遠紫外線UVC
人には無害,ウイルスには有害
紫外線C波(UVC)ランプは,細菌,ウイルス、カビ対策の目的で,病院や食品加工業などで以前から利用されてきた.5月中旬,インターネット上で「米NY市の地下鉄、紫外線による新型コロナ殺菌を実験へ」という記事を見かけた.UVC線(100-280ナノメートル)は皮膚がんや眼疾患を引き起こす危険性があるため,人のいない場所でしか使用できない,地下鉄の実験は夜間、地下鉄の運行が停止しているときに行われているとのことである.
遠紫外線C波の利用が鍵
これとは対照的なのは,コロンビア大放射線研究センター(Center for Radiological Research)の狭帯域UVC波,すなわち「遠紫外線C波 (far-UVC)」を用いる方法である.
紫外線は波長帯域により.UVC (100-280),UVB (280-320), UVA (320-400)の3種類に分類される.最も波長の短い紫外線C波(UVC) の波長域は100-280ナノメートル, その中の205〜230ナノメートルの狭い部分が「遠紫外線C波」と呼ばれ,細菌やウイルスのみを効果的に不活性化することが期待されている.
同センターのデービッド・ブレナー(David Brenner)所長によると,遠紫外線C波の波長は205〜230ナノメートルと短いので,人の皮膚角質層や目の表面(涙液層)を貫通できないため人体には無害であるが,ウイルスにとっては有害とのことである.
注)ウイルスやバクテリアは,人の細胞よりもはるかに小さいので,far-UVC光はそれらのDNAに到達し,その結合構造を破壊し,殺菌することができると説明されている.DNAの構造変化については,紫外線の殺菌効果と原理を参照のこと.
予備的な実験の結果,表面に付着した新型コロナウイルスをUVC線が数分以内に死滅させることがすでに明らかになっている.さらに,遠紫外線C波が人体に無害であることを確認するためのマウスを使った長期にわたる過酷実験では,何一つ異常は認められていないとコメントしている.
このような情報が伝わる中,コロンビア大学と狭帯域スペクトル紫外線技術の独占ライセンス契約及び研究委託契約を締結しているウシオ電機の株価が急伸した.ウイルスを不活化したり殺菌したりする新装置は既存の照明器具に取り付けることができる.安全性も高く有人環境下でも使えるという強みがある.北米の照明器具メーカーと供給契約を結び,オフィスや商業施設,学校などの公共施設向けに投入する.日本や欧州での販売も検討しているとのことである.
○Could a New Ultraviolet Technology Fight the Spread of Coronavirus?(4/21, 2020 Columbia University) コロンビア大学のニュース
「私たちのシステムは、空気中のウイルスが呼吸、咳、またはくしゃみをしてから数分後に空気中のウイルスを根絶するための低コストで安全なソリューションです」とブレナー氏は述べています。
(2020.6.11)