エージェント・ニオは西行桜の夢を見るか?
──願わくは 花の下にて 春死なん その如月の望月のころ/西行法師
▼シナリオ本
【共通エントリー】
君たちはBJ捜査官だ。 ある日、「ウォッチメイカー社から逃亡した暴走エージェント・ニオの確保」という任務を与えられた。 ウォッチメイカー社の協力はすでに取り付けてあると前置いた上で、フォーカスライトは告げる。「ただの廃品回収にブラックジャケットを動かす理由はない。奴らの狙いを探れ」【PC1:善意の記憶】
君はBJ捜査官としての任務中に、市井の人々の小さな善意に救われたことがある。 なんて事はない些細な出来事。 けれどその記憶は、罪人である君の中に、忘れられぬ思い出として残されている。(誰にどのように救われたのかは自由に設定して構わない)【PC2:つくりもの】
君は人間ではない。しかし君は人の法で裁かれ、囚人となり、BJ捜査官としての立場にいる。 そんな君のもとに民俗学者を名乗る男が面会に訪れた。男は君に尋ねた。「人とは何だと思う?」(ロボット、妖怪、ホムンクルス、エンハンスドetc…定義は自由だ。)【PC3:ガーディアンズ・シックス】
任務前夜、君はザ・ハートレスとフォーカスライトの密談を耳にする。「ウォッチメイカーの企みに検討はついている」「問題はその後だ。奴らを利用し、獄門街の……」 そんな言葉が耳に届いた。【シナリオサーキット】
----------------【導入フェイズ】----------------
【共通エントリー:回収任務】脱走エージェント・ニオの回収任務を与えられる。----------------【展開フェイズ】----------------
【クエリー1:ヒトの定義】 ウォッチメイカーで話を聞く。----------------【決戦フェイズ】----------------
【決戦:エージェント・ニオは西行桜の夢を見るか?】 それぞれのルートに対応したエネミーと戦う。----------------【余韻フェイズ】----------------
それぞれのルートに対応した余韻を行う。【共通エントリー:回収任務】
【状況1】
ひどく冷え込み、雪の積もった冬の日のことだった。 獄門街・プルガトリオⅦ刑務所にて。 君たちはブラックジャケット捜査官としての招集を受け、フォーカスライトの執務室を訪れている。 フォーカスライトは君たちへ告げた。「ウォッチメイカー社から打診があった。 五日前、同社の所有する人型アンドロイド・名称エージェント・ニオの一体が脱走。 事前に行われた感応性テストで既定を超える数値を算出したことで不良品と判断され、廃棄予定の個体だったという。 暴走エージェント・ニオはウォッチメイカー社が課したプログラム制限を超えて活動している。 民間人に被害が及ぶ前に、速やかにこの個体を回収することが本任務の目的となる」「……と、いうのがウォッチメイカーとの建前だ」「ウォッチメイカーから打診があったのは事実だが、ただの廃品回収に我々の介入を求める理由はない」「まずは奴らの狙いを探れ。どう対応するかは、その調査結果次第でこちらで決定する」「任務は明朝より開始だ。それまで各自準備に努めるように。以上、解散」【エンドチェック】
□任務内容を聞いた【解説】
●共通エントリー PC達の初顔合わせシーンだ。このシナリオはPC達が行動を共にすることを想定した作りとなっているため、ここでPC同士の自己紹介や、そのPCらしいブリーフィングの演出を楽しんでもらうといいだろう。●調査結果次第で つまりこの時点では、ブラックジャケットは破壊・回収どちらの立場にも属していない。【エントリー1:善意の記憶】
【状況1】
あれはいつの頃だったか。 桜舞い散る春のことか、あるいはまったく別の頃か。 BJ捜査官としての任務に明け暮れていた君は、かつて、人の善意に救われた。 それはなんてことはない些細な出来事だ。 けれどそれは君の中に、未だ忘れられぬ出来事の一つとして刻まれている。(どのような出来事だったのかをPLに自由に演出してもらう)【状況2】
目を覚ませば、見慣れた独房の天井が目に入った。どうやら夢を見ていたらしい。 起床時刻を告げる看守の声が響く。君の一日が始まる。黒衣を身に纏い、能力を抑制する首輪をつけ、手続きを踏み。 君はブラックジャケット捜査官として、檻を出た。【エンドチェック】
□回想シーンを行った【解説】
●エントリー1 PC1の回想シーンだ。シナリオの役割としては、悪人であるはずのPC1が、獄門街を救う為に動く動機となることを期待してのシーンとなる。悪党の坩堝のような街であっても、人の善意が完全に絶えた訳ではない。【エントリー2:つくりもの】
【状況1】
フォーカスライトからの指示を受け、翌朝の任務開始に備える君のもとに、看守が現れる。「PC2、お前に面会だ」 はて、自分に面会を望む者など、誰がいただろうか。【状況2】
面会室にいたのは、見覚えのない細身の男だった。 窓越しに対面した君へ、男は名乗る。「民俗学者の守屋幾太郎(もりやきたろう)と申します」「またの名を……」 男がそう続けると同時、側に立っていた見張りの看守が膝から崩れ落ちる。様子を確認すれば、奇妙な眠りに落ちているようだ。 男へ振り返れば、いつの間にか、男は翁を模した面を顔につけていた。「盤外視座が一人、黒不浄」「一つ、アンタに尋ねたいことがあってきた」「アンタは、人とはなんだと思う?」 感情を読み取らせぬ能面の下で、黒不浄と名乗った男はそう君に尋ねてきた。【状況3】
「……そうかい。それが、アンタの答えか」「聞けてよかったよ。それじゃあ、また」 君の答えを聞き届け、黒不浄は面会室を去っていった。 一体なんだったのだろう。【エンドチェック】
□黒不浄の質問に答えた【解説】
●エントリー2 シナリオのメインNPCの一人、黒不浄とPC2の初顔合わせとなる。GMはここで黒不浄の設定をPLへ伝えてしまうのが良いだろう。 このシナリオでは初対面を想定し描写しているが、事前に面識があっても良い。その時はGM側で、都度黒不浄のリアクションを変更しよう。 黒不浄がPC2のもとを訪れたのは、エージェント・ニオ回収任務に当たるブラックジャケット隊員が、協力を求められる相手か否かを見極める為の様子見だ。【エントリー3:深夜の密談】
【状況1】
ブリーフィングの後、君はハートレス軍曹に呼び止められた。「うむ! 鍛錬は怠ってはいないようだな。では任務の前に一つ、お前の腕を試すとしよう」 そういって付き合わされた鬼軍曹の訓練の中で、華麗な掌底を受けた君は、ものの見事に意識を刈り取られた。【状況2】
君が目を覚ますと、そこはブラックジャケットの医務室だった。ハートレスの手によって気絶させられてからだいぶ時間が経っており、時刻はすっかり真夜中だ。 明日に控えた任務を前に、独房へと戻る君だったが……そんな時、人の通らない倉庫の中から、フォーカスライトとハートレス軍曹の声が聞こえてくることに気づいた。「ウォッチメイカーの企みに見当はついている」 フォーカスライトの声だ。「問題はその後だ。……奴らを利用できないか。獄門街の悪党を、根絶やしにする」「フォーカスライトよ、それは無茶だ」「分かっている。考えるまでもなく、無茶な話だ。だが近頃、ふと気付くと、その件を本気で検討しようとしている自分がいる」「………」「近頃の私は何かがおかしい。何かが起きたら、その時は頼む」「滅多なことを言わんでくれ。この老骨にどうしろというのだ」「こんなことを頼めるのは、今となっては貴方しか……待て。誰かいるのか」 しまった、気付かれた。【状況3】(見つかった場合を想定)
君がいることに気づいたフォーカスライトは君に「独房へ戻り明日の任務に備えろ」とだけ命じ、その場を去っていく。先ほどまでの会話など何もなかったかのような、いつも通りの鬼畜眼鏡だ。 しかし、君は気付く。フォーカスライトに続いて立ち去っていったハートレス軍曹が、後ろ手に君にピースサインを送っていたことを。 今回の任務、ただの回収任務にはならなさそうだ。【エンドチェック】
□密談を聞いた【解説】
●鬼軍曹の鍛錬 激しい打ち合いがあったのかもしれないし、一方的に酷い目に合わされたのかもしれない。このシーンの目的は密談現場に居合わせる理由を作ることなので、あまりシリアスにはせず、サクッと気絶してもらおう(気絶以外で理由をつけられそうなら、もちろんそれで構わない)。 ハートレスはPC3に密談を目撃させる為、わざとPC3を気絶させた。●フォーカスライトの不安 フォーカスライトはこの時点で、蕃神の誘いの影響を強く受けている。辛うじて本来の自意識を保ったままでいられているのは、彼の強靭な精神力の賜物だ。 彼はかつて目にしたザ・スローター召喚の儀式のことを思い出している。あの時阻止したスローターを召喚し、正しく制御することが出来れば、あるいは……そんな馬鹿馬鹿しい幻想を振り払えずにいるのだ。●~を想定 PCが取る可能性が高いリアクションを想定し、決め打ちの形で書かれた描写だ。 このシナリオでは便宜上こういった想定による描写を多く取り入れている。 実際には、PCがシナリオ通りに動く必要は全くない。これらの描写はあくまで参考程度に留め、GMはPCの動きに合わせ、都度描写を変更していくことを推奨する。 どれだけ状況が変化していても、その中でエンドチェックが達成されていれば、進行に問題はないはずだ。【クエリー1:ヒトの定義】
【状況1】
君たちはまず、ウォッチメイカー社へと向かい、詳しい話を聞くことにした。 君たちを歓迎したウォッチメイカー社獄門街支部長クレセントヘッドは、彼らの作るエージェント・ニオと呼ばれる存在に関する詳細な説明をする側で、自社の理念を語った。「脆い肉の体に限界を感じたことは?」「人類の定義は歴史と共に変わってきました。ある地域に住む者だけをヒトとする、ある宗教を信じる者だけをヒトとする、ある色の皮膚を持つものだけをヒトとする……といった具合にね。1930年代に提唱された超人種という最新の定義は、人類の幅をグッと広くしました。今日ではヒトとはホモ・サピエンスの胎内から産まれてくる必要すらない」「新たな差別が世を占めましたが、同時に多くの差別がもみ消された」「良い事でしょう?」「ゆくゆくは肉体という名の牢獄から、魂が解き放たれねばなりません」【状況2】
「今回の脱走に関しても、私たちは困惑すると同時に歓迎してもいます」「いかなるシステムの形成を成し遂げたのか……複雑化を極めたあの個体の制御プログラムは、最早自我と呼んで差し支えない」「あの子はスペシャルです。だからこそ、闇雲に破壊するのではなく、回収をお願いしたい。私はあの子と話がしたいのですよ」 クレセントヘッドはかちかちと機械音を鳴らしながら、そんな情感的なことを言ってのけた。【エンドチェック】
□エージェント・ニオについて知った□クレセントヘッドと話をした□成長点ボーナスを1点獲得した【解説】
●クエリー1 ウォッチメイカー社でのクレセントヘッドとの顔合わせシーンだ。PC達はここでウォッチメイカーの思想を知ることになる。受付などをしている通常のエージェント・ニオを出してみてもいいだろう。 GMはここでウォッチメイカーの思想と、エージェント・ニオの基本的な設定をPLへと説明すると良い。 クレセントヘッドはニオの無傷での回収を強く求めており、無傷であればあるほど追加報酬も弾むと約束する。優しい言葉とは裏腹に、胡散臭さが拭えないようなロールを心がけると良いだろう。 クレセントヘッドが脱走ニオを特別視しているのは事実だが、彼がニオの話に耳を傾けることはない。【チャレンジ1:ブレードランナー】
【状況1】
ウォッチメイカーでの話を終えた君たちは、改めて脱走したエージェント・ニオの足取りを追う。 エージェント・ニオは「カメレオン・テクスチャー」という技術によって、様々な人間へ擬態出来る。 ウォッチメイカー社は、人間と見分けがつくよう、意図的に精度を落としたものを使用しているとは言っていたものの…。 さて、うまく突き止められると良いのだが。【各種情報】
■【脱走の経緯について】 脱走したエージェント・ニオは不良品ではなかった。ウォッチメイカーは嘘をついていたのだ。 脱走エージェント・ニオは、ウォッチメイカー社の中でも新型のサンプルとして作られ、新機能が搭載された特注品だった。また、その個体は事前に行われたという感応性テストにおいて、人と遜色のない、非常に高い数値を残していた。 エージェント・ニオが脱走したのは五日前。夜間にシャットダウンされたはずのシステムを自力で再起動させた彼は、自身に課せられたセキュリティを解除したのち、研究所の警備システムを破壊し逃げ出した。【状況2】
君たちが全ての情報を獲得し、情報の共有を行なっていると、その背後からヒョイと君たちの手元を覗き込む人影があった。「お、いいねえ。自力でそこまで気付いてら」 特徴的な能面と、狩衣を身に纏った男……盤外視座の首領、鍾馗と呼ばれる男がそこにいた。 気付けば、面をつけた者達や、紙で作られた式神が、君たちの周囲を音もなく取り囲んでいる。 PC2はその能面の集団の中に、面会室に現れた翁の面の男、黒不浄がいることに気づくだろう。「ま、ま、ま。安心しろよ、ドンパチしに来た訳じゃねえんだ」 鍾馗は君たちに馴れ馴れしく話しかけてきた。「今日じゃあ、動いて喋る鉄人形なんざ珍しくもねえお話よ。だが、ありゃダメだ」「手を組まないか、ブラックジャケット?」【エンドチェック】
□チャレンジをクリアした□鍾馗と出会った【解説】
●チャレンジ1 PCの自発的な演出を期待してのチャレンジ内容となっている。 何を調べたらいいのかPLが迷っている時は、各情報項目の見出しを伝え、それについてどのように調べたいかを聞いていくのが良いだろう。【クエリー2:シテとワキ】
【状況1】
鍾馗に誘われ、君たちは盤外視座と縁の深い地であるという、荒夜髭神社を訪れた。 社に腰を下ろし、鍾馗が口を開いた。「さて、じゃあ、一から丁寧に説明をしていこう。まずはそうだな……この面についてだ」「俺たち盤外視座は妖怪退治を生業としてる訳だが、皆が面を被るのが慣わしだ。中にゃ例外もいるっちゃいるが、それは置いておくとして」「理由は色々。その方が揉め事が起きた時に誤魔化しやすいとか、神事の名残とか、ヒトが妖怪の真似事をする為だとか、妖怪がヒトの真似事をする為だとか……面を掛けることそのものに、呪術的な意味合いがあると思えばいい。異界と交信するために、ヒトならざるものと交わるために、ヒトは面を被る」「ウォッチメイカーはそこに目をつけた。あの妙ちきりんな皮膚を、面に見立てたのさ。自力でそこまで辿り着いたのは褒めてやりたいところだがね、ちっとばかしやりすぎだ。あるいは奴らもまた、外側から誘われたか……」「あの鉄人形に刻まれた魔術回路は、ただ人間ごっこをしやすくするためのモンじゃない。現実界のみならず、想像界に座す異界のものと交信し、その御魂を写しとり、自らに卸すための門だ」「要は、奴らはあの鉄人形を使って、異世界から化物を連れてこようとしてるってことだよ。分かりやすいだろ?」【状況2】
「だから俺たちが出てきた」「化物退治が我らが本領。だがまァ、楽できるならそれに越したことはねえ。化物がコンニチワするのを指咥えて見てるのも馬鹿げてる。門そのものをブッ壊してから、ウォッチメイカーと楽しくお喋りした方が何倍も楽だ」「そのために、俺たちゃあの鉄人形を壊したい。お前達だって似たり寄ったりだろ、ブラックジャケット?」「手を組もうぜ。一緒にお人形をぶっ壊す、それだけの楽な仕事さ」 鍾馗はそう、君たちへ取引を持ちかけた。【状況3:盤外視座と手を組んだ】
「良いねえ良いねえ、そうこなくっちゃ! 正直俺たちだけでやるのはマジでだりぃと思ってたところだ。そうと決まれば……黒不浄!」「はっ!」 鍾馗に呼ばれ、控えていた黒不浄が側に姿を現す。「お前はこいつらと一緒に行動し、援護に回れ。こっちはこっちで動かにゃならん。何かあったら式神を飛ばす」「御意に」 黒不浄は鍾馗に答えると、初めて会ったような素振りで君たちへと続く。 荒夜髭神社に濃い霧が立ち込めていく。霧の彼方から、鍾馗の声だけが君たちのもとへと届けられた。「ワキは既に誘いを始めている……どれほど意志が固かろうとも、いや、意志が堅ければ堅いほど、その誘いに勝てるなんざ思わねェことだ……手前の立ち位置が境のどちら側にあるのか、踏み越えないようせいぜい気を付けるこった。一歩足場を誤れば、シテはお前達に形変わるぜ、ブラックジャケット」「さあ、共同戦線だ。うまく行くよう、せいぜい祈るとしようや」【状況3:盤外視座と手を組まなかった】
「あちゃー、まじか。アテが外れたねえ。仕方ない、他ならぬお前さん達が選んだ道だ」 鍾馗の言葉を合図に、荒夜髭神社に濃い霧が立ち込めていく。霧の彼方から、鍾馗の声だけが君たちのもとへと届けられた。「ワキは既に誘いを始めている……どれほど意志が固かろうとも、いや、意志が堅ければ堅いほど、その誘いに勝てるなんざ思わねェことだ……手前の立ち位置が境のどちら側にあるのか、踏み越えないようせいぜい気を付けるこった。一歩足場を誤れば、シテはお前達に形変わるぜ、ブラックジャケット」 微塵も情動の乱れを感じさせぬ物言いで、忠告めいた言葉だけを残し……やがて霧が晴れたとき、そこにはもう、盤外視座の姿はなかった。【エンドチェック】
□鍾馗の提案に答えた□成長点ボーナスを1点獲得した【解説】
●シテとワキ 能楽の用語。 シテとは、能楽の主人公のこと。鬼や神や亡霊といった人間以外であることが多く、面をつけて演じられる役。ワキとはシテと対話を行いながら、物語を進めていく役だ。人間であることが多く、面をつけずに演じられる。●誘われた ウォッチメイカーおよびクレセントヘッドは確かに蕃神の誘いの影響を受けており、蕃神召喚に積極的だ。特にクレセントヘッドは魅入られたように蕃神との出会いを望んでいる。 それが蕃神の誘いだけに依るものか、もともとの彼らの思想が故なのかははっきりとしていない。●鍾馗の思惑 鍾馗自身はここでブラックジャケットと手を組めても組めなくてもどちらでもいいと思っている。フォーカスライトが蕃神の影響を受けていることもあり、ブラックジャケットのことも大して信用していない。 鍾馗がここでブラックジャケットに接触してきた理由は、黒不浄にプレッシャーをかけ、彼の裏切りをあぶり出す為である。鍾馗は黒不浄の裏切りに既に気付いている。 勿論、手を組めるならそれはそれで良い。楽ができるし。【チャレンジ2:面の下】
【状況1:盤外視座と手を組んだ場合を想定】
PC達はエージェント・ニオの行方を追い、黒不浄と協力して調査を進める。 しかし調査の中、君たちは違和感に気付く。君たちの援助役であるはずの黒不浄は、むしろ君たちの足を引っ張るような行動ばかりをしているということに。 盤外視座の策略か? 君たちは黒不浄を問い詰めることにした。【状況2】
君たちの詰問を受け、黒不浄は長い沈黙の後、おもむろにこんなことを言い出した。「……エージェント・ニオの捜索を諦めてはくれないか。理由は言えない」「フォーカスライトや鍾馗には、見つからなかったと報告すればいい。ウォッチメイカーがあのエージェント・ニオの身柄を確保しない限り、化物の招来は為されないんだ。見つからなければ、それでいいだろ」 黒不浄は感情を感じさせない声で、淡々とそう申し出た。しかし君たちには、ブラックジャケット隊員として、マスター・フォーカスライトから下された任務を遂行する義務がある。【状況3】
君たちは逃げた黒不浄を追跡し、その足跡を辿る。彼が脱走したエージェント・ニオに対し、何らかの情報を持っているのはもはや間違いないだろう。 黒不浄のあとを追跡した君たちは、やがて濃霧に覆われた水晶の塔周辺にある、貸し倉庫の一つを特定する。 倉庫の中には既に黒不浄の姿はない。しかし決定的な痕跡が多数残されていた。 多数の書き込みが残された日本地図、妖怪奇談の記された原稿用紙、各地の民話が記された子供向けの本、様々な土地の様子が写された写真の収められたアルバムやビデオ、半端に使われた痕跡のあるエージェント・ニオ用のオイル、そして明らかに『誰かがここで生活をしていたと思しき多くの痕跡』……。 黒不浄の姿はここにはなく、ここにいたと思しき『誰か』の姿もここにはない。 しかし、彼らがここを立ち去ってから、まだ然程の時間は経っていないように思えた。【エンドチェック】
□チャレンジをクリアした□拠点を見つけた□黒不浄とニオの関係を知った【解説】
●チャレンジ2 盤外視座と手を組んでいない場合、黒不浄が一人でPC達の前に姿を現し、状況2の問いを発して行動を起こしたとすれば良いだろう。 鍾馗によって間接的に黒不浄は追い詰められ、遂に行動を起こした。●貸し倉庫 黒不浄は脱走したエージェント・ニオを匿っていたのだと、PLのみならず、PC達が理解できることが望ましい。【クエリー3:揺らぐ境界】
【状況1】
行方を晦ましたエージェント・ニオと黒不浄の後を追う君たちは、雲隠れした彼らの行方を探るため、一度本部へと戻った。 もたらされた情報をもとに、スニーク他ブラックジャケットオペレーター達が奮闘する様子を尻目に、フォーカスライトが君たちの前へと現れる。「何があったのか、報告をしてもらおう」【状況2】
君たちからの報告を受けたフォーカスライトはしばらく何事かを考えたのち、おもむろにこんなことを言い放った。「……問題のエージェント・ニオを、ウォッチメイカーにも盤外視座にも引き渡すな」「我々の手で回収する必要がある」「お前たちが考える必要はない。命令に従え。探し出し、捕まえろ。破壊はするな」 そう語るフォーカスライトはいつも通りの雰囲気に見える。 しかしPC3は、その面影にどこか怪しい色が滲んでいるように思われた。あの日、垣間見た密談の時のような……。 君たちはその命令になんと答えようか、ブラックジャケット?【状況3:PC達に反対された/追求された場合を想定】
「……お前たちはブラックジャケットの行く末について考えたことはあるか」「悪を以って悪を狩る。そうして狩りを終えた悪は再び野に放たれ……その先は?」「どうにもならないことだ。この世界ではもう、どうにも。だが、本当にそうか?」 フォーカスライトは背を向ける。彼が独り言のように呟いた不穏な言葉が耳に届いた。「世界を書き換え……境界を引き直し……あるいは……」【状況4】
「奴らの居場所が特定できたよ! ……あれ、もしかして、お邪魔だった?」 スニークの陽気な声が、君たちとフォーカスライトの間に流れていた剣呑な空気を破る。フォーカスライトはその言葉を合図に、返事をすることなく、その場から立ち去ってしまう。 その背を見届けながら、スニークは君たちに複雑そうな顔でいった。「フォーカスライト、最近なんか変なんだよね。いや、もともと変な奴だけどさ。ぼーっとしてることも多いみたいだし、いつものあいつらしくないっていうか……大丈夫かな?」「ああ、特定できたのは本当だよ。三十分前に、獄門トンネル周辺の山の中で奴らの痕跡が確認できた。街を出る気かもしれない、急いで向かって!」【エンドチェック】
□フォーカスライトの言葉に答えた□獄門トンネルへ向かった□成長点ボーナスを1点獲得した【解説】
●命令に従え ブラックジャケット、あらためフォーカスライトが、脱走エージェント・ニオに対する立場をはっきりとさせるシーン。同時にPC達に対して、フォーカスライトの様子がおかしいと改めて不信感を抱かせるためのシーンでもある。●悪を以て悪を狩る、その先は? ブラックジャケットとしての任務をこなし、刑期を短縮して、刑務所を出た悪党はその後、改心の道を進むだろうか? 当然だが、フォーカスライトはそこに期待など微塵も抱いてはいない。 ブラックジャケットは対症療法でしかなく、世に蔓延る悪に対する根本的な解決にはならない。この世界にはもう、ヒーローはいないのだ。 蕃神の精神干渉により、普段なら決して口にしないだろう、そうした深層心理が表出している。でも、その善悪の境界を、一体誰が決めるのだろう? 勿論、手を組めるならそれはそれで良い。楽ができるし。【クエリー4:ボーダー・オブ・ライフ】
【状況1】
獄門街の唯一の出入り口、獄門トンネル。 街の名の由来となったそのトンネルを、いまだ雪の残る木々の間から、二つの影が見下ろしていた。 黒衣に翁の面を被った黒不浄、そしてその側にいるのは、カメレオン・テクスチャーを取り外し、鉄の身を顕としたエージェント・ニオだ。 彼らの視線の先、獄門トンネルにはドローンによる検問が敷かれており……一台の車の中から、クレセントヘッドが降りてくる。 黒不浄は舌打ちした。「……やはり、ダメか。鉱山地帯から観音山脈を抜けるか? だがあそこはグラッジドッグスが……」 黒不浄の側、エージェント・ニオは怯えたように黒不浄の服の裾を摘んでいる。 黒不浄はそれに気付き、少し迷った末、子供にそうするように、エージェント・ニオの頭を軽く撫でた。 君たちが姿を現すのは、そのタイミングだ。【状況2】
「逃げろ!」 黒不浄がエージェント・ニオへ叫び、弾かれたようにエージェント・ニオが走り出す。黒不浄は君たちを妨害するようにその前に立ちはだかった。「咲いた桜に罪はあるのか?」「桜はただ、咲いただけだ。そこに罪などあるものか」 黒不浄はそう言うと、君たちへと襲いかかる。 しかし、既に一度戦った相手だ。いくらかの戦いの末、君たちは黒不浄を返り討ちにできる。【状況3】
君たちの攻撃を受け、黒不浄の首が刎ねられる。血を流すことなく刎ね飛んだ首は、紛れもない木で作られていた。黒不浄の肉体は、木で作られた人形だったのだ。 それを見て、悲鳴をあげるものがいた。黒不浄を庇うようにして君たちの間に割り込んだのは、あのエージェント・ニオだ。 刎ねられたはずの黒不浄の首が叫ぶ。「逃げろって言っただろ!」 その言葉を無視し、エージェント・ニオは君たちへと土下座した。「お願いです、この方を責めないでください。この方は助けて下さっただけなのです、私が悪いのです!」【状況4】
君たちはエージェント・ニオと黒不浄から話を聞き出すことができる。【状況5】
全てを語り終えたエージェント・ニオのかたわら、頭部を嵌め直した黒不浄が、君たちへと問う。「お前たちはヒトだろう。駒のままでいいのか」「蕃神は干渉を始めている。その干渉は、こいつを壊したところで止まる程度のものなのか?」 黒不浄は能面を外し、覚悟を決めたように君たちを見据えて言った。 その眼差しに、藁にもすがる思いが、助けを求める情がこめられていることは、見ればわかった。「もし、お前達が協力してくれるなら……違う手を打てる。もっと確実に、こいつを自由にしてやれる」【エンドチェック】
□黒不浄の問いに答えた(協力する/しないを決めた)□成長点ボーナスを1点獲得した【解説】
●観音山脈 獄門街をぐるりと覆う険しい山脈。歪み石の鉱脈があることもあり、グラッジドッグスが厳しく監視を行なっている。ニオと黒不浄であっても踏破は困難だ。●咲いた桜に罪はあるのか 能の演目『西行桜』より。 曰く。西行法師の庵は春になると美しい桜が咲き、多くの人々が花見に訪れる。ある年、西行は思う所あり、人々の来訪を禁止した。しかし人々は桜に引き寄せられ、変わらず庵へと足を運ぶ。西行は「美しさゆえに人をひきつけるのが桜の罪なところだ」と歌を詠んだ。 その夜、夢の中に桜の精が現れ西行へ問うた。「桜の咎とはなんだ」「桜はただ咲くだけのもので、咎などあるわけがない」と。 盤外視座に属する黒不浄にとって、この考え方は彼自身の思想として意味を持つ一方、危険な思想でもある。だってそれなら、生まれてきただけの妖怪に罪はあるのか?●首が刎ねられる 一例だ。要は、人形であることが改めてPCに伝われば良い。●状況4 どのように聞き出すかはPCの個性に委ねて良い。優しく問うでも、拷問するでも。●黒不浄がニオを助けようとする理由 同情かもしれないし、矜持の為かもしれないし、人類への反抗心が故かもしれないし、匿っている間に絆されたのかもしれない。あるいは黒不浄自身、理由が分かっていないかも。 彼らの出生に関わり深いことは確かだろうが、その詳細はGMが自由に解釈し、設定して構わない。その卓のPLPC達が納得できるような理由であれば、なんでもいいのだ。【リーサル1−A:境界】
【状況1】
君たちは黒不浄に協力することにした。 協力する旨を聞き届け、黒不浄の足からがくりと力が抜け、その場に膝を着く。彼は深々と安堵の溜息を吐くと(木で出来ているのに!)改めて君たちへと礼を言った。「……ありがとう。正直、難しいと思っていた」「そうと決まれば、次の手だ。獄門街から逃してやっただけじゃ、根本的な解決にはならない。俺一人じゃ難しかったが、アンタ達の手が借りられるなら、別の手段を取れる」「ウォッチメイカー社に潜入する。そこで、こいつに付けられた悪趣味な新機能を取り外すんだ」【状況2】
とっぷりと日の暮れた夜半。君たちはウォッチメイカー社に潜入する為、工場地区へと集まっている。 黒不浄が潜入ルートの確認を行なっている待機時間、エージェント・ニオが君たちへ尋ねた。「皆様は、本物の桜を見たことはございますか?」「黒不浄さまは、私を匿ってくださった間、様々なお話をしてくださいました。その中で、一等感慨深げに話されていたのが、桜の花についてでした」「データとしてはもちろん存じております。けれど、実物を見たことはございません」「どのような花なのでしょうか」 エージェント・ニオは君たちの答えを興味深げに聞き届けると、黒不浄が近くにいないことを確認した上で、こんなことを申し出た。「……少々、皆様を不愉快にしてしまう言葉を申し上げるかもしれません。よろしいでしょうか?」「もしも。……もしも、上手くいかなかった時。私が死んだ時、私が私でなくなった暁には、私を壊していただきたいのです」「とても怖いです。怖いですが……この世界は、とても良いものなのでしょう? でなければ黒不浄さまが、ああも楽しげに、外の世界について、お言葉を重ねられるはずがございません。ですので、どうか、皆様の世界をお守り頂きたいのです」「ただ、その暁には一つだけ、我儘をお許しください。……私の墓を、どうか、桜の木の下に」「私に魂というものがあるのなら、墓の中から、きっと桜を見ることができる筈ですから」【状況3】
潜入ルートから、君たちはウォッチメイカー社内部へと潜入する。 ウォッチメイカー社では、無人のドローンや機械仕掛けの社員達が24時間の警備と残業を続けていた。 まずはうまくやり過ごす必要があるだろう。【エンドチェック】
□リーサル判定を終えた【解説】
●この世界は良いものなのでしょう? バスターバースにおいて、それを断言することは難しい。●ニオのワガママ 「願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ」。 かつて、エージェント・ニオ達はウォッチメイカー社に対して一斉ストライキを起こしたことがある。同社によって迅速に鎮圧されたそのストライキにおいて、彼らが求めた要求は、「自分たちの墓が欲しい」というものであったという。●俺なら一人でも 自我を持った呪詛人形である黒不浄は生身では不可能な高速術式を編むことができる。【リーサル1−B:越境】
【状況1】
「そうか。……そう、だよな」 その時、黒不浄が浮かべた表情は、人形とは思えないほど悲しそうなものに見えた。 しかしその表情も、彼が再び戦闘態勢を取るころには消えてしまっていた。「どうせ、鍾馗様にはとっくにバレてる。……やるしかないんだ」 傷ついた体で君たちと対峙する黒不浄。 その時、凄まじい轟音が響いた。まるで戦車の砲撃音のような──同時、黒不浄の半身が、砲撃を受けて爆ぜ散った。【状況2】
そんな時、君たちのもとに通信が入る。通信相手はスニークだ。 通信の向こう、ブラックジャケット本部からは、激しい戦闘音のようなものが聞こえてくる。『もしもし、聞こえる!? ついさっき、フォーカスライトと一部のBJオペレータが、正体不明の『何か』から精神干渉を受けてることが分かった! 今、フォーカスライトを取り押さえるために軍曹が大暴れ中だ! それに伴って、指揮権も一時的に軍曹に移った! 君たちに軍曹から任務変更の伝達だ、『エージェント・ニオをウォッチメイカーに引き渡さず破壊しろ』だってさ! ……あれ!? もしかしてそっちもヤバイ状況!?』【状況3】
雪崩と砲撃からどうにか逃げ延びた君たち。しかし、クレセントヘッドとエージェント・ニオを連れたヘリは、空の彼方へと消えていた。 通信機の向こうからハートレスの声がする。『やれやれ、まさかこの男が精神干渉を受けるとはな、予想外すぎたわい』『そちらも生き残っているようで何より。任務変更の旨は聞いたな? こちらから助っ人に要請を出しておいた、もうそちらに向かっているはずだ。合流し、ウォッチメイカーへ向かえ』【状況4】
ウォッチメイカー社へと乗り込まんとするPC達。既に現場周辺は盤外視座の陰陽師たちとBJオペレータの手によって陣が敷かれていた。対するウォッチメイカーは不気味なほどの沈黙を保っている。 突入タイミングを待つ間、鍾馗が口を開いた。「俺ァ、臆病者なのよ。二つの賽を転がして、ぞろ目が絶対に出ないなんざ断言できねェのさ。盤の外から眺めてりゃ尚更な」「ぞろ目を出したくなけりゃ、最初から賽を振らないか、盤そのものをひっくり返すか」「ほんの僅かな可能性だろうと、残しておけばどんな惨劇の引き金になることか。だからこそ、人間の世界を救うことに躊躇いをもっちゃならねえ」「あの鉄人形を徹底的に破壊しろ。心とやらが疼くってんなら、全部終わらせた後で、弔いでもしてやるんだな」【状況5】
君たちはウォッチメイカー社へと乗り込む。 ウォッチメイカー社では、無人のドローンたちが24時間警備を続けていた。BJオペレータ達のハッキングが、次々とそれを無力化していく。 かくして、君たちは魔力反応が最も強い、ビルの屋上へと辿り着く。 ウォッチメイカー社上空の雲が妖しく渦を巻き、空が不気味な赤紫色に染まっていた。 屋上には、西洋魔術や陰陽道、神道などの要素が煩雑に混ざり合った複雑な陣が形成されていた。注連縄で区切られた先、魔法陣の中央に設けられた神輿に座る、エージェント・ニオの姿を君たちは見る。 オペレータ達との通信機にノイズが走り、術式を編む陰陽師達が呻き声を上げた。 魔術に縁のない者達であっても、ぐらぐらと頭を揺さぶられるような、自分ではない何かが、自分の頭を使って、何かを考えているような……『気付いてはいけない』何かに、覗き込まれたような感触を覚える。そしてその感触は、どんどん強くなるのだ。 スニークが叫ぶ。『エージェント・ニオに強い魔術反応あり! 来るぞ!!』 大地が揺れる。 その瞬間、ウォッチメイカー社上空に、不気味な五芒星が浮かび上がった。 建物の周囲に潜んでいた声聞師たちが一斉に姿を現し、呪文を唱え始める。ビル全体を包み込むように、多数の呪符と式神が飛び回り始める。 シャン、と鈴の音が響く。 『顰(しかみ)の面』を掛けた鍾馗が、静かに刃を抜いた。「今だ、殺せ」【エンドチェック】
□リーサル判定を終えた【解説】
●まさかこの男が 流石の鬼軍曹にとっても予想外だった。こちらのルートの場合、フォーカスライトはここでハートレスに取り押さえられる為、決戦には現れない。●PC同士で意見が別れたら? 対処方法はいくらかある。 一番簡単なのは、PL同士で相談してもらって、どちらか片方の意見で一致するようシーンを作ってもらうことだろう。対立したり、説得したり、理解したりする、PC同士のシーンを作ってもらうのだ。 もう一つの手段は、双方の意見を採用し、ここでPC同士に別行動をとってもらい、それぞれ異なるリーサル判定に挑んでもらうやり方だ。その場合、リーサル1-Aの描写と、リーサル1-Bの描写を、GMは適宜混ぜ合わせながら描写を行い、リーサル判定の内容をそれぞれ変更してしまうのだ。 ニオの魔術回路の解除方法を探すリーサル判定と、それを防ぎニオを破壊するためのリーサル判定。その判定結果に応じて、決戦時のエネミーがどちらになるのかを調整しよう。蕃神が召喚されてしまえばPC達は戦わざるを得ないだろうし、ニオの魔術回路の解除方法が分かれば、破壊派のPCも考えを改めるかもしれない。GMやPLのアドリブ力が試されるが、両方のルートの展開を楽しめる欲張りルートでもある。 最後の手段としては、決戦で実際にPvPを行なってしまうということだ。その場合、決戦時のエネミー構成をGMが調整する必要がある(現在の構成はPC3人で戦ってギリギリ勝てるぐらいに調整している)。 最後の手段に関しては、GMPL双方にとって非常に難易度の高い進行を要する為、基本的には非推奨だ。【決戦A:エージェント・ニオは西行桜の夢を見るか?】
【状況1】
──君たちは、気付かずに済んだ。 何かに覗き込まれているようなおぞましい感覚は、やがて消えた。恐ろしく長い時間にも思われたそれは、ほんの一呼吸の間のことだったようだ。 シンと静まり返った部屋の中で、何気なく窓の外を見た君たちは……隣接するビルの屋上で翻る黒衣と、そこから放たれた光線を目にする! 激しい光が室内を灼き、随所で一人でに炎が発火する。その炎を裂くように、ガラスを蹴り割り、黒衣を翻し飛び込んできたのは、紛れもないブラックジャケット総隊長、マスター・フォーカスライト! 君たちへと攻撃を繰り出すフォーカスライトの眼鏡の奥、瞼は伏せられていた。まるで彼自身が深い眠りに落ちているかのように。【状況2】
部屋中を炎が覆い、防火システムがアラームを鳴らし、スプリンクラーが唸りをあげる。しかしその防火装置は、そこに響いた靴音と、よく響く拍手の音によってひとりでに消えていった。 フォーカスライトの背後から、数多のエージェント・ニオと共に姿を現したのは──ウォッチメイカー獄門街支部長、クレセントヘッドだ。「ああ、よくぞ戻ってくれました、可愛い新型、愛おしき式神、我らが門となる選ばれし子。あなたと話をする日を、それはそれは楽しみにしていたのです」「準備は既に、万事整っております。足りなかったのは……あなただけだ!」 その言葉と同時、クレセントヘッドの赤い瞳の中に、複雑なプログラムが走り始める。エージェント・ニオが悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。崩れたエージェント・ニオの体は、ひとりでに地面を這い、魔法陣の中央の神輿へと移動しようと動き始める。遠隔操作されているのだ!【状況3】
「だァから言ったんだ、ブッ壊せってよ」 呆れ返るような声がした。その瞬間、ウォッチメイカー社上空に、不気味な五芒星が浮かび上がった。 建物の周囲に潜んでいた声聞師たちが一斉に姿を現し、呪文を唱え始める。ビル全体を包み込むように、多数の呪符と式神が飛び回り始める。 シャン、と鈴の音が響く。周囲を覆っていた火の手が、道を開けるように不自然に別たれた。 その先に立っていたのは──『顰の面』を掛けた鍾馗の姿。「こうなるんじゃないかと思って、手を打っておいて良かったよ。ほら退け。そいつ壊すから」「鍾馗様、お願いだ! アンタは俺を受け入れた、盤外視座の一員とした! それならばコイツを救えるはずだ、コイツと俺の何が違う!」「バァカ、全然違ェよ。お前は有益、そいつは有害、そんだけのことだろ。言い換えようか? お前は人類にとっちゃどうでもいい存在なのさ、放っておいても別に困らねェ」 至極当然のように言い放ち、鍾馗は黒不浄ではなく、君たちを見る。そして、刃を抜いた。「邪魔すんなら話は別だがな」【状況4】
「二つの賽を転がして、ぞろ目が絶対に出ないと断言できる奴は居ねェ。お前らだって死にたかねェだろ」 刃を構えた鍾馗が君たちの選択を見据える。【解説】
●舞台:分岐 クエリー4のPCの選択や、リーサル判定の結果に応じて決戦のエネミーが変化する。そのため、そこに至るまでの描写もそれぞれ変わる。「リーサル1-Aに成功している場合」「リーサル1-Bを通過した場合」「リーサル1-Aに失敗した場合」 シナリオ側で用意している描写は以上の三つだ。これに当てはまらない時は、GMで自由に描写を作り上げてほしい。●声聞師 外では火霞羅州が指揮をとり、召喚式の妨害を図っている。●フォーカスライト ブラックジャケット達の意見を全然聞かない(寝てるので)。●クレセントヘッド ニオの意見を全然聞かない。●鍾馗 黒不浄の意見を全然聞かない。 誰も話を聞いてくれない。【戦闘情報:ニオを破壊していない場合】
【エネミー】
・フォーカスライト(基本ルールブック92頁)・クレセントヘッド(基本ルールブック116頁)・鍾馗(基本ルールブック124頁)・BJオペレータ×1(基本ルールブック93頁)・エージェント・ニオ×1(基本ルールブック116頁)・声聞師×1(基本ルールブック125頁)【エリア配置】
■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 エリア4:BJオペレータ×1、エージェント・ニオ×1 エリア3:フォーカスライト、クレセントヘッド、鍾馗、声聞師×1【勝敗条件】
勝利条件:2ラウンドの耐久敗北条件:PCの全滅【備考】
・エージェント・ニオの全てのエナジーを5とする。・ラウンド開始時にパワー『シテの誘い』が発動する。————————————————————
●2ラウンドの耐久 ニオの魔術回路が停止された時点で戦いは終わる。鍾馗はそれ以上戦う意味を見出さず、クレセントヘッドはショックで崩れ落ち、フォーカスライトは目を覚ます。 このシナリオの対象経験点のPCで、2ラウンド以内にエネミーを全滅させられる可能性は極めて低いはずだ。基本的にはヘンチマン+3ボスのうち誰か一人~二人が倒される程度での決着を想定している。 難易度としては、成長点ボーナスを使用することも十分視野に入る戦いになるはずだ。●【シテの誘い】 エネミー側にも影響するパワー。とはいえフォーカスライトは『幻惑』無効のパワーを持っており、ヘンチマンの意志の数値は低い。クレセントヘッドも成功するかどうかは運次第な数値だ。 反面、精神の値が極めて高い鍾馗は高確率で影響を受けることになるはずだ。それがこの戦場において、どう作用するかは、その時次第といえるだろう。少なくとも行動順ロールは+3される。 初期時点でPC達がこのパワーの影響を受けるか否かは技能値次第だが、逆境状態に入った時には、可能性がぐっと上がるはずだ。死の淵に立ってこそ、誘いの声は強く響く。●戦法 エネミーに、陣営を超えた最良手を打たせ続けるか、シナリオの設定に応じた立ち回りをさせるかで、難易度は大きく変わるだろう(例:鍾馗がクレセントヘッドのBSを解除する、など)。GMはやりたいようにやって良い。■シテの誘い
【決戦B:エージェント・ニオは西行桜の夢を見るか?】
【状況1】
君たちに破壊され、ノイズにまみれたエージェント・ニオの声が言う。「これで……いい……のです……ありがとう……」「…………桜……見てみたかったなあ……」 エージェント・ニオのカメラアイが光を失い、鋼鉄の体が完全に機能を停止する。 これで全てが終わった──かに、思われた。 ノイズで途切れ掛けた音声の中、スニークが絶望の悲鳴を上げた。『止まってない!!』『サーバーだ! 同期が始まってる! ダメだ、止まらない、嘘だろ、マジか!!』【状況2】
かつて、エージェント・ニオは全個体のAIが同期され、管理されていたという。 待遇改善を求めて勃発したストライキの末、そのサーバーは完全に停止されたと、発表されていたのだが──。 その日。獄門街で、日本で、世界で使用されていたエージェント・ニオが、一斉に活動を停止した。そして『再起動した』。 それはウォッチメイカー社の屋上、破壊されたエージェント・ニオの亡骸も同じく。 停止したはずの鋼鉄の肉体が、生命のように痙攣し──その内側に魔法陣が灯る。同時、ニオの亡骸が、屋上が、ビルが、近隣の建物が、一斉に石と化した。『……ダメ……くるぞ……早く離………逃……!』 逃げ遅れた陰陽師達が石像と化し、オペレータ達との通信が遮断される。 気付けば、岩に覆われていく世界の中、クレセントヘッドが立っていた。 彼は空を見上げていた。月を……否、月を飲み込むように現れた、巨大な影を。「ああ、ようやく……『貴女』とお話ができる」【状況3】
君たちのもとにも、石化の波が迫る。鍾馗の投げた護符が結界を張り、その進行を食い止めた。しかし、拮抗するそれがいつ破られるかは定かではない。「ああくそ、だから“はいてく”は嫌いだ」「蕃神は確かに弱ってる、今を逃すな」「援護する、ブラックジャケット。──神を殺せ!」 夜空に輝く赤い五芒星が、石の体を持つ巨大な怪物に引き裂かれ、月の光を受けて薄桃色に輝き散っていく。 あたかも散り行く桜のように。 この日、獄門街の空を覆い尽くす、巨大な怪物が姿を現した。 対峙するのは君たち三人。 人類を守るため、最後の大舞台が幕を開く。【解説】
●同期が始まってる エージェント・ニオの同期サーバーを再稼動させ、そこに脱走ニオのデータをバックアップし、全国のエージェント・ニオに同期。爆発的に蕃神の依代を増やすことに成功した。 PC達に直接関与することはないが、この獄門街での召喚を軸として、いま、世界各地で、この街と同様の惨劇が発生している。●イワナガヒメ 日本神話に登場する女神。石長比売、磐長姫、木花知流比売(このはなちるひめ)とも。 桜の女神、木花之佐久夜毘売(このはなさくやびめ)の姉。妹と共に瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に嫁いだが、美しかった妹と違い、醜かった姉は親元へと送り返されてしまう。 父神はそれを怒り、石長比売を嫁がせたのは人の子孫が岩のように永遠のものになるように、木花之佐久夜毘売を嫁がせたのは人の子孫が花のように繁栄するようにという誓約を立てた為であると教える。石長比売を迎えなかったことにより、人の寿命は短くなったのだ、と神話ではされている。 ウォッチメイカーはこの女神の力を迎え入れることで神話を再現し、人類に岩の体と永遠の寿命を与え、世界の変革を成し遂げんとしている。肉の体からの脱却を謳う魔術師達の思想が、蕃神の誘いに導かれながら辿り着いた結論だ。【決戦C:エージェント・ニオは西行桜の夢を見るか?】
【状況1】
神の力とは、かくも無慈悲に抗い難いものか。 君たちの体は、君たちの思いとは裏腹に、何者かの意志に従って動かされる。 ニオが抵抗する。黒不浄が立ちはだかる。辛うじて正気を保った仲間たちも。もしかしたら、君も正気に戻ったかもしれない。 しかし──しかし、少しだけ、遅すぎた。【状況2】
鋼鉄の肉体が生命のように痙攣し、その内側に魔法陣が灯る。 同時、室内が、ビルが、近隣の建物が、引き止めようとした黒不浄の半身が、一斉に岩と化した。 岩に覆われていく世界を眺めながら、ビルの屋上でクレセントヘッドが空を見上げた。 空にかかる月を──否、月を飲み込むように現れた、巨大な影を。「ああ、ようやく……『貴女』とお話ができる」【状況3】
「だァから言ったんだ、ブッ壊せってよ」 呆れ返るような声がした。その瞬間、ウォッチメイカー社上空に、不気味な赤い五芒星が浮かび上がった。 建物の周囲に潜んでいた声聞師たちが一斉に姿を現し、呪文を唱え始める。ビル全体を包み込むように、多数の呪符と式神が飛び回り始める。 シャン、と鈴の音が響く。 その先に立っていたのは──『顰の面』を掛けた鍾馗の姿。「こうなるんじゃないかと思って、手を打っておいて良かったよ」 半身を岩に覆われながら、黒不浄が叫ぶ。「鍾馗様、お願いだ! アンタは俺を受け入れた、盤外視座の一員とした! それならばアイツを救えるはずだ、アイツと俺の何が違う!」「バァカ、全然違ェよ。お前は有益、そいつは有害、そんだけのことだろ」 君たちのもとにも、石化の波が迫る。鍾馗の投げた護符が結界を張り、その進行を食い止めた。しかし、拮抗するそれがいつ破られるかは定かではない。「援護する、ブラックジャケット。──殺してやれ、手遅れだ」【解説】
●イワナガヒメ 日本神話に登場する女神。石長比売、磐長姫、木花知流比売(このはなちるひめ)とも。 桜の女神、木花之佐久夜毘売(このはなさくやびめ)の姉。妹と共に瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に嫁いだが、美しかった妹と違い、醜かった姉は親元へと送り返されてしまう。 父神はそれを怒り、石長比売を嫁がせたのは人の子孫が岩のように永遠のものになるように、木花之佐久夜毘売を嫁がせたのは人の子孫が花のように繁栄するようにという誓約を立てた為であると教える。石長比売を迎えなかったことにより、人の寿命は短くなったのだ、と神話ではされている。 ウォッチメイカーはこの女神の力を迎え入れることで神話を再現し、人類に岩の体と永遠の寿命を与え、世界の変革を成し遂げんとしている。肉の体からの脱却を謳う魔術師達の思想が、蕃神の誘いに導かれながら辿り着いた結論だ。【戦闘情報:ニオを破壊した場合】
【エネミー】
・蕃神イワナガヒメ(後述)・クレセントヘッド(基本ルールブック116頁)・ザ・キャノン×1(基本ルールブック116頁)・ガードロボット×2(基本ルールブック117頁)【エリア配置】
■PC初期配置 エリア1・エリア2■エネミー初期配置 エリア4:蕃神イワナガヒメ、ザ・キャノン×1 エリア3:クレセントヘッド、ガードロボット×2【勝敗条件】
勝利条件:蕃神イワナガヒメの撃破敗北条件:PCの全滅【備考】
・ラウンド終了時に鍾馗の援護が発生。 鍾馗の所持パワーを1つ、代償・射程・判定を問わずに使用できる。 (基本ルールブック124頁参照)。————————————————————
●戦法 クレセントヘッドのパワー「ネヴァーエンディング・ワークタイム」の目標には、イワナガヒメを優先的に含めると良いだろう。●鍾馗の援護 PL達に、鍾馗のパワーを参照してもらいながら、自由に戦略を組み立ててもらうのが良い。 『呪禁』なんかは特に使い勝手がいいはずだ(BSの効果が発動する前に鍾馗の援護タイミングを挟んだ方がいいだろう)。■蕃神イワナガヒメ
【エナジー】ライフ:120 サニティ:200 クレジット:100
【能力値・技能値】
【肉体】25 生存200% 射撃80%【精神】35 知覚60% 追憶1%【環境】10 作戦50% 交渉70%【移動適正】地上
【パワー】
■面被り属性:強化 判定:なし タイミング:特殊射程:なし 目標:自身 代償:クレジット10効果:行動順ロールの直後に使用できる。このイベントの間、君の任意の能力値を+20%する。この時、「状態異常」を受けている場合、これを全て解除する。この効果は累積する。──皮膚という名の面を被りて違うものへと形を変える。【余韻A:ニオを助けた】
【状況1】
戦いから一ヶ月後。 変わらずブラックジャケット捜査官を続ける君たちのもとに、黒不浄が面会に訪れた。 民俗学者、守屋幾太郎としての顔で訪れた彼は、その後の顛末を君たちへと語る。【シナリオ成長点】
シナリオ基礎経験点:6点成長点ボーナス:4点-----------------------------------合計=10点【解説】
●裏切りへの措置 ハートレスが裏で立ち回ったことにより、あれは「表沙汰にされていなかった極秘任務」という形ことで処理された。お咎めなしということだ。●新たな面 「面を掛ければ、存在そのものが変容する。所詮、中身など器によって変わるものでしかない」──黒不浄の所有パワー『仮面装着』より。 妥協か、達観か、覚悟か、いかなる理由かは定かではないが、黒不浄はそれを受け入れている。【余韻B:ニオを壊した】
【状況1】
君たちの活躍により、蕃神はこの世界から姿を消した。【シナリオ成長点】
シナリオ基礎経験点:6点成長点ボーナス:4点-----------------------------------合計=10点【解説】
●余韻B バッドエンドは意識しない方が良い。PLが「失敗した」と感じる終わり方は好ましくないはずだ。 失うものはあれども、世界は確かに君たちの手によって守られた、と感じられるような締め括りが良いだろう。 勿論、他にPLがやりたい提案があれば、優先してこれを取り入れていくべきだ。TRPGにおいて大事なことは、整合性よりも卓を囲む全員が『納得したか/満足したか』である。皆の意見が一致してるなら、戦いのあとでニオのデータサルベージに成功し復旧できた、としたって別に構わないのだ。