厳冬期槍ヶ岳中崎尾根


2023年12月29日(金)~31日(日)


参加者3名


【行動記録】

12/28 晴れ 19:30葛西集合→20:30日野バス停0:30道の駅奥飛騨 仮眠

12/29 晴れ 3:30起床5:00→5:30新穂高市営駐車場6:00出発→12:30槍平小屋

       14:30奥丸山分岐→BC設営15:30→20:00就寝

12/30 晴れ 3:00起床5:00→7:30千丈乗越→8:00西鎌尾根岩場基部10:00→撤退

13:30BC→撤収14:20→15:30槍平小屋→16:30滝谷避難小屋泊

12/31 雨  4:00起床6:00出発→10:40新穂高市営駐車場→11:30中崎荘温泉13:00

→13:20お食事処あんきや14:00→17:00葛西

 

厳冬期槍ヶ岳は昨年から温めてきた企画で今回は参加者に恵まれようやくの挑戦となった。今年は例年に類を見ない暖冬となり、10日も前から天気や近況の状態の情報収集に努めた。28日夜間に数cmの積雪以外は実施日の前の週まで天気は良好で積雪も見られない、アタック日の30日は終日晴れだが31日は低気圧の影響で終日雨か雪の予報、計画も代表と相談し随時見直しを計った。滝谷の夏場は橋が架かり一般も通行可能だが11月上旬には積雪と沢の流れで橋が壊されないよう撤去される。通常なら積雪のため滝谷は埋まり渡渉の心配はないが、今年は暖冬のため積雪が少なく渡渉しなければいけない状況であった。安全対策として日の入りの17:00前の明るい間の渡渉、降雨後の渡渉は避ける事が条件としてあげられた。事前に作戦を練りエスケープルートとして下山時に奥丸山登山口へ抜けワサビ平小屋経由を検討した。これは夏道での利用しか例が無く冬季利用者は皆無、渡渉は避けられるが当然トレースは期待できない。登山指導センターへ確認したところ同じ見解を得られ最終日のエスケープルートとして計画の予備に組み入れた。

実施日前日は帰省ラッシュを考慮していつもより早い集合としたが、全く渋滞は無く予定よりも大分早い到着となったため駐車場ではなく道の駅での仮眠とした。厳冬期のテン泊装備、予備を入れて3泊分以上の食料、ロープにクライミングギア等、優に20kgオーバーの荷を背負い初日は中崎尾根中間部までコースタイム6時間、10km、1575mの登りは今までに経験の無い行程だ。早朝予定通りの時間に意気揚々と出発、途中の滝谷は吸い込まれそうな青に映えていた。避難小屋を偵察し状態が良く利用可能な事を確認、渡渉も降雨が少ないため問題無く通過できた。槍平小屋から中崎尾根までの支尾根はひたすら急登が続く、肩に荷が食い込むが背後の白と黒との穂高岳に励まされなんとか尾根中間部に予定時間より若干早めに到着。ここまでは雪質も良く全てつぼ足でこられた。程無く進んだ先にテン場跡地を発見、少し前のもので3人テント用程だが整地して利用させてもらう事にした。スコップで一回り大きめに切り開き地面を平坦に均す。テントの張り綱は近くのダケカンバと掘り起こした木の根、割り箸のペグで固定。木の裏側へトイレを造り1時間程でBCの設営が完了した。荷を解いた後は、ひたすらバーナーで雪を溶かしお茶、行動用の水、炊事用の水を作り続ける。今回の食事は効率化を図り全て共同で炊事する事にしていた。Oさんが担当、メニューと食材を用意してくれた。初日の夕飯は鴨肉とネギ、ナルトをたっぷりと入れた鍋いっぱいのウドン。途中で味を変えるためクリームチーズを入れるとカルボナーラ風になった。大変美味しくきれいに平らげ他にも干し肉、干し魚、ドライフルーツ等でお腹一杯に食事を摂ったがそれでも1500kcal程か、消費kcalは荷物含め80kg×5メッツ(運動強度)×8時間で3200kcal程、それに基礎代謝の1500kcalを足すと4700kcal必要な計算になるが現実問題、胃袋にも限界があるので行動食が重要となる。疲労と満腹感とで20:00就寝。深夜に用を足しに外に出ると見事な満月でヘッデン無しでも歩けるほど明るい。青白い光の中、笠ヶ岳から乗鞍岳、穂高岳、西鎌尾根から槍ヶ岳まで息をのむような白銀の景色が一望できた。

アタック日は3時起床、朝食はラーメンにチャーシューやかき揚げ、厚揚げ等を具としてこれも美味だった。腹ごしらえを済ますと体も暖まりアタックの準備を行う。アイゼン、ピッケル、ハーネス、ガチャ類、メット等の全ての装備を身に着け、非常時用にツエルト、バーナー、ガス缶、コッヘル、非常食もパッキングした。中崎尾根から千丈乗越までは尾根道をアップダウンを繰り返しながら徐々に高度を稼ぐ。予定通りに難所の千丈乗越基部で夜が明けた。西鎌尾根は35℃程の斜度、100m程の雪壁すべり台の先にある。ピックを力一杯に打ち込みながらフロントポインティング(アイゼン前爪の蹴り込み)で登り詰めた。ここまで順調に2時間30分、予定より若干早めのペースで着いた。ここから稜線上を肩の小屋まで難所は無いはずだったが、1時間程進んだ先で先行パーティーが引き返してくる。肩の小屋直下の岩峰をトラバースするはずが雪質が固くピックの先数ミリしか打ち込めないとの事。今年の暖冬で降雪が少なく溶けては凍ってを繰り返したせいだろう、カール状の雪壁は風に磨かれ固くクラストした45℃程の広大なすべり台で滑りだしたらまず止まらない。飛騨沢800mを一気に滑落して岩に当たれば体が弾け飛ぶことは間違いない。自分もピッケルを刺す直前に片足がずり落ち滑落しかける。急いでピックを打ち込んでなんとか止まったので今記録を書けている。仕方なく岩峰を越えるルートをロープを張り探すが良い場所が見当たらない。急斜度80度ほどの雪壁を10m程トラバースできれば反対側の尾根に出られる。試してみたがここの雪質はグズグズで行けたとしても帰りには使えないだろう諦めて引き返す。万が一落ちた時にはロープを張っているとは言え宙吊りとなる。引き上げのレスキューは皆ジムで練習しているが実践で使えるかは怪しい。別パーティーの情報で岩峰上部から懸垂下降すれば反対側の尾根上に出られるとの事だがこれも戻れる保証はない。およそ2時間の立往生をしている間に後続2パーティーのうちの1パーティーが日が差して雪質が柔らかくなったことを期待して雪壁をトラバースする作戦をとる。スタカット(確保しながらの交互登攀)でダブルアックスを使用し慎重に進んでいく。ここで他の2パーティーもそれに続くが自分は判断に迫られる。フロントポインティングによる登攀はアイゼンの前爪を強くけり込みながらふくらはぎの力で爪先立ちのような要領で進む。自分も100m程は進める自信があっても最後まで辿り着けるか自信はない。終了点がどこかも判別できない(後で温泉で再開した際に聞いた話だと、トラバース120m程で尾根上のトレースに出られたとの事)。同伴の2名については雪壁の経験はもっと浅い。おまけにピッケルはパーティーで合わせても4本、ダブルアックスなら4点で3点支持が可能だがピッケル1本だと3点で2点支持となる。スタカットにしろ頑強な支点は望めないため1点滑れば1点では支えられないためそのままサヨナラだ。時間も既に10:00、テン場まで戻り下山準備をして滝谷まで降るにはリミットだ。先に進んだとして上手くいってもBCに戻るのは17:00の日の入りを過ぎるだろう、悪くすると肩の小屋で一夜過ごすことになるが翌日は低気圧真っただ中となる。他パーティーが前進する中、総合的に判断して撤退とした。体力と技術の限界を感じる事ができ、充実感はあるがそれより敗北感で胸いっぱいとなる。槍の穂先を目前とし記念撮影を済ませて一心下山にとりかかる。千丈乗越を神経をすり減らしバックステップで下降し暫く進んだ先でようやく休憩をとる。みんな口数も少なく山々に見入る。休憩後、サブリーダーOさんを先頭にテン場まで急ぐ。緊張感のある登攀で気が付けばろくに行動食も摂っていない、張り詰めていた気が一気に抜けたのもあるだろうが足が思うように進まない。2人との差がどんどん開いていくので一人歌を歌いながらのんびりとBCまで進んだ。13:30BC着、テントをたたみ、トイレを埋め戻し14:20、行動食を無理やり腹に流し込み下山開始。時間にはまだ余裕があるためエスケープルートである左俣ルートワサビ平小屋経由は捨て、日没前に滝谷避難小屋を目指す事にした。事故は下山時の方が多いと自らに言い聞かせ、濡れて一層重さが増すザックを担ぎ中崎尾根支尾根を降る。途中急傾斜は安全のため10m捨て縄用を手掛かりとして使い回収。15:30槍平小屋着時にスマホのアンテナが1本立ったので代表に状況報告を入れた。重くなった足を引きずり16:30滝谷避難小屋に到着する。魔窟のような滝谷の脇に佇む小屋は幽霊が出ると有名だ。Gさん曰く、滝谷から救助された人や遺体が一旦休むのに使われるらしい・・。中は清潔で無理をすれば15人は入れるだろう小屋に3人と他ソロ1人で使えた。荷物を整理して火を起こし滝谷からくみ上げた水でお湯を作りOさんがとっておきのドリップコーヒーを煎れてくれた、心づかいが嬉しい。3人で啜りながらやっと人心地つく。夕飯にはカレーうどん、カマンベールチーズとパン等を食しながら歓談後に就寝したが疲労のせいか幽霊の仕業か2時間置きに目が覚めてしまった。

 3日目の朝は4:00に起床、ゆっくりと朝食のラーメンを食べて身支度を整えた。ここからの下山に必要は無いが折角持ってきたワカンで訓練を兼ねて下山した。つづら折りのトレースを無視して直線で急斜度を降る。初めてワカンを使うGさんは途中何度も弛んで取れてしまったが練習のため調整を繰り返して締めなおす。時間にゆとりがある時の訓練は大事だ。11:00市営駐車場に到着。ゆっくりと温泉に浸かり3日分の汗を流して気持ちまで生き返る。途中食事を摂り17:00渋滞も無く葛西に到着。

 今回、念願の厳冬期槍ヶ岳への挑戦は敗退という結果に終わったが今後の課題を明確にする事ができた。日程は3泊4日プラス予備1、2日。雪壁でのダブルアックス登攀及び確保の訓練を積む。20kgオーバーを背負い最低1日9時間、連続4日間は行動できる体力をつける。気象による状態の変化への経験、知識を積む等。最後に、自分には登れないだろう山へ挑戦する事で初めて大きな経験を積み成長する事が出来ると思えた山行だった・・が、悔しい!臥薪嘗胆研鑽を重ね次こそは登頂!まってろ槍!!

                                   記録S・H