伸縮計 地すべり 崖崩れ 地盤 WEBモニタリング インターネット観測 安全管理 警報装置 シンク・フジイ LoRa通信 LoRa 無線 のび太 安全管理システム 藤井基礎設計事務所
伸縮計(地盤伸縮計;Ground Surface Extensometer)とは
伸縮計について
「伸縮計」という名称をネットで検索すると地盤計測に用いるものの他にも様々な機器がヒットします。何らかの長さや距離がある範囲内で変化(伸長または収縮)することを計測する機器を一般的に「伸縮計」と呼んでいます。
地盤計測の分野で「伸縮計」と呼んでいるのは地表面の2点間の距離変化を計測する機器で、正確には「地盤伸縮計」とか「地表伸縮計」などと記載すべきなのでしょうが、本サイトでは単に「伸縮計」と記載することにします。
伸縮計のしくみ
伸縮計(地表伸縮計)とは引き出したワイヤーの長さ(距離)の変化を測る計測器です。
上図のように地面の2箇所に杭をうち、一方の杭(移動杭)ともう一方の杭の上に設置した伸縮計(不動点)の間にワイヤー(インバー線※)を張り、杭の位置が移動した(地面が動いた)場合のワイヤーの長さの変化(伸長または圧縮)を測ります。
※)インバー線;温度による体積変化の少ないインバー合金で作られたワイヤー
インバー線の保護
実際に伸縮計を屋外に設置する場合、インバー線が裸(むき出し)で張られていると風で飛んできたゴミや枝などが引っ掛かってインバー線を引っぱったりする(地盤変位として記録される)ので保護管の中を通します。
保護管(パイプ)はインバー線を守るためのものでインバー線や移動杭、伸縮計には接触しないように設置します。
伸縮計測定原理
伸縮計の測定原理(かんたんな説明)
伸縮計は簡単に言えば糸巻き(プーリー)です。内蔵される滑車のような糸巻きにワイヤーが巻かれており、常に巻き取る方向に反力がかかっています。このワイヤーを引き出し、移動杭に繋がるインバー線と接続します。
伸縮計と移動杭の間の地面に亀裂(クラック)があり、左図のように亀裂が拡大した場合、斜面下側の杭が地盤と一緒に移動し、移動した分だけワイヤーを伸縮計(糸巻き)から引き出します。
糸巻きからワイヤーが引き出されると糸巻き(プーリー)が回転します。この回転を適当なギアで変速し、回転式可変抵抗(ボリューム抵抗)によって抵抗値の変化に変換します。抵抗値は入力線(図中のINとCOM)に電圧を印加し、出力電圧(図中のOUTとCOMの間の電圧)を計測して知ることができます。
あらかじめ得られているワイヤーの引き出し長さと電圧変化(または抵抗値変化)の関係から、地盤の変化前(初期値)に対して地盤変化後のワイヤーの長さの変化(移動杭と伸縮計の間の距離変化)を知ることができます。
伸縮計には、ここで紹介した電圧印加により出力電圧を返すだけもの(センサー機能だけ)の他に、変換した測定値を液晶画面で表示したりデータをメモリに保持し、閾値を設定して警報接点を出力するものなど様々な機能を持たせたものがあります。
シンク・フジイで地盤のWEB観測を行う場合は、伸縮計にノード(ロガー+送信機)を接続します。伸縮計の抵抗値変化からワイヤー長さの変化を得る部分はこのノードが行います。また、ノード→ゲイトウエイ→インターネット→弊社サーバーと送られたデータはサーバー内でグラフ化や警報判定、AI崩壊予測などの解析が行われます。このため、伸縮計はセンサー機能だけのものを使用します。
伸縮計の設置目的
工事中の安全管理
伸縮計設置の主な目的は工事中の地盤の状態を監視することです。災害復旧工事やトンネル掘削工事など斜面を掘削する工事を行う場合、作業員は斜面の上から来る崩壊土砂の危険に晒されます。このため斜面上の地盤を伸縮計で監視し、地盤に動きがあった場合は、伸縮計に接続されている警報システムにより斜面下の作業員に知らせて避難させます。
伸縮計の設置場所は設置の目的や現場の状況によって様々です。ここでは伸縮計を活用する代表的な例を紹介します。(通常は伸縮計と警報システムを連携させます)
斜面掘削(切土)工事の安全管理
斜面(法面)を掘削する場合、安定勾配より前の部分が崩壊する危険があります。
調査ボーリング作業の安全管理
地すべりが起きた場合、地下の土質や地下水位などから地質、帯水層、すべり面を調べるため調査ボーリングを行います。調査ボーリングは不安定な地盤や土塊の上で作業を行うことが多いため地盤の監視は必須です。
トンネル掘削工事の安全管理
トンネルの掘削に伴って上部の地盤は沈下します。特に坑口に近い部分の沈下の状況を監視することは重要です。
落石対策工事の安全管理
斜面の上にある不安定な岩塊などの動きを監視します。同様に不安定な構造物(柱や壁など)の動きも監視できます。
実際の現場での設置例
地すべり災害現場
地すべり災害現場
トンネル坑口上
シンク・フジイ LoRaのび太安全管理システムによる伸縮計WEB観測
無線式観測システムの必要性
伸縮計を設置する場所は災害現場など特に崩壊の危険のある場所になります。伸縮計は単体でデータを収集・保持・表示するものもありますが、それだけではデータを見る、または取り出すために伸縮計が設置されている場所(=危険な場所)に行かなくてはなりません。このため最近は無線やインターネットを利用して安全な場所からデータを収集、閲覧するのが一般的になっています。
WEB(インターネット)観測について
机上で考えれば、伸縮計が一定時間おきに地盤データを計測し、データをWEB経由でサーバーに届け、サーバーでグラフ化してWEBページで配信する(メール警報も含む)というシンプルなシステムが考えられます。だからWEBカメラのようにインターネット接続機能を持った伸縮計を作れば良いのではないでしょうか。
ところが、現時点の現場ではそう簡単にはいきません。上記のようなシステムでは次のような条件を考える必要があります。
・伸縮計が直接インターネットに接続できる場所(携帯電話回線のエリア内)にあること(特に山間部では未だインターネット環境がない場所が多い)
・長期間(数カ月以上)連続で機器が通信待ち受けとWEB接続ができる電力を供給できる電源があること。
普通は山の上に電源などありません。ソーラー電源を使用したくても樹木が茂っていて日が当たらないことが多いのです。また、送信機(ノード)は伸縮計のデータを収集する短い時間だけ電力を消費し、ほかの時間はスリープするため電池で長期間稼働させられますが、受信側(ゲイトウエイ)は24時間常に送信機からの信号を待ち受けており電力を消費し続けます。弊社システムのゲイトウエイはソーラー電源で稼働する省電力タイプ(4W程度)ですが、バッテリー(自動車用20Ah)だけでは10日程度しか持ちません。
・斜面が崩壊した場合、機器全体が土砂に埋まって失われるリスクがあります(崩壊斜面などに高価な機器一式は置けない)
これらの条件を考慮し、現在、弊社で使用しているのは下図のような観測システムです。未来では衛星通信のインターネットにより全国どこでもWEB接続ができ、より安価で低消費電力のゲイトウエイや長期間持つバッテリーが出来る時が来るかもしれませんが、現時点では現場内無線通信を組み入れたシステムとなります。
データの流れ
斜面上側(危険な場所)
安全な場所
・伸縮計に接続されるノードは伸縮計から少し離れた安定した地盤の上に設置します。(ゲイトウエイまで見通しが利く場所が良い)
・ノード(送信側)は市販のアルカリ単1乾電池4本で1年間稼働します。
・ゲイトウエイは斜面下のWEB接続可能で安全な場所(現場事務所の近くなど)に設置します。見通しがあれば10㎞の長距離データ転送が可能です。
・ゲイトウエイ(WEB接続できる場所)からインターネット経由でデータを10分(標準)おきに藤井基礎グループサーバーに送ります。
・藤井基礎サーバー内でデータをグラフ化し、専用WEBページ(ID,パスワードで保護)で配信します。
・サーバーはデータから警報判定を行い、地盤の動きが閾値を超えた場合、あらかじめ登録されているアドレスに警報メールを一斉配信します。
・関係者はWEB接続できる場所ならどこからでもデータグラフを閲覧できます。
メリット
・伸縮計データを危険な場所まで取りに行かなくて済む。
・伸縮計がインターネット接続できない場所にあってもノードから長距離通信(LoRa無線)でゲイトウエイが接続できる場所までデータを届けられます。
・回線エリアと同様に、長距離通信によりゲイトウエイの設置場所としてなるべく日当たりの良い場所を選ぶことができる。
・斜面が崩壊した場合、土砂に埋まって失われるのが伸縮計(場合によってはノードも)だけで済む。
システム図(詳細) シンク・フジイ LoRaのび太安全管理システム
・地盤に大きな動きがあった場合、サーバーからゲイトウエイ経由で現場の無線式警報機を動作させ、関係者全員に一斉警報メールを送ります。
・1台のノードに伸縮計(電圧DC5V)2台と雨量計(パルス出力)1台まで接続(有線)できます。
・観測インターバルが10分(標準)の場合、1台のゲイトウエイがノードを4台まで通信接続(Lora無線)できます。
・ゲイトウエイにはシリアル接続(有線;RS232C,RS485)やUSBで(消費電力の大きな)機器を接続し、データを転送することもできます。
・ゲイトウエイ設置場所に商用電源(AC100V)がある場合、AC100VをDC12Vに変換するADコンバーターで給電し、ソーラー電源は省くことができます。
地すべり災害現場での伸縮計観測システム設置例(LoRaのび太安全管理システム)
ノードやゲイトウエイ、ソーラー電源など観測機器についてはLoRaのび太安全管理システムのページをご覧ください。
その他システム構築例
災害現場やトンネル工事現場などでの伸縮計観測機器の配置例をご紹介いたします。
地すべり災害現場
(島根県松江市)
・伸縮計 3基(WEB観測)
・伸縮計 1基(記録用)
・無線式警報機 2基
・WEBカメラ
・LoRaのび太システム
ノード 3基
ゲイトウエイ 2基
ソーラー電源
地すべり災害後の地盤調査(調査ボーリングなど)時の安全管理のため、伸縮計による地盤変位観測を行いました。
トンネル工事現場
(島根県浜田市)
・伸縮計 1基
・無線式警報機 1基
・LoRaのび太システム
ノード 1基
ゲイトウエイ 1基
商用電源
トンネル掘削工事時の安全管理のため坑口上部の地盤の変位(沈下)を伸縮計により監視しました。
歩道橋撤去工事
(島根県松江市)
・伸縮計 2基(WEB観測)
・伸縮計 1基(警報出力)
・警報機 1基
・LoRaのび太システム
ノード 1基
ゲイトウエイ 1基
特殊な伸縮計観測です。
車道橋に併設されている老朽化した歩道橋を撤去する工事の際、歩道橋の倒壊や車道橋に与える影響を監視するため伸縮計を設置して歩道橋と車道橋の変位を監視しました。
地すべり災害現場
(島根県雲南市)
・伸縮計 2基
・無線式警報機 2基
・LoRaのび太システム
ノード 1基
ゲイトウエイ 1基
商用電源
地すべり災害後の地盤調査(調査ボーリングなど)時の安全管理のため、伸縮計による地盤変位観測を行いました。
地すべり災害現場
(島根県松江市)
・伸縮計 4基
・LoRaのび太システム
ノード 2基
ゲイトウエイ 1基
ソーラー電源
地すべり災害現場での地盤調査および仮設道路工事時の安全管理のため伸縮計による観測を行いました。
トンネル工事現場
(島根県鹿足郡)
・伸縮計 1基
・無線式警報機 1基
・LoRaのび太システム
ノード 1基
ゲイトウエイ 1基
商用電源
トンネル掘削工事時の安全管理のため坑口上部の地盤の変位(沈下)を伸縮計により監視しました。
地すべり災害現場
(島根県出雲市)
・伸縮計 6基
・雨量計 1基
・無縁式警報機 4基
・LoRaのび太システム
ノード 4基
ゲイトウエイ 2基
商用電源
・ZBのび太システム
NICE 2基
NC 1基
商用電源
・OSNETシステム
送信機 1基
受信機 1基
商用電源
地すべり災害現場での地盤調査・復旧工事時の安全管理のため伸縮計、雨量計による観測を行いました。
比較データとするため「のび太」以外の観測システムも併設しました。
被災した国道の下にJR線があり、JR管制室にも別途、WEB経由で動作する警報機を設置しています。
ノードやゲイトウエイ、ソーラー電源など観測機器についてはLoRaのび太安全管理システムのページをご覧ください。