Family Planning 3章
緊急避妊薬
提供者と使用者のためのキーポイント
・ 緊急避妊ピル(ECPs)は、避妊せずに性交をした女性が妊娠を防ぐのに役立つ。
・ ECPsは、避妊なしでの性交から5日以内に服用することで妊娠を防ぐことができる。[注1] 服用は早ければ早いほど効果は高くなる。
・ 既存の妊娠を中断することはない。
・ すべての女性に安全―継続的なホルモン製剤を使用した避妊法を使用できない女性でも使える。[注2]
・ 女性が継続的な家族計画の方法を開始する機会を提供する。
・ 緊急避妊薬にはいくつかの選択肢がある。緊急避妊の専用薬、プロゲスチン単独ピル、複合経口避妊薬[注3]は全て緊急避妊薬として働く。
緊急避妊薬とは?
・ECPsは「モーニング・アフター」ピルや性交後避妊薬とも呼ばれる。
・卵巣からの卵子の放出(排卵)を防ぐか、遅らせることによって機能する。すでに妊娠している女性には効果はない。
(銅付加IUDは緊急避妊にも使用できる。第10章-銅含有IUD、原著p.176を参照)
どのような薬が緊急避妊薬として使用できるのか?
・レボノルゲストレル単独、またはウリプリスタル酢酸エステル(UPA)の、緊急避妊専用薬。
・レボノルゲストレルまたはノルゲストレル配合のプロゲスチン単体ピル。
・レボノルゲストレル、ノルゲストレルまたはノルエチンドロン(ノルエチステロンとも呼ばれる)をプロゲスチンとして使用しているエストロゲンとプロゲスチンとを配合した経口避妊薬。
緊急避妊薬をいつ服用するべきか?
・避妊なしの性交の後にできるだけ早く使う必要がある。早くECPsを服用すればするほど、妊娠をより効果的に防ぐことができる。
・避妊なしの性交から5日以内[注4]に服用すれば、妊娠を予防する助けとなりうる。
どれほどの効果があるのか?
・100人の女性がそれぞれ避妊をせずに月経周期の2週目か3週目[注5]に性交をした場合、8人の女性が妊娠する可能性がある。
・100人の女性全員がウリプリスタル酢酸エステルECPsを服用した場合、妊娠する可能性がある女性は1人未満である。
・100人の女性全員がプロゲスチン単独ECPsを服用した場合、妊娠する可能性がある女性は1人である。
・100人の女性全員がエストロゲンとプロゲスチン複合ECPsを使用した場合、妊娠する可能性がある女性は2人である。
緊急避妊薬(ECPs)の有効性
100人の女性がそれぞれ避妊をせずに月経周期の2週目か3週目に性交をした場合…
ECPs不使用 → 8人が妊娠
ウリプリスタル酢酸エステル → 1人未満が妊娠
プロゲスチン単独ECPs → 1人が妊娠
エストロゲンとプロゲスチン複合ECPs → 2人が妊娠
ECPs服用後の受胎能力の回復: 遅れなし
ECPsを服用した直後に妊娠する可能性もある。
ECPsの服用は、服用前5日以内[注6]に行われた性交による妊娠のみを予防する。
ECPsは服用後24時間以上経過してからの性交 による妊娠を防ぐことはできない。妊娠を防ぎ続けるためには、別の避妊法を開始する必要がある。(原著p.61 の「継続的な避妊の計画」を参照)
性感染症(STIs)に対する予防効果: なし
副作用、健康上の利益、健康上のリスク
副作用(「あらゆる問題への対処」も参照)
一部の使用者による報告:
・以下のような出血パターンの変化:
- ECPs服用後1、2日間のわずかな不正出血。
- 月経が予定より早く、または遅く始まる。
ECPs服用後の最初の数日間:
・吐き気*
・腹痛
・疲労
・頭痛
・乳房の張り感
・めまい
・ 嘔吐*
既知の健康への利点 既知の健康へのリスク
予防すること: なし
・妊娠のリスク
*プロゲスチン単独またはウリプリスタル酢酸エステルのECPsを使用している女性は、エストロゲンとプロゲスチン複合ECPsを使用している女性よりも、吐き気や嘔吐を経験する可能性がかなり低い。
誤解を訂正する(Q&Aも参照)
緊急避妊ピルは、
・思春期の女性を含め、年齢に関係なく使用できる。
・中絶を引き起こさない。
・着床を妨げたり、着床に影響を与えたりしない。[注7]
・妊娠しても先天性欠損症を引き起こさない。
・女性の健康を害さない
・危険な性行動を増加させない
・女性を不妊症にしない
・女性の一回の月経周期に複数回使用できる。
不必要な処置・手順を避ける
・ECPsは、医療従事者の診察を先に受けることなしに、必要な時に服用することができる。
・ECPsを服用する前に処置や検査は必要ない。ただし月経が遅れているとか、もしかしたら遅れているかもしれないと思う女性は、UPA-ECPsを服用する前に妊娠検査を受けるべきである。[注8]
女性が緊急避妊薬を好む理由
・ 必要に応じて使用できる
・ 望まない妊娠を防ぐ2度目のチャンスを提供する。
・ 性交を強要されたり、避妊を妨げられたりした場合に、妊娠を避けることができる。
・ 女性自身がコントロールできる
・ 避妊に失敗した場合、または避妊をしなかった場合の、中絶の必要性を減らす。
・ 必要が生じた場合に備えて手元に置いておくことができる。
どのような人が緊急避妊薬を使用できるのか
すべての女性に安全で適している
ECPsの使用に検査や診察は不要である。
緊急避妊薬の医学的適格基準
継続的なホルモン製剤を使用した避妊法を使用できない女性を含む、すべての女性がECPsを安全かつ効果的に使用できる。ECPsの使用は短期間であるため、どんな女性にとってもECPsが安全でなくなる医学的条件はない。
緊急避妊薬の提供
ECPsは多くの異なる状況で必要になることがある。しかし、多くの女性はECPsについて知らない。ピルやコンドームなど、使用者に依存する避妊法を使用している女性は特に、
ECPsについて学ぶことは有益となる。
可能であれば、ECPsを必要とする可能性のあるすべての女性に、あらかじめECPsを供給すべきである。事前にECPsを提供することが不可能な場合は、事前に何らかの場面で処方箋を渡す、または女性が地元で入手できる場所を伝えるのがよい。
ECPsの事前供給は、女性が必要な場合に備えて保管しておけるため、有用である。
女性は、必要なときにすでにECPsを持っていれば、ECPsをより使用しやすくなる。また、ECPを手元に置いておけば、避妊なしの性交の後、できるだけ早くECPsを服用することができ、それが最も効果的である。
使用時期
・避妊なしでの性交後5日[注9]以内であればいつでも使用できる。避妊していない性交後、ECPsの服用が早ければ早いほどより効果的になる。
ECPsは多くの状況に適合する薬である
ECPsは、妊娠の可能性について心配している女性がいれば、いつでも使用することが可能である。例えば、以下のような場合である。
・性的暴行
・避妊なしの性交
・避妊法の失敗、例えば
- コンドームの使い方が間違っていた、はずれた、もしくは破損した場合
- カップルがリズム法を誤って使用した場合
(例えば、妊娠可能な期間に、禁欲できなかったり、他の避妊法を使用しなかったりした場合)
- 男性が射精前に意図した通りにペニスを腟外に抜くことができなかった場合
- 女性が複合経口避妊薬を3錠以上服用し忘れた、または新しいシートの服用開始が3日以上遅れた後に避妊せずに性交をした場合
- IUDが外れてしまった場合
- DMPA[注10]の再注射が4週間以上遅れる、NET-ENの再注射が2週間以上遅れる、または月ごとの避妊注射の再注射が7日以上遅れた際に、避妊せずに性交をした場合
緊急避妊のためのピルの処方と服用
ピルの種類とホルモン 処方 服用すべき錠剤の数
初回 12時間後
<ECP専用製品>
プロゲスチン単独 1.5mg LNG 1 0
0.75mg LNG 2 0
ウリプリスタル酢酸エステル 30mg ウリプリスタル酢酸エステル 1 0
<緊急避妊薬として経口避妊薬を使用した場合>
複合(エストロゲン、 0.02 mg EE + 5 5
プロゲスチン)経口避妊薬 0.1 mg LNG
0.03 mg EE + 4 4
0.15 mg LNG
0.03 mg EE + 4 4
0.15 mg LNG
0.03 mg EE + 4 4
0.125 mg LNG
0.05 mg EE + 2 2
0.25 mg LNG
0.03 mg EE + 4 4
0.3 mg ノルゲストレル
0.05 mg EE + 2 2
0.5 mg ノルゲストレル
プロゲスチン単独ピル
0.03 mg LNG 50* 0
0.0375 mg LNG 40* 0
0.075 mg ノルゲストレル 40* 0
* 錠剤の数は多いが安全。Q&A問8を参照。
LNG = レボノルゲストレル
EE = エチニルエストラジオール
ECPsおよび経口避妊薬の製薬会社および製品名については、国際緊急避妊コンソーシアム(International Consortium for Emergency Contraception)を参照。
緊急避妊薬を提供する時の指針
1. ピルを提供する ・ピルは即時に服用できる。
・2回内服するタイプの薬剤を使用する場合は、次の投与は12時間後に行うように伝え
る。
2.最も一般的な副作用を述べる
・吐き気、腹痛、その他の症状。
・わずかな出血や月経のタイミングの変化。
・副作用は病気の兆候ではなく、長く続くものではない。そして、ほとんどの女性には副作用が出ない。
3. 副作用に対する対処法を説明する
・吐き気:
- 吐き気止めの常用は推奨されない。
- ECPを以前に使用した際、または2回投与する処方の最初の服用で吐き気があった女性は、ECPsを服用する30分~1時間前に、25~50mgの塩酸メクリジン(アジラックス、アンチバート、ボナイン、ポスタフェン等)などの吐き気止めを服用できる。
・嘔吐:
- プロゲスチン単独または複合ECPsを服用後2 時間以内に嘔吐した場合は、もう一度新たにECPsを服用しなければならない。ウリプリスタル酢酸エステルECPsを服用後3時間以内に嘔吐した場合も、再度服用すること。(上記のように、吐き止めの薬をこの2度目の服用には使用してよい)
嘔吐が続く場合は、再度の服用は、プロゲスチン単独、または複合ECPsを腟の高い位置に挿入する形で行ってもよい。プロゲスチン単独または複合ECPsの服用後2時間経ってから、またはUPA-ECPsの服用後3時間経ってから嘔吐が起こる場合は、追加でピルを服用する必要はない。
4. 多めのECPsを提供し、継続的な方法の開始を手助けする
・可能であれば、将来必要になったときのために、ECPを多め
に持ち帰らせよう。
・「継続的な避妊を計画する」を参照。
5. フォローアップ ・月経が7 日以上遅れている場合は、早期に妊娠検査を
受けるよう勧める。
緊急避妊薬服用者への支援
“いつでも戻ってきて“:再訪の理由
定期的な再診は必要ない。しかし、どの患者にもいつでも再診を歓迎することを伝えよう。
そして次のようなことがある時も…
・妊娠しているかもしれないと思い、特に月経がない場合、または次の月の月経が7日以
上遅れている場合。
・緊急避妊薬を服用後、すぐには継続的な避妊法を開始していなかったが、今になって
継続的な避妊法を希望している場合。
どのようにパートナーはサポートできるか?
使用者のパートナーは、カウンセリングに参加し、緊急避妊の方法やパートナーにどのような
サポートができるかを学ぶことが歓迎される。
男性のパートナーは次のようなことができる:
・ECPsを使用するという女性の決定を支える。
・継続的な方法を選び、使用する女性の意思を理解し、支える。
・女性が再びECPsを必要とする場合に備えて、ECPsが手元にあることを確認する手助け
をする。
・ECPが必要になったのが、ある避妊法での失敗が原因であった場合、その方法の正しい
使い方の理解と支援をするか、異なる方法の使用について話し合う。
ECPsを使用した後、いつ避妊を始めるか、 またはいつ再開するべきか
方法 開始、または再開するべき時期
ホルモン製剤を使用した方法 プロゲスチン単独、または複合ECPsを服用した後:
(複合経口避妊薬 ・ECPs服用後すぐに、どのような方法でも開始または再開できる。
プロゲスチン単独ピル、 次の月経を待つ必要はない。
プロゲスチン単独注射、 - 経口避妊薬を継続的に使っている人が失敗によりECPsが必要にな
月ごとの注射、 った場合には、以前と同じものを続けて使用することができ、新
インプラント、 シートを始める必要はない。
複合避妊パッチ、複合腟リング) - 避妊パッチの使用者は新しいパッチを使用する必要がある。
- 腟リングの使用者は、p126の交換や取り外しが遅れた場合の指示
に従ってください。
・すべての女性は、使用開始後7日間は性交を控えるか、バックアップの方
法* を使用する必要がある。
・服用後、避妊法をすぐに開始せず、代わりに何らかの避妊法を求めて後日
再診した場合、妊娠していないことが合理的に確実であれば、どの
方法もいつ始めてもよい。
ウリプリスタル酢酸エステル(UPA)ECPs服用後:
・UPA-ECPs服用後6日目に、プロゲスチンを含有したあらゆる避妊法を開
始または再開することができる。次の月経を待つ必要はない。
(プロゲスチンを含有した避妊法をそれより早くに開始した場合、プロゲ
スチンとUPAの両方が効きにくくなる可能性がある。)
- 経口避妊薬や腟リング、避妊パッチを使用したい場合は、それを渡
した上で、UPA-ECPsを服用して6日目から開始するよう伝えてく
ださい。避妊注射やインプラントの使用を希望する場合は UPA-
ECPsを服用して6日目か、その後できるだけ早い日にそれを受け
るための再診の予約をして下さい。
- すべての女性は、UPA-ECPsを服用してから、ホルモン製剤を使用
した避妊法を開始後7日間(プロゲスチン単独経口避妊薬の場合は
2日間)は、バックアップの方法*を使用する必要がある。
・もし服用後6日目に避妊法を開始せず、後日また始める場合は、妊娠してい
ないことが合理的に確実であれば、どの方法も、いつ開始してもよい。
* バックアップの方法には、禁欲、男性用・女性用コンドーム、殺精子剤、腟外射精がある。殺精子剤と腟外射精は最も避妊効果の低い方法であることを伝え、可能であれば、コンドームを渡しましょう。
方法 開始、または再開するべき時期
レボノルゲストレル子宮内 プロゲスチン単独または複合ECPsを服用した後:
避妊具(LNG-IUD) ・LNG-IUDは、妊娠していないと判断されれば、いつでも挿入することができる
(p.461「妊娠の除外」を参照)。
・LNG-IUD挿入後、最初の7日間は、バックアップの方法*を用いなくてはならな
い。
UPA-ECPs服用後:
・妊娠していないと判断されれば、UPA-ECPs服用後6日目にLNG-IUDを挿入する
ことができる。
- 女性がLNG-IUDを使用したい場合は、UPA-ECPs服用後6日目かその後で きるだけ早くに、挿入するために再診する予約を入れてください。
・UPA-ECPsを服用してから、LNG-IUDを挿入して 7日後までは、バックアップ
の方法を使用する必要がある。
・もし服用後6日目にLNG-IUDを挿入せず、後日挿入する場合、妊娠していない と判断されれば、いつでも挿入することができる。
銅付加IUD プロゲスチン単独または複合 ECPs、もしくはUPA-ECPsを服用した後:
・ECPsを服用した後、銅付加IUDを使用することを決めた場合は、ECPsを服用し たその日に挿入することができ、挿入した際にはバックアップの方法は不必
要となる。
・もし直後はすぐに挿入しない選択をしたが、後で銅付加IUDを挿入する場合、
妊娠していないと判断されれば、いつでも銅付加IUDを挿入することができ
る。
注:銅付加IUDは緊急避妊にも使用できる。IUDを通常の避妊に使用したい女性は、避妊せずに性交をした後5日以内に挿入し、その後、使用を継続することができる(第10章、銅付加IUDを参照)。
女性不妊手術 プロゲスチン単独、複合ピル、もしくはUPA-ECPsを服用後:
・不妊手術は、次の月経開始後7日以内か、または妊娠していないことが確実で ある場合はいつでも行うことができる。不妊手術を受けるまでの間に、女性にバックアップの方法を提供しておきましょう。
男性・女性用コンドーム、 プロゲスチン単独、複合ピル、もしくはUPA-ECPsを服用後:
殺精子剤、ダイアフラム、 ・直ちに使用できる。
子宮頸管キャップ、
腟外射精
リズム法 プロゲスチン単独、複合ピル、もしくはUPA-ECPsを服用後:
・月経周期法: 次の月経開始とともに始める。
・症状に基づく方法:一度正常な分泌物が戻ってから使用。
・選択した方法を開始できるまで、バックアップの方法を提供する。
継続的な避妊の計画
1. 使用者に対し、ECPsは、服用後24時間以上経過した後の性交による妊娠を防ぐものではないことを説明しよう。継続的な妊娠の予防の必要性と選択について話し合おう。また、リスクがある場合は、HIVを含む性感染症の予防の必要性と選択について話し合おう。(p. 339「HIVを含む性感染症」を参照).
2. 女性が今すぐ避妊法を始めたくない場合は、コンドームまたは1周期分の経口避妊薬を提供し、気が変わったら使ってもらうよう伝えよう。また、使用方法を説明しよう。もし別の避妊法を希望したり、疑問や問題があったりする場合は、いつでも再訪するように伝えてください。
3. 可能であれば、将来、避妊なしの性交をした場合に備えて、ECPsを多めに提供しよう。ECPsを服用して24 時間後すぐに、再び避妊なしの性交があった場合は、ECPsが必要になる可能性がある。
あらゆる問題への対処
副作用として報告されている問題
副作用は避妊法によるものである場合も、そうでない場合もある。
わずかな不正出血
・ECPsによる不正出血は、治療をしなくても止まる。
・これは病気や妊娠の兆候ではないことを女性に伝えよう。
月経のタイミングの変化、または妊娠が疑われる場合
・月経が予定より数日早くまたは遅く始まることがあっても、これは病気や妊娠の徴候ではない。
・ECPsを服用した後、次の月経が予定より7日以上遅い場合は、妊娠の有無を確認しよう。もしECPsで妊娠を防げなかったとしても、妊娠した胎児に対するリスクはない(次頁の質問3を参照)。
緊急避妊薬に関するQ&A
質問1. ECPsはどのように作用するのですか?
ECPsは、卵巣から卵子が放出されるのを防ぐか、その放出を5~7日遅らせます。
精子が女性の生殖管内で生存できるのは約5日間だけであるため、放出を遅らせている間に、そこの精子はすべて死滅します。排卵が起こり、卵子が受精した場合はECPsは着床を妨げず、すでに成立している妊娠を妨げることもありません。
質問2. ECPsはすでに成立している妊娠を中断しますか?
いいえ。ECPsは、女性がすでに妊娠している場合には効果をおよぼしません。
質問3. 女性が妊娠中に誤ってECPsを服用した場合、胎児に害を及ぼしますか?
いいえ。女性がECPsを服用したときにすでに妊娠していた場合、あるいはECPsが妊娠を防ぐのに失敗した場合でも、ECPsが先天性欠損症を引き起こしたり、胎児に害を及ぼすということを示す根拠はありません。
質問4. ECPsはどれくらいの期間、女性を妊娠から守ってくれるのでしょうか?
ECPsを服用する女性は、他の避妊方法をすぐに始めない限り、次に性交をしたときに妊娠する可能性があることを理解しておく必要があります。ECPsは排卵を抑制せず、排卵を遅らせるだけのこともあるので、ECPs服用後すぐに最も妊娠しやすい状態になる可能性があります。妊娠から継続的に身を守りたいのであれば、彼女が選択した継続的な避妊法を開始するまでにパックアップ法が必要な避妊方法であるならば、バックアップ法も含め、別の避妊法を翌日から開始しなければなりません。特に、UPA-ECPsを服用した女性は、6日目までホルモン製剤を使用した避妊法を開始するのを待たねばならず、この期間にはバックアップの方法を使用しなければなりません。
質問5. ECPsは複数回使用できますか?
必要であれば、同じ月経周期中でも、ECPsを再度服用することができます。ECPsを頻繁に必要とする女性は、より長期間作用型の、より効果的な家族計画の方法を検討したがっているかもしれません。
質問6. 女性はECPsを継続的な避妊法として使用すべきですか?
女性はECPsを必要なときにいつでも、同じ月経周期に複数回でも使用することができます。しかし、継続的な避妊法としてECPsに頼ることは勧めるべきではありません。性交後に毎回ECPsを服用しても、通常の継続的な避妊方法と同程度の効果があるかどうかは定かではありません。また、ECPsを頻繁に服用する女性には、より多くの副作用があるかもしれません。ECPsの反復使用による健康リスクは知られていませんが、ECPsを頻繁に服用する女性たちを、ホルモン避妊薬の使用を制限しなくてはいけない健康状態にあるのかどうか、スクリーニングすることは有用でしょう。
質問7. どのような経口避妊薬がECPsとして使用できますか?
多くの複合(エストロゲン・プロゲスチン)経口避妊薬とプロゲスチン単独ピルがECPsとして使用できます。緊急避妊に使用されるホルモン―レボノルゲストレル、ノルゲストレル、ノルエチンドロン、およびこれらのプロゲスチンのいずれかとエストロゲン(エチニルエストラジオール)を含むピルであれば、使用することができます。
質問8.ECPsとして40錠や50錠のプロゲスチン単独ピルを服用しても安全ですか?
はい。プロゲスチン単独ピルには、ごく少量のホルモンが含まれています。そのため、ECPsとして必要な総量を得るためには、多くの錠剤を服用する必要があります。対照的に、複合(エストロゲン・プロゲスチン)経口避妊薬のECPsの投与量は、一般的に、12時間間隔で2回、それぞれ2 ~5錠ずつ服用します。40錠または50錠の複合(エストロゲン・プロゲスチン)経口避妊薬をECPsとして服用してはいけません。
POPs(プロゲスチン単独ピル)を継続して使用している女性にとっては、この方法が緊急避妊法として最も便利な方法、あるいは時間内に利用可能な唯一の方法かもしれません。
質問9. ウリプリスタル酢酸エステル(UPA)とは何ですか?
UPAは抗プロゲスチン薬です―つまり、女性の月経周期における天然ホルモンである卵巣で生成されるプロゲステロンの活性を調節します。したがって、他のECPsと同様に、UPA-ECPsは卵巣からの卵子の放出(排卵)を阻害または遅延させることによって作用します。すべてのECPsは、最大の効果を得るために、できるだけ早く服用する必要があります。UPA-ECPsは、避妊なしの性交後72時間から120時間の間は、他のECPsよりも効果が高い可能性があります。UPA-ECPsは2009年からヨーロッパで販売されており、2010年には緊急避妊薬として米国食品医薬品局から承認を受けました。現在では50カ国以上で利用可能です。UPA-ECPsは、継続的な経口避妊薬としての使用を意図したものではありません。
質問10. ECPsはHIVに感染している女性にとって安全ですか?抗レトロウイルス療法を受けている女性は、ECPsを安全に使用できますか?
はい。HIVに感染した女性や抗レトロウイルス療法を受けている女性は、ECPsを安全に使用することができます。
質問11. ECPsは思春期の女性に適切ですか?
はい。13~16歳の少女を対象としたECPsの使用に関する研究では、ECPsは安全であることがわかっています。さらに、研究の参加者全員がECPsを正しく使うことができました。また、ECPsを使用することは性行動に影響を与えません。
思春期の女性はECPsを特に必要とするかもしれない。その理由は、強要された性交が多いこと、避妊具を入手することに恥ずかしさや躊躇があること、性交に対し備えをする能力が限られていること、避妊具の使い方に誤りがあるからです。
質問12. 複合(エストロゲン・プロゲスチン)経口避妊薬またはプロゲスチン単独ピルを継続的に使用することができない女性でも、ECPsを安全に使用できますか?
はい。これは、ECPsの治療が非常に短期間であり、投与量も少量であるためです。
質問13. ECPsで妊娠を防げなかった場合、その女性が子宮外妊娠する可能性は高くなりますか?
いいえ。ECPsが子宮外妊娠のリスクを高めることを示唆する証拠はありません。米国食品医薬品局(FDA)のレビューを含む、プロゲスチン単独のECPsに関する世界的な研究では、ECPsが失敗した後の子宮外妊娠の割合は、一般的な妊娠で起こる子宮外妊娠の割合よりも高いという結果は出ていません。
質問14. なぜ女性が必要とする前にECPsを与えるのでしょうか?それは避妊の意欲をなくすか、あるいは避妊に影響を与えないのでしょうか?
いいえ。事前にECPsを渡されていた女性の研究では、以下のような結果が報告されています。
・ECPsが手元にあった女性は、ECPsを探し求める必要のあった女性よりも、避妊なしの性交の後、すぐにECPsを服用した。プロゲスチン単独ECPsは、早く服用した方が効果が高い。
・前もってECPsを渡された女性は、ECPsを入手するために提供機関に行かなければならなかった女性よりも、必要な時に使用する傾向が高かった。
・女性たちは、事前にECPsを入手するより前と同じように、他の避妊法を使い続けた。
・女性の避妊なしの性交の回数は増えなかった。
ECPsに処方箋が必要で、事前に渡すことができない場合は、必要に応じて使用できる処方箋を渡しましょう。
質問15. ECPsをOTCで購入した場合、正しく使用できますか?
はい。ECPsの服用は簡単で、医学的な管理も必要ありません。若い女性も成人女性も、ラベルや説明書を理解しやすいと感じているという研究結果があります。一部の国では、ECPsはOTCでの販売や処方箋なしの使用を承認されています。それはカナダ、中国、インド、米国、その他世界の多くの国々です。
訳注
[注1]日本で主に使用されている緊急避妊薬(飲み薬)はレボノルゲストレル(LNG)であり、この薬剤は性交後72時間以内に1.5mgを1回内服するものである。海外では他にウリプリスタル酢酸エステル(UPA)があり、これは5日以内の内服となっている。
[注2] 前兆のある片頭痛や高血圧症などのリスク因子を持っているため、通常の経口避妊薬を使用することができない人でも「安全に使える」という意味。
[注3] 日本で一般的に使用されている避妊用ピルのことでOral Contraceptives: OCsと呼んでいるが、エストロゲンとプロゲスチンの2種類のホルモンをまとめて一つにした薬のため、正式にはCombined Oral Contraceptives: COCsと命名されており、本稿では「複合経口避妊薬」と訳した。
[注4]注1を参照。
[注5] 一般に28日前後の月経周期を有する女性が排卵する時期にあたる。
[注6] 注1を参
[注7] 排卵後にECPsを服用したとしても、その排卵した卵子の受精や受胎は防げないということでもある。
[注8]プロゲスチン単独やエストロゲンとプロゲスチンの複合ECPsを服用する場合は、たとえすでに妊娠しているとしても、それらの服用が原因で妊娠が継続できなくなることはないため、妊娠検査は必要ない。UPA-ECPsはこれらと異なり、明らかな妊娠の異常を引き起こすデータはないものの、妊娠の継続を阻害させる可能性があるため、服用前に妊娠検査が必要である。
[注9]注1を参照のこと
[注10]日本では使用されていない避妊方法
2024年5月2日公開 2024年6月8日改訂(一部修正)