東京大学 進化認知科学研究センター
新学術領域「共創言語進化」
ムーンショット目標検討「MS音楽感動共創プロジェクト」

合同学術シンポジウム

音楽科学の意義と展望

2021年3月9日

オンライン配信・事前登録制

共催:
 東京大学こころの多様性と適応の統合的研究機構(UTIDAHM)
 東京大学人間行動科学研究拠点(CiSHuB)

日時: 2021年3月9日(火) 13:30 ~ 18:00

形式: オンライン生配信

  • 参加費無料・要事前登録

  • 事前登録は締め切りました。ご登録いただきありがとうございました。
    ※登録したのに連絡がないという方は、橘までご連絡ください。

開催趣旨

音楽と科学は相容れるものだろうか。音楽好きからみれば、科学のような無味乾燥なモノにおとしめて欲しくないと思うかもしれない。一方で、科学者の一部には、音楽の科学研究なんて趣味じゃないかと思う方もいるだろう。それでも、科学技術は新たな音楽表現を生み出してきたし、一方で、音楽自体も理数的な規則性を内包している。音楽による心や能力への作用には多くの人が興味を引き、最近は音楽を感じとる脳の仕組みもかなり分かってきた。これらを踏まえると、音楽の科学研究は、音楽と科学の両方において非常に意義あるものなのではないか。

本シンポジウムは音楽と科学の関わり合いをテーマとして、音楽が内包する構造や情報処理、音楽がもつ効果と医療応用、そしてその生物学的な基盤と起源について、それぞれ講演する。その後、パネルディスカッション形式で音楽の科学研究の全体を俯瞰し、また今後の展開について議論する。

本会では、「MS音楽」チームから、世界で活躍される指揮者・舞台演出家の西本智実にも出演いただけることになった。作曲学的アナリーゼ(楽曲分析)を公開していただく。

講演

情報科学の観点からの音楽:音楽における車輪の再発明」

  大村 英史(東京理科大学理工学部情報科学科 講師)

「医療としての音楽」

  田部井 賢一(東京都立産業技術大学院大学 助教)

「音楽と科学の超越的融合の可能性:ドラマー研究者の視点から」

  藤井 進也(慶應義塾大学環境情報学部 准教授)

「音楽能力の生物基盤としての発声学習機構」

  橘 亮輔(東京大学 進化認知科学研究センター 助教)

「動物音声からヒト音楽へ」

  岡ノ谷 一夫(東京大学大学院総合文化研究科 教授)


特別講演

「世界で最も有名な音楽の一つ『白鳥の湖』の音楽モチーフからそのドラマを紐解く」

 西本 智実(指揮者・舞台演出家/慶應義塾大学 SFC研究所上席研究員)
 ※コンサートではありません


スケジュール (※前後する可能性があります)

13:30 - ごあいさつ、趣旨説明
13:50 - 講演① 大村 英史「情報科学の観点からの音楽:音楽における車輪の再発明」
14:20 - 講演② 田部井 賢一「医療としての音楽」
14:50 - 講演③ 藤井 進也「音楽と科学の超越的融合の可能性:ドラマー研究者の視点から」
15:20 - 休憩
15:30 - 講演④ 橘 亮輔「音楽能力の生物基盤としての発声学習機構」
16:00 - 講演⑤ 岡ノ谷 一夫「動物音声からヒト音楽へ」
16:30 - 休憩
16:35 - 特別講演 西本 智実「世界で最も有名な音楽の一つ『白鳥の湖』の音楽モチーフからそのドラマを紐解く」
17:10 - 全体討議
18:00  終了

講演概要

大村 英史「情報科学の観点からの音楽: 音楽における車輪の再発明」
本講演では、既存の音楽の概念を用いずに、物理と数学によって科学的な音楽の構造化を試みる。音楽は、空気振動の時間的な構造物である。時間的というのは、どれくらいの早さで空気が振動するか、そして、どのタイミングでその音が鳴るかといったことである。このような時間的構造がどのようにゲシュタルトして音楽となるのか、情報理論的な解釈が可能である。

田部井 賢一「医療としての音楽」
聖書や神話には音楽を治療に用いたという記述がある。現代においても、音楽は治療のツールとなり得るのだろうか。本講演では、失語症や認知症を対象とした自験例の紹介とともに、各種疾患に伴う心身の機能回復や維持のために音楽を治療的に用いることについて、現状と課題、そして今後の可能性を述べていく。

藤井 進也「音楽と科学の超越的融合の可能性:ドラマー研究者の視点から」
ドラマーとして音楽を演奏する傍ら、音楽家の身体運動の不思議さに魅了され、熟練ドラマーの身体運動制御、音楽と身体・脳をテーマに研究を続けている。音楽リズム・拍子の知覚同期に関する神経基盤、発達的起源、医療応用の可能性について話題提供し、ヒトの音楽性の起源について考察する。ドラマー研究者の視点から、音楽と科学の超越的融合の可能性について、未来への展望を述べる。

橘 亮輔「音楽能力の生物基盤としての発声学習」
音楽の生物学的な基盤を理解するにはどのようなアプローチが可能であろうか。音楽を可能にしているいくつかの能力に分解すれば、他の動物との比較対照によってその生物基盤と進化的要因を理解できるかもしれない。本講演では特に演奏に重要な、聴覚情報に身体制御を協調させる能力に焦点を当て、その神経メカニズムについて検討する。また、音楽能力の生物基盤について動物比較研究から得られた知見を紹介し議論する。

岡ノ谷 一夫「動物音声からヒト音楽へ」
多くの動物が音声を使ったコミュニケーションをとる。鳥やクジラの求愛歌、ジリスやシジュウカラの警戒声は、特定の行動に付随して発せられる。これらは具体的な機能を持ったものであり、多様な用途が可能なヒトの音楽とは異なる。しかし、ヒトの音楽も動物の音声コミュニケーションが儀式化したものであると考えることはできる。どちらも、発声者や演奏者の遺伝的優良さや栄養状態の良さを伝える正直な信号であると言える。ヒトの音楽の進化について、進化生物学の概念である「儀式化」と「正直な信号」を手がかりに考察する。

「MS音楽」 ムーンショット音楽感動共創プロジェクトについて

このプロジェクトは、JSTムーンショット型研究開発事業において、ビジョン策定(ミレニア・プログラム)のための目標検討チームに採択されました。チームリーダーの西本・サブリーダーの藤井を中心として、音楽の科学を推し進めることでSDGsと世界全体の幸福に貢献するロードマップを策定すべく、調査研究をおこなっています。
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/millennia.html