光にさそわれて(バスガイドさんから聞いた話)
2014
素材/技法:紙にインクジェット印刷、木製パネル
写真撮影地:上ノ国町
Lured by the Light( a Story I Heard from a Bus Tour Guide) , inkjet prints, wooden panels, 2014
(写真撮影地:上ノ国町)
2014年8月19日〜24日、沖縄県立美術館博物館県民ギャラリー3(那覇市)で開催されたグループ展「Cephalopod Interface イカとタコと33人」展(石垣克子、中島隆太企画)に出品
山の上から下まで続く長い渋滞の中で(といってもたった三三四メートルの山なのですが)、何べんもわたしたちの乗るバスは動いたり止まったりしていました。窓の外の黒い林の間から、街の明かりがチラチラと見え、早く本物の夜景が見わたせないかなあとそわそわとしてきたころでした。
「みなさん。」と、バスガイドさんが立ち上がり、こんなことを云いました。
さて、みなさん、本物の夜景を見る前に、わたくしがバスガイドをはじめてすぐの忘れられない思い出話をいたしますよ。よろしいですか。
それはもういろんな方がこちらにお越しになられて、わたくしは沢山の方のお相手をしましたが、それは内地のどこかからかいらっしゃった方のお話です。
その時もこんな風な渋滞で、バスは動いたり止まったりして山道を登っておりました。そうしたら、突然わたしの近くに座っていらした男の方が、こうお訪ねになりました。「ここの山は星も見下ろせるほど高いのですかねえ?」。「いえ、この山はそんなに高くありませんよ」と言うと、「いや、そんなことはない。見えませんか?」と意固地になった風で。どうも困ったなあと思っておりました。
しばらくしてバスがすこしばかり進み、木々の間から海が見えますと、その男の方がいきおいよく「ガイドさん、見てください!あそこには星があるでしょう!」と海を指差しして云いました。
わたしたちはふつふつと笑い合いながら、この答えを小さな声で話し合いました。
「みなさんもうこの星がなんだかおわかりになりましたね。どうですか?」
誰かが待ち切れず「イカ舟!!」と元気よく叫びますと、バスガイドさんがにっこり笑いましたので、みんなで力一杯笑いました。そんなこともわからないのかと得意になって笑いました。
―――函館山のバスガイドさんの話