赤えいの島
赤えいの島
──この魚その身の丈三里に余れり 背に砂たまれば落さんと海上に浮べり 其時船人島なりと思ひ舟を寄すれば水底に沈めり 然る時は浪荒くして船これがために破らる 大海に多し──
▼シナリオPDF
【共通エントリー】
【イベント(共通):赤えい退治】
【状況1】
獄門街『荒夜髭神社』にて。 鍾馗の呼び出しを受け、今宵集ったのは、PC達と火霞羅州、黒不浄であった。【状況2】
そして今、君たちは船の上で作戦会議をしている。 同行者である火霞羅州が言う。「島の様相を知る前に沈めては、いざ何かあった時に大事。海中に逃げられでもしたらつまらない、確実に仕留められるよう根回しをする必要がある。まずは調査を入念に行うべきだ」 いつにない用心ぶりである。【状況3】
島へと到着する一行。 渦潮と霧で荒れる海を式神を渡り歩いて伝い、浜へと足を踏み入れる。 島は霧に覆われていたが、遠目に朱塗りの御殿のようなものが見えた。「ワッ」 そうして現れた君たちの様を見て、目を丸める者がいた。 まるで江戸時代の百姓めいた時代錯誤な襤褸の布を身にまとっているが、それは漁師のようだった。 漁師は島へと声を上げた。「島親様だ! 島親様がいらしたぞ!」 島民たちがぞろぞろとかけつけ、皆を拝みだす。 その中から、齢九十前後といった老人が一人顔を出し、羅州を見て嬉しそうに声をあげた。「おお、お父様。お久しぶりでございます!」「……は?」【エンドチェック】
□赤えいの島に上陸した□島民と出会った□羅州が父親と呼ばれた【解説】
妖怪「赤えいの魚」に関する解説と、火霞一族との因縁、そして島における最初の疑問と対峙するシーンとなる。火霞羅州の口を借りて、「基本は調査から行う」というこのシナリオの流れを最初に説明する役割も兼ねている。 NPC同士のやりとりが多いが、GMは適宜PCのRPを促すなどして、作戦会議風景を作って楽しんでほしい(不要であればNPCのセリフは端折っても良い)。それぞれのPCが盤外視座においてどのようなキャラクターなのかを、ここでPL同士で理解できたようなら次のシーンへと進んでいく。 「赤えいの魚」に関しては本文に記載した通りの妖怪だが、実際にWikipediaなどで情報を確認することもできるため、GMが気になるなら調べてみてもいいだろう。【クエリー1:歓待】
【状況1】
「ようこそおいで下さいました。以前のご来訪より早や三十年ばかし。私もすっかり老いたものではございますが、お父様はお変わりのない御様子、流石の一言でございます」 老人は羅州を自身の父と認識しているらしく、PC達を客人として歓待する。【状況2】
一行は朱塗りの御殿へと案内され、そこで歓待を受ける。「粗末なものではございますが、お食事をご用意させていただきました。 どうぞお召し上がり、旅の疲れを癒してくださいませ」 一行の前に食事が載った膳が運ばれる。 中には一体如何なる材料で作られているのか見当のつかぬ、初めて見る食材が含まれていた。白い団子のようなそれの見目は練り物に近い。 傍らで、火霞羅州が小声で言った。「食うなよ。黄泉竈食(ヨモツヘグイ)の逸話ぐらい知っているだろう」 羅州は手を付けるつもりはないようだ。 君たちはどうしようか。【エンドチェック】
□歓待を受けた□食事を食べた/食べなかった□成長点ボーナスを1点獲得した【解説】
実際の島に上陸し、島の人々の歓待を受けるシーンだ。 島民たちは皆、時代錯誤なボロボロの服を着ている(江戸時代の百姓のようなイメージだ)。多くの場合和装だろう盤外視座のPC達であれば、奇妙にその空間に馴染むことになるかもしれない。 島は基本的に貧しそうだが、飢えている様子はない。 島民たちは外界から隔絶された独特な文化を持っており、PC達と会話こそできるが、言語の置き換えや独自の用語を交えて会話を行うため、はっきりとした情報を不自然なく会話から得ることは難しそうだと感じる。 PC達が聴取を行うのであれば、ひとまずは以下のことが分かるだろう。【クエリー2:発破】
【状況1】
思わぬ歓待を受けたその夜のこと。 島翁の是非にという願いを受け、一行は朱塗りの御殿へと泊まることになった。 島が寝静まっていく中、火霞羅州は難しい顔をしながら海を眺めていた。「……思わぬ状況に、正直驚いている」「あの翁は真実、火霞の男児だと思うか?」「誰かが成り代わり、名を騙っている可能性もあるが……そうする理由が分からん」「先代がこの島を見逃した理由は然もありなん、まさにあの翁が所以であろう。 三代前の子とするならば、先代の時点で齢は六十前後だ」「情が沸いた……というよりも、可能性を感じたのだろうな」【状況2】
「俺も少し混乱している」「つまらん話をさせてくれ。その後、盛大に嘲笑って欲しい」「以前、読みふけった本があってな」「何、そうむつかしいものではない。趣味の一つというやつだ。 中身も、そう大したものではない。いわゆる物語本でな。 何の気なしに手に取ったが、これがなかなか面白い」「ヒキが良いのだ。次へ、次へ、その先を見たくなるような終わりを迎える。 自然、頁をめくる手が進む。 あれよあれよと読み進み、ひとしきりの既刊を読み終えてしまった。 そうして自然、思った。続きはいつ出るものかと」「……ものを作るには時間がかかるものだ。概ね二年に一つ本が出る作者だった。 そしてあとがきにはこう記されていた────残すところあと五巻、とな」「思いのほか、がっくりときた」「本は早々に処分し、もうすっかり忘れたものと思っていたが……あの翁と話をしながら、そのことを思い出した」「その本だけではない。思えばそうして見限ってきたものが、数多くありはしなかったかと────未練よな」【エンドチェック】
□火霞羅州と話をした□成長点ボーナスを1点獲得した【解説】
羅州の迷いを聞き、それに対しPC達がどのように応じるかというクエリーとなる。 羅州本人も自分の迷いが愚かなものであるという自認を持っているため、自分の迷いを断ち切るためにも、PC達から発破をかけられることを望んでいる。【クエリー3:漂着】
【状況1】
翌朝のことだ。 島に漂流物が上がった。 島の者たちと共に確認すれば、それは近隣を通った三人の船乗りであるらしかった。 渦潮に巻き込まれたか、船が転覆し、島へと辿り着いたのだろう。 どこか野卑た雰囲気を持つ男達だった。海賊か、密猟者の類であったか、いずれにせよ何らかの悪党であったのだろう。「赤えいさまのお恵みじゃ、お恵みじゃ」 島民たちはそう歓び、拘束した船乗りを島の中へと連れていく。【状況2】
翁は一人目の男に尋ねた。「島のものになるか?」「何ワケの分からないことを言ってるんだ、さっさと俺たちを解放しやがれ!」「では、お前は赤えい様のものだ」 そう答えた男を島の衆がわらわらと取り囲み、殺し、バラバラの肉片にしてしまった。 島の衆は男の肉片を持ち、どこかへと去っていった。【エンドチェック】
□漁師たちの行く末を見届けた□成長点ボーナスを1点獲得した【解説】
島の奇妙な文化と接することになるシーン。 PC達がこのような扱いを受けなかったのは、島民たちから「島親様のお連れの方」=「島にとっての客人である」という認識を受けたためだ。半面、この密猟者たちは「漂流してきたもの」=「赤えい様の恵み」という認識となるため、このような扱いを受けている。 「赤えい様のもの」と言われ、バラバラにされた肉片の後を追うのであれば、彼らがそれを海に撒いている光景を目にする。同時に渦潮が収まり、大量の血肉の臭いにつられて多くの魚影が島の周辺に集まりだす。そして再び渦潮が起き、その魚影をまとめて水中へと引きずり込んでいってしまう様を見る。寄せ餌にされているのだと認識できて良いだろう。 島民たちの指す「赤えい様の恵み」は広い意味を持つ。赤えいの身そのものや、漂流物、新たな島民として招き入れ得る漂流者など、海および赤えいから齎される島にとって益となるものは皆、彼らにとっては「赤えい様の恵み」となる。そうして島へともたらされたにも関わらず、島のものにならないのであれば、赤えい様にお返しする必要がある、という理屈だ。 PC達が三人目を救出しようとするのであれば、島民たちは「島親様のお知り合いの方でしたか」と納得し、あっさりと三人目を開放する。特に動かないのであれば、三人目は島のものか赤えい様のものか、どちらかのものになるだろう。【チャレンジ1:調査】
【状況1】
この島にはやはり奇妙な点が多くある。 君たちは調査を開始した。【状況2】
《判定1:結果》 島には畑があり、そこでいくらかの野菜や、稗や粟といったものも栽培されているらしかった。 しかしその畑の中の一つに、見慣れないものがあった。畑に空いた大穴だ。 大穴はぶよぶよとしたものでおおわれており、ひどく生臭い。 島民たちはこの穴を掘削し、とれたもの──白くてぶよぶよした何か──を赤えい様の恵みと呼び、団子の材料にしていた。 そう、それは外ならぬ、巨大な赤えいの魚の身であったのだ!【エンドチェック】
□チャレンジを終えた【解説】
本格的に島の調査を行い、島の真相を知るチャレンジ。 島民たちの生死に関しては、イメージは自由に持って構わないが、要は腐っていないゾンビのようなものと考えてもらえればいいだろう。【リーサル1:沈没】
【状況1】
「……そうか。呪いを克服したわけでは────なかったのだな」 真相を知った火霞羅州がどのような思いでそう言ったのかは、烏天狗の面に阻まれ分からない。 火霞羅州は淡々と続けた。その時にはもう、いつも通りの姿だった。「情報収集は十分だろう。こちらもえいを逃さぬための結界を張り終えたと、先ほど火霞衆より一報を受けた」「仕込みは十分だ。島を沈めるぞ」【状況2】
羅州の放つ炎が朱塗りの御殿を炎上させていく。 PC達に激しい攻撃を加えられ、島が激しく揺れ動く。えいが暴れているのだ。 霧の濃度が増し、渦潮の轟音が増す。 その中に、遠くから、声聞師達の唸るような声が聞こえてくる。 嵐のような島の中、気付けば島民たちが君たちの周囲を囲んでいる。 皆、不自然に友好的な笑みを顔に貼り付け、手にはあの団子を持っていた。「赤えい様のお恵みを、どうぞお食べくだされ────」「現は辛うございます。ここは蓬莱、ここは竜宮────」「どうぞお忘れくださいませ。ずっとここに居てくださいませ」「島のものになりなされ」【エンドチェック】
□リーサルを終えた【解説】
島に対し、本格的な攻撃を行うためのリーサル判定。 クエリー1で赤えいの身を食べていたPCは、攻撃を加えようとすると、島を惜しむような奇妙な心地に駆られ、腕が鈍ってしまう。【決戦:赤えいの島…戦闘情報】
【エネミー】
・赤えいの魚×1・島翁『佐吉』×1・島の衆×3【エリア配置】
エリア4:赤えいエリア3:島翁、島の衆×3【勝敗条件】
勝利条件:赤えいの魚の討伐敗北条件:味方の全滅【備考】
・戦闘開始時に火霞羅州の『強化符』の効果をPCに対して適応する。(判定は必要ない)【戦闘について】
ボスである「赤えいの魚」は最初に攻撃を行った後は、自身のいるエリアを「霧霞」によって暗闇エリアを展開したり、PCのいるエリアを「身じろぎ」で水中エリアにすることに主なターンを割くのが良いだろう。PC達が水中エリアに入り次第、「渦潮」を使って朦朧の付与を狙い、攻撃の成功率を徹底的に下げてしまうのがよい。カルマの消費を狙っていこう。 性質上、序盤に赤えいの「憔悴6」か島翁の「毒4」を入れられれば、PC達をぐっと追いつめられるだろう。 半面、こうした戦法のエネミーは、TRPGに於いてあまりウケが良くない。そのため、エネミーのライフは全体的に低めに設定した。カルマをうまく使えば、十分に勝てる戦いになるはずだ。■赤えいの魚
【エナジー】ライフ55 サニティ60 クレジット40
(PC二人の場合はライフ45)【能力値・技能値】
【肉体】60 生存:70% 操縦:70% 【精神】20 知覚:50% 霊能:75% 【環境】10【移動適正】地上・水中・暗闇
【パワー】
■霧霞属性:強化 タイミング:行動 判定:霊能75%目標:1エリア 射程:0 代償:ターン5効果:目標のエリアに「エリアタイプ:暗闇」を追加する。──一寸先も見えぬほどの深い霧に覆われる。■島翁「佐吉」
【エナジー】ライフ25 サニティ20 クレジット20
【能力値・技能値】
【肉体】赤えいの魚と同じ値とする 【精神】赤えいの魚と同じ値とする 【環境】赤えいの魚と同じ値とする【移動適正】地上・水中
【パワー】
■えい毒符属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:操縦70%射程:1 目標:1体 代償:ターン10効果:目標は〈生存〉-10%で判定を行う。失敗で1d6+2点のダメージと「毒4」を受ける。──赤えいの尾より作られた毒針。■島の衆
【エナジー】ライフ3 サニティ1 クレジット3
【能力値・技能値】
【肉体】声聞師と同じ値とする 【精神】声聞師と同じ値とする 【環境】声聞師と同じ値とする【移動適正】地上・水中
【パワー】
■お祈り属性:強化 タイミング:行動 判定:操縦25%目標:1体 射程:1 代償:ターン10効果:目標の全ての判定の成功率を-10%する。この効果は3回まで累積する。──赤えい様、赤えい様、どうぞ我らをお護りください。【シナリオの結末(一例)】
【状況1】
君たちはえいを無事討伐し、島を沈めた。 船に回収され、本土へと戻る。 戻ってきた君たちの報告を受けながら、鍾馗はあっけらかんとした口ぶりで言った。「な、羅州だけで行かなくてよかったろ」 全く、どこまで知っていたのやら。【成長点】
シナリオ基本成長点…5点成長点ボーナス…3点--------------------------------------合計:8点