線虫という生き物は土壌、深海、生物体内まであらゆるところに適応し、生息している生き物です。記載されているのは2万種ほどですが、推定種数は50万から2億種といわれ、実は最も繁栄している動物分類群のひとつです。わかっていないことだらけの線虫が、どのような戦略で環境に適応しているのだろう、という基本的な疑問から、その知見に基づいた植物寄生性線虫の防除利用まで研究しています。具体的には以下のような謎に取り組んでいます。
↑ 植物寄生性線虫の脳の透過型電子顕微鏡像
生物はそれぞれ独自の感覚器によって外部刺激を受容しており、それぞれが知覚する世界は異なっています。哲学者ユクスキュルはそれを「環世界」と呼びました。害虫が知覚する環世界を知ることは、その生物の生存戦略の基盤を知ることであるとともに、その生物を環境に低負荷な形で防除する指針を知ることでもあります。
これまでの研究で、植物寄生性線虫はユニークな感覚ニューロンを持っていることが知られていました。このニューロンは植物寄生性線虫の「環世界」を特徴付けるニューロンと考えられます。私はこのニューロンがどのような刺激を受容するのか、どのような進化的起源をもつのかを調べています。
以下のサイトも参照ください
【河合塾みらいぶっく学問・大学なび】
https://miraibook.jp/researcher/sa23008
線虫の中には別の線虫種を食べる種がおり、このような線虫を捕食性線虫といいます。捕食性線虫は、共食いを回避することがわかっています。これまでの研究から、これら捕食性の線虫は、捕食性と同時に特殊化したクチクラ構造を進化させていることがわかってきました。この特殊化したクチクラ構造は共食いを回避するのに役立っている可能性があります。
面白いことに、系統的に離れた線虫種(Poikilolaimus spp.)のなかにも、捕食性線虫と似たようなクチクラ構造を進化させている種がいることがわかってきました。また、これらの細菌食性線虫は、捕食性線虫に食べられないことが明らかになりました。
以上の線虫にみられる特殊化したクチクラ構造が、どのようにして共食い・捕食回避を可能にしているのかを研究しています。
ジャガイモシストセンチュウとは、ジャガイモに甚大な被害を与えている植物寄生性線虫です。我々はジャガイモシストセンチュウの大発生地域のひとつであるケニアをフィールドに研究を行っています。
我々が着目しているのは抑制性土壌(suppressive soil)というものです、抑制性土壌とは、感受性の作物を生育してもその病原体による被害がみられない土壌のことを指します。抑制性のメカニズムのひとつとして生物的要因が考えられていますが、我々は、抑制性土壌ではどのような微生物群集が発達しているのか?その群集のどのような相互作用が、センチュウの抑制に効いているのかを明らかにすることを目的として研究を行っています。