槍ヶ岳北鎌尾根

2023年7月29日(土)~31日(月)

参加者7名

 

【行動記録】

7/28 晴れ 23:00新宿駅西口集合→3:00さわんど第2駐車場 仮眠

7/29 晴れ 4:30起床5:30→タクシー移動→6:00上高地バスターミナル6:30出発

       7:30明神館→8:30徳沢園→9:30横尾→13:30水俣乗越→16:00北鎌沢出合

7/30 晴れ 3:00起床4:30→7:30北鎌のコル→11:00独標→18:20槍ヶ岳基部→

20:00槍ヶ岳山頂→20:30槍ヶ岳山荘

7/31 晴れ 5:00起床6:30出発→9:30槍沢ロッジ→12:00徳沢→13:50上高地

バスターミナル→14:30さわんど第2駐車場→15:00梓の湯16:00

→16;30風穴の里で食事17:20→21:00新宿西口にて解散

 

槍ヶ岳北鎌尾根は小説「孤高の人」の加藤文太郎、「風雪のビバーク」の松濤明の終焉の地として名高い。度々山岳小説の舞台となったその尾根は数年前から強い憧れの対象であり大きな目標であった。

峻険な稜線は一度立入ったらエスケープルートも無く、テン泊装備に加えロープやクライミング装備の一切を担ぎ2泊3日で42km、累積標高3894mそれも道の無いところのルートを見極めながら一歩踏み間違えれば命の保証はない険しい岩場を歩き続け所々はロープで登攀する必要がある。まさに気力、体力、技術ともに高難易度のルートである。そのため今回は特に事前準備から入念に行った。各道具の点検と見直し、食事も普段は使わないアルファ米、干し魚やドライフルーツ等にして必要最小限に絞り何とか40Lザックに収まった。体調管理にも気を配り日々のストレッチ、食事もカーボローディングを意識し、酒量も減らして睡眠を十分とるように努めた。当日は体調も天気も申し分なく山行中は晴れが続くとの予報で絶好のコンディションで迎えられた。

前日の夜行で沢渡の足湯公園に着いたらいつもの定位置にテントを張って仮眠。翌日は早朝よりタクシーにて上高地入り、疲れを残さないようにペース配分に気を付け、およそコースタイム通りに進む。途中の徳沢にて代表がソフトクリームでも食べては?とのまさかの寄り道。お陰様で緊張感がいくらかリラックスできた。水俣乗越からは登山道を外れ天上沢沿いを進む。左手に北鎌尾根、迫力の独標を見ながら急斜面のザレ場を進むとゴーロ地帯に降りる。途中、伏流水が湧いており夕飯、朝飯用の水を汲んでいった。目印となる北鎌沢出合のケルンは思ったより控えめな左手端にありうっかりすると見落としてしまいそうだった。雨の心配は無いため涸れ沢の中央部を整備してテントを張った。他に2人パーティーとガイド3名のパーティーのみで静かに過ごせた。

翌朝は日の出と共に行動開始、当会は7名パーティーのため他パーティーに先行を譲った。北鎌沢の左俣は死のルートと呼ばれており入り込んでしまうと難路が待ち受けている。幸い霧も無く見通しが効くため注意していれば問題無く右俣を見つけられた。ここで1日分の水を汲む。この先は水場が無く日射のもと1日稜線上を歩くため万一を考え必要量以上をプラティパスに補給したが重い・・北鎌沢のコルを目指し3時間巨石の間を沢登りのように登攀していった。途中にある分岐からクライマーホイホイに迷い込むと危険との事前情報だったがコルが視認できている分には迷い込む心配は無かった。北鎌沢のコルから天狗の腰掛を抜けて独標基部までは踏跡もあり快適だった。独標は直登する人もいるらしいが今回は巻いた。危険個所として出てくる逆コの字は思ったより距離も無く気を付けていれば問題無い。逆コの字通過後、トラバースが難路に見えたため尾根へ上がるルートを取ろうとしたが代表に止められた。ここの岩壁のトラバースはホールドもしっかりしておりまだ暫く巻いた方が得策との事。進んでみると確かに絶壁ではあるが難易度は低く最短で独標を抜けられた。ここの判断は難しい、さすがは9回目だけあって経験値が半端でない。独標を抜けた先では、大蛇のようにうねった尾根に阻むように峰が点在し、その先に威風堂々と尖った槍ヶ岳が見える。西鎌尾根、東鎌尾根、北鎌尾根が伸び切った頂点に聳える槍ヶ岳は日本の中心のような風格が感じられる。ここから基本は稜線伝いにP15まで進むが完全に規定コースが無い状態となる。踏み跡に見える筋は風雨が気まぐれに付けただけの可能性が高くどこに繋がるか判断の基準とするには極めて危険。出来る限りの方向から次の峰の間のコルを目標として確認しそこまでのルートが岩場、ガレ場、ザレ場、それぞれどの程度の危険性があるのかを比較して少しでも安全に通過可能なルートを判断していく。巻くにしても標高を下げ過ぎず次のコルより上げすぎない事も体力温存から肝心だ。途中、厳しい登攀箇所には後続のためスリングを設置、クライムダウンの難しい絶壁は懸垂下降で通過と時間はかかるが安全策を施す。このルート取りの自由度とその結果がストレートに跳ね返ってくる緊張感は何とも言えず楽しい。途中に迷惑そうな表情を向ける猿が何匹も尾根に居たが近づいていくと面倒くさそうに道を空けてくれる。こんな荒廃とした場所で危なくて食べ物も無いだろうにどういう心境で居るのだろうか?高いところが好きなのか、山が好きなのか?おそらく猿も我々を見て同じ事を思っているだろうがこちらも申し開きのしようも無く気まずい雰囲気だけが漂う。北鎌平に着くといよいよ槍を残すのみ、遠くに見えていた槍は尖った巨岩の堆積で針山のようだ。基部よりロープ無しで行けるところまで登攀する。代表いわくロープを使うのは1.5ピッチ程との事。取り付き迄は代表と相談しながら進むが思い当たる場所が見つからないため登れそうな箇所を探してロープを用意したが予想より手前だったらしく2.5ピッチかかった。頂上の祠に着いた時には日は山の陰に入っており薄暗くなっていた。僅かなアーベンロートを見に来ていた登山者から労いの言葉を頂くが直ぐ日が沈み我々だけとなる。最後の7人目の登攀が終わって20:00、実に行動16時間かかったが小さなケガも無く全員無事に登頂出来た。7人と大所帯だが丁寧に安全策を採った結果と思いたい。全員で登頂を堪能する間もなく真っ暗で霧も出ている事もあり恒例の記念撮影も小屋で行う事として早々に下山開始。普段なら何でもない鎖場だが闇夜と疲労のため安全策としてビナ通しで通過した。計画ではこの後テン泊予定であったが槍ヶ岳山荘が空いていたため素泊まりできた。ビールで乾杯して一息つくとやっと登頂の喜びが実感となった。最終日は下山のみだが8時間かかる。温泉と食事恋しさに足が早まるが代表より景色や草花を愛でる心を持ちなさいとのお言葉にさすがの余裕を感じた。帰路は梓湖畔の湯でさっぱりした後、風穴の里で食事をして帰路に着く。

                                 記録S・H