流体研究室では,流体が関わるさまざまな物理現象について研究を行い,その成果を機械工学の分野で応用することを目指します.空気や水など,流体は私たちの周りに多く存在しますが,流体が関わる現象のすべてが物理的に解明されているわけではありません.また,それらの現象の中には,本質的にマルチスケールとしての性質を有しているものが少なくありません.流体研究室では,流体力学と分子流体力学の両方を駆使し,マクロとミクロの両面から,流体の新たな可能性を探索していきます.
SDGsやグリーン成長戦略で注目される洋上風力発電は,欧米で一定の成功を収めているものの,日本の海域での設置や運用には技術的に未知の部分が多い.そのため,陸上風力発電の普及も着実に進める必要があるが,現在の主流であるプロペラ型風車は大型化にともなう導入コストや維持管理コストの増大が著しいうえ,低周波騒音や景観破壊などの問題も顕在化している.これに対して,垂直軸型風車はシンプルな構造のために,大型プロペラ風車よりもコストを圧倒的に抑えられる.また,プロペラ型と比較して回転数が低いことから騒音も少なく,様々な場所に設置できる.しかしながら,プロペラ型よりも発電量が少ないという欠点があり,現状ではショッピングモールや学校などのモニュメントや教育用設備としての役割に留まっている.
風レンズと呼ばれるディフューザ(拡大管)を付加装置として風車の周囲に取り付けると発電効率が大幅に高められる.風車の付加装置の歴史は古く,海外ではDAWTとも呼ばれ,国内では九州大学が風レンズの名称を用いて研究をリードしてきた.しかし,国内外の研究の多くはプロペラ型風車を対象とした丸型風レンズであり,中規模以上の風力発電事業を想定している.これに対して研究では,角型風レンズを取り付けた小型垂直軸型風車を小規模発電システムとして活用することを目指す.本研究では小型垂直軸型風車に最適化された角型風レンズの研究に取り組んでおり,これまでに風レンズ内部の剥離抑制に乱流促進突起を用いることで,最大で1.46倍の風速増幅効果(風速の3乗の風エネルギー換算では約3倍)に加えて,揚力型風車の始動性の改善と回転数増幅効果を確認している.
本研究では,数値流体シミュレーションを用いて,風レンズや乱流促進突起,風車の形状や設置条件などに関する最適条件を見出し,実際に風レンズを製作して風洞実験にて性能を確かめる.また,風洞実験の結果をシミュレーションにフィードバックすることで,数値計算と実験の両面から検討を進めていく.以上の取り組みによって,風レンズによる風速の増速率のさらなる向上を目指す.本研究によって実用に耐えうる高い発電効率を有する小型垂直軸型風車を実現できれば,地域の分散型発電や災害時緊急電源,山間部における独立電源としての活用に加えて,災害に強いまちづくりやスマートシティでの再生可能エネルギー利用などへの貢献なども期待される.
風レンズ付き小型垂直軸型風車の試作品
数値シミュレーションの様子
風レンズによる風速増幅効果(風洞実験)
参考文献:
Keita Shimizu, Hiroyuki Abo, Masaki Sato, Hisao Yaguchi, Experiment with a Prototype of Vertical-axis Small Wind Turbine with a Wind Lens, Proceedings of 2023 IEEE 12th Global Conference on Consumer Electronics (GCCE 2023) pp. 1073-1074, 2023.
(1) 気液界面における質量・運動量・エネルギー輸送
(2) 気液遷移層の構造およびその内部における分子間相互作用
(3) ナノ液滴に対する熱力学の適用限界
(4) 高速液滴衝突による半導体洗浄における蒸発・凝縮の影響
(5) ファインバブルの運動や性質