらどうだ、化け物どもが」

【状況4】

「元より、彼の鬼の類縁を野放しにする訳にはいかぬと、皆様への沙汰は既に下されてございます」 葬送法師はそう告げ、振り返る。 面布(めんぷ)越しにも分かる、敵意と蔑視。 彼は低く笑い、高慢に言い放つ。「ここでお散りなされ。これも世の為、人の為」

【エンドチェック】

□葬送法師の言葉に答えた□成長点ボーナス1点を得た

【解説】

 このシナリオに於ける葬送法師が姿を現すシーン。 彼は正道の陰陽師であり、代々葬送法師という役職を受け継いできた一族の一人である(火霞一族における声聞師のようなものだと考えて欲しい)。本来であれば真っ当で実力のある陰陽師だが、本物の葬送法師による強力な催眠と暗示により、認識を覆されている。PCたちがどれだけ真っ当に訴えても、それを理解できることはないだろう。盤外の陰陽師を見下す言動は本人の生来の価値観かもしれないし、洗脳の影響かもしれない。 『科祓(とがばらい)の儀』はいわゆる加持祈祷の類だが、魔術が実在するプライムバースに於いては実際に効果を発揮する。いわゆる、国家規模のマインドコントロールだと考えてほしい(あるいは実際に、過去には誰にも知られぬまま秘密裏に行使されてきたものかもしれない)。 元々は国益となるはずのその儀式は、本物の葬送法師により穢され、役割を逆転させられている。■神籬(ひもろぎ)……神道の祭壇みたいなもの。神社や神棚以外の場所で祭祀を行う場合に作られる。地鎮祭とかで使うやつ。

4.決戦フェイズ

【決戦:虚構と盤外】

舞台:京都秘密地下鉄道登場:全員

【状況1】

 葬送法師の言葉と同時、背後に複数の気配が現れる。「もー、こんなところにいた! よーやく見つけたぞー!」 振り返れば、そこにはあの襲撃者たち──聖バルバラ女学院の生徒たちの姿があった。
「日本せーふ直々の任務、これをクリアしたらボクが虚構総連で最初の上忍間違いなし! アンタ、ボクの敵だね? ってことは悪だな! よぉーし、ごーもんのうえ、殺しちゃおー!」 深い考えを持たぬ少女の言葉に合わせ、背後の忍び達が武器を構える。その軽口とは裏腹に、その実力が確かであることは、君たちもよくよく知っている。

【状況2】

「セイラ……ちゃん…?」 現れた襲撃者に、真名鶴が驚いた声をあげる。その声に、虚構総連の代表と思しき少女が目を瞬かせた。「……あれ? あれれ? 真奈ちゃん? なんでここに?! なんでそっちにいるの!? だめだよ、悪いやつの方についたりしたら!」 セイラと呼ばれた少女は真名鶴の本名を呼び、驚愕の声をあげた。 しかし彼女は、真名鶴の返事を聞く前に、一人合点したように無垢で身勝手な答えを導いた。「……あ! 分かったぞ、真名ちゃん、鍾馗とかゆーやつに騙されてるんだな!」「なんてかわいそうな真名ちゃん! でもそういうことなら、真名ちゃんはボクが助けてあげるからね! だってボクはヒーローだからっ!」 その言葉に、真名鶴の動きが凍る。 彼女は果たしてその時どんな表情を浮かべていたのか。それは泥眼の面に阻まれ表出することはなく。 ──真名鶴は、PCたちへ、落ち着いた声で告げた。「…………問題ありません」「鍾馗様がこの儀を阻まんとするのであれば……私もそれに従うまでのこと」
「盤外視座・真名鶴。皆様を全力で援護致します」「虚構総連が中忍、不知夜(いざよい)! いざまいーる!」

【状況3】

 鍾馗は何を知っているのか? この儀を妨害することは、人の世を救うことになるのだろうか? ここにはその答えはない。けれど時は待ってはくれない。 相対するは日本政府お抱えの闇の隠密部隊。すなわち──紛れもない、人だ。 葬送法師が神籬の前にて祝詞を唱え始める。 周囲の穢れが、どろりと濃度を増した気がした。
 虚構と盤外、かくしてここに五枚の手札がそれぞれ揃う。 そこから作り出される役の強さは果たして如何程? いざ、尋常に勝負!

【解説】

 不知夜の本名は家歌本(やかもと)セイラ。真名鶴こと鶴ヶ崎真奈の学校違いの友人である。彼女達はこの時点まで、お互いの裏の顔を知らなかった。大人達の策略の中で少女達の友情は決裂を迎える。 不知夜は無邪気にヒーローに憧れ、自分もまたヒーローになりたいと願う少女だ。しかし確たる信念や正義を持たないまま、力と活躍に憧れるだけの成りたがり(ワナビー)でしかない。まして、ヒーローが腐敗しきったバスターバースに於いては、その憧れの対象ですら……。 ファースト・カラミティが発生していないバスターバースに於いては、虚構操連には影の実力者である淡影は存在しない。この任務(授業)を無事に達成すれば、不知夜が唯一の上忍として合格することになっている。

【戦闘情報】

【エネミー】

・不知夜(D2/11ページ)・武天兇手(D2/14ページ)・開明獣(D2/14ページ)・カブキレディ(D2/14ページ)・葬送法師(※オリジナルデータ。後述)

【エリア配置】

■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 エリア4:葬送法師 エリア3:不知夜、武天兇手、開明獣、カブキレディ

【勝敗条件】

勝利条件:エネミーの全滅敗北条件:PCの全滅

【備考】

・葬送法師のデータはR1のものではなく、このシナリオのオリジナルデータを使用する・イベント開始時、真名鶴のパワー「強化符」の効果をPC全員に対して適応する(判定不要)──「援護します!」・ラウンド終了時、黒不浄のパワー「こぼれ落ちた記憶」を任意の目標に対して使用できる(射程は気にしなくて良い)──「首を投げるなーっ!」

■BJRのデータのみで遊ぶ場合

 GMがD2「ファインド・ウィークネス」を所持していない場合は、以下のキャラクターのデータを対応させ、パワー名を任意に変更する。・不知夜=ティラノ(ライフ75/サニティ60/クレジット50へ変更)・武天兇手=リトルリンダ・開明獣=ベイブ・ザ・エンジェル・カブキレディ=ルナティック

【不知夜敗北台詞】

「な、なんで? おかしい、おかしいおかしいおかしいッ! こんなの絶対おかしいッ! ぼ、ボクはヒーローなんだぞッ! 学校で一番の成績で、一番上忍に近い存在なんだッ! 政府からの直々のミッションを受けてッ! 悪い奴を倒してッ! 世界の平和を人知れず守る、スーパーヒーローなんだッ! あのヘルムズマンだって、すごいねってボクを褒めてくれたんだぞ!? それなのに! それなのにどうして!? どうしてぼく(ヒーロー)がおまえら(ヴィラン)に負けそうなんだよォオオオッッッ!!!???」

■葬送法師(オリジナル)

【エナジー】ライフ:16 サニティ:12 クレジット:20

【能力値・技能値】

【肉体】20【精神】35 霊能45% 知覚45%【環境】20 作戦30% 隠密30%

【移動適正】地上


【パワー】

■憑依人格属性:強化 攻撃:なし タイミング:特殊射程:なし 目標:自身 代償:なし効果:行動順ロール直後に使用できる。   【肉体】【精神】【環境】のうち一つを選ぶ。   このラウンドの間、君が選んだ能力値に+10%の修正を与える。   このパワーはバトル・イベントの間のみ使用できる。──複数の霊を交互に宿らせることで、戦闘スタイルを変えていく術。
■詠唱属性:強化 攻撃:なし タイミング:行動射程:なし 目標:自身 代償:ターン2効果:君が次に行う〈霊能〉判定の成功率に+20%の修正を加える。──呪文の詠唱によって、魔法の効果を安定させる。
■アイシクル属性:攻撃 判定:霊能85% タイミング:行動射程:2 目標:1体 代償:ターン10効果:目標は〈運動〉+10%の判定を行う。   この判定に失敗したキャラクターは2d6+2点のダメージを受ける。──氷柱を射出する魔法。威力は高いが、避けられやすいのが難点。
■ツインビーム属性:攻撃 攻撃:霊能65% タイミング:行動射程:3 目標:2体 代償:ターン10効果:目標は〈運動〉+10%の判定を行う。   この判定に失敗したキャラクターは2d6点のダメージを受ける。──二発のビームを同時に繰り出す。
■臨死状態属性:強化 攻撃:なし タイミング:特殊射程:なし 目標:自身 代償:なし効果:君のいずれかのエナジーが0未満になった時、   君の与えるダメージを+2d6し、全ての判定の成功率を+30%する。   君はデスチャートを振り、その効果を適応する。──「ならぬ、ならぬ! この日の本を清めるのが我が一族の使命よ!」
※葬送法師の戦闘不能条件はPCのロスト条件と同じとする(死亡、絶望、無縁)

5.余韻フェイズ

【余韻】

【戦闘終了時イベント:「生殺与奪」(任意発生)】

「セイラちゃん……いいえ、不知夜。さようなら」 真名鶴が召喚した巨大な式神が、戦う力を失った少女へ刃を振り下ろす。 真名鶴がトドメを刺してもいいし、PCがトドメを刺してもいいし、真名鶴のトドメをPCが妨害しても良い。 さて、どうしよう?

【状況1】

 倒れた葬送法師の顔を見れば、彼はただの人間だった。 口ぶりからして、恐らくは正道の実力ある術師であったのだろう。しかしその口ぶりには、この空間の異様に気付いていないような素振りがあった。彼は何故、この場の異様に気付けなかったのだろうか。 残された祭具や祭壇を確認して回る君たち。真名鶴に抱えられた黒不浄が、「ん!?」と素っ頓狂な声を上げた。「いや……いやいやいや、まさかな、冗談だろ?」「俺の目がおかしくなったのかもしれん……ちょっとお前たちの目でも見て確かめてくれないか……?」 祭壇に施された術式を確認してみれば。 それはおそらく、人為的に龍脈を作り上げんとする試みであったのだろう。龍穴たり得る各地へと筋道を引き、善良なる気を巡らせるための……。 しかし今、君たちの前にあるそれは、その真逆と言ってよいものだった。既存の術式が書き換えられ、その上から新たな意図を加えられたように。
 これは浄化の儀式ではない。蓄えられた穢れと不浄を、儀式を引き金として各地へと一斉に解き放つ呪法だ。これが解き放たれれば、富士の山は火を吹き、大揺れと高波が島を襲い、病魔災厄が国を包む──否、この島国そのものを、海底へと沈めることすらも可能であろう。 表向きは、予想不可能な天災という名を与えられながら。 一朝一夕で為されたものではない。何年、何十年、何百年、下手をすれば千年を超える長きに渡り練り上げられた、この日本という国を呪う大呪法!
 PCが古い時代から長く生きているような存在であった場合、その呪いの気配に既視感を抱いてもいい。例えばそれは菅原道真、平将門、崇徳天皇(崇徳院)といった『怨霊』の気配によく似ているのだ。 黒不浄が困惑したように叫んだ。「れ、令和だぞ!? 平安鎌倉、いいやせめて江戸明治ならいざ知らず! 令和のこの時代にまだこんなものがあるっていうのか!?」

【状況2】

 国側に属していた、倒れた葬送法師が作り上げたものではあるまい。彼はおそらく、この術式を作り上げた人物に操られていたにすぎないのだろう。 鍾馗の狙いはその人物か。であれば、鍾馗の言った「葬送法師を探れ」とは、この術式へと君たちがたどり着くことを見越してのものだったのだ。 残るは四国と出雲と高千穂。
「……この鉄道、電車通ってるんですかね?」「探してみてもいいんじゃないか。うまく見つかれば儲けものだ」 真名鶴と黒不浄が声をかける。 かくして盤外視座の五人の陰陽師たちは、人知れず、地下路線の闇へと消えていった。

【状況3(マスターシーン)】

 ──血の匂いがする。 傷ついた老女が一人、霧深い林の中を走っていた。 ぽたりぽたりと地上へと血が垂れる。その歩みは遅々として遅い。 背後からさらなる追撃が加えられる。老女が悲鳴を上げ、その場に崩れ折れる。 霧の先から姿を現したのは──ブラックジャケット捜査官【第一話のPC1】。
 倒れた老女の心臓が貫かれる。悲鳴と呻きが上がる。 体から血が飛び散る。しかし老女は死ななかった。常人ならば致命傷たる傷を受けながらも、じっとりとした眼差しで、背後のPC1を見やった。「それほどにこの国が恨めしいかい」「今まではうまく隠れていたようじゃないか。どうして今更……」「……唆した者でもいたか。あるいは──担ぎ上げる神輿でも出来たか?」 老女は意識を失い、地面へと倒れ伏す。 PC1はそこに、トドメの一撃を叩き込まんとし……。
 ……電子音が鳴った。 通信を求める、BJオペレーターからのコール音だった。 PC1は無言で身を翻し、その場を去る。
 ──街中にて。『もー! 通信したらちゃんと出てよ! びっくりしただろ、どこ行ってたの?』「は? 通信なんて受けてないけど?」(口調はPC1の設定に応じて変えよう)『うっそだあ、めちゃくちゃ連絡したのに……まあいいや。グラッジドッグスについて本格的に捜査を進めることになったから、一度本部に戻ってきて』「了解」『ハートレスに続いてレディ・レンズまで……ブラックジャケットはこれからどうなるのかなあ……フォーカスライトも大丈夫だといいんだけど』「あのフォーカスライトだぞ? 殺しても死なないだろ」『不穏なこと言わないでよ! じゃあ、戻ってきてね。待ってるよ』「はいはい。──変なスニーク」
 BJ捜査官PC1は、人の雑踏の中に消えていく。 獄門街のネオンは歪に煌めいて、その足元で影が揺れ動いたことなど、誰にも気づけはしなかった。

【第三話『オペレーション・レッドドッグ』へ続く】

【解説】 状況3の『第一話のPC1』は、葬送法師に操られた本人だ。洗脳下に置かれている為、自分が行っていることに対して疑問を抱かず、認識にも留めてはいられない。 ただし、このシーンは実際のPC1が直接手をかけることになるシーンの為、トラブルにならないよう扱いは慎重にするべきだろう(特に、カツコ様を殺すべきかどうかなど)。PCやPLの傾向的に、殺すのはまずいと判断する場合は、カツコ様はギリギリで逃げ延びたことにしてもいいし、死んだと思った後で蘇って来ても良い。彼女はもともと『死ねない苦しみ』持ちだ。 反面、PLやGMが構わないと思うのであれば、この時点でカツコ様が死亡したことにしても良い。

【シナリオ成長点】

シナリオ基本成長点:5点成長点ボーナス:最大3点―――――――――――――――合計:8点(最大)