Eternalpole Yamabiko

キュレーターからのごあいさつ


本展覧会は、誰にとってもごく身近で多種多様な用途・解釈・表現方法が交差する「写真」を、遠くにそびえる山々へのこだまに例え、主題を 『やまびこ』(Yamabiko) としました。出展作家として、 Kazuya Yoshino/柘植美咲/西岡心平/藤江龍之介/山本 華/石田祐規 ら、2000年代から今日までそれぞれの舞台で活躍する6人の写真家にお集まりいただきました。


類い稀な独創によって美しいライフハックを教えてくれる写真表現者たち、平時の活動では見られない大変異色な顔ぶれです。作風、制作スタンス、バックグラウンド、そして出身県までが異なる彼らの写真作品が一堂に会し交わるマルチバース系写真展を、ぜひとも現場でお楽しみください。本展の企画では、鑑賞者のためのより良い展示とは何なのかを自問、追求しながら、「発見のよろこび」に焦点を当てた場所づくりを心掛けています。思いがけない愛おしい作品(もしくは展示環境による化学反応)との出会いから、ここでの新たな原体験を得て、今までにない感度の獲得を狙います。仮に、生きることが何かという問いの解が出会いであるとしたら、感性に訴えかけるような何物にも変え難い経験やコンテンツこそ、楽しさの根幹であると考えています。


写真における代替できない経験といえば、国内で最も影響力のあった二大写真コンペディション『写真新世紀』と『1_WALL』が同時期に終了した事実は、多くの若手写真家にとって「発見の喪失」に繋がったのではないでしょうか。私も写真を撮る者として、名の無い写真の行き場やエターナルポール(=時の流れの道しるべ)を一時的に失いました。まだ見ぬ写真領域に触れられる機会が減ったように感じ、若手写真家たちの業界がいつも以上に平坦に見えた日から、みんなのエターナルポールとして当企画構想を練り始めました。当初は、とにかく記憶に残る写真展を見てみたかったのですが、それはやがて、「決まり」をなくしたフラットなコミュニケーションとしての写真鑑賞を遂行したいという真の目的に繋がります。

企画の元ネタの一つとして、かつてのインディーズ写真イベントの再来を願うものもあります。本展出展作家の石田祐規を中心に2012年東京都豊島区のターナーギャラリーで開催された展覧会《イケイケハッピーハッピー写真ニューイヤー》や、2014年当時杉並区にあったTAV GALLERYこけら落とし展覧会《ピクチャーパーティ2》等は、私が活動を始めるより以前の出来ごとですがウェブ上のアーカイブを通して、純粋な写真表現の楽しさに没入できる展覧会情報に胸を打たれました。


現代では情報の過剰受信によって本質的かつ長期的な理解が霞みやすくなったと感じるかもしれませんが、理解とはささやかな愛情であり、そのプロセスに決まりはありません。「価値観を超越し反響し合う本展が、僅かでも 物見やぐら として活かされますように」と身勝手な祈りを捧げております。全ての皆さんにとって新鮮な楽しみにつながれば、この上ないよろこびです。


多元的に拡張し続ける写真環境と、それを光らせてきた写真家たちによる作品群をご堪能ください。


サマサ・シシースター