『技術倫理研究』
発刊趣旨
Journal of Engineering Ethics
Purpose of Publication
Journal of Engineering Ethics
Purpose of Publication
『技術倫理研究』は、工学系大学における技術倫理・工学倫理の教育研究を推進し、技術と社会の関係を多角的に考察するための媒体として創刊されました。本ページでは、その発刊趣旨を掲載しています。
このたび、名古屋工業大学で技術者倫理(工学倫理)教育に関心をもつ教員が集まり、『技術倫理研究』を創刊することになった。1990年代に起こった工学教育の世界標準化の流れを受けて、1999年に設立された日本技術者教育認定機構(JABEE)がプログラムの認定に技術者倫理を含めたことや、技術者倫理や企業倫理が厳しく問われるような大事件が相次いで起こったことで、その重要性が広く認識されるようになり、大学や高等専門学校などの教育機関や企業では技術者倫理教育が行われるようになってきた。しかし、技術者倫理についての専門研究誌は、まだ日本には存在しないからである。
名古屋工業大学は、「ひとづくり、ものづくり、未来づくり」の理念のもとに全人教育をめざしているが、そのなかで技術者倫理教育の重要性はいち早く認識されて、その導入と教育内容の改善が以下に述べるように積極的に取り組まれてきた。名古屋工業大学での工学倫理教育の研究は1999年から開始された。この年に工学教育センター主催の公開講座で、「モノづくりの倫理」がとりあげられたのを契機に、工学技術と倫理の関係についての研究がはじまった。2000年、『教養科目「工学倫理」実施に向けての準備・研究』という研究題目で、文部科学省教養教育改善充実特別事業経費が認められたことから、研究の取り組みが本格化した。その一環として学内外から講師を招いて2001年3月に公開シンポジウム「工学倫理の条件─21世紀の市民社会における技術者教育の可能性」が開催された。2001年にも同一の研究題目で同経費を受け、2001年10月に松下電器産業株式会社と日本テキサス・インスツルメンツ株式会社から企業倫理の担当者を招いて、第2回目の公開シンポジウム「工学倫理と企業倫理」を開催した。このシンポジウムは、名古屋工学倫理研究会(文部科学省平成13年度科学研究費基盤研究の研究プロジェクト:戸田山和久名古屋大学教授代表)と共催し、2001年に設立された日本科学技術社会論学会の後援を受けたものである。これら二つのシンポジウムは、日本の工学倫理教育が満たすべき条件を提言するものとして、新聞でも大きく報道されるなど内外から高い評価を得た。
この二つのシンポジウムの内容を整理収録し、工学や科学技術を専門とする研究者と哲学・倫理を専門とする執筆陣による技術者倫理の教科書『工学倫理の条件』(晃洋書房、2002年)が作成された。各学科から提言者を選んで技術者倫理に取り組むための提言をとりまとめ、日本の技術倫理研究と教育の第一人者にも執筆を依頼した。技術者倫理と密接な関係にある企業倫理に取り組む上記の企業からの提言も含まれている。
2002年から大学院共通科目として、「工学倫理特論」が開講されている。『工学倫理の条件』を教科書としながら、グループ討議やプレゼンテーションを取り入れ、学生参加型の授業を行っている。また、2004年から実施された学部の新カリキュラムでは、「工学倫理」が「ものづくり・経営基礎科目」として組み入れられ、学部教育においても3年次を対象に工学倫理科目が開講される予定である。
さらに、技術者倫理教育を社会に広める取り組みもされている。2001年には、「はじめての工学倫理」というテーマで連続公開講座を開催した。2002年からはデンソーの技術者教育に講師を派遣して技術倫理教育の協力を行っている。また工学倫理担当教官が、「JABEE技術者倫理ワークショップ」(日本工学教育協会主催、2001年)、化学工学会「シンポジウム―何故に、今技術者倫理なのか」(2002年)などに講演者として招かれている。
以上のような取り組みをふまえて、技術者倫理教育をさらに推進するために『技術倫理研究』を創刊することになった。『技術倫理研究』は、工学や科学技術を専門とする研究者と哲学・倫理を専門とする研究者が協働して技術者倫理に関わる研究と教育を推進することをめざしている。それとともに、将来、技術者や研究者になる学生が、みずからの課題として技術者倫理を考える場を生み出すことを大きな目標としている。そのため、一つでも明確な論点を提供するような論文であるならば、積極的に掲載していくことにしたい。同時に、それに対する議論もまた活発に寄せられることを期待している。技術者や学生や研究者が、技術者倫理についての理解を互いに深め、世界にとって工学や科学技術のより善いあり方とは何かを共に考えることに本誌が少しでも役立つことを願っている。
瀬口昌久