電気材料というと電気を流す材料に目がいきがちですが、電気を流さない材料も同じくらい重要です。絶縁材料とは、電気を流しにくくする材料のことです。私たちが安全に電気を利用できるのは、絶縁材料が電気の漏れや短絡(ショート)を防いでいるからです。電気を作る・送る・使うための機器・設備には必ず絶縁材料が使われており、現代社会を支える重要な材料の一つです。
絶縁材料の研究は100年以上前から続けられていますが、現在でも国内外で活発に研究されています。その理由の一つは、絶縁材料中で起こる現象や劣化の仕組みが完全には解明されていないからです。電気そのものは目で見ることができず、材料の内部で起こる現象を直接観察することも簡単ではありません。例えば、高電圧を長期間かけたときに材料内部でどのような変化が起こり、なぜ突然故障につながるのかについては、まだ研究が続いています。また気体・液体・固体の絶縁材料は組み合わせて使われることも多く、単体で使用される場合より現象は複雑になります。絶縁材料の中で起こる微弱な放電や電子の動きを定量的に測定することは難しく、計測技術そのものも研究開発対象の1つですが、実験結果と理論を組み合わせながら理解を深めています。
さらに、再生可能エネルギーや電気自動車、パワー半導体などの新しい技術が広がるにつれて、従来よりも高い電界や高い温度に耐える絶縁材料が求められるようになりました。そのため、新しい材料の開発だけでなく、材料が長期間使用されたときの寿命予測や劣化診断も重要な研究テーマとなっています。近年は高速度カメラの発達や計測手法の開発も進んできており、これらを背景にAIを活用したデータ解析や劣化診断、材料開発などの研究も増えています。
絶縁材料は普段ほとんど目立たない存在ですが、電気エネルギーを安全かつ効率的に利用するために欠かせない材料です。そして現在でも多くの未解明な現象が残されており、新しい発見や技術革新の可能性を秘めた研究分野でもあります。
局所放電発光と電気トリーの同時観察による電気トリー進展機構の解明
放電発光の観察は暗室であることが要求されますが、その場合、電気トリーの進展の様子を観察することはできません。私たちの研究室では、測定系の工夫と部屋の光量を調節することによって、電気トリーの進展とトリー管内で発生する比較的明るめの局所放電発光を同時に観測することができるシステムを有しています。これによって、放電発光量や電気トリーの進展量を定量的に評価することが可能となり、電気トリー進展機構の解明に役立つ新しい知見を得るべく、日々研究をおこなっています。
絶縁耐力の向上を目的とした架橋度傾斜シリコーンゴムの開発
シリコーンゴムはその架橋度の違いによって、進展する電気トリーの様子が異なることが知られています。パールチェーン型の電気トリーは、シリコーンゲル中に発生するバブル部とストリング部が繋がった形状をしています。さらに架橋度を低くするとくびれのない寸胴状の電気トリーが発生します。これらの結果からそもそもの絶縁耐力の高い高架橋のシリコーンゴムと絶縁耐力は劣るが電界緩和やトリー消失が期待される低架橋のシリコーンゲルを組み合わせて架橋度を傾斜させることで,材料全体の絶縁耐力や寿命の向上につながるのではないかと考え、研究をおこなっています。現在、低架橋と高架橋の界面において電気トリーの対向電極側への進展を抑制する効果(バリア効果)がみられることを見出し、これについて詳細を検討しています。
液体絶縁体中の高電界現象の解明のための電界測定技術の開発
電力機器の多くにはその絶縁性と冷却効果を期待して、液体絶縁体が使われています。来たるスマート社会に対応するために、電力機器の一層の高電圧化、コンパクト化を目指す上で、液体中の高電界現象とそれに関連する電気伝導・絶縁破壊現象の解明は、機器の絶縁信頼性に直接的につながるものであり、ひいては電力供給の信頼性に関わる重要事項であるにもかかわらず、液体中の現象が極めて複雑であり、また影響因子が多岐にわたっていることなどの理由から、技術の体系化が気体や固体中などと比較して立ち遅れているのが現状です。
絶縁材料の高電界現象を理解するために絶縁体中の電界の状態を知ることは非常に有用ですが、液体中の電界を測定する装置はありません。私たちは、カー効果という原理を用いて、液体中の電界を光学的に測定する方法を検討し、液体絶縁体中の高電界現象の解明をおこなっています。
準備中
レーザーアブレーション法による有機半導体ナノ粒子コロイドの作製
電子素子を作製する際に、低温で安く作ることは産業的に非常に大きな課題です。当研究室では、一般的な溶媒に溶けない難溶性の有機半導体材料をコロイド化することで低温・安価作製を実現する研究を行っています。
ミクロンサイズの有機半導体材料を溶媒に混合してから高い強度のレーザーパルスを照射すると、数十ナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)が生成され(レーザーアブレーション法)、そのナノ粒子が溶媒中に安定に分散する条件を作ることでナノ粒子コロイドが得られます。この過程において、有機半導体材料や溶媒の種類などのナノ粒子コロイドの分散安定性に影響する要因を究明する研究や、レーザーの強度や照射条件などのナノ粒子の形状やサイズに影響する要因を究明する研究を行っています。
有機半導体ナノ粒子コロイドを用いた電子素子の作製
ほとんどの有機半導体材料はNO2などの有害なガスに触れると電気抵抗率が大きく変わります。そして、ナノ粒子は体積当たり比表面積が非常に大きいためガスとの反応場が多くなります。これらの特徴を活かして、有機ナノ粒子コロイドを用いて有害なガスを検知するガスセンサーを開発する研究を行っています。二つの電極が形成された基板上に有機半導体のナノ粒子コロイドを成膜し、膜の電気抵抗率の変化を測定するだけでガスの検知が可能であるため、低コストで検知時間がとても短いセンサーの作製が可能になると期待できます。
他にも、ほとんどのディスプレイの駆動素子として使われる薄膜トランジスタやそれを含む電子回路を有機半導体ナノ粒子コロイドを用いて作製することや、フレキシブルで軽量の有機薄膜太陽電池に応用する研究も行っています。